2021年8月26日 (木)

景品提供期間中の値下げについての注意点

たとえば、小売業者が、1個1万円の商品を購入した人全員に景品類を提供する場合、提供できる景品類の価額はその2割の2000円です。

このことは、「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」1項で、

「一般消費者に対して懸賞

(「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和五十二年公正取引委員会告示第三号)第一項に規定する懸賞をいう。)

によらないで提供する景品類の価額は、

景品類の提供に係る取引の価額の十分の二の金額

(当該金額が二百円未満の場合にあつては、二百円)

の範囲内であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められる限度を超えてはならない。」

と定められており、さらに、「『一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準」1項で、

「告示第一項の「景品類の提供に係る取引の価額」について

(1) 購入者を対象とし、購入額に応じて景品類を提供する場合は、当該購入額を「取引の価額」とする。

〔中略〕

(4) 景品類の限度額の算定に係る「取引の価額」は、

景品類の提供者が小売業者又はサービス業者である場合は対象商品又は役務の実際の取引価格を、

製造業者又は卸売業者である場合は景品類提供の実施地域における対象商品又は役務の通常の取引価格

基準とする。」

とされていることからわかります。

なのでもし、小売業者がこの景品キャンペーンの最中に、景品の対象であった商品を1万円から8000円に値下げしたとすると、提供できる景品額も1600円のものに差し替えないといけなくなります。

これは、上記引用のとおり、

購入額に応じて景品類を提供する場合は、当該購入額を「取引の価額」とする。」

とされていることと、

「(4) 景品類の限度額の算定に係る「取引の価額」は、

景品類の提供者が小売業者又はサービス業者である場合は対象商品又は役務の実際の取引価格を、

・・・基準とする。」

とされていることから、議論の余地がありません。

なので、もし限度額一杯(取引価額の2割)の景品類を提供している場合には、対象商品を値下げしてはいけません。

もし値下げするかもしれないなら、限度額に余裕を持って安めの景品類を付ける必要があります。

小売店が景品類を提供する場合は以上のとおりですが、メーカーの場合には、

「(4) 景品類の限度額の算定に係る「取引の価額」は、景品類の提供者が・・・製造業者・・・である場合は景品類提供の実施地域における対象商品又は役務の通常の取引価格を基準とする。」

とされていることから、「通常の取引価格」が基準となります。

これは、メーカーは小売価格をコントロールすることができないからです。(実際の取引価格は知りようがない。)

なので、メーカーであっても、自らインターネット販売している事業者は、ここでは小売業者と扱われます。(消費者に直接商品を販売しているのだから当然です。)

ただ、ネット通販しているメーカーを「小売業者」と呼ぶのは、ちょっと一般の語感とはズレるので、ほんとうは、「小売業者」ではなく、「消費者に直接商品を販売する者」などとしたほうが、不細工ですが正確だと思います。

ちなみに、メーカーが景品類を提供する場合、基準になるのは「通常の取引価格」なので、メーカー希望小売価格を当然に基準とすることはできません。

むしろ、メーカー希望小売価格よりも「通常の取引価格」のほうが安いことが多いのではないかと思われます。

ともあれ、メーカーが景品類を提供する場合、一部の安売り業者がとくに安く販売していたり、一部の(あるいは大部分の)小売業者がバーゲンをしていても、それは「通常の取引価格」にはカウントする必要はありません。

どうやってメーカーは「通常の取引価格」を知るのか、という問題はありますが、インターネットで調べても良いでしょうし、何軒かの小売店に電話で尋ねても良いでしょう。

この場合、「景品類提供の実施地域における」通常の取引価額なので、時期については明示されていないと読めなくもないですが、ふつうは、景品類提供キャンペーンの実施時期における「通常の取引価額」を意味すると解するのでしょう。

インターネットと実店舗で販売価格に差があって実店舗の方が高い場合は、基本的には(=実店舗がアリバイ作りのためのダミーであるというような例外的な場合を除いて)、実店舗での高いほうの価格を基準にしてよいと考えます。

「通常の取引価格」という言葉の意味からすれば、インターネットでの価格が「通常の取引価格」ではないとはさすがにいいにくいと思います。

つまり、「通常の取引価格」は、「異常でない取引価格」くらいに読んでおいて大きな間違いはないでしょう。

まとめると、

小売業者が景品類提供する場合は、実際の取引価額の2割まで

メーカーが(小売店を通じて)景品類を提供する場合は、「通常の取引価額」の2割まで

ということになります。

2021年8月23日 (月)

平成16年度相談事例集事例5(共同研究開発に伴う排他的購入義務)の問題点

掲題の相談事例では、

建築資材メーカー(シェア約10%)とその製品のユーザーである建設業者(業界12位の総合建設業者)の2社が,

建築工法について共同で開発し,

建設業者が当該工法において使用する資材については,当該建築資材メーカーのみが供給するよう取り決めることは,

制限が課される期間が研究開発の成果を当事者間で配分するために合理的に必要な範囲にとどまる限りは,

直ちに独占禁止法上問題となるものではない

とされました。

ですが、この相談事例の論理にはいろいろと問題があります。

具体的に相談対象になっている条項は、

「ア 本件工法で使用される建築資材Xについては,B社〔資材メーカー〕が全量を生産し,A社〔建設会社)に供給するものとする。

イ B社は,両社からライセンスを受けて当該工法を実施しようとする建設業者に対し,建築資材Xを販売することができるが,その際の販売価格は,A社への供給価格を下回らないものとする。

ウ 本件契約期間は5年とするが,当該工法に係る特許が取得された場合には,当該特許が有効な期間(出願日から20年間)は,原則として自動更新する。」

の3つです。

まず回答は、

「(1) 共同研究開発の成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先を制限することは,不公正な取引方法に該当するおそれがある。[共同研究開発ガイドライン 第2-2(3)イ[4]]」

と述べます。

ここで引用されている共同研究開発ガイドライン 第2-2(3)イ[4]は、

「[4] 成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先を制限すること((3)ア[2]の場合を除く。)」

を、不公正な取引方法に該当するおそれがある事項(灰条項)としており、その中で除かれている「(3)ア[2]の場合」というのは、

「[2] 成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合又は成果に基づく製品の品質を確保することが必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること((3)イ[4]参照)」

を、原則として不公正な取引方法に該当しない事項(白条項)としています。

その上で回答は、まず、

「ア 当事者であるA社〔建設会社〕及びB社〔資材メーカー〕は,原材料メーカーとそのユーザーという関係であり直接の競争関係にはないところ,競争関係にない事業者間の共同研究開発については,通常,独占禁止法上の問題を生じるおそれは小さい。

また,このような事業者間の共同研究開発であれば,その成果を実施する場合の原材料等の供給者は当該参加事業者とすることが当然の前提とも考えられる。」

と述べます。

しかし、直接の競争関係にないことから直ちに「通常,独占禁止法上の問題を生じるおそれは小さい」というのは問題です(まあ、公取がそれでいいというなら、弁護士としては、目くじら立てることはないのですが)。

そんなこと言い出すと、購入先制限が灰条項であるとするガイドラインと正面から矛盾してしまいます。(まあ、公取がそれでいいというのなら、いいのですけれど。)

購入先制限(建設会社A社が資材メーカーB社からしか購入できないこと)の競争制限の機序は、B社と競合する資材メーカーがA社に売れなくなる(排除される)ことであるはずです。

流通取引慣行ガイドラインでも、その旨明記されています。(市場閉鎖効果)

さらに、この手の共同開発では、排他的購入が「当然の前提」というのも、(たしかにそのとおりなのですが)市場閉鎖効果には目もくれず公取が正面切って認めるとは驚きです。(まあ公取が良いというなら良いのですけれど。)

続いて回答は、

「イ B社〔資材メーカー〕が建築資材Xを全量生産し,A社〔建設会社〕に他社より有利な条件で供給することを義務付けることは,

共同研究開発の成果を両者の間で配分する手段として行われる場合においては,

制限が合理的な期間にとどまる限り不当性を有するものではない。」

と述べます。

しかし、ここでいう、「共同研究開発の成果を両者の間で配分する手段として行われる場合」というのは、たいへん不明確で、基準になっていません。

それに、建設会社A社が専ら資材メーカーB社から購入する、というのはまだ、資材メーカーB社に成果を分配するものと説明できそうですが、どうして「A社〔建設会社〕に他社より有利な条件で供給すること」が、「成果を両者の間で配分する手段」となるために必要なのか、不明です。

利益を分配するためなら、購入総額が大事なはずで、競合他社より有利か不利かは基本的には関係ないはずです。

これも、細かいことを言えば、資材購入市場で建設会社A社が競合より有利に調達できることにより川下の建設市場で建設会社A社が競合建設会社よりも競争上優位な地位に立ち、ひいては、そこから生じた独占利潤を有利な購入価格として資材メーカーB社に分配する、というメカニズムも考えられなくはないですが、それって、川下市場での排除を前提にしているので、あまり胸を張って競争的だというにははばかられる内容だと思います(まあ、公取がそれでいいっていうなら、いいのですけれど。)

あるいは、すごく深読みをすれば、「他社より有利な条件で供給することが成果の分配に必要だといえるのは川下での排除を前提にするほかないので、実は他社より有利に供給することを義務づけることが『成果の分配に必要』な場合というのは論理的にあり得ないのだ(なので空振りだ)」という読み方も可能かも知れませんが、そんなだまし討ちみたいなのはさすがにあり得ないでしょう。

さらに続けて回答は、

「ウ A社〔建設会社〕は,当該工法以外の工法においてはB社〔資材メーカー〕以外の事業者から建築資材Xを購入することが制限されるものではなく,

B社も,当該工法のライセンス先事業者に対して建築資材Xを販売することは認められ,

また当該工法向けの販売以外には何ら制約を課されていないことから,

これによって競争事業者の取引先が減少し,事業活動が困難になるとは認められない。」

と述べます。

しかし、契約対象以外の資材購入・販売が制限されていないからといって、排他条件付取引が違法にならないわけではない(市場閉鎖効果があれば違法になる)のは、前述のとおりです。

回答は、契約対象以外の取引を制限しないことから、「これによって競争事業者の取引先が減少し,事業活動が困難になるとは認められない」と言っていますが、そんなことはありません(まあ、公取が良いというなら良いのですが。)

そして回答は、結論部分において、

「(3) したがって,本件共同研究開発に伴う制限ついては,制限が課される期間が研究開発の成果を当事者間で配分するために合理的に必要な範囲にとどまる限りは,

直ちに独占禁止法上問題となるものではない。」

と、突如として、制限期間が合理的な範囲を超えれば問題になるかのようなことを言い出します。

しかし、これは、前の部分で、さんざん、「直接の競争関係にない」から問題ないとか、排他的購入は「当然の前提」であると言っていたことと、明らかに矛盾します。

もともと競争制限がない(「直接の競争関係にない」ため)のに、どうして、成果分配に必要な期間を超えると突如として競争が制限されることになるのでしょうか?

まったく、支離滅裂というほかありません。

やっぱり、「資材市場で市場閉鎖効果が生じないならOK。以上」、と回答すべきでした。

さらに回答は続けて、

「この点,当該工法に係る特許の存続期間にわたり自動的に更新されるとの取決めは,当該合理的に必要な範囲を逸脱するおそれもあることから,契約更新時には制限の内容を再検討する必要がある。」

と述べますが、これも、前の理由の部分に矛盾し、支離滅裂です。

こういう余計なことを言われると、事前相談なんてやるもんじゃない、と思ってしまいます。

この回答をみていると、公取委も、平成15年頃までは、あまり反競争性発生機序の理屈がよく分かっていない人が、なんとなく気分でそれらしく(合理的な期間を超えられない、など)回答していたんだなぁ、ということがわかります。

(今はさすがに、ここまでひどいものはあまり見かけません。)

でも、共同研究開発における成果物の排他的購入義務については、相談事例もこれくらいしか事例がなく、困ったものです。

結果的に非常にユルユルになっているのは朗報ですが(ほんとうは、他社に不利な価格でしか供給しない、というのは、MFNとの関係で問題になりうるところです)、それでも、定期的に見直せ、みたいな余計なことが言われています。

こういう、論理的に破綻した回答は、ほんとうに、やめていただきたいものです。

2021年8月22日 (日)

流取ガイドラインのセーフハーバーの適用範囲

流通取引慣行ガイドラインには市場シェア20%以下というセーフハーバーがありますが、その適用範囲は、ガイドラインの文言上、垂直制限一般ではないことが明記されています。

つまり、第1部3(4)の、

「市場におけるシェアが20%以下である事業者や新規参入者がこれらの行為を行う場合には,通常,公正な競争を阻害するおそれはなく,違法とはならない。」

というセーフハーバーの記述の前提として、同じ(4)の冒頭に、

「垂直的制限行為には,「市場における有力な事業者」によって当該行為が行われた場合に不公正な取引方法として違法となるおそれがあるものがある。

後記第2の2(自己の競争者との取引等の制限)の各行為類型,同3(3)(厳格な地域制限)及び同7(抱き合わせ販売)がこれに当たる。」 

と明記されています。

つまり、①排他条件付取引、②厳格な地域制限、および③抱き合わせ、の場合以外には、セーフハーバーは文言上適用されないのです。

では、これら3つの場合以外には、セーフハーバーはまったく無意味なのでしょうか。

そんなことはないと思います。

もともと、流取ガイドラインのセーフハーバーは、「市場における有力な事業者」という中間媒介項を介して適用される形であるため、結果的にこの3類型に適用されているだけなのであって、市場シェアが低い場合に問題がなさそうという一般論を実質的に否定する理論的根拠はまったくありません。

セーフハーバーは、非価格制限全般に準用される余地があるというべきでしょう。

ではどこまで広げて良いのかを考えてみると、ヒントになるのは、セーフハーバーが垂直的価格制限(再販売価格拘束)には適用されないということです。

つまり、これを逆に考えれば、価格に直接影響しないものには、セーフハーバーを準用しても、大きな間違いはありません。

この点については、公取委担当官の解説(石谷直久「『流通・取引慣行に関する独占禁止法の指針』の一部改正について」公正取引790号(2016年)49頁)でも、なぜ適用対象が限定されているのかについて、たとえば、「地域外顧客への販売制限」について、

「「地域外顧客への販売制限」については、本指針において「メーカーが流通業者に対して、一定の地域を割り当て、地域外の顧客からの求めに応じた販売を制限すること」としており、これはすなわち、メーカーが指定した地域以外の顧客との取引を一切禁止するものである。したがって、メーカーが指定した地域においては、顧客は地域外の流通業者から購入することができなくなるため、流通業者が顧客に対して、いわば独占的な地位を得て、価格を高く維持することにつながりやすいと考えられる。そのため、今回の改正においても、いわゆるセーフ・ハーパーの適用対象としないこととされたものである。」

など、要するに価格への影響があるからセーフハーバーの対象外にしているという説明であり、他の行為類型についてもすべて同様です。

つまり、価格への影響がありそうかどうかでみる、ということです。

ですので、たとえば、メーカーが卸に対してインターネット販売をしている小売業者に対する販売を禁止させることは、卸の取引先の制限ではありますが、もし、インターネット販売のほうが実店舗での販売よりも一般的に安いという事実があるなら、このような制限は価格を制限する効果があり、セーフハーバーで救われるのは難しいでしょう。

次に、地域外顧客への受動的販売の制限(事業者が流通業者に対して,一定の地域を割り当て,地域外の顧客からの求めに応じた販売を制限すること)については、

「地域外顧客への受動的販売の制限は,厳格な地域制限と比較して,地域外の顧客からの求めに応じた販売をも制限している分,ブランド内競争を制限する効果が大きい。」

ということにはなっていますが、価格を直接制限するわけではありませんから、差別化の著しい商品でないかぎり、市場シェア20%以下でそんなに問題になるとは思えません。

帳合取引の義務付け(事業者が卸売業者に対して,その販売先である小売業者を特定させ,小売業者が特定の卸売業者としか取引できないようにすること)や、仲間取引の禁止(事業者が流通業者に対して,商品の横流しをしないよう指示すること)についても、同様でしょう。

これらの行為は価格に直接影響するものではないですし、商品差別化が大きくない市場において市場シェア20%以下のメーカーによって行われたからといって、価格維持効果が生じることはあまりないと思います。

これに対して、「事業者が卸売業者に対して,安売りを行う小売業者への販売を禁止すること」は、価格への影響が直接的なので、セーフハーバーの準用はできないでしょう。

選択的流通(事業者が自社の商品を取り扱う流通業者に関して一定の基準を設定し,当該基準を満たす流通業者に限定して商品を取り扱わせようとする場合に,当該流通業者に対し,自社の商品の取扱いを認めた流通業者以外の流通業者への転売を禁止すること)は、

①商品を取り扱う流通業者に関して設定される基準が,当該商品の品質の保持,適切な使用の確保等,消費者の利益の観点からそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ,かつ,

②当該商品の取扱いを希望する他の流通業者に対しても同等の基準が適用される

場合には,「通常,問題とはならない」とされているので、①または②をみたさない場合にどうなのかが問題になり得ますが、①または②をみたさない選択的流通の場合にセーフハーバーを準用してよいかは微妙なところです。

結論としては、選択的流通にはセーフハーバーの適用はないというべきでしょう。

そもそも選択的流通は差別化された商品でなされることが通常ですし、選択的流通網の外に販売されることを禁じるので、もともとかなりの価格維持効果は実はあるわけです。

それを(欧州に引きずられて)①または②を満たせば問題ないと割り切っているので、シェア20%以下なら価格への影響がないとはいいにくいと思います。

よって、選択的流通へのセーフハーバーの準用は否定されるべきです。

販売方法の制限については、ガイドラインに例示されているような、

①商品の説明販売を指示すること

②商品の宅配を指示すること

③商品の品質管理の条件を指示すること

④自社商品専用の販売コーナーや棚場を設けることを指示すること

については、もともと問題になりにくいですし、ガイドライン上も、

「商品の安全性の確保,品質の保持,商標の信用の維持等,当該商品の適切な販売のためのそれなりの合理的な理由が認められ,かつ,他の小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合には,それ自体は独占禁止法上問題となるものではない」

とされているので、セーフハーバーを適用す必要性は低いのですが、それでも、「それなりの合理的な理由」がなく、または、同等の条件が課されていない場合には、議論の実益があります。

ここでは、価格に直接影響を及ぼすようなもの(たとえば価格の広告の禁止)でないかぎり、セーフハーバーは準用される、と考えておきます。

ガイドラインではなぜかセーフハーバーの適用対象3類型として明示されていませんが、占有率リベートと著しく累進的なリベートは、セーフハーバーの適用対象といってよいでしょう。

というのは、これら2つのリベートは、「市場における有力な事業者」がする場合に違法だ、とされているからです。

どうして3類型に加えられていないのかは、よくわかりません。

あるいは、第1部第2の2(自己の競争者との取引等の制限)に実質的に含まれる、という整理なのかも知れません。

同じことは、単独の直接取引拒絶にもいえますが、こちらのほうは、

市場における有力な事業者(注5)が,競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として,例えば次の②~③のような行為を行い,これによって取引を拒絶される事業者の通常の事業活動が困難となるおそれがある場合には,当該行為は不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定2項)。

市場における有力なメーカーが,流通業者に対し,自己の競争者と取引しないようにさせることによって,競争者の取引の機会が減少し,他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるようにするとともに,その実効性を確保するため,これに従わない流通業者との取引を拒絶すること(一般指定11項(排他条件付取引)にも該当する。)

市場における有力な原材料メーカーが,自己の供給する原材料の一部の品種を完成品メーカーが自ら製造することを阻止するため,当該完成品メーカーに対し従来供給していた主要な原材料の供給を停止すること

市場における有力な原材料メーカーが,自己の供給する原材料を用いて完成品を製造する自己と密接な関係にある事業者の競争者を当該完成品の市場から排除するために,当該競争者に対し従来供給していた原材料の供給を停止すること」

としたうえで、

「(注5) 「市場における有力な事業者」の考え方については,前記第1部の3(4)において述べた考え方と同様である。」

としているので、セーフハーバーが適用されるといってよいでしょう。

総代理店については、再販売価格拘束にはセーフハーバーの適用はもちろんありません。

総代理店に対する「契約期間中における競争品の取扱制限」については、

「第1部の第2の2(1)(取引先事業者に対する自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限)で示した考え方が適用される。」

とされているので、セーフハーバーが適用されます。

ただし,同時に、

「契約期間中において,既に総代理店が取り扱っている競争品の取扱いを制限するものでない場合は,原則として独占禁止法上問題とはならない。」

ともされており、そもそも既に取り扱っている競争品の取り扱いをやめさせるのでない限り全面的に競争品の取り扱いを禁止してよいとされているので、既に取り扱っている競争品の取り扱いをやめさせるのでない限り、セーフハーバーの適用を議論する実益がありません。

もし既に取り扱っている競争品の取り扱いをやめさせるなら、セーフハーバーが適用されます(シェア20%以下なら合法)。

総代理店の「契約終了後における競争品の取扱制限」については、

「秘密情報(販売ノウハウを含む。)の流用防止その他正当な理由があり,かつ,それに必要な範囲内で制限するものである場合には,原則として独占禁止法上問題とはならない。」

とされているので、この場合にはセーフハーバーを適用する必要がありません。

もし「正当な理由」がない場合には、

「供給業者が契約終了後において総代理店の競争品の取扱いを制限することは,総代理店の事業活動を拘束して,市場への参入を妨げることとなるものであり,原則として独占禁止法上問題となる。」

とされているので(黒条項)、ガイドラインはセーフハーバーの適用はないと考えているというべきでしょう。

(理論的には、いろいろ議論はできると思います。)

総代理店の「販売地域に関する制限」については、「第1部の第2の4(流通業者の取引先に関する制限)で示した考え方が適用される」ことになっています。

よって、明示的にはセーフハーバーの対象とはされていない受動的販売の禁止等についても、前述と同じように考えられます。

総代理店の「(5) 販売方法に関する制限」についても、「第1部の第2の6(小売業者の販売方法に関する制限)で示した考え方が適用される。」ことになっています。

2021年8月20日 (金)

反競争効果の発生機序について

タイトルは堅いですが、今日は軽い話です。

独禁法の世界、とくに、排除型私的独占などでは、反競争効果の発生機序、ということをよく言います。

これは意訳すると、英語の theory of harm とだいたい同じことを言っています。

つまり、反競争効果の発生のメカニズム、ということです。

でもこれが大事だと言っても、なかなかうまく理解してもらえません。

そこで、譬えでを使って、競争法ではこんなことを考えているのだ、ということを示してみたいと思います。

コロナがはやり始めた頃、ネットショッピングが伸びるのか停滞するのか、という議論がありました。

つまり、コロナで経済全体が縮む中で、巣ごもり消費は増えるだろうけれど、正味でどちらなのだ、という議論です。

これをメカニズムに分解すると、

①コロナ→景気停滞→消費全般の低迷(マイナスの効果)

②コロナ→外出しなくなる→巣ごもり消費の増加(プラスの効果)

の2つがあるわけです。

結果的には、②の圧勝でした。

最近では、「オリンピックでコロナ感染は増えたのか、減ったのか」という議論があります。

ここには、

①オリンピックの開催→「オリンピックやって良いんだ」という国民の気の緩み→人手の増加→コロナの増加(プラスの効果)

②オリンピックの開催→みんなうちでテレビをみる(現に視聴率は高い)→人手の減少→コロナの減少(マイナスの効果)

の2つがあるわけです。(もちろん、ほかのルートもあるかもしれません。)

これらはいずれも、コロナ増加・減少のメカニズム(機序)だといえます。

別の譬えで、高血圧の薬(降圧剤)には、大きく分けて、

①カルシウム拮抗薬:血管へのカルシウムイオンを減らし、血管を広げて血圧を下げる)

②ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬):アンジオテンシン(血圧に関係するホルモン)の作用を抑えて血圧を下げる

③ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬):アンジオテンシンを減らして血圧を下げる

④利尿薬:腎臓から塩分と水を出すことによって血圧を下げる

⑤β遮断薬:交感神経の心臓への作用を抑え、血圧を下げる

があり、血圧を下げるメカニズムにも、血管を広げるものから、ホルモンに作用するものから、血中水分と塩分を減らすものから、心臓の作用を抑えるものまで、いろいろです。

これらは同じ降圧剤ですが、作用機序(メカニズム)が違います。

競争法では、この「メカニズム」というのが、非常に大切です。

というのは、このメカニズムが理解できていないと、外形上同じように見える行為だというだけで、まったく反競争効果がない(むしろ競争促進的な)行為を、反競争的な行為だと、間違って判断してしまうからです。

反競争性の発生機序というと、純粋法律畑の方からは、「因果関係のことですか?」と聞かれたりします。

それは間違いではないのですが、競争法では、反競争効果の発生機序という場合、原因と結果だけのたんなる因果関係(降圧剤を投与→血圧が下がる)ではなく、作用するステップ(降圧剤を投与→血管が広がる→血圧が下がる)が、強く意識されています。

例えば、既存の独占メーカーが流通業者と排他条件付取引をしたために新規参入メーカーが流通網にアクセスできないという場合、

排他条件付取引→新規参入者の流通費用の上昇(新規販路開拓、効率的な流通業者の囲い込み)→新規参入者の競争的価格設定が困難→価格が安定

というメカニズムが考えられます。(ライバル費用の引き上げ)

企業結合の、単独効果、強調効果、といのも、反競争効果の発生メカニズムのことです。

ゲーム理論を使った経済学のモデルでは、競争の前提(例、排他条件の存在)が変わると、一次的にどのプレイヤー(買手)の行動がどう変わって、それが別のプレイヤー(売手)の行動にどう影響があって、最終的な市場均衡では価格が上がるのか下がるのか、ということを、各プレイヤーの行動を数式化して(利得関数)、ステップ・バイ・ステップでみていきます。

そういう頭があると、反競争効果のメカニズムというものを、強く意識するようになります。

そして、その感覚は、多くの場合、ビジネスの現実にぴったり合います。

ここがすごいところで、反競争効果の発生メカニズムを理解していないと、とくにビジネスの素人は、「だって、拘束を受けた側が嫌がっているじゃないか」とか、「こんなこといったらドキッとするじゃないか」というだけで、反競争的という判断をしてしまいかねません。

もちろん、被拘束者が嫌がっていても競争促進的なこともあれば、好んでいても競争阻害的であることもあるわけです。

反競争効果発生機序の意味が分かっていない人は、下手をすると、新規参入者の残余需要を増やす行為を排除行為と言い出しかねません。

このように、反競争効果の発生機序を理解することは非常に重要なのですが、実務では、まだまだ浸透していないみたいです。

今日の記事で少しでもイメージをつかんでもらえたらと思います。

 

 

2021年8月19日 (木)

排他的原材料購入義務によりライセンシーの競争手段を制約することは違法か?

知財ガイドライン第4の4(1)では、

「(1) 原材料・部品に係る制限

 ライセンサーがライセンシーに対し、原材料・部品その他ライセンス技術を用いて製品を供給する際に必要なもの(役務や他の技術を含む。以下「原材料・部品」という。)の品質又は購入先を制限する行為は、

当該技術の機能・効用の保証、安全性の確保、秘密漏洩の防止の観点から必要であるなど一定の合理性が認められる場合がある。

 しかし、ライセンス技術を用いた製品の供給は、

ライセンシー自身の事業活動であるので、

原材料・部品に係る制限はライセンシーの競争手段(原材料・部品の品質・購入先の選択の自由)を制約し、また、

代替的な原材料・部品を供給する事業者の取引の機会を排除する効果を持つ。

したがって、上記の観点から必要な限度を超えてこのような制限を課す行為は、

公正競争阻害性を有する場合には、

不公正な取引方法に該当する(一般指定第10項、第11項、第12項)。」

とされています。

これを素直に読むと、「ライセンシーの競争手段・・・を制約」すること自体が、排他条件付取引の公正競争阻害性の原因の1つになるように読めないでしょうか。

でも、それは違います。

現在では、排他条件付取引の公正競争阻害性は、競争者を排除することだと整理されています。

相手方(ライセンシー)の競争手段を制約すること自体が公正競争阻害性を構成するとは考えられていません。

上記のガイドライン引用部分では、確かに、「公正競争阻害性を有する場合には」という条件が付いているのですが、読むほうが知りたいのは、ではどういう場合が「公正競争阻害性を有する場合」にあたるのかを知りたいわけです。

ライセンシーに原材料を併せて買わせていいものか気になったライセンサーの知財部の人が、インターネットで検索してどうやら知財ガイドラインに関係あることが書いてそうだと知って、そういう、いわば「藁にもすがる」思いでガイドラインを読む人の立場に立てば、ライセンシーの競争手段を制約することがだめだと書いてあれば、それが公正競争阻害性のことなんだと読むのがあたりまえだと思います。

そういう人に、もっとよくしらべてここでの公正競争阻害性はそういう意味では無いんだ(価格維持効果と市場閉鎖効果の意味なんだ)とわかれ、というのは酷だと思います。

確かに、知財ガイドライン第4の1(2)では、

「(2) 不公正な取引方法の観点からは、技術の利用に係る制限行為が、一定の行為要件を満たし、かつ、公正な競争を阻害するおそれ(以下「公正競争阻害性」という。)があるか否かが問題となるところ、本指針において、公正競争阻害性については、第2-3に述べた競争減殺効果の分析方法に従い、

[1] 行為者(行為者と密接な関係を有する事業者を含む。以下同じ。)の競争者等の取引機会を排除し、又は当該競争者等の競争機能を直接的に低下させるおそれがあるか否か〔=市場閉鎖効果〕、

[2] 価格、顧客獲得等の競争そのものを減殺するおそれがあるか否か〔≒価格維持効果〕、

により判断されるものを中心に述べることとする(公正競争阻害性についてのその他の判断要素については後記(3)参照)。」

とは書いてありますが、それは、問題の第4の4(1)よりもだいぶ前の遠いところに書いてあるだけなので、むしろ第4の4(1)の中に書いてある「ライセンシーの競争手段の制約」のほうが、ずっと重要でインパクトがあるようにみえるはずです。

あるいは、上記総論部分の市場閉鎖効果と価格維持効果はあくまで総論なので、各論部分に書いてある「ライセンシーの競争手段の制約」のほうが優先するんじゃないか(いわば、一般法と特別法の関係に立つんじゃないか)と思う人がいても、まったく不思議ではありません。

むしろ、法律家の中にすら、そういう読み方をする人が多数いてもおかしくないと思います。

冷静に、論理的に(=内容は無視して、文章の構造だけに着目して)読めば、総論部分の価格維持効果と市場閉鎖効果の記述により各論部分の競争手段の制約はほぼ「空振り」になることがわかるのですが、はじめて知財ガイドラインを読んだ人がそんな読み方をできるはずがありません。

ですが、結論的には、

「原材料・部品に係る制限はライセンシーの競争手段(原材料・部品の品質・購入先の選択の自由)を制約し」

の部分は、総論部分の市場閉鎖効果と価格維持効果に照らせば、ほぼ「空振り」にならざるを得ないわけです。

さらにやっかいなことには、流通取引慣行ガイドラインが、価格維持効果について、

「「価格維持効果が生じる場合」とは,非価格制限行為により,当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう。」

というように、競争の実質的制限の価格版のような割り切り方をしているのに対して、知財ガイドラインの価格維持効果(とはガイドラインでは呼ばれていませんが)については、

「[2] 価格、顧客獲得等の競争そのものを減殺するおそれがあるか否か」

という、何とも微妙な、捉えどころのない書き方をしているので、ひょっとしたら競争手段の制約も「顧客獲得等の競争」の減殺になるという意味ではないか?といった勘ぐりが生じるおそれがあります。

しかし、ここはどこにも書いていない、理論で裏付けるしかないことなのですが、原材料をライセンサーのみから買わせることが、「顧客獲得等の競争」を減殺するおそれがある、というのは、通常、とても考えにくいことです。

ありうるシナリオとしては、ライセンシーが、もっと品質の高い原材料を調達できたら顧客獲得できるのにライセンサーの劣った品質の原材料を使わないといけないので顧客が獲得できない、というものくらいでしょう。

でも、たとえばライセンシーが1社だけで、ほかにも同種商品を(ライセンサーからのライセンスを受けずに)供給している事業者がたくさんいる、というような一般的なパターンだと、「競争そのものを減殺するおそれ」が生じることはかなり考えにくいです。

理屈の上では、対象特許が非常に強い代替技術のない特許であって、ライセンサーが多数の(市場における全ての)商品供給者にライセンスしているときに、全てのライセンシーが原材料をライセンサーから購入しなければならないので品質競争が阻害される、ということがあるかもしれません。

しかし、実際に世の中でそのようなことが起こることはほとんどないでしょうし、もしあったら、むしろ私的独占で処理する方が妥当でしょう。

そういう意味で、流取ガイドラインが「価格」維持効果に絞ったのは、理論的にはあまり根拠があるとはいえない(あるいは、品質で調整した価格、あるいは、品質で調整した数量、という概念を使って修正する必要がある)のですが、ある意味で(流通取引では実際にはあまり起こらない)価格以外のところは割り切ったのだともいえ、実務の指針であるガイドラインとしてはむしろ好ましいといえます。

これに対して、「知財ガイドラインが『顧客獲得等の競争』と書いたのは、知財では流通と異なり1社独占になることもあるので価格以外も端折らなかった、という深謀遠慮があるのだ」、というのはきっと深読みのしすぎで、そこまでは考えられていないはずです。

理由は、そのような知財を特別視する考えには理論的根拠がないのと、そのような考えをうかがわせる執行例や相談事例などは一切ないからです。

というわけで、私は、「ライセンシーの競争手段(原材料・部品の品質・購入先の選択の自由)を制約し」の部分は、ほぼ空振りですから、削除するのがおかしな誤解を招かず望ましいと思います。

2021年8月17日 (火)

「新ブランダイス学派」について

最近新聞などで、「新ブランダイス学派」という言葉をみることが増えました。

東大の大橋先生の著書、

『競争政策の経済学 人口減少・デジタル化・産業政策』

の17頁には、

「競争当局に対してさらなる競争政策の執行強化を望む声が高まるなか、シャーマン法の成立当初の精神に立ち戻り、巨大企業の存在それ自体を民主主義への危機と捉えて排除すべきとする『新ブランダイス学派』と呼ばれる考え方も登場しており、そうした見方が一定の支持を集める事態にもなっている。」

と紹介されています。

反トラスト法の○○学派といえば、ハーバード学派とシカゴ学派とポストシカゴ学派が思いつきますが、この3つはいずれも主として経済学の土俵での立場の違いであるのに対して、新ブランダイス学派は純粋に法的ないし政治的な土俵での運動なのだと思います。

つまり、相撲を取る土俵、あるいは、問題を分析する視角が違います。

ということは、ハーバード学派とシカゴ学派とポストシカゴ学派との間では、経済学という土俵において、どちらが優れているという議論が成り立ちますが、新ブランダイス学派については、そういう比較はちょっと成り立たないように思います。

ということは、新ブランダイス学派の時代になったからといって、シカゴ学派やポストシカゴ学派がいらなくなるというわけではない、ということです。

もっとストレートにいえば、経済学の重要性はいささかも失われないであろう、ということです。

競争法が実現しようとする利益にはいろいろなレベルがあって、新ブランダイス学派が重視するのは、民主主義と社会的な富の偏在の解消でしょう。

これに対して経済学が重視するのは、基本的には効率性です。

そして、巨大ITなど、新ブランダイス学派が問題視するのはまさに民主主義の脅威と格差の問題でしょう。

でも、それらの問題は巨大ITくらいになってはじめて問題になり得るのであって、競争法の圧倒的多数を占める事件においては、依然として、効率性(余剰の最大化)が重要な目標であることに変わりはありません。

日本の優越的地位の濫用では地方の一スーパーが違反者になるので、「民主主義」とか、社会的な「富の偏在」とはまったく関係がありません。

日本では、大阪の八尾空港での給油業務のような、ガソリンスタンド1基分にも満たないような「市場」での排除まで「私的独占」として公取委が命令を出すので、「大きいことは悪いことだ」という新ブランダイス学派の考え方とはまったく違います。

なので、日本では新ブランダイス学派の考え方が影響する余地はない(実務はそれよりはるかに低いレベルで違法にしている)のですが、なかには、経済学が苦手な人の中からは、「これからは日本の独禁法でも経済学の占める地位は限定される(あるいは、なくなる)べきだ」という意見や、そこまではっきりいわなくてもそういう雰囲気が出てこないとも限りません。

ですが、繰り返しますが、競争法において経済学の重要性はいささかも失われるべきではありません。

むしろ今まで以上に重要になるといってもよいと思います。

というのは、経済学を知らない法律家が「大きいことは悪いことだ」というと、本当に気分だけになってしまい、客観的なモノサシがないので、とても危険です。

「Curse of Bigness」というのはティム・ウー教授くらいの経済学もわかっているひとがいうから説得力があるのであって、余剰分析の基本すら知らないような人が同じことを言ったら、たんなるポピュリズムになってしまいます。

下手をしたら、CEOがビル・クリントンみたいに人に好かれるタイプか、リチャード・ニクソンみたいに嫌われるタイプかで事件の結論が代わってしまう、ということもありえるでしょう(まあ人間のやることですから、経済学を使っても同じことになるかもしれませんが)。

私自身は、GoogleがYouTubeを買収したときも、果たしてこれを許して良いんだろうかという気持ち悪さを感じましたが、同時に、全然市場で競合関係にないので経済学的視点からは問題があることになるはずもないだろうな、とも思いました。

ですが、経済学が根底にあるから客観的な議論ができるのであって、もし、えもいわれぬ気持ち悪さだけで判断していたら、もやは法律ではありません。

(最近は、ようやく、ビッグデータやプラットフォームをよりどころにした広告市場や取引先の搾取という視点が提供されるようになりました。)

それに、繰り返しますが、地方スーパーや八尾空港などのレベルの事件は、新ブランダイス学派は歯牙にも掛けません。

というわけで、日本の独禁法実務の圧倒的多数においては新ブランダイス学派は無関係ですし(反トラスト法ではこれこそが本流)、新ブランダイス学派が関心を示すような巨大ITの事件でも、やはり経済学は重要だと思います。

むしろ、新ブランダイス学派の主張をサポートするような経済学の議論とかモデルが早く出てこないかなと期待しています。

2021年8月16日 (月)

代理店を変更したユーザーに変更理由を尋ねるルールについて(平成17年事例1)・その2

たいぶ以前に掲題の事例について書いたことがあるのですが、機会があってあらためてこの事例を見直してみると、けっこう論理的にめちゃくちゃなことをいっていることに気がつきましたのでメモしておきます。

回答では、まず一般論として、

「(2) 一般に,メーカーが販売事業者に対し,サービス内容の向上等を目的として,その販売方法について一定の制限を課すことは,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

しかし,こうした制限を課すことにより,販売事業者の自由な事業活動が制限されたり,新たな販売事業者の参入が困難になるなど,販売事業者間の競争を阻害する場合には,不公正な取引方法(第13項・拘束条件付取引)として独占禁止法上問題となるおそれがある。」

と述べられています。

ですが、まず、最初から、販売方法について「一定の制限を課すことは,直ちに独占禁止法上問題となるものではない」と、とても大雑把なことを言っているところからして、「?」が付きます。

次に、この事例は、ユーザーが購入する代理店を代えたときにユーザーに変更理由の提出を求める、というものであり、これを「販売方法について」の制限というのは、おかしいと思います。

販売方法の制限というのは、典型的には、対面販売を義務づけるとか、インターネット販売を禁止する(実店舗での販売を義務づける)、といったものです。

「代理店の変更理由を聞く販売方法」という言い方も、無理して言おうと思えば言えるのかもしれませんが、それを言い出すと、再販売価格拘束を「一定価格以下では販売しないという販売方法」と言えてしまいますし、排他条件付取引を「競合他社とは取引をしないという販売方法」と言えてしまうので、際限がありません。

それに、販売方法の制限だと、①それなりの合理的な理由と、②平等な適用、という2要件で違法かどうかを判断することになっているので、その次の、「販売事業者の自由な事業活動が制限され」とか、「新たな販売時業者の参入が困難になる」という基準が出てきません。

「販売事業者の自由な事業活動が制限され」を、「それなりの合理的な理由」に読み込むのは、無理でしょう。

というのは、前者は競争者の事業活動に対する影響であるのに対して、後者は、拘束の合理性の話だからです。

こんなに異質のものを読み込めるはずがありません。

回答も、

「(3) A社が策定する本件ルールにおいて,販売代理店の変更理由の提出を求められるのは,他の販売代理店のユーザーと行う取引についてである。

通常,販売代理店からの売り込みに応じ,取引条件等を勘案してユーザーが販売代理店を自由に選ぶことで,販売代理店間の競争が促進されるところ,

本件ルールにより,ユーザーから書面の提出を得られない場合,販売代理店間の競争が阻害される可能性がある。

特に,本件ルールの制定は,顧客略奪を防ぐ目的で販売代理店側から求められたという経緯があり,A社による本件ルールが,販売代理店の間で競争回避の目的で利用される可能性が高く,販売代理店間の競争を阻害するおそれがある。」

というように、問題は販売代理店間の競争が阻害されることだといっているわけですから、そのような競争への影響を正しく捉えるには、本件取り組みを取引先の制限であると捉えるほうが自然で適切だと思います。

そして、流通取引慣行ガイドラインによれば、取引先制限(顧客獲得競争の制限)なら、「それなりの合理性」という基準ではなく、価格維持効果の生じるおそれの有無、という基準になります。

そうすると、「販売事業者の自由な事業活動が制限された」とか、「新たな販売事業者の参入が困難になる」というような、中間命題的なルールを持ち出す必要もありません。

といいますか、「販売方法の制限」の問題なのに、「販売事業者の自由な事業活動が制限された」とか、「新たな販売事業者の参入が困難になる」という基準が出てくる余地は、少なくとも流通慣行ガイドラインを前提にする限り、ないはずです。

ちなみに、流通取引慣行ガイドラインには、「自由な事業活動」という言葉すら出てきませんし、参入の困難化(市場閉鎖効果)を問題にしているのは主に排他条件付取引や共同ボイコットであって、取引先選択の制限や、ましてや販売方法の制限ではありません。

というわけで、この相談事例は公取委の通常の解釈とはずいぶんと離れたことを言っていることがわかります。

とくに、「自由な事業活動が制限された」ら、即、「販売事業者間の競争を阻害」するかのように、少なくとも字面の上では言ってしまっており、それをいいだすと全ての契約が(相手方の活動を何らかの意味において制約するという意味において)当然に拘束条件付取引になってしまいます。

そして、厳密な論理展開をできない人は、実体的な競争制限の分析も大雑把だと言えます。

想像するに、この相談事例では、公取委は、問題になるのは販売代理店間の顧客の奪い合いの制限だと直感的に思ったので、その意味を込めて「自由な事業活動が制限」とか、「新たな販売時業者の参入が困難」というフレーズを使ったのでしょうが、論理的にその前後と噛み合っていませんし、流通取引慣行ガイドラインとも違う内容になっています。

論理的に厳密に議論を展開していけばこんなことにはならないはずなのですが、結論ありきで論理をおろそかにすると、こういうはちゃめちゃなことになってしまう、というよい見本だと思います。

ガイドラインに直接書いていない行為類型だからこそ、ガイドラインのどれに一番近いのか、と考えるのが法律の論理の定石です。

それができていないというのは、なんとも残念です。

それから少し戻って、回答では、

「販売事業者間の競争を阻害する場合には,不公正な取引方法(第13項・拘束条件付取引)として独占禁止法上問題となるおそれがある。」

といっていますが、条文上正しくは、

「販売事業者間の競争を阻害するおそれがある場合には,不公正な取引方法(第13項・拘束条件付取引)として独占禁止法上問題となる。」

なのではないでしょうか?

これなんかは、論理的なミスとしては致命的だと思います。

というわけで、無批判に本事例を引用すると思わず自分のメモや論文も論理が破綻してしまうので、この事例には触れない(あるいは、拘束条件付取引の論理に適切に組み替えて触れる)のが無難だと思います。

独禁法はほかの法律に比べると厳密な文言解釈や論理展開が重視されない(雰囲気で判断される)傾向があるのが残念なところですが、「独禁法も法律です」から、このあたりは地道に直していく必要があると思います。

2021年8月12日 (木)

ライセンス商品の価格拘束は当然に違法か?

知財ガイドライン第4の3(3)(販売価格・再販売価格の制限)では、

「ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンス技術を用いた製品に関し、販売価格・・・を制限する行為は、ライセンシー・・・の事業活動の最も基本となる競争手段に制約を加えるものであり、競争を減殺することが明らかであるから、原則として不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。」

と定められています。

「競争を減殺することが明らか」とまで言われてしまうと、ライセンス商品の価格拘束は例外なく違法になってしまうような印象を受けますが、実際にはそんなことはありません。

(なお、「競争を減殺することが明らか」であれば、論理的には、例外なく違法、となりそうなものなので、「原則として不公正な取引方法に該当する」というのは、いかにも中途半端な気がしますが(正当化事由を意図しているのでしょうか?)、その点は今回措きます。)

というのは、旧ガイドライン(特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針)に関する公正取引委員会職員による解説書である山木編著『Q&A特許ライセンスと独占禁止法』259頁では、ライセンサーによるライセンシーの特許製品販売価格の制限について、

「実施料を確保するという理由で本制限〔注・製品価格の制限〕が直ちに正当化されるものでないことは明らかであり、

特に、マルティプル・ライセンス契約〔注・複数のライセンシーに対するライセンス契約〕の場合において、

複数のライセンシーに対して本制限が課される場合には、ライセンシー間の価格競争が減殺される効果が大きい。」

とした上で、

「非独占のライセンス契約であって、当該ライセンス地域内でライセンサーがライセンシーと並行して特許製品を製造、販売しているような場合には、

ライセンサーがライセンシーの最低販売価格を制限しておかないと、そもそもライセンスをするインセンティブが減殺される場合もあり得ると考えられる。」

「このような場合に、独占禁止法上問題ないものとできるかどうかは、競争秩序に及ぼす影響をみて、個別具体的に検討されなければならない。

本制限が許容し得る場合として考えられるのは、上記のような一対一のライセンスであってライセンサー自身による同一地域内での実施を理由とする場合であり、かかる制限がなければライセンスをするインセンティブが減殺されるような場合に限られるものと思われる。

また、製品差別化が容易な製品であれば、販売価格を制限する正当化事由があるとは考えがたいところである。」

と解説されているのです。

これは理論に裏付けられた、すごくまともな解説だと思います。

まず、そもそも再販売価格拘束が違法である根拠(≒ライセンサーによるライセンシーの商品の販売価格の拘束がいほうである根拠)は、小売店間のブランド内競争が制限されるからです。

なので、小売店が1社の場合にはそのようなブランド内競争制限がもともとありえないので、再販売価格拘束は実質的な違法性を欠きます。

ですが公取委の「公式見解」(タテマエ)は、小売店が1社でも再販売価格拘束は原則違法だ、ということになっています。

それは理屈としておかしいんじゃないか、ということを、だいぶ以前に、上記解説書を引用しながら、このブログでも書いたところです(「相手方が1社の再販売価格拘束」)。

というわけで、ホンネのところでは、相手方1社の再販なんて公取委は取り締まるつもりはさらさらないし、ライセンシー1社の価格拘束についてはなおさらです。

ライセンス商品の価格を拘束しないとライセンサー自身の商品と価格競争になってしまい、そもそもライセンスのインセンティブが失われてしまう、というのがポイントです。

ライセンサーが商品を販売していない場合には、そういうことは起きませんし、そもそも商品価格を拘束するインセンティブがありません。

あるとすれば、ロイヤルティを売上の一定率と定めている場合には、価格が下がりすぎるとロイヤルティも減ってしまう、というのがありそうですが、実はこれはたいしたことはありません。

というのは、極端な場合として、特許が技術市場で独占的地位にあり、ライセンシーも商品市場で独占的地位なる場合を考えると、ライセンシーには独占価格よりも価格を下げるインセンティブはないからです。

あるいは、売上の一定率ではなく、定額でライセンス料を受け取ればいいだけの話です。

そうすれば二重限界化の問題も避けられて、社会的にも効率的だといえます。

ただ、これは、需要に不確実性がある場合などはうまくいかない(確実な売上が見込めないのに定額のライセンス料を支払うことをライセンシーが嫌うために、リスク中立的であれば成立する効率的なライセンスが成立しない)こともあるので、場合によっては難しい問題です。

ところで、1つの見方としては、「ライセンサーも商品を供給できるならライセンスがなくてもライセンサー自身が販売すればいいのだから、価格の制限を認めてまでライセンスのインセンティブを確保する必要はないのではないか?」というのが考えられます。

しかし、世の中そんなに単純ではありません。

仮にライセンサー自身に供給能力があっても、さまざまな制約(生産能力、販売網、ブランドイメージ、商品差別化、他の補完技術等)のために、他社にライセンス(も)したい、という場合は、実際にあります。

制約の代表例は、地理的差別化でしょう。

コンビニやピザ屋のフランチャイズをイメージすればわかるように、全国的な店舗網をライセンサーが自力で開発するのは大変です。

(なお知財ガイドラインは特許やノウハウのライセンスに関するものですが、商標のライセンスでも理屈は同じです。)

それが、ライセンシー候補者が広く全国に散らばっていると(地理的に差別化されていると)、ライセンスにより効率的に販売網を拡大できます。

そういうインセンティブを確保する必要があるかどうかの1つの物差しが、ライセンスをすることで市場への商品供給数量(売上ではありません)が増えるのかどうか、です。

もしライセンスで商品供給数量が増えるなら、そのライセンスは効率的である可能性が高く、そのインセンティブを確保する必要性も高いといえます。

次に、「一対一」という点も重要です。

というのは、ライセンシーが複数だと、ライセンシー間の競争確保にも配慮する必要があるからです。

ですがそれでも、ではライセンシーが複数なら絶対に価格拘束できないのかというと微妙なところで、たとえばもともとライセンシーが地理的に差別化されているような市場なら、ライセンシーは実質的には競争していない(それぞれ別市場)ともいえ、程度問題です。

複数ライセンシーにライセンスしたほうがライセンサーの収入(ロイヤルティ収入)が上がるのかどうかはそれこそケースバイケースで、1社で十分な販路を持つライセンサーならほかにライセンスをする必要はないでしょうし、ライセンシー同士を競わせた方がよい(それによりブランド間競争を活発化させたほうがよい)と考えれば、複数ライセンシーにライセンスすることになるでしょう。

といったような判断を、「一対一」の場合にはする必要がないわけです。

ライセンサー自身が商品も販売している場合には、ライセンシーにより売上を奪われてしまうことも考慮するでしょう(まあ、ロイヤルティ率を上げれば、商品売上げの目減りは相殺されるので、そのあたりを考慮してロイヤルティ率を決めるのでしょう)。

このようにいろいろ考えて、身内の間での喰い合いは避けつつ、新規需要の開拓(必ずしも競合他社から需要を奪うことに限られない)をするにはどうするのが最適かを考えながら、ロイヤルティ率や、販売価格や、販売地域、販売先を合意するのでしょう。

そして、商品市場(川下市場)での競争がある程度活発である限り、これらの制限が競争を制限することはあまり考えられません。

なので、価格の制限だけを悪者にする必要もないのですが、公取委実務では「価格は最も重要な競争手段」ということで、別格の扱いを受けています。

それ自体は理論的根拠もあるので必ずしも間違いではないのですが、一切例外を認めないというのは硬直的であり、そもそも価格拘束の何が問題なのかを理解していないからこそ平気で言える意見なのだと思います。

というわけで、昔の公取委の職員の方々は、こういうふうに、本当に知りたい大事なことをわりとストレートに書いてくれていたので助かります。

最近の解説書や解説記事は、どうも、タテマエが多くて、実務上は判断がブラックボックス化している印象があります。

なので、いつまでたっても古い文献が手放せない、という、笑えない状態になっています。

とある研究者の方にお聞きしたところ、昔は、公取委の職員の方々も学者が主催する勉強会などに積極的に参加されていたそうで、それが、最近の若い職員の方々はそういうのがすっかりなくなった、ということです。

個々人が勉強していないことが原因なのか、組織の締め付けが原因なのかはわかりませんが、どうも、書く人の個性が最近は失われているようにも思われます。

ただ、これも公取委の職員の方の名誉のために申し上げると、人によってかなり違いがあって、担当官解説一つ取っても、「さすがだなぁ」と思える人と、「これ、ほとんど前の記事のコピペじゃん」という人がいます。

いち読者の立場から申し上げると、やっぱり、説得力のある踏み込んだ文章を書かれる方は尊敬しますし、実際の事件で当たっても問題の本質が見えていてやっぱりさすがだと畏敬の念を持って接するのに対して、タテマエだけの人だと、「この人はタテマエしか言わない人だ」という目で見てしまいますし、ものの見方も表面的であるように思います。

というわけで、みなさんお立場はおありかと思いますが(担当官解説を踏み込んで書けるか書けないかは、チェックする上司の個性により大きく異なる、という話を聞いたことがあります)、自分のためにも社会のためにも、やっぱりよく考えて書いた方がいいと思います。

2021年8月 6日 (金)

アマゾン事件のアンケート調査の問題点

アマゾンの二重価格表示に関する措置命令取消訴訟一審判決(東京地裁令和元年11月15日)では、アマゾン側が、問題の二重価格表示を見せたグループと見せていないグループで、「購入したい」と答えた人の割合に統計上有意な差がないというアンケート調査を提出しました。

これに対して消費者庁側は、統計学的な観点からこのアンケート調査をさまざまに批判し、裁判所もおおむね消費者庁の主張に沿った判断をしてアンケート調査の有効性を否定しているのですが、そもそも法律的な観点からこのアンケート調査には問題があったのではないかと思われます。

というのは、このアンケートでは、要するに、問題の表示を見せて「購入したい」と思う人がどれだけ増えるかを調べているわけですが、有利誤認表示が成立するためには、

「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの・・・よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」(景表法5条2号)

であればよいので、買いたくない人に買いたいと思わせる必要はないからです。

つまり、表示を見てお得だと思って買ったけれど、実は、表示から理解されるほどにはお得ではなかった(なのでちょっと損した気にはなるけどやっぱり買った)、というのでも、有利誤認表示になります。

たとえば、2012年のコスモスイニシアに対する措置命令では、同社が販売していたマンションについて、鉄筋コンクリートの水セメント比が全て50%以下であるかのような表示をしていたのに、実際には、対象物件の鉄筋コンクリートのうち、外構の塀、花壇の基礎、土間など建物本体以外の部位の一部については、水セメント比が50%を超えるコンクリートが施工されていた、というので措置命令がなされています。

このマンションを買った人が、花壇の基礎の水セメント比率が実際どおりとわかっていたら買わなかったか、といえば、まずそんなことはないと思います。

中には補償を求める(減額交渉する)人もいるかもしれませんが、ほとんどの人はそれさえもしないでしょう。

つまり、買うか買わないかという意思決定に影響しない不当表示でも(あるいは、不当表示と購入意思決定の間に因果関係がなくても)、問題なく、不当表示になるのです。

ちょっと経済学的な説明をすると、「買うか買わないか」というのは、価格が支払意思額を超えるか超えないか、というレベルの問題ですが、不当表示は、不当表示により支払意思額を上げれば成立する、ということです。

つまり、不当表示の結果、

不当表示のない状態では支払意思額が価格を下回っていた人が、不当表示により支払意思額が価格を超えると、買わなかった人が買うことになりますし、

不当表示のない状態ですでに支払意思額が価格を上回っている人は、不当表示があってもなくても買うけれど不当表示になることに変わりはないし、

不当表示のない状態で支払意思額が価格を下回っていて、不当表示後の支払意思額が引き続き価格を下回っている人は、いずれにしても買わないけれど、こういう人との関係でも不当表示は成立しますので、

いずれにしも(支払意思額が上昇する限り、購入の意思決定に影響がなくても)不当表示は成立します。

景表法が競争法であった時代には、競合他社から不当に需要を奪うこと(競争をゆがめること)が不当表示の問題点だったので、競合他社から顧客を奪わない限り違法ではない、という議論も不可能ではなかったかもしれません。

しかし、今や景表法は消費者保護法ですから、条文どおり、「表示を見てお得だと思ったのに、表示から理解されるほどにはお得ではなかった(「実際のもの・・・よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認」)という場合でも違反になることに異論の余地はないと思います(条文どおりなのであたりまえですが)。

アマゾンとしては、「購入したい」という人の割合くらいしかアンケートで測定できる設問がなかったのでこういうアンケートにならざるをえなかったのかもしれませんし、それを理解した上で、「購入したい人の割合が増えないなら、実際より有利と思う人の割合も増えないだろう」という論理を噛ませて、こういうアンケートにしたのかもしれません。

あるいは、たんに「3000円」という表示と「通常5000円のところ、3000円」という表示を見せたら、後者のほうがお得に見えるに決まっていて、どっちがお得に見えるかダイレクトに聞いたら負けるに決まっているから、購入したいかどうかを聞くことにしたのかもしれません(深読みのしすぎかもしれませんが)。

しかし、消費者庁が、統計学や社会調査上の批判はしながら(その中には妥当なものも、そうでないものもあります)、法律の執行官庁なのに、肝心の法律上の批判をしないのは、なんだかなぁ、という感じがします。

2021年8月 5日 (木)

「競争品の製造・販売又は競争者との取引の制限」に関する知財ガイドラインの規定について

知財ガイドライン第4の4⑷では、「〔ライセンサーの〕競争品の製造・販売又は〔ライセンサーの〕競争者との取引の制限」に関して、

「ライセンサーがライセンシーに対し、

ライセンサーの競争品を製造・販売すること

又はライセンサーの競争者から競争技術のライセンスを受けること

を制限する行為は、

ライセンシーによる技術の効率的な利用や円滑な技術取引を妨げ、

競争者の取引の機会を排除する効果を持つ。

したがって、これらの行為は、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第2項、第11項、第12項)。」

「なお、当該技術がノウハウに係るものであるため、

当該制限以外に当該技術の漏洩又は流用を防止するための手段がない場合には、

秘密性を保持するために必要な範囲でこのような制限を課すことは

公正競争阻害性を有さないと認められることが多いと考えられる。

このことは、契約終了後の制限であっても短期間であれば同様である。」

とされています。

この記述をみたときには、つい、後半の「なお」以下の部分に目が行ってしまいがちで、

「そうか。ノウハウ漏洩防止のためでも、排他条件が唯一の手段でないと、排他条件は違法になるんだ。」

とか、

「契約終了後の競争者との取引禁止は、短期間しか許されないんだ。」

と思ってしまいがちです。

しかし、そのような読み方は、知財ガイドラインの読み方としても、独禁法の解釈としても、正しくありません。

まず、ガイドラインは、上記引用の前半部分で、ライセンサーがライセンシーに対してライセンサーの競争者と取引することを禁止することは、

公正競争阻害性を有する場合には

違法となる、とされています。

そして、この、「公正競争阻害性を有する」かどうかは、ケースバイケースで判断され、実際には、非常に有力な技術であり、かつ、当該ライセンシーほどに効率的に競合技術のライセンスを受けて製品を製造できるようなライセンシー候補者がほかにいないなど、かなり例外的な場合でない限り、この公正競争阻害性は認められません。

と、言い切ると、ちょっと限界事例がこぼれ落ちてしまう可能性はあるのですが、実務的に正しいイメージを持つためには、まあ、そのように考えておくほうが概ね正しい結論にたどり着けます。

知財ガイドライン一般的にそうですが、この「公正競争阻害性を有する場合には違法となる」というのは、いわゆる灰条項といわれ、「灰」というと「グレー」ということで、なにかかなり怪しげな印象を受けます。

しかし、「公正競争阻害性を有する場合には違法となる」というのは、まさに文字どおり、公正競争阻害性を有する場合には違法で、有しない場合には適用、といっているだけで、ケースバイケースだ、というに過ぎず、決して、「灰色だから怪しい」というニュアンスはありません。

なので、上記引用の前半部分ですでに、実務上みられる排他条件がほとんどOKであることが明らかにされているのです。

取締りに関心のある当局は、そもそも怪しいものにしか関心がないという認知バイアスがあるので、当局に聞くと厳しいことを言われがちなのですが、通常のビジネスでは排他条件で競争者を排除しようと考えることなんて、よっぽどの独占企業か、市場を独占できるほどの有力技術でなければありえないと思われます。

それよりも、競争者との取引を禁止したい理由として圧倒的に多いのが、「自社のノウハウが流出してしまう」というものです。

そして、ノウハウの流出を防止したい場合には、多くの場合、ライセンシーは1社ないしきわめて少数でしょう。

というのは、多数のライセンシーにライセンスなどしてしまえば、どんなに拘束したってノウハウは漏れてしまうからです。

そして、このようなライセンシー1社の場合に公正競争阻害性が認められるのは、ライセンサーの技術が極めて有力であっても、あまり多くは起こらないように思われます。

(ただ、そもそも特殊な技術でニッチな市場だったりすると、ライセンスを実施できる技術を持つライセンシー候補者が世界に1社しかいない、ということは確かにあり得ますので、相手方1社なら常にOKとも言えないのですが、大まかなイメージとしては、ほかにライセンシー候補者がいるならまず違法にならない、という理解でよいと思います。)

ところが、「自社のノウハウ流出を防ぐために競争者との取引を制限できるのかな?」と思ってガイドラインを読むと、どうしても上記引用部分の後半にだけ目が行ってしまって、上述のような誤解を生むのです。

それに、そもそも「なお」以下の後半も、言っていることがちょっと厳しすぎると思います。

つまり、「なお」以下を文字どおり読めば、

「当該制限以外に当該技術の漏洩又は流用を防止するための手段」

がある場合には、公正競争阻害性があることになってしまいます。

でも、他の手段がないことの立証というのはなかなか大変に思えるので、このハードルはすごく高くみえてしまいます。

ですが、守秘義務や目的外使用禁止では、破られてしまえばおしまいだし、ノウハウによっては、破られたことをライセンサーが証明するのが極めて困難、ということも、いくらでもありえます。

なので、このハードルは「そんなに高くない」と理解しておいてよいと思います。

また、

「秘密性を保持するために必要な範囲で」

というのも、なんだか必要な範囲をライセンサーが特定した上で必要性をライセンサーが立証しなければならないような圧迫感を感じる嫌なフレーズですが、これも、そんなに深く考える必要はなく、たとえば通常は競合技術のライセンスを一切受けないというのでも、十分「必要な範囲」といえるでしょう。

次の、

「公正競争阻害性を有さないと認められることが多いと考えられる。」

というのも、非常に高いハードルを越えても、公正競争阻害性を有しない場合が「多い」だけであって、常に有しないように読めるので、げんなりしますが、そこで、そもそも上で説明したとおり、引用前半部分で公正競争阻害性がある場合が稀である、ということを思い出さないといけません。

ところが、そういう読み方を知らないと、他の手段があって、必要な範囲を超えていれば、一足飛びに「公正競争阻害性あり」なのだ、と誤解してしまいかねません。

最後の、

「このことは、契約終了後の制限であっても短期間であれば同様である。」

というのも、永久に守りたいノウハウであれば短期間に限らず制限をかけていいのは、論理的に当然です。

すべてのノウハウは短期間で陳腐化する、というのは、明らかに誤りです。

ガイドラインも、

「短期間であれば同様(公正競争阻害性を有さないと認められることが多い)」

といっているだけであり、

「長期間であれば公正競争阻害性を有することが多い。」

とは言っていません。

ちなみに、山木編『Q&A特許ライセンスと独占禁止法』p239によると、「短期間」は「2年程度」と考えられているようです。

もし、2年を超えたら違法だなんて言われたら、短すぎる(場合がある)ことは、明らかだと思います。

以上で述べたことは、独禁法の理屈が分かっている弁護士の間では常識ですし、公取委の現実の運用にも合致していますが、独禁法をよく知らない弁護士さんが初めて知財ガイドラインを見たりすると、「契約終了後短期間を超えて競合技術のライセンスを受けることは独禁法違反のおそれが大きい」などと言ったりするので、注意が必要です。

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