『米国反トラスト法実務講座』発刊のお知らせ

このたび、公正取引協会から、

『米国反トラスト法実務講座』

を出版させていただくことになりました。

はじめての単著です!

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以下、その概要です。

【発行日】2017年11月22日(水)

【ページ数】396ページ

【ISBN】978-4-87622-017-5

【価格】本体4,000円+税

もともとが公正取引での「反トラスト法実務講座」という連載をもとにしたものなので、意図としてはまさに講座(レクチャー)であり、実務的な観点から反トラスト法を全体的に学びたいという人むけなのですが、実はわたし自身この原稿を仕事の中で何度も参照したり、それをもとに原稿を加筆したりしてたので、実務の手引きとしても便利なのではないかと思います。

思い返すと、今の自分があるのも、連載をふくめ、この本を書く中でいろいろ調べたり考えたりしたことが大いに役に立っているように感じます。

そういった意味でも、今の自分の集大成のような本になったと思います。

書店で手に取って気に入った方は、ご購入いただけるとうれしいです。

2017年12月10日 (日)

「予想を上回る注文をいただいています」という表示

機能性表示食品について措置命令が出たことで注目された葛の花由来イソフラボンですが、この事件では地味ですがもう一つ重要な判断が示されています(2017年11月7日措置命令)。

違反者の一つのCDグローバルに対する命令で、

「CDグローバルは、本件商品を一般消費者に販売するに当たり・・・

自社ウェブサイトにおいて、

「先日販売を開始しました『葛の花イソフラボン青汁』につきまして、弊社の予想を大きく上回るご注文を頂いており、生産が間に合わない状態が続いております。」

と記載するなど・・・表示することにより、

あたかも、本件商品の販売数量に関する具体的な予想を立て、当該予想販売数量を上回るほどの相当程度多数の注文を受けているかのように示す表示をしていた」

けれど、

「実際には、具体的な数値予想を立てておらず、前記(ア)記載の表示期間中における注文数は僅少であった」

というのが、優良誤認表示とされているのです。

つまり、

「予想を大きく上回るご注文を頂いています」

というような表示をする場合には、具体的な数値予想を立てないとそれだけで不当表示になる、ということです。

これはかなり実務的にインパクトがあるのではないでしょうか。

というのは、こういう広告は、なんとなく「ノリ」で書いていて、まじめに数値目標まで立てていないことのほうが多いように思われるからです。

予想もしてないのに予想を超えたというのは不当表示だと言われればそのとおりなので、反論のしようもないですが、今までは、これくらいの誇張は広告として許される範囲内だと考えていた事業者も多いのではないでしょうか。

こういうのがダメだとなると、

「大変ご好評をいただいています」

というのも、きちんと好評を得ていることの根拠を示せないといけないでしょうし、

「絶賛発売中」

というのも、絶賛されていることの根拠を示せないといけないでしょう。

「ご好評」も「絶賛」も、顧客からの評価だととられる表現だからです。

(まあ「絶賛発売中」くらいは、世の中であまりにありふれているので、措置命令まではいかないんじゃないかという気がしますが。)

これに対して、似ていますが、食品で、

「絶品〇〇」

なんていうのは、事業者が絶品だと自信を持っているという主観的評価ととられる表現なので、「絶品」であることの根拠をしめせとかは、さすがに言われないでしょう。

もちろん、

「予想を超えた」

と、「予想」という言葉を広告で使ったからダメで、そう書かなかったらOKだったというわけではなく、たんに品薄であることを強調するのも、実際に品薄でなかったのなら、不当表示になるのでしょう。

この事件でたんに「予想」という言葉を使ってたのでそれに引っ掛けて命令を出すのが手堅いと思われたから、こういう命令の出し方になったのでしょう。

これを、「言葉尻をとらえて」などと非難しても始まりません。

くれぐれも、言葉尻をとらえられない広告をこころがけましょう。

あとこの命令もそうですが、最近、売上のような調べればすぐわかることについても不実証広告規制を使うことが続いていますね。

不実証広告規制ガイドラインでは商品の性能や効果に関する優良誤認表示だけに同規制が適用されるかのような書きぶりだったので、消費者庁の運用が大きくかわったといえます。

2017年11月27日 (月)

複数の懸賞企画が競合する場合の景品総額

同一の取引について複数の懸賞企画が競合する場合の「懸賞に係る取引の価額」については、懸賞運用基準5(2)が、

「(2) 同一の取引に附随して二以上の懸賞による景品類提供が行われる場合については、次による。

ア 同一の事業者が行う場合は、別々の企画によるときであっても、これらを合算した額の景品類を提供したことになる。

イ 他の事業者と共同して行う場合は、別々の企画によるときであっても、それぞれ、共同した事業者がこれらの額を合算した額の景品類を提供したことになる。

ウ 他の事業者と共同しないで、その懸賞の当選者に対して更に懸賞によつて景品類を追加した場合は、追加した事業者がこれらを合算した額の景品類を提供したことになる。」

と定めています。

しかし、運用基準5項の表題は

「告示2号〔=景品類の最高額の制限〕の『懸賞に係る取引の価額』について」

となっているので、論理的には、景品総額の制限(懸賞告示3号)については何も述べていないことになりそうです。

しかし、ひとまず表題は無視して、5(2)の

「・・・合算した額の景品類を提供したことになる。」

という表現だけを取り出せば、この部分は最高額だけでなく総額についても合算して制限の範囲内でなければならない趣旨だ、と読むことができるように思います。

そして、それが結論としても妥当でしょう。

しょせん、運用基準は運用基準にすぎないので、一部に論理的なもれがあってもとやかくいう必要はない(解釈で補う場合に越えるべきハードルは何もない)のかもしれませんが、法令並みに論理的な美しさを重視するなら、5(2)は、今の5項ではなく、告示3項に関する運用基準7項あたりに置くのがよかったのでしょう。

論理的にきれいに整理されていないと、「総額については合算しなくてもいいのか?」といった疑問がわくかもしれません。

2017年11月26日 (日)

ダイレクトメールでの来店者への景品提供と、緑本の売場を分ける対応について

総付告示運用基準1(3)は、来店者へ景品を提供する場合の取引の価額を原則100円とすると述べたあと、

「〔来店者に景品を提供する〕場合において、

特定の種類の商品又は役務についてダイレクトメールを送り、

それに応じて来店した顧客に対して景品類を提供する等の方法によるため、

景品類提供に係る対象商品をその特定の種類の商品又は役務に限定していると認められるときは

その商品又は役務の価額を「取引の価額」として取り扱う。」

としています。

このことに関して、

大元編著『景品表示法〔第5版〕』(緑本)

の194頁では、懸賞の場合について上記運用基準(懸賞告示運用基準5(1)で準用)を淡々と説明したあと、

「もっとも、例えば、

家具類の展示即売会を行うに当たってダイレクトメールを送り、

来店者に景品類を提供する場合、

一般の売り場と展示会場を区別するなどの配慮をしない限り、

店舗への入店者一般を対象に景品類を提供しているものとして取り扱われる。」

と説明されています。

ですが、わたしにはこの部分が何をいいたいのか、よくわかりません。

説明の便宜上、一般の売り場と展示即売会場が、

①たんに仕切り一枚で仕切られているだけの場合と、

②数百メートル離れている場合

に分けて考えてみましょう(緑本が想定しているのは①なのでしょうけれど)。

そして、一般の売り場では3000円のいすが最低価額の商品で、展示即売会場では10万円のソファーが最低価額の商品だとしましょう。

第1. 仕切り一枚で仕切られている場合

この場合、ダイレクトメールを見てきた人は、最低でも10万円のソファーを見てきているので、懸賞による景品額は10万円まで出してよさそうな気がします。

これに対して、ふらっとその家具屋さんに立ち寄った人は、3000円のいすを買うかもしれないので、懸賞による景品の限度額は3000円の20倍で6万円となりそうです。

どうして売場を仕切るだけで、ふらっと立ち寄った人まで10万円の景品をだしてよいことになるのでしょう??

わたしは、売場を仕切っても、一般客に提供できる景品は6万円だと思います。

第2.数百メートル離れている場合

この場合、ダイレクトメールを見てきた人は、1.とおなじく、10万円までだしてよさそうです。

次に、ふらっと展示即売会場に立ち寄った人も、展示即売会場では10万円のソファーが最低ですから、やはり、10万円まで出してよさそうです。

ふらっと一般の売り場に立ち寄った人は、一般の売り場では懸賞はやってないので、何ももらえません。

・・・と考えると、緑本の

「一般の売り場と展示会場を区別する」

というのは、「第1」のように、同じお店の中を仕切るのでは足りなくて、ダイレクトメールをみてくる人と一般客が混じらないくらいに(=一般の売り場と展示即売会場が別の店舗といえるくらいに)離れていないといけない(第2の場合)、ということになりそうです。

しかし、そこまでしないと使えない例外なんて、実際には使えないと思います。

そんなこと(売場を仕切る)をするより、単純に、ダイレクトメールを持参した人にだけ懸賞への参加資格をあたえればすむ話ではないでしょうか?

緑本の書きぶりでは、下手をすると、ダイレクトメールを持参した人にだけ懸賞への参加資格をあたえたうえで、さらに売場を分けないと、誰に対しても6万円までの景品しか提供できない、とすら読めてしまいます。

売場をわけるとなぜ一般客にも10万円の景品を提供してよいのか、

あるいは、

売場をわけないとなぜダイレクトメールを見てきた客にも6万円の景品しか提供できないのか、

そのあたりのきちんとした理由の説明がないと、結論だけ「こうしなさい」といわれても、よくわかりません。

以前、消費者庁に電話で質問たときに、答えに納得いかなかったので理由を尋ねたところ、

「運用は、そうなってますので」

といわれたことがあります。

ドクターXの大門未知子が、

「私、失敗しないので」

というのは、決めゼリフとしてかっこいいですが、行政庁が、

「運用、そうなってますので」

というのは、あまりかっこうよくないと思います。

それはともかく、もし緑本のこの部分の説明の意味がわかる人がいたら、ぜひ教えてください。

きっと、具体的な質問があって、そのイメージを前提にすると、売場を分けたら解決できそうに思えたんだろうなぁと想像しますが、こういうルールは、いったん事案を抽象化したうえで、どれくらい普遍的になりたつ理屈なのかをよく考えないといけません。

それが法律家の思考というものでしょうし、わたしはどんな場合でも、そのように考えています。

景品規制では、告示であれ運用基準であれ、ホームページのQ&Aであれ、この抽象化というスクリーニングを通していないために、やたらと行き当たりばったりなルールが多いような気がします。

2017年11月20日 (月)

おとり広告告示運用基準の在庫一括管理に関する規定について

おとり広告告示運用基準では、

「高額な耐久財等について全店舗における販売数量が一括管理されており、全店舗における総販売数量に達するまではいずれの店舗においても取引する場合には、その旨の表示がなされていれば足りる〔おとり広告とはみなさない〕(運用基準第2-2(3))

とされています。

しかし、わたしはこれはおとり広告告示の解釈としておかしいと思います。

これにしたがうと、たとえば冷蔵庫などを他の店舗から取り寄せる体制が整っている場合でも、そのような体制をとっているという事実(「その旨」)を明示しなければならないことになってしまいます。

ですが、在庫の一括管理体制をとっている場合に、そのことをいちいち明示しなければ不当表示になるというのは、あきらかに行き過ぎです。

現にそのような体制がとられているのであれば、消費者には何の不利益もないし、社内でどんな体制をとっているかなんて消費者は関心ないし、ある意味営業秘密でもありうるわけですから、知らせる必要もありません。

もし違いがあるとすれば、冷蔵庫をその日のうちに持って帰りたいという顧客もいるじゃないか、ということかもしれませんが、そんな顧客はかなり少数派のはずです。

運用基準があえて、

「高額な耐久財等」

と例示しているのも、その場で自分が持ち帰ることがあまり考えられない、テレビとか冷蔵庫とか家具のようなものを想定しているのでしょう。

それに、「その日のうちに持って帰りたい客が持って帰れない」から、「おとり広告だ」というのは無茶です。

もし広告で「その日のうちにお持ち帰りできます!」と強調していたのに持ち帰れなかった場合には有利誤認表示になるかもしれませんが、それはおとり広告とは別の話です。

と、実質論をいろいろと述べてみましたが、それだけでは法解釈として心もとないので、おとり広告告示の文言をみてみましょう。

おとり広告告示では、

「一般消費者に商品を販売し、又は役務を提供することを業とする者が、

自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を除く。)に顧客を誘引する手段として行う

次の各号の一に掲げる表示

一 取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は役務についての表示

二 取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示

三 取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示

四 取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその商品又は役務についての表示」

が、おとり広告であると定義されています。

ぼーっとながめてみただけでも、在庫一括管理している場合は、「取引に応じることができない」(1号)とか、「供給量が著しく限定されている」(2号)とか、「取引の成立を妨げる行為」(4号)とかにはあたらなそうです。

3号の「供給期間」「相手方」「一人当たりの供給量」は、限定列挙なので、在庫一括管理はこれにもあたりようがありません。

というわけで、在庫一括管理に関する前記運用基準の記載は、告示にまったく根拠がありません。

さらに理論的に重要なのは、告示の柱書で、

「自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を除く。)に顧客を誘引する手段として行う」

ということが、おとり広告の要件になっていることです(手段性の要件)。

在庫一括管理の場合に、

「冷蔵庫を買いにきたお客さんに、冷蔵庫をあきらめさせて、テレビを買わせてやろう」

なんて考えているはずはないので、この手段性の要件は満たしません。

というわけで、運用基準を作った人は、告示の条文を読んでいなかったのではないか?と疑われます。

きっと、なんとなく筆が滑っちゃったんでしょうね。

あるいは、手段性の要件を忘れてしまって、その店に在庫が足りない場合がすべておとり広告になる、と勘違いしていたのかもしれません。

景表法関係の運用基準や当局の古い解説には、このような、「条文読んでない」というレベルのものがちらほらみられるので、注意が必要です。

行政というのは、条文を忠実に執行しようというだけではなくて、条文ではグレーなところでも、解釈や運用で(行政効率も含めた意味での)妥当な執行を実現していこうとすることが、ままあるように思われます。

もちろん、それが一概に悪いわけでもないと思います。

ですので、今回取り上げた運用基準も、条文を読んでないのではなくて、わかっていながら確信犯でやった、という可能性も、ないではありません。

でもやっぱり、在庫一括管理していること(店には在庫がないかもしれないこと)を積極的に表示させることで実現される行政目的なんて何もないと思われます。

なので、やっぱり、私は「条文読んでなかった」のではないか、とニラんでいます。

2017年11月19日 (日)

おとり広告の手段要件について

おとり広告告示では、おとり商品の供給量が著しく限定されている場合(運用基準では、予想販売量の半分にも満たない場合)など、おとり広告にあたる場合が4種類限定列挙されています。

若干注意を要するのは、これら4つの場合にあたれば必ずおとり広告にあたるのではなく、さらに、

「自己の供給する商品又は役務の取引・・・に顧客を誘引する手段として行う」

ということが、おとり広告の要件とされていることです。

これを、「手段性の要件」ということができると思います。

なので、自己が販売する別の商品に誘引する意図がなければ、おとり広告は成立しません。

たとえば、もともと1種類の商品しか販売していない事業者が、予想販売数の半分に満たない在庫しかないことを認識しながらその商品の広告をしたとしても、ほかに買わせる商品はないので、おとり広告にはあたらないことになります。

しかも、現行法はおとり広告は有利誤認にはあたらないという整理なので(だからこそ、5条3号の指定告示として指定されているわけです)、このようなおとり広告にあたらない広告を、有利誤認にあたるというのも、難しいんじゃないかと思います。

もちろん、お客さんに不満を持たれないためには、数が限定されていることを広告で明記するのが望ましいのでしょう(そうすると、もっとお客さんが殺到するかもしれず、なやましいところですが)。

ひとつ言えることは、もし商品が売り切れてしまって、お客さんが、

「これはおとり広告じゃないのか?」

と騒ぎ出したら(あるいは、消費者庁や国民生活センターにかけこまれたら)、「そうじゃありません」ということは、自信をもって(?)回答できます。

ただ、実際には、クレームをいうお客さんに理屈で反論すると火に油を注ぐし、売り切れになって不満を持たれるのは理解できるので、謝りたおすしかないのでしょうけれど。

少なくとも弁護士(あるいは法務部)として、このような事例がおとり広告にあたるというアドバイスをすることは、避けなければなりません。

単一商品の事業者の場合は、このように他の商品に誘引する意図がないことがあきらかなのでわかりやすいですが、複数商品を販売する事業者でも、理屈は同じです。

ということは、あまり「ついで買い」が想定されないような業種の場合には、広告を打った人気商品の在庫が十分でなかったために、結果的に品切れになったとしても、まさにその「おとり」商品を販売するために広告をしたのであって、お店に来た消費者に別の商品を買わせるつもりで広告したのではない、というのであれば、おとり広告にはあたらない、ということが十分にありそうです。

たとえば、アップルウォッチの広告をみてお店にきたお客さんが、品切れだからといって、かわりにiPhoneを買うのか?(あるいは、店員がiPhoneをすすめるのか)ということです。

このように考えてみると、この手段要件というのは案外盲点かもしれません。

2017年11月16日 (木)

原産国告示の構造

原産国告示は、1項が国産品、2項が外国産品、というように分けて規定されていますが、その内容は非常に似ているものの、少しだけ違います。

まず国産品についての1項は、

「1  国内で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、その商品が国内で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの

一 外国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示

二 外国の事業者又はデザイナーの氏名、名称又は商標の表示

三 文字による表示の全部又は主要部分が外国の文字で示されている表示」

が、不当表示だとしています。

これに対して外国産品についての2項は、

「2 外国で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、その商品がその原産国で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの

一 その商品の原産国以外の国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示

二 その商品の原産国以外の国の事業者又はデザイナーの氏名、名称又は商標の表示

三 文字による表示の全部又は主要部分が和文で示されている表示」

が不当表示だとしています。

どうして書き分ける必要があったのかと思うくらい似ていますが、ちがいは各項の3号です。

つまり国産品(1項)では、外国語(非日本語)かどうか基準になっていて、外国語であれば不当表示になりえます。

これに対して外国産品(2項)では、当該原産国(たとえば中国)の文字ではない文字(たとえばフランス語)で記載されている場合がすべて不当表示になりうるのではなく、たとえば中国産品に和文の文字表記をした場合にかぎって不当表示になりうる、ということになっています。

中国製ワインにフランス語の表記があって、フランス産ワインと誤解されそうな場合も不当表示にしてよさそうなものですが、そうはなっていません。

指定告示なので、明確さを優先したのでしょうか。

あるいは、文字で原産国に誤解が生じるのは、「国産品→外国語表記」、「外国産品→和文表記」の場合に限られるのだ、と割り切ったのかもしれません。

たとえば、外国産品についても、その国の文字以外を用いてはいけないということになると、フランス産ワインに英語表記をすることが不当表示になってしまいそうですが、英語は万国共通語になっていますので、それは行き過ぎでしょう。

だけどさすがに国産品として偽るために和文表記にしているものは取り締まらないといけないだろう、という発想なのでしょう。

とはいえ、各項の1号、2号とのバランスを考えると、なぜ2項の3号だけが甘いのか(外国間の文字の違いは不問に付すのか)、疑問が生じるかもしれません。

デザイナー名を別の国のものにしてもだめですが、ドイツとオーストリアのデザイナーとか、中国と台湾のデザイナーなんて、名前だけでは区別できなさそうです。

それでも指定告示は形式的なので、デザイナー(たとえばオーストリア人)が原産国(たとえばドイツ)の人ではない場合には、そのデザイナーの名前を表示すると、原産国(ドイツ産)がわかるように、積極的に表示しないといけないことになってしまうのです。

これが、1・2項後段の

「その商品が国内〔その原産国〕で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの」

ということの意味です。

このように、原産国告示は、

①各号記載の表示は原則として不当表示

②①があれば、原産国を明記しなければならない、

という、二段ロケット方式になっているのです。

②が、積極的な義務付け規定になっているのがポイントです。

そもそもすべての商品について原産国を積極的に表記しなければならないという法律はありませんが、1・2項の1~3号の表示をする以上は、原産国を明記しないといけない、ということになるのです。

ただ、形式的には1~3号にあたる表示でも、そこから、原産国をまったく想起できないようなものなら、そもそも誤解は生じないので不当表示にも当たらないと解釈されています。

利部修二『商品の原産国表示の実務』

のp23で、国産品について、

「(ただし、国産品でありながら外国産品と紛らわしい表示がなされている商品に限られ、もともとそのような表示がなされていない国産品については、その旨の表示は何ら必要とならない)。」

とされています。

ちなみに1項と2号を仮にまとめて原産国を「A国」とでもすると、原産国告示は、

「A国で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、

その商品がA国で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの

一 A国以外の国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示

二 A国以外の国の事業者又はデザイナーの氏名、名称又は商標の表示

三 文字による表示の全部又は主要部分がA国以外の文字(ただし、A国が外国の場合は和文)で示されている表示」

となり、やはり書き分けた理由は3号しかなさそうです。

2017年10月20日 (金)

【お知らせ】百選が出ました。

有斐閣から

『経済法判例・審決百選[第2版]』

が出ました。

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わたしは71番の「対面販売義務の公正競争阻害性」で、資生堂・花王事件について解説を書いております。

百選は以前、『英米法判例百選』にも解説を書かせていただいたのですが、司法試験受験生のころに百選で勉強していたころを思い返すと(当時経済法は受験科目ではありませんでしたが)、ずいぶんと時間もたったものだなと感慨深いものがあります。

百選という、基本的には学生さん向けの教材ではありますが、学説を整理しただけのありふれた解説ではなく、問題の本質がわかるように気を付けて書いたつもりです。

ご興味のある方はぜひ、ご一読ください。

2017年10月10日 (火)

村田園万能茶事件と原産国告示

村田園の万能茶に対する措置命令(平成28年3月10日)では、

「日本の山里を思わせる風景のイラストの記載」

が、原材料が国産であるかのように誤解させる表示であるとされて、「そんなものまで不当表示の対象になるのか」と話題になったのですが、こういう、イラストまで「不当表示」にあたるという解釈についてはいろいろと異論もありうるところかと思います。

この点で興味深いのが原産国告示の規定です。

原産国告示1項1号では、国産品について、

「外国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示」

が、2項1号では、外国産品について、

「その商品の原産国以外の国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの
表示」

が、それぞれ、原産国をまぎらわしくする表示として規定されています。

この規定について、

利部修二編『商品の原産国表示の実務』(1974年商事法務研究会)

のp53では、

「どの国かがすぐわかる地図はこれ〔国名、地名、国旗、紋章等〕に含まれるが、人物、風景の絵などは含まれない

(公聴会で、これを含めるべきであるとの意見もあったが、明確な判定ができないので、含めないことにした)」

と説明されています。

つまり、風景についても議論はあったけれど、風景はどの国の風景か明確に判定できないので、意図的に告示の対象外にした、ということです。

たしかに、形式的で迅速な執行が肝(きも)である指定告示の場合と、一般の優良誤認表示の場合を同列に論じることはできませんが、当局の考え方も40年以上たつとずいぶん変わるもんだなぁという印象はぬぐえません。

わたしも講演などでは、

「村田園の風景のイラストがどうして『日本の山里』とわかるのか。韓国や中国かもしれないじゃないか」

と半分冗談でいうのですが、原産国告示の制定時には同じような問題意識があったわけですね。

もう少しまじめにいうと、村田園事件では、「阿蘇の大地の恵み」という文字とセットになっているので、(韓国や中国ではなく)日本の風景だという印象をあたえる、ということなのでしょう。

でも、原産国告示の制定過程の議論のほうが、わたしは、実用的な法律論としては据わりがよいと思います。

なので、「どの国かは風景の絵からはわからない」という原産国告示制定時の議論の趣旨は、優良誤認表示の場合にも十分に参酌すべきだと思います。

指定告示と優良誤認の違いという点も、指定告示の場合には「著しく優良と誤認」という要件の立証が不要だ(景表法5条3号は「誤認させるおそれ」でたりるので)とはいえても、そもそも事実と異なる表示なのかどうか(韓国の山里か、日本の山里か)という点は、両者で判断の仕方を変える理由はないように思います。

最近、どうも長年積み上げてきた実務の知恵を杓子定規な論理でひっくり返すことが多いような気がします。

工業製品は純粋美術と同視できるもののみ著作権で保護されるという従来の判例をくつがえした知財高裁のトリップ・トラップ事件判決(平成27年4月14日)が、よい例です。

景表法の分野では、不実証広告規制の条文には商品の効果・効能に関する不当表示にかぎって同規制を用いることができるという明文の限定がないことを理由に、不実証広告規制のガイドラインを超えて、シェアについて不実証広告規制の適用をしたフリーテルへの措置命令(平成29年4月21日)なんかも、そんな例でしょう。

不実証広告規制のほんらいの趣旨は、商品の性能・効果について消費者庁が立証しないといけないとすると多大な費用と時間がかかるので、一般の立証責任の原則の例外として、事業者側に立証責任を転換する、というものであったはずです。

そういう趣旨からすれば、優良誤認全般について立証責任を転換するかのようなフリーテルの措置命令は問題です。

たとえば二重価格表示を摘発するためには、これまでは消費者庁が店頭での価格表示を見張るなどする必要があったわけですが、今後はそのような必要もなく、事業者の側が価格の変動に関する資料を準備しておかないといけないことになります。

(ただこれはあくまで理屈の話であって、事業者がうそをつく可能性を考慮するなら、実務上は、けっきょく消費者庁は店頭で価格の変動を見張っておく必要があるのだということになると思います。

フリーテルの事件でも、実は消費者庁はシェア立証の準備か、すくなくとも明らかなうそを見破れる程度の各社のシェアの調査くらいはしていたのかもしれません。)

ほかにも、法律解釈ではないですが法治国家のあり方に関係する問題として、安倍首相が、

従来の慣例を無視して日弁連推薦の候補者ではない、実質的には学者の弁護士を最高裁判事に任命したり、

安保法制を合憲と解釈させるために、法制実務には素人の外務省出身者(元フランス大使)を内閣法制局長に任命したり、

憲法53条には

「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」

とされているだけで召集期限は定めてないと言い放ってずるずると召集を遅らせたり(ひいては、民進党が山尾志桜里議員のスキャンダルでガタガタになったのをみるや国会召集して冒頭で解散したり)、

とかいうのも、「法律上明文で禁じられていないなら何をやってもいいだろう」という発想があるように思われてなりません。

話がだいぶそれましたが、要するに、法律は文字に書かれていることがすべてではない、ということです。

法律の精神、心というものを忘れてはいけません。

長年積み重ねられてきた実務にはそれなりの合理性があることが多いものです。

英米法の先例拘束性も、そういう人類の知恵でしょう。

なので、長年の実務をくつがえすには、それなりの理由があるべきだと思います。

優良誤認表示の定義には限定はないので風景のイラストも含まれる、というのは、形式論としては正しいですが、私には、原産国告示制定時の議論のほうが、執行の明確性や事業者の表現の自由に対する配慮があり、文字に落とし込めない法律の心をくみ取ろうとしている点で正しいものがあるようにみえます。

少なくとも、イラストを含めるかどうか議論してあえて外すという判断をしたというのは、とても成熟した大人の判断であったと思います。

村田園は本件について係争中のはずですので、いずれ出る裁判所の判断に注目したいと思います。

2017年10月 5日 (木)

包装に不当表示のある商品をならべた小売店の責任

メーカーが作成した商品パッケージに不当表示があった場合、その商品を、そのまま店頭で並べた小売店も、不当表示の責任を負うのでしょうか。

この問題については消費者庁ホームページのQ&Aの6番で、

「製造業者がその内容を決定した表示が容器に付けられた商品を小売業者が仕入れ、それをそのまま店頭に並べ、消費者がその表示を見て商品を購入した場合、容器に付けられた表示に不当表示があったとき、小売業者も表示規制の対象になるのでしょうか。」

という質問に対して、

「表示の内容を決定したのが製造業者であり、小売業者は、当該表示の内容の決定に一切関与しておらず、単に陳列して販売しているだけであれば、当該小売業者は表示規制の対象にはなりません。」

と、明確に回答されています。

パッケージに不当表示があっても、商品を並べているだけの小売店は不当表示の主体にはならない、ということですね。

でも、これが当然の、唯一絶対の解釈か、というとそういうわけでもありません。

小売店も、表示の存在を認識しながら自己の責任でその商品を販売しているのだから、責任を負うべきだ、という考え方もありえます。

ちょっと古い文献ですが、

利部修二編『商品の原産国表示の実務』(1974年商事法務研究会)

という文献では、「不当な表示の責任主体」という表題のところで、

「不当な表示のされている商品を販売している小売業者もその商品を陳列することによって自らもその不当表示をしていることになる。」

と、断言しているのです!(p82)

さらに続けて、

「しかし、行政的には、実際にその表示を施したメーカーに対して是正措置を命ずるのがもっとも効率的であるし、それによって不当な表示の排除という目的が達せられるので、通常メーカーに対してのみ法的措置を命じている。」

と、小売業者が命令の対象にならないのはあくまで行政効率上の理由にすぎない、とダメ押しされています。

昔の公取委はこういう解釈をしていたのですね。

条文の解釈としては、景表法5条柱書の、

「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。」

でいうところの、表示を「し」というのはどのような行為をさすのか、という問題です。

現在の消費者庁の見解は、表示の内容の決定に関与することが表示を「し」にあたる行為だし、昔の公取委の見解は、自分の責任でその表示を店に並べることでも表示を「し」にあたる、ということなのでしょう。

たしかに、「し」という文言だけをながめてもこたえはでなさそうですし、自分の店に並べているのに何も責任を負わないというのでいいのかといわれると、たしかに昔の公取委の見解のほうが合理性があるような気もしないではありません。

不当な表示を消費者の目に触れさせないようにするという措置命令の目的からしても、消費者に一番近い小売店のところで首根っこをおさえたほうが効率的だ、という場合もありえないではありません。(たとえばメーカーが悪徳業者で、夜逃げしてしまったような場合。)

この論点は、実務的にはベイクルーズ事件で決着がついたところですが、上記公取のような解釈も昔はあった、ということは知っておいてよいと思います。

少なくとも、条文の文言をながめても一義的に答えの出ない、実は奥の深い問題なのだ、ということは納得できます。

2017年9月28日 (木)

電磁的方法で交付された3条書面の交付時期

下請法の3条書面(発注書)は電磁的方法でも交付できますが、その場合、いつ交付されたことになるのでしょうか。

常識的な感覚からすると、書面で交付するときには物理的に下請事業者に到達した時点(見た時点ではなく)が交付の時点なので、メールで送付した場合には下請事業者がメールを受信した時点(開いた時点ではなく)が交付の時点となりそうですが、実はそれほど単純ではありません。

というのは、

①どこまでやったら3条書面交付義務を果たしたことになるのか、

という問題と、

②いつの時点で交付したことになるのか、

という問題が、密接に関連しながらも微妙にずれているからです。

しかもこの2つの問題のどちらを議論しているのかを意識しないと、ますます議論が混乱します。

(この点についてのポイントを先に言うと、下請法では①だけが問題なのであり、②は問題にする必要がありません。②が一義的に決まるはずという前提のもとで①を論じるから、混乱が生じるのです。)

条文を確認していきましょう。

まず、下請法3条2項では、

「親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令〔下請法施行令2条〕で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、

当該書面に記載すべき事項

電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則〔3条規則2条〕で定めるもの

により提供することができる。

この場合において、当該親事業者は、当該書面を交付したものとみなす。 」

とされています。

そして、下請法施行令2条(情報通信の技術を利用する方法) では、

「1   親事業者は、法第三条第二項 の規定により同項に規定する事項を提供しようとするときは、公正取引委員会規則〔3条規則2条〕で定めるところにより、

あらかじめ、当該下請事業者に対し、その用いる同項前段に規定する方法(以下「電磁的方法」という。)の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。

2   前項の規定による承諾を得た親事業者は、当該下請事業者から書面又は電磁的方法により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、当該下請事業者に対し、法第三条第二項に規定する事項の提供を電磁的方法によってしてはならない。

ただし、当該下請事業者が再び前項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。」

とされており、3条規則2条では、

「法第三条第二項 の公正取引委員会規則で定める方法は、に掲げる方法とする。

一   電子情報処理組織を使用する方法のうちイ又はロに掲げるもの

イ 親事業者の使用に係る電子計算機と下請事業者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、

受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法

ロ 親事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された書面に記載すべき事項を電気通信回線を通じて下請事業者の閲覧に供し

当該下請事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該事項を記録する方法

(法第三条第二項 前段に規定する方法による提供を受ける旨の承諾又は受けない旨の申出をする場合にあっては、親事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルにその旨を記録する方法)

二   磁気ディスク、シー・ディー・ロムその他これらに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに書面に記載すべき事項を記録したものを交付する方法

2   前項に掲げる方法は、下請事業者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものでなければならない。

3   第一項第一号の「電子情報処理組織」とは、親事業者の使用に係る電子計算機と、下請事業者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。」

とされています。

電子メールによる交付は3条規則2条1項1号イの、

「イ 親事業者の使用に係る電子計算機と下請事業者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、

受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法」

であることがわかります。

また、同条2項により、その電子メールは、

「下請事業者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるもの」

でなければならないことが分かります。

同様に、ウェブサイトを閲覧させる方法による提供は3条規則2条1項1号ロにさだめられており、おなじく、出力して書面を作成できなければなりません。

以上を前提に、

「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」

では、第1の2「 電子メールによる電磁的記録の提供に係る留意事項」で、

「(1) 書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は,下請事業者の使用に係るメールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず,

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。

例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。

また,携帯電話に電子メールを送信する方法は,電磁的記録が下請事業者のファイルに記録されないので,下請法で認められる電磁的記録の提供に該当しない。

(2) 書面の交付に代えてウェッブのホームページを閲覧させる場合は,下請事業者がブラウザ等で閲覧しただけでは,下請事業者のファイルに記録したことにはならず,

下請事業者が閲覧した事項について,別途,電子メールで送信するか,

ホームページにダウンロード機能を持たせるなどして

下請事業者のファイルに記録できるような方策等の対応が必要となる。」

とされています。((2)は親事業者のウェブサイトを閲覧させる方法です。)

このように、「留意事項」で、

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。」

と明言されているため、下請事業者が自分のパソコン(あるいはサーバー)に保存しなければ交付したことにならないのではないか、それらの記録行為がなされれた時点が3条書面の交付の時点となるのではないか、という疑問が生まれてくるのです。

しかしこの問題は、そもそも3条書面の電磁的方法による交付をみとめることになった大元である、IT書面一括法(「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」。2001年4月1日施行)の解釈のほうをみないと、解決できません。

電磁的方法による文書の交付時点の問題については、立案担当者解説である、

久米孝「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律(IT書面一括法)の概要」NBL711号16頁(2001年4月)

に、「書面の交付に代えて行われた書面に記載すべき事項の到達時点のみなし」という節で、

「書面の交付に代えて行なわれた書面に記載すべき事項等の提供については、

書面の交付時点が当該法律上の他の規定において、何らかの後の法的行為の起算点となっている場合(たとえば割賦販売法四条の三第一項は、書面受領の日から八日以内にいわゆるクーリングオフができる旨を定める)や、

当該書面の提出後、一定の期間内に何らかの措置をとることが義務づけられている場合(たとえば中小企業等協同組合法四七条二項は、書面による請求があった日から二〇日以内に臨時総会を招集しなければならない旨を定める)

といった、当事者同士に委ねておいては起算点や期限が確定しない場合を除いて、

明文の規定をおいていない。

これは「書面の交付」において、書面の交付がどの時点でなされたかについて実定法上明示的に規定されていないのと同様で、

どの時点で当該事項の提供義務が尽くされたかは、個別のケースごとに、

送り手側の努力としてどこまで行ったか、

それに対して受け手がどういう態度をとったか、

法律の目的は何か、

といった要素を総合的に考慮して判断されることとなる。

と説明されています。

到達時点のみなし規定がない場合には、どの時点で提供義務が尽くされたかはケースバイケースできめる、ということですね。

ちなみに、個別信用購入あっせんについて到達時点のみなし規定である割賦販売法35条の3の22は、

(情報通信の技術を利用する方法)

第三十五条の三の二十二  個別信用購入あつせん関係販売業者若しくは個別信用購入あつせん関係役務提供事業者又は個別信用購入あつせん業者は、

第三十五条の三の八又は第三十五条の三の九第一項若しくは第三項の規定による書面の交付に代えて、

政令で定めるところにより、

当該購入者又は当該役務の提供を受ける者の承諾を得て、

当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。

この場合において、当該個別信用購入あつせん関係販売業者若しくは当該個別信用購入あつせん関係役務提供事業者又は当該個別信用購入あつせん業者は、当該書面を交付したものとみなす。

 前項前段に規定する方法(経済産業省令・内閣府令で定める方法を除く。)により第三十五条の三の九第一項又は第三項の規定による書面の交付に代えて行われた当該書面に記載すべき事項の提供は、

購入者又は役務の提供を受ける者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に当該購入者又は当該役務の提供を受ける者に到達したものとみなす。」

と、購入者のファイルへの記録の時点を到達時点とみなすと規定しており、この規定について、

経済産業省商務情報政策局取引信用課編『平成20年版 割賦販売法の解説』

では、

「書面一括法においては、本規定〔35条の3の22第2項〕を設ける必要がある場合を、

・ 書面の交付時点が当該法律上の他の規定において何らかの後の法的行為の起算点となっている場合(書面受領の日から8日以内にクーリング・オフができる規定等)

・ 当該書面の提出後、一定の期間以内に何らかの措置をとることが義務付けられている場合(書面の提出の日から20日以内に臨時総会を招集しなければならない規定等)

といった、当事者同士に委ねておいては起算点や期限が確定しない場合のみに限定しており、

したがって、

単に書面不交付について罰則や行政処分の規定があるという場合や、

単に契約締結時までに書面を交付しなければ罰則が適用されるという場合

においては、本規定は措置しないという整理となっている

(よって、クーリングオフが規定されていない割賦販売、ローン提携販売、包括信用購入あっせんにおいては、本項と同内容の規定は存在しない)。」

と説明されています(p250)。

下請法の3条書面交付は、たんに刑罰が科されるだけなので、みなし規定はない、ということですね。

下請法3条も、当然、このような解釈を前提に解釈されていると考えられます。

公取委側の担当者解説である、

向井他「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項について」公正取引607号53頁(2001年)

では、電子メールにより送信する場合について、

「下請事業者自身がメールサーバーを有している場合もあり得るが、通常の下請事業者の場合は、インターネットプロバイダ等と契約をしたり、親事業者のシステムを利用するなど、当該プロバイダー等のメールサーバーを利用することになるから、電子メールを送信しても、当該メールサーバーに記録されるだけで、下請事業者のファイルに記録されたことにはならない。

したがって、下請事業者が当該メールを受信することにより自らのファイルに記録していなければ、書面の交付に代えて提供したことにはならない。」

と説明されています。

さらに同論文p54では、発注者のウェブサイトを閲覧させる方法について、

「通常、ブラウザソフトによりウェッブのホームページを閲覧させることになるが、この方法は、一時的に情報を〔下請事業者のパソコンの〕メモリーに保存することによりウェッブのホームページを表示させるものである。

他方、ファイルに記録するということは、情報をファイルに固定させ、いつでも当該情報を取り出せるようになっていることが必要であることから、

下請事業者が〔親事業者の〕ホームページを閲覧しただけでは、下請事業者のファイルに記録することにはならないので、

別途電子メールで〔通知事項を〕送信するか、ホームページにダウンロード機能を付けるなどの措置が必要となる。」

と解説されています。

専用のウェブサイトを開設しているのにわざわざ別のメールを送る親事業者はあまりいないでしょうから、現実的には、ホームページにダウンロード機能を持たせることが多いと思われます。

そして、IT書面一括法が、到達時点のみなし規定を置く場合と置かない場合(←下請法はこちら)とを分けていることをふまえれば、前述の「留意事項」の、

「(1) 書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は・・・

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。

例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。」

としている部分も、受信した時点を交付時点(到達時点)とみなす趣旨ではない、と解さざるをえないと思います。

というのは、IT書面一括法が到達時点のみなし規定を置く場合と置かない場合とをあえて分けているにもかかわらず、みなし規定がないのに一律に特定の時点で到達したとみなされると解釈すことは、IT書面一括法の解釈としてありえないからです。

ところでファイルへの保存が要求されている理由について、向井他p53では、

「下請法は50本の法律を一括して改正する法律により改正されたが、

当該法律において書面の交付によ代えることができる電磁的記録の提供方法として、書面が交付されたと実質的に同視し得るよう、

受信者のファイルに記録することを要件とする統一的な取り扱いが行われたが、

下請法は、下請取引の適正化と下請事業者の保護を目的としており、下請法の目的からも必要な要件であろう。」

と述べられています。

つまり、できるだけ書面と同視できるようにしようという趣旨なのです。

ということは、電磁的方法だからといって書面の場合以上に過重な負担を負わせるものではない、ということが言えると思います。

では、最も典型的な、電子メール(本文でも添付ファイルでも)で3条書面を送るときに、親事業者はどこまでしなければならないのでしょうか。

この点について、

清水規廣「横浜弁護士会独占禁止法研究会編 一問一答 下請法・下請取引<14> - 下請取引基本契約書の締結と電子メールによる受注のチェックポイント」NBL936号(2010年)p98

では、

「・・・下請事業者の電子メールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず、下請事業者が自身のパソコンのファイルに記録して、いつでも出力することにより書面を作成できる状態、つまりいつでもプリントアウトできる状態にしなければならない。

そこで、親事業者としては、電子メールを送信するに当たり「開封確認メッセージの要求」をして下請事業者が電子メールを受信・開封・ファイルへ保管したことを確認する必要があることになる。

受信・開封・保管しなければ下請法3条の書面を交付したことにならないから、

親事業者としては「メールで送ったから開封・ファイルへ保管されたい」旨電話等で連絡し開封確認メッセージをも保存しておく必要があることになる。」

と説明されています。

しかし、わたしはこれは行き過ぎだと思います。

いちばんわかりやすい理由をあげると、3条書面不交付には50万円以下の罰金が科されますが(下請法10条)、開封の確認までしないと刑事罰の対象になるというのは、自己責任の原則からして問題があります。

また、到達時のみなし規定がない場合には、

どの時点で当該事項の提供義務が尽くされたかは、個別のケースごとに、

送り手側の努力としてどこまで行ったか、

それに対して受け手がどういう態度をとったか、

法律の目的は何か、

といった要素を総合的に考慮して判断されることとなる

というのがIT書面一括法の立場です。

そして、

「開封確認メッセージの要求」をして下請事業者が電子メールを受信・開封・ファイルへ保管したことを確認する

ということまでしないと「送り手側の努力」として不十分だ、というようなことはとうていいえない、と思います。

もしそんなことを言い出すと、書面で送る場合にも、普通郵便ではだめで、常に配達証明付き書留郵便で送らないといけない、ということになりかねません。

ファックスでも、送信確認(モニターレポート)機能がある機種しか使えないことになります。

もちろん、義務を履行したことの証拠を残すことは実務上望ましいわけで、その意味で、開封確認を要求することは望ましい方法だとは思いますが、証拠を残すのはあくまで立証の問題なのでいくらでも手段はありえます。

しかし開封確認を求めることが実体法上の義務の一部だといわれると、話は変わってきます。

他のやり方では代替できないからです。

しかも上記論文ではIT一括書面法の立法趣旨や到達時のみなし規定のことにはふれず、ただ、3条規則の文言だけを頼りに上記の結論を導いているので、その意味でも説得力に欠けます。

このような解釈上の疑義が生じるのは、IT書面一括法で、到達時のみなし規定を置かない法律についてはどこまでやれば書面交付義務を果たしたことになるのかをあえてあいまいにしているためなのです。

あえてあいまいにしている趣旨を汲まずに、法律や規則の文言だけから杓子定規に結論を導くと、こういう結論になってしまうのだと思います。

たしかに、「留意事項」では、

「書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は,下請事業者の使用に係るメールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず,

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。

例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。」

といっているのですが、これとても、受信していることが必要といっているだけで、反対にいえば、受信さえしていればそれでいいということです。

受信が必要だということから、論理必然に、

「開封確認メッセージの要求」をして下請事業者が電子メールを受信・開封・ファイルへ保管したことを確認する必要があることになる。

ということはいえないですし、そのようなことを刑罰の威嚇をもちいて強制する正当性もないと思います。

以上は電子メールの場合ですが、ウェブサイトを閲覧させる方法の場合には「留意事項」ももっと割り切っていて、

「下請事業者が閲覧した事項について,別途,電子メールで送信するか,

ホームページにダウンロード機能を持たせるなどして

下請事業者のファイルに記録できるような方策等の対応が必要となる。」

といっているだけです。

つまりこちらの方では、ダウンロード機能を持たせれば足りるということがはっきりしていて、ファイルへ保管したことの確認までは不要であることがあきらかです。

それにもかかわらず電子メールの場合だけ、ファイルへ保管したことの確認まで要するというのは、バランスが悪いと思います。

「留意事項」の、

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。」

というのは、文字どおり、下請事業者が自身のパソコンにデータが記録されていればたりるという意味であって、実際に記録さえされていれば、極端にいえば、親事業者はその証拠すらなくても刑罰を科されることはない、ということでしょう。

検察や公取は下請事業者のパソコンを調べることもできるのですから、親事業者が証拠を持っていなても、交付の事実が「証明」できてしまう、ということは大いにあり得ることだと思います。

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