2017年3月17日 (金)

競争法フォーラムで発表しました。

昨日(3月16日)、競争法フォーラムで、

「プラットフォームビジネスと最恵国待遇条項(MFN)」

というタイトルで発表をさせていただきました。

ご参考までにレジュメを貼り付けておきます。

「170316jclfmfn.pptx」をダウンロード

今まで発表した中ではおそらくRIETI(独立行政法人経済産業研究所)での発表に次ぐくらいのプロの集まりだったので、かなり気合が入りましたcoldsweats01

限られた時間でお伝えしきれなかったことも多かったのですが、発表の中で紹介した、

Boik, A., and Corts, K., 2016, “The Effects of Platform Most-Favored-Nation Clauses on Competition and Entry,” Journal of Law and Economics, vol. 59: 105-134.

という論文は、なかなか読みごたえがあります。

とくに、プラットフォームにおいてMFNがどのように価格や参入に影響を及ぼすのかという論理の筋道を(主に数式ですが)追っていくと、「なるほど」と納得することしきりです。

たとえば、

2つのプラットフォームがMFNを採用した場合のプラットフォームの均衡利潤は、総需要が十分に非弾力的(具体的には、需要をqi=a-bpi+dpjと置いたときに、d>b/2)な場合には、MFNがない場合の均衡利潤より大きい

というところなどは、法律家みたいに「諸般の事情を考慮する」とか「ケースバイケースで判断する」とか適当なことをいわないで、明確な線が(理論上ではありますが)引けてしまうところに、経済学の凄味を感じます。

経済モデルの中にはかなりきつい前提をおいて、「そんなこと実際にどれだけあるのかわからない」というようなものも少なくないですが、このモデルは非常に単純で、かつ、結構有意味な答えが出る点が秀逸だと思います。

正直、自分の能力の限界で全部の論理を終えないところもあるのですが、それでも、簡単な微分と非協力ゲームの基礎を知っていれば8割がたは理解できます。

プラットフォームとMFNについて関心のある方は、ご一読をお勧めします。

数式を一行一行追うごとに、

「なるほど、そういうことか!」

と納得すること請け合いです。

2017年3月16日 (木)

ドイツ証券に対する警告について

3月15日、ドイツ証券に対して、欧州国債の取引に関する不当な取引制限(カルテル)の疑いで警告がなされました

気になったのは、本日(3月16日)の日経朝刊で、

「公取委は実際に受注を分け合ったのは数回だったことなどから明確な独禁法違反とは認定せず、行政指導の警告にとどめた。」

とされていることです。

しかし、ハードコアカルテルについて、数回だけだったから警告というのはいかがなものでしょうか。

アメリカだったら一発で刑務所行きの可能性もあるのに、なんとも甘いといわざるをえません。

ひょっとしたら、外部からはうかがい知れないけれど誰の目から見ても「これで排除措置命令はないんじゃない?」という事情があるのかもしれませんが、公取委の公表文だけみても、なぜ警告にとどまったのか、理由がまったくわかりませんし、報道からも、それはわかりません。

また日経記事によると、

「同じ顧客から複数銘柄の見積もり依頼があった場合、両社が分け合って受注できるように調整していた」

ところ、

「実際に受注を分け合ったのは数回だった」

ということで警告にとどまった、ということらしいのですが、これだとまるで実際に分け合った取引だけが違反のように見えてしまいます。

法的にはそうではなくて、

ドイツ証券:「お前のとこ、○○(クライアント名)から例の件、見積もり依頼あった?」

シティ:「ないよ。」

ドイツ証券:「あっそ。」

というのでも、立派なカルテルです。

きっと課徴金の対象にもなるでしょう。

そのあたり、誤解のないようにしたいものです。

万が一公取委が、ドイツ証券とシティの市場シェアが低いから競争の実質的制限の立証に不安を覚えていたために今回の警告になったのだとしたら、それも大きな問題です。

というのは、たとえ市場シェアが低くても、情報交換の結果両社で均等に割り振ることができたこと自体が、需要者がすべての証券会社に見積もりをとっているわけではないことをうかがわせ、市場シェアの低い会社でもそのような市場の不完全性を利用してカルテルを行うことは十分にありうるからです。

また、カルテルの課徴金は義務的であり公取委に裁量はないことが建前ですが、けっきょく、正式処分をしないことで課徴金も課さずに済んでしまうというのも、なんとなく釈然としないものがあります。

ここでの国債の取引がどれくらいの額だったのかわかりませんが、もし売上の10%の課徴金がかかったら(しかも前述のように、実際に分け合った案件だけでなく情報交換した案件も対象になるとしたら)、けっこうな額になったのではないでしょうか。

それに、警告ですませると、被害者が損害賠償請求をするのにも支障が出てきます。

きちんと調査をやっていれば当然被害者にも事情を聴いているでしょうから、被害者が被害者となっていることすら知らない、ということはきっとないのでしょうけれど、排除措置命令が出ていれば事実上違反の事実が推定されるので、それがないというのは被害者にはつらいものがあります。

日経によれば両社のコメントも、ドイツ証券が、

「警告を受ける以前から既に再発防止策を実施済みだ」

シティグループ証券が、

「警告を受けていないのでコメントする立場にない」

という、なんとも素っ気ないコメントです。

日本企業なら、

「警告を受けたのは遺憾」

とかなんとか、それなりの反省の色を示すのがお約束ですし、仮に「注意」どまりや、何もなしに調査が終わっても、調査を受けただけでまともな日本企業なら過剰反応ともいえるほどにコンプライアンス徹底に取り組むものですが、さすが外資系、そのあたりはとてもドライです。

別に注目を浴びるのが公取委の仕事ではないのでかまわないのですが、ドイツ証券とシティグループが日本の公取委から排除措置命令を受けたらそれなりに海外メディアでも取り上げられたでしょう。

注目されないだけならかまわないのですが、もし、

「日本ではちょっとくらいならカルテルをやっても警告どまり」

なんていう誤ったとらえ方を海外でされたら、よろしくないことだと思います。

それに今回はまだ「警告」なので公表されましたが、日経記事によると、

「シティグループ証券は再発防止策が十分だとして警告は見送った」

ということなので、これまでもハードコアカルテルで警告を逃れた、ひいてはまったく公表されることなく終わった、という案件もあるのではないか?ということが疑われます。

また弁護士的には、シティはどのような再発防止策だったので「十分」と認められたのか、また反対に、なぜドイツ証券は十分と認められなかったのか、というところも、今後のコンプライアンス促進の観点から、明らかにしてほしいところです。

ちなみに去年の5月25日から、リニエンシーの適用事業者は全件公表されることになりましたが、警告どまりだと課徴金納付命令も出ず、リニエンシーが「適用」されることもないので、誰が申請したかも公表されないことになるのですね。

このように、本件の処理にはいろいろと考えさせられるものがあります。

2017年3月10日 (金)

ドイツ証券に対する警告に関する報道について

昨日(3月9日)の日経夕刊に、

「ドイツ証券に警告へ 公取委 欧州国債 利回り調整か」

という記事が出ていました。

驚いたのがその中での「警告」にする理由で、

「この2社の担当者はインターネット上のチャットで〔欧州国債の利回りなどを〕協議していたという。公取委は組織的な行為とは言えないことなども踏まえ、警告が妥当と判断したとみられる。」

とされていたことです。

組織的な行為とはいえないから警告、というのは、どういうことなんでしょうか。

独禁法(なかでも排除措置命令)の目的は公正かつ自由な競争の確保であり、組織的かどうかは本質的ではありません。

日本の独禁法は基本的に企業を名宛人にした行政措置なので、従業員が業務上行った違反行為は当然(あるいはほぼ当然)に企業の行為とみなさないと、排除措置命令が出せない場合が出てきてしまいます。

行政処分という制度を取る以上、従業員の行為は企業の行為とみなす、というのでないと、筋がとおりません。

おそらく、同じく行政処分だけである欧州でも、そういう考え方だろうと思います。

もし欧州の弁護士に、

「日本では、組織的な行為ではない場合には、ハードコアカルテルが警告どまりになる(ことがある)」

といったら、きっと、「なにそれ?」という顔をされると思います。

個人の刑事責任を追及する米国のような制度であれば、企業のまったく知らないところで従業員が違法行為をしていた場合には企業は訴追を免れる、ということはありえます。

反トラスト法ではそういう例は聞いたことがありませんが、米国の外国公務員贈賄(FCPA)では、従業員に対してコンプライアンス教育をしっかりやっていたのに従業員が無視して贈賄をしたというケースで、モルガンスタンレーが法人訴追を免れた、というケースがあります。

日本の刑法の一般論としても、両罰規定があれば必ず法人も起訴されるわけではなく、組織的な関与がなければ起訴されない、ということは普通にあります。

このように、個人や法人の責任を追及することに主眼がある刑事法の場合には、組織的関与がなければ法人は訴追しないというのは、非常に納得感があります。

これに対して排除措置命令は競争回復が目的なわけですから、組織的関与があるかどうかは本来問題とすべきではないのです。

もし組織的関与がない場合には法人には排除措置命令を出さない(出せない)という制度をとるのであれば、個人に対する排除措置命令を導入しないとつじつまが合いません。

ハードコアカルテルは発覚しにくいですから、ほんらい、一罰百戒的に正式処分を打つべきです。

もうすでになくなっている行為だから警告にとどめる(今回の警告の理由がそうかはわかりませんが)、というのも、ハードコアカルテルの場合には妥当ではありません。

今回の件が欧米で摘発されているLIBORやデリバティブなどの金融商品関連の事件とどういう関係にあるのかはよくわかりませんが、少なくとも、海外ではどんどん正式事件として摘発されている(競争法か、市場に対する詐欺罪かは、ともかく)のに、日本では警告どまりというのも、国際的な観点からは見劣りがします。

うがった見方をすれば、外資系企業だから甘い処分ですませたのではないか、とすら疑われてしまいます。

公取委にはあまり英語ができる職員がいませんから、外国企業に対して及び腰になるというのは想像ができます。

かつて知り合いの外国の弁護士が、日本の公取委の幹部の方が海外の会議で配布した資料というのをくれたことがあって、その中での犯則事件についての説明で、

「日本では外国企業を刑事訴追することはない」

と堂々と書いてあるのをみてひっくり返りそうになったことがあります。

「検察庁を巻き込むのは大変だし、ホンネはそうなんだろうけど、何も国際会議で言うことないのに」と思いました。

やっぱり、外国の会社に対して弱腰だとみられるのは、とてもよろしくないと思います。

日経の記事によれば警告に落ちた主な理由は組織的関与の欠如だったようですが(それ自体、妥当な理由でないことは前述のとおりです)、なぜ排除措置命令ではなく警告なのかという理由はふつう警告書には書かれませんし、報道発表でも、ふつうはそのような理由の説明はありません。

しかし、今回のようなケースは警告にとどめた理由の説明が強く求められると思います。

そうでないと、

組織的関与がないと警告どまりになるのでは?

とか、

公取委は外国企業に弱腰なのでは?

という、疑心暗鬼を招きます。

毎年恒例の雑誌「公正取引」の座談会で話題になりそうなテーマではありますが、あれも、建前上は公取委の方のコメントは個人的見解なので、やはりプレスリリースなりで正式に説明してほしいところです。

でもそれはきっと難しいでしょうから、事務総長定例会見でどなたか記者の方が質問していただけないでしょうか

最近の公取は、景表法では富山の家具屋さんの二重価格表示に措置命令を出すのに(3月8日布屋商店に対する措置命令)、ハードコアカルテルが警告というのは、いかにもバランスが悪い。

今年に入ってから、下請法(2月23日ニッド、3月2日プレナス、3月7日あらた)とか、消費税転嫁法(2月22日スーパーホテル、3月9日帝国データバンク)については正式処分が相次いでいますが、本丸の独禁法がこれではさみしいかぎりです。

ちょっと、リソースの振り分け方がおかしいんじゃないでしょうか。

2017年3月 8日 (水)

流通取引慣行ガイドライン改正に関する3月6日日経朝刊記事について

3月6日(月)日経朝刊法務面に、流通取引慣行ガイドライン改正に関する記事が載っていました。

でもこの記事にはいろいろと問題があります。

まず、

「独禁法は・・・正当な理由なく供給先を選別することなどを公正な競争を阻害する『不公正な取引方法』として禁じている。」

というのは、控えめにいって誤解を招きます。

正当な理由がなければ供給先を選別できないなんてことを言い出したら、取引相手の選択の自由と真っ向から衝突してしまいます。

そんなことはありえません。

記事の「図」では、取引先による横流しを

「原則として禁止できない」

とされていますが、これもかなり誤解を招きます。

実際には、横流しの禁止は問題ない場合のほうが多いです。(たとえば市場シェア25%のセーフハーバーにみたない場合)

それどころか、横流しを一切禁止する(つまり消費者にしか売ってはいけないとする)ことすら、問題ない場合の方が多いくらいです。

というわけで、

「実は例外的に、販路を制限できる場合もある。」

として資生堂事件最高裁判決にふれるのも、かなり誤解を招きます。

というのは、同事件は同記事ものべるように対面販売の義務付けが問題になった事例であり、これが(唯一とはいわないまでも)「例外的」に販路を制限できる場合だとすると、対面販売の義務付けのような販売方法の制限ではない制限の場合(たとえば卸売販売を一切禁じるとか、再販売先を指定する一店一帳合制)には、「原則」にもどって原則として禁止されることになってしまいます。

資生堂事件で突如「それなりの合理的な理由」という基準が出てきたようにみえるのは、他の態様の制限とのバランスからも、価格への影響など何らかの反競争的効果があることを前提にした基準であるとみるか、当事者が販売方法の制限の妥当性だけを争ったからそういう判示になったとみるべきです。

なので、資生堂事件の基準をあたかも販路制限一般に適用がある例外であるかのようにいうのは、とても誤解を招きます。

選択的流通制について、

「現行の指針でも『選択的流通』という例外規定があり、①品質の保守(ママ)②適切な使用の確保③消費者利益の確保---の観点から合理的理由があれば、一定基準を満たした流通業者だけに自社商品の取り扱いを認め、他の業者への転売を禁止することが認められている。」

と紹介しているのも問題です。

というのは、もちろん①②③の要件を満たせば転売禁止できるのですが、仮に満たさなくても、取引先制限一般の基準(価格が維持されるおそれ)をクリアすれば問題ないからです。

つまり、選択的流通と取引先制限は二重のスクリーニングになっています。

このように、この記事にはいろいろ問題があるのですが、それがまさに独禁法のわかりにくさであり、流通取引慣行ガイドラインのわかりにくさ、ということなのだと思います。

このような誤解を解くために私はこのブログやいろいろな講演で情報発信をしているのですが、私ごときの情報発信ではいかんともしがたいものがあります。

独禁法が門外漢にわかりにくいのは法律の性質上あるていど仕方がない(文言が抽象的で肝心の考え方はどこにも書いていない)のかもしれませんが、ガイドラインがわかりにくいというのはそれ自体問題だと思います。

だって法律解釈をわかりやすく示すのがガイドラインというものでしょう。

ひとつこの記事をフォローすると、なにもガイドラインをこのように解釈するのは日経だけの話ではなくて、きっと世の中の多くのところでそのように考えられていることの反映ではないか、と思います。

もしそういう間違いを犯すのが弁護士に相談しないためである場合には、「弁護士に相談してくださいね」ということなのですが、困ったことに、独禁法に関しては弁護士のなかにも間違ったアドバイスをする人が多いと思われるのです(セカンドオピニオンをする経験上そう思います)。

というわけで、新しいガイドラインは、

独禁法の体系を理解している人には誤解なく理解できる

というようなものではなくて、

独禁法の門外漢がガイドラインだけをみても、まずは大きな誤解をしない

というものを目指してほしいです。

2017年3月 7日 (火)

不実証広告規制ガイドラインの10・15モードの記載についての疑問

不実証広告ガイドライン第3-2では、提出資料が

「客観的に実証された内容のもの」

に該当するのは

① 試験・調査によって得られた結果

② 専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献

のいずれかの場合であるとされ、さらに、(1)アでは、①について、

「試験・調査によって得られた結果を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合、当該試験・調査の方法は、表示された商品・サービスの効果、性能に関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法によって実施する必要がある。」

としたうえで、その例として、

「自動車の燃費効率試験の実施方法について、10・15モード法によって実施したもの。」

というものが挙げられています。

しかしこの例は、ガイドラインに載せるのはあまりふさわしくないと私は思います。

というのは、10・15(じゅう・じゅうご)モードと実際の燃費にはけっこうなかい離があるからです。

とくにハイブリッド車については、10・15モードでは電池をフル充電して試験してよいことになっているため、実際の燃費と10・15モードとの間に大きなかい離があるものもあるようです。

つまり電池容量を大きくすれば理論的にはいくらでも10・15モードはよくできるわけです。

なので、むしろ10・15モードで計測した燃費については、10・15モード燃費であることを明記しないと優良誤認表示になる可能性さえある、といえると思います。

少なくとも実際の表示では、10・15モードであることを明記したうえで、

「実際の燃費は使用状況により異なります。」

という断り書きまであるのが常ですので、実際に事件になることは今後もないでしょう。

また細かい解釈論を述べれば、

10・15モードが実燃費と違うことはドライバーにとっては常識なので誤認はない

とか、

10・15モードで表示することが社会的な慣習になっている、

とか、いろいろ反論もありえます。

ですが、ではそれがガイドラインに典型例として載せる例として適切か、といえばそうではないでしょう。

もしガイドラインを文字通り受け取るなら、

「実際の燃費は使用状況により異なります。」

というような表示はまったくナンセンスな記載、ということになるでしょうが(だってガイドラインが典型的にOKな場合と言っているのですから)、そんなふうに考えている関係者はまずいないでしょう。

実際、先日の三菱自動車の燃費偽装事件の消費者庁の命令をみると、実燃費より良い燃費を表示していたことが問題とされたのではなく、10・15モードで計測したように表示しながら10・15モードで定められた方法で計測していなかったことが問題とされています。

もしガイドラインを文字通り受け取るなら、そのような認定は本質を外している(本質は表示通りの「性能」があるかどうかであって、政府の定めた方法によるかどうかは関係ないはず)だからです。

(ただ、命令の考え方としては、

「実燃費とのかい離を問題にするとそのかい離が『著しく優良』であるほど大きいことを認定しないといけなくて大変なので、手堅く『10・15モードと表示しながら10・15モードではなかった』というところで違反を認定した」

という実務的な配慮があったのかもしれません。)

ともかく以上のような理由で、10・15モードはこのガイドラインにのせる典型例としては、ふさわしくないと思います。

ほかの例でも、JISを基準にすればいいとか、ちょっとお上の基準を重視しすぎに思われます。

「JIS基準で測れば良好な性能は出ないけれど、実際に近い使用状況で測れば良好な性能がでる」ということも、場合によってはあるのではないでしょうか。

政府のガイドラインなので政府の基準を重視するというのは役人のメンタリティとしてはやむを得ないのかもしれませんが、景表法の誤認は一般消費者を基準とすべきことからすると、お上の基準が絶対であるかのようなガイドラインは好ましくないと思います。

2017年2月23日 (木)

週刊ダイヤモンドと週刊エコノミストの特集に思う

今週たまたま、週刊ダイヤモンドの

「弁護士・裁判官・検察官~司法エリートの没落」

という特集と、週刊エコノミストの

「弁護士vs会計士 司法書士」

という特集が重なったのをみて、ふと思いました。(ちなみに、もちろん私は両方買いましたbleah

「これって、偶然なんだろうか?」

「もし示し合わせて特集を組んだとしたら、カルテルとかにならないんだろうか?」

結論としては、今回のケースでは示し合わせてもカルテルにはならないのですが、独禁法を考えるうえでなかなか面白い素材を提供してくれるので、ちょっと考えてみます。

独禁法では競争者間の競争制限的な合意はカルテルとして禁じられています。

では競争制限的とはどういうことかといえば、単純にいえば、販売数量を減らして値段を上げることです。

今回のケースでは、仮に両社が示し合わせたとしても、それは「2つまとめて出れば注目度が上がるだろう」という理由ではないかと思われます。

たしかに日経朝刊の広告で同じ紙面に左右並んで同じような特集があると、単体よりも注目度が上がる、と私なんかは思ってしまいました。

1つずつ別々に出たら、両方とも買わなかったかもしれませんし、片方だけ買ったかもしれません。こんなことも珍しいのでつい両方買ってしまいましたhappy02

つまり、今回のケースは仮に示し合わせていたとしても販売量を伸ばすためなのであって、むしろ競争促進的だ、ということだと思います。

もし今回のケースで独禁法上問題があるとしたら、同じような特集をすることが途中のどこかで分かって、内容がまったくかぶってしまうと読者の取り合いになるので、微妙に内容を変えてみることを合意した、という差別化戦略の場合でしょう。

そんな高度な、というか回りくどい戦略は、ちょっと考えにくいです。

ほかに似たような例として、民放とNHKの女子アナが共同してオリンピックをアピールする、なんていうのも競争促進的(全体でより多くの視聴者を獲得する)といえます。

これに対して、かなり以前になりますが、ある民放の社長さんが、

「NHKの紅白歌合戦の裏番組でみんな格闘技をやってたんじゃ共倒れだ。各社考えないといけない」

というようなことをおっしゃっていましたが、これはちょっとカルテルのにおいがします。

番組内容の差別化(正面からバッティングしないようにすること)によって、お互いに視聴者を奪い合わないようにしているからです。

これに対しては、

「そういう調整をしたほうがトータルでの視聴者数(視聴率ではなく)は増えるのではないか。だから競争促進的という議論もできるのではないか。」

という反論がありえます。

では具体的にどういう場合がだめで、どういう場合がオーケーなのかは、具体的な事情に基づいて考える必要がありそうです。

たとえば競合する雑誌2誌が、カバーストーリーを何にするかを、相手の出方を予測しながら決める、というようなゲームの場合、雑誌の価格はふつう所与なので、トータルで販売数が増えるのであれば消費者余剰も増えるので、2誌で調整しても問題ない、という議論もできそうです。

(でもたとえば、週刊文春と週刊新潮がカバーストーリーの調整をするかといえば、きっとしない(しないことがお互いに合理的)でしょうから、調整するインセンティブがある場合というのがそもそも限られているのかもしれません。)

そうすると前述の紅白裏番組の調整も、問題ない(民放の地上波の視聴は無料なので、競争を避けることで価格が上げられるということが考えにくい)、という方向に流れそうです。

今回のダイヤモンドとエコノミストのケースで、もし問題があるとしたらという場合として

「同じような特集をすることが途中のどこかで分かって、内容がまったくかぶってしまうと読者の取り合いになるので、微妙に内容を変えてみることを合意した」

というのを上記のとおり考えてみましたが、では発売週を一週間ずらすのはどうか、といえば、それくらいは大丈夫なような気もします。

単純にみえる競争者間の調整行為でも、限界事例は考えてみると面白いですね。もうちょっと考えてみようと思います。

ちなみに、エコノミストの特集には、当事務所(大江橋法律事務所)の国谷史朗弁護士のインタビューが掲載されています。ご興味のある方はぜひご覧ください。

2017年2月16日 (木)

日産自動車の燃費不正問題の補償内容について

今朝の日経朝刊に日産の燃費不正問題の補償についての社告が出ていましたが、改正景表法のもとでの返金措置の観点からみると、何かと興味深い内容になっています。

参考までに同社のウェブサイトから補償内容を以下に引用します。

■対象となるお客さま

「デイズ」または「デイズ ルークス」を2016年4月21日までにご使用いただいていたお客さま

(自動車検査証に記載の使用者さま)

■補償の内容

<お支払い金額(1台あたり)>

① 以下②③④以外のお客さま:10万円

② 残価設定型クレジットをご利用のお客さま:契約年数に1万円を乗じた額。ただし、現契約終了時に買取(現金一括又は再分割)される場合は、現契約終了後に「10万円」から「契約年数に1万円を乗じた額」を差し引いた額をお支払いさせていただきます。

③ リースにてご利用のお客さま(2016年4月21日までにリース契約をご締結されたお客さま):契約年数に1万円を乗じた額。ただし、現契約満了時に車両買取権を行使される場合は、現契約満了後に「10万円」から「契約年数に1万円を乗じた額」を差し引いた額をお支払いさせていただきます。

④ 過去(2016年4月20日以前)にご使用いただいていたお客さま:使用年数に1万円を乗じた額。

■お支払い金額の考え方

•新届出燃費値と旧届出燃費値との差による燃料代の差額

•今後の車検時等に想定される自動車関連諸税の増額分

■補償お支払い手続き期限

2017年3月31日(当日消印有効)

■その他

新届出燃費値と旧届出燃費値との差異により、ご購入時の減税ランクに差が生じ、追加納税義務が発生した場合は、三菱自動車工業株式会社が対応いたします。

まず、補償対象者が

2016年4月21日までにご使用いただいていたお客さま

に限られている点が、返金措置の要件を満たすのかは、検討を要します。

2016年4月21日は、三菱自動車と日産自動車が軽自動車(今回のデイズ、デイズルークスも含まれます)の燃費偽装について公表・記者会見をした日でしたが、そのあとに購入した人は分かって購入しているんだから補償の対象にしない、ということなのでしょう。

さて、これは景表法の返金計画の要件に照らしてどうでしょうか。

景表法上の返金措置は、

「課徴金対象期間において当該商品又は役務の取引を行つた一般消費者であつて政令で定めるところにより特定されているもの」

でなければならず(景表法10条1項)、

「課徴金対象期間」

は、少々長いですが、

「課徴金対象行為をした期間

(課徴金対象行為をやめた後そのやめた日から六月を経過する日

(同日前に、当該事業者が当該課徴金対象行為に係る表示が不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれを解消するための措置として内閣府令で定める措置〔注・誤認解消措置〕をとつたときは、その日)

までの間に当該事業者が当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の取引をしたときは、当該課徴金対象行為をやめてから最後に当該取引をした日までの期間を加えた期間とし、当該期間が三年を超えるときは、当該期間の末日から遡つて三年間とする。)」

と定義されています(景表法8条2項)。

なので、

「課徴金対象行為」(具体的には、テレビCMとか、チラシの配布とか、ウェブサイトの表示)

を4月21日にやめており、かつ、同日以降、日産自動車が対象車種をディーラーに販売(直営店の場合は一般消費者に販売)することをやめていれば、括弧書の

「取引をしたとき」

にも該当しないということで、「課徴金対象期間」は4月21日までということになり、

「課徴金対象期間において当該商品又は役務の取引を行つた一般消費者であつて政令で定めるところにより特定されているもの」

の要件は満たされることになります。

日産本体が「取引」をやめていれば足りるので、ディーラーが販売してしまったかどうかは関係ない(そんなことはなかったと思いますが)、というのがポイントです。

ともあれ、記者会見までしながら販売を続けることは考えがたいので、本件ではこの要件は満たされているのでしょう。

では次の「補償の内容」はどうでしょうか。

原則が①の10万円であるというのは景表法10条5項2号の、

「当該実施予定返金措置計画に係る実施予定返金措置の対象となる者

(当該実施予定返金措置計画に第三項に規定する事項が記載されている場合又は前項の規定による報告がされている場合にあつては、当該記載又は報告に係る返金措置が実施された者を含む。)

のうち特定の者について不当に差別的でないものであること。」

における、

「不当に差別的」

には該当しないのでOKでしょう。

②のうち、

「残価設定型クレジットをご利用のお客さま:契約年数に1万円を乗じた額。」

の部分は、使用年数に応じた返金ということで「不当に差別的」とはみられないのでしょうけれど、問題はただし書の、

「ただし、現契約終了時に買取(現金一括又は再分割)される場合は、現契約終了後に「10万円」から「契約年数に1万円を乗じた額」を差し引いた額をお支払いさせていただきます。」

の部分です。

というのは、景表法10条5項3号で、

「当該実施予定返金措置計画に記載されている第二項第一号に規定する実施期間が、当該課徴金対象行為による一般消費者の被害の回復を促進するため相当と認められる期間として内閣府令で定める期間内に終了するものであること」

とされており、これを受けた景表法施行規則13条では、

「法第十条第五項第三号に規定する内閣府令で定める期間は、

法第十五条第一項 の規定による通知〔注・課徴金納付命令の弁明の機会付与通知〕を受けた者が、

第十条第一項の申請書〔注・返金計画認定の申請書〕を消費者庁長官に提出した日から四月を経過する日・・・までの期間とする。」

とされているのです。

つまり、返金措置による返金は、返金計画認定申請書の提出日から4か月以内に終わらないといけないのです。

そして、残価設定型クレジットの契約終了後に返金するということは、少なくとも一部の顧客については、4か月は過ぎた後でしょうから、②はこの要件を満たさないことになります。

③も同様です。

怖いのは、ほんの一部でも法定の要件を満たさない返金対象者がいると、計画全部が認定拒絶になるとうことです(要件を満たさない顧客の部分だけが認定拒絶になるのではない)。

なお返金額は最低でも購入額の3%以上でなければなりませんが(景表法10条1項)、デイズのメーカー希望小売価格は高くても180万円くらいのようなので、最低返金額の要件は満たしそうです。

(3%から逆算すると、10万円の返金で最低返金額の要件を満たす取引額は333万3333円以下でないといけない、ということになります。)

さらに気になるのは、リースと購入の顧客がいる場合に、購入の顧客は認定の要件を満たすけれど、リースの顧客は満たさない、という場合に、返金計画が全部無効になるのか、それとも、リースについてだけ無効になるのか、という問題です。

リースと購入とでは取引態様が違いますし、どちらかというと少数派と思われるリースのせいで全部の返金計画が不認定になるというのもいかにも据わりが悪いですから、リースと購入に分けて返金計画を提出することもでき、そのうちリースが認定拒絶でも購入の顧客については認定され得る、と考えるべきでしょう。

ともあれ、以上のように、自動車のような耐久消費財の場合には、今の景表法の返金計画の要件は、いかにも杓子定規だなあという気がします。

企業としては、べつに法定の返金措置の要件を必ず満たさないといけないわけではなく(課徴金からの減額が認められないだけ)、日産もわかってやっていることでしょうし、それ自体は何の問題もないのですが、将来的には、法改正するなり、もう少し柔軟な制度にしていただけたらと思います。

2017年2月10日 (金)

JASRACが音楽教室から著作権料徴収するとの報道について

JASRACが音楽教室から著作権料徴収する方針だ、という報道がなされていますが、2月2日付の朝日新聞電子版によるとJASRACは、

「著作権料を年間受講料収入の2・5%とする案を検討している。」

とのことです。

これって、公取委から私的独占で排除措置命令を受けた、テレビ・ラジオ局からの包括徴収と同じ仕組みのようにみえますが、大丈夫なのでしょうか?

個別徴収と併用する手もありえますが、テレビ・ラジオの場合でも個別徴収は可能だった(ただ、その値段が高すぎた)わけで、併用すれば問題ないともいいにくそうですし、音楽教室だと、どの曲を何回使ったのか数えるのが放送の場合よりも面倒な気がします。

また個別徴収にするとして、1回の「教室」での使用は1回とみなすのか、1回の「教室」で3回演奏したら3回とみなすのか(もし3回とみなすなら演奏の回数を数えておかないといけないのでかなり面倒そうです)など、いろいろな問題がありそうです。

なお、

テレビラジオと異なり競争者は音楽教室へのライセンスに参入していないので競争を制限しない

という理由は成り立ちません。

それを言ってしまうと、JASRAC自身これまではライセンス料を取っていなかったわけですし、今後同業者が参入しようとすることもありうるわけで、少なくとも潜在的競争には影響がありそうだからです。

ちなみに著作権法22条(上演権及び演奏権)では、

「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。 」

とされており、

「公衆」

は著作権法2条5項で、

「特定かつ多数の者を含むものとする」

とされています。

そこで、先生が生徒さんに聞かせる目的で演奏するのは「公に」に該当するかが問題となるわけですが、この点については、ダンス教室事件でのCDの演奏が著作権侵害にあたるとされた判決(名古屋地判平成15年2月7日)があり、その判決では、

「被告らは、ダンス教師の人数及び本件各施設の規模という人的、物的条件が許容する限り、何らの資格や関係を有しない顧客を受講生として迎え入れることができ、このような受講生に対する社交ダンス指導に不可欠な音楽著作物の再生は、組織的、継続的に行われるものであるから、社会通念上、不特定かつ多数の者に対するもの、すなわち、公衆に対するものと評価するのが相当である。」

と判断されています。

これに従えば、音楽教室の個人レッスンの場合にも、「公に」に該当することになるのでしょう。

(個人的には、それぞれの演奏を公衆(=多数)に聞かせる必要があるように読め、個人レッスンや少人数のレッスンはそれをたんに多数回行っただけでは「公衆」に対して演奏したことにはならない、と解するのが条文に素直じゃないかという気もしますが、上記判決は

「組織的、継続的に行われるものであるから、社会通念上、不特定かつ多数の者に対するもの、すなわち、公衆に対するものと評価する」

という理屈ですね。)

これに対して、生徒さんが演奏するのは練習のためなので、「聞かせることを目的として」には該当せず、演奏権侵害にはならないと思われます。

同じ教室でレッスンを受けている他の生徒にも聞こえるのは結果的に聞こえるだけで、「聞かせることを目的として」いるわけではないでしょう。

先生に聞かせる(聞いてもらう)目的は認められるかもしれませんが、先生は「公衆」(著作権法2条5項では、「特定かつ多数の者を含むものとする」とされています)にはあたらないでしょう。

そこで、前記記事で、

「音楽教室では、1人または数人の生徒と教師が練習や指導のために楽曲を演奏する。JASRACは、生徒も不特定の「公衆」にあたるとして、この演奏にも演奏権が及ぶと判断。」

というところの、「この演奏」というのは、その前の、

「1人または数人の生徒と教師」

がする演奏を指しているようにみえるのはやや不正確で、厳密には、教師の演奏だけが演奏権の対象なのでしょう。

ともあれ、まだ議論の段階のようですので、公取委の対応をふくめ、なりゆきを見守りたいと思います。

2017年2月 9日 (木)

2月1日の事務総長会見について(JASRAC)

1月26日にJASRACに対する課徴金の可能性について、

「記者さんもどうせ事務象徴会見で質問するならこの点を質問すればいいのにね」

といったことを書きましたが、まさに2月1日の事務総長会見で、

「(問) 昨年,JASRACの審判が,JASRAC側の審判請求取下げによってということが9月にあったと思うんですけれども,排除措置命令が出た当時,私的独占自体は課徴金の対象になってなくて,その後,審判とか裁判で争っている間に,JASRACの行為というか,私的独占自体が課徴金の対象になったと思うんですけども,JASRACの事件がということにはどうしてもなってしまうんですが,いわゆるあの事件で課徴金というのは取れるものなのか,取れないものなのか,どちらともつかないものなのか,その辺りというのはどういう仕組みになっているんでしょうか。

(事務総長) まず,確定した排除措置命令が対象としたJASRACの事案については,平成21年に私どもが排除措置命令を出した事案でございますので,それまでの事実に基づいて命令を出したということでございます。

一方で,独占禁止法改正・施行により私的独占に課徴金が導入されたのは平成22年1月でございます。したがって,この前確定した命令が認定した事実の時点と異なるものでございます。個別事案について,全く別の事案ということになりますから,今後どうするかとか,やるとか,やらないというのは,ここの場面では,私の方からはコメントは差し控えさせていただきたいと思います。」

という質疑応答がありました。

「全く別の事案ということになります」

というのは、まったく同じ契約でまったく同じことをやっていてるのに、いくらなんでも形式論にもほどがあります。

優越的地位の濫用の場合にはバラバラに見える行為でも全期間まとめて平然と課徴金を課しているのと比べると、本当に、場当たり的な理屈だなあと感じます。

なにか社会的事実として区別する事情があるなら区別することも合理的でしょうけれど、ここで区別する理由は、ホンネのところでは、課徴金が施行されたかされてなかったか、という違いしかないのではないでしょうか?

それって、違反かどうかの認定には、何の関係もありません。

もしも今回の事務総長会見が、課徴金納付命令後の行為には改めて課徴金納付命令を出さない(「全く別の事案」なので)ということを公取の運用として確立してしまうものだとしたら、それも大問題です。

そんなことしたら、命令を受けても儲かる限りは違法行為を続けるインセンティブが違反者に生じるからです。

(かといって、争っている当事者に訴訟の期間中ずっと課徴金がかかるというのも、逆の意味で大問題なのですが。)

解釈論上の問題の本質は、

課徴金納付命令には公取の裁量がない(「命じなければならない」独禁法7条の2第1項)のに、まったく同じことを続けていながら命令後の行為だからといって(あるいは改正後の行為だからといって)そちらのほうには命令を出さない、というのは許されないのではないか

ある行為自体を正式事件として取り上げるか取り上げないかという裁量は当然認められるにしても、排除措置命令まで出しておきながらその後の行為については「別の行為だから」というのは、「取り上げるか取り上げないか」という裁量とはまったく異なっていて、公取が自ら取り上げるという判断をしておきながら社会的には1つの行為の一部だけを取り上げないというのは、まさに7条の2が禁じる露骨な裁量権の行使であって許されないのではないか

ということですから、記者さん方も、こういう切り口から聞いていただければよいと思います。

こういう細かい問題が生じてしまうのも、もとをたどれば非裁量型課徴金制度のせいだともいえます。

ともあれ、公取はJASRACに対する課徴金にはかなり否定的であることが見て取れます。

2017年1月30日 (月)

三菱自動車の課徴金納付命令について

1月27日、三菱自動車の燃費偽装に対する措置命令と課徴金納付命令が出ました

課徴金納付命令(と報道)を読んで気が付いたことを書き留めておきます。

■対象車種について

課徴金の対象になっているのはいわゆる普通車だけであり、軽自動車は対象になっていません。

同日日経記事によると、

「返金計画が未提出、または不十分と判断した三菱自の普通車など5車種の売上高の3%相当額とした。

軽自動車については両社の返金計画を認め、その実施状況を踏まえて判断する。」

ということです。

■表示媒体について

違反が認定されたのは、カタログとウェブサイトだけになっています。(これは三菱と日産の排除措置命令でも同様です。)

広告としてはほかにも、テレビCMや新聞広告、新聞チラシ、雑誌広告、などが考えられ、広い意味での表示には、自動車本体に貼られる

「平成30年燃費基準20%達成車」

などのステッカー(?)なども思いつきますが、これらは対象になっていません。

これらの媒体では燃費について表示していなかった、ということは考えにくいので、なぜカタログとウェブサイトだけが対象になったのかはわかりません。

■返金計画について

前記日経記事によれば、軽自動車については三菱と日産が消費者庁に返金計画を提出していることがわかります。

また、「未提出」なのは、各社それぞれの判断なのでよいのですが、「不十分」というのは、どのような点が不十分と判断されたのか、気になるところです。

■日産への課徴金について

日産も返金計画を提出しているということは、おそらく過失の有無は争わない立場なのであろう、とうかがえます。

不当表示であることを知らずに不当表示をしていた場合には、知ってから速やかに不当表示をやめれば課徴金はかからない、というのが消費者庁の見解です。

OEM先にだまされたという気の毒な場合にはまさに「速やかに」やめたかどうかが問われるわけですが、本件の日産のような場合でも課徴金がかかりうるということは、消費者庁に、「速やかに」やめたと認めてもらうのは、実際にはかなり大変なのだろうと想像されます。

とくに本件の場合には、日産も自動車メーカーなので、自社で検査をしたら表示どおりの燃費が出なかったと分かった時点で、「知った」ということになるのではないかと考えられます。

報道によれば2015年11月に日産は実測値と届出値との間に明らかな差があることに気づいたとされていますが、その時点で「知った」ことになるわけです。

その後三菱に原因を問い合わせたとか、その原因が三菱の偽装であることがわかったとかいう事実は、日産がいつ「知った」かとは関係のないことです。

というのは、不当表示は表示と実際が異なれば成立するのであり、その原因が納入業者の偽装であるか計測ミスであるかといったことは関係がないからです。

・・・と、理屈は以上のとおりなのですが、知ってから「速やかに」やめるのが本件では事実上きわめて困難であったであろうことは、容易に想像できます。

不当表示の原因がまだ分からないのに、ともかく公表して販売も中止する、というのは、かなり勇気がいるからです。

日産としては、記者会見なり、プレスリリースなりをするとしても、できれば、「わが社には責任はないんですよ(悪いのは三菱ですよ)」といった内容にしたいところでしょう。

それは人情としては非常によく理解できます。

このあたりは消費者庁による実態に即した柔軟な解釈を期待したいところです。

■課徴金対象行為について

課徴金対象期間については、カタログ上の不当表示について、始期はカタログをディーラーに最初に出荷した日、終期は最後に出荷した日、とされています。

カタログがディーラーに届いた日でもなければ、カタログが消費者の目に触れた日でもありません。

つまり、課徴金対象行為は「カタログの出荷」ということです。

課徴金ガイドラインでも同様のことが述べられていますので、それを確認した形になっています。

■誤認解消措置について

命令では、三菱自動車が平成28年9月11日に誤認解消措置をとったことが認定されています。

誤認解消措置をとったあとの売上には課徴金はかかりませんが、本件では、取引をした最後の日が8月12日と認定されているので、結果的には、誤認解消措置が課徴金の減額には結び付いていません。

■自主申告について

命令では、三菱自動車が平成28年8月31日午後に消費者庁に自主申告したことが認定されています。

ただ、それは調査開始の通知を受けた時(平成28年5月27日又は同年8月31日午前)よりもあとなので、課徴金納付命令があるべきことを予知してなされたものとして、課徴金の半額減額は認められていません。

「午前」「午後」とわざわざ明記していることからもわかるように、日付ではなく、時間的な前後で「予知」していたかどうかが認定されます。

当たり前にみえるかもしれませんが、類似の制度の独禁法上のリニエンシーでは、条文上、「調査開始日」の前には1位全額免除で同日以後は3割減額、というふうに、日を単位にしています。

それと比べると、景表法の条文に忠実な運用をしているといえます。

またそのような時間的前後関係が問題となりうることから、消費者庁では調査の開始の通知をして「予知」の有無を明確にしていることがうかがえます。

■調査開始の通知について

それと関連して、命令では、

「前記1の課徴金対象行為についての調査の開始」

を通知した、と記載されていますが、おそらく、「前記1の課徴金対象行為」とはいっても、命令の対象26車種を具体的に特定して通知したのではないのでしょう。

どの車種で不当表示がなされたかは調査をしてみてわかるのであり、調査開始時に通知することは不可能または困難だからです。

もし具体的に対象車種まで特定して通知していたら、後から分かった車種についてはさらに通知をされるまでは自主申告して半額免除されてしまい、不都合でしょう(でも場合によっては、そのような減額を認めることが「不都合」でない、という事案も、今後はあるかもしれません。)

それから、本件では調査開始の通知が平成28年5月27日と同年8月31日午前の2回なされているようですが、なぜ2回になったのかは不明です。

ちなみに、日経新聞電子版2016年5月25日では、

「三菱自動車の燃費データ不正問題で、消費者庁が不当表示を禁じた景品表示法に違反していないか調査を始めたことが25日、関係者への取材で分かった。」

と報じられているので、新聞報道があってすぐに消費者庁に駈け込めば、間に合う(調査開始前に消費者庁からリークされる?)可能性もありそうです。

なお、自主申告の減額の有無を判断するためだけであれば最初の調査開始通知よりも後に自主申告がなされたことさえ認定できればいいはずですが、なぜ5月27日の通知に加えて8月31日の通知にまで言及されているのかは定かではありません。

■不当表示期間について

全26商品(※普通の意味での車種ではなく、1グレードで1商品と数えています)のうち、「デリカD:5」の「CHAMONIX」についてだけは、不当表示期間が8月12日までと認定されています(他の25商品は8月30日)。

理由はわかりません。たぶん、事実がそのとおりだった、ということなのでしょう。

このように、課徴金が導入されたためにいままでにはない細かいところが気になってきます。今後、「公正取引」に載るであろう担当官解説に期待しましょう。

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