【ご紹介】小田切元委員によるゼミ

公正取引委員会の元委員でいらっしゃる、小田切宏之先生の、

競争法と経済学研究ゼミナール

が、公正取引協会で開かれます。

第1回は10月11日(水)、全5回のシリーズで、税込み10万円です。

内容は、

10月11日(水) 競争政策の理解に向けた産業組織論の基礎

10月26日(木) カルテル・談合の経済学と計量分析

11月 8日(水) 不公正な取引方法の経済学~再販や不当廉売を中心に

11月22日(水) 企業結合の経済学と計量分析

12月 6日(水) イノベーションとプラットフォームの経済学と競争政策

というもので、独禁法弁護士としてはどの回も興味を惹かれるものばかりです。

わたしは常々、日本の独禁法実務に経済学が根付くことがぜひとも必要だと考えてきましたが、経済学者で産業組織論をご専門にされる小田切元委員のお話をまとまって聞くことができるまたとない機会と思い、申し込みました。

経済学者の元委員のかたが、このような形で一般向けに講義をされるのは、きっと初めてのことではないでしょうか。

ひょっとしたら、これから先もこのような機会は二度とないかもしれません。

よくこの手の企画では、

「△△(役職名)で、経験豊富な〇〇氏のお話を聞く貴重な機会です」

というふれこみで宣伝がなされることがありますが、小田切先生の今回の講義は、ほんとうの意味で、貴重な機会だと思います。

経済学系の方々のお話を、むずかしいのから簡単なのまで、いろいろと聞いた経験からいうと、むずかしい話であってもどこかはっとひらめくものがありますし、簡単なものでも、「そういう切り口もあるのか」とか、「そういう発想で考えているのか」、と気づかされることがあります。

そういう意味で、ふだん法律をあつかっている者からすると、経済学の講義というのは、本を読むのとはまた違った深い理解を得られることが多いように思います。

日本の独禁法実務をリードしたいと思う方、ぜひ、一緒に勉強しましょう。

2017年9月12日 (火)

標準化パテントプールガイドラインの目次(と簡単な要約)

標準化パテントプールガイドラインの目次と簡単な要約をメモしておきます。

第1 はじめに

第2 標準化活動

1 標準化活動の態様

2 標準化活動自体に関する独占禁止法の適用

標準化活動に当たって以下のような制限が課されることにより、市場における競争が実質的に制限される、あるいは公正な競争が阻害されるおそれがある場合には独占禁止法上問題となる。

(1) 販売価格等の取決め

(2) 競合規格の排除

相互に競合規格開発を制限又は競合規格製品の開発・生産を禁止(注4)〔少数が非公開で行う実質的な共同研究の場合は認められる場合あり〕

(3) 規格の範囲の不当な拡張

(4) 技術提案等の不当な排除

(5) 標準化活動への参加制限

標準化活動に参加しなければ、策定された規格を採用した製品を開発・生産することが困難となり、製品市場から排除されるおそれがある場合に、合理的な理由なく特定の事業者の参加を制限する(私的独占等)。

3 規格技術に関する特許権の行使と独占禁止法の適用

ライセンス拒絶は基本的に問題ない。

FRAND宣言違反は問題ある可能性。

第3 規格に係る特許についてのパテントプールに関する独占禁止法上の問題点の検討

1 基本的な考え方

(1) 

(2)

複数の競争事業者が、パテントプールを通じてライセンスする際に、ライセンシーの事業活動に対して一定の制限を課しても、規格を採用した製品の販売価格販売数量を制限するなど明らかに競争を制限すると認められる場合などを除き、

(1)当該プールの規格に関連する市場に占めるシェアが20%(注9)〔製品市場の売上シェア〕以下の場合、

(2)シェアでは競争に及ぼす影響を適切に判断できない場合は、競争関係にあると認められる規格が他に4以上存在する場合

には、通常は独占禁止法上の問題を生じるものではない(注10)。

(3) (2)の条件が満たされない場合でも直ちに問題となるわけではなく、個別判断。

2 パテントプールの形成に関する独占禁止法上の考え方

(1) パテントプールに含まれる特許の性質

ア 規格で規定される機能及び効用の実現に必須な特許に限られる場合

ライセンス条件が一定に定められても問題なし。

イ 必須特許とはいえない特許が含まれる場合

[1] 代替特許が含まれる場合、パテントプールに含められライセンス条件が一定とされることにより、これらの代替特許間の競争が制限される。(事例1)

 

[2] プール外の代替特許が排除される。(事例2)

 

当該規格の普及の程度、代替的なパテントプールや規格技術の有無などの市場の状況の外、以下の点を勘案。

[1] パテントプールに必須特許以外の特許が含められることに、合理的な必要性又は競争促進効果が認められるか。

[2] 直接ライセンス、選択的ライセンスが可能か

(2) パテントプールへの参加に係る制限

ア パテントプールへの参加の制限

参加に一定の合理的な条件を課すのは問題ない。

パテントプールを通じてライセンスすることを事前に取り決めることは、①対象が必須特許に限られ、かつ、②ほかに当該特許の自由な利用が妨げられない、などの場合は問題ない。

イ パテントプールへの参加者に対する制限

参加者への制限は合理的で、かつ、特定の事業者にのみ不当に差別的な条件を課すものでない限り、問題ない。

ライセンス料の分配方法特許の重要度など様々な要因に基づいて決定しても問題ない。

パテントプール以外でのライセンスを禁止することは、独占禁止法上問題となる「おそれ」あり(私的独占、不当な取引制限等)。(事例3)

(3) パテントプールの運営

パテントプールの運営者に集中するライセンシーの事業活動に関する情報について、参加者やライセンシーがアクセスできないようにすることが望ましい。(事例4)

3 パテントプールを通じたライセンスに関する独占禁止法上の考え方

(1) 異なるライセンス条件の設定

異なるライセンス条件の設定は直ちに独占禁止法上問題となるものではなく、個別に判断される。

合理的な理由なく、特定の事業者にのみ

(1)ライセンスすることを拒絶する

(2)他のライセンシーと比べてライセンス料を著しく高くする

(3)規格の利用範囲を制限するなどの差を設ける

ことは、差別を受ける事業者の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼす場合には独占禁止法上問題となるおそれがある(私的独占、共同の取引拒絶等)。

(2) 研究開発の制限

ア ライセンシーに対して、規格技術又は競合する規格についてライセンシーが自ら又は第三者と共同して研究開発を行うことを制限することは、競争が制限されるおそれがある(私的独占、不当な取引制限等)。

イ 少数の者が非公開で規格に係る技術を新たに開発するなど、規格の策定の態様が実質的に共同研究開発と認められる場合には、当該活動に参加する者が相互に規格技術や当該規格と競争関係に立つ規格を開発することを制限したり又は第三者と共同で開発することを制限したりすることが、当該活動を円滑に進める上で合理的に必要な範囲の制限と認められる場合もある(注14)。

しかしながら、このような場合であっても、規格が策定された後に、パテントプールを通じてライセンスする際に、ライセンシーの研究開発を制限することには何ら合理的な必要性があるとは認められず、独占禁止法上問題となるおそれがある(事例6)

(注14) 共同研究開発ガイドラインでは、以下は問題なし。

[1] 共同研究開発のテーマと同一のテーマの独自の又は第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること。

[2] 共同研究開発のテーマときわめて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること。

[3]共同研究開発終了後の合理的期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること。

(3) 規格の改良・応用成果のライセンス義務(グラントバック)

ア グラントバックは、技術市場における競争を制限するおそれ

イ ライセンシーによる改良・応用の成果が必須特許となる場合にライセンシーに対してグラントバックの義務を課すことは、

①必須特許に限り、

②非独占的であり、

③ほかに自由な利用を制限するものではなく、

④ライセンス料の分配方法等で他の当該プール参加者に比べて不当に差別的な取扱いを課すものでないと評価される場合

は、通常は独占禁止法上問題となるものではない。(事例7)

(4) 特許の無効審判請求等への対抗措置(不争義務)

ア ライセンシーに対して不争義務〔特許の有効性を争わない義務〕を課し、違反した場合にはライセンス契約を解除することは、ライセンシーの事業活動に及ぼす影響が大きい。

イ したがって、不争義務を課し違反の場合ライセンス契約を解除する旨を取り決めることは、独占禁止法上問題となるおそれがある(共同の取引拒絶)。

他方、規格に係る特許の有効性について争われた場合に、パテントプールへの参加者のうち無効審判請求を起こされた特許権者のみが、当該特許をパテントプールから外すことなどにより、争いを起こしたライセンシーとの契約を解除することは、ライセンシーがライセンスされた特許の有効性について争う機会を失うとは認めにくいことから、通常は独占禁止法上問題となるものではない。(事例8)

(5) 他のライセンシー等への特許権の不行使(非係争義務)

ア ライセンシーに非係争義務〔ライセンシーが有し又は取得することとなる全部又は一部の特許等について他のライセンシーに対して権利行使しない義務〕をを課すことは、技術市場における競争が実質的に制限されるおそれがある。(私的独占、不当な取引制限)

イ 制限の態様が、

①必須特許(注17)に限り

②当該プールに非独占的にライセンスすることを義務付けるものであり、

③ほかに自由な利用を制限するものではなく、

④ライセンス料の分配方法等で他のプール参加者に比べて不当に差別的な取扱いを課すものでないと評価される場合

は、通常は独占禁止法上問題となるものではない。(事例9)

2017年8月31日 (木)

平成28年度相談事例集について

平成28年相談事例集について、気が付いたことをメモしておきます。

総じて、今年の事例集は、なかなか踏み込んだ、実務上参考になるものが多かったように思います。

あたりさわりのない事例ばかりを公表することもできるわけですから、公取委がこういう踏み込んだ事例を積極的に公表すること自体、高く評価されるべきことだと思います。

■事例1

この事例は、メーカーによる再販売価格拘束が、メーカーが売れ残りのリスクを負担していることを理由に問題ないとされたものです。

この問題については流通取引慣行ガイドラインで、

「① 委託販売の場合であって,受託者は,受託商品の保管,代金回収等についての善良な管理者としての注意義務の範囲を超えて商品が滅失・毀損した場合や商品が売れ残った場合の危険負担を負うことはないなど,当該取引が委託者の危険負担と計算において行われている場合

② メーカーと小売業者(又はユーザー)との間で直接価格について交渉し,納入価格が決定される取引において,卸売業者に対し,その価格で当該小売業者(又はユーザー)に納入するよう指示する場合であって,当該卸売業者が物流及び代金回収の責任を負い,その履行に対する手数料分を受け取ることとなっている場合など,実質的にみて当該メーカーが販売していると認められる場合」

という2つの場合については問題ないとされていましたが、①(委託販売の例外)が「委託販売」と明記しているために、委託販売ではない通常の売買の場合にはどうなるのかが、必ずしも明らかではありませんでした。

(これに対して②(直接交渉の例外)は、消費者向け商品の場合にはそもそも使えませんでした。)

この相談事例は、法律上は通常の売買であっても売れ残りリスクをメーカーが負担するのであれば①の委託販売の例外にあたるとして、①を少し広げたものです。

これまでの実務でも、リスクを負えば売買でも問題ないとされていたと思いますし、私もそのようにアドバイスしていましたが、この点をはっきり示したことはたいへん有意義なことだと思います。

というのは、実務では、100%はっきりしないと、相対的にリスクの低い方法をとる、というクライアントもいます。

つまり、売買でも問題ないといっても、では委託販売と比べてどちらがリスクが低いかと問われて委託販売のほうがリスクが低いというと、企業としては委託販売のほうを選択する、ということもあったのです。

これからはそのような微妙な相対的リスクの差異を気にすることなく、堂々と売買でいけることになった意義は大きいと思います。

■事例2

この事例は、競合メーカー8社による基礎研究の共同研究が問題ないとされたものです。

結論、説明とも、特に問題はないと思います。

■事例3

この事例は、シェア30%(2位)のメーカーが、共同開発のパートナーに対して、低価格機種を販売する特定の4社にだけ5年の販売禁止(その他は3年)を課したことが不平等だから問題だ、としたものです。

これは、理屈も結論も問題があると思います。

まず、3年と5年という差を設けたのがいけないといわれると、では一律に5年ならいいのか、という疑問がわきます。

回答では、

「制限期間に差を設けることに特段の合理的な理由がみあたらない」

とされていますが、差を設けることに特段の合理的理由が常に必要だというのもおかしな話です。競争が制限されていなければいいはずだからです。

そこで競争制限の点については、回答では、

「〔共同開発された〕技術αを用いた装置a1が低価格機種にも広く使用される状況になれば,

当該装置のコスト削減効果は競争上重要なものとなることが考えられ,

低価格機種の販売を主力とする4社がそれ以外の家電製品Aのメーカーよりも更に2年間使用を制限されることは,

4社の取引の機会を減少させ,

技術αを用いた家電製品Aの販売市場における競争が阻害されるおそれがある」

と述べられていますが、いまひとつ意味がわかりません。

前提として、装置a1には、競合する装置a2というのがあって、

「家電製品Aには,製品の主要な機能を実現するための装置として,装置a1又は装
置a2が内蔵されている。

装置a1は,装置a2より高性能かつ比較的高価であるために高価格機種に用いられることが多い。

他方,装置a2は,装置a1より性能が劣り,比較的安価であるために低価格機種に用いられることが多い。」

ということらしいので、これまでは低価格機種には使用されていなかったのに、今後は使用されるようになる、という意味だと思うのですが、べつに従前の装置a2が使用できなくなるわけではないのです。

もっと具体的に、低価格機種に装置a1の採用が進まないことが競争にどのような影響があるのか(どのくらい「4社の取引の機会を減少」させるのか)を認定しないと、たんに3年と5年という期間のちがいだけで違法になるといっているのと変わらないと思います。

装置a1が低価格機種の競争に不可欠となるとは述べられていませんし、ひきつづき装置a2を使用することは何の問題もないわけです。

そして、おそらく装置a2を使用し続けていても、低価格機種は今までどおり売れ続けるのではないでしょうか。

理屈の上では、装置a1の導入によって高価格機種の価格が下がり、相対的に低価格機種から高価格機種に需要がシフトする、という可能性はありますが、ほんとうにそう単純にいえるのかは、よくよく事実関係をみないとわからないと思います。

想像するに、高価格機種と低価格機種というように分かれている家電製品をイメージすると、高価格機種向けの部品のコストが下がったからといって、高価格機種が低価格機種に食い込むほど価格を下げることはむしろ自殺行為であり、あんまり考えられないんじゃないかという気がします。

そのようにいろいろと想像をめぐらすと、公取の理屈は、たんに、「価格が下がったら低価格機にも採用が広がるだろうから、供給してあげなさい」といっているようにしかみえず、露骨に敵に塩を送ることを強制しているようにみえます。

競争者の不当な排除を禁止すること(競争分析)と、競争者に塩を送ることとのちがいは時に微妙ですが、それだけに、たんに不平等だからよくないというのではなく、説得力のある理由付けが必要だと思います。

まあ、あえて低価格機種の4社にだけ制限を長くするということは、性能の良い装置a1が安価で4社に供給されると、安くて性能は変わらない競合商品が出回って困る、とこの家電メーカーは考えたのだろうと想像はできますが、そのあたりの事情については、

「〔家電メーカー〕X社は,装置a1の製造コストが1割程度削減できると見込んでいる。そのため,X社は,技術αを家電製品Aの低コスト化を実現する非常に重要な技術であると考えている。」

というだけで、部品である装置a1の製造コストが1割下がることで、肝心の完成品である家電製品Aのコストがどれくらい下がるのかは不明です。

というわけで、この回答は悪しき平等主義で、私は反対です。

形式的平等主義は、判断は容易になりますし、私も一概にそのメリットは否定しませんが、素人でも簡単に判断できるような基準を採用し続けると、よくいわれる公取委の専門性というのにも疑問符が付くと思います。

この手の相談を受けると、

「事前相談にいったらダメと言われるかもしれないけど、理屈の上では正当な反論はいくらでもできるし、摘発されるおそれはほとんどないから、別にいいんじゃないですか」

というものが多いのですが、本件も、そんな感じがします。

この事例で参考になるのは、販売制限の合理的期間を決めるのに、投資回収の期間が3~5年であることが明示的に考慮されていることです。

回答でも引用されている共同研究開発ガイドラインの該当部分では、

「成果であるノウハウ〔技術α〕の秘密性を保持するために必要な場合に、

合理的な期間に限って、

成果に基づく製品の販売先について、

他の参加者又はその指定する事業者に制限すること」

は原則として問題ないとされており、さらに、

「「合理的な期間」は、

リバース・エンジニアリング等によりその分野における技術水準からみてノウハウの取引価値がなくなるまでの期間

同等の原材料又は部品が他から入手できるまでの期間

により判断される。」

とされているものの、「等」が何を指すのかはっきりしませんでした。

今回の回答は、この「等」に、投資回収期間が含まれることを明らかにしたといえます。

そしてこのことは、共同研究開発のインセンティブを確保するという意味で、妥当なものなのでしょう。

しかも、回答では、ノウハウの機密性保持ということは、とくに要求されていないようにみえます。これは企業に朗報です。

というのは、ガイドラインでは、白条項となるためには、

成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の販売先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること」

とされており、ノウハウの機密性保持の必要性があることが要件とされていて、もしこの要件がないと、灰条項になってしまったからです。

今回、灰条項という位置づけ自体は変わらないのでしょうけれど、投資回収の必要性だけで3年間の制限がほぼフリーパスで認められたというのは、投資回収に必要な期間であればほとんど白条項と言っているに等しいわけで、かなり踏み込んだ(そしてこの点については妥当な)判断だと思います。

ただ、少し考えてみると、

原則3年、4社には5年

というので投資回収できるなら、低価格機種からの競争も考慮すれば、

一律4年

ではじめて投資回収できる、ということもありうるでしょう。

それなのに今回の回答だと、

一律3年

を義務付けているようで、投資回収期間を合理的期間の考慮要素とすることと矛盾するような気もします。

ただ、今回の回答は一律3年を義務付けているのではなく、一律4年とか、一律3年半とかでもOK、というふうによむのが妥当かもしれません。

それと、投資回収期間というのも、理屈の上ではいろいろと微妙な問題をかかえていて、販売制限をかけられる側からすれば、

「4社に売っちゃいけないなら、その分、たくさん買ってよ」

あるいは、

「おたくの買取価格を上げてよ」

といいたくなるところであり(制限を受ける側はそのぶんの補償を求める、というのが垂直制限のいろいろな経済モデルの当然の前提になっています)、当事者間の合理的な交渉にゆだねると、販売制限の強弱が制限をかける側の投資回収期間にはね返ってくる可能性があります。

というわけで、投資回収期間はどういう前提での期間なのか(独禁法で制限を禁止することによって、回収期間が延びるのか、短くなるのか)、ということにも目を配らないといけません。

もっと一般的にいえば、垂直制限の競争制限効果をみるには、利害関係の相反する当事者の行動がその制限を許した場合と禁止した場合とでどう影響を受けるのか、それによって結局消費者は利益を受けるのかどうか、をみないといけません。

このように、垂直制限の排除効果については考えないといけないことがたくさんあるのです。

ともあれ、ノウハウの機密性保持の必要性がなくても投資回収見込みという漠然とした(公取からみればブラックボックスの)事情が明示的に認められたということは、ノウハウの機密性保持という観点から説明しにくい場合でも実務上3年くらいの制限はたぶん問題ないということになるだろう、といえそうです。

■事例4

この事例では、シェア15%のサービス業者が、共同研究のパートナー(メーカー)に、競合サービス業者への販売を禁止することが、問題ないとされました。

この事例では、さっそく流取ガイドラインのセーフハーバーの20%への引き上げが利いています。

ただ、これを先ほどの事例3と比較すると、事例3は相談者が市場シェア30%だったためにセーフハーバーが適用されなかったわけで、仮にシェア20%だったら低価格機種の4社にだけ5年の販売制限を課しても問題なかったことになるのではないか、ということが浮き彫りになります。

さらにいえば、シェア20%なら、永久に販売を制限しても問題ないわけですから、3年がどうの5年がどうのという議論すら起きないはずです。

そう考えると、セーフハーバーが適用されるかどうかで天と地との違いが生じ、はたして事例3の形式的平等論が合理的なのか(もっと競争への影響をちゃんとみないといけないんじゃないか)、という疑問がわいてきます。

■事例5

この事例は、原料αが不足する場合に競争者間で相互供給することが適法かどうかが現時点では判断できない、と回答した、ちょっと変わった回答です。

でも、判断できない理由として、

「現時点において〔競争者で相互供給する〕部材Aの市場が確立しておらず」

ということがあげられていますが、だから緊急時以外の判断はできないというなら、なぜ緊急時については問題ないと判断できるのか、今一つよくわかりません。

たしかに緊急時以外(平時)の相互供給まで認めると、ピークロードを見越した設備投資が行われなくなるんじゃないかとか、いろいろな問題はありうるでしょう。

そういう意味で、本来は現時点では判断できないと突っぱねてもよかったものを、緊急時のものだけは明示的に回答した、ということで、評価すべき回答なのかもしれません。

■事例6

この事例は、シェア30%(2位)の会社が生産をやめてシェア50%(1位)の会社からOEM供給を受けることが問題ないとされた事例です。

当事者のシェアだけみるとぎょっとしますが、ポイントは、はるかに売上の大きい競合品が存在する、ということです。

なので、一般的にシェア50%と30%の会社間で同様のOEMが許されるということは、この回答からはいえないと思います。

■事例7

競争者間の共同配送の事例です。とくに問題ないと思います。

■事例8

特定の区間でシェア8割の旅客運送業者2社がその区間で共通回数券を発行することが独禁法違反だとされた事例です。

それまで2社複占だったのに新規参入があったためにシェアを2割失ったという背景からすると、むしろ新規参入者を共同で排除しようとしている事例なんじゃないかという気もしますが、回答では、あっさりカルテルということで違法とされています。

結論は違法でもしかたないかなと思いますが、路線バス(ではないかもしれませんが)の場合には、今きた来たバスにすぐ乗れる(同じバス会社の次の便を待たなくてもいい)、という利便性というものはあるような気がします。

その場でチケットを購入するなら、来た方の会社のチケットを買えばいいので、そういう問題はないのですが、前売り回数券の場合はそういうわけにもいきません。

そんな場合、お値段は少々高めでもいいから、共通回数券があればいいのになあ、と思うこともありえます。

今回の相談も、そういう内容だったら(つまり、単独の回数券と、共通回数券を併存させるなら)、ひょっとしたらOKの可能性もあるかもしれません。

でも回答では、

「本件区間において合算で8割の運行本数を占める2社が,両者の運行便をいずれも利用できる同一運賃の共通回数券を導入することは,2社が共同して対価を決定することにほかならず,本件区間における旅客輸送事業の取引分野における競争を実質的に制限するものであり,独占禁止法上問題となる。」

と、バッサリと切り捨てられています。

共通回数券と、通常の1回限りのチケット(場合によっては単独回数券)が併存することも、考慮されていません。

そのあたりも考慮した回答(というより相談)がなされていたら、もっとおもしろい事例になったと思います。

ところで、共通回数券という設定から、米国の有名なアスペン事件(アスペン地方の3つのスキー場を所有する1社ともう1つのスキー場を所有する1社との間で従来共通リフト券を発行していたのに、3つのスキー場を保有する側があと1つのスキー場を共通リフト券から排除したのが、シャーマン法2条に違反するとされた事件)を思い出した人も少なくないと思います。

アスペン事件は排除する側が1社(3つのスキー場を保有するとはいえ)だったので、本相談事例の共同行為とは性質がちがう、というのは一見正しいようで、正しくありません。

日本の私的独占でも米国の独占化でも、行為者は1人でもよいというだけで、2人以上であっても私的独占または独占化は成立しうるからです。

ただ排除側が複数の場合、日本でもアメリカでも、共同ボイコットで訴えたほうが被排除者の勝てる確率がぐっと上がるので、行為者複数の単独行為(?)は事実上問題にならないにすぎません。

といういう発想から行くと、本相談事例でもし、アスペン事件の共通リフト券のように、バス会社(かどうかわかりませんが)3社が共通回数券を発行したらカルテルになったのか?というのは、アスペン事件を知るものからすると、とても興味深いところです。

というのは、本相談事例でそれがカルテルだというなら、アスペン事件の共通リフト券も実はカルテルだったんじゃないか、と思えてくるからです。

(ただ、おぼろげな記憶ですが、この点は米国でも論点になりつつも、共通リフト券は消費者の利益になるんだからいいんだ、という議論があったような気がします。)

もし本相談事例が少し形を変えて、

「2社で共通回数券を発行しようとおもうんだけど、新規参入者がそれに入れてくれと言ってきたら断っていいか?」

という相談だったとしたら、案外、

「それは共同ボイコットだからだめです。3社目も入れてあげなさい。」

という回答になったかもしれません。

少なくともアスペン事件が頭に染みついていると、そういう発想になるような気がします。

あるいは、こういう相談だったら、共通回数券を発行することの競争促進効果などにも目が配られ、回数券以外のばら売りのチケットが存在することなどにもう少し光が当たったかもしれません。

まあ実際には、現状では回数券は11枚つづりで10枚分、のような価格設定が多いでしょうから、回数券が共通化されたらばら売り券の価格も共通化されるおそれがあるんじゃないか、とかいろいろな懸念が浮かぶであろうことは理解できます。

しかし、それでも、杓子定規に「競合会社が共同して価格設定をするのはカルテルだからダメ」と切り捨てると、事業者のクリエイティブな(そして消費者にメリットのある可能性のある)価格設定を阻害することになるのではないかと思います。

とくに本件のように、露骨にカルテルをしようとして共通券を発行しようとしているのではなく、新規参入者に対抗(競争)しようとしている場合には、外形だけからカルテルだと認定するのは単純すぎで、もう少していねいに考えたほうがいいと思います。

以上、アスペン事件からの連想でいろいろ考えてみましたが、あえてアスペン事件と本相談事例の違いを考えてみると、

アスペン事件の場合は共通リフト券なので複数のスキー場を利用してみようというぶん、需要がふえる効果がある(全体のパイも増える)

のに対して、

バスの回数券では、共通回数券だからと言って1度ですむものをわざわざ2度乗車しようとする人はいないんじゃないか(全体のパイは増えない)

という違いがあるかもしれません。

ともあれ本相談事例ではカルテルだと断定してしまったので、新規参入者の排除の点を問題視することは困難と思われます(排除を問題にするということは、3社でカルテルすることを強制することになるので)。

あと細かいことですが、本相談事例では、既存事業者の合計シェア8割ということになっていますが、これはあくまで便数のシェアであり、売上シェアではありません。

でもこれは、売上シェアをみるべきだったのではないかと思います。

とくに本件では新規参入者が便数で2割のシェアを取っており、新規参入者は既存事業者よりも低い価格で参入した可能性もある(事例集の記載からはわかりませんが、通常はそうでしょう)ことからすると(事例集にも、「2社の運行便の利用者数は減少傾向にある」と述べられています)、既存事業者の市場支配力を測るためにはなおのこと、正面から売上シェアをみるべきだったように思います。

■事例9

事業者団体がオンラインゲームのアイテムが出る確率を明示すると話題になった、あの事例ですね。

たいへん結構な取り組みだと思います。

取引条件がわからないようにしてわくわくさせるというのはまともな競争ではありませんから、このような取り組みは、むしろまともな競争を促進するといえるでしょう。

できれば、これくらい意義のある取組なら会員に強制してもいい(違反者は退会させるなど)、というところまで踏み込んでほしかったです。

■事例10

事業者団体によるエネルギー消費量の表示方法統一の自主基準が問題ないとされた事例です。

表示方法がさだまっていないと需要者による比較が困難になるので、こういった取り組みは競争を促進するといえます。

この事例でも、会員に強制するものでないことが、問題ない理由としてあげられていますが、強制されなくても自主基準があるということ自体で相当の効果が期待できるので、競争政策の観点からもこれで十分なのでしょう。

■事例11

事業者団体が、品質保持の観点から、運搬時間の目安をこえる地域への販売を禁止することが、問題だとされた事例です。

品質保持の観点からの必要性はある程度認められるものの、関係者が作った基準でも、メーカーと需要者の協議で基準を超える販売がみとめられていた、というのが決定的でしょうね。

もしそういう例外的取扱いが認められていなかったら、けっこうおもしろい事案になったんじゃないかと思われます。

■事例12

農協がビニールハウスを農家に貸し出すときに、農協への最低出荷量を義務付けることが、独禁法違反のおそれがあるとされた事例です。

回答に引用されている農協ガイドラインでも、

「単位農協が自ら事業主体として行っているビニールハウスのリース事業について,組合員がリース事業を利用するに当たっては,使用する肥料,農薬その他の生産資材を単位農協から購入することを義務付けること」

というのが問題行為としてあげられており、ほぼこれにあたります。

回答やガイドラインが引用する排他条件付取引や拘束条件付取引では、競合他社(相談事例でいうところの「商系業者」)がどれくらい影響をうけるのかを見る必要がありますが、同じく引用されている抱き合わせには優越的地位の濫用的なものも混じっており、回答もガイドラインも「余儀なくさせる」という優越的地位の濫用の常套句を使っていることからすると、やはり、農家への圧迫だけで違法になり、競合他社への影響は見る必要がない、というのが公取の立場なのかなぁという気がします。

でも、ガイドラインが優越的地位の濫用を引用していないことは、なんでもかんでも濫用だとみられる現在の状況からすると、いさぎよいと思います。

2017年8月29日 (火)

原材料の産地の不当表示と原産国告示

村田園の万能茶に対して、原材料が国産であるかのように偽ったとして優良誤認表示として措置命令がなされましたが、これをみて、

「どうして原産国告示ではなく優良誤認なんだろう?」

と疑問を持たれた方はいないでしょうか。

理由は簡単で、原産国告示はあくまで商品そのものが国産か外国産かを偽るものだからで、原材料の産地を偽るものではないからです。

念のため原材料告示を確認すると、同告示1項では、

「国内で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、

その商品が国内で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの」

を不当表示であるとしており、(原材料ではなく)「商品が」国内で生産されたことを認識できない表示(≒外国産だと偽る表示)が規制対象です。

同じく告示2項でも、

「外国で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、

その商品がその原産国で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの」

が不当表示であるとされており、その規制対象は(原材料ではなく)「商品が」その原産国で生産されたものであることを判別困難にする表示の(≒日本を含む別の国で生産されたと偽る表示)です。

村田園の事件では、結論には関係ないので措置命令では明記されていませんが、万能茶という商品そのものについては日本で作っていたのでしょうね。

ちなみに原産国告示の定義の運用細則では、緑茶や紅茶の原産国は荒茶の製造をした国だとされているので、万能茶の場合も荒茶(ないしは荒茶に相当するもの)を作ったのが日本であれば、日本が原産国になります。

整理すると

商品そのものの原産国の虚偽表示→原産国告示違反

原材料の産地の虚偽表示→優良誤認表示

ということになります。

ただそうすると、課徴金は原産国告示違反にはかからないので、全体である商品そのものの産地偽装には課徴金がかからないのに、一部にすぎない原材料の産地偽装には課徴金がかかる、という、ちょっとバランスの悪いことになります。

ただこの点については、理論的には、「著しく優良と誤認」などの要件をみたすかぎり、商品そのものの産地偽装に優良誤認表示を適用することも可能だと考えられるので、原産国告示違反だからと高をくくっていると優良誤認でやられてしまう、という可能性もないではないと思います。

もし将来、上でのべたようなアンバランスな事態が発生したら、消費者庁があえて原産国告示を使わず、優良誤認で課徴金をめざす、あるいは、原産国告示と優良誤認を併用する、ということもありえないことはないんじゃないかと思います。

なお、原産国告示でいく場合と優良誤認でいく場合とで、措置命令の内容も異なることになるんじゃないかと思われます。

というのは、原産国告示の場合には、原産国が判別できない表示が不当表示ということになっているので、措置命令では、原産国が判別できるようにすることを命じられます。

たとえば最近のボーネルンドに対する措置命令では、

「実際には、本件16商品の原産国は中華人民共和国であったこと」

の一般消費者への周知が命じられています。

つまり、措置命令では、イギリスなどの国旗と国名を表示していたことについては、そのような国旗と国名を表示していたことを周知すればよいということになっているのですが、肝心の産地については、イギリス産ではないと周知するのでは不十分で、中国産と周知しなさい、というように明記されています。

これに対して優良誤認であった村田園に対する措置命令では、原材料が「外国産」であったこと(つまり、表示どおりの国産ではなかったこと)の周知は求められていますが、原材料の具体的な産地を周知することまでは求められていません。

優良誤認で行く場合も、たんに消極的に国産ではないというだけでなく、積極的に具体的な原産地まで周知することまで求めることも景表法上は可能なんじゃないかという気がしますが、少なくとも現在の運用はこうなっているということは知っておいてもいいんじゃないでしょうか。

2017年8月23日 (水)

比較広告ガイドラインの具体例の疑問

「比較広告に関する景品表示法上の考え方」

では、比較広告で主張する内容は客観的に実証されていなければならないとされていますが、その中に、

「実証は、比較する商品等の特性について確立された方法(例えば、自動車の燃費効率については、10モード法)がある場合には当該確立された方法によって、

それがない場合には社会通念上及び経験則上妥当と考えられる方法(例えば、無作為抽出法で相当数のサンプルを選んで、作為が生じないように考慮して行う調査方法)によって、

主張しようとする事実が存在すると認識できる程度まで、行われている必要がある。」

という説明があります(3(2))。

この前半の一般論の、

「比較する商品等の特性について確立された方法・・・がある場合には当該確立された方法」

によらなければならないというのはよいのですが、その具体例で「10モード法」(今ならJC08モードでしょうか)をあげているのは、ちょっと問題ではないでしょうか。

というのは、10モード法(JC08モードも)は、実際の燃費とはかなりのずれがあるからです。

もしこのガイドラインのように、燃費の比較は10モード法で表示しなければならないとすると、より実態に近い測定方法による比較はできない、ということにならざるをえませんが、それはおかしいでしょう。

この10モードへの言及については、不実証広告規制ガイドラインでも、

「自動車の燃費効率試験の実施方法について、10・15モード法によって実施したもの。」

というのが、

「表示された商品・サービスの効果、性能に関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法」

(2(1)ア)の具体例としてあげられていますが、これも、同様の理由で、不適切だと思います。

比較広告の場合と不実証広告の場合で何か違いがあるのかと考えてみると、比較広告の場合には、同じ条件、同じ方法で測定して比較しなければならないという要請があるので、業界で確立した方法以外を使うのはよくない、ということがあるかもしれません。

そうしないと、みんなが自分に都合のいい基準で比較しはじめて、収拾がつかなくなるからです。

でも私は、だからといって1つの測定方法を比較広告において強制しなければならないということはないんじゃないでしょうか。

たしかに、「比較」であることを重視しして、正確性(実燃費に近いこと)よりも、公平性(測定方法が確立していること)を重視する、という考え方もあるかもしれません。

しかし、

「うちは、JC08モードではライバルに負けるけど、実用燃費ではむしろ勝っている」

という広告をしたいことはあるでしょうし、その場合に比較広告で数値を載せたいこともあるでしょう。

その場合に、比較広告でJC08モード以外を使ったらいけないというのは、むしろ消費者に正しい情報が伝わらないことになって問題だと思います。

ちなみに最近の三菱自動車の燃費偽装の措置命令(平成29年1月27日)では、違反事実は、

「三菱自動車工業は、eKワゴン11商品を一般消費者に販売するに当たり、これらの各商品について、・・・

燃料消費率を別表・・・中の「表示内容燃料消費率JC08モード(国土交通省審査値)(㎞/L)」欄記載のとおり記載すること・・・により、

あたかも、国が定める試験方法に基づく燃費性能は、同各表「表示内容 燃料消費率JC08モード(国土交通省審査値)(㎞/L)」欄及び「表示内容 燃費基準達成状況」欄記載のとおりであるかのように示す表示をしていた。

というように認定されていて、JO08モードで測定されたように表示したけどそうじゃなかったということを問題にしています。

つまり、ずばり実際の燃費よりも優れていると表示していた、とは認定されていないんですね。

もしJC08モードが唯一ゆるされる燃費測定方法だとしたら、こんな認定にはならなくて、たんに、「燃費を実際より良く表示した」という認定になったはずです。

このことからも、消費者庁はJC08モードが唯一ゆるされる燃費測定方法だとは考えていないということがうかがえます。

そういうわけで、比較広告ガイドラインの10モードの言及はちょっと不用意というか、不適切だと思います。

ついでに指摘しておくと、このガイドラインにはちょっと面白いところがあって、同じく3(2)の「実証の方法および程度」のところに、

「例えば、一般に、自社製品と他社製品に対する消費者のし好の程度について、相当広い地域で比較広告を行う場合には、相当数のサンプルを選んで行った調査で実証されている必要がある。

これに対して、中小企業者が、味噲のような低額の商品について、一部の地域に限定して比較広告を行うような場合には、比較的少ない数のサンプルを選んで行った調査で足りる。」

という記載があります。

前半はよいのですが、後半は変じゃないでしょうか。

どうして中小企業の低額な商品ならサンプル数が少なくてもいいのでしょうか。まったく理解不要です。

あえて理由を考えれば、販売地域も販売数量・額も少ないので消費者への実質的な被害が少ないことが多い、ということかもしれません。

しかし、それは消費者庁が事件として取り上げるかどうかの判断をするときに考えればいいことで、実証方法が適切かどうかとは関係のない話だと思います。

ちなみに、このガイドラインの解説である

生駒賢治他「『比較広告に関する景品表示法上の考え方』について」(公正取引439号21頁・1987年)

では、比較対象商品を製造している者がパンフレット等の公表資料にのせている数値を使ってもよい(3(2))、としている理由について、

「なお、これは、特に中小企業に配慮して、比較広告が行いやすいように配慮したものである。」

と明言されています。

中小企業が味噌を売るという具体例についても、同じ発想ですね。

なにか政治的圧力でもあったんじゃないかと勘繰りたくなります。

ところで、よく考えてみると、比較広告ガイドライン3(2)の、

「比較対象商品等を供給する事業者がパンフレット等で公表し、かつ、客観的に信頼できると認められる数値や事実については、当該数値や事実を実証されているものとして取り扱うことができる。」

というのも、文字どおり受け取ると問題がおこりうると思います。

というのは、比較広告で用いる場合には、数字は同じ条件で測定する必要があります。

なので、ライバルのパンフレットに載っていた数字だからといってそのまま使う場合には、自社商品の数値も、ライバルと同じ方法で測る必要があるはずだからです。

でも一般的には、ライバルのパンフレットには細かい測定方法までは書いてないでしょう(せいぜい「自社調べ」くらいではないでしょうか)。

ここはガイドラインに良いと書いてあるから良いんだ、というのも一つの割り切りですが、私はそれはちょっと危ないと思います。

少なくともライバルから、「同じ測り方でないので不当だ」といわれたら反論できないと思います。

とくに、業界で確立された測定方法がないときに問題です。

ふつうの広告であれば、測定方法が2つあって、どちらもそれなりに正しく、だけどどちらが絶対に正しいということがいえない、という場合であれば、どちらの方法でも優良誤認にはならないのでしょう。

けれど、比較広告の場合には、やっぱり基本的には、同じ測定方法でないといけないと思います。

(異なる測定方法でも結果としてウソにはなっていないという場合もあるでしょうから、異なる方法だと絶対にダメということもないのでしょうけれど。)

あるいは少なくとも、比較広告をする以上は同じ測定方法をめざすべきでしょう。

たとえば、ある会社のパソコンは、「1メートルの高さから落としても壊れない」と表示していたとします。

別の会社のパソコンは「2メートルでも大丈夫」と表示していたとします。

でも、このような別々の広告がある場合に、この2つのメーカーのテストの仕方がおなじだという保証はありません。

それでも、パソコンの落下テストについて業界で確立された唯一の方法がない以上は、いずれのやり方も景表法上許される可能性は大いにあります。

そして、それぞれの会社が、それぞれ合理的なやり方でテストして、自社の広告を打つかぎりは、いずれも不当表示とはいえないのでしょう。

けれど、それを比較広告でやる場合には、消費者は同じ条件でテストしたのだと思うでしょうから(それが比較広告の特徴でしょう)、やっぱり同じテスト方法でないとまずいんじゃないかと思います。

2017年8月22日 (火)

独禁法相談雑感

「こういうビジネス(あるいは契約)をしようと思うんですが、独禁法上問題ないでしょうか?」

という相談を受けることは多いですが、ふりかえってふと感じたのは、最初に話を聞いた時には「これはまずそうだなぁ」と思ったものが、いろいろ詳しく聞くと問題ない、ということが多いことです。

反対に、最初聞いた時には問題なさそうだったけれど、詳しく聞くと問題ありそうだ、という結論になったことは、ずっと少ない印象です。

たとえば、市場に2社しか競争者がいなくて(しかも代替品もない)、相互にクロスライセンスをして国際的市場分割をしたい、なんていう話を聞くといかにも問題がありそうですが、詳しく話を聞くと問題ない、という結論にいたったこともあります。

ほかには、エレベーターの補修部品の供給停止に似たような相談があって、これはだめだろうなぁという第一印象で詳しく話を聞いたら(実際、そのクライアントの方が最初に意見を聞いた弁護士さんは東芝エレベータ事件を根拠に違法だという意見でした)、エレベーターとはぜんぜん事情が違うことが分かり、問題ないという結論にいたったこともあります。

なぜこういうことが多いのかを考えてみると、現実の世界では、案外、市場支配力が生じることは少ないからなんじゃないか、と推測しています。

外形上、典型的な独禁法違反にみえる事実関係(たとえば競争者間で協調して生産調整する)であっても、よくよく話を聞いてみると、市場支配力の獲得・維持・行使とは関係ない、ちゃんとした(つまり、お客さんのためになる)ビジネス上の理由というのがあったりします。

また、市場支配力が生じることが実際にはそんなに多くないということの裏返しですが、企業がわざわざ市場支配力の獲得をめざして協調とか提携をすることってあんまりなくて、実際には、競争を生き残るために(競争するために)やっていることが多いのではないか、という印象をもっています。

もちろんビジネスですから、ある程度の市場支配力はみなめざします。

典型的なのは、先行者利益です。

でもたんなる先行者利益が独禁法上問題とされることはあまりありません。

そのような利益は独禁法がわざわざ介入しなくてもいずれ競争でなくなってしまいますし、ある程度の先行者利益がないと競争のインセンティブが湧かないからです。

そうではなくて、競争者で手を組んで独占利潤を得ようというのは、公共入札での談合のような一定の場合をのぞき、ビジネスの世界ではあまりないし、やろうとしてもうまくいかない(よって、やってみようとすらしない)のではないか、と思います。

またこのように、一見ダメそうだけど実はOKという事案が独禁法にはけっこう多いので、弁護士はよくよく選ばないといけません。

残念ですが、ビジネス弁護士に限ってみても、独禁法がほんとうにわかっている人って、ほんのわずかです。

「独禁法やってます」という看板を掲げている弁護士さんでも、基本的なものの考え方までわかっている人はどれだけいるのか、私は疑問だと思っています。

たとえば独禁法をちょっと勉強したことのある(あるいは相談を受けて勉強し始めた)だけの弁護士さんが、東芝エレベーターとそっくりな事実関係の相談を受ければ、きっと適法という意見は出せないと思います。

やはり、競争法の根本的な考え方がわかっていないと、独禁法は正しい答えが出せません。

たとえば東芝エレベータ事件の判決を読んでも、その業界での競争状況を所与の前提として議論が進んでいるので、別の業界にあてはめたらどうなのかということは、同判決の判例評釈を読んでもわかりません。

もっと根本的な理解が必要なのです。

脱線したので話を戻すと、ダメそうでも案外大丈夫なことが多い理由の1つめの仮説が、さきほど述べたとおり、市場支配力が生じることは案外少ないのではないか、ということです。

ですが、もう1つ思いあたる理由があります。

それは何かというと、弁護士に相談に来る時点ですでに事件が絞られているのではないか、つまり、相談に来ている時点で母集団に偏りがあるのではないか、ということです。

排他条件付取引とか拘束条件付取引とかは、教科書にも載っているので、いかにも法務担当者のアンテナにひっかかりそうですよね。

でもそういうのはOKであることが多いのです。

問題は、アンテナに引っかからない行為です。

以前、法律相談を受けるのとは全然関係なく、ある有力企業が、ベンチャーなんかが競合技術を開発していると知ると、その技術をどんどん買収していた、という話をたまたま聞いたことがあります。

で、その技術をどうするのかというと、そのまま塩漬けにするんですね。

お金を出して買ったものを塩漬けにするなんてありうるのか?と考える人もいるかもしれませんが、競合技術が市場に出てきて競争が活発化して困る既存企業は、よくこういうことをやります。

こういう行為は独禁法の教科書には載っていませんが、私はかなり危ないと思っています(企業結合規制違反)。

技術を塩漬けにしているので効率性はまったくないですから、そういうものにお金を出しているということは、まさに市場支配力の維持のために対価を払っているという強い推認がはたらくように思われます。

でもそういう行為は典型的な独禁法違反として教科書にも載っていないので、そもそも法務担当者のアンテナにも引っかからないのでしょうね。

まとめると、

外形上独禁法違反っぽくても、案外大丈夫なことが多い

外形上は独禁法違反にならなさそうでも、違反になることはある

ということです。

2017年8月10日 (木)

刑事告発の基準

どのようなカルテル・談合事件が刑事訴追(犯則調査)の対象になるのかについては、公正取引委員会の、

「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」(告発指針)

という文書に、

「公正取引委員会は、

ア 一定の取引分野における競争を実質的に制限する価格カルテル、供給量制限カルテル、市場分割協定、入札談合、共同ボイコット、私的独占その他の違反行為であって、国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案

イ 違反を反復して行っている事業者・業界、排除措置に従わない事業者等に係る違反行為のうち、公正取引委員会の行う行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案

について、積極的に刑事処分を求めて告発を行う方針である。」

と、一応書いてはあるのですが、これだけでは正直、よくわかりません。

(しかも、私的独占の刑事告発なんてありえないのが誰の目にもあきらかなのに入っていたりして、いかにもうそっぽいです。)

そこで、過去に価格カルテル事件(つまり、入札談合ではないもの)で刑事告発されたもののカルテル対象売上額を、課徴金額から推計してみます。

カルテル対象売上が大きいと刑事告発になりやすいのではないか、反対に、あまり売上の小さいカルテルは刑事告発にはならないのではないか、と予想されるからです。

(入札談合についてはずすのは、緑資源機構のケースのような、対象売上が小さくても「大人の事情」で刑事訴追される外れ値的なものがあるので、参考にならないからです。)

まず、刑事告発された事件をみてみましょう。

■ベアリング事件(平成25年3月29日課徴金納付命令)

この事件では、課徴金の額は、

NTN・・・72億円

日本精工・・・56億円

不二越・・・5億円

(3社合計・・・134億円)

です(数字は1億円以下四捨五入。以下同じ)。

審決集に載っているNTNの納付命令によると、同社のカルテル実行期間とその間の売上は、

産業機械用軸受

平成22年9月10日~平成23年7月25日まで(約11か月)

387億円

自動車用軸受

平成22年7月30日~平成23年7月25日まで(約12か月)

337億円

です。

つまり、おおよそカルテルの期間は1年間、売上は724億円(課徴金の10倍)となります。

これから他の2社の日本精工と不二越の売上を推測すると、

日本精工・・・560億円(課徴金56億円の10倍)

不二越・・・60億円(課徴金6億円の10倍)

となりそうですが、この2社は減免申請をして30%の減額を受けているので、0.7で割り戻して、

日本精工・・・800億円

不二越・・・86億円

となり、3社の売上合計は1610億円と推測されます(期間は1年)。

■溶融亜鉛めっき鋼板カルテル事件(平成21年8月27日課徴金納付命令)

この事件で排除措置命令をうけた3社の課徴金額は、

日鉄住金鋼板・・・63億円

日新製鋼・・・55億円

淀川製鋼所・・・37億円

(3社合計・・・155億円)

です。

本件では、「GL鋼板の店売り取引」(以下「GL鋼板」)、「軽天メーカー向けGI鋼板のひも付き取引」(以下「GI鋼板」)と、「建材製品製造業者向け特定カラー鋼板のひも付き取引」(以下「カラー鋼板」)の3つについて課徴金が課されています。

審決集に載っている日鉄住金鋼板のGL鋼板の納付命令によると、同社の違反期間は平成15年9月6日から平成18年9月7日まで(上限の3年)です。

売上は、平成18年1月4日(課徴金算定率を6%から10%に引き上げる平成17年改正の施行日)よりも前の売上が577億円、施行日後の売上が191億円、合計768億円です(対応するGI鋼板の課徴金額は38億円)。

これをもとに審決集には載っていないのこりの2社のGL鋼板の売上を推測すると、

日新製鋼・・・640億円(課徴金32億円の20倍≒768億÷38億)

淀川製鋼所・・・320億円(課徴金額16億円の20倍)

となり、GL鋼板の3社の売上は1728億円となります。

GI鋼板については淀川製鋼所の納付命令が審決集に載っていて、それによると、同社のカルテル実行期間は平成15年10月1日から平成18年9月6日(約2年11カ月)で、課徴金引き上げ前の売上が215億円、引き上げ後の売上が54億円、合計269億円です(対応する課徴金額は13億円)。

これから他の2社の売上を推計すると、

日鉄住金鋼板・・・240億円(課徴金12億円の20倍(≒269億÷13億))

日新製鋼・・・160億円(課徴金8億円の20倍)

となり、結局、GI鋼板の3社合計売上は、669億円です。

カラー鋼板については日新製鋼の納付命令が審決集に載っていて、それによると、同社のカルテル実行期間は、平成16年4月1日から平成18年9月6日まで(約2年5か月)です。

そして、カラー鋼板の日新製鋼の売上は、改正前が135億円、改正後が43億円、合計178億円です(対応する課徴金は15億円)。

これから残りの2社の売上を推計すると、

日鉄住金鋼板・・・156億円(課徴金13億円の12倍(≒178億÷15億))

淀川製鋼所・・・96億円(課徴金8億の12倍)

となります。

よってカラー鋼板の3社合計売上は、430億円です(実行期間は2年5か月)。

以上より、溶融亜鉛めっき鋼板カルテル事件の全売上は、1728+669+430=2827億円、となります。

■ダクタイル鋳鉄管カルテル事件(平成11年12月22日課徴金納付命令)

この事件では、クボタ、栗本鐵工所、日本鋳鉄管の3社が課徴金を受けていますが、審決集に載っているクボタに対する納付命令によると、同社の実行期間は平成8年8月20日から平成9年3月31日まで(約7か月)です。

そして、クボタの売上は、554億円です(対応する課徴金は33億円)。

これをもとにほかの2社の売上を推測すると、

栗本鐵工所・・・238億円(課徴金14億円の554÷33≒17倍)

日本鋳鉄管・・・85億円(課徴金5億円の17倍)

となり、3社合計売上は、554+238+85=877億円となります。

・・・・・・・

では次に、比較的売上が大きいのに刑事告発にならなかったカルテル事件として、段ボールカルテル事件と自動車運搬船カルテル事件をみてみましょう。

■段ボールカルテル(平成26年6月19日課徴金納付命令)

この事件では、商品が、段ボールシート(シート)、段ボールケース(ケース)、大口ユーザー向け段ボールケース(大口ケース)、の3種類あります。

まずシートからみてみましょう。

審決集に載っているレンゴーの納付命令によると、同社のシートの実行期間は平成23年10月25日から平成24年6月4日(約7か月)で、その間の売上は62億円です(対応する課徴金は6億円)。

この事件は違反者が多いのでぜんぶまとめると、課徴金対象事業者48社に対する課徴金額は32億円なので、合計売上は32×62÷6≒320億円と推計できます。

次に、ケースについては、審決集のレンゴーの納付命令によると、同社のケースの実行期間は平成23年10月17日から平成24年6月4日まで(約7か月)で、この間の売上は223億円です(対応する課徴金額は22億円)。

ここから全課徴金対象事業者60社のケースの売上を推計すると、820億円となります(対応する売上は82億円)。

次に、大口ケースについては、審決集に載っているレンゴーの納付命令によれば、同社の大口ケースの実行期間は平成23年11月1日から平成24年6月4日までです(約7か月)。

そしてこの期間のレンゴーの売上は134億円です。

なので課徴金は13.4億円になりそうですが、大口ケースについてはレンゴーが立入検査(平成24年9月19日)の1か月前に違反行為をやめており、実行期間が2年未満なので、独禁法7条の2第6項の適用をうけ、課徴金算定率が8%になって、課徴金が11億円になています。

ともあれ、すなおにレンゴーの売上から他の2社の売上を推計すると、

トーモク・・・60億円(課徴金6億円の10倍)

日本トーカンパッケージ・・・43億円(課徴金3億円の10倍、減免申請で3割減額されているので、0.7で割戻し)

となり、3社合計の大口ケースの売上は、134+60+43=237億円となります。

以上より、シート、ケース、大口ケースを合わせた全社総売上は、320+820+237=1377億円となります。

■自動車運搬船カルテル(平成26年3月18日課徴金納付命令)

この事件は、北米航路、欧州航路、中近東航路、大洋州航路、の4つのルートでのカルテルが問題になっています。

(なお商船三井がすべての航路で全額免除を受けています。)

まず北米航路については、審決集に載っている日本郵船の納付命令では、カルテル実行期間は平成21年9月6日から平成24年9月5日までの3年間とされています。

そしてこの間の日本郵船の北米航路の売上は575億円です。

課徴金額は40億円ですが、これはリニエンシーの申請をして3割の減額を受けた結果です。

つまりほんらいの(リニエンシーがなかったときの)課徴金は0.7で割り戻して57億円となります。

これをもとに他の2社について売上を推計すると、

川崎汽船・・・271億円(課徴金19億円の10倍に、減免申請で0.7の割り戻し)

ワレニウス・・・5億円(課徴金5000万円の10倍)

となり、3社合計で575+271+5=851億円となります。

次に欧州航路については、審決集掲載の日本郵船の実行期間は同じく3年間、売上が554億円、課徴金額は3割の減額を受けた結果39億円です。

これをもとに他の3社の売上を推計すると、

ワレニウス・・・340億円(課徴金34億円の10倍)

川崎汽船・・・229億円(課徴金16億円の10倍に、減免3割で0.7の割り戻し)

日産専用船・・・57億円(課徴金4億円の10倍に、減免3割で0.7の割り戻し)

となり、欧州航路の4社合計売上は、554+340+229+57=1180億円となります。

次に中近東航路では、審決集掲載の日本郵船の納付命令によると、同じく実行期間は3年間、その間の売上は507億円で、課徴金は減免申請で3割減額されて35億円です。

これをもとにもう1社の川崎汽船の売上を推計すると、

川崎汽船・・・171億円(課徴金12億円の10倍に3割減額のため0.7で割戻し)

となります。

したがって、中近東航路での2社合計売上は、507+171=678億円となります。

最後に大洋州航路については、審決集掲載の日本郵船の納付命令によると、実行期間は同じく3年間、その間の売上は236億円、課徴金は3割減額後で17億円です。

これをもとにもう片方の川崎汽船の売上を推計すると

川崎汽船・・・157億円(課徴金11億円の10倍に、3割減額のため0.7で割戻し)

となります。

したがって、大洋州航路の2社の売上は236+157=393億円となります。

以上より、4航路全体の売上は、851+1180+678+393=3102億円となります。

なお本件では商船三井がリニエンシーで課徴金を免除されているので、この分を加えたいところです。

ウェブ上のある情報では、自動車船のキャパシティシェア(2016年1月1日現在)では、商船三井は世界シェア14%だそうです。

なのでざっくりと、商船三井の分を加えた総売上は、3102×1.14=3536億円と見積もられます。

・・・・・・

以上をまとめると、

刑事告訴されたもの

ベアリング・・・1610億円

溶融メッキ・・・2827億円

ダクタイル鋳鉄管・・・877億円

刑事告発されなかったもの

段ボール・・・1377億円

自動車船・・・3536億円

とうことになり、刑事告発されるものはやはり売り上げも大きいなあとわかるとともに、売上だけで刑事告発の有無が決まるわけではないことがうかがえます。

とはいえ、以上検討した過去の例をふまえれば、売上が2~300億円に足りないくらいであれば、(入札談合ではない)価格カルテルの刑事告発のリスクは低いのではないか、という感じがします。

なお、これはまったくの推測ですが、段ボールは売上は大きいものの実質的には加工賃部分だけが売上であったことと、自動車船については外国のワレニウスが違反者になっていたことが、刑事告発にいたらなかったことの一因ではないか、とニラんでいます。

なので、市場規模がが1000億円をこえても刑事告発にならない、というようなことはいえないと思います。

2017年8月 4日 (金)

ボーネルンドに対する措置命令について

おもちゃの輸入業などをおこなうボーネルンドに対して、原産国告示違反で6月23日に措置命令が出ました

おもちゃのチラシにイギリスなどの国旗や国名を表示していたけれど、実は中国製だった、というものです。

この事件でボーネルンドは、

「国旗はメーカー所在国であると記載したが、⽣産国として誤解を与える表⽰だった。深く反省している」

とコメントしたそうです(6月23日付日経新聞ウェブ版)。

また、

「消費者庁によると、同社は2016年12⽉7〜9⽇に配布した新聞折り込みチラシに、玩具の写真と共に⽶国や英国、⽇本などの国旗を掲載。

裏⾯に⼩さく「国旗の表記はメーカー所在国です」と記していたが、同庁は『消費者が⽣産国と誤認する恐れがある』と判断した。」

と伝えられています(同日付時事ドットコム)。

これらをあわせて読むと、消費者が国旗の表示を生産国と誤認しないようにしておけば(たとえば「国旗の表記はメーカー所在国です」という記載を同一視野に大きく記載していれば)不当表示にならなかったかのような印象を与えますが、実はそうではありません。

原産国告示上は、国旗を記載するときには、本当の原産地(本件では中国)がわかるように明示しないと違反になるのであって、国旗が原産国でないと明示するだけでは足りないからです。

原産国告示の該当箇所をみてみましょう。

同告示2項(外国産品の不当表示)では、次の表示が不当表示だとさだめられています。

「2  外国〔中国〕で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、

その商品がその原産国〔中国〕で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの

一 その商品の原産国〔中国〕以外の国〔イギリス〕の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示

(2号以下略)」

まず本件では、原産国(中国)以外の国(イギリス)の国旗を表示しているので、そのイギリス国旗の表示は1号に該当します。

そして、1号に該当する以上は、

「その商品がその原産国〔中国〕で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難」

でないかぎり(つまり容易に中国産と判別できないかぎり)、柱書の要件をみたしてしまい、不当表示になるのです。

仮に

「国旗の表記はメーカー所在国です」

と、イギリス国旗の表示と同一視野に大きく記載していたとしても、イギリス産ではないということはわかっても(※)、中国産と容易に判別できることにはならないわけです。

(※実は、この表示でも、メーカー所在国がイギリスだといっているだけで、ほんとうに製造地がイギリスではないということまで明示していることになるのか、疑問がないわけではありません。)

そういうわけで、ボーネルンドの

「国旗はメーカー所在国であると記載したが、⽣産国として誤解を与える表⽰だった。」

というコメントは、原産国告示に照らすとやや的はずれで、問題の本質は、イギリス国旗によりイギリスが生産国と誤認されるかどうかではなくて、イギリス国旗を表示する以上、中国産であることを明示しないといけなかった、ということなのです。

ちなみにボーネルンドの社告では、

「・・・これらの〔原産国である中国以外の国の国旗や国名の〕表示は、当該16商品の原産国が中華人民共和国であることを一般消費者が判別することが困難なものであって、景品表示法に違反するものでした。」

と、原産国告示2項柱書に沿った表現になっていて、イギリス国旗がイギリス製と誤認させるものであったとは一言も述べられていません。

(ちなみに社告の案は通常消費者庁から示されるので、本件もそうだと思われます。)

というわけで、もしボーネルンドが「国旗の表記はメーカー所在国であることを同一視野に大きく書いておけば違反にならなかった」と思っているとしたら、それは原産国告示の解釈を誤っていますし、自らの社告とも食い違ってきます。

もし大きく同一視野に「国旗の表記はメーカー所在国です」と記載していたら、消費者には実害がないということで、消費者庁は事件として取り上げなかったかもしれません。

そういう意味で、「国旗の表記はメーカー所在国です」と記載することは無意味ではないのですが、景表法違反かどうかといえば、やはりそれでも景表法違反だといわざるをえないでしょう。

この事件をみてもわかるように、原産国告示は実はけっこうやっかいで誤解されがちな告示です。

個人的には、これだけ企業の国際分業化が進んだ現代において、おもちゃのチラシにイギリス国旗が表示されているだけでそのおもちゃがイギリス国内で製造されたものと誤認する消費者がどれだけいるのか疑問だと思っており、ちょっと原産国告示は割り切りすぎのような気がします。

イギリス国旗がついていても、私なんかは、「イギリス人がデザインしたんだろうなぁ」とか「イギリスの会社が作ったんだろうなぁ」というくらいの期待しかしないと思うし、それで十分です。

おもちゃの工場がどこかなんて、どうでもいいわけで、イギリスの伝統とか、おもちゃに対する哲学とか、設計思想とか、そういったものがあれば十分で、別にだまされた気にもなりません。

もちろん「イギリス製」と書いたらあきらかにウソですが、イギリス国旗は漠然とイギリスのおもちゃであることをイメージさせるにはよい表現手段であり、もうちょっと融通がきかないのかなぁと思います。

しかも問題になるのは国旗だけでなく、国の地図なんかもアウトです(原産国告示運用基準1項)。

と、いろいろ言っても、現に原産国告示が今のような形で存在する以上、これを守らないといけません。

思わぬところで誤解しないよう、原産国告示は注意深く読む必要がありそうです。

それから、原産国告示は優良誤認と違って、いちいち優良性を認定する必要がないのが、消費者庁による迅速かつ画一的な運用ができるポイントです。

たとえばドイツ製のワインをイタリア製と偽った場合に、一般消費者にとってイタリア製ワインのほうがいいものだと認識されていることの立証は不要です。

このような優良性の立証が不要であることにくわえて、誤認を生じさせるかどうかという点についても原産国告示はかなり割り切った考え方をしているんだなぁということを感じさせたことも、今回の事件の特徴であったように思います。

2017年7月28日 (金)

期間限定商品の売れ残りと不当表示

だいぶ前のことですが、あるメーカーのクライアントから、

「期間限定販売」(たとえば2015年3月まで)

と銘打って、通常商品とはちがうパッケージでおまけもつけて販売した商品が、予想外に小売店で売れ残ってしまって(想定では発売と同時にすぐ売り切れるはずだった)、期限を過ぎても店頭に並んでいる状況だけれどどうしたらいいか、という相談を受けました。

このときは、やっぱり期間限定と表示しながらそれを過ぎていつまでも販売されているというのは有利誤認表示のおそれがあるので回収すべきでしょうね、というアドバイスをしました。

でも課徴金制度が施行されのにあわせて公表された課徴金のガイドラインの考え方によると、このケースが不当表示にあたるのかはなかなか微妙です。

というのは、課徴金ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」)では、そもそも事業者(メーカー)のどの行為が表示行為に該当するのかについて、商品パッケージでの表示の場合には商品を取引相手方に引き渡す行為が表示行為であり、そのあと店頭に陳列されているのは小売店の行為であって、メーカーとは関係ない、と整理されているからです。

つまり、ガイドライン8頁の第41(5)想定例①では、

「商品a を製造する事業者Aが、

小売業者を通じて一般消費者に対して供給する商品a の取引に際して、

商品a について優良誤認表示を内容とする包装をし、

その包装がされた商品a を、平成30 年4月1日から同年9月30 日までの間、毎日小売業者に対し販売して引き渡した場合、

事業者Aの課徴金対象行為をした期間は、平成30 年4月1日から同年9月30 日までとなる

小売業者の一般消費者に対する販売行為は、事業者Aの行為ではない

なお、当該小売業者が事業者Aとともに当該優良誤認表示の内容の決定に関与していた場合は、当該小売業者が一般消費者に対して商品a を販売して引き渡す行為について、別途課徴金対象行為の該当性が問題となる。)。

事業者Aは、課徴金対象行為をやめた日の翌日である平成30 年10月1日以降は商品a の取引をしていないため、課徴金対象期間は、平成30 年4月1日から同年9月30 日までとなる。」

とされており、包装の不当表示では商品の引渡しが不当表示行為であり、その後の小売業者の販売行為は関係ない、とされています。

不当表示行為が措置命令と課徴金納付命令とでちがう内容を持つとは考えられないですから、これは措置命令の場合にもあてはまるのでしょう。

そうすると、少なくとも景表法との関係では(企業の道義的責任を無視すれば)、販売したあとの行為は関係ないんだから回収する必要はない、ということになりそうにもみえます。

(なお個人的には、不当表示行為の考え方をこのガイドラインのように割り切ってしまっていいものか、疑問がないではないと思っていますが、ここまではっきり書いてあるわけですし、ひとまずガイドラインにしたがっておきます。)

しかし、話はそう単純ではありません。

期間限定販売の場合、何が有利誤認なのかを考えると、限定期間中にその表示に接して、今しか手に入らないんだと思った消費者が、「今買わなきゃ」と思う点に問題があります。

限定期間後に店頭に並んでいる商品をみて、「あれ、期限過ぎてるのにおかしいなぁ」と思いながら買う消費者は、別に誤認していません。(期限が過ぎていることは明らかなので。)

つまり、限定期間中に、「今しか買えないと思ったから買ったのに、実はいつでも買えた」というのが有利誤認なわけです。

そうすると、メーカーとしては、「今しか買えない」という表示をするなら、今しか買えないようにしておく必要があります(そうしないと、有利誤認表示になります)。

では具体的にどうすればいいかというと、やはり、小売業者が期限後は販売しない(返品してもらう)ようにする必要があります。

上記ガイドラインとの関係では、あくまで不当表示行為は商品の引渡しだけれど、期限後は販売されないように契約なりで手当てをしておかなければ、すでに引渡しの時点で有利誤認表示をしていることになるのだ、ということです。

厳しい(そしておそらく論理的には正しい)見方をすれば、期限後には販売されないような手当をしておかないと、仮に期限内に完売しても、やはり有利誤認表示にあたる、ということなのではないかと思います。

もし期限内に売り切れても、それは結果オーライだっただけで、さかのぼって不当表示でなかったことになるわけではないように思われます。

さらに厳しいことを言えば、表示行為(商品の引渡し)時点で返品などのとりきめを小売業者としておかないかぎり、事後的に回収しても、やっぱり、引渡し時点での不当表示行為が適正な表示行為になるわけではないのではないかと思います。広い意味でいえば、事後的な回収も結果オーライの一種に過ぎないわけです。

事前にそういう取り決めをしていたにもかかわらず、小売業者が取り決めに違反して返品せず、期限後も販売を続けてしまった、という場合はどうでしょう。

過失がなくても措置命令は出る、という景表法の建前に忠実にしたがうなら、小売業者が契約違反をしても(=メーカーに過失がなくても)結果的に不当表示になってしまったなら、それはメーカーの責任である(措置命令が出る)、ということになりそうです。

ふつうであれば期限後まで売れ残ることはとうていありえないというような商品ないしは期限の設定なのであれば、小売業者との明示的な取り決めがなくても、全体的・規範的に評価して、不当表示ではない、ということも可能かもしれません。

そういう意味で、小売業者との取り決めが不当表示を避けるために必須の要件だということはないのかもしれません。

しかし、現に売れ残ってしまったという事実がある場合にはとりわけ、売れ残りの可能性が表示行為(商品引渡し行為)のときからあった、と認定される可能性が高いのではないかと思われます。

表示が事実と異なることになるのかどうかが将来の事実にかかっているようにみえる場合でも表示の時点で不当表示性を判断すべきことをうかがわせるものとして、価格表示ガイドラインの将来価格を比較対照価格にする二重価格表示に関する記述があります。

すなわち、同ガイドライン第4の2(1)イでは、

「販売当初の段階における需要喚起等を目的に、将来の時点における販売価格を比較対照価格とする二重価格表示が行われることがある。

このような二重価格表示については、表示された将来の販売価格が十分な根拠のあるものでないとき(実際に販売することのない価格であるときや、ごく短期間のみ当該価格で販売するにすぎないときなど)には、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。」

とされており、表示の時点で「十分な根拠」があるかどうかが問題にされており、結果的に比較対照価格とされた価格で販売すれば表示の時点でどうであれ問題ないという立場はとられていないように思われます。

以上のケースと似ているけれど違う例として、表示が事後的に事実と異なってしまうことがあります。

たとえば「業界唯一の〇〇」と謳っていたのに、同じ性能の商品が事後的に出てきたような場合です。

この場合は、表示行為(商品の引渡し)の時点では「業界唯一」だったことは事実であり、その後もずっと業界唯一であることを保証した表示とはみられないでしょうから、事後的に事実と異なってしまっても、さかのぼって不当表示だといわれることはないのだろうと思います。

これに対して、「期間限定」の例は、事後的に事実と異なってしまったのではなく、(返品の取り決めをしてくなどしないかぎり)表示の時点で事実と異なる(ただ、事実と異なる事態が顕在化するのは期限経過後にすぎない)ということなのだろうと思います。

ほかに似たような例としては、客寄せの目玉商品を販売したら、思いのほか反響が大きくてぜんぜん在庫がまにあわず、結果的におとり販売になってしまった、という場合もあります。

この場合に、結果的に反響が小さくて在庫が足りても、やはりそれは結果オーライに過ぎないのであって、厳密には(論理的には)おとり販売になりうるのではないかという気がします。

このように、いろいろと複雑な問題が生じることからすると、「期間限定」という商品を販売するときにはくれぐれも注意してやることが必要だということがわかります。

以前相談を受けたそのケースでも、

「『期間限定』のところに、『2015年3月末メーカー出荷分まで』とか記載しておくべきでしたね」

というのが、将来への反省点でした。

2017年7月12日 (水)

東京ガスへの措置命令について

昨日(2017年7月11日)東京ガスとその販売会社2社に対して、不当な二重価格表示(有利誤認表示)で措置命令がでました

ガスコンロなどを販売するにあたり、メーカー(リンナイ、パロマ、ノーリツ)がメーカー希望小売価格を設定していないのに、東京ガスにおいて勝手に「メーカー希望小売価格」を設定し、そこから比べて安くなっているという、不当な二重価格表示をおこなったものです。

この事件、一見するとよくありがちな二重価格表示の事件ですが、課徴金を視野にいれると、なかなか興味深いものがあります。

まず、不当表示の記載がされた媒体が、「東京ガスのガス展2016」というイベントにおける販売のためのチラシだ、ということです。

イベントのチラシだと、CMや新聞広告よりもチェックが甘くなってしまうこともあるかもしれません。こういう表示にも課徴金がかかってくるので、要注意です。

次に、本件では、チラシは直接的には前記イベント(開催期間は平成28年11月3日から6日までの4日間)での販売のためのチラシですが、課徴金の対象になるのはそのイベントで売上に限られるのか、という問題があります。

この問題については、

「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」

の第4の2(10頁)では、

「課徴金対象行為は優良・有利誤認表示をする行為であるから、

「課徴金対象行為に係る商品又は役務」は、優良・有利誤認表示をする行為の対象となった商品又は役務である。

その「商品又は役務」は、課徴金対象行為に係る表示内容や当該行為態様等に応じて個別事案ごとに異なるものであるから、全ての場合を想定して論じることはできないが、

以下、「課徴金対象行為に係る商品又は役務」に関する考え方の例を記載することとする。」

としたうえで、

「(1) 全国(又は特定地域)において供給する商品又は役務であっても、

具体的な表示の内容や実際に優良・有利誤認表示をした地域といった事情から

一部の地域や店舗において供給した当該商品又は役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

との基準をあきらかにし、<想定例>として、

「① 事業者Aが、自ら全国において運営する複数の店舗においてうなぎ加工食品a を一般消費者に販売しているところ、

平成30 年4月1日から同年11 月30 日までの間、

北海道内で配布した「北海道版」と明記したチラシにおいて、

当該うなぎ加工食品について「国産うなぎ」等と記載することにより、

あたかも、当該うなぎ加工食品に国産うなぎを使用しているかのように示す表示をしていたものの、

実際には、同期間を通じ、外国産のうなぎを使用していた事案」

「事業者Aの課徴金対象行為に係る商品は、

事業者Aが北海道内の店舗において販売する当該うなぎ加工食品となる。」

という例があげられています。

ここではあきらかに、チラシに「北海道版」と明記されていたことが重視されています。

上の(1)の一般論で、「具体的な表示の内容」を具体化したものです。

次の具体例では、

「② 事業者Bが、自ら東京都内で運営する10 店舗において振り袖bを一般消費者に販売しているところ、

平成30 年9月1日から同年11 月30 日までの間、

東京都内で配布したチラシにおいて、

当該振り袖について「○○店、××店、△△店限定セール実施!通常価格50 万円がセール価格20 万円!」(○○店、××店、△△店は東京都内にある店舗)等と記載することにより、

あたかも、実売価格が「通常価格」と記載した価格に比して安いかのように表示をしていたものの、

実際には、「通常価格」と記載した価格は、事業者Bが任意に設定した架空の価格であって、○○店、××店、△△店において販売された実績のないものであった事案」

「事業者Bの課徴金対象行為に係る商品は、

事業者Bが東京都内の○○店、××店、△△店において販売する当該振り袖となる。」

という例があげられています。

ここでは、

○○店、××店、△△店限定セール実施!」

と限定されていたことが重視されています。

これは、20万円で買えるという取引条件が適用されるのがこの3店舗だけだったので、課徴金対象売上もその3店舗での売り上げとなるのは、わかりやすいですね。

そこで、本件での東京ガスのチラシをみると、

「ガス展特価」

と明記されているので、ガス展で販売された売上にだけ、課徴金がかかる、ということになりそうです。

もし「ガス展特価」と書いていなかったら、全国での売上に課徴金がかかった可能性もあるので、結果オーライというか、わずかな違いで大きな差になった可能性があります。

(ただ、報道によれば、本件では、対象商品は東京ガスのプライベートブランドで、ふだんはメーカー名も出していなかった、ということのようなので、そのような場合に、メーカー名を出して売っている商品(ナショナルブランド的な売り方をしている商品)と、プライベートブランドで売っている商品が、物理的には同じ商品だけれど景表法法上は同じ商品なのかどうか、という論点も出てきそうです。(本件では前述のように課徴金の対象はガス展での売上に限られそうなので、この論点は顕在化しませんが。))

二重価格表示の問題については、当該チラシで、

「ノーリツ プログレ メーカー希望小売価格320,220円(税込)のところ、195,800円(税込・工事費別)」

と書いてあれば、当該イベントで195,800円で買えるということもさりながら、メーカー希望小売価格は32万円以上もするんだ、という誤認も生じうるので、別の機会に25万円で販売している場合ですら、7万円も得した、という誤認を生じる可能性があるわけですが、このような点をガイドラインが事前に明らかにしていたことは、卓見というほかありません。

というわけで、本件では仮に課徴金がかかるといても当該イベントでの売り上げに限られるということになりそうですが、それでもあえて指摘すれば、比較的短期間の不当表示でも課徴金がかかりうるという点には注意が必要です。

つまり本件では、チラシの配布期間(不当表示行為期間)が、新聞折り込みで1日だけとか、手配りでも約20日間くらいとか、比較的短期間です。

しかしながら、課徴金の対象となる売上の期間は、不当表示の期間だけではなく、原則として(誤認解消措置をとらないかぎり)その後6か月間継続するので、たとえば1日だけの広告でも、最大6か月の売上には課徴金がかかることを覚悟しないといけません。

というわけで、課徴金が導入されると、いかに細かい表示にまで気を配らなければならないか、ということを実感させてくれる事件だったと思います。

2017年7月11日 (火)

三菱と日産の軽自動車への課徴金について

三菱自動車の燃費偽装事件については、今年(2017年)の1月27日に、

普通車・軽自動車を対象に、三菱に措置命令

軽自動車を対象に、日産に措置命令

普通車を対象に、三菱に課徴金納付命令

がなされましたが、残っていた、軽自動車についての両社への課徴金納付命令が6月14日に出ました

そこで、同命令について気が付いたことを書き留めておきます。

■誤認解消措置について

命令では、両社とも、平成28(2016)年7月1日に誤認解消措置をとったと認定されています。

ただ両社とも、課徴金対象行為をやめたあと誤認解消措置までの間に違反対象商品を販売していないので、結果的に、誤認解消措置は課徴金額には影響していません。

■自主申告について

今回は、両社とも、違反を消費者庁に自主申告し、それが調査開始の通知前であったことから、課徴金の額が半額になっています。

ただ今回の命令では、三菱について、

「三菱自動車工業は、景品表示法第9条の規定により、前記1の課徴金対象行為に該当する事実を、景品表示法施行規則第9条に定めるところにより消費者庁長官に報告したところ、当該報告は当該課徴金対象行為についての調査があったことにより当該課徴金対象行為について課徴金納付命令があるべきことを予知してされたものではない。」

日産について、

「日産自動車は、景品表示法第9条の規定により、前記1の課徴金対象行為に該当する事実を、景品表示法施行規則第9条に定めるところにより消費者庁長官に報告したところ、当該報告は当該課徴金対象行為についての調査があったことにより当該課徴金対象行為について課徴金納付命令があるべきことを予知してされたものではない。」

とだけ認定されているだけで、具体的な申告日や調査開始の通知日は明らかにされていません。

前回の三菱の普通車についての課徴金納付命令(平成29(2017)年1月27日)では、

「三菱自動車工業は、景品表示法第9条の規定により、前記1の課徴金対象行為に該当する事実を、不当景品類及び不当表示防止法施行規則第9条に定めるところにより消費者庁長官に報告した。

三菱自動車工業が当該報告をしたのは、消費者庁が三菱自動車工業に対して前記1の課徴金対象行為についての調査の開始を通知したときである平成28年5月27日又は同年8月31日午前より後である同日午後であった

よって、当該報告は、当該課徴金対象行為についての調査があったことにより当該課徴金対象行為について課徴金納付命令があるべきことを予知してされたものである。」

と、調査開始の通知日と自主申告の日を具体的にあきらかにしていたのとは対照的です。

これはきっと、前回は自主申告による減額を認めないという不利益をあたえるので具体的な日付まで明らかにいていたところ、今回は減額をみとめるという利益をあたえるのだから細かい日付までは書かなくてよい、という判断なのでしょう。

■日産の過失について

日産の過失について、命令では、

「日産自動車は、三菱自動車工業株式会社と共同して実施した燃料消費率に係る検証において本件6商品の各商品の燃費性能の根拠となる情報を十分に確認することなく前記1の課徴金対象行為をしていたことから、それぞれ、当該課徴金対象行為をした期間を通じて当該課徴金対象行為に係る表示が景品表示法第8条第1項第1号に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないとは認められない。」

と認定されています。

報じられているところによると、

2015年11月には日産が届出値と実測値に大きな差があることに気づき、

2016年2月から両社で調査を開始した、

ということのようなので、ここでの「共同して実施した」検証というのは、おそらく2016年2月以降に共同で実施した調査のことではないかとうかがわれます。

今回の件は、基本的には三菱の開発や試験に問題があり、日産はだまされたというのが大方の見立てだと思いますが、 日経電子版6月14日の記事では、

「不正をもっと早く知り得たのではないかという消費者庁の見解は不当。必要な対抗措置を講じる」

という日産のコメントが出ています。

課徴金納付命令によれば対象商品は2016年4月20日まで販売されているので、消費者庁は、「日産はもっと早くわかっていて、もっと早く課徴金対象行為をやめられただろう」、という認定であることがわかります。

これに対して日産のコメントは、「わかってから速やかにやめて4月20日になったんだ」ということなのでしょう。

ちなみに三菱の過失についは、

「三菱自動車工業は、本件8商品の各商品の燃費性能について改ざん等の行為を行い、また、当該行為の防止等を図るための管理監督を十分に行っていない。

三菱自動車工業は、かかる状況の下、前記1の課徴金対象行為をしていたことから、それぞれ、当該課徴金対象行為をした期間を通じて当該課徴金対象行為に係る表示が景品表示法第8条第1項第1号に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないとは認められない。」

というように、自らが改ざん等を行った、という、よりストレートな認定になっています。

«プライベートブランドの「製造元」は不当表示の主体になるか?