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2026年7月13日 (月)

指定価格制度における広告宣伝費の負担に関する改正流取ガイドラインの疑問

2026年7月8日、流通取引慣行ガイドラインに指定価格制度に関する規定が追加されました

その第1部の2⑺③で、再販価格拘束が違法にならない場合として、

「③ 流通業者に対して商品を販売する場合であって、メーカーが、流通業者において当該商品のユーザーへの販売に至るまでに生じる危険及び費用(注5の2)を自ら負担することによる(注5の3)、実質的に見て当該メーカーがユーザーに販売していると認められる場合。

(注5の2) ユーザーへの販売に至るまでに生じる危険及び費用の内容は、個別具体的な事案に即して判断するが、以下のaからeまでは、通常、ユーザーへの販売に至るまでに生じる危険及び費用に含まれる。

〔a~d省略〕

e 在庫保管費用、輸送費用、広告宣伝費用その他のユーザーへの販売に至るまでに生じる費用」

とされていて、注5の3では、それらの費用の一部でも流通業者に負担させるとメーカーが当該費用を負担したことにはならない(つまり再販拘束として違法となる)とされています。

でも私は、広告宣伝費用を負担させたら指定価格制度の例外が適用されないというのは妥当でないと考えます。

パブコメでも同様のコメントが出ていて、15番で、

「「広告宣伝費用」について、専ら、流通業者側の企画(例 流通業者側でのポイント付与キャンペーンや、各家庭にポストインする販促チラシを作るケースなど)で、メーカー側で当該企画に対してコントロール権限を持たない場合においては、当該ポイント費用やチラシ作成費用はメーカー側で負担しないでも問題ないという趣旨でよいか、明らかにされたい。

仮に、上記の場合にメーカー側での費用負担が必要という趣旨の場合、全額負担というのは現実的ではないため、この「広告宣伝費」については、あくまで、「合理的な範囲での負担である」という趣旨を追記いただきたい。(無記名)」

というコメントが、16番で、

「(注5の2)で例示されている「広告宣伝費」は、メーカー等の指示によらず、直接販売者が自らの意思で自主的に行ったものについても、メーカー等が費用負担をする必要があるのか。(弁護士)」

というコメントが、それぞれでていて、これらに対してまとめて、

「御意見のような「流通業者側の企画」についても、第1部第1の2⑺③に場合における価格指示の対象商品の販売のために要するものであれば、当該費用は、通常、ユーザーへの販売に至るまでに生じる費用」に含まれると考えられます。」

と公取委から回答されています。

まず、この回答の、「価格指示の対象商品の販売のために要するものであれば」という部分には、あまり深い意味はないとみてよいでしょう。

つまり、「そんな宣伝しなくても売れた」という抗弁はみとめられないということです。

なので、広告宣伝費用は通常、メーカーが負担すべき費用である、というのが回答の意味ということになります。

しかし、パブコメ15番もいうとおり、メーカーがコントロールできない広告のために再販になったりならなかったりするというのは、合理的ではないと思います。

パブコメ7番でも言及されているEUの垂直的制限ガイドライン(33)(f)(g)では、

「 In light of the above, an agreement will generally be categorised as an agency agreement that falls outside the scope of Article 101(1) of the Treaty where all of the following conditions apply:

〔(a)~(e)省略〕

(f) the agent is not, directly or indirectly, obliged to invest in sales promotion, including through contributions to the advertising budget of the principal or to advertising or promotional activities specifically relating to the contract goods or services, unless such costs are fully reimbursed by the principal;

(g) the agent does not make market-specific investments in equipment, premises, training of personnel or advertising, such as the petrol storage tank in the case of petrol retailing, specific software to sell insurance policies in the case of insurance agents, or advertising relating to routes or destinations in the case of travel agents selling flights or hotel accommodation, unless such costs are fully reimbursed by the principal;」

とされています。

(f)をみると、エージェントが広告宣伝費を負担する義務を負う(obliged to)ことがいけないのであって、義務を負わない自主的な広告は禁止されていません(agent agreement該当性は失われません)。

(g)でも、エージェントは広告に対するmarket-specificな投資をしてはいけない(すると、agent agreementでなくなる)とされているだけであり、パブコメ15番の流通業者独自のポイントやチラシは禁止されていません。

何でも外国をまねればいいというものではありませんが、ここはEUの考え方に合理性があると思います。

まず上述のように、メーカーがコントロールできないことでメーカーに責任を負わせてはいけません。

次に、広告宣伝費は他の費用と異なり、流通業者が必然的に負担しなければいけないリスク(「危険」)ではありません。

その点が、ガイドラインの注5の2がほかにあげるリスクである、

「a 売れ残った場合の危険

b 契約不適合があった場合の危険

c 在庫保管についての善良な管理者としての注意義務の範囲を超えて商品が滅失・毀損した場合の危険

d 代金回収が不能となった場合の危険」

が、いずれもその商品を売るうえで避けがたいリスクであるというのとぜんぜん異なります。

そしてここまで書いて気付いたのですが、a~dはいずれも「危険」(リスク)です。

これに対して、eは「費用」(コスト)です。

これは理論的には決定的な違いであり、両者を同じに扱うのはおかしいと思います。

リスクは、生じるかどうか不確実だからリスクというのです。

これに対して、費用は、発生することがその額もふくめて確実な負担、あるいはすでに発生した負担、という意味であり、ガイドラインもそのような意味で「費用」という言葉を使っていると思われます。

それはとりわけ、「在庫保管費用」と「輸送費用」において顕著です。

この2つについては、「商売のなりゆき次第で多くなったり少なくなったり、場合によってはゼロになったりする」という発想は、おそらくガイドラインにはまったくないと思います。

厳密には、在庫保管費用も輸送費用も、商売が繁盛すれば大きくなるし、繁盛しなければ少なくなる、という意味でリスクといえなくもないですが、この2つの費用については、販売数量におおむね比例して額が増えるので、そいういうものは事業者にとって予測可能であり(たんなる変動費)、リスクとはいわないと思います。

(ありうるとすれば、突然ホルムズ海峡が封鎖になってガソリン代が上がって輸送費用も上がる、というのがリスクといえばリスクですが、ガイドラインはそんな細かいことは考えていないでしょうから、割愛します。)

つまり、「在庫保管費用」と「輸送費用」については、不確実性という意味でのリスクはあまり問題にならないと思われます。

広告宣伝費については、別の意味でリスクが問題にならないといえます。

というのは、流通業者は広告宣伝費を支出するかしないかを自分で決められるからです。

EUのガイドラインでも「unless such costs are fully reimbursed by the principal」という条件がついていて、現にリスクが実現化したときには生じた費用を負担することで欧州機能条約101条の対象外とすることができるとされており、費用の負担者が101条適用の有無に影響することはあってよいと思います(法的評価が経済学的評価に一致する必要はない)。

でも、流取ガイドラインのようにリスクと費用という異質なものを漫然と並列されると、もうちょっと緻密に考えたほうがいいんじゃないかという気がしてきます。

次に、広告宣伝費だけをあえて問題視する理由がないと思います。

広告宣伝費は、商品を売るために必要ないし有益な支出です。

ですが、同じようなものとしては、たとえば、そのメーカーの商品の知識を流通業者の従業員に教えるトレーニングの費用のようなものが考えられます。

EUのガイドラインの(f)で、

market-specific investments in equipment, premises, training of personnel or advertising

と並列されているゆえんです。

これらのmarket-specificな投資は、リスクと言えばリスクだと思います。

というのは、その商品が売れなければ投資が回収できないからです。

なので、広告宣伝費も、market-specificなものであれば、リスク投資だといえるかとは思います。

でも、流取ガイドラインには、そのような発想は皆無です。

意地悪い言い方をすれば、「たんに小売業の損益計算書でよく見かける費用項目を挙げただけなんじゃないの?」と言いたくなります。

実際、パブコメ4番に対する回答では、

「広告宣伝費は、在庫保管費用や輸送費用と同様に、商品を販売する多くの取引において生じることが想定されることを踏まえ、事業者における独占禁止法違反行為の未然防止と適切な事業活動の展開に役立てるという観点から、「在庫保管費用や輸送費用」に加え、〔広告宣伝費を〕例示として記載したものです。」

と述べられており、私の「損益計算書説」もあんがい的外れではないことがうかがわれるように思います。

次に問題は、広告宣伝費は純粋な取次でも支出するんじゃないのか、ということです。

小売店は、自己の利益が増えると思えば自発的に広告をするでしょう。

経済学的に言えば、広告の限界収入が限界費用と等しくなるところまで、広告費を出すでしょう。

これは、指定価格制度の販売店であれ、純粋な取次である委託販売の代理店であれ、同じです。

なのにどうして、指定価格制度の場合だけ突如として、流通業者に広告費用を負担させてはいけないでしょうか?

このアンバランスについて公取委が気づいていないということはさすがにないと信じたいですが、ここにありうる発想としては、

「指定価格制度の場合には、所有権が流通業者に移転するので、ほんらい再販拘束になるはずだが、それにもかかわらず再販拘束を否定するためには、あともう一押し、指定価格制度のハードルを上げるための条件を課すべきなのではないか。」

という、かなり情緒的な、あるいは、「江戸の敵を長崎で討つ」的な、理論的には筋違いな、発想くらいしか思いつきません。

でもこれは論理的ではないですし、パブコメでも指摘されるとおり、過去の相談事例と整合しません。

すなわち、パブコメ4番では、

「令和6年度相談事例集「1 家電メーカーによる取引先事業者に対する一般消費者への販売価格の指示」(以下、「過去相談」という)においては減給がなかった「広告宣伝費用」がこのたび明示されるに至った理由につきお伺いしたい。」

という意見がでています。

これに対する公取委回答は、

「令和6年度相談事例集「1 家電メーカーによる取引先事業者に対する一般消費者への販売価格の指示」においては、「在庫保管費用や輸送費」として、在庫保管費用や輸送費用に限られないことを示しておりましたが、「ユーザーへの販売に至るまでに生じる費用」としては、流通業者の販売方法等次第で多様なものが考えられます。

広告宣伝費は、在庫保管費用や輸送費用と同様に、商品を販売する多くの取引において生じることが想定されることを踏まえ、事業者における独占禁止法違反行為の未然防止と適切な事業活動の展開に役立てるという観点から、「在庫保管費用や輸送費用」に加え、〔広告宣伝費を〕例示として記載したものです。」

というものです。

「出た~。必殺、行政の『等はオープンエンド』説!」ですね(笑)。

令和6年相談事例のときに、ほんとうにそんな回答を相談者に伝えたんですかね?

あとから規制強化したんじゃないでしょうか。

しかも令和6年の事例ではたしかのそのとおりですが、令和元年事例5では、

「(2)本件取組は,X社が本件覚書を締結する小売業者に対して家電製品Aの販売価格を指示するものであり,小売業者は,家電製品Aを自己の名で一般消費者に販売することとなる。しかし,この取引については

 ア 小売業者は,納品日から一般消費者への販売までの間,いつでも家電製品Aを返品可能であり(X社は,返品費用を負担するとともに,代金相当額を返金する。),家電製品Aに係る売れ残りのリスクについては,実質的にX社が負う形になっていること

 イ 一般消費者への販売前の商品に瑕疵があった場合の責任については原則としてX社が負うこと,また,当該商品の滅失,毀損等の家電製品Aに係る在庫管理上のリスクについても,基本的にX社が負っており,小売業者は,善管注意義務を怠ったことに起因するものを除いて,当該リスクを負担しないこと

 ウ 代金回収不能のリスクについては,小売業者が負うこととなるが,一般消費者への販売における代金回収方法は,通常,現金やクレジットカードによる決済が用いられることから,実質的なリスクの負担とはいえないこと

から,X社の計算による取引と同視することができる。

すなわち,本件取組においては,小売業者は単なる取次ぎとして機能しているにすぎず,実質的にみてX社が一般消費者に対して家電製品Aを販売しているといえる。

 したがって,本件取組は,再販売価格の拘束として独占禁止法上問題となるものではない。」

と回答されており、積極的(?)に「等」とは言っていません!

むしろ、基準は「X社の計算による取引と同視することができる」かどうかであり、代理店が自主的な広告支出をしたからといってメーカーの計算による取引であることは否定されないと読めます。

これに対して令和6年の事例の一般論は、

「X社が、対象家電製品の一般消費者への販売に至るまでに生じるリスクと費用を自ら負担することを前提として行われているものということができる。」

となっており、実はこの時点で大幅に規制強化されていたことになります。

令和元年の事例があるのに、また令和6年に似たような事例をとりあげたのは、こういうこと(=規制強化したかった)だったんですね。

ともあれ、「等」でぜんぶ片づけるのは、行政の常とう手段ではありますが、いかがなものかと思います。

次に問題は、もし流通業者の広告宣伝費を全額メーカーが負担しないといけないとすると、流通業者が過大な広告宣伝費の支出をすることになり不効率です。

この点、「在庫保管費用」や「輸送費用」は、実費ですから、いじりようもありませんが、広告宣伝費はちがいます。

メーカーが負担してくれるために広告宣伝の限界費用がゼロならば、流通業者は限界収入がゼロになるまで広告支出を増やすでしょう。

そうすると、もし広告の限界収入がどこかで頭打ちになるのではなく逓増であれば、無限の広告宣伝費が支出されることになります。

そんな無茶なことはないでしょう。

この問題意識と通底するものとして、パブコメ14番で、家電量販店が年末セールなど他の商品と一緒にする広告は家電量販店独自の広告宣伝費として認識すべきだとのコメントが出ていて、これに対する公取委の回答は、

「メーカーは、流通業者の広告宣伝の実情に即して、流通業者における全体の広告宣伝費用に占める対象商品の販売のために要する費用の割合がどの程度となるかについても、流通業者との間で協議することが考えられます」

という、なんとも頼りないものです。

どうして頼りないかということ、この考え方にしたがえば、流通業者が無限に広告宣伝費を使うかもしれないという懸念に対する公取委の回答も、きっと、「流通業者との間で協議することが考えられます」ということになりそうだからです。

実務的には、流通業者が支出できる広告宣伝費の上限を事前に契約書で合意するしかないでしょう。

それでも、流通業者が合意をやぶって過大に広告宣伝費を支出した場合でも、結論としては、上限を超えた分もメーカーが負担しないと再販拘束違反はまぬがれないと思われます。

少なくとも公取委はそういう立場でしょう(私はおかしいと思いますが)。

というのは、少し文脈は違いますが、注5の3で、

「(注5の3)  ユーザーへの販売に至るまでに生じる費用の実態を、メーカーが網羅的に把握することは困難な場合もあると考えられるところ、メーカーが、流通業者に対し、

a 流通業者においてユーザーへの販売に至るまでに生じる費用をメーカーが負担すること

b 当該費用の項目及びその負担方法

c 当該費用の項目に不足があるなどとして流通業者が協議を希望する場合にはその旨を申し出ることができること

をあらかじめ明示した上で、流通業者から協議の申出があった場合、当該申出の内容について当該流通業者と協議し、これら一連の過程で確認された費用をメーカーが負担した場合には、通常、メーカーが、ユーザーへの販売に至るまでに生じる費用を負担したものと考えられる。

もっとも、協議による合意の結果であるとしても、ユーザーへの販売に至るまでに生じる費用を、流通業者に一部でも負担させることとする場合には、メーカーが当該費用を負担したことにはならない。」

とされており、下線部分に注目すると、合意よりも全額負担の要請が優先すると公取委は考えているように思われるからです。

ですがさすがにそれでは据わりが悪いでしょうから、公取委に電話できいたら、案外、合意の上限を超えた分は負担しなくていいと言ってくれるかもしれません。

ただ、ここで私が言いたいのは、合意すればいいということではなくて(実務的にはそれで良しとしても)、事前に合意で上限を設定すること自体が非効率だということです。

というのは、広告宣伝にどれだけ支出するかは時機を見て柔軟に決められたほうが効率的だと思うのです。

また、どのような広告が効率的かは、流通業者のほうがメーカーより情報を持っているかもしれません。

そのような情報の非対称性がある中で、事前に合意しなければならないとしたら、どうしても支出は過小になると思われるのです。

でもそんな問題もきっと公取委は、当事者でよく協議すれば解決できるはずだと考えているのでしょう。

そうでなかったら、こんなガイドラインにはならなかったと思います。

あと、パブコメ5番では、

「流通業者は通常、複数の商品を取り扱っており、当該流通業者が行なう広告宣伝のうち、特定の商品に関する広告宣伝費用というものだけを切り出すことは不可能である。」

というコメントに対して、公取委は、

「御意見のような状況である場合、メーカーは、流通業者の広告宣伝の実情に即して、流通業者における全体の広告宣伝費用に占める対象商品の販売のために要する費用の割合がどの程度になるかについても、流通業者との間で協議することが考えられます。」

と回答しています。

要は、家電量販店のチラシの費用もメーカーは応分の負担をしろ、ということです。

それ自体合理性がないと思いますが、問題はそれだけではありません。

多数の商品を扱う小売店が1つの商品を宣伝すると、お店に来てもらえるということで、ついで買いなど、その商品自体の販促効果以上のものが期待できます。

いわゆるスピルオーバー効果です。

指定価格制度の対象になるようなプレミアムな商品の場合、それが目玉商品になって、スピルオーバー効果が生じるということは、ありうるシナリオだと思います。

そういうスピルオーバー効果があるにもかかわらず、たとえばチラシの中の各商品の面積比で費用負担するとかいうことになると、小売店が当該商品について過大な広告支出をする(たとえばチラシに占める面積を多めにとる)といったことが考えられます。

これも一種の非効率だと思います。

あと、これは過大規制につながるわけではないので大きな問題ではないように思うのですが、

「e 在庫保管費用、輸送費用、広告宣伝費用その他のユーザーへの販売に至るまでに生じる費用

というのは、どういう意味なんでしょうね?

「販売に至るまで」ということなので、販売後に生じる費用は流通業者が負担してもいいということなのでしょうか。

たとえば、流通業者独自に保証期間を延長するプログラムを採用しても、その保証のための費用をメーカーは負担する必要はない、ということのように読めます。

でも、ビジネスのリスクの分配という観点からは、リスクは全部メーカーが負えというのがガイドラインの意図でしょうから、販売が完了する前と後でわけることには、あまり合理性がないような気がします。

(ただし、これは販売後のリスクもメーカーが負うべき、という趣旨ではありません。)

というわけで、今回の流取ガイドラインの改正の広告宣伝費の部分は、経済学的発想が多少なりともあれば、どんどんボロが出てくるように思います。

公取委には、ガイドライン改訂のメンバーにも、エコノミストか、少なくとも経済学部出身者を加えることをおすすめしたいと思います。

また、これはとくに弁護士さんにおすすめしたいのですが、独禁法ではグレーな部分が大きいものの、そのグレーな部分がどれくらい本気で執行されるかは、そのルールの経済合理性に左右されるところが大きいと思っています。

つまり、経済学的に合理的なルールは執行されるリスクが高いけれど、経済学的に不合理なルールはそのリスクは低い(いわば建前で言っているだけ)、ということです。

そういう発想が根本にあると、クライアントに対するアドバイスも、そう大きく間違いません。

少なくとも、グレーな中で首尾一貫したアドバイスができます。

たとえば、似たような事例でのリスクの高低の説明が、理路整然とできます。

なので、独禁法を扱うとくに若い弁護士さんは、経済学を勉強されることをおすすめします。

2026年7月11日 (土)

下請法は、法律ではありません。

私の考えるところでは、下請法(現・中小受託法)は、法律ではありません。

なぜなら、法律の改正もないのに、公取委の解釈がどんどん変わるからです。

思いつくかぎりであげると、以下のとおりです。

・かつては、下請代金から控除(相殺)するのだけが代金減額で、別途下請事業者に金員を支払わせるのは不当な経済上の利益の提供要請と解釈されていたのに、今では、別途支払わせるのも減額にあたりうるとされている。

・平成28年下請法運用基準改正("裏金"世耕プランにもとづく)により、親事業者が検査を省略すると返品できなくなった。

・割引困難な手形の期日がどんどん短くなった。

・以前は事前の書面合意があれば銀行振込手数料を下請事業者に負担させることができたのに、運用基準の改正でできなくなった。

条文が変わらないのに解釈が突然変わるなんて、法律ではありえないことです。

ほかの法律でも、解釈が変わるということはありうると思います。

でもそれは、今まで明確でなかったところが解釈で明確にされたという意味での変更でしょう。

かつて厚底ブーツを履いて自動車を運転するのが道交法違反とされたのも、それまで厚底ブーツなんてなかったので解釈を明確化したということでしょう。

下請法の解釈を示すのでも、あいまいな概念(たとえば割引困難な手形)をどこかで線を引かないといけないというので解釈で線を引く、というのならわかります。

これに対して、上であげた下請法の解釈変更は、いままで適法だったものが、条文の変更もないのに違法になる、というものであり、明確化のための解釈変更とはまったく異なります。

それに比べたら、矢崎部品の勧告(データの無償保管が金型の無償保管のアナロジーで不当な経済上の利益の提供要請とされた)なんて、いままで事例がなかったところに事例が1つ加わっただけなので、かわいいものです。

原材料の遡及値上げが代金減額の遡及適用のアナロジーで不当な経済上の利益の提供要請とされた松尾製作所の勧告も、同様でしょう。

ですが、上に挙げたいくつかの例は、いままで白だったものが突然黒になるというものであり、まったく異なります。

こういうことが、国会で成立した条文の文言の変更もないのに平然と行われるのは、私は法律とは言えないと思います。

ふつうの法律でも、判例が変更されて解釈が変わるということはあるかもしれません。

でも、それは法令解釈権限が裁判所にある以上、当然のことです。

これに対して下請法(現・中小受託法)は、勧告に司法審査が及ばないという致命的欠陥があり、行政が一方的にルール変更できる仕組みを裏から支えてしまっています。

「独禁法だって法律です。」というこのブログのサブタイトルになぞらえていえば、「下請法は法律ではありません。」といったところでしょうか。

どうも公取委の下請法(現・中小受託法)の運用は、法令解釈の正統性に対する配慮が欠けているのではないでしょうか。

公取委は行政機関なのですから、法律の委任もないのに勝手にルールメイキングしちゃいかんでしょう。

また、こういうことを誰も言わないのも、不思議でなりません。

2026年7月10日 (金)

電磁的記録を保管させることが不当な経済上の利益の提供要請とされた事例(矢崎部品)

矢崎部品に対する2026年3月30日勧告では、

「イ 矢崎部品は、本件下請事業者のうち119名との間で取引基本契約書、品質管理基準書等を取り交わし

当該119名に対し、

委託に係る本件製品又は本件部品の製造における作業に関する記録、検査に関する記録、品質不具合に関する記録その他の品質記録に関する帳票類

(以下「品質記録帳票類」という。)

書面又は電磁的記録に係る記録媒体

(以下「電磁的記録媒体」という。)

に記録された電磁的記録の形式で

20年間等の所定の期間保管するよう求めていたところ、

遅くとも令和5年9月1日以降、当該119名に対し、

自己のために無償で品質記録帳票類を保管させ

及び

品質記録帳票類に係る書面を電磁的記録に変換して電磁的記録媒体に記録させ

ることにより、

当該119名の利益を不当に害していた。」

と認定されています。

つまり、品質記録の電子データを無償で保存させたら不当な経済上の利益の提供要請だ、というのです。

でも、これはあんまりにもひどいのではないでしょうか。

まず、「20年間」といっているので、20年間保存させたものだけが違法と認定されたわけではありません。

ひょっとしたら、3年とか5年とか、もっと短期間でも違法と認定された可能性があります。

というか、勧告文を読むと期間の長短は問わない、としか読めません。

「等」とは、行政ではオープンエンドの意味で使われるからです。

つまり、「20年」(というのも変な日本語ですが、それはさておき)といったら、「18年とか21年くらいとか、20年の近辺なんだろうな」というような常識的な読み方をするのではなく、要は何年でもいい(オープンエンド)と読むのが行政です。

もし長期間であることを違法認定の要件とするなら、「20年以上」などと認定するはずです。

現に金型の無償保管では、

「当該金型等を用いて製造する本件製品の部品の発注を長期間行わないにもかかわらず」(ダイヘン勧告

とか、明示的に何年といわないまでも、長期間発注がないのに保管させたことがいけないのだ、というふうにされています。

ところが、矢崎部品の「20年等」だと、期間の縛りがまったくなくなっているわけです。

むしろ、これは最長が「20年」だった、とみるのが自然でしょう。

これがもし違うというなら、担当官解説でしっかり釈明してほしいものです。

(こんな大事なことを、担当官解説で書けばすむというものではありませんが、ないよりましでしょう。)

つまり、「20年も保管させやがって、なんて悪いやつなんだ。」という、公取委による印象操作です。

というわけで、矢崎部品の勧告では、突如、期間の縛りがなくなっています。

次に問題なのは、保管を求めているのが「品質記録に関する帳票類」だ、ということです。

これって、ビジネス上必要なこともあるのではないでしょうか?

こういうのが、期間も問わず一切無償保管が認められないとすると、たいへん窮屈なことになるように思います。

そういうのが不当な経済上の利益の提供要請だというなら、不当性をきちんと認定すべきでしょう。

金型の無法保管の場合はまさに、「長期間発注がないにもかかわらず」というところが、不当性の認定だったわけです。

しかも金型の場合には、必要になるかどうかもわからないけれど捨てられない、というあいまいな存在で、その負担が一方的に下請にしわよせされていたのが問題だったのだと思います。

でも品質記録なんて、「いるかいらないかわからない」とはとうてい言えないでしょう。

結果的に保証期間や対応年数を不具合もなく終えたということがあったとしても、それは結果的に品質記録をチェックする必要がなかっただけのことで、金型みたいに、そもそも発注があるかどうかわからない(必要性がわからない)というのとは、わけが違います。

次に問題なのが、「所定の期間」という部分です。

「所定の期間」ということは、文字どおりの意味は、「定めたところの期間」ということです。

広辞苑では「定まっていること。定めてあること。『ーの席につく』」と定義されています。

ということは品質記録に関する帳票類の保管は、事前に契約で定めていたのではないでしょうか?

少なくとも勧告文の「所定の期間」という文言からは、そうとしか読めません。

ひょっとしたら、勧告に「品質管理基準書等を取り交わし」と認定されている、品質管理基準書等で合意されていたのではないでしょうか。

でも、そういうふうにあらかじめ品質記録の保管を求めることが、不当なことでしょうか?

大いに疑問です。

金型の無償保管の場合には、少なくともこれまでは、長年の慣行でなんとなくずるずると無償で保管していたのが、下請事業者の負担になっていけなかったわけです。

でも、あらかじめ品質記録の保管について合意することが、そんなに不当なことでしょうか?

次に問題なのが、記録を求めるのが電子データだということです。

こんなもの、たいして費用もかからないのではないでしょうか?

なんでこんなものまで下請法で規制しないといけないのでしょうか?

大いに疑問です。

というわけで、この勧告は、ここ数年の「金型の無償保管」というところからの、たんなる”連想ゲーム”で、違反にしたとしか思えません。

たいへんずさんな、また、まじめな企業にとっては非常に頭の痛い勧告だと思います。

最近、中小受託法(旧下請法)については、こういう無茶な解釈がどんどん平気で行なわれているという印象を受けます。

企業の人も、公取委からそういわれたら、そういうもんなのか、と思うでしょう。

あるいは、矢崎部品のケースもそうですが、たくさん違反行為が認定されて、そのなかに1つ、こういうわけのわからない違反認定がされていても、いちいち注意深く見ることもないのではないでしょうか。

でも、こういうのが、実務では大問題なわけです。

中小受託法は、勧告が裁判で争われることが制度上ないため、判例評釈の対象にもならず、そのため、研究者の方の関心の対象にもなりません。

ときどき研究者の方が中小受託法に言及することがありますが、実務で知りたいこととはぜんぜん視点がちがいます。

なので、こういう細かいことは、私のような実務家が批判するしかないのが実情です。

私も本音のところでは、こんな「あほらしい」勧告にいちいちコメントするのは、それこそ「あほらし」と思っています。

そもそも中小受託法は、独禁法に比べれば、低級な法律です。

そのことが、こんな勧告が出てしまうことにも表れています。

でも、在野法曹としては、こういう横暴は見過ごすことができません。

というわけで、これからもしつこく公取委の問題点を指摘していきたいと思います。

また、発注者のみなさん、中小受託法はぜひ、(できれば専門の)弁護士に相談してください。

そうしないと、いいようにやられます。

悲しいかな、それが中小受託法の運用の実態です。

2026年7月 9日 (木)

無償の委託にフリーランス法は適用されるか

フリーランスに無償で仕事を委託する場合、フリーランス法は適用されるのでしょうか。

結論としては、基本的には適用されないと考えますが、若干微妙な問題もあります。

まず、この問題に関係がありそうで実は関係ないのが、公取委ウェブサイトのフリーランス法Q&Aの問21で、同問には、

「問21 業務委託の定義について、事業者が「その事業のため」に委託するとは、どのような場合が該当するのでしょうか。」

という質問があり、その答えの中で、

「なお、発注事業者(法人であるか個人であるかを問いません。)が純粋に無償の行為のために行う委託は「事業のため」に委託する行為に該当しません。」

という回答があります。

ですが、これは、今問題にしている無料で仕事をさせるという場面のことではありません。

まず前提として条文を確認しておくと、「業務委託の定義」については、フリーランス法2条3項で、

「3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。

一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。

二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。」

とされていて、問21はこの2条3項1号2号の「事業のため」の解釈の問題だ、ということを押さえましょう。

そして、上記引用した回答部分は、

「なお、発注事業者(法人であるか個人であるかを問いません。)が純粋に無償の行為のために行う委託は「事業のため」に委託する行為に該当しません。」

といっていて、「純粋に無償の行為」というのは、いわば委託業務(=フリーランスがする行為)が手段だとすれば、その手段行為(「のために」)により達成される目的行為が、「無償の行為」だ、ということです。

つまり、この回答部分が言っているのは、

委託者が行なう「純粋に無償の行為」(問21回答)、つまり、委託者が無償で行なう行為は、委託者の「事業」(フリーランス法2条3項1号2号)ではない、

よって、

純粋に無償の行為のために行う委託」は、「事業のために他の事業者に・・・委託すること」(フリーランス法2条3項1号2号)には該当しない、

ということです。

もっと短くすると、

純粋に無償の行為のために行う委託 ⊈ 事業のために委託

の両辺から「ために(行う)委託」を引いて、

純粋に無償の行為 ⊈ 事業

となり、要は、純粋に無償の行為は「事業」ではない、ということです。

同様の考え方は従来から下請法(現中小受託法)でも採られていたところで、中小受託法テキスト13頁の情報成果物の類型1の説明の中に、

「「業として行う提供」とは、反復継続的に社会通念上、事業の遂行とみることができる程度に行っている提供のことをいい、純粋に無償の提供(例:広告宣伝物、リクルートビデオ)であれば、これに当たらない。」

という記述があります。

たとえば、発注者が、顧客に無償で配るための企業カレンダー(「広告宣伝物」)のデザインの作成を発注することは、情報成果物作成委託の類型1には該当しません。

同様のことは中小受託法テキストp29のQ22でも製造委託に関して述べられていて、

「Q22: 景品の製造を委託した場合も本法の対象となるか。」

という質問に、

「A: 商品に添付されて提供される景品は、有償で提供している商品の一部として提供されているため、当該景品の製造を委託することは製造委託(類型1)に該当する。

また、自社が純粋に無償で提供している景品は、自家使用する物品であり、当該景品を自社で業として製造している場合に、当該景品の製造を委託することは製造委託(類型4)に該当する。」

と回答されています。

つまり、純粋に無償で提供する景品は、発注者自身が業として製造しているのでないかぎり、中小受託法の対象にはならない、ということです。

上記フリーランス法Q&A問21の、

「発注事業者・・・が純粋に無償の行為のために行う委託は「事業のため」に委託する行為に該当しません。」

というのも、純粋に無償で景品を配る行為(提供行為)のために景品の製造を委託することは、「事業のため」に(景品の提供を)委託する行為には該当しないので、フリーランス法2条3項の「業務委託」には該当しない、といっているわけです。

「純粋に無償で配る景品やカレンダーだって、広い意味では販促のためなので、事業のためじゃないのか?」という常識的な異論はありうるところでしょうが、ともかく、下請法(現中小受託法)は、そういう解釈でやってきたので、フリーランス法もそれを引き継いでいる、ということなのでしょう。

ちなみに、長澤先生の取適本(『取引適正化法制の解説と分析』)184頁では、このフリーランス法Q&A問21を引用して、

寄付やそれに類する純粋に無償の行為のために行われる委託は、発注者の「事業のために」行うものとは認められず、フリーランス法の適用対象とはならない。」

と解説されており、景品や企業カレンダーではなく「寄付」という例が挙げられています。

ちなみに立案担当者解説(『フリーランス・事業者間取引適正化等法』(商事法務)37頁では、「その事業のために」(フリーランス法2条3項1号2号)の解説として、

「法人である業務委託者については、法人が自身の事業の用に供するために行う委託行為については「事業のために」委託する行為に該当する。」

とされていて、問21ほどはっきりとは書いてありませんが、ここの「事業」を有償のものにかぎると読めば、つまり、

「法人である業務委託者については、法人が自身の事業(純粋に無償のものを除く。)の用に供するために行う委託行為については「事業のために」委託する行為に該当する。」

と読めば、問21と辻褄があうので、そう読むのでしょう。

これと関連して、また別の観点として、フリーランス法Q&A問6では、

「問6 「事業者」とはどのようなものでしょうか。」

との質問に対して、

「答 「事業者」とは、商業、工業、金融業その他の事業を行うものをいいます。純粋に無償の活動のみを行っているものは「事業者」に該当しません。」

という回答がなされています。 

ここでは、

純粋に無償の活動のみを行っているもの ⊈ 事業者

といっています。

なのでまとめると、

純粋に無償の行為は、「事業」ではない(問21)

純粋に無償の活動のみを行なっているものは、「事業者」ではない(問6)

という、似ているけれども少し違うことを言っていることがわかります。

ではここでようやく本題に戻って、無償の委託にフリーランス法が適用されるのかを考えると、中小受託法については、長澤先生の取適本119頁で、

「取適法上、その対象となる委託業務は、有償でなされるものであることが前提とされており、委託業務が無償でなされる場合には、取適法の対象とはならないものと考えられる。」

と明言されています。

このように、中小受託法だと、これでぜんぜん違和感がないのが不思議です。

というのは、いわゆる下請取引(典型的には、メーカー間の製造委託)で無償のものなんておよそありえないわけで、もし無償のものがあったとしたら、それはいわゆる下請取引ではないのだろう、といってよいように思われるからです。

でも、フリーランスの場合には、その対象がさまざまであるだけに、もともと非常に低価格のフリーランスもあったはずで、非常に低価格だと買いたたきになりかねないのにその極端な場合の無償だとまったく規制がなくなる、というので、ほんとうに大丈夫かな、という気もします。

でもここは、大丈夫だ(無償の委託はフリーランス法の適用対象外だ)といっていいと思います。

1つの理由は、発注書の記載事項に委託料をフリーランス法が、中小受託法と同様、明示事項の3条や報酬の支払期日に関する4条なんかをみても、有償の委託を当然の前提にしているとしか読めないからです。

もう1つの理由は、フリーランス法は中小受託法とちがって委託の種類に何の限定もないので、適用範囲が非常に広く、こんなものにすべて発注書の発行を要求したらたいへんなことになりそうだからです。

たとえば、個人経営のコンサルタントが見込み客の企業に対して、営業目的で無料でセミナーを開くことを提案してきたときに、セミナーの内容について指定したら「委託」になって、無料だけれど発注書が必要だ、なんていうことになりかねないのがフリーランス法です。

それでは、世の中あまりに窮屈です。

それから、前述のとおり、あれだけ「無償の行為は事業ではない」とか、「無償の活動だけする者は事業者ではない」とか言っておいて、そういう無償の行為のための有償の委託や、無償の活動だけする者がする有償の委託をフリーランス法の対象にしておきながら、無償の委託がいきなりフリーランス法の対象になるというのも、なんともバランスがわるいと思います。

そして、こちらのウェブサイトでも、大東先生が無償の委託はフリーランス法の対象外だと説明されています。

なので、無償の委託にはフリーランス法は適用されないと解してよいと思います。

ただ、ふつうに有償で発注しているフリーランスに対して、ときどき無償で発注したりすると、さすがに買いたたきになるおそれはあるので、フリーランス法が適用されないと解釈するのは危ないと思います。

(ただし、1か月以上の期間行なうものにかぎります。5条柱書、施行令1条)

また、発注そのものを無償でするのでなくても、附随的な行為(たとえば体験講座)をフリーランスに無償でさせると、不当な経済上の利益の提供要請になります。

でもそれは、ふだんから1か月以上の期間行なう業務委託がフリーランス法の対象になるからそうなるのであって、無償の委託自体がフリーランス法上の「業務委託」になったわけではありません。

たぶん、公取委のQ&Aでも、この無償行為についてのことが触れられていないのは、フリーランスについてはこういう微妙な問題があるから公取委も言いたくないからじゃないかな、と想像します。

(中小受託法については、逆にあたりまえすぎて中小受託法テキストにも載っていないのだと思います。長澤先生の取適本p119でも根拠文献は挙げられていません。)

2026年7月 8日 (水)

ブロードコムに対する審査打ち切りについて

公取委がブロードコムに対する審査を打ち切ったことを公表しました。

短いので引用しておくと、

「公正取引委員会は、ブロードコム・インコーポレイテッド(以下「ブロードコム」という。)が、令和6年4月頃から、仮想化 (注1) に関するソフトウェアを利用して構築したクラウドサービスを第三者に提供しているクラウド・サービス・プロバイダー(以下「CSP」という。)等に、物理的なサーバー等の仮想化に関するソフトウェアをライセンスするに当たり 、

① 自己の取引上の地位が取引先に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、取引先に不利益となるように当該ソフトウェアの取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施している

② 不当に他のソフトウェアを抱き合わせてライセンスを受けさせている

などの行為を行っている疑い(注2)があったことから、独占禁止法の規定に基づき審査を行ってきたところ、同法の規定に違反すると認定するに足る事実が認められなかったことから、本件審査を終了することとした。

 なお、ブロードコムから、今後、契約条件の変更等によりCSPに重大な不利益が生ずる場合、CSPに対して当該変更等の内容を検討するために十分な予告期間をもって通知するとともに、各CSPと十分かつ誠実に交渉を行った上で当該変更等を実施する旨の申出があった。」

とのことです。

審査打ち切り自体はこれまでもいくつかったのですが、それらは、対象企業が自主的に問題行為をやめたので審査の必要がなくなった、というものでした。

立入検査までして、まったく違反事実なしで審査打ち切りというのは、きわめて異例です。

かつて、キヤノンが互換カートリッジの妨害で同じような調査を受けて違反事実なしとなった例があるくらいではないでしょうか。

というわけで、公取委の完敗です。

公表文では、

「なお、ブロードコムから、今後、契約条件の変更等によりCSPに重大な不利益が生ずる場合、CSPに対して当該変更等の内容を検討するために十分な予告期間をもって通知するとともに、各CSPと十分かつ誠実に交渉を行った上で当該変更等を実施する旨の申出があった。」

とされていますが、この事実で審査が打ち切られたのではなく、審査打ち切りとは無関係にこういう申し出があっただけなので、やっぱり完敗です。

申し出を理由に審査を打ち切ったなら、申し出違反があったら審査を再開することに大義名分が立ちますが、これでは申し出違反があったとしても、何の拘束力もありません。

この公表文だけでは、どんな事情で打ち切ったのか具体的なことはわからないので、この事件自体について論評するのはむずかしいですが(担当官解説を期待しましょう)、不満なのは、日本企業との対応のちがいです。

わたしが最近代理した日本の依頼者が警告を受けたケースでは、違反事実はまったく存在しないと主張して争ったのですが、公取委の審議官から面談で、

「近時の東京高裁の裁判例でも、公正競争阻害性の要件については、公正競争の確保を妨げる一般的抽象的な危険性があることで足りると認められている。」

「ましてや警告ではそのような一般的抽象的な危険の、さらに「疑い」があれば足りる。」

と、まるで水戸黄門の印籠でも見せんばかりのどや顔で説明されました。

(ちなみにこの東京高裁判決というのは、東京高裁令和元年 11 月 27 日判決〔土佐あき農協〕だと思われます。)

つまり、ブロードコムの件で、立入検査までやりながら警告や注意すら出さなかったということは、公取委が、一般的抽象的な危険がある「疑い」(警告)も、そのような危険に「つながるおそれ」(注意)もなかったと認めた、ということだと、私の目には映るのです。

被疑事実①の単純な値上げは、市場経済への露骨な介入になるので簡単に命令を出すのがためらわれるのは理解できますが(それでも、東京電力への注意とのアンバランスは指摘できるでしょう)、②の抱き合わせなんて、違反にしようと思えばいくらでもできる行為類型です。

なので、抱き合わせについて、一般的抽象的危険の疑いも、危険につながるおそれもなかった、という認定になったというのは、日本企業に対する態度とまったく異なり、私としては不満なわけです。

どうして公取委は、グーグルへの中途半端な排除措置命令しかり(これについては以前書きました)、外国企業に対してここまで甘いのでしょうか?

ただ、日本企業との不公平との点をひとまず措けば、私はむしろ警告を連発する運用のほうが問題で、命令を出すか、違反なしで打ち切るか、はっきりしたほうがいいと思っています。

そういう意味では、違反事実がなかったのであれば、すなおに打ち切るブロードコムへの対応が、あるべき姿だと思います。

「立入検査をした以上メンツにかけても命令や警告を出す」というような態度は、よろしくないと思います。

今後は、日本企業に対しても、同じ態度で臨んでほしいものです。

2026年7月 7日 (火)

高光製薬ステマ措置命令の疑問

高光(たかみつ)製薬が「ノビルン」という子供向けサプリでステマをしたということで、2026年6月29日、消費者庁から措置命令を受けました

いわゆるSNS引用型のステマですが、通販新聞の7月1日の記事によると、

「SNS投稿からの「画像」のみの転載をステマと判断した」

ということで、コメントなしで画像のみ転載したのが特徴なのだそうです。

画像だけであることが意味があるかというと、あまりないような気もしますが(でも、景表法実務ではそういったことに鼻が利くとも大事だとは思います)、この措置命令にはいろいろ問題があると思います。

1つめは、高光製薬が表示内容の決定に関与した事実が措置命令の記載からは明確でないことです。

ステマガイドラインでは、事業者が表示内容の決定に関与したかどうかが、「事業者の表示」かどうかの究極的な基準になっています。

なので、たとえば高光製薬が投稿者に「こういうアングルで撮って」などと指示していれば、表示内容の決定に関与していたことになります。

実例として、たとえばロート製薬の2025年3月25日措置命令では、

「ロート製薬は、本件商品を一般消費者に販売するに当たり、モニター募集サイトを通じて、第三者に対し、本件商品を無償提供した上、本件商品に関してInstagramにロート製薬が指示する方針に沿った投稿をすることなどを依頼したことによって当該第三者が投稿した表示について、画像部分を抜粋して・・・」

と認定されており、ロート製薬が投稿の方針を伝えていたことがわかります。

でも、高光製薬の措置命令では、

「高光製薬は、本件2商品を一般消費者に販売するに当たり、高光製薬が本件2商品の販売促進活動のために募集を行い、当該募集に応じた第三者に対し、本件2商品を無償提供した上、本件2商品に関してSNSに投稿を依頼したことによって当該第三者が投稿した表示について、画像部分を抜粋して、例えば、本件商品①について、令和7年4月27日から同年10月25日までの間、「ノビルン【公式】-成長期においしく栄養バランス-」と称する自社ウェブサイトにおいて、「SNSでも大人気!」、本件商品①を顔の右側に掲げる人物の画像等を表示するなど、別表「商品名」欄記載の商品について、同表「表示期間」欄記載の期間に、同表「表示媒体・表示箇所」欄記載の表示媒体・表示箇所において、同表「表示内容」欄記載のとおり表示していたことから、高光製薬は、本件2商品に係る同表「表示内容」欄記載の表示内容の決定に関与しているものであり、当該表示は事業者の表示であると認められる。」

とされているだけで、「SNSに投稿を依頼した」ことはわかりますが、投稿内容の指示があったとは認定されていません。

ただ、ステマガイドラインでは、表示内容の決定に直接関与していなくてもステマになる場合というのがあります。

私がいつも講演などで話している内容をざっくりまとめると、ステマガイドラインでは、

①広告主が表示内容の決定に関与したか=表示内容が第三者(表示者)の自主的な意思によるものか

が実は究極的な基準で、この①を判断するために、

②広告主が表示者にある内容の表示を行うよう依頼・指示したか

が考慮される、という構造になっています。

というより、ガイドラインでは、自主的な意思というのと「ある内容の表示を行うよう依頼・指示 」というのとを、ほぼ等置しています(そのようなことが論理的に言えるのかはさておき、ともかくそうなっています。)

さらに、そのような依頼・指示がなくても、①の自主的な意思かどうかを判断するために、

③広告主と表示者との間に、広告主が表示者の表示内容を決定できる関係性があったか

が考慮されるとされ、③の関係性を判断するために、

④⑴広告主と表示者との間のやりとり(メール等)、⑵対価の有無・内容、⑶過去の関係性等を総合的に考慮する

こととされています。

なので、投稿方針の伝達がなくても、究極的には④の総合考量で判断されるわけですが、そのような観点から高光製薬の措置命令をもう一度みると、

「本件2商品の販売促進活動のために募集を行い、当該募集に応じた第三者に対し、本件2商品を無償提供した」

といったあたりから、④の総合考量をしているように見えます。

④⑴の「広告主と表示者との間のやりとり(メール等)」と⑵の「対価の有無・内容」ということですが、この部分のガイドラインを引用すると、第2の1⑵イの、

「客観的な状況に基づき、第三者の表示内容について、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある」かどうかの判断に当たっては、

事業者と第三者との間の具体的なやり取りの態様や内容

(例えば、メール、口頭、送付状等の内容)、

事業者が第三者の表示に対して提供する対価の内容、

その主な提供理由

(例えば、宣伝する目的であるかどうか。)、

事業者と第三者の関係性の状況

(例えば、過去に事業者が第三者の表示に対して対価を提供していた関係性がある場合に、その関係性がどの程度続いていたのか、今後、第三者の表示に対して対価を提供する関係性がどの程度続くのか。)

等の実態も踏まえて総合的に考慮し判断する。」

とされている部分です。

これでは具体性に欠けて意味がないとおそらく消費者庁が思ったのだと思いますが、消費者庁ウェブサイトではステマQ&Aを出しており、その4番では、

Q4 当社では、街頭において試供品として自社の商品を無償で配布することを検討しています。

試供品を配布する際には、「よろしければ使用後の感想をSNSに投稿してください。」と声掛けし、SNSへの投稿を依頼することを検討しています。この場合、当該投稿が、告示に違反することはありますか。

という質問に、

「A「事業者の表示」に当たるのは、事業者が表示内容の決定に関与している場合です(これは、客観的な状況に基づき、投稿者の自主的な意思による表示内容とは認められない場合、と言い換えることができます。)。

事業者が、第三者に対して表示の内容を明示的に依頼・指示していなくても、第三者との関係性(例えば、具体的なやり取りの内容、表示に対する対価の内容、当該対価の提供理由、過去の取引関係の有無等)を踏まえ、表示内容の決定に関与していると判断される場合があります(運用基準第2・1・(2)・イ)。

本件において、事業者は、SNSに投稿することを依頼していますが、投稿内容についての指示は行っていません

また、事業者は、往来する不特定多数の人に対して、SNSに投稿して貰えるかどうかを問わずに試供品として商品を無償配布しているにすぎず、通常、それ以上の関係性はないと考えられるので、表示内容の決定に関与しているとはいえません。

したがって、SNSへの投稿がされたとしても、当該投稿は、通常、「事業者の表示」には当たらず、告示に違反しないと考えられます。」

と回答されていて、さらに関連するQ5では、

Q5 当社では、インフルエンサーに自社の商品を無償で提供することを検討しています。商品を提供する際には、「よろしければ使用後の感想をSNSに投稿してください。」と声掛けし、SNSへの投稿を依頼することを検討しています。この場合、当該投稿が、告示に違反することはありますか。」

という質問に対して、

「A 街頭サンプリングの場合(Q4)と異なり、特定のインフルエンサーを選定して商品を無償で提供することから、当該インフルエンサーとの間で、何らかのやり取りが行われているなど、その時点で一定の関係性が認められる場合があり得ます。

したがって、インフルエンサーとの間のやり取りの内容、無償提供の内容、無償提供の目的、取引関係の有無(例えば、過去の取引関係や、将来の取引可能性の有無)等の個別具体的な事情によっては、インフルエンサーの自主的な意思による表示内容とは認められず、「事業者の表示」に当たると判断される場合があります。

インフルエンサーの投稿が「事業者の表示」に当たる場合には、当該投稿が「事業者の表示」であることを明瞭にしなければ、告示に違反します。」

と回答されています。

ここまで読むと、投稿を条件としない(「よろしければ」)商品の無償提供は、道行く不特定の人に提供するならステマではないけれど、特定の人に提供するならステマになりうる、という区別が読み取れます。

でも本件は、

「高光製薬が本件2商品の販売促進活動のために募集を行い、当該募集に応じた第三者に対し、本件2商品を無償提供した上、本件2商品に関してSNSに投稿を依頼した」

ということなので、投稿することには同意していた(投稿が無償提供の条件になっていた)といえます。

では、投稿が商品無償提供の条件になっている場合はどうなるのかというと、続くQ6では、無償提供ではなく割引の事例ですが、

Q6 当社では、一般消費者に対し当社のサービスを利用した後に、予約サイトの口コミ投稿を行うことを条件として、サービスを割引価格で提供することを検討しています。この場合、当該口コミ投稿が、告示に違反することはありますか。

口コミ投稿について、サービスに対する評価として「星5(☆☆☆☆☆)」を付けることを条件としている場合はどうですか。」

という質問に対して、

「A 前段の場合、口コミ投稿の内容についての指示は含まれていません。また、一般消費者の口コミ投稿を促進する目的で、サービスを割引価格で提供するという程度の関係の下であって、割引程度の対価であることも踏まえれば、表示内容の決定に関与しているとはいえません。

したがって、当該口コミ投稿は、通常、「事業者の表示」には当たらず、告示に違反しないと考えられます。

一方で、後段の場合、口コミ投稿に当たって、「星5(☆☆☆☆☆)」を付けることが条件とされており、事業者は表示(投稿)の内容を決定しているといえるため、「事業者の表示」に当たると考えられます。

したがって、「事業者の表示」であることを明瞭にしなければ、告示に違反します。なお、口コミ投稿に当たって、「星5」ではなく、サービスの品質や内容、価格等の取引条件について推奨するコメントをすることが条件とされている場合も同様です。」

という回答がされています。

このQ6からは、商品無償提供ではなく割引の場合(←この違いがどの程度意味があるかはさておき)には、一般消費者に投稿を条件として割引してもステマにはならないが、一般消費者に「星5」など一定の内容を条件とするとステマになる、という基準が読み取れます。

そこでひるがえって本件をみてみると、

「高光製薬が本件2商品の販売促進活動のために募集を行い、当該募集に応じた第三者に対し、本件2商品を無償提供した上、本件2商品に関してSNSに投稿を依頼した」

ということなので、内容を指示してはいません。

なので、Q6と本件とのちがいを想像すると、「本件2商品の販売促進活動のために募集を行い、当該募集に応じた第三者」というのは、一般消費者を相手にしたものではないのだ、という発想が、おそらく消費者庁にはあるのではないか、とうかがわれます。

また、上記でペンディングにした、商品無償提供と割引とでどのくらい違うのか、という点については、実は決定的に違うと消費者庁は考えているのではないかという気がします。

少なくとも、販促活動に応募した一般人と、一般消費者とのちがいよりは、ずっと重視されているように思います。

そして、それは必ずしも理由がないことではないと思います。

というのは、やはり割引とは言え何らかの支出をするということは消費者にとっても痛みがあるわけで、割引を受けたというくらいのことで投稿内容の自由な決定が妨げられるのかというと、そうでもないように思うのです。

つまり、

「こっちも金払ってるんだ。割引したくらいで、投稿内容までガタガタ言うな」

というのが、普通の感覚だと思うのです。

でも、無償提供だと、さすがに、

「ただでもらったものを悪く言うのは申し訳ないな」

というのが、ふつうの日本人の感覚ではないかと思います。

なので、商品が気に入らなかった人は、投稿が条件でなければ投稿しないでしょうし(結果として、高評価の投稿ばかりになる)、投稿が条件であっても、あからさまに低い評価は書かないと思います。

というわけで、実はQ6では

「一般消費者の口コミ投稿を促進する目的で、サービスを割引価格で提供するという程度の関係」

であることが決定的で、逆に、販促目的で応募した投稿者に無償提供するような関係だとステマだ、ということになりそうです。

ですが、そういったことがわかるのもこの高光製薬の措置命令が出たからわかることであって、この措置命令がなかったら高光製薬のような事案でもQ6で内容は指示してないからOKじゃないか、と考える人がいても、私はおかしくなかったと思います。

それに輪をかけるのがステマガイドラインの商品無償提供についての記述の分かりにくさです。

つまり、ガイドライン運用基準第2の1⑵イ(ア)では、

「(ア) 事業者が第三者に対してSNSを通じた表示を行うことを依頼しつつ、自らの商品又は役務について表示してもらうことを目的に、当該商品又は役務を無償で提供し、その提供を受けた当該第三者が当該事業者の方針や内容に沿った表示を行うなど、客観的な状況に基づき、当該表示内容が当該第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合」

というのが

「事業者が第三者に対してある内容の表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、事業者の表示とされる場合」

の例(つまりステマの例)としてあげられていて、逆に第2の2⑴イでは、

「イ 事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。」

が、

「「客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合」、つまり、事業者の表示とならない場合」

の例(つまり、ステマにあたらない例)としてあげられているのです。

私は、何回読んでもこのガイドラインの部分の意味がわかりません。

さらに、上記第2の1⑵イ(ア)では「当該表示内容が」といっていて、第2の2⑴イでは「自主的な意思に基づく内容」といっていて、いずれも場合も投稿の「内容」が自主的かどうかを問題にしており、投稿するかどうかが自主的かどうかは問題視していないことも、指摘できます。

つまり、ガイドラインはあくまで、ステマに当たる場合も当たらない場合も投稿の「内容」が自主的かどうかを問題にしているのであって、投稿するかどうかが自主的かどうかは問題にしていないのです。

これに対して、高光製薬では投稿の内容についての指示はありません(措置命令では認定されていません)。

なので、ガイドラインをまじめに(論理的に)読めば読むほど、今回のケースを想定するのは困難です。

むしろ、上述のガイドラインの第2の2⑴イの、

「イ 事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。」

がステマではないという記載からすると、本件はまさに、

「事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼」

したただけの事案なのではないか、それなのになぜ、

「当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行」

ったのではないことになるのか、措置命令をみてもまったくわかりません。

というか、本件は、ガイドラインのガイドラインの第2の2⑴イのまんまのように、私には見えます。

措置命令の、「本件2商品の販売促進活動のために募集を行い」というのが、なんとなく意味があるのかなと勘繰ったりもしますが、それは、ガイドラインの第2の2⑴イの、

「イ 事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼する」

というのが、当然想定していることでしょう。

募集しないと無償提供のしようもないからです。

この記載だけから、募集しないで無償提供するのが前述のQ&Aの4番の街頭での(=募集しない?)無償配布(だけ?)を想定しているのだと読むことは不可能でしょう。

というより、街頭での無償配布だって、ある意味での「募集」でしょう。

昔、「募ってはいるが募集はしていない」と国会で珍答弁をした首相がいましたが、まさかこれもそういうことなのでしょうか?

というわけで、ガイドラインはまったくあてになりません。

(ガイドラインがあてにならないこと自体は実務家の間では周知の事実だと思うので、驚くに値しないというか、驚いたふりをする気にすらなりません。)

それに比べればまだQ&Aのほうがわかりやすいですが、それでも、Q6の、

一般消費者の口コミ投稿を促進する目的で、サービスを割引価格で提供するという程度の関係の下であって、割引程度の対価であることも踏まえれば、表示内容の決定に関与しているとはいえません。」

という部分から、反対に、

販売を促進する目的で、商品を無償提供するという関係であれば、表示内容の決定に関与しているといえる

という反対解釈を読み取るのは、なかなか難しいのではないかと思います。

なので、身もふたもない言い方をすれば、ステマについてはQ&Aをまじめに読むことに意味はなく(ガイドラインは論外)、「なんとなくやばそうだなぁ」という”鼻が利く”ことが、大事なのでしょう。

あるいは、Q&Aはぜんぶ反対解釈する(OKといわれているもの以外は、ぜんぶだめ)と読むべきなのでしょう。

次に、この措置命令が問題だと思うのは、「SNSでも大人気!」という表示をしているのに、この部分について優良誤認が何ら問題にされていないことです。

もしSNSの画像の引用がなくて、「SNSでも大人気!」という表示を根拠なくやれば、あきらかに優良誤認でしょう。

なのに、同じ表示にSNSのヤラセ画像が付いたらむしろステマだけ(=課徴金なし)で優良誤認には問われない、という、なんともちぐはぐなことになります。

そもそもステマの何が問題なのかと言えば、中立な第三者の評価であるように装いながら、実は広告主の広告だった、ということでしょう。

これに対して本件で引用された画像をみて、「中立な第三者の評価」を読み取る人がいるでしょうか?

画像から読み取れるとしたら、「SNSでもたくさん投稿があったんだな」ということでしょうが、たくさん投稿があったという事実は、表示の内容ではありません。

ここでふと思い出すのが、「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」第2の2⑶で「問題となる事例」とされている、

「○ 商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、口コミサイト上の評価自体を変動させて、もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること。」

という例です。

ここで、優良誤認にあたるためには、評価自体を変動させるくらいの多数の高評価が投稿される必要がある、という考え方が示されています。

優良誤認にあたるためには、1つの高評価があるのでは足りなくて、たくさんあることが大事だ、ということです。

なので、本件で問題なのは、ステマが問題視する、中立な第三者の評価かどうかということではなくて、まさに、たくさんの人がSNSで投稿している(=多数から高評価を受けている)と表示したことではないかと思うのです。

そして、実際の表示物は、下のとおりであり、

20260707-155646

転載されている写真は15枚です。(引用元は措置命令)

これだけで「大人気」というのは、ちょっと物足りません。

つまり、この15枚の写真は、投稿が15件あったことを示すために使われているのではなくて、あくまで「大人気!」であることを印象付けるための、いわばデザインとして用いられているに過ぎないのです。

こういったことからも、この画像の引用をステマというのは、ちょっと疑問です。

というより、この15枚の画像をステマというなら、「SNSでも大人気!」という文字のほうが、はるかに問題だと思います。

かつての消費者庁なら、「SNSでも大人気であることの合理的根拠資料を出せ」といったでしょう(葛の花イソフラボン事件。それが法運用としてよいかどうかはさておき。)

それなのに、この表示でステマを認定しておきながら優良誤認は問題視しないというのは、バランスが悪いと思うのです。

ちなみに、現在の高光製薬のサイトでは、下のとおり、「SNSで大人気!」が、「みんなでノビ活!」に変わっています。(高光製薬ウェブサイトより引用)

20260707-161610

これをみても、要は、「SNSで」という文言がいけなかったのだ、ということがよくわかります。

でも、こんないかにもインスタっぽい画像で(実際、インスタに投稿されたものなわけですが)、それでも問題なしというなら(消費者庁の承認の上てやっていることはあきらかです)、「SNSで大人気!」と明記したのが消費者庁的には決定的にまずかった、ということなのでしょうね。

ふつうの人がみたら修正後の表示だって、インスタの投稿に見えるのですが、それは問題視されてないわけですから。

事業者さんは、いろいろと考えられますね。感心します。

でも、個人的には、ほんとうにこのような修正で大丈夫なのか、ちょっと疑問に思っています(消費者庁がいいというから、目くじら立てる必要はないのかもしれませんが)。

というのは、修正前の文言は「SNSで大人気!」です。

このうち、「大人気!」かどうかは優良誤認には関係するかもしれませんが、ステマには関係しません。

ステマは商品役務の性能などには関係せず、あくまで表示主体をいつわるものに過ぎないからです。

「大人気!」かどうかは、表示主体には関係ありません。

そうすると、ステマで関係するのは、「SNSで」という部分ということになります。

ですが、修正後のものも、画像を見ればいかにもインスタに投稿されているように見えるわけで(実際のインスタの投稿なのだから当たり前です)、そういう意味では、画像をもってして「SNSで投稿がありました」と語らしめている、ともいえます。

そうすると、修正前のものと、何も変わっていないともいえます。

消費者の目からみた印象も、「大人気!」かどうかはステマには関係ないので無視すると、修正前のものは「SNSで(投稿されました)」という、文字の部分です。

これが、SNSの本物の画像によって、SNSに投稿があった(実際にあったのですが)と語らしめているわけであり、消費者目線で見ても、文字で「SNSで」と書くのとどっこいどっこいなんじゃないかと思います。

私が以前受けた相談で、実際にはテレビで紹介されたことがない商品のウェブ広告で、あたかもテレビで紹介されたかのような演出をした画像(レポーターとおぼしき若い女の子が、マイクを持って、その商品を紹介しているふうの画像で、画面の左上にはめざましテレビの時報を模したようなぶっとい「7:32」みたいな数字まで表示されていました😃)を載せても大丈夫か、という相談がありました。

担当者は、実際にはテレビで紹介されてないのにテレビで紹介されたかのように見えるので優良誤認になるのではないかと懸念していましたが、私は、

「これはよくある、『ニュースです!』みたいな、ニュースを模したたんなる演出ですから、優良誤認にはならないのではないですかね。」

と答えた記憶があります。

これがもし、「NHKで紹介されました」とか文字で書いていたらアウトだったでしょうけれど、画像をみれば本物のテレビ番組でないことはわかりそうな画像だったので、問題ないと考えました。

ところが、本件は、本物のインスタの画像を使っているのですから、事情が違います。

本物の画像を使っている以上、これをみて、「インスタで投稿されたんだな」と思う消費者はいるでしょう(実際に投稿されているのですし)。

そうすると、文字で何も書いていなくても、ふつうはそのインスタは、「事業者の表示」(広告)ではなく、第三者によるたんなる投稿だと思うのではないでしょうか。

インスタの投稿画像をみただけで、「高光製薬のウェブサイトなんだから、高光製薬が依頼して投稿させたに違いない」と思う人は、たぶんいないと思います。

そして、インスタの投稿画像をみただけで「高光製薬のウェブサイトなんだから、高光製薬が依頼して投稿させたに違いない」と思わない人(=表示主体を誤認した人)は、「SNSで大人気!」と書いてあってもやっぱり、「高光製薬のウェブサイトなんだから、高光製薬が依頼して投稿させたに違いない」と思わない(=表示主体を誤認しない)のではないでしょうか?

逆に、インスタの投稿画像をみただけで「高光製薬のウェブサイトなんだから、高光製薬が依頼して投稿させたに違いない」と思う人(=表示主体を誤認しない人)は、「SNSで大人気!」と書いてあってもやっぱり、「高光製薬のウェブサイトなんだから、高光製薬が依頼して投稿させたに違いない」と思う(=表示主体を誤認する)と思います。

つまり、本件がステマにあたって、修正後のがステマに当たらないためには、

「SNSで大人気!」という文字をみたら「この投稿は高光製薬のウェブサイトだけれど、この投稿は中立な投稿なんだろうな」と思う人(主体を誤認した人)が、

インスタの投稿画像だけ(+「みんなでノビ活!」という表示)を見たら、「この投稿は高光製薬のウェブサイトなのだから、当然、この投稿は高光製薬が投稿させたんだろうな」と思うようになる(主体を誤認しなくなる)

ということが必要なはずだけれど、そんな人いるのか?というのが素朴な疑問です。

どうも消費者庁は、「SNSで大人気!」という、ほんとうは優良誤認で処断すべき不当性を、ステマの不当性に紛れ込ませている(そして、そのことに気づいていない)ように思えてなりません。

まあ、消費者庁にしてみたら、

「文字で『SNS』と書くほうが、SNSへの投稿であることがあえて強調されていて、主体を誤認させる効果が強いのだ」

「インスタの投稿動画は仮に本物でも、あえてSNSであることを強調しているわけではないので、第三者の投稿だと誤認させる効果は小さいのだ」

ということかもしれませんが、ほんとうにそうか?という気がします。

というより、こんな論点があるなんて、そもそも気づいてすらいないのではないでしょうか。

ちなみにこの点については、上で引用した通販新聞の記事では、

「SNS投稿は、画像のみの転載だが、「大人気という表示、画像を併せて見た時に、企業の表示と認識しづらい」(表示対策課)としてステマと判断した。

「画像」のみを転載した場合の判断は「全体印象から判断するため何とも言えない」(同)。」

と報じられています。

通販新聞さんは、いつも他紙よりも一歩も二歩も踏み込んだ取材で、参考になります。

念のためステマガイドラインの関係個所を検討しておくと、同ガイドラインの第3の2⑵オ(ア)では、

「(ア) ただし、事業者自身のウェブサイトであっても、ウェブサイトを構成する特定のページにおいて当該事業者の表示ではないと一般消費者に誤認されるおそれがあるような場合

(例えば、媒体上で、専門家や一般消費者等の第三者の客観的な意見として表示をしているように見えるものの、実際には、事業者が当該第三者に依頼・指示をして特定の内容の表示をさせた場合や、そもそも事業者が作成し、第三者に何らの依頼すらしていない場合)

には、第三者の表示は、当該事業者の表示であることを明瞭に表示しなければならない。」

とされています。

ですが本件では、修正前でも修正後でも、たんなる画像だけですからそもそも「客観的な意見として表示をしているように見える」とはいえなさそうですし、内容の指示はしていませんから「特定の内容の表示をさせた場合」ともいえません。

そうすると一般論としての「当該事業者の表示ではないと一般消費者に誤認されるおそれがあるような場合」という基準でいくしかありませんが、この基準で、修正前の「SNSで大人気!」はだめで修正後の「みんなでノビ活!」ならOKだと判定しろというのは不可能でしょう。

というわけで、ここでもやっぱりガイドラインは役に立ちませんでした(笑)。

なお本件では、商品の効果効能は何ら問題視されていませんが、それは、そもそも表示のどこを見ても「背が伸びる」とは書いていないので当然です。

背が伸びることを印象付ける表示として目につくのは、もちろん、「ノビルン」(伸びるん?)という商品名と(笑)、下のような、上向き矢印の表示(引用元は措置命令)と、

20260707-160638

あとは、下のような成長期に必要な栄養素が凝縮されていることを示す表示くらいです(引用元は措置命令)。

20260707-160932

あとは、管理栄養士さんのおすすめくらいでしょうか。

まあ、この手の健康食品の効き目といえば栄養補給くらいのものだというのは常識的にわかるわけですから(もし薬効があったり遺伝子に働きかけるとしたら、親は怖くて買わない)、少なくとも景表法の観点からは、背が伸びる(少なくとも、背が伸びるのを助ける)くらいは表示してもよいように思いますが、そうすると薬機法や食品表示法にひっかかるから、表示できないのでしょう。

この種の表示を考える方々のご苦労がしのばれます。

あと、細かいことですが、措置命令の、

「高光製薬は、本件2商品を一般消費者に販売するに当たり、高光製薬が本件2商品の販売促進活動のために募集を行い、当該募集に応じた第三者に対し、本件2商品を無償提供した上、本件2商品に関してSNSに投稿を依頼したことによって当該第三者が投稿した表示について、画像部分を抜粋して、例えば・・・」

という認定は、SNSへの投稿が無償提供の条件だったのかどうか、少々あいまいですね。

常識的に言えば、SNSへの投稿を条件に無償提供することを応募条件として募集したのだろうと推測できますが、理屈のうえでは、SNSの投稿はとくに条件にしないで希望者に商品を無償提供するという販促方法もありうるわけで(あるいは、まったく無条件ではないにせよ、アンケートに回答するとかは条件で、SNS投稿は任意、というハイブリッド型もあるかもしれません。)、この認定ではSNS投稿が無償提供の条件だったのか、よくわかりません。

むしろ、「販売促進活動のために募集を行い、当該募集に応じた第三者に対し、本件2商品を無償提供した」という文言を論理的に読むなら、「募集」は(無条件の)募集としてあって、応じた人に「無償提供した」のであって、そのあとの、「本件2商品に関してSNSに投稿を依頼したことによって当該第三者が投稿した」というのとは応募とは関係がない、あるいは、無償提供した「」で(≒あとで)、投稿依頼したのであり、募集時には投稿は条件でなかった、とも読めます。

もしこの読み方が正しくて、消費者庁が意図的にこのような命令文にしたとしたら、これは国民に対する大きな欺まんでしょう。

担当官解説でしっかり説明してほしいところです。

ちなみに大正製薬事件では、

「大正製薬は、本件商品を一般消費者に販売するに当たり、第三者に対し、本件商品の無償提供及び対価の提供を条件に、本件商品に関してInstagramに投稿を依頼したことなどによって当該第三者が投稿した表示について・・・」

というふうに、対価支払を条件に投稿依頼したことが明示的に認定されていますし、ロート製薬事件でも、

「ロート製薬は、本件商品を一般消費者に販売するに当たり、モニター募集サイト(注・事業者が宣伝したい商品等についてのモニターを募集し、当該モニターに対し、当該商品等を無償提供するなどして、口コミ投稿や、アンケートへの回答を求めるなどのいわゆる「モニターサービス」を提供するウェブサイト)を通じて、第三者に対し、本件商品を無償提供した上、本件商品に関してInstagramにロート製薬が指示する方針に沿った投稿をすることなどを依頼したことによって当該第三者が投稿した表示について・・・」

というふうに、無償提供の条件として口コミ投稿を求めるモニター募集サイトへの応募であることが、はっきり認定されています。

こういうのと比べると、高光製薬の措置命令には、いかにも意図的にあいまいに書いてあるように思えてきます。

こういうことを考えるにつけ、やっぱり措置命令を出すことは大事ですね。

確約だったら、こんなこまかいあらは見えなかったと思います。

(ステマは確約ができないので、基本措置命令になります。)

こういうところから、確約の弊害(不透明な法運用のリスク)がみえてくるように思います。

2026年7月 3日 (金)

瑕疵による損害賠償請求を代金減額とした伊藤軒事件勧告の問題点

2023年12月22日、伊藤軒が下請代金から「クレーム処理代」を差し引いたことで、公取委が下請法違反で勧告を出しました

(なおこの勧告は、長澤先生の取適本p533でも紹介されています。)

勧告の問題の箇所は、

「⑵ 伊藤軒は、令和4年6月から令和5年5月までの間、次のアからオまでの額を下請代金の額から差し引くことにより、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減じていた。減額した金額は、総額837万460円である(下請事業者66名)。

〔ア~エ省略〕

オ 「クレーム処理代」の額」

という部分です。

これだけ見ると何が問題かわからないので、担当官解説(小菅敦=樋口高文=藤原達矢「株式会社伊藤軒に対する勧告について」公正取引881号64頁)をみると、

「⑵ クレーム処理代の減額

伊藤軒は、下請事業者が製造した菓子等が不良品であり、消費者等へのクレーム対応が生じた際、下請事業者に対し、クレーム処理代と称して、クレーム1件当たり1,080円等を下請代金の額から差し引いていた。

伊藤軒は、クレーム処理代を差し引く理由について、不良品が発生した際の消費者等へのクレーム対応に要する費用の一部について、当該不良品を製造した下請事業者に負担してもらうためと説明していた。

そのため、クレーム処理代は、伊藤軒が下請事業者に代わって行った不良品が発生した際の対応の対価とみることもできる。

しかしながら、減額については、下請法運用基準第4の3⑵アにおいて、瑕疵があるなど下請事業者の責に帰すべき理由があるとして返品する場合には下請代金の額を減ずることが認められるとされているが、

前記⑴の返品で述べたように、受入検査を省略する場合には、瑕疵があっても返品することが認められないところであり、

同じく瑕疵の存在を理由としてクレームの処理にかかった費用を下請事業者に負担させることについても、下請事業者の責に帰すべき理由があると認めることは相当ではない。

したがって、伊藤軒がクレーム処理代の額を下請代金の額から差し引くことは、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減じており、当該行為は下請法で禁止している減額に該当すると認めたものである。

なお、本件は、受領した商品に「瑕疵の存在」が認められることを理由にクレーム処理代を下請代金の額から差し引いた行為について、商品に瑕疵があった場合であっても、受入検査を行っていないことを理由に下請事業者の責に帰すべき理由が認められないとして減額を認定した初の勧告事例である。」

と書いてあります。

要は、受入検査をしないと瑕疵(契約不適合)があっても、損害賠償を代金から減額してはいけない、ということです(「受入検査を行っていないことを理由に下請事業者の責に帰すべき理由が認められないとして減額を認定した」)。

「減額を認定」しただけなので、減額せずに別途損害賠償請求をすることは妨げられないと考えられます。

ただ、下請法(現在は中小受託法)の解釈はコロコロ変わるので、この先どうなるかはわかりません。

以下、担当官解説の内容を検討してみます。

まず、

「クレーム処理代は、伊藤軒が下請事業者に代わって行った不良品が発生した際の対応の対価とみることもできる。」

という部分ですが、民法的な観点からは不自然な認定です。

まず、伊藤軒が行なったクレーム対応は、取引先から伊藤軒自身に対してなされたクレームへの対応でしょうから、「下請事業者に代わって」行なった対応ではありません。

つまり、伊藤軒が取引先に対して不良品納入という債務不履行または契約不適合責任違反をしたので、その完全履行や追完(の一環)として、あくまで自己の取引先との義務の履行として伊藤軒自身が行なった、とみるしかないでしょう。

また、「対応の対価」というのも不自然です。

「対価」というのは、

「個々の契約による財産の移転又はサービスの提供に対する反対給付の価額」(『法令用語辞典』学陽書房)

です。

本件で伊藤軒と下請との間に、「伊藤軒が下請にクレーム対応サービスを提供する契約」があったかというと、あるはずがありません。

これはたんに、債務不履行または契約不適合責任違反による損害賠償請求だというべきでしょう。

どうしてこういうことにこだわるのかというと、本件のような民事法と下請法が抵触する場面では、民法理論の正確な理解が不可欠だからです。

下請法が民法の領域に踏み込む以上、「民法の世界ではどのように理論構成されるか」をきちんと踏まえたうえで議論すべきでしょう。

それなのに担当官解説は、そもそも民法の理解がかなり怪しいといわざるをえません。

そこであえて公取委の気持ちになって(民法は知らないふりをして)、どうしてこういう分析になったのかを想像してみると、減額がみとめられる場合として、中小受託法テキスト74頁(当時の下請法テキストも同じ)に、

「● 代金の額を減ずることに当たらない場合

以下の場合は、代金の額を「減ずること」には当たらない。

・ 中小受託事業者に販売した商品等の対価や貸付金等の弁済期にある債権を代金から差し引くこと。」

という記載があるため、

「減額にあたらない理由としては「商品等の対価」にあたる必要があるのだから、伊藤軒が減額にあたらない理由としては「不良品が発生した際の対応の対価」というのくらいしか考えられないよなぁ」

という発想だったのではないか、と想像されます。

いずれにせよ、この段階ですでに「クレーム処理代」の法的性質が(「商品等の対価」ではなくて)損害賠償請求だ(あるいは、損害賠償請求かもしれない)ということに、思いが至っていません。

別に「商品等の対価」であろうが、「損害賠償請求権」であろうが、適法な債権であることには変わりはないわけで、両者は本質的には何も違いがないと思います。

(ただし後述のとおり、下請法テキストには瑕疵で減額が認められる場合についてこまごまとした規定があります。)

次に、担当官解説の、

「減額については、下請法運用基準第4の3⑵において、

瑕疵があるなど下請事業者の責に帰すべき理由があるとして返品する場合には

下請代金の額を減ずることが認められるとされている」

という部分を念のため確認しておくと、「下請法運用基準第4の3⑵ア」(当時)は、

「⑵ 「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして下請代金の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

「1 受領拒否」(2)又は「4 返品」(2)にいう下請事業者の責に帰すべき理由

〔注・1⑵はアが瑕疵、イが納期違反。4⑵は瑕疵、ただし検査省略だと返品不可

があるとして、下請事業者の給付の受領を拒んだ場合又は下請事業者の給付を受領した後その給付に係るものを引き取らせた場合(減ずる額は、その給付に係る下請代金の額に限られる。)

〔イ省略〕」

というものです。

なので、担当官解説の「瑕疵があるなど下請事業者の責に帰すべき理由があるとして返品する場合には下請代金の額を減ずることが認められる」という部分は、下請法運用基準のとおりなので、まあよいとしましょう。

次の、

受入検査を省略する場合には、瑕疵があっても返品することが認められない」

という部分も、運用基準第4の4⑵オ(当時)どおりで、とくに問題ありません。

(ちなみに、運用基準第4の4⑵オ(当時)の「給付に係る検査を省略する場合」に返品が認められないという規定は、"裏金"世耕プランによる平成28年改正で導入されたものです。)

次の、

「同じく瑕疵の存在を理由としてクレームの処理にかかった費用を下請事業者に負担させることについても、下請事業者の責に帰すべき理由があると認めることは相当ではない。」

という部分は、一瞬、「下請事業者に負担させること」自体がいけないかのように読まれかねないですが、そうではなくて、あくまで「下請事業者の責に帰すべき理由があると認めることは相当ではない。」と言っているので、あくまで減額のことを言っているだけです。

つまり、上記引用部分の「下請事業者の責に帰すべき理由」というのは、下請法(当時)4条1項3号の「下請事業者の責めに帰すべき理由」のことです。

そうすると、別途損害賠償請求をすることが不当な経済上の利益の提供要請にあたるのではないかといった論点は出てきません。

不当な経済上の利益の提供要請(中小受託法5条2項2号)には「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」という文言は出てこないからです。

というわけで、この担当官解説はもっぱら減額の可否について述べている、というべきでしょう。

しかし、油断は禁物です。

というのは、昔は別途支払わせるのは減額にはなりませんでしたが、最近の公取委の解釈変更で、別途支払わせるのも減額になることがあることになったからです。

(このあたりの公取委の解釈変更については、以前書きました。)

変更後の解釈でも、さすがに瑕疵の損害賠償を別途請求したときまで減額になるとは思えませんが、下請法の解釈はしょっちゅう変わるので、油断はできません。

次に、これは伊藤軒事件の勧告が悪いわけではなくて下請法運用基準のほうが悪いのですが、検査しないと減額できないというのは、受領拒否の減額の場合と比べると、いかにもアンバランスです。

当時の下請法運用基準第4の3⑵では、

「(2) 「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして下請代金の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

ア 「1 受領拒否」(2)又は「4 返品」(2)にいう下請事業者の責に帰すべき理由があるとして、下請事業者の給付の受領を拒んだ場合又は下請事業者の給付を受領した後その給付に係るものを引き取らせた場合(減ずる額は、その給付に係る下請代金の額に限られる。)

イ 「1 受領拒否」(2)又は「4 返品」(2)にいう下請事業者の責に帰すべき理由

〔注・受領拒否の1⑵につき瑕疵や納期遅れ。

返品の4⑵につき瑕疵と速やかな引き取り、ただし検査省略は返品不可〕

があるとして受領を拒むこと又は給付を受領した後その給付に係るものを引き取らせることができるのに、下請事業者の給付を受領し、又はこれを引き取らせなかった場合において、委託内容に合致させるために親事業者が手直しをした場合又は瑕疵等の存在若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかな場合(減ずる額は、客観的に相当と認められる額に限られる。)」

とされていました。

つまり、 受領拒否のルートに乗せると、

「1 受領拒否」(2)にいう下請事業者の責に帰すべき理由〔注・瑕疵や納期遅れ〕があるとして受領拒否できるのに、

下請事業者の給付を受領し場合において、

委託内容に合致させるために親事業者が手直しをした場合又は瑕疵等の存在若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかな場合

には、検査の有無にかかわらず減額できました。

これが、返品のルートに乗せたとたん、検査を省略すると(返品ができないため)減額はできない、となったわけです。

これはアンバランスだったといわざるをえません。

ちなみに、中小受託法運用基準では、受領拒否ルートでの減額の場合には、第4の3⑵ア(イ)で「(イ) 当該理由がある旨を中小受託事業者にあらかじめ伝えた上でその給付を受領した場合」とされ、受け取る前に瑕疵があることを伝えないと減額できないという不可能を強いる規定になったので、受領拒否ルートがふさがれたことによって返品ルートとのアンバランスは、皮肉にも解消されました。

また、中小受託法運用基準第4の3⑵イでは、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして代金の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

〔アは、受領拒否の場合なので省略〕

イ 「4 返品(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由〔注・瑕疵。なお4オで検査省略は返品不可〕

がある場合であって、次の(ア)又は(イ)に該当するとき。

(ア) 中小受託事業者の給付を受領した後、当該理由があるとして、その給付に係るものを引き取らせ場合(減ずる額は、その給付に係る代金の額に限られる。)

(イ) 中小受託事業者の給付を受領した後、当該理由がある旨を中小受託事業者にあらかじめ伝えた上でその給付に係るものを引き取らせなかった場合に、

委託内容に合致させるために委託事業者が手直しをしたとき

又は

委託内容と適合しないこと等若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかなとき(減ずる額は、客観的に相当と認められる額に限られる。)。」

となり、検査省略すると返品できないという規定は、第4の4⑵から分離されて、4⑶オに分離されたので、検査を省略すると減額できないという事態は、少なくとも中小受託法運用基準の文言上は解消されました。

とはいえ、公取委が(運用基準を改正しようとしまいと)また解釈を変更する可能性があるので、こちらも目が離せません。

2026年7月 1日 (水)

受領拒否も返品もしないで(履行として認容して)減額する場合についての中小受託法運用基準の定めの矛盾

中小受託法運用基準第4の3⑵では、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして代金の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

ア 「1 受領拒否」(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由〔瑕疵、納期遅れ〕がある場合であって、次の(ア)又は(イ)に該当するとき。 

〔(ア)省略〕

(イ) 当該理由〔瑕疵、納期遅れ〕がある旨を中小受託事業者にあらかじめ伝えた上でその給付を受領した場合に、

委託内容に合致させるために委託事業者が手直しをしたとき

又は

委託内容と適合しないこと等若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかなとき

(減ずる額は、客観的に相当と認められる額に限られる。)。

イ 「4 返品」(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由〔瑕疵+速やかな返品 or 瑕疵+ロット単位検査+最初の支払時前〕がある場合であって、次の(ア)又は(イ)に該当するとき。

〔(ア)省略〕

(イ) 中小受託事業者の給付を受領した後、当該理由がある旨を中小受託事業者にあらかじめ伝えた上でその給付に係るものを引き取らせかった場合に、

委託内容に合致させるために委託事業者が手直しをしたとき

又は

委託内容と適合しないこと等若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかなとき

(減ずる額は、客観的に相当と認められる額に限られる。)。 」

とされています。

さて、このア(イ)(受領拒否しないで減額)とイ(イ)(返品しないで減額)は、似ていますが微妙に異なります。

まず、ア(イ)(受領拒否しないで減額)は、

「(イ) 当該理由〔瑕疵、納期遅れ〕がある旨を中小受託事業者にあらかじめ伝えた上でその給付を受領した場合」

ということなので、「受領」する前(=「あらかじめ」)に、瑕疵または納期遅れを通知しないといけないことになります。

ですが、受領する前に瑕疵があることがわかることなんてふつうないですから、この規定が使えることはまずないでしょう。

逆に、納期遅れの場合にはわざわざ通知しなくても納期遅れであることは下請事業者にもわかっていますから、そのような受領前の通知を要求する意味がわかりません。

要求するならむしろ、「当該理由」(納期遅れ)の通知ではなくて、納期遅れだけれども履行として認容して受領するという通知を要求すべきでしょう。

そして、もしこのような「納期遅れだけれども履行として認容して受領する」という通知がなされれば、その中には納期遅れである旨の通知も論理的に含まれていますから、あらかじめの「当該理由」(納期遅れ)の通知があったとみていいでしょう。

細かいけれど重要かもしれないポイントとして、発注者は「納期遅れだけれども履行として認容して受領する」というつもりで通知したのに、下請事業者のほうは、納期が延期された(免除された)と誤解する、ということが起きそうです。

なので、発注者としては、そのような誤解を招かないために、納期を免除するものではないことを、はっきりと伝えるべきでしょう。

いずれにせよ、実務上トラブルになることが圧倒的に納期遅れよりも多い瑕疵の場合については、受領前の通知をすることが事実上不可能なので、ア(イ)(受領拒否しないで減額)は忘れていいと思います。

そこで、イ(イ)(返品しないで減額)を考えることになりますが、そもそも、ア(イ)(受領拒否しないで減額)とイ(イ)(返品しないで減額)とは、どこが違うのでしょうか?

受領拒否しない、ということは、受領はする、ということです。

返品しない、ということは、やはり、受領はする(だけど、返品はしない)、ということです。

いずれも、受領して返品しない(いわば、履行として認容して受領する)、ということなので、何も違いがないように思います。

「返品しない」という否定形が気になる人(私なんかはそうですが)、受領してそのまま占有する、といってもいいでしょう。

それなのに、ア(イ)(受領拒否しないで減額)とイ(イ)(返品しないで減額)をわけて書くことの意味がわかりません。

とくに、上述のように、ア(イ)(受領拒否しないで減額)は受領前の理由の通知を要求するために、きわめて使い勝手の悪い(とくに、瑕疵の場合には、事実上使えない)規定になっています。

しかも、少なくとも運用基準の文言を素直に読むかぎり、イ(イ)(返品しないで減額)における中小受託事業者の責めに帰すべき理由(4⑵)というのが、(これは運用基準のドラフトのミスだと思いますが)そもそもイ(イ)(返品しないで減額)のときに成り立たないのではないか、という疑問があります。

というのは、運用基準第4の4〔返品〕⑵は、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして、中小受託事業者の給付を受領した後に中小受託事業者にその給付に係る物を引き取らせることが認められるのは、中小受託事業者の給付の内容が明示された委託内容と異なる等の場合であって、次のア又はイに該当するときに限られる。

ア 当該給付を受領後速やかに引き取らせる場合

イ 給付に係る検査をロット単位の抜取りの方法により行っている継続的な取引において、当該給付の受領後の当該給付に係る代金の最初の支払時までに引き取らせる場合。(この場合にあっては、あらかじめ、当該引取りの条件について合意がされ、その内容が明示され、かつ、当該明示と発注時の明示との関連付けがされていなければならない。)」

とされていて、いずれも、「引き取らせる」ことが条件だと読めるからです。

つまり、「引き取らせる場合」に「責めに帰すべき理由」があるとされるのであれば、引き取らせないかぎり「責めに帰すべき理由」はないことになるのではないか、という疑問です。

まあここは、運用基準のドラフトミスには目をつむって、「引き取らせる場合」というのは、あくまで返品の場合の話であって、減額の場合には、

「(改ア) 当該給付を受領後速やかに減額の意思を伝える場合」

「(改イ) 給付に係る検査をロット単位の抜取りの方法により行っている継続的な取引において、当該給付の受領後の当該給付に係る代金の最初の支払時までに減額の意思を伝える場合。〔以下省略〕」

とでも読み替えておくことにしましょう。

あるいは、「引き取らせる場合」という条件自体をまったく無視するという読み方もありうると思います。

といいますか、今の運用基準の文言なら、「減額の意思を伝える」なんてことはどこにも書いてないわけですから(上記解釈は公取委の言いたいことを忖度して加えただけですから)、そういう読み方(無視する読み方)をされても仕方ないと思います。

と、ここまで考えてみてあらためて気づくのが、ア(イ)(受領拒否しないで減額)とイ(イ)(返品しないで減額)のアンバランスさです。

つまり、イ(イ)(返品しないで減額)の場合は、上記解釈によれば、瑕疵さえあれば受領後速やかに減額の意思を伝えれば減額できるのに、ア(イ)(受領拒否しないで減額)の場合には、受領前に瑕疵を伝えることが事実上できないために、減額が事実上できない、ということです。

中小受託法運用基準では、検査を省略すると(返品できないため)減額できないという規制が外れたため(∵検査省略したら返品できないという規定が第4の4⑶に独立したため)、イ(イ)(返品しないで減額)が使えるケースが増えたので、まだいいですが、これが下請法運用基準の時代には、検査を省略すると返品のみならず減額もできなかったため(∵検査省略したら返品できないという規定が第4の4⑵に規定されていたため)、まじめに考えるとけっこう大変でした。

それでもなお、ア(イ)(受領拒否しないで減額)の規定が事実上空振りになることには変わりはなく無駄なので、次の改正あたりで整理してはどうかと思います。

そもそも、減額できる要件を受領拒否と返品の要件から借りてこようとするからこういうわけのわからないことになるわけで、ともかく瑕疵があったら減額できる場合というのを、受領拒否や返品の要件とは別に、独立して定めたらいいと思います。

公取委のみなさま、ご検討ください。

2026年6月30日 (火)

受領拒否して代金減額ができる場合についての中小受託法運用基準第4の3⑵アの読み方

中小受託法運用基準第4の3⑵アでは、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして代金の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

ア 「1 受領拒否」(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由

〔注・1⑵ア瑕疵、イ納入遅れ〕

がある場合であって、次の(ア)又は(イ)に該当するとき。

(ア) 当該理由があるとして、中小受託事業者の給付の受領を拒んだ場合

(減ずる額は、その給付に係る代金の額に限られる。)

(イ) 当該理由がある旨を中小受託事業者にあらかじめ伝えた上でその給付を受領した場合に、委託内容に合致させるために委託事業者が手直しをしたとき

又は

委託内容と適合しないこと等若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかなとき

(減ずる額は、客観的に相当と認められる額に限られる。)。

〔返品の場合のイ省略〕」

とされています。

まず、返品の場合と異なり、ロット単位での検査云々という規定はないので、受領拒否の場合には、検査の有無や方法によって減額の要件に差はありません。

とはいえ、瑕疵の場合には通常は受け取ってみないと瑕疵があったかどうかわかりようがないので、(ア)の「拒んだ」が適用される場面はあまりないのではないかと思います。

これに対して、納入遅れなら、(ア)の「拒んだ」が適用される場面はいくらでもありそうです。

ここで、納入遅れで受領拒否した場合でも、「(減ずる額は、その給付に係る代金の額に限られる。)」とされていますが、受領していないわけですから、納入遅れの分については代金をまったく支払わなくていい(いわば、全額の減額をしていい)、ということになります。

次に、(イ)の、受領しつつ減額をする場合については、前段の手直しによる減額は、「委託内容に合致させるため」ということなので、瑕疵の場合にしか適用されません。(納入遅れの場合には適用されません。)

その場合(瑕疵ある物を受領した場合)の減額が認められる限度である「客観的に相当と認められる額」というのは、手直し料と、手直ししてもなお戻らなかった価値減少分が、含まれるというべきでしょう。

もちろん、手直し料と、戻らなかった価値減少分の合計額が下請代金額を超えれば、下請代金全額を支払わないことも可能です。

全額減額しても足りない分は別途損害賠償請求すればよいでしょう。

やや問題なのが、減額をその製品Aの代金から減額するのでも、別途損害賠償請求するのでもなく、別の製品Bの下請代金と相殺することができるか、です。

このような、Bの代金から減額できるかという観点からあらためて中小受託法運用基準第4の3⑵をながめてみると、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして代金〔B〕の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

ア 「1 受領拒否」(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由〔Bの瑕疵・納入遅れ〕がある場合であって、次の(ア)又は(イ)に該当するとき。

(ア) 当該理由〔Bの瑕疵・納入遅れ〕があるとして、中小受託事業者の給付の受領を拒んだ場合(減ずる額は、その〔Bの〕給付に係る代金の額に限られる。)

(イ) 当該理由〔Bの瑕疵・納入遅れ〕がある旨を中小受託事業者にあらかじめ伝えた上でその〔Bの〕給付を受領した場合に、委託内容に合致させるために委託事業者が手直しをしたとき又は委託内容と適合しないこと等若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかなとき(減ずる額は、客観的に相当と認められる額に限られる。)。

イ 「4 返品」(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由〔Bの瑕疵等〕がある場合であって、次の(ア)又は(イ)に該当するとき。

(ア) 中小受託事業者の給付を受領した後、当該理由〔Bの瑕疵等〕があるとして、その給付に係るものを引き取らせた場合(減ずる額は、その給付に係る代金の額に限られる。)

(イ) 中小受託事業者の給付を受領した後、当該理由〔Bの瑕疵等〕がある旨を中小受託事業者にあらかじめ伝えた上でその〔Bの〕給付に係るものを引き取らせなかった場合に、〔Bを〕委託内容に合致させるために委託事業者が手直しをしたとき又は〔Bが〕委託内容と適合しないこと等若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかなとき(減ずる額は、客観的に相当と認められる額に限られる。)。」

というように〔 〕内のようにBを補足して読むべきように思われ、そうすると、どうも別の製品Bの代金から製品Aの瑕疵等による損害を相殺(減額)することはできなさそうです。

そんな堅苦しいこといわず異なる商品間で相殺を認めてもいいように思いますが、別の製品Bの代金についてまでは減額されないというのも下請事業者の利益だと言えばそういえなくもないので、ここは中小受託法運用基準のすなおな読み方にしたがい、別の製品Bの代金から相殺(減額)することはできない、と解しておきます。

そうするとさらに問題になるのが、たとえば1通の発注書で100個注文していて、1個に瑕疵があった場合、他の99個の代金から相殺(減額)することができるのか、ということです。

これについては、どうも中小受託法運用基準は(注文書単位ではなく)瑕疵のあった製品単位で考えているように見受けられます。

典型的には、第4の3⑵イをみると、

「イ 「4 返品」(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由〔瑕疵〕がある場合であって、次の(ア)又は(イ)に該当するとき。

(ア) 中小受託事業者の給付を受領した後、当該理由〔瑕疵〕があるとして、その給付に係るものを引き取らせた場合(減ずる額は、その給付に係る代金の額に限られる。) 」

とされていて、「その給付」というのは、100個の製品のうちの、瑕疵のあった1個の給付のことを言っていると読まざるをえないように思われます。

この点は、4⑵で、「責めに帰すべき理由」について、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして、中小受託事業者の給付を受領した後に中小受託事業者にその給付に係る物を引き取らせることが認められるのは、中小受託事業者の給付の内容が明示された委託内容と異なる等の場合であって、次のア又はイに該当するときに限られる。」

と述べており、「委託内容と異なる」給付が、ここでの「その給付」だと解さざるをえないことからも裏付けられると思われます。

民法の世界であれば、契約の趣旨からして100個ぜんぶ瑕疵のないものを納品するのが完全履行であり1個でも瑕疵があったら全部が不履行なのだ(給付の一体性)という議論がありえそうですが、公取委がそんな細かいことを考えているとはとうてい思えません。

というわけで、ここは反対説もあり得そうな気もしますが、ここは積極的に反対する理由もないので、私も運用基準の考え方に立っておきます(つまり、1個分の代金からしか減額できない)。

注文した製品全部に瑕疵があった場合は全額減額してもいいですが、一部にしか瑕疵がなかったというときには、注文金額全額を減額することはできない可能性があるので、気をつけましょう。

そのときには、別途損害賠償請求をしましょう。

2026年6月27日 (土)

返品して代金減額が認められる場合についての中小受託法運用基準第4の3⑵の矛盾

中小受託法第4の3⑵では、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして代金の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

〔ア〔受領拒否の場合。実務であまり問題にならないので、省略〕

イ 「4 返品」(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由がある場合であって、

次の(ア)又は(イ)に該当するとき。

(ア) 中小受託事業者の給付を受領した後、当該理由があるとして、その給付に係るものを引き取らせた場合(減ずる額は、その給付に係る代金の額に限られる。)

〔(イ)は、あまり問題にならいので省略。〕」

とされています。

ここで言及されている4⑵は、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして、中小受託事業者の給付を受領した後に中小受託事業者にその給付に係る物を引き取らせることが認められるのは、

中小受託事業者の給付の内容が明示された委託内容と異なる等の場合であって、

次のア又はイに該当するときに限られる。

ア 当該給付を受領速やかに引き取らせる場合

イ 給付に係る検査をロット単位の抜取りの方法により行っている継続的な取引において、当該給付の受領後の当該給付に係る代金の最初の支払時までに引き取らせる場合。

(この場合にあっては、あらかじめ、当該引取りの条件について合意がされ、その内容が明示され、かつ、当該明示と発注時の明示との関連付けがされていなければならない。)」

です。

なので、仮に発注者が検査をしていなくても、給付受領後速やかに返品(4⑵ア)するのであれば、減額はできる、ということになります。

でも、検査をしていないと、返品はできません。

というのは、第4の4⑶で、

「(3) なお、次のような場合には委託内容と異なること等があることを理由として中小受託事業者にその給付に係るものを引き取らせることは認められない。

〔ア~エ、カ省略〕

オ 給付に係る検査を省略する場合 」

と明記されているからです。

(ちなみに、この検査をしないと返品できないという規定は、"裏金"世耕プランにもとづく平成28年下請法運用基準で導入されたものです。)

このように、検査をしないと返品はできないのに、減額はできる、ということになります。

たしかに、「当該給付を受領速やかに引き取らせ」(第4の2⑵ア)ないといけないので、検査をしないと速やかに返品しにくくはなりますが、「速やかに」というのは「直ちに」とはちがって幅のある概念ですし(1か月くらいなら大丈夫でしょう)、部品を受領してラインで加工をはじめたら瑕疵が見つかったということもそれなりにありうるので、まったく返品できないのにくらべるとだいぶましだといえます。

どうしてこういう、減額と返品での取扱いの差が起きるのかというと、検査省略すると返品できないという規定を4⑵とはわけて4⑶で規定しているからです。

ちなみに下請法運用基準の時代は、第4の3⑵は、返品の部分だけを抜き出すと、

「 (2) 「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして下請代金の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

ア ・・・「4 返品」(2)にいう下請事業者の責に帰すべき理由があるとして、・・・下請事業者の給付を受領した後その給付に係るものを引き取らせた場合(減ずる額は、その給付に係る下請代金の額に限られる。)

〔イは、あまり起きないので省略〕」

とされていて、そこで引用されていた4⑵は、

「(2)「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして、下請事業者の給付を受領した後に下請事業者にその給付に係る物を引き取らせることが認められるのは、

下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合若しくは下請事業者の給付に瑕疵等がある場合において、

当該給付を受領速やかに引き取らせる場合

又は

給付に係る検査をロット単位の抜取りの方法により行っている継続的な下請取引の場合において当該給付受領後の当該給付に係る下請代金の最初の支払時までに引き取らせる場合に限られる。

ただし、給付に係る検査をロット単位の抜取りの方法により行っている継続的な下請取引の場合において当該給付受領後の当該給付に係る下請代金の最初の支払時までに引き取らせる場合にあっては、あらかじめ、当該引取りの条件について合意がなされ、その内容が書面化され、かつ、当該書面と発注書面との関連付けがなされていなければならない。

なお、次のような場合には委託内容と異なること又は瑕疵等があることを理由として下請事業者にその給付に係るものを引き取らせることは認められない。

〔ア~エ、カ省略〕

オ 給付に係る検査を省略する場合」

というように、検査省略に関する規定が4⑵の中にありました。

これが、中小受託法運用基準では4⑶に切り出されたのに、減額に関する3⑵ではあいかわらず4⑵だけを引用していたので、結果的に、返品できない(∵4⑵と⑶の両方が適用)のに減額はできる(∵4⑵のみ適用)、という場合が生じた、というわけです。

ですが、ここで問題は、検査を省略した場合にほんとうに「当該給付を受領速やかに引き取らせる場合」(4⑵ア)であれば減額しても大丈夫なのか?という点です。

減額についての3⑵を論理的に読むかぎり、「当該給付を受領速やかに引き取らせる」かぎりで、減額してもよい、ということになります。

ですが、ほんとうに検査省略して返品すると、返品の禁止には違反するといわざるをえません。

そうすると、どうしても減額したい発注者は、返品禁止違反のリスクを覚悟してでも、あえて速やかに返品して減額をする、という方法をとるしかなさそうです。

でも、私はそんなルールは矛盾していておかしいと思います。

ではどうしたらいいのかというと、返品請求権を放棄して代金下額請求権だけを行使すればいいと思います。

たしかに、3⑵には、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして代金の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

〔ア省略〕

イ 「4 返品」(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由がある場合であって、

次の(ア)又は(イ)に該当するとき。

(ア) 中小受託事業者の給付を受領した後、当該理由があるとして、その給付に係るものを引き取らせた場合〔以下省略〕」

と書いてあるので、返品を実行することが減額の要件であるかのように読めます。

しかし、返品ができるというのはあくまで発注者に返品の権利があるということなので、返品請求権を放棄することもできるというべきでしょう。

代金減額をするために返品を義務づけるとか、返品を要件にすることには、合理性はありません。

運用基準もそんな趣旨ではなくて、減額の要件を返品ややり直しから(やや無理矢理)引っ張ってきたことから生まれた言葉の綾に過ぎないというべきでしょう。

(要するに、立法技術的に稚拙なだけです。)

というわけで、受領後速やかに、代金減額請求権の前提となる運用基準第4の4⑵(ア)の返品請求権があることを中小受託事業者に通知して、速やかに減額の意思を伝える、ということでよいと思います。

そういうめんどうなことはいやだということであれば、下請代金から減額しなければいいだけのことで、損害賠償を別途すれば減額にはなりませんから、そのようにすればいいと思います。

振込手数料が余分にかかってしまいますし、下請事業者が倒産しそうなときには別途請求するというのは心もとないですが、多くの発注者はこの別途請求の方法を取るのではないかと思います。

なので、あくまで代金減額したい(たとえば下請事業者が倒産しそうなので)という場合には、上記の返品請求権を放棄する方法を使ったらいいと思います。

«振興法の「役務提供委託」について(中小受託法とのちがい)

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