2017年8月10日 (木)

刑事告発の基準

どのようなカルテル・談合事件が刑事訴追(犯則調査)の対象になるのかについては、公正取引委員会の、

「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」(告発指針)

という文書に、

「公正取引委員会は、

ア 一定の取引分野における競争を実質的に制限する価格カルテル、供給量制限カルテル、市場分割協定、入札談合、共同ボイコット、私的独占その他の違反行為であって、国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案

イ 違反を反復して行っている事業者・業界、排除措置に従わない事業者等に係る違反行為のうち、公正取引委員会の行う行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案

について、積極的に刑事処分を求めて告発を行う方針である。」

と、一応書いてはあるのですが、これだけでは正直、よくわかりません。

(しかも、私的独占の刑事告発なんてありえないのが誰の目にもあきらかなのに入っていたりして、いかにもうそっぽいです。)

そこで、過去に価格カルテル事件(つまり、入札談合ではないもの)で刑事告発されたもののカルテル対象売上額を、課徴金額から推計してみます。

カルテル対象売上が大きいと刑事告発になりやすいのではないか、反対に、あまり売上の小さいカルテルは刑事告発にはならないのではないか、と予想されるからです。

(入札談合についてはずすのは、緑資源機構のケースのような、対象売上が小さくても「大人の事情」で刑事訴追される外れ値的なものがあるので、参考にならないからです。)

まず、刑事告発された事件をみてみましょう。

■ベアリング事件(平成25年3月29日課徴金納付命令)

この事件では、課徴金の額は、

NTN・・・72億円

日本精工・・・56億円

不二越・・・5億円

(3社合計・・・134億円)

です(数字は1億円以下四捨五入。以下同じ)。

審決集に載っているNTNの納付命令によると、同社のカルテル実行期間とその間の売上は、

産業機械用軸受

平成22年9月10日~平成23年7月25日まで(約11か月)

387億円

自動車用軸受

平成22年7月30日~平成23年7月25日まで(約12か月)

337億円

です。

つまり、おおよそカルテルの期間は1年間、売上は724億円(課徴金の10倍)となります。

これから他の2社の日本精工と不二越の売上を推測すると、

日本精工・・・560億円(課徴金56億円の10倍)

不二越・・・60億円(課徴金6億円の10倍)

となりそうですが、この2社は減免申請をして30%の減額を受けているので、0.7で割り戻して、

日本精工・・・800億円

不二越・・・86億円

となり、3社の売上合計は1610億円と推測されます(期間は1年)。

■溶融亜鉛めっき鋼板カルテル事件(平成21年8月27日課徴金納付命令)

この事件で排除措置命令をうけた3社の課徴金額は、

日鉄住金鋼板・・・63億円

日新製鋼・・・55億円

淀川製鋼所・・・37億円

(3社合計・・・155億円)

です。

本件では、「GL鋼板の店売り取引」(以下「GL鋼板」)、「軽天メーカー向けGI鋼板のひも付き取引」(以下「GI鋼板」)と、「建材製品製造業者向け特定カラー鋼板のひも付き取引」(以下「カラー鋼板」)の3つについて課徴金が課されています。

審決集に載っている日鉄住金鋼板のGL鋼板の納付命令によると、同社の違反期間は平成15年9月6日から平成18年9月7日まで(上限の3年)です。

売上は、平成18年1月4日(課徴金算定率を6%から10%に引き上げる平成17年改正の施行日)よりも前の売上が577億円、施行日後の売上が191億円、合計768億円です(対応するGI鋼板の課徴金額は38億円)。

これをもとに審決集には載っていないのこりの2社のGL鋼板の売上を推測すると、

日新製鋼・・・640億円(課徴金32億円の20倍≒768億÷38億)

淀川製鋼所・・・320億円(課徴金額16億円の20倍)

となり、GL鋼板の3社の売上は1728億円となります。

GI鋼板については淀川製鋼所の納付命令が審決集に載っていて、それによると、同社のカルテル実行期間は平成15年10月1日から平成18年9月6日(約2年11カ月)で、課徴金引き上げ前の売上が215億円、引き上げ後の売上が54億円、合計269億円です(対応する課徴金額は13億円)。

これから他の2社の売上を推計すると、

日鉄住金鋼板・・・240億円(課徴金12億円の20倍(≒269億÷13億))

日新製鋼・・・160億円(課徴金8億円の20倍)

となり、結局、GI鋼板の3社合計売上は、669億円です。

カラー鋼板については日新製鋼の納付命令が審決集に載っていて、それによると、同社のカルテル実行期間は、平成16年4月1日から平成18年9月6日まで(約2年5か月)です。

そして、カラー鋼板の日新製鋼の売上は、改正前が135億円、改正後が43億円、合計178億円です(対応する課徴金は15億円)。

これから残りの2社の売上を推計すると、

日鉄住金鋼板・・・156億円(課徴金13億円の12倍(≒178億÷15億))

淀川製鋼所・・・96億円(課徴金8億の12倍)

となります。

よってカラー鋼板の3社合計売上は、430億円です(実行期間は2年5か月)。

以上より、溶融亜鉛めっき鋼板カルテル事件の全売上は、1728+669+430=2827億円、となります。

■ダクタイル鋳鉄管カルテル事件(平成11年12月22日課徴金納付命令)

この事件では、クボタ、栗本鐵工所、日本鋳鉄管の3社が課徴金を受けていますが、審決集に載っているクボタに対する納付命令によると、同社の実行期間は平成8年8月20日から平成9年3月31日まで(約7か月)です。

そして、クボタの売上は、554億円です(対応する課徴金は33億円)。

これをもとにほかの2社の売上を推測すると、

栗本鐵工所・・・238億円(課徴金14億円の554÷33≒17倍)

日本鋳鉄管・・・85億円(課徴金5億円の17倍)

となり、3社合計売上は、554+238+85=877億円となります。

・・・・・・・

では次に、比較的売上が大きいのに刑事告発にならなかったカルテル事件として、段ボールカルテル事件と自動車運搬船カルテル事件をみてみましょう。

■段ボールカルテル(平成26年6月19日課徴金納付命令)

この事件では、商品が、段ボールシート(シート)、段ボールケース(ケース)、大口ユーザー向け段ボールケース(大口ケース)、の3種類あります。

まずシートからみてみましょう。

審決集に載っているレンゴーの納付命令によると、同社のシートの実行期間は平成23年10月25日から平成24年6月4日(約7か月)で、その間の売上は62億円です(対応する課徴金は6億円)。

この事件は違反者が多いのでぜんぶまとめると、課徴金対象事業者48社に対する課徴金額は32億円なので、合計売上は32×62÷6≒320億円と推計できます。

次に、ケースについては、審決集のレンゴーの納付命令によると、同社のケースの実行期間は平成23年10月17日から平成24年6月4日まで(約7か月)で、この間の売上は223億円です(対応する課徴金額は22億円)。

ここから全課徴金対象事業者60社のケースの売上を推計すると、820億円となります(対応する売上は82億円)。

次に、大口ケースについては、審決集に載っているレンゴーの納付命令によれば、同社の大口ケースの実行期間は平成23年11月1日から平成24年6月4日までです(約7か月)。

そしてこの期間のレンゴーの売上は134億円です。

なので課徴金は13.4億円になりそうですが、大口ケースについてはレンゴーが立入検査(平成24年9月19日)の1か月前に違反行為をやめており、実行期間が2年未満なので、独禁法7条の2第6項の適用をうけ、課徴金算定率が8%になって、課徴金が11億円になています。

ともあれ、すなおにレンゴーの売上から他の2社の売上を推計すると、

トーモク・・・60億円(課徴金6億円の10倍)

日本トーカンパッケージ・・・43億円(課徴金3億円の10倍、減免申請で3割減額されているので、0.7で割戻し)

となり、3社合計の大口ケースの売上は、134+60+43=237億円となります。

以上より、シート、ケース、大口ケースを合わせた全社総売上は、320+820+237=1377億円となります。

■自動車運搬船カルテル(平成26年3月18日課徴金納付命令)

この事件は、北米航路、欧州航路、中近東航路、大洋州航路、の4つのルートでのカルテルが問題になっています。

(なお商船三井がすべての航路で全額免除を受けています。)

まず北米航路については、審決集に載っている日本郵船の納付命令では、カルテル実行期間は平成21年9月6日から平成24年9月5日までの3年間とされています。

そしてこの間の日本郵船の北米航路の売上は575億円です。

課徴金額は40億円ですが、これはリニエンシーの申請をして3割の減額を受けた結果です。

つまりほんらいの(リニエンシーがなかったときの)課徴金は0.7で割り戻して57億円となります。

これをもとに他の2社について売上を推計すると、

川崎汽船・・・271億円(課徴金19億円の10倍に、減免申請で0.7の割り戻し)

ワレニウス・・・5億円(課徴金5000万円の10倍)

となり、3社合計で575+271+5=851億円となります。

次に欧州航路については、審決集掲載の日本郵船の実行期間は同じく3年間、売上が554億円、課徴金額は3割の減額を受けた結果39億円です。

これをもとに他の3社の売上を推計すると、

ワレニウス・・・340億円(課徴金34億円の10倍)

川崎汽船・・・229億円(課徴金16億円の10倍に、減免3割で0.7の割り戻し)

日産専用船・・・57億円(課徴金4億円の10倍に、減免3割で0.7の割り戻し)

となり、欧州航路の4社合計売上は、554+340+229+57=1180億円となります。

次に中近東航路では、審決集掲載の日本郵船の納付命令によると、同じく実行期間は3年間、その間の売上は507億円で、課徴金は減免申請で3割減額されて35億円です。

これをもとにもう1社の川崎汽船の売上を推計すると、

川崎汽船・・・171億円(課徴金12億円の10倍に3割減額のため0.7で割戻し)

となります。

したがって、中近東航路での2社合計売上は、507+171=678億円となります。

最後に大洋州航路については、審決集掲載の日本郵船の納付命令によると、実行期間は同じく3年間、その間の売上は236億円、課徴金は3割減額後で17億円です。

これをもとにもう片方の川崎汽船の売上を推計すると

川崎汽船・・・157億円(課徴金11億円の10倍に、3割減額のため0.7で割戻し)

となります。

したがって、大洋州航路の2社の売上は236+157=393億円となります。

以上より、4航路全体の売上は、851+1180+678+393=3102億円となります。

なお本件では商船三井がリニエンシーで課徴金を免除されているので、この分を加えたいところです。

ウェブ上のある情報では、自動車船のキャパシティシェア(2016年1月1日現在)では、商船三井は世界シェア14%だそうです。

なのでざっくりと、商船三井の分を加えた総売上は、3102×1.14=3536億円と見積もられます。

・・・・・・

以上をまとめると、

刑事告訴されたもの

ベアリング・・・1610億円

溶融メッキ・・・2827億円

ダクタイル鋳鉄管・・・877億円

刑事告発されなかったもの

段ボール・・・1377億円

自動車船・・・3536億円

とうことになり、刑事告発されるものはやはり売り上げも大きいなあとわかるとともに、売上だけで刑事告発の有無が決まるわけではないことがうかがえます。

とはいえ、以上検討した過去の例をふまえれば、売上が2~300億円に足りないくらいであれば、(入札談合ではない)価格カルテルの刑事告発のリスクは低いのではないか、という感じがします。

なお、これはまったくの推測ですが、段ボールは売上は大きいものの実質的には加工賃部分だけが売上であったことと、自動車船については外国のワレニウスが違反者になっていたことが、刑事告発にいたらなかったことの一因ではないか、とニラんでいます。

なので、市場規模がが1000億円をこえても刑事告発にならない、というようなことはいえないと思います。

2017年8月 4日 (金)

ボーネルンドに対する措置命令について

おもちゃの輸入業などをおこなうボーネルンドに対して、原産国告示違反で6月23日に措置命令が出ました

おもちゃのチラシにイギリスなどの国旗や国名を表示していたけれど、実は中国製だった、というものです。

この事件でボーネルンドは、

「国旗はメーカー所在国であると記載したが、⽣産国として誤解を与える表⽰だった。深く反省している」

とコメントしたそうです(6月23日付日経新聞ウェブ版)。

また、

「消費者庁によると、同社は2016年12⽉7〜9⽇に配布した新聞折り込みチラシに、玩具の写真と共に⽶国や英国、⽇本などの国旗を掲載。

裏⾯に⼩さく「国旗の表記はメーカー所在国です」と記していたが、同庁は『消費者が⽣産国と誤認する恐れがある』と判断した。」

と伝えられています(同日付時事ドットコム)。

これらをあわせて読むと、消費者が国旗の表示を生産国と誤認しないようにしておけば(たとえば「国旗の表記はメーカー所在国です」という記載を同一視野に大きく記載していれば)不当表示にならなかったかのような印象を与えますが、実はそうではありません。

原産国告示上は、国旗を記載するときには、本当の原産地(本件では中国)がわかるように明示しないと違反になるのであって、国旗が原産国でないと明示するだけでは足りないからです。

原産国告示の該当箇所をみてみましょう。

同告示2項(外国産品の不当表示)では、次の表示が不当表示だとさだめられています。

「2  外国〔中国〕で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、

その商品がその原産国〔中国〕で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの

一 その商品の原産国〔中国〕以外の国〔イギリス〕の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示

(2号以下略)」

まず本件では、原産国(中国)以外の国(イギリス)の国旗を表示しているので、そのイギリス国旗の表示は1号に該当します。

そして、1号に該当する以上は、

「その商品がその原産国〔中国〕で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難」

でないかぎり(つまり容易に中国産と判別できないかぎり)、柱書の要件をみたしてしまい、不当表示になるのです。

仮に

「国旗の表記はメーカー所在国です」

と、イギリス国旗の表示と同一視野に大きく記載していたとしても、イギリス産ではないということはわかっても(※)、中国産と容易に判別できることにはならないわけです。

(※実は、この表示でも、メーカー所在国がイギリスだといっているだけで、ほんとうに製造地がイギリスではないということまで明示していることになるのか、疑問がないわけではありません。)

そういうわけで、ボーネルンドの

「国旗はメーカー所在国であると記載したが、⽣産国として誤解を与える表⽰だった。」

というコメントは、原産国告示に照らすとやや的はずれで、問題の本質は、イギリス国旗によりイギリスが生産国と誤認されるかどうかではなくて、イギリス国旗を表示する以上、中国産であることを明示しないといけなかった、ということなのです。

ちなみにボーネルンドの社告では、

「・・・これらの〔原産国である中国以外の国の国旗や国名の〕表示は、当該16商品の原産国が中華人民共和国であることを一般消費者が判別することが困難なものであって、景品表示法に違反するものでした。」

と、原産国告示2項柱書に沿った表現になっていて、イギリス国旗がイギリス製と誤認させるものであったとは一言も述べられていません。

(ちなみに社告の案は通常消費者庁から示されるので、本件もそうだと思われます。)

というわけで、もしボーネルンドが「国旗の表記はメーカー所在国であることを同一視野に大きく書いておけば違反にならなかった」と思っているとしたら、それは原産国告示の解釈を誤っていますし、自らの社告とも食い違ってきます。

もし大きく同一視野に「国旗の表記はメーカー所在国です」と記載していたら、消費者には実害がないということで、消費者庁は事件として取り上げなかったかもしれません。

そういう意味で、「国旗の表記はメーカー所在国です」と記載することは無意味ではないのですが、景表法違反かどうかといえば、やはりそれでも景表法違反だといわざるをえないでしょう。

この事件をみてもわかるように、原産国告示は実はけっこうやっかいで誤解されがちな告示です。

個人的には、これだけ企業の国際分業化が進んだ現代において、おもちゃのチラシにイギリス国旗が表示されているだけでそのおもちゃがイギリス国内で製造されたものと誤認する消費者がどれだけいるのか疑問だと思っており、ちょっと原産国告示は割り切りすぎのような気がします。

イギリス国旗がついていても、私なんかは、「イギリス人がデザインしたんだろうなぁ」とか「イギリスの会社が作ったんだろうなぁ」というくらいの期待しかしないと思うし、それで十分です。

おもちゃの工場がどこかなんて、どうでもいいわけで、イギリスの伝統とか、おもちゃに対する哲学とか、設計思想とか、そういったものがあれば十分で、別にだまされた気にもなりません。

もちろん「イギリス製」と書いたらあきらかにウソですが、イギリス国旗は漠然とイギリスのおもちゃであることをイメージさせるにはよい表現手段であり、もうちょっと融通がきかないのかなぁと思います。

しかも問題になるのは国旗だけでなく、国の地図なんかもアウトです(原産国告示運用基準1項)。

と、いろいろ言っても、現に原産国告示が今のような形で存在する以上、これを守らないといけません。

思わぬところで誤解しないよう、原産国告示は注意深く読む必要がありそうです。

それから、原産国告示は優良誤認と違って、いちいち優良性を認定する必要がないのが、消費者庁による迅速かつ画一的な運用ができるポイントです。

たとえばドイツ製のワインをイタリア製と偽った場合に、一般消費者にとってイタリア製ワインのほうがいいものだと認識されていることの立証は不要です。

このような優良性の立証が不要であることにくわえて、誤認を生じさせるかどうかという点についても原産国告示はかなり割り切った考え方をしているんだなぁということを感じさせたことも、今回の事件の特徴であったように思います。

2017年7月28日 (金)

期間限定商品の売れ残りと不当表示

だいぶ前のことですが、あるメーカーのクライアントから、

「期間限定販売」(たとえば2015年3月まで)

と銘打って、通常商品とはちがうパッケージでおまけもつけて販売した商品が、予想外に小売店で売れ残ってしまって(想定では発売と同時にすぐ売り切れるはずだった)、期限を過ぎても店頭に並んでいる状況だけれどどうしたらいいか、という相談を受けました。

このときは、やっぱり期間限定と表示しながらそれを過ぎていつまでも販売されているというのは有利誤認表示のおそれがあるので回収すべきでしょうね、というアドバイスをしました。

でも課徴金制度が施行されのにあわせて公表された課徴金のガイドラインの考え方によると、このケースが不当表示にあたるのかはなかなか微妙です。

というのは、課徴金ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」)では、そもそも事業者(メーカー)のどの行為が表示行為に該当するのかについて、商品パッケージでの表示の場合には商品を取引相手方に引き渡す行為が表示行為であり、そのあと店頭に陳列されているのは小売店の行為であって、メーカーとは関係ない、と整理されているからです。

つまり、ガイドライン8頁の第41(5)想定例①では、

「商品a を製造する事業者Aが、

小売業者を通じて一般消費者に対して供給する商品a の取引に際して、

商品a について優良誤認表示を内容とする包装をし、

その包装がされた商品a を、平成30 年4月1日から同年9月30 日までの間、毎日小売業者に対し販売して引き渡した場合、

事業者Aの課徴金対象行為をした期間は、平成30 年4月1日から同年9月30 日までとなる

小売業者の一般消費者に対する販売行為は、事業者Aの行為ではない

なお、当該小売業者が事業者Aとともに当該優良誤認表示の内容の決定に関与していた場合は、当該小売業者が一般消費者に対して商品a を販売して引き渡す行為について、別途課徴金対象行為の該当性が問題となる。)。

事業者Aは、課徴金対象行為をやめた日の翌日である平成30 年10月1日以降は商品a の取引をしていないため、課徴金対象期間は、平成30 年4月1日から同年9月30 日までとなる。」

とされており、包装の不当表示では商品の引渡しが不当表示行為であり、その後の小売業者の販売行為は関係ない、とされています。

不当表示行為が措置命令と課徴金納付命令とでちがう内容を持つとは考えられないですから、これは措置命令の場合にもあてはまるのでしょう。

そうすると、少なくとも景表法との関係では(企業の道義的責任を無視すれば)、販売したあとの行為は関係ないんだから回収する必要はない、ということになりそうにもみえます。

(なお個人的には、不当表示行為の考え方をこのガイドラインのように割り切ってしまっていいものか、疑問がないではないと思っていますが、ここまではっきり書いてあるわけですし、ひとまずガイドラインにしたがっておきます。)

しかし、話はそう単純ではありません。

期間限定販売の場合、何が有利誤認なのかを考えると、限定期間中にその表示に接して、今しか手に入らないんだと思った消費者が、「今買わなきゃ」と思う点に問題があります。

限定期間後に店頭に並んでいる商品をみて、「あれ、期限過ぎてるのにおかしいなぁ」と思いながら買う消費者は、別に誤認していません。(期限が過ぎていることは明らかなので。)

つまり、限定期間中に、「今しか買えないと思ったから買ったのに、実はいつでも買えた」というのが有利誤認なわけです。

そうすると、メーカーとしては、「今しか買えない」という表示をするなら、今しか買えないようにしておく必要があります(そうしないと、有利誤認表示になります)。

では具体的にどうすればいいかというと、やはり、小売業者が期限後は販売しない(返品してもらう)ようにする必要があります。

上記ガイドラインとの関係では、あくまで不当表示行為は商品の引渡しだけれど、期限後は販売されないように契約なりで手当てをしておかなければ、すでに引渡しの時点で有利誤認表示をしていることになるのだ、ということです。

厳しい(そしておそらく論理的には正しい)見方をすれば、期限後には販売されないような手当をしておかないと、仮に期限内に完売しても、やはり有利誤認表示にあたる、ということなのではないかと思います。

もし期限内に売り切れても、それは結果オーライだっただけで、さかのぼって不当表示でなかったことになるわけではないように思われます。

さらに厳しいことを言えば、表示行為(商品の引渡し)時点で返品などのとりきめを小売業者としておかないかぎり、事後的に回収しても、やっぱり、引渡し時点での不当表示行為が適正な表示行為になるわけではないのではないかと思います。広い意味でいえば、事後的な回収も結果オーライの一種に過ぎないわけです。

事前にそういう取り決めをしていたにもかかわらず、小売業者が取り決めに違反して返品せず、期限後も販売を続けてしまった、という場合はどうでしょう。

過失がなくても措置命令は出る、という景表法の建前に忠実にしたがうなら、小売業者が契約違反をしても(=メーカーに過失がなくても)結果的に不当表示になってしまったなら、それはメーカーの責任である(措置命令が出る)、ということになりそうです。

ふつうであれば期限後まで売れ残ることはとうていありえないというような商品ないしは期限の設定なのであれば、小売業者との明示的な取り決めがなくても、全体的・規範的に評価して、不当表示ではない、ということも可能かもしれません。

そういう意味で、小売業者との取り決めが不当表示を避けるために必須の要件だということはないのかもしれません。

しかし、現に売れ残ってしまったという事実がある場合にはとりわけ、売れ残りの可能性が表示行為(商品引渡し行為)のときからあった、と認定される可能性が高いのではないかと思われます。

表示が事実と異なることになるのかどうかが将来の事実にかかっているようにみえる場合でも表示の時点で不当表示性を判断すべきことをうかがわせるものとして、価格表示ガイドラインの将来価格を比較対照価格にする二重価格表示に関する記述があります。

すなわち、同ガイドライン第4の2(1)イでは、

「販売当初の段階における需要喚起等を目的に、将来の時点における販売価格を比較対照価格とする二重価格表示が行われることがある。

このような二重価格表示については、表示された将来の販売価格が十分な根拠のあるものでないとき(実際に販売することのない価格であるときや、ごく短期間のみ当該価格で販売するにすぎないときなど)には、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。」

とされており、表示の時点で「十分な根拠」があるかどうかが問題にされており、結果的に比較対照価格とされた価格で販売すれば表示の時点でどうであれ問題ないという立場はとられていないように思われます。

以上のケースと似ているけれど違う例として、表示が事後的に事実と異なってしまうことがあります。

たとえば「業界唯一の〇〇」と謳っていたのに、同じ性能の商品が事後的に出てきたような場合です。

この場合は、表示行為(商品の引渡し)の時点では「業界唯一」だったことは事実であり、その後もずっと業界唯一であることを保証した表示とはみられないでしょうから、事後的に事実と異なってしまっても、さかのぼって不当表示だといわれることはないのだろうと思います。

これに対して、「期間限定」の例は、事後的に事実と異なってしまったのではなく、(返品の取り決めをしてくなどしないかぎり)表示の時点で事実と異なる(ただ、事実と異なる事態が顕在化するのは期限経過後にすぎない)ということなのだろうと思います。

ほかに似たような例としては、客寄せの目玉商品を販売したら、思いのほか反響が大きくてぜんぜん在庫がまにあわず、結果的におとり販売になってしまった、という場合もあります。

この場合に、結果的に反響が小さくて在庫が足りても、やはりそれは結果オーライに過ぎないのであって、厳密には(論理的には)おとり販売になりうるのではないかという気がします。

このように、いろいろと複雑な問題が生じることからすると、「期間限定」という商品を販売するときにはくれぐれも注意してやることが必要だということがわかります。

以前相談を受けたそのケースでも、

「『期間限定』のところに、『2015年3月末メーカー出荷分まで』とか記載しておくべきでしたね」

というのが、将来への反省点でした。

2017年7月12日 (水)

東京ガスへの措置命令について

昨日(2017年7月11日)東京ガスとその販売会社2社に対して、不当な二重価格表示(有利誤認表示)で措置命令がでました

ガスコンロなどを販売するにあたり、メーカー(リンナイ、パロマ、ノーリツ)がメーカー希望小売価格を設定していないのに、東京ガスにおいて勝手に「メーカー希望小売価格」を設定し、そこから比べて安くなっているという、不当な二重価格表示をおこなったものです。

この事件、一見するとよくありがちな二重価格表示の事件ですが、課徴金を視野にいれると、なかなか興味深いものがあります。

まず、不当表示の記載がされた媒体が、「東京ガスのガス展2016」というイベントにおける販売のためのチラシだ、ということです。

イベントのチラシだと、CMや新聞広告よりもチェックが甘くなってしまうこともあるかもしれません。こういう表示にも課徴金がかかってくるので、要注意です。

次に、本件では、チラシは直接的には前記イベント(開催期間は平成28年11月3日から6日までの4日間)での販売のためのチラシですが、課徴金の対象になるのはそのイベントで売上に限られるのか、という問題があります。

この問題については、

「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」

の第4の2(10頁)では、

「課徴金対象行為は優良・有利誤認表示をする行為であるから、

「課徴金対象行為に係る商品又は役務」は、優良・有利誤認表示をする行為の対象となった商品又は役務である。

その「商品又は役務」は、課徴金対象行為に係る表示内容や当該行為態様等に応じて個別事案ごとに異なるものであるから、全ての場合を想定して論じることはできないが、

以下、「課徴金対象行為に係る商品又は役務」に関する考え方の例を記載することとする。」

としたうえで、

「(1) 全国(又は特定地域)において供給する商品又は役務であっても、

具体的な表示の内容や実際に優良・有利誤認表示をした地域といった事情から

一部の地域や店舗において供給した当該商品又は役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

との基準をあきらかにし、<想定例>として、

「① 事業者Aが、自ら全国において運営する複数の店舗においてうなぎ加工食品a を一般消費者に販売しているところ、

平成30 年4月1日から同年11 月30 日までの間、

北海道内で配布した「北海道版」と明記したチラシにおいて、

当該うなぎ加工食品について「国産うなぎ」等と記載することにより、

あたかも、当該うなぎ加工食品に国産うなぎを使用しているかのように示す表示をしていたものの、

実際には、同期間を通じ、外国産のうなぎを使用していた事案」

「事業者Aの課徴金対象行為に係る商品は、

事業者Aが北海道内の店舗において販売する当該うなぎ加工食品となる。」

という例があげられています。

ここではあきらかに、チラシに「北海道版」と明記されていたことが重視されています。

上の(1)の一般論で、「具体的な表示の内容」を具体化したものです。

次の具体例では、

「② 事業者Bが、自ら東京都内で運営する10 店舗において振り袖bを一般消費者に販売しているところ、

平成30 年9月1日から同年11 月30 日までの間、

東京都内で配布したチラシにおいて、

当該振り袖について「○○店、××店、△△店限定セール実施!通常価格50 万円がセール価格20 万円!」(○○店、××店、△△店は東京都内にある店舗)等と記載することにより、

あたかも、実売価格が「通常価格」と記載した価格に比して安いかのように表示をしていたものの、

実際には、「通常価格」と記載した価格は、事業者Bが任意に設定した架空の価格であって、○○店、××店、△△店において販売された実績のないものであった事案」

「事業者Bの課徴金対象行為に係る商品は、

事業者Bが東京都内の○○店、××店、△△店において販売する当該振り袖となる。」

という例があげられています。

ここでは、

○○店、××店、△△店限定セール実施!」

と限定されていたことが重視されています。

これは、20万円で買えるという取引条件が適用されるのがこの3店舗だけだったので、課徴金対象売上もその3店舗での売り上げとなるのは、わかりやすいですね。

そこで、本件での東京ガスのチラシをみると、

「ガス展特価」

と明記されているので、ガス展で販売された売上にだけ、課徴金がかかる、ということになりそうです。

もし「ガス展特価」と書いていなかったら、全国での売上に課徴金がかかった可能性もあるので、結果オーライというか、わずかな違いで大きな差になった可能性があります。

(ただ、報道によれば、本件では、対象商品は東京ガスのプライベートブランドで、ふだんはメーカー名も出していなかった、ということのようなので、そのような場合に、メーカー名を出して売っている商品(ナショナルブランド的な売り方をしている商品)と、プライベートブランドで売っている商品が、物理的には同じ商品だけれど景表法法上は同じ商品なのかどうか、という論点も出てきそうです。(本件では前述のように課徴金の対象はガス展での売上に限られそうなので、この論点は顕在化しませんが。))

二重価格表示の問題については、当該チラシで、

「ノーリツ プログレ メーカー希望小売価格320,220円(税込)のところ、195,800円(税込・工事費別)」

と書いてあれば、当該イベントで195,800円で買えるということもさりながら、メーカー希望小売価格は32万円以上もするんだ、という誤認も生じうるので、別の機会に25万円で販売している場合ですら、7万円も得した、という誤認を生じる可能性があるわけですが、このような点をガイドラインが事前に明らかにしていたことは、卓見というほかありません。

というわけで、本件では仮に課徴金がかかるといても当該イベントでの売り上げに限られるということになりそうですが、それでもあえて指摘すれば、比較的短期間の不当表示でも課徴金がかかりうるという点には注意が必要です。

つまり本件では、チラシの配布期間(不当表示行為期間)が、新聞折り込みで1日だけとか、手配りでも約20日間くらいとか、比較的短期間です。

しかしながら、課徴金の対象となる売上の期間は、不当表示の期間だけではなく、原則として(誤認解消措置をとらないかぎり)その後6か月間継続するので、たとえば1日だけの広告でも、最大6か月の売上には課徴金がかかることを覚悟しないといけません。

というわけで、課徴金が導入されると、いかに細かい表示にまで気を配らなければならないか、ということを実感させてくれる事件だったと思います。

2017年7月11日 (火)

三菱と日産の軽自動車への課徴金について

三菱自動車の燃費偽装事件については、今年(2017年)の1月27日に、

普通車・軽自動車を対象に、三菱に措置命令

軽自動車を対象に、日産に措置命令

普通車を対象に、三菱に課徴金納付命令

がなされましたが、残っていた、軽自動車についての両社への課徴金納付命令が6月14日に出ました

そこで、同命令について気が付いたことを書き留めておきます。

■誤認解消措置について

命令では、両社とも、平成28(2016)年7月1日に誤認解消措置をとったと認定されています。

ただ両社とも、課徴金対象行為をやめたあと誤認解消措置までの間に違反対象商品を販売していないので、結果的に、誤認解消措置は課徴金額には影響していません。

■自主申告について

今回は、両社とも、違反を消費者庁に自主申告し、それが調査開始の通知前であったことから、課徴金の額が半額になっています。

ただ今回の命令では、三菱について、

「三菱自動車工業は、景品表示法第9条の規定により、前記1の課徴金対象行為に該当する事実を、景品表示法施行規則第9条に定めるところにより消費者庁長官に報告したところ、当該報告は当該課徴金対象行為についての調査があったことにより当該課徴金対象行為について課徴金納付命令があるべきことを予知してされたものではない。」

日産について、

「日産自動車は、景品表示法第9条の規定により、前記1の課徴金対象行為に該当する事実を、景品表示法施行規則第9条に定めるところにより消費者庁長官に報告したところ、当該報告は当該課徴金対象行為についての調査があったことにより当該課徴金対象行為について課徴金納付命令があるべきことを予知してされたものではない。」

とだけ認定されているだけで、具体的な申告日や調査開始の通知日は明らかにされていません。

前回の三菱の普通車についての課徴金納付命令(平成29(2017)年1月27日)では、

「三菱自動車工業は、景品表示法第9条の規定により、前記1の課徴金対象行為に該当する事実を、不当景品類及び不当表示防止法施行規則第9条に定めるところにより消費者庁長官に報告した。

三菱自動車工業が当該報告をしたのは、消費者庁が三菱自動車工業に対して前記1の課徴金対象行為についての調査の開始を通知したときである平成28年5月27日又は同年8月31日午前より後である同日午後であった

よって、当該報告は、当該課徴金対象行為についての調査があったことにより当該課徴金対象行為について課徴金納付命令があるべきことを予知してされたものである。」

と、調査開始の通知日と自主申告の日を具体的にあきらかにしていたのとは対照的です。

これはきっと、前回は自主申告による減額を認めないという不利益をあたえるので具体的な日付まで明らかにいていたところ、今回は減額をみとめるという利益をあたえるのだから細かい日付までは書かなくてよい、という判断なのでしょう。

■日産の過失について

日産の過失について、命令では、

「日産自動車は、三菱自動車工業株式会社と共同して実施した燃料消費率に係る検証において本件6商品の各商品の燃費性能の根拠となる情報を十分に確認することなく前記1の課徴金対象行為をしていたことから、それぞれ、当該課徴金対象行為をした期間を通じて当該課徴金対象行為に係る表示が景品表示法第8条第1項第1号に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないとは認められない。」

と認定されています。

報じられているところによると、

2015年11月には日産が届出値と実測値に大きな差があることに気づき、

2016年2月から両社で調査を開始した、

ということのようなので、ここでの「共同して実施した」検証というのは、おそらく2016年2月以降に共同で実施した調査のことではないかとうかがわれます。

今回の件は、基本的には三菱の開発や試験に問題があり、日産はだまされたというのが大方の見立てだと思いますが、 日経電子版6月14日の記事では、

「不正をもっと早く知り得たのではないかという消費者庁の見解は不当。必要な対抗措置を講じる」

という日産のコメントが出ています。

課徴金納付命令によれば対象商品は2016年4月20日まで販売されているので、消費者庁は、「日産はもっと早くわかっていて、もっと早く課徴金対象行為をやめられただろう」、という認定であることがわかります。

これに対して日産のコメントは、「わかってから速やかにやめて4月20日になったんだ」ということなのでしょう。

ちなみに三菱の過失についは、

「三菱自動車工業は、本件8商品の各商品の燃費性能について改ざん等の行為を行い、また、当該行為の防止等を図るための管理監督を十分に行っていない。

三菱自動車工業は、かかる状況の下、前記1の課徴金対象行為をしていたことから、それぞれ、当該課徴金対象行為をした期間を通じて当該課徴金対象行為に係る表示が景品表示法第8条第1項第1号に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないとは認められない。」

というように、自らが改ざん等を行った、という、よりストレートな認定になっています。

2017年7月10日 (月)

プライベートブランドの「製造元」は不当表示の主体になるか?

最近よくコンビニのプライベートブランドというのを見かけます。

各コンビニの名前を冠した、

「〇〇コレクション」

「〇〇セレクト」

「〇〇プレミアム」

といったお菓子やパンのシリーズの、あれです。

そういうプライベートブランド商品のラベルをみると、だいたい「製造元」として、世の中でいわゆるメーカーとして名前の通っている有名企業が表示されていたりします。

こういう、「製造元」が不当表示について景表法上の責任を負うことがあるのか、というのは、なかなか難しい問題です。

条文上は、

「自己の供給する商品又は役務の取引」(景表法5条柱書)

とは何か、という解釈論であり、少し形を変えてやわらかくいうと、

自己の商品役務として供給していたのは誰か、

という問題であり(たとえば、白石忠志「景品表示法の構造と要点」NBL1059号(2015年10月1日)58頁)、思いっきりやわらかくいうと、

誰のフンドシで相撲を取っていたのか、

という問題だ、と整理できます。(以下、便宜的に、「フンドシ問題」といいます。)

この問題について、参考になりそうな文献として、大元編著『景品表示法(第5版)』(緑本)p63では、

「イ メーカー、製造元、卸売業者の表示主体性」

というタイトルのもとに、

「小売業者が一般消費者に示した表示の内容に関与している場合は、メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者も表示主体となる。」

と説明されています。

一瞬、主語がはしょられているようでわかりにくいかもしれませんが、重複をいとわず主語を補うと、

「〔メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者が、〕小売業者が一般消費者に示した表示の内容に関与している場合は、メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者も表示主体となる。」

ということです。

そして同書ではさらに続けて、

「例えば、〔ベイクルーズ事件〕では、

小売業者〔ベイクルーズ〕に対して、製造元からの情報に基づいて当該ズボンの原産国がイタリアであると説明し、小売業者の指示に従って、イタリア製であることを示すタッグを作成して商品に付して納品していた輸入卸売業者〔八木通商〕も

表示主体として、小売業者と連名で排除命令の名あて人となっている」

とされています。

これも、主語の重複をいとわず主語を頭にもってくると、

「例えば、〔ベイクルーズ事件〕では、

八木通商は、小売業者〔ベイクルーズ〕に対して、製造元からの情報に基づいて当該ズボンの原産国がイタリアであると説明し、小売業者の指示に従って、イタリア製であることを示すタッグを作成して商品に付して納品していたが、

八木通商も、表示主体として、小売業者と連名で排除命令の名あて人となっている」

ということになります。

この具体例からわかるように、上記で引用した、

「〔メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者が、〕小売業者が一般消費者に示した表示の内容に関与している場合は、メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者も表示主体となる。」

という記述が念頭においているのは、通常の、

メーカー→卸→小売

というルートでの不当表示の話なんだなあ、ということが理解できます。

つまり、今回のテーマである、「誰のフンドシで相撲を取っているのか」という問題意識は、どうも、緑本のこの部分では希薄なようです。

とすると、同書でそのあとに続く、

「このほか、製造元と販売元がともに表示主体とされて措置命令・・・の名あて人となっている事例は多数存在する。」

という記述も、「製造元」も、「販売元」も、それぞれ自分のフンドシで相撲を取っていることは当然の前提になっていて、ラベルの欄に「製造元」とか「販売元」と記載されている(場合によっては、記載されているだけの)事業者については、あまり想定していないように思われます。

少なくとも、他人のフンドシで相撲は取っていたけど表示の作成には関与していた、というような事業者が名あて人となった事例が「多数存在する」ということはありませんし、わたしの知るかぎり1つもありません。

実はこの「フンドシ問題」については、緑本p65に、

「エ その他の留意点」

というタイトルで、もう少し関係する記述があって、その中では、

「表示上、製造元、輸入元、発売元として名称が記載されているかどうか・・・は、

各事業者の関係を判断する材料を提供するものではあり得ても、

記載の有無・・・に従って表示者が誰であるかが判断されるわけではない。」

と説明されています。

(ところでこの部分、主語と述語がかみ合ってませんね・・・。)

ここから、

「製造元」と記載されているからといって、(表示に関与していても)違反者となるわけではないし、

「製造元」と記載されていなくても、(表示に関与していれば)違反者となることがある、

ということまでは読み取れます。

ですがこの部分もやはり、

「自己の供給する商品又は役務の取引」(景表法5条柱書)にあたるのか、

=自己の商品役務として供給していたのは誰か、

=自分のフンドシで相撲を取っていたのは誰か、

という問題に対する答えは出てきません。

なので、どのような場合に、「自己の商品役務として供給していた」(=自分のフンドシで相撲を取っていた)ことになるのかは、「自己の供給する」という文言の解釈をつうじてあきらかにするほかなさそうです。

ここで、先に引用した白石先生の論文では、

A→B→C

という商流を念頭に、

「一般化すれば、BがC〔消費者〕に供給する商品役務(5条各号で一般消費者による誤認が問題となる商品役務)と、AがBに供給する商品役務とが、同じものであることが必要となる。」

と論じられています。

(そのあとに、経済的にはまったく同じということはありえないけれど景表法ではあまり厳格には考えられていない、という説明が続きますが、ここでの議論には直接関係ないので割愛します。)

でもこれを杓子定規にコンビニのプライベートブランドにあてはめて、

メーカー(「製造元」)→コンビニ→消費者

(厳密には、間に卸が入るとか、消費者に売るのはフランチャイジーであって本部ではないとか、いろいろありますが、割愛します。)

と考えると、プライベートブランドは物理的にはメーカーが作った商品そのものなので、同じものということになってしまい、プライベートブランドのメーカー(製造元)も表示に関与していたら責任を負うことになるのではないか?という疑問が沸きそうです。

しかし私は、たんに商流に乗っている、あるいは、消費者に供給するのと物理的に同じ商品を供給している、というだけで「自己の商品役務として供給していた」(=自分のフンドシで相撲を取った)というのは広すぎて、もっと絞るべきなんじゃかいかと思います。

たとえばプライベートブランドの場合、誰のフンドシかといえばコンビニのフンドシなので、メーカー(製造元)は、「自己の商品役務として供給していた」にはあたらない、と考えます。

ほかには、電化製品のOEMやODMの製造受託者も、「自己の商品役務として供給していた」にはあたらないと思います。

少なくとも、白石先生の前記論文で整理されている公取や消費者庁の過去の事例をみるかぎり、プライベートブランドの製造元が責任を負いそうな気配を感じるものはないように、私の目にはみえます。

OEMなら、委託者(ブランド保有者)が仕様を指示して受託者に作らせるので、優良誤認表示があっても、(受託者が表示に関与していても)委託者だけに責任を負わせるのが筋がよいように思います。

プライベートブランドも、基本的には、コンビニ側が表示と商品に責任を持って売るべきなんであって、そうでなければナショナルブランドとかわらなくなってしまいます。

それなのに、プライベートブランドで製造元も企画会議で表示について意見を述べたとか、表示について最終了承したというだけで、製造元にも責任がおよぶとしたら、ちょっと広すぎると思います。

やや微妙なのは、製造受託者側が設計もするODMの場合ですね。

それでもやはり、ODMの場合も消費者に責任を負っているのは、不当表示の文脈では、販売者(製造委託者)ではないでしょうか。

最終的には個別の判断になるのでしょうけれど、「自己の商品」という文言は、重くとらえるべきだと思います。

・・・と、書いたところであるコンビニに入ったら、プライベートブランドでもメーカー名がかなり大きく堂々と書いてあって、ナショナルブランドなのかプライベートブランドなのかよくわからない、その中間くらいのがありました。

こういうのだと、プライベートブランドの「製造元」だから責任を負わないとも言い切れないような気がします。

結局、この手の問題はケースバイケースで考えるほかないように思います。

2017年7月 7日 (金)

トイザらス事件の残したもの

横田直和「日本トイザらスによる優越的地位の濫用事件審決について-「正常な商慣習に照らして不当な行為」の認定を中心に-」関西大学法学論集66巻3号(2016・9)189頁

という論文に、この事件が関係者の取引におよぼした影響をうかがわせる興味深い記述があります。

ちょっと長いですが、p218の注38を以下に引用します。

「本件の審判において、王子ネピアの参考人は、公取委の調査開始後にトイザらスからの返品や減額の要請はなくなったものの、当初の取引価格の交渉が非常に厳しいものとなり、トイザらスから提示のあった低い価格を受け入れざるを得ないため、実際に売れ残り品が生じてから減額の交渉を行っていた従前のほうが、透明感があって好ましかった旨を述べている(公正取引情報2396号3頁)。

ちなみに、王子ネピアの納入商品は紙オムツ等であって、同社ではトイザらスの店頭における販売状況を踏まえ多頻度の配送を行っているはずであるが、減額が問題となるのは最後の配送商品のみであるので、従前の取扱いではそれ以前の配送商品に係る取引条件には関係がないものであった。

しかし、現在では、新規商品の取扱い時や毎年の取引交渉時において、すべての配送時の商品に係る取引条件が売れ残りリスクをトイザらスが負担する形で決定されているため、王子ネピアにとっては、公取委の調査開始により取引条件が悪化したことになっていると考えられる。」

(ちなみに上記引用部分で王子ネピアとされているのは公開版の審決書では「I」とされている企業です。

同論文は公正取引情報などから丹念に情報を収集して審決書では伏字にされている当事者名や商品名を明らかにしており、それだけでも非常に価値があります。

同論文によると、その他の当事者で具体名が判明しているのは、

G→ユニ・チャーム

K→ピジョン

J→テンヨー(玩具問屋)

B→NRS(エポック社の子会社)

A→カワダ

です。商品名についても、たとえばピジョンの哺乳瓶やユニ・チャームの「ムーニー」、王子ネピアの「GENKI」など、一部補充されています。

ついでに、ネット情報により推測できたものとしては、審決書p43の「新商品」というのは、その発売日(平成22年3月13日)から、「シルバニアファミリーあかりの灯る大きな家」というおもちゃではないか、と推測されます。)

上記引用部分は、本件審決の不当性を裏付ける、非常に重要な指摘だと思います。

つまり、取引当事者間でリスクに対する耐性に差がある場合には、リスク回避的な当事者(本件ではトイザらス)からリスク選好的な当事者(納入業者)にリスクを移転するのが効率的だという経済理論を、上記引用部分が裏付けているように思われるのです。

一般的に、小売店はメーカーに比べてリスク回避的です。

その理由は、小売マージンのほうがメーカーのマージンよりも小さい、ということもあるでしょうし、メーカーは多数の商品から1つでも大ヒットすれば他の損失は回収できるけど、小売店はそのような収益構造になっていない、ということもあるでしょう。

リスクを取りたがらない小売店に対して、とくに新規参入メーカーなどが売れ残りの買取りを約束するなどして、在庫リスクを引き受けることはよくあることかと思われます。

そういうリスクの移転ができないと、小売店は、確実に売れる商品以外は売りたがらないわけです。

本件での返品も、トイザらスから納入業者への合理的なリスクの移転であった可能性が理論的には従来から指摘できましたが、上記引用部分は、それを当事者の証言として裏付けている、といえそうです。

要するに、リスクをきらう小売店が事後的な返品によってリスクの移転をすることを禁じられると何が起こるかというと、小売店は少ない在庫しか置かない、あるいは、購入価格を下げる、という形によって、できるだけ事前のリスク移転(事前の手段による事後的な損失の回避)をしようとするわけです。

そのため、理論的には、小売店の在庫が過小になり、売れ行きがよかったケースにおいて欠品が生じることになります。

欠品は小売店にとって、(欠品がなければもっと利益をあげられたという意味で)不利益ですが、リスクを嫌う小売店にとっては、売れなかったときの在庫リスクのほうがこわいので、それでもかまわないわけです。

このように、公取委の調査(あるいは本件審決)が、当事者間の効率的な取引慣行をさまたげることになってしまった可能性が大いにあります。

だいたい、本件審決の認定は非常におおざっぱで、取引の実態に即した判断をまったくしていません。

取引依存度が0.5%でも優越的地位が肯定されるなど、取引依存度がほとんど意味を持たないので、実際には、どちらが減額・返品を申し出たかだけで濫用かどうかを判断している(納入業者が申し出たものは濫用ではない)ような様相を呈しています。

こういう、きわめておおざっぱな認定になったのも、課徴金納付命令に対する審判なのでたくさんの取引先についてのたくさんの証拠(参考人含む)を取り調べなければならなかったために、これくらいおおざっぱな認定にしないと審決を書けないと審判官が思ったためではないか、と想像されます。

もし一対一の民事訴訟で濫用行為や優越的地位が争われたら、裁判所はこれほど大雑把な認定はしないのではないかと思います。

しかも審決を読むと分かりますが、審決の認定は各取引相手方について、細かい事実関係は異なるものの、大筋では全く同じ認定をしており、悪く言えばコピペのオンパレードです。

それぞれの取引先の実情について具体的に認定しているのは、唯一、どちらが申し出たか、という一点についてのみです。

取引依存度も、なんだかんだ言って、結論先にありきのこじつけとしか思えないような、コピペ満載のおおざっぱな認定になっています。

いろんなところでいろんな人が言っていることですが、優越的地位の濫用は課徴金導入後の最初の5件の正式事件について課徴金納付命令がなされ、すべてについて審判で争われています。

公取はそれに懲りたのか、その後、優越的地位の濫用は正式事件がぱったりとなくなり、平成26年6月5日に課徴金納付命令がなされたダイレックス事件を最後に3年以上も正式事件がなく、代わりに、優越定期地位濫用事件タスクフォースによる注意が急増しています(このことは、拙稿「裁量型課徴金制度と確約制度に関する独禁法改正について」法律時報1107巻でも指摘しました)。

ともあれ、こんなおおざっぱな認定で優越的地位の濫用が認定されるルールが結果として残ってしまったことは、きわめて不幸なことです。

公取は、自分が取り上げる価値が思う事件だけを取り上げればいいので、結論としてはそんなに不当なことにはならないのかもしれませんが(それでも私は、トイザらス事件の結論の相当部分は不当だと思っていますし、立法論としては優越的地位の濫用なんて廃止すべきだと思っています)、実務では、この審決で示された公取の判断枠組みが公式なルールになる可能性があります。

これは非常に不幸なことです。

しかもそのルールというのが、きわめて単純化すれば、

そこそこ大きい小売業者(優越事業者)が自分から減額・返品を求めれば、(相手方の取引依存度にかかわらず)濫用になる

ということです。

これを文字どおり適用すると、いかにおそろしいことになるか、少し考えてみればわかることです。

(ということは、本件審決のルールをまに受けている事業者がそんなに多くはない、ということかもしれません。)

また、裏を返せば、

相手方から申し出させれば濫用にならない、

ということなので、これはこれで問題です。

濫用行為は取引の実態に即して認定しなければならないのは当然ですが、それを公取に、紋切型の、「正常な商慣習は現にある商慣習ではない」という理屈で、独断と偏見で濫用行為を認定されたのでは、たまったものではありません。

何が濫用にあたるのか(経済合理性がない行為か)は、そもそもビジネスを知らない公取が判断できるのかについてすら大いに疑問のありうるところであり、その点をゆずって仮に判断できるとしても、その判断のためには公取は一生懸命取引の実態を謙虚に学ばなければならないはずです。

そしてその際に、その行為に経済合理性があるのかどうかという理論的バックボーンは不可欠なはずです。

本件審決はとうていそのような要求水準を満たしているとはいえません。

そういった、モヤモヤした気持ちがずっとあったのですが、上記横田論文は、上記引用部分以外にも、取引の実態に即した評価をさまざまなリソース(日経新聞の「私の履歴書」も含め!)に基づいて丁寧に行っており、非常に説得力があるとともに、わたしなどは胸のつかえがとれて、とてもすっきりしました。

やはり、(経済学者だけでなく)法律家こそ、ガイドラインの重箱の隅をつつくような議論ばかりではなく、このような、地に足の着いた(具体的事実に基づいた)議論をしなければなりません。

※この論文は横田先生ご自身から抜き刷りを頂戴しました。ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。なお、インターネットでも手に入ります

2017年6月30日 (金)

実際と異なるけれど景表法違反にならない表示

景表法は、実際と異なる表示をした場合に違反になる(事実をありのままに表示しているかぎり違反にはならない)のですが、実際と異なるすべての表示が景表法違反になるわけではありません。

不当表示は、表示と実際が異なるだけでなく、

「実際のものよりも著しく優良」(優良誤認表示の場合。景表法5条1号)

である場合に初めて成立するからです。

なので、顧客の誘引とはまったく関係ないような、いわば誤記のたぐいは、景表法違反にはなりません。

たとえば、あるシリーズのお菓子について、「アルミ包装」と表示していたところ、同じシリーズの特別企画の商品についても同じ「アルミ包装」という表示していたのに、生産の都合で紙包装になった、というような場合、アルミ包装か紙包装かで消費者の選択にちがいが生じるとはいえないような場合(より正確には、アルミ包装のほうを紙包装よりも著しく優良だと消費者がとらえないような場合)であれば、それはたんなる誤記であって、景表法違反にはなりません。

ほかには、たとえば、ほんとうはMサイズの服なのに、まちがって「Lサイズ」というシールを貼ってしまったというのも、不当表示にはならないでしょう。

そういう誤記をすると、Lサイズがほしい人は誘引されてしまう(誤記がなければ買わないのに誤記のために買ってしまう)のかもしれませんが、消費者一般が誘引されるわけではない(Mサイズのひとは、誤記のためにむしろ買わなくなってしまう)からです。

ほかには、たとえばほんとうは6月30日が賞味期限の牛乳に、まちがって賞味期限を短めに「6月29日」と表示してしまうのも、不当表示にはならないでしょう。

賞味期限が短いとむしろ消費者はその商品を敬遠するので、「優良」と誤認させていることにはならない(むしろ劣悪と誤認させている?)からです。

もちろん、どんなささいな誤記でも放置しておくのは商売として望ましくないので、すみやかに訂正すべきですが、それと景表法違反とはまた別の話です。

顧客の誘引とは関係のない誤記というのも、世の中には案外多いのかもしれません。

そのような場合に、

「消費者庁から措置命令を受けて新聞沙汰になるかも」

とか、

「課徴金を命じられるかも」

といった心配をする必要はない、ということです。

2017年6月 9日 (金)

日本でのハブアンドスポーク型カルテルの事例?

日本でハブアンドスポーク型のカルテルが処分を受けた事例として郵便区分機談合事件があげられることが時々あります。

でも私は、郵便区分機事件はハブアンドスポーク型のカルテルではないと思います。

たとえば、

池田毅「直接の連絡によらない『非典型カルテル』の近時の発展と求められる競争法コンプライアンス-ハブ・アンド・スポーク(hub-and-spoke)とシグナリング(signaling)を中心に」(NBL1039号36ページ)

という論文では、郵便区分機事件について、

「同事件では、郵便区分機を供給していた2社〔東芝と日本電気〕が郵政省の調達事務担当者の内示に従って入札を行っており、2社が直接に相互の連絡を行わなくても受注調整を行うことが可能となっており、調達事務担当者をハブとしたハブ・アンド・スポークと評価できる事案である。」

と説明されています(44頁)。

しかし同論文によるハブ・アンド・スポーク型カルテルの定義は、

「事業者が直接競争者にコンタクトするのではなく、何らかの仲介者(ハブ)を介して価格情報等をやりとりすることによってカルテルを行うことをいう。」

というものです。

つまり、情報を「やりとり」する主語は、あくまで、カルテル参加者である(複数の)事業者です。

この定義に従えば、郵便区分機事件でいえば、

①東芝が、(郵政省を介して)日本電気に「価格情報等」(受注意向?)を伝え、

②日本電気が、(郵政省を介して)「価格情報等」(受注意向?)を伝える、

という事実がなければならないはずです。

あるいは、

①東芝が、(郵政省を介して)日本電気に「価格情報等」(受注意向?)を伝え、

②日本電気が、(郵政省を介して)東芝に、①を了承する旨を伝えた、

(その反対の、日本電気→東芝、も同様)

という事実関係がなければならないはずです。

しかし、このような何らかの「価格情報等」が東芝と日本電気との間でやりとりされたという事実が審決書からは出てきません。

むしろこの事件では、

「番号区分機の開発に当たり、被審人東芝は、機器をコンパクトにする短手一貫方式というコンセプトに立つと、郵便物の供給、搬送及び集積の一連の工程が左側から右側に流れていく右流れ型が最もシンプルであったことから、右流れ型を採用し、その後同社の区分機類は、基本的に右流れ型として開発されることになった。

他方、被審人日本電気は、ドイツのSEL社からの技術導入という経緯から、上記工程が右側から左側に流れていく左流れ型の番号区分機を開発し、その後同社の区分機類は、基本的に左流れ型として開発されることになった。」(審決書8頁)

という歴史的な経緯から、東芝が右流れ型、日本電気が左流れ型を採用したことがあとあとまで影響して暗黙の合意が成立したという要素が強いようです。

少なくとも、両社が郵政省を介して受注意向を伝えあっていた、というような事実はありません(そんなことしなくても暗黙の合意が成立していた)。

もちろん、東芝と日本電気が、「東芝は右流れ、日本電気は左流れにする」という情報を、郵政省を介して伝え合った、という事実もありません。

むしろ事案をよく見ていくと、

「被審人2社は、郵政省から読取率の目標値案の提出及び新型区分機等の見込価格の提出を求められたことを受けて、平成6年4月26日、打合せを行い、これらのことについて検討を行った。」(審決書84頁)

というような事実があり、直接の情報交換に近いことまでやっています。

(ただ、違反として認定されたのはあくまで右流れと左流れですみ分けるという合意なので、見込価格の協議をしたことは、かかるすみわけの合意とは直接は関係しないともいえそうですが。)

それに、そもそもこの事件をハブアンドスポークというなら、すべての官製談合がハブアンドスポークになってしまい、日本ではハブアンドスポークの事例は五万とある、ということになってしまわないでしょうか?

こういう食い違いが出てくるのは、同論文が、郵便区分機事件を、

「2社が直接に相互の連絡を行わなくても受注調整を行うことが可能となって」

いたというだけで、ハブ・アンド・スポークと評価したためです。

つまり、

直接に相互の連絡を行わなくても受注調整を行うことが可能

な場合の中には、

「直接に相互の連絡を行わなくても、仲介者を介して情報交換をすることで受注調整をする場合」

と、

「直接に相互の連絡を行わず、かつ、仲介者を介する情報交換なく、受注調整をする(できてしまう)場合」

というのがあるはずであり、定義上は、前者だけがハブアンドスポークのはずですが、後者に該当する(官製談合はすべて後者)にすぎないのに、ハブアンドスポークだ、といってしまっている、というのがこのような食い違いが生じた原因だと思います。

なので残念ながら、郵便区分機事件をいくら丹念に読んでも、ハブアンドスポークカルテルについて留意すべき教訓を導き出すことはできません。

いちおう、上では、「ハブ・アンド・スポーク」の定義らしきものを出発点に議論を進めましたが、やはり、定義のはっきりしない目新しい言葉を使って分析するときには、慎重にやらないと物事の本質を見失っていたずらに議論が混乱するし、場合によっては、その概念を導入することで何らかの有益な示唆が得られるのかどうかというところからよく考えないといけない、ということなんだろうと思います。

2017年6月 5日 (月)

独禁法のセカンドオピニオン

仕事柄独禁法の問題についてセカンドオピニオンを求められることが時々あるのですが、ある法律実務雑誌の匿名座談会で企業の法務部の方が、「セカンドオピニオンを取ると、元の弁護士の機嫌を損ねそうで気を遣う」という発言をされているのをみて、びっくりしました。

法務部のみなさん、そんなことに気を遣う必要はまったくありません!

少なくとも私は一向に気にしません。

というより、セカンドオピニオンを出す側としての経験からすると、独禁法に関しては、本当にひどい(独禁法の基本を全く理解していない)意見を述べる弁護士が相当いるように思われます。

以前あった事例では、ある排他条件付取引についての意見書でしたが、たった1社との排他条件付取引で、市場に占める取引高からすれば、その取引先は市場全体の0.1%にも遠く及ばないものであったのにもかかわらず、「1年間ならいいけれど、3年間なら違法の可能性が高い」というような意見を見かけました。

排他条件付取引は流通取引慣行ガイドライン第1部第4の2に規定があって、

「市場における有力な事業者(注7)が、

・・・取引先事業者に対し自己・・・の競争者と取引しないよう拘束する条件を付けて取引する行為(注8)・・・を行い、

これによって競争者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがある場合には(注9)

当該行為は不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定2項(その他の取引拒絶)、11項(排他条件付取引)又は12項(拘束条件付取引))(注10)。」

とされています。

そして、

「他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがある場合には(注9)」

の意味については、(注9)で、

「(注9) 「競争者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがある場合」に当たるかどうかは、次の事項を総合的に考慮して判断することとなる。

[1] 対象商品の市場全体の状況(市場集中度、商品特性、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易性等)

[2] 行為者の市場における地位(シェア、順位、ブランド力等)

[3] 当該行為の相手方の数及び市場における地位

[4] 当該行為が行為の相手方の事業活動に及ぼす影響(行為の程度・態様等)」

と説明されています。

ここで大事なのは、

「[3] 当該行為の相手方の数及び市場における地位

ですね。

つまり、市場における有力な事業者が、多数の取引の相手方と排他条件付取引を行えば競争者の取引の機会が減少するおそれがあるわけですが、購入シェア0.1%にも遠く及ばない取引先1社との間だけで排他条件付取引を結んでも、残り99.1%超の顧客とは自由に取引できるわけですから、競争者が他の取引先を容易に見出すことができなくなるはずがありません。

この部分は流通取引慣行ガイドラインでも比較的はっきり書いてあるところだと思うのですが、基本がわかっていないとこんな重要なところすらも読み飛ばしてしまうのですね。

そのほかには、企業結合の案件で、以前の弁護士に無理と言われたので一度はあきらめた、というケースが2件ありましたが、2件とも私が担当して1次審査でとくに条件もつかず通りました。

いずれの案件も、公取の審査を通った後にはその業界で、「いったいどうやって通したんだ?」とかなり話題になったそうですから、業界でも難しいと思われていたんでしょうね。

でも、べつに私の力で通したわけではなくって、単純に、前の弁護士のアドバイスがよくなかったんだと思います。

こんなことがわりと普通に起きてしまうのが独禁法の世界です。

しかも独禁法の世界では、ビジネスをやっている人の感覚が法律上もけっこう正しいことが多いのです。

それは、独禁法が競争をあつかうものであって、競争の実態は現場の人がいちばんよくわかっていることが多いからです。

なので、ビジネスの感覚からしてどうも違和感があるアドバイスをもらってしまった場合には、「顧問弁護士のいうことだから」といってあきらめず、セカンドオピニオンをとることをおすすめします。

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