排除措置命令の対象者の拡大
改正法7条2項では、違反行為が既に無くなっている場合の排除措置命令の対象者を、旧法上の当該違反事業者だけでなく、当該違反事業者を吸収合併した法人や、当該違反事業者から違反行為に関係した事業を譲受けた事業者にまで拡大しています。
吸収合併の場合(7条2項2号)の場合には、違反事業者は消滅して無くなっていますので、違反事業者に排除措置命令を出すということは考えられません。
これに対して、会社分割(7条2項3号)の場合には、違反行為に関係した事業を分離した違反事業者も存続するのが通常です。この場合、命令を受けるのは事業を承継した会社(7条2項3号)だけでなく、違反行為に関係した事業を分離した違反事業者も、7条2項1号により排除措置命令の対象になります。
つまり、違反行為に関係した事業を全部分離してしまった後には排除措置命令を受けることはない、と考えるとそれは間違いで、事業を分離した方も承継した方も両方排除措置命令を受けることがあり得ます。
ただ、既に無くなった違反行為について排除措置命令を出すことが「特に必要」(7条2項柱書き)かどうかは命令を受ける者ごとに判断されるべきですから、違反行為に関係した事業を全部分離してしまった会社には、命令を出す必要がない、と判断されることが多いかも知れません。
また、会社分割も事業譲渡の場合もそうですが、「全部」の事業を譲り受けた事業者だけでなく、「一部」の事業を譲り受けた事業者も、排除措置命令を受けることになっています。
普通、事業譲渡の場合に「事業の全部の譲渡」とか「事業の一部の譲渡」とかいうと、譲渡会社の事業を全部するとか(その場合、譲渡会社には事業が何も残らず抜け殻になります)、一部を譲渡する(その場合、譲渡会社には譲渡対象にならなかった事業が残ります)、という意味です。つまり、全部か一部かは、譲渡会社の事業の全部か一部か、という形で明確に決まります(全部譲渡でないものが一部譲渡だ、といってもよいでしょう)。
しかし、改正法7条2項4号の事業の「全部」または「一部」というのは、やや複雑です。
例えば、ある会社に鉄道事業と百貨店事業があったとします。そして、その会社の関西の百貨店で優越的地位の濫用があったとします。
この場合、百貨店事業全部を譲り受けた事業者は「当該行為に係る事業の全部・・・を譲り受けた事業者」ということで問題はないと思います(つまり、排除措置命令を受けることがあります)。
鉄道事業を譲り受けた事業者は、違反行為に関係する事業を譲り受けていないので、排除措置命令の対象にはなりません。
これに対して、関東地域の百貨店事業だけを譲り受けた事業者は、違反行為にかかる事業を譲り受けた事業者と言えるのでしょうか。
「当該違反行為に係る事業」(改正法7条2項4号)を「百貨店事業」とみれば、関東地域の百貨店事業を譲り受けた事業者は、「当該違反行為に係る事業」(=百貨店事業)の一部を譲り受けた事業者となりそうです(つまり排除措置命令の対象となります)。
しかし、「当該違反行為に係る事業」というのを「西日本における百貨店事業」と考えると、関東地域の百貨店事業を譲り受けた事業者は、「当該違反行為に係る事業」(=西日本における百貨店事業)を譲り受けていない、ということになりそうです(つまり排除措置命令の対象となりません)。
通常は、全国で一つの百貨店事業として運営されていることが多いでしょうから、関東地域の事業だけを譲り受けた場合には「一部」の譲り受けとなることが多いでしょう。
しかし、例えば西日本と東日本で組織も経営の責任者も異なる場合には、西日本と東日本で別の事業と考えられる場合もあるのではないかと思われます。
つまり、今回の改正で、事業の全部譲渡か一部譲渡かという(通常の意味での)区別だけでなく、同一の事業がどこまで広がるのか、ということが問題になるようになった、といえそうです。
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