排除型私的独占ガイドライン(不公正な取引方法との限界)
排除型私的独占ガイドライン(まだ「案」ですが)は、排除型私的独占に課徴金が課せられることになったことにともない、正常な競争との区別がつきにくい排除型私的独占の限界を明確にするために策定されるとのことです。
このように正常な競争と私的独占を区別するということも大事ですが、もう一つ大事なことは、私的独占と不公正な取引方法とを十分に区別できるかどうか、ということです。
排除型私的独占には、不公正な取引方法と似たような行為も多く含まれます。ガイドラインでも、コスト割れ供給が私的独占になり得るとされています。
それでは、私的独占としてのコスト割れ販売と、不公正な取引方法としての不当廉売との区別はどこにあるのでしょうか。独禁法2条3項9号の不当廉売の文言と、ガイドラインのコスト割れ供給の説明を読み比べても、両者の区別の限界がどこら辺にあるのか、今ひとつよく分かりません。
両者の区別が意識されているのかな、と思われる点として、私的独占の場合には「参入の困難性」が考慮要素として挙げられています。これは、読み方によっては、コスト割れ供給によってその供給者が被った損失をその後取り戻して余りあること(recoupできること)が私的独占の成立のためには必要であるとする趣旨であるようにも思われます。日本では一般的に、不公正な取引方法の不当廉売の場合には、後に損失を取り戻せることは違反成立のために必要でないと解されているので、この点が両者の区別ということなのかも知れません(ただ、それならそうともう少し分かり易く書いて欲しいところです)。
私的独占としてのコスト割れ供給なら課徴金は売上の6%であるのに対して不当廉売なら3%で、それなりに両者の違いの意味は大きいと思われます。それにもかかわらずガイドラインは全体的に、両者の区別に無頓着なのではないでしょうか。
重要なポイントとしては、ガイドラインで私的独占はおおむねシェア2分の1を超える業者について成立すると明記されました。そのこと自体の妥当性はまた別の機会に考えるとして、結局、私的独占と不公正な取引方法の区別は行為者のシェアで決まる、という安易な処理が定着しそうな気がします。
しかし両者の区別は、根本的には、反競争性の程度が、競争の実質的制限のレベルにまで至るのか(私的独占の場合)、公正競争阻害性のレベルにとどまるのか(不公正な取引方法の場合)に求められるべきです。
例えばガソリンスタンドの場合には地理的市場は比較的狭く画定されるべきと思われますので(安いガソリンを求めて何十キロも遠くのガソリンスタンドに行く人は少ない)、合理的に狭く画定された市場ではシェア50%以上のガソリンスタンドというのは全国にいくらでもあると思われますが、それらのガソリンスタンドが、例えば全国シェアは数%だとか、県内でのシェアは20~30%に過ぎないからとかいうことで、何となくの印象で不公正な取引方法にとどまってしまう、という安易な処理がなされるような気がしてなりません。
« 除斥期間の経過措置 | トップページ | 独占禁止法審判決の法と経済学(競争政策研究センター公開セミナー) »
「2009年独禁法改正」カテゴリの記事
- 7条の2第8項2号と3号ロの棲み分け(2015.05.02)
- 主導的役割に対する割増課徴金(2015.05.01)
- 海外当局に提供する情報の刑事手続での利用制限(43条の2第3項)(2012.11.19)
- 課徴金対象の差別対価(2012.02.20)
- 優越的地位濫用への課徴金と継続性の要件(2011.10.27)
コメント