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2026年3月 4日 (水)

クーポン再発行と有利誤認表示(ソシエ・ワールド確約)

2026年3月3日、エステサロンを運営するソシエ・ワールドが、ウェブ上でのクーポンを再発行したことで有利誤認で確約認定を受けました。

消費者庁のプレスリリースの被疑事実によると、

「自社が運営する「エステティックサロン ソシエ」と称する店舗で供給する施術サービス(以下「本件役務」という。)を一般消費者に提供するに当たり、

令和3年9月23日から令和7年5月28日までの間、

「HOT PEPPER Beauty」と称するウェブサイトに掲載された各店舗のページ内の「クーポンメニュー」と称するページで提供するクーポンにおいて、

例えば、「ボディ人気No.1!!【身体スッキリ】むくみ改善全身オールハンド55分¥31,185→」、「¥4,400」、「有効期限:2025年05月末日まで」等

と表示することにより、

あたかも、当該クーポン記載の期限内に当該クーポンを利用して申し込んだ場合に限り、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるかのように表示していたが、

実際には、当該クーポン記載の期限後に申し込んだ場合であっても、期限内と同額又はそれ以上の金額の割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるものであった。」

ということのようです。

確約なので実際の表示物が公開されていない(それ自体問題だと思いますが、それはさておき)のでなんとも言いがたいところではあるのですが、私はこの確約認定はいろいろと問題があると思います。

少なくとも、この確約認定自体で、クーポンの連続発行自体が許されないことになるわけではないと思います。

まず、消費者庁のリリースでは、上記のとおり、

「実際には、当該クーポン記載の期限後に申し込んだ場合であっても、期限内と同額又はそれ以上の金額の割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるものであった。」

というだけで、無条件に「期限内と同額又はそれ以上の金額の割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるものであった」のかどうかが今一つよくわかりません。

しかし、この点については案の定といいますか、今朝(3月4日)の日経新聞朝刊で、

「消費者庁によると、同社は2021年9⽉〜25年5⽉、⼤⼿予約サイト「ホットペッパービューティー」に掲載したクーポンに有効期限を設定していた。実際には新たに別のクーポンを発⾏することで、期限が過ぎた後でも同等かそれ以上の割引でサービスを受けることができた。」

ということなのだそうです。

つまり、クーポンの連続発行の事案であり、値引を受けるためには後続のクーポンを使用することが条件であったことがわかります。

こんな大事な事実をリリースで書かないなんて、消費者庁はひどいと思います。(その理由はのちほど。)

実際の表示物がわからないので、たぶんこうだったんだろうという想像をするために、現在の同社のホットペッパービューティのクーポンページに表示されているクーポンを示すと、下のようなクーポンだったと想像されます。

20260304-094414

これの文字の部分が、消費者庁プレスリリースのような、

「「ボディ人気No.1!!【身体スッキリ】むくみ改善全身オールハンド55分¥31,185→」、「¥4,400」、「有効期限:2025年05月末日まで」」

というものだったと想像しておきましょう。

ところで以前私はこのブログで、

同じクーポンを連続して配布するのは有利誤認表示か?」(2025年4月28日)

という記事を書いたことがあり、クーポンの連続配布は基本的には有利誤認にあたらないと説明していました。

この意見は、今も変わりません。

ではソシエの件はどうなのかといわれると、なかなか微妙です。

というのは、上記のようなクーポンの表示だったとすると、「クーポン」とはいいながら、ただの期間限定キャンペーンと異ならないようにもみえるからです。

もう少しかみ砕いていうと、不当表示とは、表示と実際の不一致です。

つまり、表示の意味が実際の取引条件と一致していない、ということです。

なので、まずは、表示の意味の確定をする必要があります。

では、本件で消費者庁は、表示の意味をどのように確定したのかというと、

「当該クーポン記載の期限内に当該クーポンを利用して申し込んだ場合に限り、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができる」

という意味だと確定したわけです。

実は、クーポンの場合、この「限り」といえるのかどうかが大問題です。

「限り」(英語でいえば、if and only if, 論理学の記号だとiff)だと、たった2文字なので読み流してしまいそうですが、きちんと文字で書き起こせば、

当該クーポン記載の期限内に当該クーポンを利用して申し込んだ場合には、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができ、

かつ、

当該クーポン記載の期限後には、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができない

ということです。

スーパーのチラシに印刷されているクーポンの場合、クーポンに有効期限が記載されていても、それだけで有効期限後に同じクーポンが発行されないとまで読み取る人はいないでしょう。

たとえば、3月7日(土)の朝刊の折り込みチラシでスーパーが「100円引き。有効期限3月13日(金)まで」というクーポンを配った場合に、それを見た消費者が、

「3月14日(土)の朝刊に「100円引き。有効期限3月13日(金)まで」というクーポンが配られることはないんだ。」

と認識するのか、という問題です。

そんな認識は、ふつうしないでしょう。

というのは、消費者は、チラシのクーポンの有効期限は、その有効期限が過ぎたらそのチラシに印刷されているまさにそのクーポンが使えなくなるという意味であって、それ以上の意味はない(再度クーポンが発行されることはないという意味まではない)、と認識すると思われるからです。

つまり、紙のクーポンでは、

当該クーポン記載の期限後には、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができない

という認識はしない、消費者庁のリリースの言葉で言えば、

限り

という認識はしない、ということです。

では、紙のクーポンではなくて、ソシエのケースみたいに、ウェブ上のクーポンなら、どうでしょうか。

まず、上で画像を示したところに行く一つ前のページの画像を示すと、こんな感じです。

20260304-100200

このように、

「SOCIE esthetic 豊田店【ソシエ エステティック】のクーポン」

という欄の下に、いくつかの「クーポン」が並んでおり、この1つをクリックすると、2つ上の画像のページに行くわけです。

これだとたしかに、「クーポン」とはいいながら、特定のコースを値引しているだけの、期間限定キャンペーンと何ら異ならないように見えます。

たとえば、

「SOCIE esthetic 豊田店【ソシエ エステティック】のクーポン

というタイトルを、

「SOCIE esthetic 豊田店【ソシエ エステティック】のキャンペーン

と書いてあったとしても、何の違和感もありません。

といいますか、むしろそのほうが言葉の意味として自然だと思います。

そもそもクーポンとは、広辞苑によると、

「①切取り式の券。回数券や債券の利札の類

②旅行者の便宜のために発行する、各種乗り物の通し切符や指定旅館の宿泊券などを一綴りにしたもの。

③一般に、割引券・優待券」

と説明されています。

本件では③が近いですが、いずれも、何らかの券であることが想定されています。

仮に電子的なクーポンであっても、リアルのクーポン券を模したようなものである必要があるでしょう。

なのにソシエの件は、表示を見てもそのような雰囲気がまったくありません。

なので、このような表示を「クーポン」と呼ぶのは、事実認定として誤りだと思います。

なので、消費者庁リリースの認定の、

「「HOT PEPPER Beauty」と称するウェブサイトに掲載された各店舗のページ内の「クーポンメニュー」と称するページで提供するクーポンにおいて、」

というのは、重要な点において事実認定を誤っており、ほんらいは、

「「HOT PEPPER Beauty」と称するウェブサイトに掲載された各店舗のページ内の「クーポンメニュー」と称するページで告知するキャンペーンにおいて、」

などと認定すべきだったと思います。

そうであれば、通常の期間限定キャンペーンのくりかえしと何ら異ならない、ありふれた事件だったということになります。

なぜこの点が重要かというと、ほんとうのクーポンであれば、そこ(=券)に書かれている有効期限は当該クーポン券の有効期限の意味だとしか解しようがないからです。

ここで、確約だと表示物が公開されないという問題が出てきます。

上記の画像はホットペッパービューティからスクショしたもので(なのでそれ自体は景表法違反でも何でもなく、たんなるサンプルです。)、たぶんこうだろうという想像でここまで考えてきましたが、こういう重要な点について想像を交えないと論評できないということ自体が、大問題だと思うのです。

現に日経記事では、本件はクーポンの連続発行が違反とされたというように報道されているわけです。

でもこれは日経新聞が悪いわけではなくって、消費者庁が記者会見でそういう説明をしたのでしょう。

実際、プレスリリースでも、クーポンでないものをクーポンだと認定しているわけですから、そういう説明になっているはずです。

私が上に述べたような問題意識には、気づくはずもないでしょう。

確約なら課徴金を免れるわけで、事業者としては消費者庁が確約にすると言えば喜んで応じるはずであり、争うインセンティブなんてまったくありません。

(まあ本件は、「クーポン」といいながら、実際には「キャンペーン」のくりかえしの事件なので、争っても勝てないとは思いますが。)

おそらく私一人がこのようなことを言っても、「クーポンの連続発行は不当表示」という誤解がどんどん拡散されていくことでしょう。

ほんとうに悲しむべきことだと思います。

2026年3月 3日 (火)

異なる販路間の二重価格表示

同じ事業者が、ある販路で売っている商品の価格を比較対照価格として、別の販路で売っている同じ商品について二重価格表示をすることは、その旨の何らの断り書き(打消し表示)もなしにすることは認められないのだろうと思います。

直感的にそう思う理由は、景表法では店舗ごとに考える発想が強いから(たとえばおとり販売告示)ですが、もう少し実質的な理由を考えると、消費者は二重価格表示をみれば比較対照価格はまさにその販路(例えばそのウェブサイト)での価格だと認識するだろうから、です。

逆に言うと、異なる販路(例えば、自社サイトとECサイト)であれば、価格が違うこともふつうにありうると消費者は思っているはずだ、ということです。

販路が違えば価格も違うのというのは、(商品によるかもしれませんが)実際にいくらでもありうることです。

以前仕事で、とあるLCCをECサイトで予約してオーストラリアに行ったことがありました。

当然、そのECサイトでは他のフルサービスキャリアより安かったからそうしたのですが、あとでそのFSCの自社サイトをみたら、なんとLCCよりも安かったのです。

当然、同じFSCでみたら、ECサイトより自社サイトのほうが、ずっと安かったわけです。

(ちなみにそのLCCでは荷物の重量オーバーで超過料金が取られるわ、サービスはLCCなので押して知るべしだわで、散々な目に遭いました。。。閑話休題。)

なぜ販路ごとに価格が異なるのかというのは場合によりけりでしょうが、単純に利益を最大化しているだけだという場合でも、ある販路(ECサイト)に集まる需要者は価格に敏感で、別の販路(自社サイト)に集まる需要者はそれほどでもなく、なので利益最大化価格が異なる、ということもあるでしょう。

あるいは、特にリアルの店舗の場合には、販路によって販売コストがちがう、ということもあるかもしれません。

あるいは、プロパー店舗とアウトレットみたいに、あえて顧客をセグメント化して価格差別をする、ということもあるかもしれません。

というわけで、販路が違えば価格も違って当たり前なわけで、それを前提にすると、二重価格表示がされると消費者は「同じ販路でこの比較対照価格なんだな」と思うわけで、何も断らず別の販路の価格を比較対照価格にしてはいけないわけです。

この点については、古川昌平『実務対当者のための景表法ガイドマップ』96頁(「アウトレット商品の二重価格表示」)で紹介されている、第54回規制改革会議資料3-2(平成27年12月4日)7~9頁というのがあります。

そこでは、消費者庁の回答として、

「 「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_35.pdf)おいては(ママ)、提案主体が提案理由の中で述べるような「二重価格による表示を行う場合、『当該店舗』での『最近相当期間(過去8週間の過半、かつ少なくとも直近2週間以内の)販売実績』が必要となる」という考え方は示されていない。

 すなわち、同考え方においては、「過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示が行われる場合に、比較対照価格がどのような価格であるか具体的に表示されていないときは、一般消費者は、通常、同一の商品が当該価格でセール前の相当期間販売されており、セール期間中において販売価格が当該値下げ分だけ安くなっていると認識するものと考えられる。このため、過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合に、同一の商品について最近相当期間にわたって販売されていたとはいえない価格を比較対照価格に用いるときは、当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示しない限り、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。」との考え方が示されている。

 そして、比較対照価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」に当たるか否かについては、「当該価格で販売されていた時期及び期間、対象となっている商品の一般的価格変動の状況、当該店舗における販売形態等を考慮しつつ、個々の事案ごとに検討されることになるが、一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる八週間について検討されるものとするが、当該商品が販売されていた期間が八週間未満の場合には、当該期間について検討されるものとする。)において、当該価格で販売されていた期間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには、『最近相当期間にわたって販売されていた価格』とみてよいものと考えられる。ただし、前記の要件を満たす場合であっても、当該価格で販売されていた期間が通算して二週間未満の場合、又は当該価格で販売された最後の日から二週間以上経過している場合においては、『最近相当期間にわたって販売されていた価格』とはいえないものと考えられる。」との考え方が示されているところである。

 一方で、プロパー店舗からアウトレット等に移管した商品の二重価格表示については、一般的なアウトレット等における販売形態を踏まえると、アウトレット等において比較対照価格での販売実績のない商品であっても、プロパー店舗において最近相当期間にわたって販売した実績のある商品について、「プロパー店舗での販売価格○○円のところ××円」といったように、比較対照価格を事実に基づいて適正に表示する場合には、景品表示法上問題とならず、二重価格表示を行うことが可能であると考えられる。

 このようにアウトレット等においても二重価格表示を行うことは可能であるので、現時点で上記ガイドラインの見直しの必要はないと考えている。」

というように、異なる販路であることを断れば、異なる販路の価格を比較対照価格にしてよい、という考え方が示されています。

これだけだとちょっと文脈がわかりにくいので、こちらの資料から経団連の意見も引用しておくと、

「消費者庁は、景品表示法のガイドライン(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_35.pdf)において、不当な二重価格になるケースを例示しており、このガイドラインに従えば、プロパー店舗からアウトレット店・アウトレットサイトに移管した商品については、当該店舗での販売実績がないことから二重価格が不可能となっている。【アウトレット店・アウトレットサイト等におい
て、限定した要件の下、】二重価格を容易にする規制緩和を要望する。

【提案理由】消費者による消費行動の多様化により、近年はアウトレット店舗およびオンライン上でのアウトレットサイトが増加している。その結果、プロパー店からアウトレット店舗・サイト(以下、アウトレット等)への移管在庫は従来に増して頻繁になっている状況で
ある。

 消費者庁は、そのガイドライン(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_35.pdf)において、不当な二重価格になるケースを例示しており、このガイドラインに従えば、二重価格による表示を行う場合、「当該店舗」での「最近相当期間(過去8週間の過半、かつ少なくとも直近2週間以内の)販売実績」が必要となる。この点、プロパー店舗からアウトレット等に移管した商品については、それぞれの要件を満たせず、二重価格表記が不可能となっている。また、過去の販売価格を比較対象価格に用いる場合の要件については、値札のスペース上の制約から、小売の現場で活用することが難しい。

 現状、アウトレット価格が記されたシールを従来価格の上に貼る以外にガイドラインに沿う方法がなく、その場合、プロパー価格からどの程度安くなった商品かがわかりにくい表示となる。アウトレットでお値打ち品を求める消費者にとっては、不便な状況となっており、改善が必要な状況と考えている。また、とりわけアウトレットにおける主力製品であるファッション小売品については、季節ごとに商品が変わるため、6カ月~1年前に正規店舗で販売した商品を販売することが多い。しかし、上記の規制が、このような流通実態と整合的ではないため、実際に二重価格表記を活用することができなくなっている。

 消費者にとってアウトレットは割安感を求めるチャネルであることを踏まえれば、アウトレットにおいては、より消費者がプロパー販売価格からの割引額が把握しやすい二重価格表記を可能とする要件を緩和することが、消費者の利益に適うと考える。販売業者の立場からは、規制緩和により公平な競争環境が整備される。

 よって、現行のガイドラインについて、①「当該店舗」、「最近相当期間」の定義を見直す、②「過去の販売価格」の表示の要件を緩和する、③アウトレットの類型について、流通実態に即し、新たに二重価格の表示を可能とする要件を設定する、など所要の見直しを検討すべきと考える。」

というのが、経団連の意見の内容です。

ちなみに、経団連の意見では、

「このガイドラインに従えば、二重価格による表示を行う場合、「当該店舗」での「最近相当期間(過去8週間の過半、かつ少なくとも直近2週間以内の)販売実績」が必要となる。」

とはっきり言っていて、「当該店舗」なんてはっきり価格表示ガイドラインで言ってたかなあと思いガイドラインを確認すると、ガイドライン第4の2⑴ア(ウ)には、

「(ウ) 「最近相当期間にわたって販売されていた価格」か否かの判断基準 

比較対照価格「最近相当期間にわたって販売されていた価格」に当たるか否かは、

当該価格で販売されていた時期及び期間、対象となっている商品の一般的価格変動の状況、当該店舗における販売形態を考慮しつつ、

個々の事案 ごとに検討されることとなるが、

一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるも のとするが、当該商品が販売されていた期間が8週間未満の場合には、当該期 間について検討されるものとする。)において、当該価格で販売されていた期 間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには、「最近相当 期間にわたって販売されていた価格」とみてよいものと考えられる。」

というところで「当該店舗」という表現が用いられていますが、そのすぐあとに「を考慮しつつ」とあることからもあきらかなように、あくまでこれは例示(最近相当価格該当性認定の考慮要素の1つに過ぎない)ということなので、これだけをもって当該店舗の価格しか比較対照価格にすることができないと読むのは、論理的にはちょっと厳しいんじゃないかなという気がします。

(反面、比較対照価格の最近相当価格該当性の考慮要素として「当該店舗における販売形態」というのをあげていることからすると、これは、そのお店でどれくらい頻繁に価格が変更されるのかということを意味しているようにも読め、そうすると、「当該店舗」という記載は、当該店舗での販売価格しかガイドラインは比較対照価格として想定していないのだ、というようにも見えてきて、正直よくわからないです。)

ともあれ、このような、異なる販路であることを断れば、異なる販路の価格を比較対照価格にしてよい、という考え方を裏返すと、何も断らずに異なる販路の価格を比較対照価格としてはいけない、という考え方が読み取れます。

ただ、これに対しては、

原一弘(公正取引委員会事務総局経済取引局取引部取引企画課長補佐・前消費者取引課長補佐。執筆当時)「『不当な価格表示についての景品表示法上の考え方』について」(公正取引59912頁・2000年)

では、

「新規 開店の店舗については、販売実績が全くないので過去の販売 価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うことはできない。ただし、チェーンストア等が既存の店舗に加えて新たな店舗を開く場合については、各店舗で統一的な価格設定が行われていることを前提に、「当社通常価格 (この価格は当チェー ンの他店における通常価格です。)」等、その比較対照価格の内容を明確にすることで、自社の他の店舗の過去の販売価格を用いた二重価格表示を行うことは可能である」

とされています。

これは、前記規制改革会議の消費者庁回答と似ているようで、重要な点で異なります。

というのは、異なる店舗での価格であることを注意書きすることに加えて、「各店舗で統一的な価格設定が行われていること」まで要求しているからです。

この考え方に従えば、プロパー店舗とアウトレットでは統一的な価格設定はしていないでしょうから、断り書きをしてもダメだ、ということになると思われます。

しかし、それはいくらなんでも厳しすぎるというべきでしょう。

不当表示は表示と実際の不一致なのですから、実際に合うように表示すれば不当表示にはならないはずであり、「統一的な価格設定」みたいな、客観的事実を不当表示該当性(あるいは非該当性)の要件にするのは、理論的に誤りだと思います。

別の言い方をすると、景表法は表示と実際の不一致を問題にする純粋な表示規制(表示のみの規制)なのであり、一定のビジネスモデル(例、統一的価格設定)をとるかとらないかでそもそも一定の表示ができるとかできなくなるとかいうことはありえない、ということです。

また、原論文の考え方は、前記規制改革会議の消費者庁回答にも反します。

というわけで、原論文はあきらかに厳しすぎ、規制改革会議の消費者庁回答の考え方(販路の違いを明示すれば問題ない)が基本的な方向性としては正しいというべきでしょう。

では、異なる販路であることさえ断れば、どんな場合でも二重価格表示をしていいかというと、それもちょっと微妙です。

チェーンストアであれば、何も言われなくてもどの店もだいたい同じような販売条件で、同じような価格設定でしょうから、厳密に「統一的な価格設定」でなくても、他店舗の価格を比較対照価格としてもいいでしょう。

アウトレットの場合は逆に、アウトレットはプロパー店舗よりも安いものだという認識が消費者にあるでしょうから、そういうものだというかぎりでは、プロパー店舗の価格は消費者の参考になるといえるでしょう。

でも中には、果たして参考にしていいのかどうか消費者にもわからない(消費者は参考にできると思っているけれど、ふたを開けてよく見てみたら、全然参考にならない)販路というのも、ありうるのではないかと思います。

そういう場合には、こういう販路の価格ですと断るだけでも足りず、その販路とこの販路にはこういう販売条件や市場環境などの諸々の差があります、ということまで言わないと、変に有利だと誤解を招く、ということもあるような気がします。

というか、そんなことを断らないといけない二重価格表示なんて、そもそもどれだけ断り書きをしても誤解を招きかねないので、やるべきではないのではないか、という気もしてきます。

では具体的に比較対照価格にしては絶対いけないような販路としてどのようなものがあるのかというと、例が思いつかないのですが、やはり、消費者が参考にして誤解を招くような別販路の価格は用いてはいけない、ということだと思います。

むしろ実務的に気になるのは、統一的な価格設定をしているチェーン店であって、消費者にも常識的にそのチェーン店ではそういうものだと理解されている場合にも、「この価格は当チェー ンの他店における通常価格です。」なんていう断り書き(打消し表示)をしないといけないのか?ということでしょう。

「他店」であることを明示しなくて、例えば、「通常価格〇〇円」だけだと、絶対にだめなのでしょうか?

私は、統一的な価格設定をしているチェーン店であって、消費者にも常識的にそのチェーン店ではそういうものだと理解されている場合であれば、特に「他店」であることを明記せず、「通常価格〇〇円」というのでもいいような気がします。

これをサポートしてくれる文献に、

笠原宏「初めての景品表示法(第6回)ー不当表示規制(有利誤認表示)-」公正取引863号(2022年)59頁

があり、そこでは、

「Q:この基準〔8週間ルール〕によると、スーパーなどが新店舗を開店した場合、その店舗での回転売り出しに二重価格表示を行うことはできませんか。

A:チェーンストア等で、各店舗が統一的な価格設定をしているような場合には、既存店が扱っているのと同一の商品については、他の要件を満たす限り、既存店の最近相当期間価格を比較対照価格として、新規店舗の安い実売価格との間で二重価格表示を行うことは可能だとされています。」

と解説されており、文字どおりに読めば、他店の価格であることは断る必要はない、と読めます。

というか、そうとしか読めません。

というわけで、元消費者庁表示対策課長の笠原氏もそうおっしゃるわけですから、ここは「他店であることの明示は不要」と解しておきましょう。

規制改革会議での消費者庁回答は、アウトレットという、あきらかにプロパー店舗と価格設定が異なる販路だから明示を要するのだ、と解すれば説明はつきます。

少なくとも、「新規開店の場合には過去の販売実績がないので、『通常価格』という表記は当然に違反だ」というのは、言い過ぎだと思います。

2026年2月23日 (月)

取引妨害の「取引」には無償の取引も含むか。

一般指定14項の取引妨害における取引には、無償の取引も含まれるでしょうか。

含まれると考えられます。

まず、条文上、有償のものに限ると明言はされていません。

一般指定14項では、

14 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害すること。」

と規定されており、たんに「取引」というだけであり、有償のものにかぎるとは明言されていません。

次に、「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」の2では、

「また,個人情報等は,消費者の属性,行動等,当該消費者個人と関係する全ての情報を含み,デジタル・プラットフォーム事業者の事業活動に利用されており,経済的価値を有する。

 消費者が,デジタル・プラットフォーム事業者が提供するサービスを利用する際に,その対価として自己の個人情報等を提供していると認められる場合は当然,消費者はデジタル・プラットフォーム事業者の「取引の相手方(取引する相手方)」に該当する。」

というように、実質無償の取引に対して、個人情報が取引の対価であるという変則技を使いつつも、優越的地位の濫用を適用することを肯定しています。

(実際、無償の取引が公取委が取り上げるに値する場合というのはほぼネット関係ですから、個人情報を対価とする場合に限り「取引」に該当するという限定的な立場に立ったとしても、実質的には独禁法の適用範囲が狭くて困るということはありません。)

また、泉水『独占禁止法』74頁の注20では、

「価格のない商品、無料サービスは『取引』(一定の『取引』分野(10条1項)等)・・・に該当するのかという論点もある。」

としたうえで、結論としては、個人情報が対価として提供される場合(上記デジタル優越ガイドライン)、間接ネットワーク効果がある場合には非価格競争の制限があるので独禁法の適用を肯定すべきとの解釈が示唆されています(といいきると、まとめとして強すぎるかもしれませんが、気になる方は原文をお読みください。ともあれこの書籍の索引の充実ぶりはものすごいです)。

(ちなみに、同注20では、

「間接ネットワーク効果・・・が強く働く市場では、顧客を多く獲得すること(顧客ベースを大きくすること)が他の市場での効用を高める。そのため事業者は消費者に金銭を支払ってでも提供したいと考えているとすると、その場合に金銭を支払うのではなく無料にすることは対価を徴収しているともいえよう。」

という部分は、よく意味がわかりませんでした。この点はまた後日考えてみたいと思います。)

さらに独禁法を離れて景表法では、DMY就職に対する措置命令(2022年4月27日)で無償のサービスも取引に当たることが前提にされています(担当官解説は公正取引869号66頁)。

というわけで、独禁法一般に「取引」を厳密に有償のものにかぎるという解釈は採られておらず、取引妨害における取引も無償の取引を含むと考えてよいと思います。

個人情報の収集も間接ネットワーク効果もない、純粋に無償の場合にどうか、という問題も理屈上はありますが、そんなものが仮にあったとしても独禁法で取り上げるに値しないので、逆に言えば、独禁法で取り上げるに値するような事件では必ず個人情報の収集や間接ネットワーク効果があるので、そのようなものも(を?)無償というなら、あるいは純粋無償のものは埒外に置くなら、「無償」の取引は「取引」に含まれる、といって大過ないと思われます。

2026年2月21日 (土)

中小受託法テキストの「参考 受託中小企業振興法の内容」の誤り

中小受託法テキストp151の「参考 受託中小企業振興法の内容」は、振興法に関する数少ない(唯一の?)解説なので実務的には重宝するのですが、その記載に誤りがあります。

p152に、「(3) 法の適用範囲 」として、

「次に、振興法と取適法とでは法の適用範囲が次の5点において異なる。

第1は、対象となる事業者の決め方である。

取適法は、規制法規であることから、その対象を限定する必要があるため、資本金等に一定の区分を設けて委託事業者と中小受託事業者の関係を決めているのに対し、振興法は単に資本金等の大小又は従業員数の大小で決めている。」

とされていますが、これは間違いですね。

中小受託法では従業員基準が導入されましたので、「従業員数の大小」も、基準になります。

さすがに、「資本金に一定の区分を設けて」の「」に従業員数を読み込むのは、振興法で従業員数を明示していることの対比からして(「のに対し」)、無茶でしょう。

ちなみにこの部分は令和6年版下請法テキストでは、

「次に、下請振興法と下請法とでは法の適用範囲が次の5点において異なる。

第1は、対象となる事業者の決め方である。

下請法は、規制法規であることから、その対象を限定する必要があるため、資本金等に一定の区分を設けて親事業者と下請事業者の関係を決めているのに対し、下請振興法は単に資本金等の大小又は従業員の大小で決めている。」

となっていました。

つまり、法律名が変わったことをのぞき、内容は変わっていません。なので明らかに見落としです。

急いで作ったのでここまで手が回らなかったのでしょうね。

お疲れ様です。

2026年1月23日 (金)

景品規制の「取引」と表示規制の「取引」は同じか?

景表法上の景品規制の「取引」と表示規制の「取引」は、同じものでしょうか。

この問題は、無償の取引が「取引」に含まれるのか、という論点において最も問題となります。

まず、景品規制の「取引」は、景表法2条3項の、

「この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」

という、「景品類」の定義の中に出てきます。

これに対して、表示規制の「取引」は、景表法2条4項の、

「この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」

という、「表示」の定義の中に出てきます。

この点、通常は、同じ法律に出てくる同じ言葉は同じ意味に解するという暗黙の了解のようなものがあり、実際、緑本第7版p51でも、表示規制の解説の中で、

「事業者と一般消費者との間にどのような関係があれば「取引」が存在するといえるのかについては、後記第3章2の景品類の定義に関する説明の中で主として記載する」

と、あたかも表示規制における「取引」は景品規制における「取引」と同じ意味であることを前提にするかのような記述がなされています。

しかしながら、景表法の「取引」がそう単純に割り切れないのは、上に条文を引用したとおり、同じ「取引」という言葉が、片や「景品類」の定義、片や「表示」の定義の中で用いられており、これら「景品類」と「表示」が別々に内閣総理大臣によって指定されることになっていることです。

結果的にいずれも同じ定義告示(「不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件」)で定義されていますが、これはほんとうにたまたまそうしただけであって、

”不当景品類及び不当表示防止法第二条三項の規定により景品類を指定する件”

”不当景品類及び不当表示防止法第二条四項の規定により表示を指定する件”

という2つの告示で指定したとしても、景表法の規定上はぜんぜんおかしくありません。

こういう景表法2条の建付けと、その中での「取引」の位置づけという形式面だけからしても、景表法においては同じ「取引」を景品規制と表示規制で異なる意味に解する余地は十分にあるといえます。

というより、異なる告示で指定しうる建付けである以上、景品規制と表示規制で「取引」が同じ意味になったときには、たまたまそうなっただけなんだ、というべきでしょう。

たしかに、運用基準レベルでは、景品規制と表示規制を区別せずに、定義告示運用基準3項が、「「自己の供給する商品又は役務の取引」について」の解釈を示していて、この「自己の供給する商品又は役務の取引」というのは、定義告示1項(景品類)の、

「不当景品類及び不当表示防止法(以下「法」という。)第二条第三項に規定する景品類とは、顧客を誘引するための手段として、方法のいかんを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に附随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、次に掲げるものをいう。」

における「自己の供給する商品又は役務の取引」と、定義告示2項(表示)の、

「2 法第二条第四項に規定する表示とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、次に掲げるものをいう。」

における「自己の供給する商品又は役務の取引」の両方をひとまとめにして説明したものだと解されます。

というわけで、運用基準上は景品規制の「取引」と表示規制の「取引」は同じ意味であるとされているというほかありません。

でも、運用基準はあくまで運用基準であって、景表法自体に根拠があるものではありません。

なので、論理的には、景品規制の「取引」と表示規制の「取引」が違ってもかまわないことになると思います。

とはいえ、運用基準の権威は実務では絶大ですし、これまでは緑本で上記のとおり両者が同じである前提での解説もあったので、あまり両者を区別して論ずべきという議論もなかったように思います。

これが、そういうわけにもいかないんじゃないかという話になってきたのが、無償の取引も「取引」なのかという論点が着目されてきたためです。

緑本p53のコラムでも紹介されていますが、この点を正面から取り上げたのが、「DYM就職」に関する措置命令(2022年4月27日)です。

この事件は、利用者(求職者)が利用するのは無料のサービスについての不当表示が、景表法の表示規制の対象となったものです。

この事件の担当官解説(公正取引869号66頁)では、無償取引も取引かの論点について、

「(2) 「無料Jの就職支援サービスに対する法適用の可否(「事業者」該当性)

景品表示法の対象となる表示は「事業者」が「自己の供給する商品又は役務の取引について」行う「表示」である (5条柱書き。) 商品又は役務を供給する主体が相手方から、金銭を受け取っていない場合に、かかる要件を満たすかが論点となる。

この点、サービス提供主体から、相手方である消費者が「無料」で、すなわち金銭的負担なくサービスの供給「(なんらかの経済的利益の供給」)を受けられる場合であっても、消費者が経済的価値を有する個人情報などを反対給付としてサービス提供主体に提供している (「反対給付を反覆継続して受ける」)場合には、サービス提供主体の行為は、「事業」に当たり、 「事業者」性が肯定されると解される。

この点、特に、本件のような就職支援サーピスは、求人側の企業と求職者の両サイドをマッチングするサービスであるという特性上(いわゆる二面市場に該当する)、どちらか一方のみでは、サービスとして成り立たず、両者が一体となって初めて成り立つものである。

このため、サービス提供主体が一般消費者から金銭を受け取っていない場合でも、一般消費者が経済的価値を有する個人情報など何らかの反対給付をサービス提供主体に提供しており、両サイドのマッチングを含めたサービスが一体として初めて成り立つものといえる場合には、サービス提供主体の行為は 「事業」に当たり、景品表示法が適用される 「事業者」 に該当することとなるものと解される。

本件において、 D Y Mが提供している役務は、①電話や面談による就職カウンセリング、 ②就職カウンセラーによる就職・転職活動支援、 ③求人情報の提供、 ④応募手続の代行等であった。同社の就職支援サービスを利用した求職者(消費者) は、これらの役務を利用するに当たり D Y Mに対して金銭を支払っていなかった。つまり、D Y Mは、求職者に対して就職支援サービスを提供しているものの、反対給付としての金銭は受けておらず、就職をあっせんした求人企業から成功報酬としての手数料を収受することにより、収益を上げていた。D Y Mは、求職者から、住所、学歴・職歴、免許・資格、アピールポイント、希望業種、勤務地、雇用形態等の詳細な個人情報の提供を受けていた。D Y Mは、求職者から得たこれらの個人情報を元に求人先企業をマッチングして、当該企業に個人情報を提供して採用面接をセッティングし、求職者が当該企業に採用されると、成功報酬としての手数料を得ていた。

これらのことから、 D Y Mが、本件役務①及び本件役務②において、求人先企業から手数料を得るためには、求職者の上記のような個人情報が不可欠なものであるといえる。このため、求人先企業から手数料を得ることと求職者から個人情報の提供を受けることは、本件役務①及び本件役務②が成り立つために不可欠な関係にあるといえることから、求職者が提供する個人情報は、 D Y Mにとって経済的な価値を有する反対給付といえ、 D Y Mが本件役務①及び本件役務②を供給する行為は「事業」に当たり、 D Y Mは、景品表示法上の「事業者」に該当すると考えられる。」

と解説されています。

(この解説では、「事業」の解釈と位置付けていますが、それは公取委の時代からそうだったからそうなっているだけで、「取引」の解釈と位置付けても結論は同じでしょう。ただ、条文上は「事業者」という用語はあっても「事業」という用語はないので、論理的にはちょと難があります。)

この事件の処理自体は、まあこういう就職率の水増し(同社主催のイベントに参加した者の就職率が95.8%以上と表示したが、実際にはそれは一時点における最も高い数値に過ぎなかった)が野放しになるのはいかにも消費者(求職者)の保護に欠けるので、妥当だったとは思います。

(でも、その理由付けとして、サービスに不可欠な「経済的価値のある個人情報」をサービスの反対給付として消費者が提供していることを挙げるのは、だったらそういう個人情報の提供がなくて消費者をだますような不当表示が将来出てきたときに対応できないように思われ、また、いかにも「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」から無理矢理引っ張ってきた感があり、いろいろ言いたいことはありますが、それはまた後日にしたいと思います。)

では、もしDYMがサービス利用に付随して求職者(消費者)に経済上の利益(景品)を提供していた場合、個人情報が不可欠な二面市場であることを理由に景品規制がおよぶと考えてよいものでしょうか、というのがここでの問題です。

この事件独自の問題点として、就職率の虚偽表示があった場合にはさすがに求職者の合理的なサービス選択を阻害しているので放置はできないのに対して、景品が法定の上限を超えていたくらいで合理的な選択を阻害していたといえるのか、という素朴な疑問があります。

まして二面市場の場合には、両サイドの需給関係やネットワーク効果の大小・方向しだいで、一方の利用料が無料(DYMのケース)とか、極端な場合になるとマイナス価格になることすらありえます。

医師の男性限定の婚活パーティの場合、女性のほうが参加料が高いのもその類です(通常は男性のほうが高い)。

それなのに、本来的に無料のDYMのようなサービスで求職者にDYMが何らかのインセンティブを提供していたら、本来無料なので値引ともいいにくく、そうすると即座に景品類だということになりかねません。

そうすると、合理的な商品選択の阻害がなく経済的には完全に合理的な経済上の利益の提供を、景品規制が禁止してしまう、ということになりかねません。

さらに、DYMを超えてより一般的な問題は、仮に無料の取引も「取引」にあたるとして、では景品規制上の「取引の価額」をどう算定するのか、ということです。

たとえばDYMのような無料の取引の場合に関係しそうなのが総付運用基準1⑷ですが、そこでは、

「(4) 景品類の限度額の算定に係る「取引の価額」は、景品類の提供者が小売業者又はサービス業者である場合は対象商品又は役務の実際の取引価格を、製造業者又は卸売業者である場合は景品類提供の実施地域における対象商品又は役務の通常の取引価格を基準とする。」

とされています。

この「実際の取引価額」を、個人情報の価値と読むのは、文言解釈として無理でしょう。

実は似たような問題がデジタル優越ガイドラインにもあって、ガイドライン案のパブコメの221番で、

「○デジタル・プラットフォーム事業者への課徴金適用の可否を明確にしてほしい。無料でサービスを提供するデジタル・プラットフォーム事業者の場合にはどのように考えるのか。(団体,弁護士)

○本考え方案(例えば2)における「対価」は,独占禁止法施行令第30条の「対価」と同義と理解してよいか。ひいては,個人情報等が対価として提供されている取引においてはかかる個人情報等の価値を金銭評価して課徴金が算定されると理解してよいか。(弁護士)

○課徴金を課す場合,個々の消費者ごとに「対価」を算定する,という立場であると理解してよいか。(弁護士)」

という質問が出たのに対して、公取委の回答は、

「優越的地位の濫用行為に係る課徴金については,個別具体的な事案に応じて,独占禁止法第20条の6の規定に基づき,算定します。」

という、事実上の回答拒否でした。

このように、景品の運用基準では無償の取引は想定されていないとうかがわれることからすると、どうも「取引」を表示規制と景品規制で別異に解釈する余地もあるのではないか、景品規制では無料の取引は「取引」にあたらないと解する余地もあるのではないか、と思われてならないのです。

ちなみに、私は取引の対価は金銭に限るべきと言っているわけではありません。

金銭に限ると言ってしまうと、物々交換が景表法の対象外になってしまいます。

そうではなくて、そもそも個人情報はサービスの反対給付とはいえない、ということです。

ほんとうの物々交換なら、サービスの反対給付としての物を金銭評価して「取引の価額」を算定するのが理論的には妥当ですし、それで何の問題もないと思います。

でも、同じように個人情報の価値を金銭評価して「取引の価額」だとするのは、そもそも理屈として間違っている(個人情報はサービスを受けるのに必要だから提供するけれど、サービスの対価ではないから)、ということです。

もし、個人情報がサービスの対価だとすると(※ちなみに上記DYMの担当官解説も、個人情報がサービスの対価だとは言っていません。「事業」性認定の一要素にしているだけです。)、たとえば個人情報をDYM自身は見れないようにして、求人企業だけが見れるようにすれば、取引当事者間での対価(個人情報)の提供はないので「取引」ではない、とか、よけいな反論(ないしはそのような(屁)理屈を盾にした脱法行為)が出てきそうな気もします。

2026年1月17日 (土)

false positive と false negative

反トラスト法の英語の文献(特に、decision theoryの観点から書かれているもの)を読むと、よく、false negative とfalse positiveという用語が出てきます。

これを、偽陰性、偽陽性と頭の中で翻訳してもいまひとつピンときませんし、false negativeを「本当はpositive」と脳内意味変換しても、もともとが病気の検査がnegative(←病気が否定されたので、よい)とかpositive(←検査にひっかかったので、悪い)とかいう文脈で使われていた言葉なので、反トラスト法の文脈ではどうもしっくりしません。

しかも、論文とか書いたものならゆっくり読めばいいのでなんとかなりますが、講演を聞いたり、自分で話したりするときには、いちいち脳内変換していたのではお手上げです。

そこで、私は以下のような絵を頭に浮かべながら読んだり聞いたりしています。

20260117-211122

上のfalse positiveは、ほんらい問題のない行為が、間違ったでっぱり(positive)により審査ではじかれるイメージです。

下のfalse negativeは、ほんらいブロックしないといけない悪い行為が、間違ったくぼみ(negative)のために審査を素通りするイメージです。

これを思いついてからは、わりと論文をすいすい読めるようになりました。

ご参考になれば幸いです。

2025年12月11日 (木)

下請法Q&A46番(金型無償保管が違法になる場合)の読み方

下請法Q&Aの46番(型等の保管)では、

「当社は,部品の製造を委託している下請事業者に,その製造に用いる金型を保管してもらっているが,不当な経済上の利益の提供要請に該当するか。」

という質問に対して、

「部品等の製造を委託し,その製造に用いる型等(金型,木型,治具,検具,製造設備等をいう。)(※1)を下請事業者に保管させている場合において,

親事業者が部品等の発注を長期間行わない等の事情(※2)があるにもかかわらず,

保管費用(自社倉庫の使用料相当額,外部倉庫の使用料,倉庫等への運送費,メンテナンス費用等の型等を保管させたことによる費用をいう。)を支払うことなく下請事業者に型等を保管させたときは,不当な経済上の利益の提供要請に該当するおそれがある。

下請事業者に部品等の発注を長期間行わない等の事情がある型等を保管させる場合には,

親事業者は,下請事業者と協議の上,

保管期間

型等を用いる部品等の発注が行われていない期間をいう。)

中に発生した保管費用を支払わなければならない(※3)。

また,型等を廃棄・回収するか,保管を継続するかについても,下請事業者と協議をする必要がある。

(※1)親事業者が所有する型等のほか,親事業者以外が所有する型等であって親事業者が事実上管理している型等を含む。

後者の例として,下請事業者が自社所有の型等を保管しているものの,その廃棄等には親事業者の承認を要する場合がある。

(※2)「親事業者が部品等の発注を長期間行わない等の事情」は,

個別事案ごとに異なるものであるが,

これまでの主な違反事例において認められたものは,次のとおりである。

1 部品等の発注を長期間行わない場合

金型等を用いて製造する製品の発注を1年間以上行わないにもかかわらず,下請事業者に当該金型等を無償で保管させていた事例

2 下請事業者が型等の廃棄や引取り等を希望している場合

下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例

3 親事業者が次回以降の具体的な発注時期を示せない場合

金型を用いて製造する製品について今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例

4 型等の再使用が想定されていない場合

型等を用いて製品が製造された後,当該木型等を改めて使用する予定がないにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該木型等を無償で保管させていた事例

(※3)保管費用の支払に関する留意点の例は,次のとおりである。

・ 親事業者の中には,「下請事業者からの請求がなければ保管費用を支払う必要はないと思っていた。」,「型等の最終稼働後1年間は無償で保管させてよいと思っていた。」などの認識を示す者がみられるが,

保管費用は下請事業者からの請求の有無にかかわらず,保管期間に応じて支払う必要がある。

・ 型等の稼働状況を常に把握することが親事業者及び下請事業者にとって過度な負担となる場合には,双方協議の上,年度ごとに保管させている型等を用いる部品等の発注状況を確認し,当該年度における保管期間に応じた保管費用をまとめて支払うことも許容される。」

と回答されています。

まず問題になるのが、(※2)の「1 部品等の発注を長期間行わない場合」の、

「金型等を用いて製造する製品の発注を1年間以上行わないにもかかわらず,下請事業者に当該金型等を無償で保管させていた場合」

というのが、どの時点を基準に言っているのか、具体的には、保管開始時(≒最後の製造が終わった時点)なのか、現時点(≒公取委調査時点)なのか、ということです。

この点については、現時点(≒公取委調査時点)からみて過去1年間発注がなければ無償保管が違法になる、という意味だと解されます。

つまり、現時点(≒公取委調査時点)からみて、保管開始時点(≒最後の製造が終わった時点)から1年間以上無償保管させていたら違法、ということです。

実際、「1」の場合の勧告例、たとえば、電気興業の勧告(2024年12月5日)のような、調査時点で長期間保管させていたために違反となった例でも、担当官解説(公正取引894号79頁)では、

「そのため、本件においては、電気興業が下請事業者に対して、金型等を用いて製造する部品を発注してから1年以上もの長期間にわたって次の発注がなく、

また、その聞に金型等の回収等や保管費用の支払といった対応を何ら行っていない場合には、

電気興業が下請事業者に当該金型等を長期間無償で保管させて不当な不利益を与えたものと認定している。」

とされており、当該勧告では、保管開始時点にその後1年間の発注予定があったかどうかを問題にするのではなく、現時点(調査時点)において「1年以上もの長期間にわたって次の発注がな」かったこと(最後の発注時点で次の発注が予定されていなかったことではなく、調査時点からみて実際に最後の発注から1年以上発注がなかったこと)で、違反と認定していることがわかります。

それに、「1」の場合をもし、最後の発注時点でその後1年間の発注が予定されていない場合と読むと、「3」の、

「金型を用いて製造する製品について今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

ともろにかぶってしまいます。

そこであらためて「2」から「3」の場合を見てみると、いずれにも、「引き続き」という文言が入っていることがわかります。

たとえば、「2」では、

「下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

が違反となるとされていますが、そうすると、「金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられ」た時点以降は直ちに「保管期間」がはじまり、「保管期間」に入っても「引き続き」保管をさせると「保管費用」を支払わないといけない(あるいは、この場合は、希望を容れて、廃棄や引取をしないといけない)ということになると考えられます。

次の「3」の、

「金型を用いて製造する製品について今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

というのも、「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態」になったら直ちに「保管期間」がはじまり、それ以降「引き続き」無償で保管をさせると違反になる、という意味だと考えられます。

次の「4」の、

「型等を用いて製品が製造された後,当該木型等を改めて使用する予定がないにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該木型等を無償で保管させていた事例」

というのも、発注の「予定がない」ことが確定したら直ちに「保管期間」がはじまり、それ以降「引き続き」無償で保管をさせると違反になる、という意味だと考えられます。

ここで、

「保管費用は下請事業者からの請求の有無にかかわらず,保管期間に応じて支払う必要がある。」

とされていることから、「保管期間」というのは、「保管費用」を支払わないといけない期間だということになるのですが、この「保管期間」というのが、

「型等を用いる部品等の発注が行われていない期間

と定義されていることには注意が必要です。

つまり、金型が物理的に下請事業者の占有下に置かれている期間すべてが「保管期間」となるのではなく、発注がない期間が「保管期間」となる、逆に言うと、発注がある期間は「保管期間」とはいわない(発注がある期間の下請事業者の占有は、受託製造行為の当然の内容である)、ということであると理解できます。

しかし、この「発注が行なわれていない期間」というのは、いかにも曖昧です。

たとえば、毎月1日にコンスタントに発注が行なわれている場合には、毎月2日~月末までを、「発注が行われていない期間」ということは、さすがにないでしょう。

では、最後の発注から次の発注までに、半年空いた場合はどうでしょう? 1年空いた場合は? 2年空いた場合は?・・・と、際限なく疑問が広がっていくのです。

そもそも、「発注」と「発注」の間の期間の長さだけをとらまえて無償保管だというのは、理屈としておかしいと思います。

というのは、発注のあと、その金型が実際に製造行為に用いられる期間があるはずだからです。

そうすると、常識的に考えて、発注から、その発注に基づく納品までは、保管費用を支払う必要はさすがにないと思います。

思考の単純化のために(あるいは、この製造行為期間の論点に気づかなかった公取委の頭に合わせて)、この製造行為期間のことはいったん措くとしても、発注から発注までにどれだけの期間が空くと「発注が行なわれていない 」ことになるのか、という問題は残ります。

そして、この点については、「1」で、

「金型等を用いて製造する製品の発注を1年間以上行わないにもかかわらず,下請事業者に当該金型等を無償で保管させていた事例」

が挙げられており、「発注を1年間以上行わない」ことが明示的に違法の要件とされているので、1年間以上発注がなければ、「発注が行われていない」とみなしてよいのでしょう。

そこでよくわからなくなるのが、果たして「2」から「4」の場合も同様に、「保管費用」を支払うべき「発注が行なわれていない期間」を、発注が1年以上行われていない期間とみていいのか、という点です。

この点、例えば、「2」の、

「下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

というのを素直に読むと、「金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられ」た時点で「保管期間」がはじまり、かかる「保管期間」開始後(=希望伝達後)に「下請事業者に当該金型を無償で保管させて」はならない、と読むのが自然なように一瞬思えます。

でも、ちょっと考えてみると、これはおかしいです。

例えば、直近の発注があって、その製造行為が終わって、納品もされて、その翌日に下請事業者が「金型を引き取ってください」との希望を伝えてきたときに、親事業者が金型を引き取るとか保管費用を支払わないといけないかというと、そんな非常識なことはないでしょう。

(「そんな非常識なことを言う下請事業者はいない」という反論はありえますが、ここで問題にしているのはQ&Aの文章の論理的な読み方なので、そのような事実論は措きます。)

そう考えると、「2」の場合には、「下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていた」というのが、「廃棄の希望をするのももっともだ」といえるような事情があることが、暗黙の前提になっていることがわかります。

実際、この「2」にあたる事例の1つであるサンケンの勧告(2023年11月30日)では、

「一部の下請事業者から長期間発注が無いこと等を理由として廃棄等の希望を伝えられていた」

と認定されており、「廃棄等の希望を伝えられていた」前提として、「長期間発注が無いこと等を理由として」という理由がちゃんと認定されているからです。

なので、「2」の、

「下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

というのは、文字通りに読むのではなくて、

長期間発注が無いこと等を理由として下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

というように、補って読むべきなのです。

そして、ここでの「長期間」というのは、「1」で「1年間」という基準が示されていることからすると、こちらの「2」の「長期間」についても、1年間と読んでおいて大きな間違いはないでしょう。

このようにして、「2」を、

1年間発注が無いこと等を理由として下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

と読み替えるとして、ではいつから保管費用を払うのか(保管期間が始まるのか)、というのが次の問題です。

そして、「2」の場合には、「希望を伝えられ」たときからの保管について保管費用を支払えばすむ、という話では、どうやらなさそうです。

というのは、(※3)に、

「保管費用は下請事業者からの請求の有無にかかわらず,保管期間に応じて支払う必要がある。」

と記載されているからです。

請求の有無にかかわらず」保管費用を払わないといけないのに、「希望を伝えられ」たときからの保管費用を払えばすむというのは、矛盾でしょう。

ですので、「2」の場合には、

「下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

というように、「伝えられ」たときから「引き続き」保管させるのが下請法違反になるかのように見えますが、保管費用については「保管期間中に」発生した費用を払わないといけないので、保管費用については(希望を伝えられたときからではなく)最後の発注から支払わないといけない、と考えるべきでしょう。

つまり、「2」の例は、そういう場合には不当な経済上の利益の提供要請が認定できるといっているだけで、保管費用の支払はあくあで「2」も「1」と共通で、「保管期間中に」発生した費用について払わないといけない、と考えるべきでしょう。

次の「3」の、

「金型を用いて製造する製品について今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

には、「1年間」という数字はありますが、これは、保管費用をいつから払うべきか(=「保管期間」はいつからはじまるか)とは無関係です。

というのは、たとえば、最後の発注があって、その直後に示せる次の発注が13か月後だとすると、それは、「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態」になっており、それ「にもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させ」ると、違法だというのが「3」の意味だと読むしかないからです。

つまり、次の発注が13か月後になるなら、金型はいったん引き取れ、さもなくば、最後の発注後からの(厳密には、当該最後の発注による製造行為が終わった時点以降の)保管費用を払え、ということです。

そしてここでも、保管費用は「保管期間中に」発生したものについて支払うべき、というのは「1」と共通とされています。

ただ、「保管期間(型等を用いる部品等の発注が行われていない期間をいう。)」の意味が「3」は「1」とも「2」とも違うと考えられます。

というのは、「3」のような、「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていた」場合には、少なくともそのような状態になった時点では「型等を用いる部品等の発注行われていない」状態になっている(=「保管期間」が始まっている)と考えるのが自然だからです。

逆にもし、「3」の場合には、「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていた」(そういうことがはっきりしていた)時点からさらに1年間は無償で保管させることができるとすると、長期間発注の見通しもないのに無償保管させられることになり、下請事業者にきわめて不利益でしょう。

つまり、「保管期間(型等を用いる部品等の発注が行われていない期間をいう。)」は、「1」の場合には、

あとから(=公取委調査時点から)振り返って1年間以上発注がない場合に、その保管期間が全部「型等を用いる部品等の発注が行われていない期間」になる

のに対して、「3」の場合には、

「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっ」た時点から開始する

と考えるべきでしょう。

たとえば、「3」のパターンで、

A発注の時点で、次のB発注は1か月後だという見通しだった

B発注の時点で、次のC発注は2か月後だという見通しだった

C発注の時点で、次のD発注は6か月後だという見通しだった

D発注の時点で、次のE発注は10か月後だという見通しだった

E発注の時点で、次のF発注は13か月後だという見通しだった

というケースにおいては、「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっ」たE発注(の製造が終わった時点)以降が「保管期間」となり、その期間の保管費用を払うべき、ということになります。

ちなみに、「3」の例とみられるサンケン勧告(2023年11月30日)では、

「①一部の下請事業者から長期間発注が無いこと等を理由として廃棄等の希望を伝えられていた、又は② サンケン電気自身も次回以降の具体的な発注時期を示せない状態になっていた

と認定されており(②)、サンデン勧告(2024年2月28日)では、

「①一部の下請事業者から長期間発注が無いこと等を理由として廃棄等の希望を伝えられていた、又は②サンケン電気自身も次回以降の具体的な発注時期を示せない状態になっていた

と認定されており(②)、住友重機ハイマテックス勧告(2024年11月21日)では、

次回以降の発注の有無又は次回以降の具体的な発注時期の見通しを示すことができない」

と認定されており、どのくらい先の発注の見通しが示せなかったのかという時期的な制限はありませんが、「3」に照らすと、おそらくこれらの事案では、少なくとも、

「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていた」(ひょっとしたら永久に見通しを示せなかったのかもしれないけれど)

ということなのでしょう。

つまり、上記「3」の「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていた」という文言からすると、仮に「13か月後に発注があることは示せる」と抗弁する発注者がいても、そのような抗弁は公取委はみとめない、と運用している、ということなのでしょう。

次の「4」の、

「型等を用いて製品が製造された後,当該木型等を改めて使用する予定がないにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該木型等を無償で保管させていた事例」

の、「使用する予定がない」という場合も、「保管期間(型等を用いる部品等の発注が行われていない期間をいう。)」は、少なくともそのような「予定がない」ことがはっきりした場合には、その時点から即時に開始する、と考えるべきでしょう。

(ちなみに、この「4」だけ、「型等を用いて製品が製造された後」と明言されていて、最後の製造行為期間中は(最後の発注後であっても)保管期間は開始しないことが明示されているのはいかにもちぐはぐな感じはしますが、それも措きます。)

なお、このQ&A46番には、なぜか、下請法運用基準第4の7の、

「7-5 型・治具の無償保管要請

(1) 親事業者は,機械部品の製造を委託している下請事業者に対し,量産終了から一定期間が経過した後も金型,木型等の型を保管させているところ,当該下請事業者からの破棄申請に対して,「自社だけで判断することは困難」などの理由で長期にわたり明確な返答を行わず,保管・メンテナンスに要する費用を考慮せず,無償で金型,木型等の型を保管させた。

(2) 親事業者は,自動車用部品の製造を委託している下請事業者に対し,自社が所有する金型,木型等の型・治具を貸与しているところ,当該自動車用部品の製造を大量に発注する時期を終えた後,当該部品の発注を長期間行わないにもかかわらず,無償で金型,木型等の型・治具を保管させた。」

という、量産期間経過後の無償保管の例がありません。

その理由は不明ですが、ともかく実例として、

「当該金型等を用いて製造する自動車用部品の製造を大量に発注する時期を終えた後、合計415個の金型等を自己のために無償で保管させ〔た〕」

という事実だけで違反認定された愛知機械勧告(2025年2月18日)や、

「令和5年4月1日から令和6年10月25日まで、当該金型を用いて製造する自動車用ばね等の製造を大量に発注する時期を終えた後、合計608型の金型を自己のために無償で保管させ〔た〕」

という事実だけで違反認定された中央発條勧告(2025年2月18日)や、

「令和5年10月1日から令和7年4月30日までの間、当該金型等を用いて製造する自動車用部品の製造を大量に発注する時期を終えた後、合計1,570個の金型等を自己のために無償で保管させ〔た〕」

という事実だけで違反認定されたいずみ工業勧告(2025年7月16日)がありますので、大量発注終了も独立の違反要件とみるべきでしょう。

といいますか、「違反要件」というのはちょっと不正確で、Q46番にも、「親事業者が部品等の発注を長期間行わないの事情(※2)」と、オープンエンドな形になっていて、いくらでも追加できます。

また、そもそも論として「親事業者が部品等の発注を長期間行わないの事情(※2)」は条文のどの要件にかかわるのかというと、下請法4条2項柱書の「下請事業者の利益を不当に害し」に関する認定です。

それは担当官解説をみてもわかりますし、担当官解説をよむと、これらの「下請事業者の利益を不当に害し」の要件の認定のために、当該案件ではこういう事実があったから「下請事業者の利益を不当に害し」の要件を認定したのだ、という感じで、ともかく不利益性を根拠づける事実を拾い集めて認定しているだけで、かなり行き当たりばったりな感じがします。

なので、Q46の「1」~「4」も理論的に整理されておらず、といいますか、そもそもそのような行き当たりばったりの認定を羅列しただけで理論的に統一して説明しようというつもりしかなく、所詮そのようなものに過ぎない(それ以上理論的に詮索しても詮無いことである)とわりきるほかないように思われます。

最後に、(※3)の、

「型等の最終稼働後1年間は無償で保管させてよいと思っていた。」

というのが誤解だというのには、確かにそういう誤解を招きそうなQ46の記載なので、注意が必要です。

保管費用を支払うべき「保管期間(型等を用いる部品等の発注が行われていない期間をいう。)は、「1」の場合には、前述のとおり、

調査時点からさかのぼって1年間発注がなければ、最後の発注(に基づく製造完了)時点からあとの保管させていた期間がまるまる「保管期間」になる(最終発注(に基づく製造完了)直後から保管費用を払わないといけない)

のであり、「2」の場合には、

1年間(以上)発注が無いこと等を理由として下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,

引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

と読み替えたうえで、

その1年間(以上)発注がなかった期間の始期(つまり、最後の発注(に基づく製造完了))から「保管期間」がはじまるのであり

(引取希望はあくまで不利益性の補強事情にすぎない)

のであり、「3」の場合は、

「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態」になった時点で保管期間が開始する

のであり、「4」の場合は、

「当該木型等を改めて使用する予定がない」状態になったら即座に保管期間が開始する

のですから、いずれの場合も最終発注から1年間は無償保管させられることになりません。

でも確かに、「1」の、

「金型等を用いて製造する製品の発注を1年間以上行わないにもかかわらず,下請事業者に当該金型等を無償で保管させていた事例」

というのをぼーっと読むと、逆に1年間は無償保管させられそうな気にもなりますが、実際の勧告例では前述のとおり調査時点からさかのぼって1年間発注がなければ無償保管と認定しているのであって、最終発注から1年間の無償保管を認めているわけではありません。

気を付けましょう。

ざっくりとまとめるなら、

①今後発注が見込まれないなら直ちに保管料を支払う(Q46(※2)「2」「3」「4」)、

②「発注するかも」と思いながら1年間過ぎてしまったときには、さかのぼって1年分支払う(同「1」)、

③量産期間が過ぎたら保管料を支払う(下請法運用基準)、

といったところかと思います。

2025年12月 7日 (日)

中小受託法テキストQ64(運送以外の役務の負担)とQ65(知的財産権の譲渡)との矛盾?

中小受託法テキストQ64では、

「Q64: 運送に係る役務提供委託又は特定運送委託において、中小受託事業者に対して運送の役務以外の役務(荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等)を提供させることを含んで発注する場合に、「製造委託等代金の額」に運送の役務以外の役務の対価を含めた金額を4条明示することは問題ないか。

A: 運送に係る役務提供委託又は特定運送委託をした委託事業者が、

中小受託事業者に対し、

運送の役務を提供させることに加えて、

運送の役務以外の役務

(荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等)

を提供させることを含んで発注する場合、

委託事業者は、

「中小受託事業者の給付の内容」及び「製造委託等代金の額」を4条明示するに当たって、

運送の役務の内容及びその対価を、運送の役務以外の役務の内容及びその対価と区別して明示しなければならないため、

「製造委託等代金の額」に運送の役務以外の役務の対価を含めた金額を明示することは認められない。

なお、運送の役務以外の役務を提供させることが不当な経済上の利益の提供要請として本法上問題となることがあるため、

委託事業者は、

本法違反を未然に防止するため、

運送の役務以外の役務の内容及びその対価等の条件についてあらかじめ明確にして、

中小受託事業者との間で十分協議した上で決定し、

その具体的な内容についても発注時点で明示しておくことが必要である。」

という設問が新設されました。

これはこれで大事なことをいっているのですが、問題は次のQ65との矛盾です。

すなわち、Q65(実質的には令和6年下請法テキストQ46と同じ)では、

「Q65: 情報成果物作成委託において、

知的財産権が

委託事業者又は中小受託事業者に発生する場合、

いずれの場合においても、

契約において

知的財産権は委託事業者に帰属することとしている。

この場合も4条明示する際にその旨明示する必要があるか。

A: 中小受託事業者に知的財産権が発生する場合、

「給付の内容」に含めて当該知的財産権を委託事業者に譲渡・許諾させるのであれば、

「給付の内容」の一部として、

当該知的財産権の譲渡・許諾の範囲を4条明示する必要がある。

また、その場合には、当該知的財産権の譲渡・許諾に係る対価を代金に加える必要がある。」

とされています。

つまり、Q65では、知的財産権の対価は「代金に加える必要がある」とされているだけで、Q64のように、情報成果物作成の対価と「区別して明示しなければならない」とはされていません。

まず言えることは、情報成果物作成委託の場合に知的財産権の額を別に分けて書く必要がないことはQ64から明らかというべきでしょう。

人によっては、

「Q65では『代金に加える必要がある』と言っているだけで、『区別して明示しなければならない』と言っていないわけではないのでは?」

という人がいるかもしれませんが、そんな厳密な読み方をしていたら、基本的におおらかな発想で書かれている下請法テキストは論理矛盾だらけで崩壊してしまいます。

というわけで、Q64ができたからといってそれにQ65を引き寄せて、知的財産権の対価を分けて書かないといけないと考える必要はないと思います。

実際問題としても、情報成果物に含まれる知的財産権なんて、財産的価値はほとんどないか、算定困難なことがほとんどですから、あえて書こうとすると、なかなか大変です。

これに対して、運送に関連する運送以外の役務は、ふつうの役務ですから、対価を分けて書くことに支障はないはずです。

というわけで、Q64とQ65では、対価を分けて書く容易性と必要性のうえで顕著な差があるので、このような差が設けられたことにも、実質的な理由があるとは一応いえそうです。

ですが、下請法は形式的に解釈することが基本ですし、明示規則(今の3条規則)に何も書いていないことをはたして解釈で回していってしまっていいものか、もう少し論理的な説明をすべきでないか、という点も問題となります。

1つの可能性は、別途対価を請求する対象それ自体が下請法の対象かどうかで区別する、という考え方です。(下に述べるとおり、私は否定的です。)

この考え方からすると、Q64の、運送以外の役務は、それ自体は(役務の再委託でないかぎり)下請法の対象にはならないため、 下請法の対象とは別に分けて記載することになります。

これに対して、Q65は、情報成果物が含む知的財産権の譲渡はそれ自体下請法の対象なので、あえて分けて書く必要はなく合算してよい、というように整理します。

ですが、この説明は、「情報成果物が含む知的財産権の譲渡はそれ自体下請法の対象」だという説明自体に難があります。

というのは、知的財産権の譲渡自体は下請法の対象ではないといわざるをえないからです。

知的財産権が何らかの有体物(製品でも、報告書でも)と一体化(化体)していれば、情報成果「物」といえますが、そのような有体物と一体化していないたんなる情報(知的財産権)は、情報成果物にはあたりようがありません。

というわけで、この考え方は取りえません。

そのように考えると、Q64とQ65は、論理的には矛盾すると言わざるを得ず、実務上の別途記載の容易性と必要性の差にかんがみて、差が設けられている、ということにすぎないのだと思われます。

あるいは、公取委は、Q65はあとで付け加えたので、Q64との矛盾点なんて気にもしていない(気づいていない)だけなのかもしれません。

2025年12月 6日 (土)

着荷主の指示による委託外作業に関する中小受託法テキストQ42の物足りなさ

中小受託法テキストQ42では、

「Q42: 当社が特定運送委託した中小受託事業者が、到達地において、当社の取引先(着荷主)の要請により、委託内容にない荷下ろし作業や長時間の荷待ちを無償で行う場合があるが、発注者である当社が本法を遵守するために留意すべき点はなにか。」

という質問に対して、

「A: 運送の役務を提供する中小受託事業者が、着荷主側の要請により委託内容にはない荷役又は荷待ちを余儀なくされた場合であっても、例えば、着荷主側から荷役等の要請を受けた当該中小受託事業者が委託事業者に対してその対応の要否を確認し、委託事業者の要請に基づいて荷役又は荷待ちを行った場合など、取引の実態に照らして、委託事業者が中小受託事業者に対し経済上の利益を「提供させ」、又は給付の内容を「変更させ」たといえる場合には、不当な経済上の利益の提供要請又は不当な給付内容の変更として本法上問題となることがある。

本法違反を未然に防止するためには、委託事業者は、中小受託事業者との間で、着荷主が当該中小受託事業者に対して荷役等の要請をした場合に当該中小受託事者が提供するべき役務があるときは、その内容及び対価等の条件についてあらかじめ明確にして、中小受託事業者との間で十分協議した上で決定し、その具体的な内容及び対価等の条件について発注時点で明示しておくことが必要である(※対価については算定方法による明示も可能)。」

と回答されています。

この前半の部分が言っていることはわかるのですが、論理的に後半とつながっていないと思います。

前半で、

「例えば、着荷主側から荷役等の要請を受けた当該中小受託事業者が委託事業者に対してその対応の要否を確認し、委託事業者の要請に基づいて荷役又は荷待ちを行った場合など、取引の実態に照らして、委託事業者が中小受託事業者に対し経済上の利益を「提供させ」、又は給付の内容を「変更させ」たといえる場合」

に問題となるといえば、違反を避けるための最も確実な回答は、中小受託事業者からの対応の要否については回答しない(「うちは知らん」という)、ということになるのではないでしょうか。

前半のようにいうのであれば、後半はこのようにはっきりと言ってあげないと伝わりません。

さらにいえば、どれだけ、

「委託事業者〔が〕、中小受託事業者との間で、着荷主が当該中小受託事業者に対して荷役等の要請をした場合に当該中小受託事者が提供するべき役務があるときは、その内容及び対価等の条件についてあらかじめ明確にして、中小受託事業者との間で十分協議した上で決定し、その具体的な内容及び対価等の条件について発注時点で明示

したとしても、着荷主が「委託内容にない荷下ろし作業や長時間の荷待ち 」を中小受託事業者にさせようとすることは防止できないと思います。

着荷主にしてみれば、委託事業者と中小受託事業者との間にそのような「明示」があったかとか、「委託内容」の詳細なんて、知りようもないからです。

なので、必要なのは中小受託事業者に対する取引条件の「明示」ではなく、中小受託事業者に「もし着荷主から委託内容にない荷下ろし作業を依頼されても、やらなくていいよ」とはっきり言ってあげることではないかと思います。

あるいは、こちらのほうをお勧めしますが、発荷主から着荷主に対して、運送業者への委託内容を伝えて、どこまで運送業者にやってもらえるのか、どこからはやってもらえないのかを、あらかじめきちんと伝えておくことだと思います。

そうでなく、上記回答の後半のような対応(発荷主から運送業者への取引条件の明示を求める対応)だと、結局、諾否の判断を全部運送業者に丸投げ、ということになってしまいます。

ひょっとしたら公取委は、「着荷主と運送業者との間には取引はないのだから取引上の優劣関係もなく、運送業者は委託の範囲外だと思えば容易に断れるはずだ(断れないのは初荷主が取引条件を明示しないからだ)」という発想なのかもしれません。

そうでないと、「発荷主から運送業者に取引条件を明示していれば問題は起こらないはずだ」といった上記回答後半部分のような発想にはならないと思います。

というわけで、発荷主としては、もしこのような事態が起こったら、着荷主に対してはっきりと、「委託の範囲外なのでやらせないでください」と伝えるのが、リスク回避としては最も適当だと思います。

少なくとも、上記回答後半部分のような対応では、運送業者から問い合わせがあったときの対応にはなっていません。

別の角度から言うと、前半部分から論理的に、運送業者からの問い合わせに「うちは知らん」といった回答をすることは、リスクがあると思います。

というのは、「うちは知らん」という回答は、少なくとも言外に、

「お前(運送業者)が着荷主と話し合って決めろ」

という意味を含んでおり、これだけで不当な経済上の利益の提供要請があったと認定される可能性があるからです。

スーパーが納入業者に協賛金の提供を依頼する場合、依頼する側としては、「あくまで任意であり、協力してくれる人だけ協力してくれればいい」と思って依頼書を送ることがありますが、それでも十分濫用になります。

ということは、

「うちは知らん」

≒「お前(運送業者)が着荷主と話し合って決めろ」

≒お前がやりたいならやれ

=利益提供の依頼あり

というように認定される可能性が高い、ということです。

というわけで、もし運送業者からこのような問い合わせを受けたら、発荷主は、着荷主に電話を変わってもらって、「それは委託の内容に入っていないのでやらせないでください。」と伝えるべきでしょう。

このようなことをいろいろ考えてみて感じるのは、特定運送委託は発荷主と運送業者との力関係だけを考えていて、着荷主と運送業者との力関係や、発荷主と着荷主との力関係を考慮していないな、ということです。

中小受託法は、資本金と従業員数で適用関係を決めていることもあって、取引関係を(優越的地位の濫用などと比べて)形式的に認定する傾向がありますが、実態に即した柔軟な解釈(とQ&A)も、もっとあっていいのではないかという気がします。

2025年12月 5日 (金)

運送品の所有権と役務提供委託との関係に関する下請法テキスト旧Q22の削除について

令和6年版の下請法テキストQ22では、

「Q22: 鉄鋼メーカーが顧客への製品の運送を運送業者に委託した場合には、本法の対象となるか。

A: 鉄鋼メーカーが顧客渡しの契約で製品を販売している場合など、

運送中の製品の所有権が鉄鋼メーカーにあるときは、

鉄鋼メーカーは自己の所有物の運送を他の事業者に委託しているに過ぎず、

当該役務は自ら用いる役務であるので、役務提供委託には該当せず、本法の対象とはならない。

一方、運送中の製品の所有権が既に顧客に移っている場合で、顧客から有償で運送を請け負う場合には、

他者に提供する役務を他の事業者に委託することになるので、役務提供委託に該当する。」

という設問があったのですが、最新の令和7年版からは削除されています。

私は以前から、運送中の所有権の帰属で下請法の適用の有無が決まるなんておかしいと言い続けていたので、まちがったQ&Aが削除されたのは喜ばしい限りです。

とはいえ、これは公取委が間違いを認めて削除したというよりは、特定運送委託が中小受託法の対象になったからなのでしょう。

改正後の中小受託法で、

「鉄鋼メーカーが顧客への製品の運送を運送業者に委託した場合には、本法の対象となるか。」

なんて質問したら、対象になるに決まっています。

特定運送委託の定義(2条5項)をみても、

「事業者が業として行う販売、業として請け負う製造若しくは業として請け負う修理の目的物たる物品又は業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、若しくは化体された物品

当該販売、製造、修理又は作成における取引の相手方

(当該相手方が指定する者を含む。)

に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」

であり、販売の目的物であれ製造の目的物であれ、運送中の目的物の所有権の帰属を問題にしていないことはあきらかでしょう。

運送中の目的物の所有権が運送委託者にあったとしても、その目的物の所有権が最終的に(たとえば割賦代金完済時に)顧客に帰属するのであれば、それを「販売・・・の目的物」といって何の支障もないでしょう。

(これに対して、一貫して所有権が運送委託者にあるのであれば、「販売」とはいえず、特定運送委託にはあたらないのでしょう。)

製造の目的物の場合も同じでしょう。

さらに、修理の目的物の運送も特定運送委託にあたることからすれば(修理の目的物の所有権は一貫して着荷主にある)、なおさら、販売の目的物の運送中の所有権を云々するのはナンセンスでしょう。

情報成果物を化体した物品についても、物品自体の所有権は問わないのは明らかでしょう。

(さらにいえば、情報成果物の場合には、情報成果物にかかる知的財産権の帰属も中小受託法の適用の有無には関係ありません。)

ただ、仮にQ22が削除された理由が特定運送委託が中小受託法の対象になったからであり、運送中の目的物の所有権が顧客(着荷主)に帰属する場合には役務提供委託に該当するという立場を公取が変えていないとすると、特定運送委託と役務提供委託の重畳適用という、理屈としては興味深い論点が出てきます。

これについてはまた後日考えたいと思います。

«レンタル業者がレンタル品を顧客に送る運送の委託と特定運送委託(中小受託法)

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