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2009年8月27日 (木)

排除型私的独占の「違反行為期間」

2009年改正法では排除型私的独占にも課徴金が課されることになりましたが、課徴金の算定期間は、私的独占をした日から私的独占がなくなる日まで(「違反行為期間」)であるとされています(7条の2第4項)。

つまり、「違反行為期間」に供給した商品役務の額に6%を掛けて課徴金を算定することになります。

ところで、排除型私的独占では課徴金の算定期間が「違反行為期間」であるとされているのに対して、不当な取引制限の課徴金算定期間は、不当な取引制限の実行としての事業活動を行った日からそのような事業活動がなくなる日までの期間(「実行期間」)であるとされています。

なぜこのような違いがあるのかというと、排除型私的独占では課徴金と経済的利得との関係がそもそも希薄だからです(長澤哲也編「平成21年改正独禁法の解説と分析」p50)。これをもっとかみ砕いて言うと、こういうことです。

例えば排除型私的独占ガイドライン(案)で排除行為の1つとして挙げられているコスト割れ供給の場合、違反者が経済的利得を得るのは、コスト割れ供給により競争者が排除された後に値上げをしたときです。コスト割れ供給をしている期間(違反行為期間)はむしろ損失を被っています。

でも新法は、コスト割れ供給をした期間に供給された商品役務の売上を基準に課徴金を算定することにしています。課徴金を不当利得の剥奪と考えるのであれば、競争者を排除した後の値上げ期間における売上を基準にするのが論理的なのでしょうけれど、違反行為期間の売上ということで割り切っているのですね。

例えば無料で販売を続けた場合、いわば究極のコスト割れ供給ですが、売上がないので課徴金はゼロ、ということになります。こういう例を考えてみても、排除型私的独占においては課徴金は不当利得の剥奪であるとは考えられていないことが分かりますね。

・・・とここまで書いて、ではコスト割れ供給の場合の課徴金算定期間が「違反行為期間」ではなく「実行期間」では不都合なのか、というと、別に不都合はないような気がします。コスト割れ供給の場合は、まさに違反行為期間と実行期間(=コスト割れ供給の実行としての事業活動を行った期間)が一致するように思われるからです。

他に「違反行為期間」と「実行期間」が決定的にずれる例がないか、もう少し考えてみます。

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