出版のお知らせ

このたび、第一法規から、
 
『製造も広告担当も知っておきたい 景品表示法対応ガイドブック』
 
という書籍を出版させていただくことになりました。
 
書誌情報は、こちらです。

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景表法の解説書はたくさんありますが、はじめて手に取るには気が引ける大部なものが多いので、法学部出身ではない人でも、景表法を勉強する必要に迫られたときに最初に手にしていただける入門書をめざして書きました。本文250頁くらいです。
 
ですがそれと同時に、景表法の表示規制は、法律的な発想がないと「なんでもあり」、あるいは、「常識で判断」というだけ、ということにもなりかねず、法的思考(体系的思考、論理的思考、一般化・抽象化)も大事だよということをにじませながら書いたつもりです。
 
景品規制は、細かいことを説明しだすときりがないのですが、実務で繰り返し問題になる重要論点(割引券の問題など)を中心に、それなりに踏み込んで書いたつもりです。
 
入門書ですから、基本的には、消費者庁の実際の運用を紹介することに重点を置いていますが、それでも、(このブログほどではないですが)消費者庁の解釈のおかしなところも指摘しています。
 
そのほか、訴えたいことは「はしがき」に書きましたが、裏面の帯にも引用していただいた「はしがき」の一部を引用しますと、
 
「この本では、「いかに消費者への訴求力を落とさずに、消費者庁に摘発されないぎりぎりセーフの広告を作るか」といった不誠実な態度の読者は、はなから想定していない。
 
この本は、あくまでまじめに景表法をまなぼうとする、あなたのための本である。」
 
と、いうことです。
 
興味のあるかたはぜひ、書店で手に取っていただければと思います。
 
7月24日の発売です。

2018年7月29日 (日)

マクドナルドへの措置命令について

マクドナルドに対して7月24日、優良誤認で措置命令が出ました
 
「東京ローストビーフバーガー」などの商品に成形肉を使っていた、ということです。
 
しかしこの事件、なんとも評価がむずかしい事件です。
 
措置命令を読むと、
 
「ローストされた牛赤身の肉塊をスライスする映像を放送」
 
するなどした表示が、
 
「あたかも、本件料理に使用されている「ローストビーフ」と称する料理には、牛のブロック肉を使用しているかのように示す表示」
 
であるとして、不当表示だと認定されています。
 
たしかに命令書の別表をみると、肉の塊を包丁で切っている写真が載っています。
 
ところが措置命令をよくみると、肉の塊を包丁で切る映像だけでなく、商品(「東京ローストビーフバーガー」)の写真そのものも、不当表示としてあげられています。
 
ではこの事件、いったい何がいけなかったのでしょう。
 
わたしはこの事件を最初に報道でみたとき、フォルクスが成形肉を「ステーキ」として提供していた事件を思い出しました(2005年11月15日排除命令)。
 
このフォルクス事件では、「ビーフステーキ」などのメニュー名が、
 
「あたかも,当該料理に使用している肉は,牛の生肉の切り身であるかのよう」
 
な表示であり、
 
「実際には,牛の成型肉(牛の生肉,脂身等を人工的に結着し,形状を整えたもの)であった。」
 
ので不当表示だ、とされました。
 
つまり、「ステーキ」という言葉は牛の生肉の切り身を焼いた料理を意味するのだから、成形肉を焼いた料理は「ステーキ」と呼んではいけない、という理屈です。
 
あくまで、「ステーキ」という言葉の意味の問題であることが、ポイントです。
 
わたしはこのフォルクスの事件が報道されたとき、まあ確かにステーキって、肉の塊を切って焼いたものっていうイメージがあるから、そういう解釈もあるのかな、と思いました。
 
といった過去の経緯も考えると、今回のマクドナルドの事件でも、「ローストビーフ」という言葉の意味が問題とされた可能性は大いにあります。
 
でも、「ローストビーフ」の意味からして、これはやや微妙です。
 
たとえば『広辞苑』では、「ローストビーフ」は、
 
「蒸焼にした牛肉」
 
とだけ説明してあり、固まり肉でなければならないとはされていません。
 
次に『新明解国語辞典』では、「ロースト」の説明として、
 
「牛肉や鶏肉などを焼くか蒸焼きにすること(した料理)。「-ビーフ5⃣・-チキン5⃣4⃣」
 
と説明されており、固まり肉であることを要求していません。
 
これに対して『大辞林』では、「ローストビーフ」を、
 
「牛のかたまり肉を天火で焼いた料理。」
 
と説明されています。
 
まあ確かに、ローストビーフのイメージは固まり肉を焼くか蒸すかしたもの、というイメージはわからなくもありません。
 
なので、もし今回の措置命令が「ローストビーフ」をそのような意味だと解釈して(いわばフォルクス事件で「ステーキ」は一枚肉を焼いたものに限ると解釈したのと同様に)、成形肉を使ってはいけない、と考えたのなら、先例にしたがった判断ということもできそうです。
 
問題は、措置命令が違反だと明示している「ローストされた牛赤身の肉塊をスライスする映像」です。
 
こういった映像一般が不当表示になるとすると、かなり広告実務への影響が大きいのではないでしょうか。
 
こういう、大きな塊肉を豪快にスライスするような映像って、広告宣伝では普通にイメージ映像として使われそうですよね。
 
今回の命令は、そういうイメージ映像もだめだ、とはっきり言っています。
 
「肉汁のしたたる大ぶりの塊肉を豪快にナイフでカットする映像を流すんだから、実際の商品もそうやって作れ!」
 
というのは、表示と実際を厳密に一致させるという意味では間違っていないのかもしれません。
 
でも、それってちょっと、広告の表現の幅を狭めてしまいすぎないでしょうか。
 
たとえばレストランのメニューの写真や食品サンプル(蠟でできた本物そっくりのサンプル)をみて、大きくて立派なエビフライだったので注文したら実物はずいぶん小さかった、というような経験って、誰でも一度や二度はしているのではないでしょうか。
 
インターネットの広告でも、こういうイメージ的な表現はいくらでもありそうです。
 
それも不当表示だというのも一つの見解ですが、法律で取り締まらないといけないものなのかなあという気がします。
 
ともあれ、どこまでのイメージ映像が広告上一般に許される誇張なのか、今後は厳しく問われることになりそうです。

2018年7月27日 (金)

【お知らせ】会社法務A2Zに寄稿しました

第一法規が出版するビジネス法律雑誌「会社法務A2Z」の8月号に、
 
「最近の景表法違反事例の傾向と企業法務上の留意点」
 
という記事を執筆させていただきました。

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最近の消費者庁は、イケイケドンドン、で、とても興味深い事例が多いです。

今回の執筆のためにあらためて措置命令をじっくり読みなおしてみて、改めて気づかされることも多々ありました。

ご興味のある方はご一読いただけると嬉しいです。

2018年7月11日 (水)

老人ホーム「イリーゼ」に対する措置命令について

HITOWAケアサービス(株)という、老人ホーム運営会社が、7月3日、老人ホーム告示違反で措置命令を受けました
 
違反の内容は、パンフレットに、
 
「終の棲家として暮らせる重介護度の方へのケア」
 
「寝たきりなど要介護度が思い方もお過ごしいただくことができます。」
 
「ご希望の方には、医療機関と連携しご家族様のお気持ちに寄り添いながら看取り介護にも対応しております。」
 
と記載していたのに、実際には、
 
「入居者の行動が、
 
他の入居者又は自社の従業員の生命若しくは身体に危害を及ぼし
 
又は
 
その切迫したおそれがある場合であって、
 
イリーゼにおける通常の介護方法又は接遇方法ではこれを防止することができないときは、
 
当該入居者との入居契約を解除すること」
 
があった、というのが、老人ホーム告示6項違反とされました。
 
老人ホーム告示6項では、
 
「有料老人ホームにおいて、
 
終身にわたって入居者が居住し、
 
又は
 
介護サービスの提供を受けられるかのような表示であって、
 
入居者の状態によっては、
 
当該入居者が当該有料老人ホームにおいて終身にわたって居住し、又は介護サービスの提供を受けられない場合があるにもかかわらず、
 
そのことが明りょうに記載されていないもの」
 
が、不当表示として指定されています。
 
しかし、これって、事業者に厳しすぎないでしょうか。
 
告示6項の、
 
「入居者の状態によっては」
 
というところからイメージされるのは、要介護度が重くなったとか、本人の健康状態の悪化とか、そういうことなんじゃないでしょうか。
 
これに対して、本件の「実際のところ」は、
 
「入居者の行動が、他の入居者又は自社の従業員の生命若しくは身体に危害を及ぼし」
 
というようなことだった、ということです。
 
でも入居者の行動が人の生命身体に危害を及ぼす場合に退去させられることがあるなんて、あたりまえのことのような気がします。
 
それをいちいち明確に表示しないと不当表示というのは、告示6項の読み方として、ちょっと厳しすぎるように思うのです。
 
そして措置命令の「実際には」の認定は、その書き方からあきらかに、入居契約の文言のようにみえます。
 
でも、本件でいちばん大事なのは、入居契約の文言ではなくて、実際にどうだったか、ということなんじゃないでしょうか。
 
つまり、実際に解除した事例があったのか、あったとして、ほんとうに周りの人に危害を加えるおそれがあったのか、ということが大事なははずです。
 
わたしは常々、
 
「契約書で消費者に不利な条項はきちんと広告で表示しておかないと不当表示になりますよ」
 
と説明していますし、その意味で、本件措置命令は、ありうる判断だとは思います。
 
たとえば、入院保険の約款で、入院給付金の条件に、パンフレットに記載がないような条件があるような場合です。
 
事例としては、日本生命のがん保険のパンフレットが公取委の排除命令の対象になったものがあります(2003年)。
 
でも、人に危害を加えるおそれがある場合には退去させることがあるというのはあたりまえのことであり、それを表示しておかないと不当表示になる、というのはちょっと厳しすぎるように思うのです。
 
本件は指定告示の事件で(なので課徴金もかかりません)、老人ホーム以外には理屈の上では関係ない事件ですが、告示6項自体は景表法の一般論からそれほどはずれた規定ぶりではないので、考え方としては、優良誤認表示や有利誤認表示にも適用があったとしてもおかしくないと思います。
 
たとえばアパートの賃貸借契約で、退去時に敷金から床面積に応じた清掃費を控除する、なんていうのも、不動産屋さんの広告に明示しないといけないんでしょうか?
 
重要事項説明書に記載するのでは不十分なのでしょうか?
 
というわけで、約款や契約書を使って消費者と取引をしている事業者の方は、いま一度、広告で表示すべきような条項がないか、きびしい目で点検することをお勧めします。

2018年7月 6日 (金)

「携帯電話市場における競争政策上の課題について(平成30 年度調査)」について

6月28日に公取委から掲題の報告書が出ました
 
あまりにひどい内容で、絶句しました。
 
このところの公取委の報告書は、
 
ビッグデータの報告書では非常に意欲的な議論を展開し、
 
LNGの報告書では緻密な情報収集できわめて説得力のある議論を展開し、
 
フリーランスの報告書では今まで光の当たらなかった分野に切り込み、
 
と、個人的には非常に高く評価していたのですが、この携帯電話報告書の内容は、とても残念です。
 
2年縛りや4年縛りが独禁法違反になりうるというのが大々的に報道されていますが、その根拠が今まで聞いたことがないようなものばかりで、きわめて薄弱です。
 
たとえば、端末とのセット販売について、
 
「端末市場において,MNO各社が販売する端末のシェアは約9割であり,また,前記販売方法〔セット販売〕がMNO各社によって並行して採られているという状況を踏まえれば,前記販売方法〔セット販売〕が,他の事業者の事業活動を困難にさせる場合には,独占禁止法上問題となるおそれがある(私的独占等)。
 
この場合,MNO相互の意思の連絡が無く,MNO各社の個別の判断に基づくものであったとしても,それぞれの行為が独占禁止法上問題となるおそれがある。」
 
というように、市場シェアが高い事業者(端末シェア9割)の間で並行的な行為が行われている場合にはまとめて市場支配力をみるという議論など、欧州のcollective dominanceの議論をほうふつとさせますが、日本ではそんな議論はありません。
 
(まあ、議論くらいは誰かがしてるかもしれませんが、事件はありません。)
 
その他、そもそもセット販売がどのように反競争効果を持つかについて、同報告書ではわずかに、
 
「通信と端末のセット販売において端末代金を大幅に値引く販売方法は,
 
端末の大幅な割引に誘引される消費者をそのような販売方法を採ることが可能なMNO3社との契約へ誘引するため,
 
MVNOに対し,MNOは競争上優位な地位を獲得する。」
 
というだけです。
 
でも、それほどセット販売が競争優位につながるなら、MVNOもそうするはずであり、そうしないのは、そうする必要がないだけなんじゃないでしょうか。
 
どうしてもセット販売が必要なら、MVNOも端末を仕入れたり、端末を別途購入した消費者に対して端末補助金として現金を渡せば、セット販売と同等の経済効果が出るはずであり、それをしないのは、そんな迂遠なことをしなくても、通話料を安くすることで十分戦えるからなんじゃないでしょうか。
 
MVNOがセット販売ないしセット販売と経済的に同等の販売方法を取れない法律上その他の制限でもあるんでしょうか。
 
2年縛りについては、
 
「独占禁止法の観点からは,
 
2年縛りのないプランの料金が2年縛りを正当化するためだけに名目上設定されたもので,実体のある価格と認められず,
 
全体としてみて利用者を2年間拘束すること以外に合理的な目的はないと判断される場合に,
 
他の事業者の事業活動を困難にさせるときには,
 
独占禁止法上問題となるおそれがある(私的独占,取引妨害等)。」
 
とされていますが、何が言いたいのかさっぱりわかりません。
 
これだと、2年間拘束すること自体が違法(当然違法)、といっているかのようです。
 
それに、ほかの部分にも繰り返し出てくるのですが、
 
「他の事業者の事業活動を困難にさせるときには,」
 
といっても、ただそういっているだけだり、どのようなメカニズムで他の事業者の事業活動を困難にするというのか、何の説明もありません。
 
たとえば、MVNOも2年縛りをすればいいじゃないか、という反論がすぐに思いつきますし、MVNOが2年縛りをしたときにMNOがやるのとなぜ違う評価がなされるのか、本報告書の説明からはわかりません。
 
それに、ここで取引妨害を持ち出すのも大きな問題です。
 
というのは、取引妨害は行為要件による縛りがなく、かつ、市場競争への悪影響も不要ということで、
 
「困ったときの取引妨害」
 
と揶揄されるくらい、なんでも違法にできてしまう、非常に取扱注意の条文です。
 
そこで、こういう「なんでもありじゃないか」という批判に対して、行為がそれ自体不当なものに限定しているので問題はないんだ、と反論されることがあるのですが、2年縛りのどこが、それ自体が不当な競争手段といえるのか、わたしにはさっぱりわかりません。
 
こういう報告書がでると、排他条件付取引はいうにおよばず、たんなる長期間の契約(しかもたった2年!)まで独禁法違反になりかねず、おおいに問題です。
 
下取りした中古端末を国内で販売させないようにすることが独禁法上問題だというのが平成28年の報告書でも指摘されたのですが、このとき、ある携帯電話会社の法務の人に話を聞いたら、
 
もともと中古端末の大部分は事業者からのものであり、消費者からの下取りなんて全体からみたらわずかなもので、しかも消費者が使ったものは荒く使われていることが多いから国内では流通させないようにしているだけで、競争制限のつもりはぜんぜんない。
 
でも公取委が中古端末の国内転売制限をやめろというなら、やめますけどね(べつにビジネス上困ることもないので。)
 
という話でした。
 
つまり、公取委の指摘は、ぜんぜんピントがずれている、ということです。
 
今回の報告書でも中古端末の販売制限が取り上げられており、
 
「特に,4年縛りを含め,MNOの端末下取りプログラムを利用する消費者が多い場合に,
 
MNOが下取りした端末について,
 
上記のようにその販売先の事業者に対して国内市場への販売を制限したり,
 
国内で中古端末を販売する特定の事業者に対して販売しない又は著しく不利な条件で販売したりするときには
 
独占禁止法上問題となりやすい。」
 
と述べられていますが、端末下取りプログラムの利用者が「多い」として、そこから中古市場に流れるものが全体のどれだけなのかという視点が、まったくみえません。
 
この報告書が依拠するデータは、要するに各社の市場シェアと消費者へのアンケートだけであり、よくこれだけ薄弱な根拠でこれだけ思い切ったことがいえるなぁと、ほとんどあきれるほかありません。
 
この報告書の中には、「スイッチングコスト」とか「現状維持バイアス」とか、経済学の用語がちらほら出てきますが、ほんとうに意味を分かって使っているのでしょうか。
 
少なくとも、「スイッチングコスト」と「現状維持バイアス」と高い市場シェア(でも1社で過半ところはどこにもない)、だけで、2年の契約が独禁法違反だという結論をみちびくなんて、たいへん乱暴な議論です。
 
この報告書を見ていると、携帯電話市場には、ほかの市場とはちがった独禁法があるんだ、といわんばかりです。
 
(ひょっとしたら公取の本音はそうなのかもしれません。←ブラックジョークのつもり)
 
でも、何の説得的な説明もなしに、2年の契約が取引妨害だという報告書が出たら、それが独禁法一般に適用されるという議論が出てきてもおかしくないでしょう(法律論とは、ほんらい、そういうものでしょう。)
 
この報告書の概要を報道で知ったときは、
 
「また公取は、事件として立件できない(したら裁判所で負ける)行為を実態調査報告書とかでコントロールしようとして、姑息だなぁ」
 
と思いましたが、その懸念は杞憂でした。
 
なぜなら、こんな報告書を真に受けるMNOはない、と思われるからです。
 
くりかえしますが、LNGの報告書であれだけ緻密な分析をした公取とは思えない、きわめて雑で手抜きの報告書です。
 
LNGの報告書が出たときは、外国のLNGメーカーから、「この報告書は公取委の通常の考え方なのか」という意見を求められ、通常の意見だと思う、という回答をしました。
 
もし今回同じ質問を受けたら自信をもって、「通常の考えではない」と答えられます。
 
それくらい、この報告書の内容はひどいです。
 
報道では、公取委の報告書は携帯各社に重い課題を突き付けた、みたいな論調が目立ちますが、お上の言うことが何でも正しいわけではありません。
 
(私が独禁法を専門にしているのでそう感じるのかもしれませんが)とくに、公取委の場合は、そうです。
 
報道各社さんも、もう少し勉強された方がいいと思います。
 
べつに私は、2年縛りや4年縛りが、良いとも悪いとも思いません。
 
でも、良いとか悪いとかの話ではなくて、それを独禁法違反というのは、大きな問題です。
 
独禁法というのは、条文があいまいなだけに、なんでも違法にしようと思えばできる法律です。 
 
それだけに、理論的な基礎づけをきっちりしないといけません。
 
今回、2年縛りが取引妨害にあたりうるという報告書が出たことで、まさに、そういう「何でもあり」の懸念が出てきました(少なくとも、まともな法律家なら、そう思うはずです)。
 
(ただし、現実的なことをいうと、公取委で報告書を作る部署と審査を担当する部署はちがうので、報告書で取り上げられたからと言ってすぐに事件調査に結び付くわけではありません。
 
公取委で報告書作成を担当した人に「この報告書のテーマでの事件調査は今後増えるのでしょうか」と聞いても、「わたしは審査部ではないので・・・」という答えがでるのがおちです。)
 
国家権力は常に国民の基本的人権を侵害する可能性があります。
 
そのような観点から、独禁法の専門家として、また、国家権力の濫用に目を光らせる使命を負った在野法曹として、今回の報告書は見過ごすことはできないと思いました。

2018年7月 2日 (月)

景品Q&A57番の疑問(ポイント充当額は「取引価額」か)

消費者庁ホームページの景品に関するよくある質問の57番に、
 
「当店ではポイントカードを発行しており、100円お買上げごとに1ポイント提供しています。
 
貯まったポイントは次回以降の買い物の際に1ポイントを10円として支払に充当することができます。
 
この度、2,000円のA商品の購入者を対象とする懸賞企画を実施しようと考えているところ、
 
A商品を購入する際に、貯まったポイントを使用した場合であっても懸賞企画に参加することは可能とします。
 
このように貯まったポイントを対価の支払に充当することにより商品を購入することが可能な場合の取引価額はどのように考えるのでしょうか。」
 
という設問があり、その回答として、
 
「本件の場合、貯まったポイントをA商品の購入の際に使用するか否かは購入者の判断によるものであり、
 
貯まったポイント分を対価の一部に充当することによりA商品を購入することは、
 
現金とポイントによって2,000円という対価の支払が行われたものと考えられるので、
 
本件における取引価額は2,000円となります。」
 
と回答されています。
 
まあ消費者庁がこれでいいというんだし、景品規制で措置命令が出ることはまず考えられないのでとやかくいう必要はないのかもしれません。
 
しかも、このような解釈でないとこの手の企画は回っていかないのだろうとも想像されます(ポイント充当者には懸賞参加資格を与えないとお客さんが怒りそうだし、ポイント充当額(の裏返しの、現金支払い額)で参加資格を判断するのはめんどう)。
 
しかしそれでも、このQ&Aは、理屈としてはおかしいと思います。
 
というのは、景表法上、ポイント制というのは、複数の取引を条件とする値引きと整理されており、値引きされた部分をふくめ「取引価額」というのは矛盾があるからです。
 
つまり、定義告示運用基準6(3)アで、
 
「取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減 額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)」
 
とされていますが、この中の、
 
「複数回の取引を条件として対価を減額する場合」
 
という部分が、割引券やポイント制を想定しているものです。
 
つまり、最初の1000円の取引でポイントが10%(=100円)ついて、次の取引(たとえば2000円)にポイントを充当すると1900円で買える(100円値引きされる)、ということです。
 
この場合、2つめの取引の取引価額が1900円であることは、あきらかだと思います。
 
もしQ&A57番のように、ポイント充当分も取引価額を構成するという立場をとるなら、ポイントは値引きではない(ポイントという独自の財貨による支払充当である)と整理しないといけないでしょう。
 
でも、現行の告示や運用基準のどこをみても、そのような整理(ポイントが独自の財貨であるとの整理)が出てくるのか、わたしにはわかりません。
 
もしポイントが独自の財貨だという整理をしてしまうと、「値引」の3類型、つまり、
 
①減額(定義告示運用基準6(3)ア)
 
②割り戻し(同イ)
 
③増量値引(同ウ)
 
のどれにも当たらないことになり、そもそも値引と整理できなくなり、ひいては、ポイントは景品類なので取引価額の2割までしか提供できない、という困ったことになりかねないように思います。
 
それに、Q&A57番の、
 
「貯まったポイントをA商品の購入の際に使用するか否かは購入者の判断によるものであり」
 
という部分も、なぜそれが「値引」でない理由になるのか、さっぱりわかりません。
 
それはたんに、購入者が、今回の商品Aの取引で値引きを受けるか、それとも値引きを受けないか(将来の取引のためにポイントをとっておくか)を選択できるというだけで、今回の商品Aの取引で値引きを受けることを決めた以上、値引き以外の何物でもないのではないでしょうか。
 
Q&A57番のような解釈でないとこの手の企画は回っていかないんじゃないかということを上に述べましたが、これも考えようで、現金で2000円払った人にだけキャンペーン参加資格を与える、というのは何もおかしくないような気がします。
 
しかも、「取引価額」の考え方については、総付告示運用基準1(1)(懸賞告示運用基準でも準用)で、
 
「 購入者を対象とし、購入額に応じて景品類を提供する場合は、当該購入額を「取引の価額」とする。 」
 
と、はっきり書いてあるので、ポイント充当額も「購入額」を構成するのだと解釈しないかぎり、この規定と矛盾してしまいます。
 
(でも、ポイント充当額はあくまで「値引」であり、「購入額」にはふくまれようがないことは、先に述べたとおりです。)
 
というわけで、このQ&Aは、理屈の上ではおかしいのですが、消費者庁が実務の必要性に配慮して理屈を曲げてくれたと好意的に取るべきなのでしょう。
 
それでも、景表法のアドバイスをする弁護士としては、理屈だけで答えると消費者庁の解釈とはちがう解釈になることがあることを印象づけられるものであり、つくづく、景品規制のアドバイスはむずかしいと思わされます。

2018年6月10日 (日)

自他共通割引券の「他の事業者の供給する商品又は役務」の意味

総付運用基準4(2)では、
「自己の供給する商品又は役務の取引
 
及び
 
他の事業者の供給する商品又は役務の取引
 
において共通して用いられるものであって、
 
同額の割引を約する証票」
が割引券に該当し、総付の金額規制の適用除外とされています。
 
いわゆる自他共通割引券の総付適用除外です。
 
さて、ここで、
「自己の供給する商品又は役務の取引」
の意味については、総付運用基準には定義はありませんが、定義告示運用基準3(1)で、
「「自己の供給する商品又は役務の取引」には、
 
自己が製造し、又は販売する商品についての、
 
最終需要者に至るまでのすべての流通段階における取引が含まれる。」
と明記されています。
 
つまり、メーカー(自己)にとっての「自己の供給する商品又は役務の取引」には、当該メーカーの商品を販売する小売店と消費者との取引も含まれる、ということです。
 
これは、「自己の販売する」ではなく、「自己の供給する」とされていることからも明らかといえます。
 
(小売店から買った商品もメーカーの「供給」する商品であることに変わりはない、という意味。)
 
では、
「他の事業者の供給する商品又は役務の取引」
についてはどうでしょうか。
 
これについては、定義告示運用基準はもちろん、他の景品関係の告示や運用基準のどこをみても定義はありません。
 
では、
自己の供給する商品又は役務の取引」
自己が製造し、又は販売する商品についての、最終需要者に至るまでのすべての流通段階における取引(も含まれる)」
と定義したのと同様に、
他の事業者の供給する商品又は役務の取引」
他の事業者が製造し、又は販売する商品についての、最終需要者に至るまでのすべての流通段階における取引」
と定義してよいか、というと、ちょっと問題があります。
 
というのは、もしそのように定義してしまうと、メーカーAが製造する商品Aを小売店Bが販売する場合において、メーカーAが商品Aの割引券を(小売店Bから商品Aを購入する消費者に)提供すると、自他共通割引券の定義に該当してしまいかねず、そうすると、一定率の割引券が「割引券」に該当しなくなってしまうからです。
 
つまり、そのような割引券は、
「メーカーAの供給する商品・・・の取引
 
及び
 
小売店Bの供給する商品・・・の取引
 
において共通して用いられるもの」
に該当するので、
「同額の割引を約する証票」
でないかぎり、総付の適用除外にならないことになってしまうのです。
 
ただ、よく考えてみるとこれは
「他の事業者の供給する商品又は役務の取引」
をどう定義しても出てくる不都合であり、この不都合を回避するには、自他共通割引券を、
「自己の供給する商品又は役務の取引
 
及び
 
他の事業者の供給する商品又は役務の取引(自己の供給する商品又は役務の取引を除く)
 
において共通して用いられるものであって、
 
同額の割引を約する証票」
とでも定義するしかないように思われます。
 
ただ、そのような定義は論理的には正しいかもしれませんが、一見しただけではその意図すら測りかねるような、複雑怪奇な定義だと言わざるをえないでしょう。
 
大事なことは、メーカーAが自社製商品Aを小売店Bを通じて購入する消費者に提供する割引券は、自他共通割引券ではなく、たんなる自社割引券である(よって、値引きなので、そもそも景品類に該当しない)、ということです。 
 
なので、一定額だけでなく、一定率の割引券(2割引券など)も、たんなる値引きとして問題なく提供できます。

2018年5月28日 (月)

【お知らせ】ジュリスト事例速報に寄稿しました

ジュリストの6月号(1520号)の独禁法事例速報で、
「国際的事業提携がカルテルに発展した域外適用の一事例」
という題名で解説を書かせていただきました。

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ハードディスクドライブ用サスペンションのカルテルに関する2018年2月9日排除措置命令の解説です。
 
最初に有斐閣さんから依頼を受けたときは、なんかカルテルの事件なんて今さら書くような論点ってあるのかなぁと思ったのですが(失礼!)、命令書をじっくり読んでみるとなかなか味のある事件で、勉強になりました。
 
解説でも触れましたが、域外適用については、ブラウン管事件最高裁判決(平成29年12月12日)が
「価格カルテル(不当な取引制限)が国外で合意されたものであっても、
 
当該カルテルが我が国に所在する者を取引の相手方とする競争を制限するものであるなど、
 
価格カルテルにより競争機能が損なわれることとなる市場に我が国が含まれる場合には、
 
当該カルテルは、我が国の自由競争経済秩序を侵害するものということができ」
日本の独禁法を適用できるとの基準を示しましたが、これをそのとおりにあてはめると(本件での結論は当然だと思いますが)、じつにえらいことになるのではないか、という思いがこの排除措置命令を読んでさらに強くなりました。
 
だいたい、最高裁のいう、「市場に我が国が含まれる」って、どういう意味なのか、よくわかりません。
 
たしかウィトゲンシュタインか誰かが、
時間についての哲学者の混乱は、時間の長さの測定を棒の長さの測定と類比的に考えることから生じる
というようなことを言っていたと思いますが、最高裁の判例も、なんだか「市場」というものを場所的な概念ととらえているような、「時間」の概念の混乱を生じさせるのと同じような(もっといえば、それ以上に無用な)混乱を生じさせそうで、理屈を突き詰めないと納得できないわたしなどは、それだけで拒絶反応を示してしまいます。
 
(最高裁は、あえて意図的に、どうにでも柔軟に解釈できる基準を示した、ということなのでしょうけれど。)
 
域外適用についてはいろんな人がいろんなことを言っていますが、私個人としては、国際法の一般論に競争法が引っ張られるのはあまりよくなくて、競争法独自の考え方があるべきだと考えています。
 
以前、『英米法判例百選』を執筆したときにいろいろ調べたのですが、国際法で域外適用を考える場合って、たとえば、
アメリカとメキシコの国境で、アメリカ側からメキシコ側にいる人を射殺した場合、アメリカ法適用できるか
というような例を用いながら議論するんですね。
 
そして通常は、結果はメキシコで発生しているけれど、行為はアメリカで発生しているので、アメリカ法を適用できる、というわけです。
 
でもそんな理論を競争法にそのまま持ち込むのは、わたしはまちがいだと思います。
 
いくら著名な国際法学者でも、競争法のことまで考えて議論しているわけではないでしょうから、競争法では競争法の専門家がきちんと発信しないといけないと思います。
 
(余談ですが、同じく『英米法判例百選』を書いたときに思ったのですが、アメリカが議論の前提としている域外適用って、カナダとかメキシコなんですね。州の間での「州外適用」と、国家間の「域外適用」を同じだと言い切る裁判例もあったり、感覚の違いに驚かされます。)
 
ブラウン管事件の高裁判決あたりまでは、
「競争法の常識は、法律の非常識、なのかなぁ」
と、なんとなく他人事のように考えていましたが、最高裁判決のよくわからない規範や、それをそのまま採用したかのようなサスペンションカルテルをみると、そんなのんきなことは言ってられない、と認識を改めています。
 
と、域外適用についてもいろいろと論ずべきところはあるのですが、サスペンションカルテルの排除措置命令では、事業提携からカルテルにいたるまでの経緯というのが結構詳しめに認定されていて、おもしろかったです。
 
厳密に言えばそういう背景事情は、命令の結論には関係しない「余事記載」なのでしょうけれど、あまり骨と皮だけの命令ではわけがわからないので、公取委にはぜひ、こういう「余事記載」を積極的にするように期待したいです。
 
というわけで、ご興味がある方は、ジュリスト事例速報をご一読いただけるとうれしいです。

2018年5月17日 (木)

フリーテルへの課徴金の算定方法について

倒産したフリーテルが「業界最速」などと不当表示をしていたことに対して、課徴金納付命令が2018年3月23日に出ています
 
その課徴金の算定方法が、同種事案で参考になると思われるので説明しておきます。
 
課徴金導入前、とある研究会で、携帯電話サービスの不当表示について課徴金を課すときに、算定基礎の売上はどれをとるのかなぁと、考えたことがあって、そのときには、「KDDI(株)に対する件(2013年5月21日)」を題材に考えました。
 
この事件は、KDDIが、「au 4G LTE」なる移動体通信サービスを提供するに当たり、あたかも、iPhone 5を使用した場合、2013年3月末日までに全国のほとんどで受信時の最大通信速度が75Mbpsとなるかのように表示していたが、実際には、75Mbpsで利用できるのは人口カバー率14%の地域であった。」という事件だったのですが、では課徴金額の基礎は、 
①不当表示期間中のiPhone 5の全ての通信料収入か、それとも、不当表示期間中に新規契約した加入者からのiPhone 5の通信料収入か、
 
②iPhone 5(端末)の売上も含まれるのか(そもそも端末は「商品」であり、通信サービス(役務)とは別物か) 
という2つの論点がありうるのかなぁ、という発表をしました。
 
そのときの私見は、①については全通信料収入だろう、②については端末は含まれないのだろう、というものでした。
 
条文をよむとそうとしかよめないと考えたからです。
 
でも実質的に考えると、①については、そうすると不当表示前に契約している人への売上にまで課徴金がかかることになり、売上と不当表示との間に因果関係がないのではないか?というのが問題意識でした。
 
理屈の上では、不当表示のために既存の契約者も他社に乗り換えなかった、ということがありえますが、正直、かなり苦しい理屈だと思います。
 
フリーテルの事件も、全通信料収入でした。
 
条文どおりとはいえ、これはけっこうたいへんなことです。
 
たとえば、不当表示前に既存契約者が10万人いて、不当表示中に不当表示をみて1万人が新規に契約した場合、その1万人分に課徴金がかかるのではなく、11万人分にかかる、というわけですから。
 
②の、端末代にはかからない、というのも、不当表示の対象が通信サービスという役務なのだから、条文からいえば通信サービスだけにかかるのだろう、考えました。
 
でも、フリーテル事件をみると、「本件役務」を、
「「FREETEL SIM」と称する移動体通信役務(スマートフォン端末と一体的に供給する場合は、当該スマートフォン端末を含む。」
と定義しているので、端末も含んでますね。
 
研究会での問題意識はまさに、KDDIでiPhone 5を買った人は表示通りの性能が出ると思ったから買ったわけで、もしそうでなかったらドコモやソフトバンクと契約した可能性があるわけで、それなのに端末には課徴金をかけなくていいのか?ということでした。
 
(KDDI事件の当時はSIMフリーのiPhoneは、まだありませんでした。)
 
なので、フリーテル事件では、この論点については、実質的に、端末と通信役務を一体ととらえる運用がなされたことがわかります。
 
あらためて考えてみると、条文上もそのように解することに大きな問題はないように思われますので、この処理が妥当なのかな、と思います。
 
今後は、どこまでが一体的な商品役務なのか、争いがありうるケースも出てくるかもしれません。
 
たとえば、スキューバダイビングスクールで授業料の二重価格表示があった場合に、一緒に売ったダイビングセット(ほかで買うことも可能)も対象になるのか?とかですね。
 
SIMフリーでは端末は自分で調達できるのにフリーテル事件では一体に評価されているので、ダイビングセットも課徴金の対象になる、という意見もあるかもしれません。
 
でも授業料の二重価格表示はダイビングセットの性能とは何の関係もないのだと考えれば、ダイビングセットには課徴金はかからないのでしょう。
 
それに対して携帯電話の場合には、通信速度はサービス(通信網)の性能でもあり、かつ、端末の性能でもある、といえるかもしれません。
 
でもSIMフリーなんだから端末は関係ないじゃないか、と考えれば、ダイビングセットと同じで、端末には課徴金はかけるべきではなかった、というのも一理あるような気もします。
 
なかなか難しいですねcoldsweats01
 
第一印象では、消費者庁の処理が正しいように感じていますが、もうちょっと考えてみたいです。
 
あと、フリーテルの事件では、課徴金対象行為の期間が2016年11月30日から12月22日までの約1か月間で、誤認解消措置をとったのが2017年5月31日です。
 
そのため課徴金対象期間は約6か月間になっています。
 
この事件で措置命令が出たのが2017年4月21日ですから、措置命令が出たのに誤認解消措置まで約1か月かかっていることになります。
 
もし不当表示をやめた(2016年12月22日)のが、消費者庁の調査を受けたためだったとすると、調査を受けてから誤認解消措置まで5カ月もかかっていることになります。
 
そういうわけで、本件では約6か月の課徴金対象期間で約9000万円の課徴金がかかっているので、もし不当表示をやめてすぐ誤認解消措置をやっていれば、9000÷6=1500万円くらいですんだことになります。
 
というわけで、こういう継続的取引の事件で不当表示をしたときには、さっさと誤認解消措置をしないとどんどん課徴金が積みあがっていく、という見本のような事件です。
 
でも考えてみると、継続的取引の場合には、誤認解消措置をとったらそのあとの売上に課徴金がかからないというのも、なんだか釈然としませんね。
 
不当表示につられて契約した人がそのまま契約し続けることもけっこうあるように思われるからです。
 
理屈としては、不当表示でだまされたと思った人は他社に乗り換えるからそれでいいんだ、ということでしょうか。
 
でもそうすると、今問題になっている、2年縛りとかがあると、そう簡単に乗り換えられない、という問題もありそうです。
 
というように、細かく考えていくと、課徴金の算定はこれでいいのか?という疑問がわいてくるのですが、非裁量型課徴金というのは(独禁法でもそうですが)単純に計算できないと制度として回っていかないところがあるので、やむをえないのでしょう。
 
 

2018年5月11日 (金)

不当な給付内容の変更に関する講習テキスト違反行為事例の疑問

下請法4条2項4号(不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止)では、
「下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、
 
下請事業者の給付の内容を変更させ、
 
又は
 
下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)
 
給付をやり直させること」
が禁止されています。
 
この前段の給付内容の変更について、平成29年11月版の下請法講習テキストp74では、
「「給付内容の変更」とは,
 
給付の受領前に,
 
3条書面に記載されている委託内容を変更し,
 
当初の委託内容とは異なる作業を行わせることである」
と説明されています。
 
そしてその趣旨としてさらに続けて、
「こうした給付内容の変更ややり直しによって,
 
下請事業者がそれまでに行った作業が無駄になり
 
あるいは下請事業者にとって当初の委託内容にはない追加的な作業が必要となった場合に,
 
親事業者がその費用を負担しないことは,下請事業者の利益を不当に害することとなるものである。」
と説明されています。
 
ですがその違反事例としてp79にあげられている、
「親事業者S社は,貨物の運送を下請事業者に委託しているところ,
 
下請事業者が指定された時刻にS社の物流センターに到着したものの,
 
S社が貨物の積込み準備を終えていなかったために下請事業者が長時間の待機を余儀なくされたにもかかわらず,
 
その待ち時間について必要な費用を負担しなかった。」
というのは、わたしはおかしいと思います。
 
というのは、給付内容の変更というのは、前記引用のとおり、
「それまでに行った作業が無駄になった」
とか、
「追加的な作業が必要となった」
場合に成立すべきものだからです。
 
でも、「長時間の待機」をさせた、というのは、
「作業が無駄になった」
わけでも
「追加的な作業が必要になった」
わけでもありません。
 
たんに、段取りが悪くて待たせていただけです。
 
待たせたことを「追加的な作業」というのは、いくらなんでも広げすぎでしょう。
 
テキストのほかの事例は、すべて発注の取消しか、追加作業をさせたものばかりです。
 
追加作業の事例をならべると、
②「当初の発注から設計・仕様を変更した」
 
③「金型について・・・無償でやりなおしを求めた」
 
④a「追加作業を行わせ・・・た」
 
④c「やり直しをさせ・・・た」
 
④d「仕様を変更した」(以上p77)
 
⑤「やり直しを求めた」
 
⑥a「途中で仕様を変更し・・・た」
 
⑥b「修正を行わせ・・・た」
 
⑦a「委託内容が変更されて追加の作業が発生した」
 
⑦b「撮り直しをさせた」
 
⑦c「動画の品質を上げるための作業を行わせ・・・た」
 
⑦d「発注内容の変更を行った」
 
⑧「作業のやり直しをさせた」
 
⑨a「作業のやり直しをさせた」
 
⑩a「発注内容を変更した」
といった具合です。
 
このように、いずれの場合も何らかの意味での追加作業があるのです。
 
もっと端的に別の切り口でいうと、これらの例では、いずれも成果物が変更されています。
 
講習テキストp74では、
「「給付内容の変更」とは,給付の受領前に,3条書面に記載されている委託内容を変更し,当初の委託内容とは異なる作業を行わせることである」 
とされています。
 
これに忠実に、以上の例ではいずれも、3条書面に記載されていたであろう成果物とちがうもの(超えるもの)の納品が命じられているわけです。
 
これは条文上、「給付内容の変更」と書いてあるので、当然のことです。
 
(実はそうすると、発注の取消しは追加作業があったわけではないので、果たして「給付内容の変更」といえるのか疑問がわいてくるのですが、これは長年の運用でそうなっているので、ひとまず措きます。)
 
それに対して、前記引用した「長時間の待機」というのは、まったく異質です。
 
つまり、「長時間の待機」というのは、下請取引で独立の取引対象となるような「追加作業」では、断じてありえません。
 
別の言い方をすれば、待たせただけで、発注内容は何ら変更していないわけです。
 
もちろん、
「3条書面に記載されている委託内容を変更」
ということも、あるはずがありません。
 
というわけで、長時間待たせたことで損害賠償義務が発生することはあるかもしれませんが、下請法違反というのはおかしいと思います。
 
もし「長時間の待機」なんていう、ただ待っているだけのことが、追加の作業だ、というなら、
 
「下請事業者に『損害を負うという作業(?)』を行わせた」
 
といってもいいはずで、そうすると、追加作業だろうがなんだろうが、ぜんぶ下請法違反になってしまいかねません。
 
そうすると、契約上の損害賠償の話がすべて下請法の話になってしまいます。
 
あるいは、納期に受領せず後日の再納入を求めるのは受領拒否と整理されるのが普通ですが、これを、もう1回納入させるという追加作業を行わせたといえば、不当な給付内容の変更にもなってしまいます。
 
(まあ受領拒否は当然違法型の4条1項なので、2項の不当に不利益を負わせる型である不当な給付内容の変更と構成する必要はないのでしょうけれど。ともあれ、2項4号は気を付けないと際限なく広がる可能性があるわけです。)
 
実は前記引用例は平成29年版に追加されたものです。
 
つまり、平成29年版で大きく運用を変えてきた、ということです。
 
(というのはたぶん公取委を買いかぶりすぎで、きっと、あんまり深く考えずに実際にあった指導事例を付け加えただけというのが実態で、意図的な運用変更ではない可能性は大いにありますが。)
 
こういうことが何の事前警告も議論もなしに行われるところが、下請法のおそろしいところです。
 
(ほかにも、少し前から代金減額に別途支払わせるものまで含まれるという大きな運用変更がなされていて、これも大問題なのですが、長くなるのでまた後日論じます。)
 
下請法は勧告という、法的には行政指導でしかない軽い処分であるうえに当事者に争う道がない(たんなる指導なので)、というのが根本的な問題なのですが、そんな中で、こんな大事な運用変更がこっそりなされるというのは、本当にとんでもないことだと思います。
 
ほかにも、ほんとうにひどい運用だなあという事例を見聞きすることはありますが、見聞きするだけでそれだけあるわけですから、きっと誰も知らないところで、従来の運用を外れた運用がなされているのではないかと想像します。
 
(下請法は担当官によってけっこういうことが違っていたりしますし。)
 
というわけで、公取委や中企庁の指導に納得いかないという人は、きちんと専門家に相談した方がいいと思います。
 
そうしないと、やりたい放題にされてしまうでしょう。
 
恣意的な行政の運用に目を光らせるのは、われわれ在野法曹の重要な使命だと考えています。

2018年5月 9日 (水)

値引と割引券の関係

値引と割引券はどのような関係にあるのでしょうか。

(なお、議論を簡単にするために、割引券は取引付随性があるもののみ考慮し(なので、新聞広告でクーポン券を提供するようなものは考慮しない)、一定率を割り引く割引券と一定額を割り引く割引券(金額証ともいいます)とは区別しないことにします。)

背景として、平成8(1996)年4月に定義告示運用基準が改正されています。

(くわしくは、深町正徳「割引券の提供に関する景品表示法の考え方について」公正取引587号40頁をごらんください。)

つまり、改正前の定義告示運用基準では、

「取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減額し、又は受け取った代金を割り戻すこと」(6(3)ア)

は景品類の提供に当たらないとされる一方で、

「ある取引に付随して、他の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票を提供する場合」(6(4)ウ)

は、、景品類の提供に当たるとされていました。

これはどういうことかというと、

「Aの取引に付随して割引券を『提供する行為』と、

Bの取引において割引券を『使用する行為』

を分離して捉え、

後者については景品表示法上の景品類に当たらないが、

前者についてはAの取引に付随した景品類に当たると捉えていた。」

ということだったんだそうです(深町前掲p42)。

つまり、改正前は、

割引券の提供→取引Aに附随する景品類の提供(値引きではない)

割引券の使用→いずれの取引に附随する景品類の提供でもない(取引Bの値引き)

という整理だったわけです。

ただし、これは今も同じですが、総付による割引券の提供については、総付告示で、

「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの」

については、

「景品類に該当する場合であつても、前項の規定〔総付の金額規制〕を適用しない。」(総付規制の適用除外)

とされていました。

これに対して定義告示運用基準の改正は、前述の、

「ある取引に付随して、他の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票を提供する場合」

は景品類の提供に当たるとの規定(改定前6(4)ウ)が、削除されました。

また併せて、改定後定義告示運用基準で、

「取引通念上妥当と認められる基準に従い、

取引の相手方に対し、

支払うべき対価を減額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)」(6(3)ア

は、

「原則として、

〔景品類にあたらないとされる定義告示1項柱書ただし書の〕「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」

に当たる。」(6(3)柱書)

とされました。(これは現在もほぼ同じです。)

これはつまり、

「この改正により、複数回の取引を条件として対価を減額する場合でも景品規制の対象とならないと整理された」

ということのようです(p42)。

まとめると、運用基準の改正前は、

割引券の提供→取引Aに附随する景品類の提供(ただし総付規制の適用除外

という整理だったのが、改正後は、

割引券の提供→取引Aの値引(景品類の提供ではない)

と変わった、ということです。

なので、改正後は、割引券の提供と使用を分ける必要もなく、値引であると整理されました。

以上を踏まえて、現行の割引券に関する規定を検討します。

割引券の提供については総付告示2項3号(価額の2割の制限が適用されない場合の1つ)で、

「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの」

と言及されており、これを受けて総付運用基準4項では、

「4 告示第二項第三号の「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票」について

(1) 「証票」の提供方法、割引の程度又は方法、関連業種における割引の実態等を勘案し、公正な競争秩序の観点から判断する。

(2) 「証票」には、

金額を示して取引の対価の支払いに充当される金額証(特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできないものを除く。)

並びに

自己の供給する商品又は役務の取引及び他の事業者の供給する商品又は役務の取引において共通して用いられるものであって、同額の割引を約する証票

を含む。」

と定められています。

では、世の中で普通にある割引券は、どう考えればいいのでしょうか。そもそも景品類に該当するのでしょうか。

ここでの問題意識は、

割引券というのは要するに、それを持っていると値引きが受けられるということであり、たんなる値引と同じなのではないか、

それが、「券」(証票)が発行されるだけで、純粋な「値引」と違うものと評価されるのはおかしいのではないか、

ということです。

この点について、

大元『景品表示法〔第5版〕』(緑本)

のp209では、総付運用基準4の解説として、

「自己の供給する商品または役務の取引において用いられる割引券その他割引を証する証票については、

それが自己との取引に用いられ、

取引通念上妥当と認められる基準に従っているもの

である場合は、

『正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」となり、

そもそも景品類に該当しない(定義告示運用基準6(3)ア・・・)。」

と、オーソドックスな割引券については、定義上そもそも景品類に該当しない(値引なので)、と整理しています。

わたしも、この整理が正しいと思います。

そして、上記引用の緑本p209でも引用されている定義告示運用基準6(3)アでは、

「原則として、「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」に当たる」

場合の具体例の1つとして、

「ア 取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)

(例 「×個以上買う方には、○○円引き」、

「背広を買う方には、その場でコート○○%引き」、

「×××円お買上げごとに、次回の買物で○○円の割引」、

「×回御利用していただいたら、次回○○円割引」)。」

という例があげられていますので、緑本も、ここで挙げられている例、たとえば、

「背広を買う方には、その場でコート○○%引き」

に当たる(複数回取引を条件とする点を除き)と考えてよい、「コート〇〇%引券」を背広購入者に提供するのは、値引に該当し、そもそも景品類には該当しないと考えているものと思われます。

この点も、正しいと思います。

さらに続けて緑本では、自他共通割引券について、

「他方、自己だけでなく他の事業者との取引においても共通して用いることができる割引券等(自他共通割引券等)については、

景品類に該当し得る場合もあるものと考えられるが、

仮に該当する場合場合であっても

自己との取引について値引と同様の効果がもたらされる可能性があることから、それが正常な商慣習に照らして適当と認められるのであれば、総付景品の規制の適用除外とされている」

つまり、自他共通割引券については定義上は景品類に該当しうるけれど、特別に総付景品規制の適用除外にしているんだ、と説明しています。

まとめると、割引券は、

①自社割引券→「値引」に該当する(「景品類」に該当しない)

②自他共通割引券→

A 「値引」に該当するもの(「景品類」に該当しないもの)

 

 

B 「値引」に該当しないもの(「景品類」に該当するもの)

 

があり、

 

A→「景品類」には該当しない(定義告示運用基準6(3))

 

B→総付運用基準4の条件(=自他同額の値引き)をみたせば総付規制が適用されない(総付運用基準4)、

というように整理できます。

とすると、総付告示2項3号の「割引券」には、Aの割引券(「値引」に該当するもの)は、論理的に含まれない(あるいは空振り)ということになります。

具体的には、

①自社割引券→値引(景品規制対象外。総付告示2項3号は空振り)
 
②自他共通割引券
(ア)自他同額のもの→景品類だが総付金額規制適用除外
 
(イ)自他同額でないもの→景品類
③他社割引券→景品類
ということになります。
 
このように、かなりの部分で空振り(①)になるにもかかわらず総付告示の
「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの」
については総付金額規制を適用しないという総付告示2項の規定が残された理由については、前記深町p42で、
「この規定〔総付告示2項3号〕を置いておく意味は、
 
指定告示上『正常な商慣習に照らして値引』に該当するとは認められないが、製造な商慣習に照らして提供を認めても価格と品質による競争を阻害しないと認められるもの
 
(自他共通割引券(デパート共通〇〇券のようなもの)
 
 
商品とも引き換えられる可能性のある金額証等)
 
について、総付告示の当該規定〔2項3号〕により提供を認める必要があったためと考えられる。」
と解説されています。
 
つまり、シンプルな割引券は総付告示2項3号を待つまでもなく「値引」なので景品類には該当せず(もちろん、総付規制も適用されない)、総付告示2項3号が必要になるのは自他共通割引券や商品とも引き換えられる可能性のある(つまり、一部減額ではなく)金額証などの場合だ、ということです。

«緑本の資料脱落