出版のお知らせ

このたび、第一法規から、
 
『製造も広告担当も知っておきたい 景品表示法対応ガイドブック』
 
という書籍を出版させていただくことになりました。
 
書誌情報は、こちらです。

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景表法の解説書はたくさんありますが、はじめて手に取るには気が引ける大部なものが多いので、法学部出身ではない人でも、景表法を勉強する必要に迫られたときに最初に手にしていただける入門書をめざして書きました。本文250頁くらいです。
 
ですがそれと同時に、景表法の表示規制は、法律的な発想がないと「なんでもあり」、あるいは、「常識で判断」というだけ、ということにもなりかねず、法的思考(体系的思考、論理的思考、一般化・抽象化)も大事だよということをにじませながら書いたつもりです。
 
景品規制は、細かいことを説明しだすときりがないのですが、実務で繰り返し問題になる重要論点(割引券の問題など)を中心に、それなりに踏み込んで書いたつもりです。
 
入門書ですから、基本的には、消費者庁の実際の運用を紹介することに重点を置いていますが、それでも、(このブログほどではないですが)消費者庁の解釈のおかしなところも指摘しています。
 
そのほか、訴えたいことは「はしがき」に書きましたが、裏面の帯にも引用していただいた「はしがき」の一部を引用しますと、
 
「この本では、「いかに消費者への訴求力を落とさずに、消費者庁に摘発されないぎりぎりセーフの広告を作るか」といった不誠実な態度の読者は、はなから想定していない。
 
この本は、あくまでまじめに景表法をまなぼうとする、あなたのための本である。」
 
と、いうことです。
 
興味のあるかたはぜひ、書店で手に取っていただければと思います。
 
7月24日の発売です。

2019年2月15日 (金)

下請法に司法審査が及ばないことの恐ろしさ

下請法のよくないところの一つに、公取委の判断に司法審査が及ばないことがあげられます。
 
というのは、公取委の出す勧告は、いわゆる行政指導に過ぎず、それ自体強制力がないため、勧告を取り消す訴訟を提起することができないからです。
 
条文で確認すると、勧告についてはまず下請法7条1項で、
 
「公正取引委員会は、親事業者が第四条第一項第一号〔受領拒否〕、
 
第二号〔支払遅延〕又は
 
第七号〔報復措置〕
 
に掲げる行為をしていると認めるときは、
 
その親事業者に対し、
 
速やかにその下請事業者の給付を受領し、
 
その下請代金若しくはその下請代金及び第四条の二の規定による遅延利息を支払い、又は
 
その不利益な取扱いをやめるべきことその他必要な措置
 
をとるべきことを勧告するものとする。」
 
と定められています。ほかの違反類型は2項、3項で定めています。
 
そして勧告の効力については8条で、
 
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第二十条〔不公正な取引方法に対する排除措置命令〕
 
及び
 
第二十条の六〔優越的地位の濫用に対する課徴金納付命令〕
 
の規定は、
 
公正取引委員会が前条第一項から第三項までの規定による勧告をした場合において、
 
親事業者がその勧告に従つたときに限り、
 
親事業者のその勧告に係る行為については、適用しない。」
 
とされています。
 
つまり、勧告に任意にしたがう限り独禁法の優越的地位の濫用で処分されることはない、ということです。
 
これ以外に勧告の効力についての規定はありません。
 
たとえば勧告に違反した場合に罰金が科せられるというような規定はありません。
 
これが、勧告は行政指導に過ぎない、という根拠です。
 
なので、勧告それ自体の取り消しを裁判所に求めることはできず、勧告は司法審査の対象にならない、ということになります。
 
そこで、勧告に不服のある事業者は勧告に従わない、という選択肢しかありません。
 
ですが、そうすると次に起こりうるのは公取委による優越的地位濫用の審査です。
 
その結果、「下請法違反はあったけれど、優越的地位の濫用はなかった」という結論になるかもしれません(もしそうなら、そもそも審査が開始されないかもしれません)。
 
それなら、なにも処分なし、なのでいいかというとそういうことでもなくて、勧告がでたという事実は残ります。
 
当然、公取委のホームページや年次報告にも、そのまま残るでしょう。
 
あるいは、審査の結果、優越的地位濫用が認められる、ということもあるかもしれません。
 
ところが、そのときに、優越的地位の濫用で受けた排除措置命令や課徴金納付命令に不服だと言っても、下請法の論点はどこにも出てこないのです(優越的地位の濫用で命令が出ているので当然です)。
 
当然、排除措置命令や課徴金納付命令の取り消し訴訟を起こしても、下請法の論点を争う余地はありません。
 
たとえば、有償支給材の早期決済の禁止に違反したとして勧告を受けた場合、その勧告に不服があっても、裁判で争点になるのは優越的地位の濫用が成立するかどうかだけ、です。
 
そして、たんに有償支給材の決済が製造委託商品の決済より早かったというだけで「濫用」になるというのはかなり無理があるので、優越的地位の濫用は成立しない可能性が高いと言えます。
 
処分されないんだからそれでよさそうなものですが、問題は、公取委が独禁法の調査の対象を広げてくる可能性があることです。
 
もし事業者が勧告に不服で「したがいません」といえば、公取委は、そんな前例を残したくないでしょうから、何が何でも優越的地位の濫用で摘発しようとするでしょう。
 
そのときに、調査の対象を当初の勧告対象行為に絞らなければならないというような(刑訴法で言えば訴因変更の限界のような)制限は、法律上、なにもありません。
 
そうすると、事業者としては、自社のどこをつつかれても優越的地位の濫用にあたる行為はないという自信がない限り、勧告に従わないという選択肢をすることを躊躇することになると思われます。
 
そして、徹底的に社内調査をして大丈夫だと結論付けたうえで「したがいません」といっても、前述のとおり、争いたい論点については裁判所の判断を得られない、ということになります。
 
そのため、下請法の公取委の判断に対する判例というのはなく(民事訴訟で下請法違反を公序良俗違反として争点化したものは多数ありますが)、下請法講習テキストがあたかも判例と同じような役割を果たすことになります。
 
もしどうしても司法審査をえたければ、勧告で信用が損なわれたなどとして国家賠償請求を起こすことくらいしかありません。
 
このように司法審査がはたらかないだけに、下請法の運用は公取委の自制が求められるはずで、安易な運用や解釈の変更は行うべきではありません。
 
ところが、実際には、
 
下請事業者に下請代金の支払とは別途金銭の支払をさせることを(不当な経済上の利益の提供要請ではなく)代金減額として処理したり、
 
従来手形払いだったのを現金払いに変えたときに変更後の取引について従来より1円でも代金を安く設定したら買いたたきにあたるとしたり、
 
有償支給材の早期決済分の利息の支払を指導したりする
 
など、やりたい放題です。
 
そういった下請法独自の争点について争いたくても、裁判所で争う道は事実上ないなのです。
 
やるとすれば国家賠償ですが、国家賠償は立証責任が国民側にあるなど、簡単ではありません。
 
しかしそもそも、勧告がたんなる行政指導であるということすら、一般にはあまり知られていないのではないでしょうか。
 
なので、優越的地位の濫用には当たらない(たとえば代金減額について下請事業者の同意がある)と考えれば、勧告に従わないという事業者がいてもおかしくないと思うのですが、おそらく今までそういう事例はありません。
 
司法審査が及ばない制度というのは法治国家としてどうかと思いますが、法律は国会が決めるものなので公取委の責任ではありませんから、どうこういってもしかたありません。
 
ですが、公取委は司法審査を免れるという重い責任を自覚して、下請法担当部署に優秀な人材を配置するなど、慎重な運用をすべきではないかと思います。

2019年2月 1日 (金)

別途支払を(利益提供要請ではなく)減額とする公取委の運用変更の整理

少し前に、下請代金からの差し引きだけではなく別途支払わせる場合(従前の解釈では不当な利益の提供要請だった)も代金減額になるという公取委の解釈変更があったことについて書きました
 
このあたりの経緯について、公取委への批判を込めて、整理しておきます。
 
まず、下請法講習テキストをたどると、平成25年版のテキストまでは、代金減額は下請代金から差し引くものが該当することを当然の前提とする記述がなされていました。
 
たとえば平成25年テキストp44では、「減額の考え方」のところで、
 
「・・・3条書面に記載された下請代金から減じるものであれば減額として問題となり得る」
 
と記載されていました。
 
「違法な下請代金の減額の例」(p45)をみても、いずれも、下請代金から差し引くものばかりでした。
 
ところが平成26年版のテキストでは、
 
「下請代金の額を「減ずること」には、下請代金から減額する金額を差し引く方法のほか、親事業者の金融機関口座へ減額する金額を振り込ませる方法等も含まれる。」(p46)
 
という一文が加えられ、最新版にも引き継がれています。
 
また下請法運用基準のほうをみると、平成25年版テキストに添付されている当時の運用基準では、3(1)の減額の具体例は、すべて下請代金から差し引くものばかりでした。
 
運用基準については、前記の一文が加えられた平成26年版テキストに添付の運用基準でも、すべて差し引き型だけでした。
 
平成28年の運用基準までは、同様に、すべて差し引き型でした。
 
ところが平成29年テキスト添付の運用基準に
 
「ケ 毎月の下請代金の額の一定率相当額を割戻金として親事業者が指定する金融機関口座に振り込ませること。」
 
という、別途支払型の具体例が、はじめて付け加えられました。
 
(ただこれは、支払金額が下請代金の一定率であることから、下請代金との密接な関連があることが、別途支払型でも減額となることの理由になっていると読むこともできそうな気もします。)
 
許しがたいことに、公取委担当者の解説である、
 
粕渕他編著『下請法の実務〔第3版〕』(平成22(2010)年)p131
 
では、以前このブログでも紹介したように、
 
「例えば、親事業者が下請事業者に対し決算対策協力金等の支払を行わせるとき、
 
これを親事業者が下請代金から差し引くことにより支払わせる場合には減額に該当するが、
 
下請代金の支払とは独立して下請事業者に支払わせる場合には、不当な経済上の利益の提供に該当するものとして扱われる。」
 
と明記されていたいのに、改訂版にあたる、
 
鎌田編著『下請法の実務〔第4版〕』(平成29(2017)年)p135
 
では、この部分の記述がごっそり削除されているのです!
 
これはあんまりにもひどいのではないでしょうか?
 
運用を変えて都合が悪くなったので、まさに、「臭いものに蓋」の発想です。
 
せめて運用を明示的に変えたなら、その旨の説明なり、利益提供要請との区別の考え方なりを示すべきであって、全削除(=説明拒否)なんてひどすぎます。
 
これは、別途支払型を減額としてしまうと、不当な利益の提供要請との区別を説明できなくなることを、如実に表しています。 
 
この点、長澤先生のベストセラー
 
『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第3版〕』
 
では、不当な利益の提供要請との区別の(公取委運用にしたがった)基準の整理についても、
 
「その基準は明確ではないが、発注代金の額に一定率を乗じて得た額を徴収する場合には、代金控除であれ別途の支払であれ、対価の減額と取り扱われる傾向がある」(p206)
 
と、説得力をもって論じられています(ただし長澤先生ご自身は、別途支払型を減額とするのには反対)。
 
なお、
 
「その基準は明確ではないが」
 
といわれているのは、たとえば下請法運用基準7-1(3)で、上記基準に反して、
 
「親事業者は,食料品の製造を下請事業者に委託しているところ,取引先に支払っているセンターフィーの一部を負担させるため,下請事業者に対し,センターフィー協力費として,下請代金の額に一定率を乗じて得た額を提供させた。」
 
というのが不当な経済上の利益の提供要請だとされていることなんかを意識されているのではないか、と思われます。
 
また実際の勧告事例については、同書のp206の脚注323によると、どうやら、平成18(2006)年10月27日のイズミヤ事件が別途支払を減額にした最初の事例みたいですが、同様の運用が平成24年頃から増えていることがわかります。
 
なお、私も、別途支払型まで減額で処理するのは問題だと思います。
 
「減額」という文言とこれまで積み上げてきた実務も大きな理由ですが、実質的に考えても、差し引き型と別途支払い型では下請事業者への不利益が大きく異なります。
 
つまり、差し引き型(=ほんらいの減額)では、下請事業者に有無を言わせず下請代金を減額して支払うわけですから、下請事業者の資金繰り次第では倒産すらしかねません。
 
これに対して別途支払い型の場合には、いちおう下請事業者に「別途支払う」という任意のアクションがあるわけですから、手持ちの現金がなければ支払えないはずであり、現に支払えてるということは少なくとも倒産するまでの影響はなかったわけです。
 
このように、差し引き型と別途支払い型は、質的に異なるのです。
 
それが従来の公取委の解釈の実質的な根拠だったのではないでしょうか?
 
これはそもそも論ですが、減額(4条1項3号)だろうと、利益提供要請(4条2項3号)だろうと、違反は違反なのだから大差ないだろう、というとぜんぜんそんなことはありません。
 
というのは、減額は1項なので外形上3号にあたれば違法になりますが、利益提供要請は2項なので、外形上2項3号にあたるだけでは違反にならず、さらに、下請事業者の利益を不当に害する(2項柱書)ことが必要になるのです。
 
この違いは決定的です。
 
これだけの違いがあるからこそ、減額は差し引き型のみとする理由があるのです。
 
こういうことを考えると、別途支払い型まで減額にするのには相当説得力のある理論的根拠が必要だと思うのですが、公取委ではそのあたり、ちゃんと議論されたのでしょうか?
 
それからもう一つ、有償支給材の早期決済の条文との対比があります。
 
つまり、有償支給材の早期決済(下請法4条2項1号)では、
 
「自己に対する給付に必要な半製品、部品、附属品又は原材料(以下「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に、
 
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、
 
当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に、
 
支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し、
 
又は
 
当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること。」
 
というように、下請代金から控除する場合(差し引き型)と、支払わせる場合(別途支払型)とを、明確に区別しているのです。
 
たしかに、早期決済の方は「控除」という文言を使い、代金減額では「減額」という言葉を使っていて、両者は異なるのですが、異なることに大きな意味はないというべきでしょう。
 
平成30年版下請法テキストp75でも、「控除」という言葉を使った理由として、
 
「これ〔=控除〕は,民法上の相殺が成立したか否かとは関係がなく,そのため,「相殺」という民事法上の用語ではなく,「控除」という一般的な用語が用いられている。」
 
と説明していて、 民法上の相殺ではないことを示すだけの意味であって、「減額」と区別する意味があるわけではありません。
 
このように、早期決済でわざわざ差し引き型と別途支払型を明示的に区別しているのですから、代金減額でいう「減額」は差し引き型に限ると考えるのが自然です。
 
以上、別途支払型を減額として処理する解釈変更について整理しました。
 
やはり平成26年テキストが、ひとつのターニングポイントになっているようです。
 
それにしても、こんな大事な解釈変更を、なんら明示的な(=変更であることを明示しての)アナウンスもなくやってしまうのもひどい話だし、公取委担当者解説書にいたっては、論点自体存在しないことにしてしまうなんて、ほんとうにひどいと思います。
 
わたしは最近、公取委の下請法運用で、ほんとうにわけのわからないことをいわれた(最終的には引っ込めてもらったけれど)経験があったり、民法上はまったく根拠のない指導がなされているのを聞いたりしているので、正直、最近の公取委の解釈力は非常に劣化しているのではないか、と強く懸念しています。
 
今回の解釈変更も、公取委が問題の本質を理解したうえで組織として議論を尽くして行ったのではなく、いち担当者が従来の運用をあまり理解せず、上もそれを見落とした、という非常に情けないレベルの話なのではないか、と推測しています。
 
なんでも先例重視が良いわけではありませんが、法律の運用はいったん厳しくするともとに戻すのはたいへんなので、変えるにはそれ相応の覚悟が必要だと思います。

2019年1月24日 (木)

手形払いを現金払いに変更した場合の中間利息の控除に関する中企庁Q&Aについて

2016年12月14日に中小企業庁と公取委が下請代金の支払いの現金化を要請する通達を出しましたが、それにともない、中小企業庁のホームページには、以下のようなQ&Aが掲載されました
 
「Q9: 今までの取引では手形払いであり、この額には手形等の割引料等を加味していません。今回の通達によって手形払いから現金払いに変更した場合、以下のケースは下請代金の「買いたたき」に当たるのでしょうか。
 
(1) 割引料相当分を差し引いて下請代金の額を定めること。
 
(2) 親事業者として資金調達が必要となるので、その資金調達に必要な短期調達金利相当額を下請代金の額から差し引いて下請代金の額を定めること。」
 
以下がその回答です。
 
「手形等の割引料等のコストは、ほとんどの場合に下請事業者が負担しており、結果として額面どおりの現金を受領できない状況にあります。
 
そのため、今般、下請代金はできる限り現金払いとすること等を要請したものであり、
 
(1)や(2)のような変更は、今般の通達発出を含む政府の下請取引の条件改善に向けた取組の趣旨にそぐわないものであって、政府としては、割引料等のコストについて、実質的に「下請事業者の負担とすることのないよう」、下請代金の額を決定することを要請するものです。
 
そのため,手形払いから現金払いに変更した場合、今までの手形と同じ額で支払えば問題はありません。
 
一方、手形払い時の下請代金の額から、(1)や(2)のように割引料相当分や資金調達に必要な短期調達金利相当額等を差し引いて、一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めた場合は、下請代金法の「買いたたき」に該当するおそれがあります。」
 
これは、あまりにもひどい内容です。
 
はっきりいって、下請法の解釈を誤っていることがあきらかです。
 
というのは、下請法の買いたたきは、
 
「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」
 
が要件です(下請法4条1項5号)。
 
つまり、通常の対価より「著しく」低いことが、要件なのです。
 
ところが、上記Q&Aでは、たんに「低い」だけで違反になりうるとされていて、「著しく低い」ことが要件になっていません。
 
しかもその理由として、前記通達が、
 
「割引料等のコストについて、実質的に「下請事業者の負担とすることのないよう」、下請代金の額を決定することを要請する」
 
を理由にしていることからすると、「著しく」を省いたのが、うっかりミスや誤記ではなく、意図的なものであったことがわかります。
 
さらに、
 
「今までの手形と同じ額で支払えば問題はありません」
 
と対比する形で
 
「一方、手形払い時の下請代金の額から、(1)や(2)のように割引料相当分や資金調達に必要な短期調達金利相当額等を差し引いて、一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めた場合は、下請代金法の「買いたたき」に該当するおそれがあります。」
 
という部分が述べられていることからすると、今までの手形の金額から1円でも安くすれば買いたたきである、というのがQ&Aの趣旨である、と解釈するのが自然です。
 
この「1円でも安くしたら違反」というのは、厳しい読み方でもなんでもなくって、消費税転嫁法の買いたたきで前例があります。
 
つまり、消費税転嫁法の買いたたきの条文を下請法の買いたたきを参考に作ったときに、消費税転嫁法の買いたたきは、
 
「商品若しくは役務の対価の額を
 
当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、
 
特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと。」
 
と定義されることになりました(消費税転嫁法3条1号)。
 
ここで、下請法は「著しく低く」なのに、転嫁法は「低く」なのは、転嫁法の場合には消費税増税分満額上乗せして支払わないといけないのだ(1円でも安くしたら違反)、と説明されました。
 
そのことは消費税転嫁法ガイドラインに、
 
「「同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価」とは,
 
通常は,特定事業者と特定供給事業者との間で取引している商品又は役務の消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額をいう。」
という形で明記されています。
 
消費税転嫁法のような「通常支払われる対価に比し低く定める」という条文でなぜ、増税分満額上乗せしないと違反になるのか、はなはだ理解に苦しむところところです。
 
このような条文なら、まず、増税前の対価が「通常支払われる対価」であったことの立証が必要になる、と考えるのが当然だと思います。
 
公取委の説明会でも、ある弁護士さんが、どうしてこの条文でこんな風に解釈されるのか、文言に照らしておかしいじゃないか、というたいへんごもっともな質問をされていました。
 
転嫁法の買いたたきの条文は、とてもへんな条文で、なぜこうなったのかというと、立案担当者が自分の頭で考えることができない人だったために、下請法の条文を下敷きに作ることしかできなかったからです。
 
それ以外の理由はありえません。
 
ちょっと脱線しましたが、要するに、「著しく」という文言があるかないかで、これくらい解釈が変わってしまうという先例が、転嫁法のときにすでにあるわけです。
 
そういう目で見ると、上記Q&Aも、明らかに意図的に「著しく」を省略し、1円でも安くしたら違反に問うという明確な意図をもって公表されたものであることが明らかに思われるのです。
 
しかし、いうまでもなく日本は法治国家ですから、通達で条文を書き換えるなんて、とんでもないことです。
 
この通達と同じころ、下請法の買いたたきの執行を強化する目的で下請法の運用基準と下請法テキストの改定がなされ、買いたたきの事例が大幅に増えました。
 
しかしそれでも、どの事例をみても必ず「著しく低く」と入っていました。
 
ところがこんなQ&Aのような目立たないところで「著しく」を、勝手に削除してしまっているわけです。
 
安倍内閣主導であれば何でもあり、という現政権の態度が非常によく表れていると思います。
 
こういう欺瞞をみると、下町ロケットを使った日経全面広告も、とても嘘くさくみえてしまいます。
 
また理屈で考えても、一般的に、大企業である親事業者の社内調達金利は中小企業である下請事業者の社内調達金利よりも低いので、親事業者の社内調達金利相当額を引かれても、その分早く現金が受け取れる中小企業にはお釣りがくる、とすらいえるのであり、1円でも差しい引いたら「通常」の対価より「低い」というのも、無理があります。
 
というわけで、このQ&Aは下請法の解釈を誤ったものですから、無視するほかないと考えます。
 
いまの行政はこういうことを平気でやるので、常に厳しい目で監視していかなければなりません。

2019年1月 1日 (火)

パートナー就任のお知らせ

明けましておめでとうございます。
 
1月1日付をもちまして、日比谷総合法律事務所のパートナーに就任いたしました。
 
歴史のある事務所の名前を汚さぬよう、かつ、自分らしさを失わないよう、これからも良い仕事を通じて、依頼者のみなさまのお役に立ち、社会正義の実現に貢献できるよう、精進してまいります。
 
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

2018年12月26日 (水)

無料の会員登録で付与するポイントは景品類か?

先日、とある講習会が終わったあとに質問に来られた方の質問に、
 
「オンラインゲームに無料で登録した人に、ゲームで使えるポイントを付与している。
 
取引付随性がないので景品ではないと整理していたが、消費者庁に念のため確認したら、将来の取引を誘引するので景品類に該当するといわれた。
 
おかしいのではないか?」
 
という質問がありました。
 
あくまで質問者の方からの伝聞ですので、事の真偽は確かめようもないのですが、もし消費者庁の回答がこのようなものだったとすると、私も、消費者庁の回答は間違っていると思いますし、質問者の方にもそのようにお答えしました。
 
質問者の方がご理解されていたとおり、どう考えても、取引付随性がありません(無料の登録は「取引」ではないので)。
 
パターンには、全員にポイントをあげるものと、抽選でポイントをあげるものとがありそうですが、どちらでも同じです(取引付随性がありません)。
 
もしこんなのが景品類に該当するとなると、たとえば、新聞のチラシにクーポン券をつけて、クーポン券持参者にスーパーが50円値引きする、というのも、取引付随性あり、となってしまいます。
 
新聞チラシに付けるクーポン券を、新聞社が費用を負担している(スーパーのチラシではあるものの)場合には、新聞という商品を買わせるためにスーパーで使えるクーポンを景品として付けた、ということも理屈の上ではありえますが、世の中にそのようなクーポンチラシはたぶん皆無でしょう。
 
上記質問のケースでは、そのような新聞社の存在すらなく、どこをどうたたいても、取引付随性は認められません。
 
2つめの、抽選でポイントをあげるパターンも、以前は規制されていたオープン懸賞(取引付随性のない懸賞)と同じです。
 
つまり現在では、取引付随性がない場合には、抽選で応募者に経済上の利益を提供することは、景品規制の対象外です。
 
なので、上記質問の抽選のパターンも、景品類には該当しません。
 
もう一つだけ例をあげれば、もし取引付随性がないのに将来の取引を誘引するからというだけの理由で景品類に該当してしまうとすると、むかしヤフーがヤフーBBをやりはじめたときにモデムを路上で無料で配りまくったような、取引付随性がない行為の典型として語られるようなものまで、景品類になってしまいます。
 
こういう、路上で配る物品は、取引付随性はありません。
 
たまたま手元にあった、長谷川古編『新しい景品規制』p80でも、
 
公道の歩行者を対象とするアンケート調査の回答者の謝礼とか・・・は、仮に顧客誘引手段と認められたとしても、・・・取引付随の要件に該当しない・・・ので規制されることはありません。」
 
と、はっきり書いてあります。
 
今回の消費者庁の回答の意図を忖度すると、
 
モデムはメルカリで転売できるなどそれ自体経済的価値が認められるけれど(なので、配った時点で提供が終わる)、
 
オンラインゲームのポイントはゲームで使う以外価値がので、必ずゲームをすることになるから、将来の有料ゲームという取引に付随するのだ(?)、
 
ということかもしれません。
 
つまり、オンラインゲームのポイントの提供は、実はポイント提供の時点では何も提供されていないに等しく、将来有償のゲームをする段階になってはじめて「経済上の利益」が提供されたとみなされるのだ(?)、という理屈です。
 
いろいろ無理やり考えてみましたが、でもやっぱり、これらの理屈には条文上の根拠がなく、成り立たないと思います。
 
この問題をもう少し深く考えるのに参考になるのが、
 
深町正徳「割引券の提供に関する景品表示法の考え方について」(公正取引587号、1999年)
 
という論文 です。
 
この論文では、1996年4月に行われた割引券に関する規制の変更について説明するものです。
 
簡単にまとめると、A取引に付随してB取引で使える割引券を提供する場合、変更前は、
 
①A取引に付随して割引券を「提供する行為」
 
 
②B取引において「割引券を使用する行為」(わたしはこれは、提供する事業者の側からみて、「割引券を使用させる行為」というほうが正確だと思います)
 
を分離してとらえ、②は景品類の提供にはあたらないが、①についてはあたる、と考えられていました。
 
これに対して変更後は、①も景品類の提供にはあたらないこととされました。
 
これを今回のポイント付与に応用すると、無料の会員登録者にポイントを付与する行為は、
 
①’無料の会員登録に付随(?)してポイントを「提供する行為」
 
 
②’将来ゲームをするときにポイントを「使用させる行為」
 
に分離でき、現在は①’が(有償取引との)取引付随性が認められても景品規制の対象外(②’はもともと対象外)なのだから、いわんや、無償の会員登録に付随するだけなら、景品類に該当するはずがない、ということになります。
 
つまり、将来有償行為に使用する(②)というのに引きずられて提供行為(①)が景品類の提供になるとは考えられておらず、それは運用変更前も変更後も同じだということです。
 
というわけで、いずれにしても、前記消費者庁の回答は誤り、ということになります。
 
もし消費者庁のご担当の方がこのような回答をされているなら、それはまちがいですから、改めていただきたいと思います。
 
もしそのような回答はしていないというなら、今回の記事は訂正しますのでご連絡いただければ幸いです。
 
(不確かかもしれない情報を流すのもどうかなと思いましたが、聞いたところ事実のようでしたし、きわめて実務的なインパクトが大きいと思ったので、書くことにしました。)
 

2018年12月11日 (火)

独禁法で命令を受けるリスクと調査を受けるリスク

わたしは基本的に、独禁法弁護士は、法律家として、問題の行為が独禁法上違法かどうかが判断できることが大事だし、それでほとんど足りる(それすらもできない弁護士も多い)、と考えています。
 
ですが、世の中、それだけでは足りないことも事実です。
 
というのは、企業にとっては公取委の調査を受けるだけでも、評判(取引先から取引を断られる、新卒学生が採用できなくなる、など)や弁護士費用など、大変なダメージだからです。
 
かつて調査を受けた依頼者の件も、命令がでないことはもちろん、どうみても違反になりそうにないケースでした。
 
予定どおりそのケースは、「問題なし」となりました。
 
それでもその後、その依頼者への萎縮効果たるや、すごいものがありました。
 
カルテルや談合なら、別にきわどいところを攻めなくてもビジネス上大した問題はなく、石橋を叩いても渡らないくらいでちょうどいいのかもしれません。
 
ですが、不当廉売や拘束条件付取引など垂直系の違反行為類型は、正常な競争との違いが紙一重ですから、過剰反応のマイナス効果は大きいです。
 
ホンネをいえば、調査をするかどうかは公取の勝手なので、調査を受けるリスクがあるかないかなんて、どうでもいいと思っています。
 
研究者の方が調査を受けるリスクについて分析しているのも、見たことがありません。
 
ですが、依頼者の方々からそういうアドバイスを求められる以上、それに応える必要がありますし、そういうアドバイスは実務家だからこそできるんだろうなぁ、とも思います。
 
(そいうえば、以前、私が所属する第二東京弁護士会で、独禁法の警告事例の研究発表をされた公取委出向経験のある弁護士さんの発表を聞きましたが、あれは面白かったです。)
 
それでも基本的には、公取委が関心を持つかどうかは理屈だけで割り切れないところがあるので、学問的な研究対象になりにくいし、知的達成感もありません。
 
べつに独禁法の理屈がわからなくても、ある程度経験を積めば、できてしまうアドバイスだともいえます(むしろ、理屈が邪魔をすることがあるかもしれません)。
 
ともあれ、公取委の方々には、企業の方々がそんなところに関心を持つのだということをよくご理解いただいた上で、牽制的な調査や、調査対象行為をやたらと広げることは、謹んでいただきたいと希望します。
 
ほんとうに、事情聴取でこんなことを聞かれましたというだけで、「そんなことまで公取は関心を持っているんだ」と思って、会社の人はびびってしまうのです。
 
(まあそういうときには、「公取も仕事だからいろいろ調べるけど、違反にするつもりはありませんよ」とアドバイスはするのですが。)
 
また、企業のほうも、独禁法とはどういう法律で、公取委とはどういう役所なのかを、よく理解してリスク評価をする必要があると思います。
 
お上のやることは正しいと素朴に考えている企業は、調査を受ける可能性があるならやらない、という判断をするのでしょうが、独禁法の世界でそれをやると、まともな競争ができなくなります。
 
このあたりは残念ながら、外資系企業のほうが、リスクを取りながら競争するのがうまいように思います。
 
日本企業はむしろ、違法であることが明白でも、業界慣行や政治的背景で、やめられないことが多い(やめたほうがビジネス上もメリットがあるにもかかわらず)ように思わます。
 
そのあたりが、ドライに徹しられない、ウェットで、残念なところです。

2018年11月30日 (金)

独禁法の行為無価値と結果無価値

刑法の世界には行為無価値と結果無価値の争いがあります。
 
法学部では当然のように教わることなのですが、おおざっぱにいうと、行為無価値というのは、動機や行為の悪質性なども考慮して違法性の有無・程度を判断する立場です。
 
これに対して結果無価値は、生じた結果(つまり人が死んだとか)だけに着目して違法性を判断すべきだという立場です。
 
独禁法の世界でも、似たようなことが議論になることがあります。
 
つまり、競争に与えた影響だけを基準に違法性を判断すべきというのが結果無価値的な発想で、行為の動機や悪質性も考慮すべきだというのが行為無価値的な発想です。
 
ところが、公取委の実務では、行為の悪質性だけが(あるいは、悪質性が過度に)違法性判断で考慮されているフシがある、とわたしはニラんでいます。
 
行為と結果の因果関係を重視しない、というのも行為無価値的発想のあらわれといえます。
 
ですが刑法の行為無価値は、けっして、行為の悪質性だけで違法性を判断する立場ではなく、行為の悪質性も考慮するという立場です。
 
ところが公取委の立場は、前述のように、行為の悪質性を専ら考慮または過度に重視しているように思われます。
 
しかも、刑法の場合には、刑法の目的とは、とか、法と道徳の違いとは、といった、深刻な(まじめな)法哲学的対立があるのですが、公取委実務の場合、そのような深遠な議論があるわけではありません。
 
それよりも、私の目から見ると、「こいつはけしからん!」と審査官や委員の方が思って、どれくらい血圧が上がったか(←比喩です)、というのが違法性の基準になっているような気がしてなりません。
 
さらに問題なのは、公取委が違法性を語る場合、経済学的な発想がぜんぜんなかったりします。
 
たとえば他者排除が生じる場合のメカニズムとしては、経済理論上は、競争者の直面する需要曲線を左にシフトさせるか(残余需要を減らす)、あるいは、競争者の費用曲線を上方シフトさせる(ライバル費用の引き上げ)のどちらかなわけですが(グラフをかけばすぐわかります)、そのどちらであるのかすら意識されていないことが多いように思います。
 
(消費者余剰を減らすメカニズムとしてはもう一つ、需要曲線もコストも不変のまま、需要曲線上を移動する、というメカニズムがあり、これは協調促進的行為や競争緩和的行為の場合に問題になります。)
 
それは、関係者に対する質問の内容や、アンケート調査の選択肢などをみればわかります。
 
こういうのをみると、「審査局って、何も分かってないんだなぁ」と思って、がっかりします。
 
話を元に戻すと、公取委の行為無価値的発想の問題は、結果(反競争効果)を軽視しすぎる点です。
 
もう1つの問題は、結果軽視と関連しますが、公取委が、少なくとも審査局レベルでは、経済学をまったく理解していないことです。
 
どのように反競争効果が生じるかというメカニズムは、経済学の知識があると、手に取るようにわかる(2つのメカニズムがはたらくときは、その区別もつく)のですが、審査局レベルでは、そういう知識の片りんもありません。
 
とくに、垂直的制限や排除系の事件をやっていると、そう思います。
 
審査の発想が、反競争性の立証が不要な談合や優越と同じなのです。
 
談合や優越ばっかりやっていると、頭がそういうふうになっちゃうんだろうなぁ、と、しみじみ思います。
 
経済学を分かったうえで行為の悪質性を云々するならまだわかりますが、そもそも分かっていないので、話が通じません。
 
心当たりのある審査官の方は、ぜひ、経済学を勉強してください。
 
あるいは、垂直や排除系の事件のチームには、エコノミストを入れるべきだと思います。
 
それも、産業組織論がある程度わかっているエコノミストを入れるべきです。
 
(経済学者の委員をふくめ、公取委に来るエコノミストのすべてが産業組織論の専門ではありません。日本に産業組織論の専門家は少ないし、そもそも辞めたあとのキャリアが保証されるような役所でもないので、公取に入ってから一生懸命産業組織論を勉強するエコノミストも少なくないと思います。)
 
独禁法の弁護士が経済学を知らなくても、困るのはその依頼者だけですが、公取委の審査担当者が経済学を知らないと、割を食うのは全国民です。
 
審査担当の方には、それくらいの覚悟を持って、審査に臨んでいただきたいと思います。

2018年11月28日 (水)

公取委への事情聴取への苦情申し立て

独占禁止法審査手続に関する指針には、「任意の供述聴取に関する苦情申立て」という制度があります。
 
これは、任意の事情聴取(つまり、ふつうの事情聴取)について、
 
「聴取対象者等が,聴取において本指針「第2 2 供述聴取」に反する審査官等の言動等があったとする場合には,当該聴取を受けた日から1週間以内に,書面により,公正取引委員会に苦情を申し立てることができる。」
 
というものです。(第2-4)
 
ここで「第2 2 供述聴取」の「(3) 供述聴取における留意事項」のアでは、
 
「ア  供述聴取を行うに当たって,審査官等は,
 
威迫,強要その他供述の任意性を疑われるような方法を用いてはならない。
 
また,審査官等は,
 
自己が期待し,又は希望する供述を聴取対象者に示唆する等の方法により,
 
みだりに供述を誘導し,供述の代償として利益を供与すべきことを約束し,その他供述の真実性を失わせるおそれのある方法を用いてはならない。」
 
とされています。
 
よって、これら威迫や誘導があった場合は、申立の理由あり、ということになります。
 
公取委ホームページの説明ページでは、これをわかりやすく、
 
「(1) 供述聴取時の手続・説明事項に関するもの
 
(例)供述聴取開始までに任意である旨の説明がされなかった。
 
(2) 威迫・強要など審査官等の言動に関するもの
 
(例)違反事実を認めるまで部屋から出さないと言われ,強引に供述を迫られた。
 
(例)審査官等が期待する供述を行う代償として利益を供与することを示唆された。
 
(3) 聴取時間・休憩時間に関するもの
 
(例)同意なく一日につき8時間(休憩時間を除く。)を超える聴取が続けられ,帰りたいと申し出ても帰してもらえなかった。
 
(4) 供述調書の作成・署名押印時の手続に関するもの
 
(例)署名押印をする前に,審査官等による調書の読み聞かせが行われず,閲読もさせてもらえなかった。
 
(例)調書の訂正を申し立てたが,訂正が行われず,審査官等から訂正しない理由について何ら説明なく訂正しないまま,署名しろと言われた。」
 
とまとめています。
 
これらの説明の「(例)」の中に、実務では最もありがちで指針には明記されている、供述の誘導が含まれていないのはまことに不適切だと思いますが、それは措きます。
 
(こういうのはとても意図を感じますし、法律の世界は何でも条文にあたらないと役所にいいようにされる、という思いを強くします。)
 
苦情申立は聴取日から1週間とされていますが、上記説明ページでは、
 
「ただし,聴取日から一週間以内に,当該審査官等を指揮・監督する審査長等に対して苦情を申し入れており,その後に本制度に基づく苦情申立てを行うときは,当該期間経過後であっても行うことができます。」
 
ということになっています。
 
ごていねいに申立書の様式が準備されていますが(同じページにリンクがあります)、必ずこの書式で出さないと受理されないということもないのでしょう。
 
聴取の場所の記載例は、
 
「公正取引委員会8階 審査局A会議室」
 
などとなっており、そんなことまでふつうは聴取時にチェックしていないはずです。
 
もちろん、ここまで細かく書かなくても何の問題もないでしょう。
 
そもそも同じ役所なのですから、担当の審査局に聞けばすむ話です。
 
なお提出先は14階の官房総務課です。

2018年11月11日 (日)

共同研究の成果の特許等の実施料の取り決め

共同研究開発ガイドライン第2-2(2)③では、
 
「成果の第三者への実施許諾に係る実施料の分配等を取り決めること」
 
が、原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項とされているます。
 
たとえば、A社とB社が共同研究をして開発した特許をライセンスする場合、そのライセンス料を50%ずつで分け合うことを合意することは、問題ない、ということです。
 
ではその前提として、そもそもライセンス料を両社共同で決めることについては問題ないのでしょうか。
 
このことについてはガイドラインには明記されていないのですが、ガイドラインの立案担当者による、平林英勝編著『共同研究に関する独占禁止法ガイドライン』p91に、
 
「成果の貢献に応じた実施料の分配の前提として、必要な範囲で成果の第三者への実施に係る実施料を取り決めることは問題ないと考えられよう。」
 
と、問題ないことが明記されています。
 
分配のやり方の合意が問題ないのだから、そもそものライセンス料を決めることも問題ないことが当然の前提になっているのでしょうし、1つの権利(商品)であるからには1つの価格をどうやったって決めざるをえず決める以上は共同で決めるしかない(ここだけカルテルを気にして価格決定をA社に委ねるなんていうのはナンセンス)のですから、当然の結論だと思います。
 
こういうあたりまえのことでもきちんと書いておいてもらえると、とても助かります。
 
ただ欲を言えば、こんな大事なことはガイドライン本文に書いて欲しいものです。
 
価格を共同で決めることを白条項とすることに抵抗があったのかもしれませんし、うっかり入れ忘れたのかもしれませんが、ともかく、成果の権利自体の許諾価格(販売価格)を共同開発者間で合意することは問題ありません。
 
もしそれが許されないとしたら、元々の共同研究開発参加者の市場シェアが高くて、そもそも共同研究開発自体が独禁法違反だ、という場合くらいでしょう。
 
注意すべき点は、権利自体の許諾価格は共同で決めて良いけれど、権利を用いた商品の価格を共同で決めることは黒条項とされていることです(ガイドライン第2-2(3)ウ)。
 
これは、いわば再販売価格拘束のようなものなので、黒条項なのも当然です。
 
ところで、日本には競争者間の協力に関する一般的なガイドラインがないので、この共同研究ガイドラインがいろいろなところで役に立ちます。
 
そういう観点からこのガイドラインをながめてみるといろいろと気づくことが多いです。

2018年10月12日 (金)

東京都の措置命令事件に消費者庁が課徴金を課した事例

ストッキングをはくだけで脚が細くなるなどの不当表示をして東京都から措置命令を受けていた(株)ギミックパターンという会社に対して、消費者庁から課徴金納付命令がなされました
 
都道府県知事には課徴金納付命令の権限がないので、都道府県が調査した案件に課徴金を課すべきことがわかったときにはどうするのか気になっていたのですが、この点については、2014(平成26)年8月26日第170回消費者委員会本会議において、白石座長代理から、
 
「都道府県知事には措置命令権限はあるが課徴金権限がないということは、その事件については消費者庁が受け取って課徴金の手続をするということになるのでしょうか。
 
非裁量制なので必ず手続に入るということなのか、どうなのか、その点を伺えればと思います。」
という質問があり(議事録p14)、これに対して、消費者庁松本課徴金制度検討室企画官から、
 
「・・・今、考えているのは、課徴金納付命令に関する手続については、消費者庁で行うということでございますので、仮に都道府県における措置命令において課徴金を課すべき対象があるとすれば、これは消費者庁のほうで対応していくことになるかと思います。」
 
という回答がなされていました(p15)。
 
さらに続けて河上消費者委員会委員長から、
 
「基本的には、措置命令と課徴金に関する手続というのは、別個に動いていると理解することになるのですか。」
 
という質問がなされ、これに対して消費者庁菅久審議官から、
 
「考えておりますのは、例えば都道府県が調査している場合。
 
1 つは、今回の法改正を受けて都道府県が担当するのは県域内の違反行為となりますので、そもそも規模基準とかいろいろ考えますと、課徴金の対象になるものが少ないのではないかと思っています。
 
ただ、都道府県が調査した途中の段階で、これが措置命令の後、課徴金納付命令の対象になり得ると判断した場合には、消費者庁にそこで通知ないし知らせてもらうと。
 
そこから先、消費者庁が調査する。つまり、措置命令を都道府県が出して、その後受け取って課徴金額を計算するというのは実務上、非常にやりにくいですので、むしろ途中の段階でわかった場合には、消費者庁のほうに移管なり連絡をしてもらうことを想定しています
 
ただ、実際上は県域内の違反行為にとどまりますので、都道府県の対象の事件で課徴金納付命令の対象になるものは少ないのではないかと思っております。」
 
という回答がなされていました(p15)。
 
こういう回答があったので、私はてっきり、都道府県が調査した案件で売り上げ規模が課徴金対象となるくらいに大きければ消費者庁に移管されるのだと思っていました。
 
でも今回のギミックパターンの処理をみると、東京都で措置命令まで出して、課徴金だけ消費者庁がかける、というようになっています。
 
法律上は、課徴金対象となるくらい違反売上が大きい事件に都道府県が措置命令を出していけない理由は何もないですし、大型事件は消費者庁に移管するあつかいにすると、かえって都道府県は小粒の事件しか扱えなくなってしまって、実質的には改正により権限が縮小してしまったようになり妥当ではありません。
 
なので今後は、本件のように、都道府県で措置命令を出して、消費者庁が課徴金納付命令を出す、という運用が定着するのではないかと思われます。
 
それから菅久審議官の
 
「今回の法改正を受けて都道府県が担当するのは県域内の違反行為となります」
 
という部分も、考えてみるとそのようなしばりは法律上なにもなくて、公表された東京都の措置命令概要をみても、ギミックパターンの不当表示は同社ウェブサイト上のものなので、違反行為が東京都内に限って行われたというわけではありません。
 
おそらく被害者が東京都に集中しているということもないでしょう。
 
同社の所在地は東京都ですが、それはどの都道府県が(あるいは消費者庁と都道府県のいずれが)処理すべきかという問題とは、あんまり関係ないでしょう(執行のしやすさという意味では関係ありそうですが)。 
 
この事件は課徴金額も8480万円と、けっこうな金額です(三菱自動車の4億8507万円、プラスワン・マーケティングの8824万円についで、歴代3位です)。
 
というわけで、この事件は都道府県でも大きな事件を摘発するんだという先例となるものであり、大変意義深いと思います。 
 
でも考えてみると、大型案件は消費者庁に移管、というのは、消費者庁の都合なのであって、都道府県にしてみらたら、せっかく内偵までして手間暇かけて調査したのに、課徴金がかかるとわかったとたんに手柄をぜんぶ消費者庁に取られてしまうわけで、そんな制度だと都道府県のやる気が萎えてしまうと思います。
 
また、都道府県が仮に消費者庁に移管しても、措置命令もまだ出ていないわけですから、消費者庁が握りつぶしてしまう(というと聞こえは悪いですが、注意にとどめる)ということも、可能性としてはありうるわけです。 
 
これに対して都道府県が措置命令まで出してしまえば、課徴金は義務的ですから、消費者庁はどうしたって課徴金を課さざるを得ないでしょう。
 
つまり、今回のような運用だと、都道府県が掘り起こした案件を消費者庁が握りつぶしてしまう(あるいは、注意にとどめてしまう)ということができないわけです。
 
というわけで、この、措置命令の権限を都道府県に与えつつ、課徴金は消費者庁でしかも義務的、という制度は、正式事件の掘り起こしという意味では、じわじわと効いてくる制度なのかもしれません。

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