『米国反トラスト法実務講座』発刊のお知らせ

このたび、公正取引協会から、

『米国反トラスト法実務講座』

を出版させていただくことになりました。

はじめての単著です!

_

以下、その概要です。

【発行日】2017年11月22日(水)

【ページ数】396ページ

【ISBN】978-4-87622-017-5

【価格】本体4,000円+税

もともとが公正取引での「反トラスト法実務講座」という連載をもとにしたものなので、意図としてはまさに講座(レクチャー)であり、実務的な観点から反トラスト法を全体的に学びたいという人むけなのですが、実はわたし自身この原稿を仕事の中で何度も参照したり、それをもとに原稿を加筆したりしてたので、実務の手引きとしても便利なのではないかと思います。

思い返すと、今の自分があるのも、連載をふくめ、この本を書く中でいろいろ調べたり考えたりしたことが大いに役に立っているように感じます。

そういった意味でも、今の自分の集大成のような本になったと思います。

書店で手に取って気に入った方は、ご購入いただけるとうれしいです。

2017年11月20日 (月)

おとり広告告示運用基準の在庫一括管理に関する規定について

おとり広告告示運用基準では、

「高額な耐久財等について全店舗における販売数量が一括管理されており、全店舗における総販売数量に達するまではいずれの店舗においても取引する場合には、その旨の表示がなされていれば足りる〔おとり広告とはみなさない〕(運用基準第2-2(3))

とされています。

しかし、わたしはこれはおとり広告告示の解釈としておかしいと思います。

これにしたがうと、たとえば冷蔵庫などを他の店舗から取り寄せる体制が整っている場合でも、そのような体制をとっているという事実(「その旨」)を明示しなければならないことになってしまいます。

ですが、在庫の一括管理体制をとっている場合に、そのことをいちいち明示しなければ不当表示になるというのは、あきらかに行き過ぎです。

現にそのような体制がとられているのであれば、消費者には何の不利益もないし、社内でどんな体制をとっているかなんて消費者は関心ないし、ある意味営業秘密でもありうるわけですから、知らせる必要もありません。

もし違いがあるとすれば、冷蔵庫をその日のうちに持って帰りたいという顧客もいるじゃないか、ということかもしれませんが、そんな顧客はかなり少数派のはずです。

運用基準があえて、

「高額な耐久財等」

と例示しているのも、その場で自分が持ち帰ることがあまり考えられない、テレビとか冷蔵庫とか家具のようなものを想定しているのでしょう。

それに、「その日のうちに持って帰りたい客が持って帰れない」から、「おとり広告だ」というのは無茶です。

もし広告で「その日のうちにお持ち帰りできます!」と強調していたのに持ち帰れなかった場合には有利誤認表示になるかもしれませんが、それはおとり広告とは別の話です。

と、実質論をいろいろと述べてみましたが、それだけでは法解釈として心もとないので、おとり広告告示の文言をみてみましょう。

おとり広告告示では、

「一般消費者に商品を販売し、又は役務を提供することを業とする者が、

自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を除く。)に顧客を誘引する手段として行う

次の各号の一に掲げる表示

一 取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は役務についての表示

二 取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示

三 取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示

四 取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその商品又は役務についての表示」

が、おとり広告であると定義されています。

ぼーっとながめてみただけでも、在庫一括管理している場合は、「取引に応じることができない」(1号)とか、「供給量が著しく限定されている」(2号)とか、「取引の成立を妨げる行為」(4号)とかにはあたらなそうです。

3号の「供給期間」「相手方」「一人当たりの供給量」は、限定列挙なので、在庫一括管理はこれにもあたりようがありません。

というわけで、在庫一括管理に関する前記運用基準の記載は、告示にまったく根拠がありません。

さらに理論的に重要なのは、告示の柱書で、

「自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を除く。)に顧客を誘引する手段として行う」

ということが、おとり広告の要件になっていることです(手段性の要件)。

在庫一括管理の場合に、

「冷蔵庫を買いにきたお客さんに、冷蔵庫をあきらめさせて、テレビを買わせてやろう」

なんて考えているはずはないので、この手段性の要件は満たしません。

というわけで、運用基準を作った人は、告示の条文を読んでいなかったのではないか?と疑われます。

きっと、なんとなく筆が滑っちゃったんでしょうね。

あるいは、手段性の要件を忘れてしまって、その店に在庫が足りない場合がすべておとり広告になる、と勘違いしていたのかもしれません。

景表法関係の運用基準や当局の古い解説には、このような、「条文読んでない」というレベルのものがちらほらみられるので、注意が必要です。

行政というのは、条文を忠実に執行しようというだけではなくて、条文ではグレーなところでも、解釈や運用で(行政効率も含めた意味での)妥当な執行を実現していこうとすることが、ままあるように思われます。

もちろん、それが一概に悪いわけでもないと思います。

ですので、今回取り上げた運用基準も、条文を読んでないのではなくて、わかっていながら確信犯でやった、という可能性も、ないではありません。

でもやっぱり、在庫一括管理していること(店には在庫がないかもしれないこと)を積極的に表示させることで実現される行政目的なんて何もないと思われます。

なので、やっぱり、私は「条文読んでなかった」のではないか、とニラんでいます。

2017年11月19日 (日)

おとり広告の手段要件について

おとり広告告示では、おとり商品の供給量が著しく限定されている場合(運用基準では、予想販売量の半分にも満たない場合)など、おとり広告にあたる場合が4種類限定列挙されています。

若干注意を要するのは、これら4つの場合にあたれば必ずおとり広告にあたるのではなく、さらに、

「自己の供給する商品又は役務の取引・・・に顧客を誘引する手段として行う」

ということが、おとり広告の要件とされていることです。

これを、「手段性の要件」ということができると思います。

なので、自己が販売する別の商品に誘引する意図がなければ、おとり広告は成立しません。

たとえば、もともと1種類の商品しか販売していない事業者が、予想販売数の半分に満たない在庫しかないことを認識しながらその商品の広告をしたとしても、ほかに買わせる商品はないので、おとり広告にはあたらないことになります。

しかも、現行法はおとり広告は有利誤認にはあたらないという整理なので(だからこそ、5条3号の指定告示として指定されているわけです)、このようなおとり広告にあたらない広告を、有利誤認にあたるというのも、難しいんじゃないかと思います。

もちろん、お客さんに不満を持たれないためには、数が限定されていることを広告で明記するのが望ましいのでしょう(そうすると、もっとお客さんが殺到するかもしれず、なやましいところですが)。

ひとつ言えることは、もし商品が売り切れてしまって、お客さんが、

「これはおとり広告じゃないのか?」

と騒ぎ出したら(あるいは、消費者庁や国民生活センターにかけこまれたら)、「そうじゃありません」ということは、自信をもって(?)回答できます。

ただ、実際には、クレームをいうお客さんに理屈で反論すると火に油を注ぐし、売り切れになって不満を持たれるのは理解できるので、謝りたおすしかないのでしょうけれど。

少なくとも弁護士(あるいは法務部)として、このような事例がおとり広告にあたるというアドバイスをすることは、避けなければなりません。

単一商品の事業者の場合は、このように他の商品に誘引する意図がないことがあきらかなのでわかりやすいですが、複数商品を販売する事業者でも、理屈は同じです。

ということは、あまり「ついで買い」が想定されないような業種の場合には、広告を打った人気商品の在庫が十分でなかったために、結果的に品切れになったとしても、まさにその「おとり」商品を販売するために広告をしたのであって、お店に来た消費者に別の商品を買わせるつもりで広告したのではない、というのであれば、おとり広告にはあたらない、ということが十分にありそうです。

たとえば、アップルウォッチの広告をみてお店にきたお客さんが、品切れだからといって、かわりにiPhoneを買うのか?(あるいは、店員がiPhoneをすすめるのか)ということです。

このように考えてみると、この手段要件というのは案外盲点かもしれません。

2017年11月16日 (木)

原産国告示の構造

原産国告示は、1項が国産品、2項が外国産品、というように分けて規定されていますが、その内容は非常に似ているものの、少しだけ違います。

まず国産品についての1項は、

「1  国内で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、その商品が国内で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの

一 外国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示

二 外国の事業者又はデザイナーの氏名、名称又は商標の表示

三 文字による表示の全部又は主要部分が外国の文字で示されている表示」

が、不当表示だとしています。

これに対して外国産品についての2項は、

「2 外国で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、その商品がその原産国で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの

一 その商品の原産国以外の国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示

二 その商品の原産国以外の国の事業者又はデザイナーの氏名、名称又は商標の表示

三 文字による表示の全部又は主要部分が和文で示されている表示」

が不当表示だとしています。

どうして書き分ける必要があったのかと思うくらい似ていますが、ちがいは各項の3号です。

つまり国産品(1項)では、外国語(非日本語)かどうか基準になっていて、外国語であれば不当表示になりえます。

これに対して外国産品(2項)では、当該原産国(たとえば中国)の文字ではない文字(たとえばフランス語)で記載されている場合がすべて不当表示になりうるのではなく、たとえば中国産品に和文の文字表記をした場合にかぎって不当表示になりうる、ということになっています。

中国製ワインにフランス語の表記があって、フランス産ワインと誤解されそうな場合も不当表示にしてよさそうなものですが、そうはなっていません。

指定告示なので、明確さを優先したのでしょうか。

あるいは、文字で原産国に誤解が生じるのは、「国産品→外国語表記」、「外国産品→和文表記」の場合に限られるのだ、と割り切ったのかもしれません。

たとえば、外国産品についても、その国の文字以外を用いてはいけないということになると、フランス産ワインに英語表記をすることが不当表示になってしまいそうですが、英語は万国共通語になっていますので、それは行き過ぎでしょう。

だけどさすがに国産品として偽るために和文表記にしているものは取り締まらないといけないだろう、という発想なのでしょう。

とはいえ、各項の1号、2号とのバランスを考えると、なぜ2項の3号だけが甘いのか(外国間の文字の違いは不問に付すのか)、疑問が生じるかもしれません。

デザイナー名を別の国のものにしてもだめですが、ドイツとオーストリアのデザイナーとか、中国と台湾のデザイナーなんて、名前だけでは区別できなさそうです。

それでも指定告示は形式的なので、デザイナー(たとえばオーストリア人)が原産国(たとえばドイツ)の人ではない場合には、そのデザイナーの名前を表示すると、原産国(ドイツ産)がわかるように、積極的に表示しないといけないことになってしまうのです。

これが、1・2項後段の

「その商品が国内〔その原産国〕で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの」

ということの意味です。

このように、原産国告示は、

①各号記載の表示は原則として不当表示

②①があれば、原産国を明記しなければならない、

という、二段ロケット方式になっているのです。

②が、積極的な義務付け規定になっているのがポイントです。

そもそもすべての商品について原産国を積極的に表記しなければならないという法律はありませんが、1・2項の1~3号の表示をする以上は、原産国を明記しないといけない、ということになるのです。

ただ、形式的には1~3号にあたる表示でも、そこから、原産国をまったく想起できないようなものなら、そもそも誤解は生じないので不当表示にも当たらないと解釈されています。

利部修二『商品の原産国表示の実務』

のp23で、国産品について、

「(ただし、国産品でありながら外国産品と紛らわしい表示がなされている商品に限られ、もともとそのような表示がなされていない国産品については、その旨の表示は何ら必要とならない)。」

とされています。

ちなみに1項と2号を仮にまとめて原産国を「A国」とでもすると、原産国告示は、

「A国で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、

その商品がA国で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの

一 A国以外の国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示

二 A国以外の国の事業者又はデザイナーの氏名、名称又は商標の表示

三 文字による表示の全部又は主要部分がA国以外の文字(ただし、A国が外国の場合は和文)で示されている表示」

となり、やはり書き分けた理由は3号しかなさそうです。

2017年10月20日 (金)

【お知らせ】百選が出ました。

有斐閣から

『経済法判例・審決百選[第2版]』

が出ました。

Img_0996

わたしは71番の「対面販売義務の公正競争阻害性」で、資生堂・花王事件について解説を書いております。

百選は以前、『英米法判例百選』にも解説を書かせていただいたのですが、司法試験受験生のころに百選で勉強していたころを思い返すと(当時経済法は受験科目ではありませんでしたが)、ずいぶんと時間もたったものだなと感慨深いものがあります。

百選という、基本的には学生さん向けの教材ではありますが、学説を整理しただけのありふれた解説ではなく、問題の本質がわかるように気を付けて書いたつもりです。

ご興味のある方はぜひ、ご一読ください。

2017年10月10日 (火)

村田園万能茶事件と原産国告示

村田園の万能茶に対する措置命令(平成28年3月10日)では、

「日本の山里を思わせる風景のイラストの記載」

が、原材料が国産であるかのように誤解させる表示であるとされて、「そんなものまで不当表示の対象になるのか」と話題になったのですが、こういう、イラストまで「不当表示」にあたるという解釈についてはいろいろと異論もありうるところかと思います。

この点で興味深いのが原産国告示の規定です。

原産国告示1項1号では、国産品について、

「外国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示」

が、2項1号では、外国産品について、

「その商品の原産国以外の国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの
表示」

が、それぞれ、原産国をまぎらわしくする表示として規定されています。

この規定について、

利部修二編『商品の原産国表示の実務』(1974年商事法務研究会)

のp53では、

「どの国かがすぐわかる地図はこれ〔国名、地名、国旗、紋章等〕に含まれるが、人物、風景の絵などは含まれない

(公聴会で、これを含めるべきであるとの意見もあったが、明確な判定ができないので、含めないことにした)」

と説明されています。

つまり、風景についても議論はあったけれど、風景はどの国の風景か明確に判定できないので、意図的に告示の対象外にした、ということです。

たしかに、形式的で迅速な執行が肝(きも)である指定告示の場合と、一般の優良誤認表示の場合を同列に論じることはできませんが、当局の考え方も40年以上たつとずいぶん変わるもんだなぁという印象はぬぐえません。

わたしも講演などでは、

「村田園の風景のイラストがどうして『日本の山里』とわかるのか。韓国や中国かもしれないじゃないか」

と半分冗談でいうのですが、原産国告示の制定時には同じような問題意識があったわけですね。

もう少しまじめにいうと、村田園事件では、「阿蘇の大地の恵み」という文字とセットになっているので、(韓国や中国ではなく)日本の風景だという印象をあたえる、ということなのでしょう。

でも、原産国告示の制定過程の議論のほうが、わたしは、実用的な法律論としては据わりがよいと思います。

なので、「どの国かは風景の絵からはわからない」という原産国告示制定時の議論の趣旨は、優良誤認表示の場合にも十分に参酌すべきだと思います。

指定告示と優良誤認の違いという点も、指定告示の場合には「著しく優良と誤認」という要件の立証が不要だ(景表法5条3号は「誤認させるおそれ」でたりるので)とはいえても、そもそも事実と異なる表示なのかどうか(韓国の山里か、日本の山里か)という点は、両者で判断の仕方を変える理由はないように思います。

最近、どうも長年積み上げてきた実務の知恵を杓子定規な論理でひっくり返すことが多いような気がします。

工業製品は純粋美術と同視できるもののみ著作権で保護されるという従来の判例をくつがえした知財高裁のトリップ・トラップ事件判決(平成27年4月14日)が、よい例です。

景表法の分野では、不実証広告規制の条文には商品の効果・効能に関する不当表示にかぎって同規制を用いることができるという明文の限定がないことを理由に、不実証広告規制のガイドラインを超えて、シェアについて不実証広告規制の適用をしたフリーテルへの措置命令(平成29年4月21日)なんかも、そんな例でしょう。

不実証広告規制のほんらいの趣旨は、商品の性能・効果について消費者庁が立証しないといけないとすると多大な費用と時間がかかるので、一般の立証責任の原則の例外として、事業者側に立証責任を転換する、というものであったはずです。

そういう趣旨からすれば、優良誤認全般について立証責任を転換するかのようなフリーテルの措置命令は問題です。

たとえば二重価格表示を摘発するためには、これまでは消費者庁が店頭での価格表示を見張るなどする必要があったわけですが、今後はそのような必要もなく、事業者の側が価格の変動に関する資料を準備しておかないといけないことになります。

(ただこれはあくまで理屈の話であって、事業者がうそをつく可能性を考慮するなら、実務上は、けっきょく消費者庁は店頭で価格の変動を見張っておく必要があるのだということになると思います。

フリーテルの事件でも、実は消費者庁はシェア立証の準備か、すくなくとも明らかなうそを見破れる程度の各社のシェアの調査くらいはしていたのかもしれません。)

ほかにも、法律解釈ではないですが法治国家のあり方に関係する問題として、安倍首相が、

従来の慣例を無視して日弁連推薦の候補者ではない、実質的には学者の弁護士を最高裁判事に任命したり、

安保法制を合憲と解釈させるために、法制実務には素人の外務省出身者(元フランス大使)を内閣法制局長に任命したり、

憲法53条には

「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」

とされているだけで召集期限は定めてないと言い放ってずるずると召集を遅らせたり(ひいては、民進党が山尾志桜里議員のスキャンダルでガタガタになったのをみるや国会召集して冒頭で解散したり)、

とかいうのも、「法律上明文で禁じられていないなら何をやってもいいだろう」という発想があるように思われてなりません。

話がだいぶそれましたが、要するに、法律は文字に書かれていることがすべてではない、ということです。

法律の精神、心というものを忘れてはいけません。

長年積み重ねられてきた実務にはそれなりの合理性があることが多いものです。

英米法の先例拘束性も、そういう人類の知恵でしょう。

なので、長年の実務をくつがえすには、それなりの理由があるべきだと思います。

優良誤認表示の定義には限定はないので風景のイラストも含まれる、というのは、形式論としては正しいですが、私には、原産国告示制定時の議論のほうが、執行の明確性や事業者の表現の自由に対する配慮があり、文字に落とし込めない法律の心をくみ取ろうとしている点で正しいものがあるようにみえます。

少なくとも、イラストを含めるかどうか議論してあえて外すという判断をしたというのは、とても成熟した大人の判断であったと思います。

村田園は本件について係争中のはずですので、いずれ出る裁判所の判断に注目したいと思います。

2017年10月 5日 (木)

包装に不当表示のある商品をならべた小売店の責任

メーカーが作成した商品パッケージに不当表示があった場合、その商品を、そのまま店頭で並べた小売店も、不当表示の責任を負うのでしょうか。

この問題については消費者庁ホームページのQ&Aの6番で、

「製造業者がその内容を決定した表示が容器に付けられた商品を小売業者が仕入れ、それをそのまま店頭に並べ、消費者がその表示を見て商品を購入した場合、容器に付けられた表示に不当表示があったとき、小売業者も表示規制の対象になるのでしょうか。」

という質問に対して、

「表示の内容を決定したのが製造業者であり、小売業者は、当該表示の内容の決定に一切関与しておらず、単に陳列して販売しているだけであれば、当該小売業者は表示規制の対象にはなりません。」

と、明確に回答されています。

パッケージに不当表示があっても、商品を並べているだけの小売店は不当表示の主体にはならない、ということですね。

でも、これが当然の、唯一絶対の解釈か、というとそういうわけでもありません。

小売店も、表示の存在を認識しながら自己の責任でその商品を販売しているのだから、責任を負うべきだ、という考え方もありえます。

ちょっと古い文献ですが、

利部修二編『商品の原産国表示の実務』(1974年商事法務研究会)

という文献では、「不当な表示の責任主体」という表題のところで、

「不当な表示のされている商品を販売している小売業者もその商品を陳列することによって自らもその不当表示をしていることになる。」

と、断言しているのです!(p82)

さらに続けて、

「しかし、行政的には、実際にその表示を施したメーカーに対して是正措置を命ずるのがもっとも効率的であるし、それによって不当な表示の排除という目的が達せられるので、通常メーカーに対してのみ法的措置を命じている。」

と、小売業者が命令の対象にならないのはあくまで行政効率上の理由にすぎない、とダメ押しされています。

昔の公取委はこういう解釈をしていたのですね。

条文の解釈としては、景表法5条柱書の、

「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。」

でいうところの、表示を「し」というのはどのような行為をさすのか、という問題です。

現在の消費者庁の見解は、表示の内容の決定に関与することが表示を「し」にあたる行為だし、昔の公取委の見解は、自分の責任でその表示を店に並べることでも表示を「し」にあたる、ということなのでしょう。

たしかに、「し」という文言だけをながめてもこたえはでなさそうですし、自分の店に並べているのに何も責任を負わないというのでいいのかといわれると、たしかに昔の公取委の見解のほうが合理性があるような気もしないではありません。

不当な表示を消費者の目に触れさせないようにするという措置命令の目的からしても、消費者に一番近い小売店のところで首根っこをおさえたほうが効率的だ、という場合もありえないではありません。(たとえばメーカーが悪徳業者で、夜逃げしてしまったような場合。)

この論点は、実務的にはベイクルーズ事件で決着がついたところですが、上記公取のような解釈も昔はあった、ということは知っておいてよいと思います。

少なくとも、条文の文言をながめても一義的に答えの出ない、実は奥の深い問題なのだ、ということは納得できます。

2017年9月28日 (木)

電磁的方法で交付された3条書面の交付時期

下請法の3条書面(発注書)は電磁的方法でも交付できますが、その場合、いつ交付されたことになるのでしょうか。

常識的な感覚からすると、書面で交付するときには物理的に下請事業者に到達した時点(見た時点ではなく)が交付の時点なので、メールで送付した場合には下請事業者がメールを受信した時点(開いた時点ではなく)が交付の時点となりそうですが、実はそれほど単純ではありません。

というのは、

①どこまでやったら3条書面交付義務を果たしたことになるのか、

という問題と、

②いつの時点で交付したことになるのか、

という問題が、密接に関連しながらも微妙にずれているからです。

しかもこの2つの問題のどちらを議論しているのかを意識しないと、ますます議論が混乱します。

(この点についてのポイントを先に言うと、下請法では①だけが問題なのであり、②は問題にする必要がありません。②が一義的に決まるはずという前提のもとで①を論じるから、混乱が生じるのです。)

条文を確認していきましょう。

まず、下請法3条2項では、

「親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令〔下請法施行令2条〕で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、

当該書面に記載すべき事項

電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則〔3条規則2条〕で定めるもの

により提供することができる。

この場合において、当該親事業者は、当該書面を交付したものとみなす。 」

とされています。

そして、下請法施行令2条(情報通信の技術を利用する方法) では、

「1   親事業者は、法第三条第二項 の規定により同項に規定する事項を提供しようとするときは、公正取引委員会規則〔3条規則2条〕で定めるところにより、

あらかじめ、当該下請事業者に対し、その用いる同項前段に規定する方法(以下「電磁的方法」という。)の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。

2   前項の規定による承諾を得た親事業者は、当該下請事業者から書面又は電磁的方法により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、当該下請事業者に対し、法第三条第二項に規定する事項の提供を電磁的方法によってしてはならない。

ただし、当該下請事業者が再び前項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。」

とされており、3条規則2条では、

「法第三条第二項 の公正取引委員会規則で定める方法は、に掲げる方法とする。

一   電子情報処理組織を使用する方法のうちイ又はロに掲げるもの

イ 親事業者の使用に係る電子計算機と下請事業者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、

受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法

ロ 親事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された書面に記載すべき事項を電気通信回線を通じて下請事業者の閲覧に供し

当該下請事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該事項を記録する方法

(法第三条第二項 前段に規定する方法による提供を受ける旨の承諾又は受けない旨の申出をする場合にあっては、親事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルにその旨を記録する方法)

二   磁気ディスク、シー・ディー・ロムその他これらに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに書面に記載すべき事項を記録したものを交付する方法

2   前項に掲げる方法は、下請事業者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものでなければならない。

3   第一項第一号の「電子情報処理組織」とは、親事業者の使用に係る電子計算機と、下請事業者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。」

とされています。

電子メールによる交付は3条規則2条1項1号イの、

「イ 親事業者の使用に係る電子計算機と下請事業者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、

受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法」

であることがわかります。

また、同条2項により、その電子メールは、

「下請事業者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるもの」

でなければならないことが分かります。

同様に、ウェブサイトを閲覧させる方法による提供は3条規則2条1項1号ロにさだめられており、おなじく、出力して書面を作成できなければなりません。

以上を前提に、

「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」

では、第1の2「 電子メールによる電磁的記録の提供に係る留意事項」で、

「(1) 書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は,下請事業者の使用に係るメールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず,

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。

例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。

また,携帯電話に電子メールを送信する方法は,電磁的記録が下請事業者のファイルに記録されないので,下請法で認められる電磁的記録の提供に該当しない。

(2) 書面の交付に代えてウェッブのホームページを閲覧させる場合は,下請事業者がブラウザ等で閲覧しただけでは,下請事業者のファイルに記録したことにはならず,

下請事業者が閲覧した事項について,別途,電子メールで送信するか,

ホームページにダウンロード機能を持たせるなどして

下請事業者のファイルに記録できるような方策等の対応が必要となる。」

とされています。((2)は親事業者のウェブサイトを閲覧させる方法です。)

このように、「留意事項」で、

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。」

と明言されているため、下請事業者が自分のパソコン(あるいはサーバー)に保存しなければ交付したことにならないのではないか、それらの記録行為がなされれた時点が3条書面の交付の時点となるのではないか、という疑問が生まれてくるのです。

しかしこの問題は、そもそも3条書面の電磁的方法による交付をみとめることになった大元である、IT書面一括法(「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」。2001年4月1日施行)の解釈のほうをみないと、解決できません。

電磁的方法による文書の交付時点の問題については、立案担当者解説である、

久米孝「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律(IT書面一括法)の概要」NBL711号16頁(2001年4月)

に、「書面の交付に代えて行われた書面に記載すべき事項の到達時点のみなし」という節で、

「書面の交付に代えて行なわれた書面に記載すべき事項等の提供については、

書面の交付時点が当該法律上の他の規定において、何らかの後の法的行為の起算点となっている場合(たとえば割賦販売法四条の三第一項は、書面受領の日から八日以内にいわゆるクーリングオフができる旨を定める)や、

当該書面の提出後、一定の期間内に何らかの措置をとることが義務づけられている場合(たとえば中小企業等協同組合法四七条二項は、書面による請求があった日から二〇日以内に臨時総会を招集しなければならない旨を定める)

といった、当事者同士に委ねておいては起算点や期限が確定しない場合を除いて、

明文の規定をおいていない。

これは「書面の交付」において、書面の交付がどの時点でなされたかについて実定法上明示的に規定されていないのと同様で、

どの時点で当該事項の提供義務が尽くされたかは、個別のケースごとに、

送り手側の努力としてどこまで行ったか、

それに対して受け手がどういう態度をとったか、

法律の目的は何か、

といった要素を総合的に考慮して判断されることとなる。

と説明されています。

到達時点のみなし規定がない場合には、どの時点で提供義務が尽くされたかはケースバイケースできめる、ということですね。

ちなみに、個別信用購入あっせんについて到達時点のみなし規定である割賦販売法35条の3の22は、

(情報通信の技術を利用する方法)

第三十五条の三の二十二  個別信用購入あつせん関係販売業者若しくは個別信用購入あつせん関係役務提供事業者又は個別信用購入あつせん業者は、

第三十五条の三の八又は第三十五条の三の九第一項若しくは第三項の規定による書面の交付に代えて、

政令で定めるところにより、

当該購入者又は当該役務の提供を受ける者の承諾を得て、

当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。

この場合において、当該個別信用購入あつせん関係販売業者若しくは当該個別信用購入あつせん関係役務提供事業者又は当該個別信用購入あつせん業者は、当該書面を交付したものとみなす。

 前項前段に規定する方法(経済産業省令・内閣府令で定める方法を除く。)により第三十五条の三の九第一項又は第三項の規定による書面の交付に代えて行われた当該書面に記載すべき事項の提供は、

購入者又は役務の提供を受ける者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に当該購入者又は当該役務の提供を受ける者に到達したものとみなす。」

と、購入者のファイルへの記録の時点を到達時点とみなすと規定しており、この規定について、

経済産業省商務情報政策局取引信用課編『平成20年版 割賦販売法の解説』

では、

「書面一括法においては、本規定〔35条の3の22第2項〕を設ける必要がある場合を、

・ 書面の交付時点が当該法律上の他の規定において何らかの後の法的行為の起算点となっている場合(書面受領の日から8日以内にクーリング・オフができる規定等)

・ 当該書面の提出後、一定の期間以内に何らかの措置をとることが義務付けられている場合(書面の提出の日から20日以内に臨時総会を招集しなければならない規定等)

といった、当事者同士に委ねておいては起算点や期限が確定しない場合のみに限定しており、

したがって、

単に書面不交付について罰則や行政処分の規定があるという場合や、

単に契約締結時までに書面を交付しなければ罰則が適用されるという場合

においては、本規定は措置しないという整理となっている

(よって、クーリングオフが規定されていない割賦販売、ローン提携販売、包括信用購入あっせんにおいては、本項と同内容の規定は存在しない)。」

と説明されています(p250)。

下請法の3条書面交付は、たんに刑罰が科されるだけなので、みなし規定はない、ということですね。

下請法3条も、当然、このような解釈を前提に解釈されていると考えられます。

公取委側の担当者解説である、

向井他「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項について」公正取引607号53頁(2001年)

では、電子メールにより送信する場合について、

「下請事業者自身がメールサーバーを有している場合もあり得るが、通常の下請事業者の場合は、インターネットプロバイダ等と契約をしたり、親事業者のシステムを利用するなど、当該プロバイダー等のメールサーバーを利用することになるから、電子メールを送信しても、当該メールサーバーに記録されるだけで、下請事業者のファイルに記録されたことにはならない。

したがって、下請事業者が当該メールを受信することにより自らのファイルに記録していなければ、書面の交付に代えて提供したことにはならない。」

と説明されています。

さらに同論文p54では、発注者のウェブサイトを閲覧させる方法について、

「通常、ブラウザソフトによりウェッブのホームページを閲覧させることになるが、この方法は、一時的に情報を〔下請事業者のパソコンの〕メモリーに保存することによりウェッブのホームページを表示させるものである。

他方、ファイルに記録するということは、情報をファイルに固定させ、いつでも当該情報を取り出せるようになっていることが必要であることから、

下請事業者が〔親事業者の〕ホームページを閲覧しただけでは、下請事業者のファイルに記録することにはならないので、

別途電子メールで〔通知事項を〕送信するか、ホームページにダウンロード機能を付けるなどの措置が必要となる。」

と解説されています。

専用のウェブサイトを開設しているのにわざわざ別のメールを送る親事業者はあまりいないでしょうから、現実的には、ホームページにダウンロード機能を持たせることが多いと思われます。

そして、IT書面一括法が、到達時点のみなし規定を置く場合と置かない場合(←下請法はこちら)とを分けていることをふまえれば、前述の「留意事項」の、

「(1) 書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は・・・

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。

例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。」

としている部分も、受信した時点を交付時点(到達時点)とみなす趣旨ではない、と解さざるをえないと思います。

というのは、IT書面一括法が到達時点のみなし規定を置く場合と置かない場合とをあえて分けているにもかかわらず、みなし規定がないのに一律に特定の時点で到達したとみなされると解釈すことは、IT書面一括法の解釈としてありえないからです。

ところでファイルへの保存が要求されている理由について、向井他p53では、

「下請法は50本の法律を一括して改正する法律により改正されたが、

当該法律において書面の交付によ代えることができる電磁的記録の提供方法として、書面が交付されたと実質的に同視し得るよう、

受信者のファイルに記録することを要件とする統一的な取り扱いが行われたが、

下請法は、下請取引の適正化と下請事業者の保護を目的としており、下請法の目的からも必要な要件であろう。」

と述べられています。

つまり、できるだけ書面と同視できるようにしようという趣旨なのです。

ということは、電磁的方法だからといって書面の場合以上に過重な負担を負わせるものではない、ということが言えると思います。

では、最も典型的な、電子メール(本文でも添付ファイルでも)で3条書面を送るときに、親事業者はどこまでしなければならないのでしょうか。

この点について、

清水規廣「横浜弁護士会独占禁止法研究会編 一問一答 下請法・下請取引<14> - 下請取引基本契約書の締結と電子メールによる受注のチェックポイント」NBL936号(2010年)p98

では、

「・・・下請事業者の電子メールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず、下請事業者が自身のパソコンのファイルに記録して、いつでも出力することにより書面を作成できる状態、つまりいつでもプリントアウトできる状態にしなければならない。

そこで、親事業者としては、電子メールを送信するに当たり「開封確認メッセージの要求」をして下請事業者が電子メールを受信・開封・ファイルへ保管したことを確認する必要があることになる。

受信・開封・保管しなければ下請法3条の書面を交付したことにならないから、

親事業者としては「メールで送ったから開封・ファイルへ保管されたい」旨電話等で連絡し開封確認メッセージをも保存しておく必要があることになる。」

と説明されています。

しかし、わたしはこれは行き過ぎだと思います。

いちばんわかりやすい理由をあげると、3条書面不交付には50万円以下の罰金が科されますが(下請法10条)、開封の確認までしないと刑事罰の対象になるというのは、自己責任の原則からして問題があります。

また、到達時のみなし規定がない場合には、

どの時点で当該事項の提供義務が尽くされたかは、個別のケースごとに、

送り手側の努力としてどこまで行ったか、

それに対して受け手がどういう態度をとったか、

法律の目的は何か、

といった要素を総合的に考慮して判断されることとなる

というのがIT書面一括法の立場です。

そして、

「開封確認メッセージの要求」をして下請事業者が電子メールを受信・開封・ファイルへ保管したことを確認する

ということまでしないと「送り手側の努力」として不十分だ、というようなことはとうていいえない、と思います。

もしそんなことを言い出すと、書面で送る場合にも、普通郵便ではだめで、常に配達証明付き書留郵便で送らないといけない、ということになりかねません。

ファックスでも、送信確認(モニターレポート)機能がある機種しか使えないことになります。

もちろん、義務を履行したことの証拠を残すことは実務上望ましいわけで、その意味で、開封確認を要求することは望ましい方法だとは思いますが、証拠を残すのはあくまで立証の問題なのでいくらでも手段はありえます。

しかし開封確認を求めることが実体法上の義務の一部だといわれると、話は変わってきます。

他のやり方では代替できないからです。

しかも上記論文ではIT一括書面法の立法趣旨や到達時のみなし規定のことにはふれず、ただ、3条規則の文言だけを頼りに上記の結論を導いているので、その意味でも説得力に欠けます。

このような解釈上の疑義が生じるのは、IT書面一括法で、到達時のみなし規定を置かない法律についてはどこまでやれば書面交付義務を果たしたことになるのかをあえてあいまいにしているためなのです。

あえてあいまいにしている趣旨を汲まずに、法律や規則の文言だけから杓子定規に結論を導くと、こういう結論になってしまうのだと思います。

たしかに、「留意事項」では、

「書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は,下請事業者の使用に係るメールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず,

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。

例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。」

といっているのですが、これとても、受信していることが必要といっているだけで、反対にいえば、受信さえしていればそれでいいということです。

受信が必要だということから、論理必然に、

「開封確認メッセージの要求」をして下請事業者が電子メールを受信・開封・ファイルへ保管したことを確認する必要があることになる。

ということはいえないですし、そのようなことを刑罰の威嚇をもちいて強制する正当性もないと思います。

以上は電子メールの場合ですが、ウェブサイトを閲覧させる方法の場合には「留意事項」ももっと割り切っていて、

「下請事業者が閲覧した事項について,別途,電子メールで送信するか,

ホームページにダウンロード機能を持たせるなどして

下請事業者のファイルに記録できるような方策等の対応が必要となる。」

といっているだけです。

つまりこちらの方では、ダウンロード機能を持たせれば足りるということがはっきりしていて、ファイルへ保管したことの確認までは不要であることがあきらかです。

それにもかかわらず電子メールの場合だけ、ファイルへ保管したことの確認まで要するというのは、バランスが悪いと思います。

「留意事項」の、

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。」

というのは、文字どおり、下請事業者が自身のパソコンにデータが記録されていればたりるという意味であって、実際に記録さえされていれば、極端にいえば、親事業者はその証拠すらなくても刑罰を科されることはない、ということでしょう。

検察や公取は下請事業者のパソコンを調べることもできるのですから、親事業者が証拠を持っていなても、交付の事実が「証明」できてしまう、ということは大いにあり得ることだと思います。

2017年9月25日 (月)

村上『条解』の独占的状態規制に関する記述について

村上他編『条解独占禁止法』p294に、独占的状態の定義に関する2条7項の解説として、

「他方、役務の場合には、『同種の商品』の①国内における供給額の合計額から、②当該役務の供給を受ける者に当該役務に関して課せられる租税の額に相当する額を控除して得られる額が1000億円超でなければならない。」

とされていますが、この、

「同種の商品

というのは、もちろん、

「同種の役務

の誤記ですね。

2条7項の条文の関連部分を引くと、

「・・・国内において供給された同種の役務の価額(当該役務の提供を受ける者に当該役務に関して課される租税の額に相当する額を控除した額とする。)の政令で定める最近の一年間における合計額が千億円を超える場合・・・」

とされている部分ですね。

なお①②の論理的関係からいうと、「①」の位置も少し変えて、

「他方、役務の場合には、『同種の役務』の国内における供給額の合計額から、②当該役務の供給を受ける者に当該役務に関して課せられる租税の額に相当する額を控除して得られる額が1000億円超でなければならない。」

とするのが、より正確かと思います。

なお、同書の独占的状態規制に関する解説部分はアメリカのAT&T分割訴訟を念頭に書かれているので、そちらの事情を知らない人にはピンとこないかもしれません。

あと、日本の実務向けコンメンタールであることを考えると、公取委のガイドライン(「独占的状態の定義規定のうち事業分野に関する考え方について」)にひとことは触れてほしいところです。

また、8条の4にもとづく競争回復措置命令に対して不服申し立てがなされたときには、それぞれの判決などの時点(最高裁判決なら最高裁判決の時点)で所定の要件が満たされている必要があると断定されています(p291)。

わたしもそうあるべき、あるいは、そうであってほしいと思いますが、立法論としてはともかく解釈論としてはなかなか難しい問題があるので(通常の排除措置命令の場合には、処分時説が判例通説だと思います。白石『独占禁止法〔第3版〕』p676参照)、ここまで断定するのであれば、もう少し理由を書いていただければよかったのにと思います。

いくら権威ある弘文堂『条解』シリーズとはいえ、この記述だけで意見書に、「判断基準時は判決時だ」と書くのは、ちょっと気が引けます。

(ちなみに白石先生の上記引用部分は、抗告訴訟一般について述べた部分であり(第15章第11節)、その冒頭部分(p655)が、

「公取委による排除措置命令・課徴金納付命令などについては、抗告訴訟が可能である。」

という書き出しから始まることからすれば、「など」に8条の4にもとづく競争回復措置が含まれているのでしょうね。白石先生の本には、こういう細かいところにも凄みを感じます。)

ただ、『条解』も、独占的状態規制について、

「現に、昭和52年の創設以来現在までこの措置を発動することは真剣に検討されたことすらない。」(p292)

と叩き切っているところは、たいへんすがすがしさを感じます。

2017年9月12日 (火)

標準化パテントプールガイドラインの目次(と簡単な要約)

標準化パテントプールガイドラインの目次と簡単な要約をメモしておきます。

第1 はじめに

第2 標準化活動

1 標準化活動の態様

2 標準化活動自体に関する独占禁止法の適用

標準化活動に当たって以下のような制限が課されることにより、市場における競争が実質的に制限される、あるいは公正な競争が阻害されるおそれがある場合には独占禁止法上問題となる。

(1) 販売価格等の取決め

(2) 競合規格の排除

相互に競合規格開発を制限又は競合規格製品の開発・生産を禁止(注4)〔少数が非公開で行う実質的な共同研究の場合は認められる場合あり〕

(3) 規格の範囲の不当な拡張

(4) 技術提案等の不当な排除

(5) 標準化活動への参加制限

標準化活動に参加しなければ、策定された規格を採用した製品を開発・生産することが困難となり、製品市場から排除されるおそれがある場合に、合理的な理由なく特定の事業者の参加を制限する(私的独占等)。

3 規格技術に関する特許権の行使と独占禁止法の適用

ライセンス拒絶は基本的に問題ない。

FRAND宣言違反は問題ある可能性。

第3 規格に係る特許についてのパテントプールに関する独占禁止法上の問題点の検討

1 基本的な考え方

(1) 

(2)

複数の競争事業者が、パテントプールを通じてライセンスする際に、ライセンシーの事業活動に対して一定の制限を課しても、規格を採用した製品の販売価格販売数量を制限するなど明らかに競争を制限すると認められる場合などを除き、

(1)当該プールの規格に関連する市場に占めるシェアが20%(注9)〔製品市場の売上シェア〕以下の場合、

(2)シェアでは競争に及ぼす影響を適切に判断できない場合は、競争関係にあると認められる規格が他に4以上存在する場合

には、通常は独占禁止法上の問題を生じるものではない(注10)。

(3) (2)の条件が満たされない場合でも直ちに問題となるわけではなく、個別判断。

2 パテントプールの形成に関する独占禁止法上の考え方

(1) パテントプールに含まれる特許の性質

ア 規格で規定される機能及び効用の実現に必須な特許に限られる場合

ライセンス条件が一定に定められても問題なし。

イ 必須特許とはいえない特許が含まれる場合

[1] 代替特許が含まれる場合、パテントプールに含められライセンス条件が一定とされることにより、これらの代替特許間の競争が制限される。(事例1)

 

[2] プール外の代替特許が排除される。(事例2)

 

当該規格の普及の程度、代替的なパテントプールや規格技術の有無などの市場の状況の外、以下の点を勘案。

[1] パテントプールに必須特許以外の特許が含められることに、合理的な必要性又は競争促進効果が認められるか。

[2] 直接ライセンス、選択的ライセンスが可能か

(2) パテントプールへの参加に係る制限

ア パテントプールへの参加の制限

参加に一定の合理的な条件を課すのは問題ない。

パテントプールを通じてライセンスすることを事前に取り決めることは、①対象が必須特許に限られ、かつ、②ほかに当該特許の自由な利用が妨げられない、などの場合は問題ない。

イ パテントプールへの参加者に対する制限

参加者への制限は合理的で、かつ、特定の事業者にのみ不当に差別的な条件を課すものでない限り、問題ない。

ライセンス料の分配方法特許の重要度など様々な要因に基づいて決定しても問題ない。

パテントプール以外でのライセンスを禁止することは、独占禁止法上問題となる「おそれ」あり(私的独占、不当な取引制限等)。(事例3)

(3) パテントプールの運営

パテントプールの運営者に集中するライセンシーの事業活動に関する情報について、参加者やライセンシーがアクセスできないようにすることが望ましい。(事例4)

3 パテントプールを通じたライセンスに関する独占禁止法上の考え方

(1) 異なるライセンス条件の設定

異なるライセンス条件の設定は直ちに独占禁止法上問題となるものではなく、個別に判断される。

合理的な理由なく、特定の事業者にのみ

(1)ライセンスすることを拒絶する

(2)他のライセンシーと比べてライセンス料を著しく高くする

(3)規格の利用範囲を制限するなどの差を設ける

ことは、差別を受ける事業者の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼす場合には独占禁止法上問題となるおそれがある(私的独占、共同の取引拒絶等)。

(2) 研究開発の制限

ア ライセンシーに対して、規格技術又は競合する規格についてライセンシーが自ら又は第三者と共同して研究開発を行うことを制限することは、競争が制限されるおそれがある(私的独占、不当な取引制限等)。

イ 少数の者が非公開で規格に係る技術を新たに開発するなど、規格の策定の態様が実質的に共同研究開発と認められる場合には、当該活動に参加する者が相互に規格技術や当該規格と競争関係に立つ規格を開発することを制限したり又は第三者と共同で開発することを制限したりすることが、当該活動を円滑に進める上で合理的に必要な範囲の制限と認められる場合もある(注14)。

しかしながら、このような場合であっても、規格が策定された後に、パテントプールを通じてライセンスする際に、ライセンシーの研究開発を制限することには何ら合理的な必要性があるとは認められず、独占禁止法上問題となるおそれがある(事例6)

(注14) 共同研究開発ガイドラインでは、以下は問題なし。

[1] 共同研究開発のテーマと同一のテーマの独自の又は第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること。

[2] 共同研究開発のテーマときわめて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること。

[3]共同研究開発終了後の合理的期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること。

(3) 規格の改良・応用成果のライセンス義務(グラントバック)

ア グラントバックは、技術市場における競争を制限するおそれ

イ ライセンシーによる改良・応用の成果が必須特許となる場合にライセンシーに対してグラントバックの義務を課すことは、

①必須特許に限り、

②非独占的であり、

③ほかに自由な利用を制限するものではなく、

④ライセンス料の分配方法等で他の当該プール参加者に比べて不当に差別的な取扱いを課すものでないと評価される場合

は、通常は独占禁止法上問題となるものではない。(事例7)

(4) 特許の無効審判請求等への対抗措置(不争義務)

ア ライセンシーに対して不争義務〔特許の有効性を争わない義務〕を課し、違反した場合にはライセンス契約を解除することは、ライセンシーの事業活動に及ぼす影響が大きい。

イ したがって、不争義務を課し違反の場合ライセンス契約を解除する旨を取り決めることは、独占禁止法上問題となるおそれがある(共同の取引拒絶)。

他方、規格に係る特許の有効性について争われた場合に、パテントプールへの参加者のうち無効審判請求を起こされた特許権者のみが、当該特許をパテントプールから外すことなどにより、争いを起こしたライセンシーとの契約を解除することは、ライセンシーがライセンスされた特許の有効性について争う機会を失うとは認めにくいことから、通常は独占禁止法上問題となるものではない。(事例8)

(5) 他のライセンシー等への特許権の不行使(非係争義務)

ア ライセンシーに非係争義務〔ライセンシーが有し又は取得することとなる全部又は一部の特許等について他のライセンシーに対して権利行使しない義務〕をを課すことは、技術市場における競争が実質的に制限されるおそれがある。(私的独占、不当な取引制限)

イ 制限の態様が、

①必須特許(注17)に限り

②当該プールに非独占的にライセンスすることを義務付けるものであり、

③ほかに自由な利用を制限するものではなく、

④ライセンス料の分配方法等で他のプール参加者に比べて不当に差別的な取扱いを課すものでないと評価される場合

は、通常は独占禁止法上問題となるものではない。(事例9)

2017年8月31日 (木)

平成28年度相談事例集について

平成28年相談事例集について、気が付いたことをメモしておきます。

総じて、今年の事例集は、なかなか踏み込んだ、実務上参考になるものが多かったように思います。

あたりさわりのない事例ばかりを公表することもできるわけですから、公取委がこういう踏み込んだ事例を積極的に公表すること自体、高く評価されるべきことだと思います。

■事例1

この事例は、メーカーによる再販売価格拘束が、メーカーが売れ残りのリスクを負担していることを理由に問題ないとされたものです。

この問題については流通取引慣行ガイドラインで、

「① 委託販売の場合であって,受託者は,受託商品の保管,代金回収等についての善良な管理者としての注意義務の範囲を超えて商品が滅失・毀損した場合や商品が売れ残った場合の危険負担を負うことはないなど,当該取引が委託者の危険負担と計算において行われている場合

② メーカーと小売業者(又はユーザー)との間で直接価格について交渉し,納入価格が決定される取引において,卸売業者に対し,その価格で当該小売業者(又はユーザー)に納入するよう指示する場合であって,当該卸売業者が物流及び代金回収の責任を負い,その履行に対する手数料分を受け取ることとなっている場合など,実質的にみて当該メーカーが販売していると認められる場合」

という2つの場合については問題ないとされていましたが、①(委託販売の例外)が「委託販売」と明記しているために、委託販売ではない通常の売買の場合にはどうなるのかが、必ずしも明らかではありませんでした。

(これに対して②(直接交渉の例外)は、消費者向け商品の場合にはそもそも使えませんでした。)

この相談事例は、法律上は通常の売買であっても売れ残りリスクをメーカーが負担するのであれば①の委託販売の例外にあたるとして、①を少し広げたものです。

これまでの実務でも、リスクを負えば売買でも問題ないとされていたと思いますし、私もそのようにアドバイスしていましたが、この点をはっきり示したことはたいへん有意義なことだと思います。

というのは、実務では、100%はっきりしないと、相対的にリスクの低い方法をとる、というクライアントもいます。

つまり、売買でも問題ないといっても、では委託販売と比べてどちらがリスクが低いかと問われて委託販売のほうがリスクが低いというと、企業としては委託販売のほうを選択する、ということもあったのです。

これからはそのような微妙な相対的リスクの差異を気にすることなく、堂々と売買でいけることになった意義は大きいと思います。

■事例2

この事例は、競合メーカー8社による基礎研究の共同研究が問題ないとされたものです。

結論、説明とも、特に問題はないと思います。

■事例3

この事例は、シェア30%(2位)のメーカーが、共同開発のパートナーに対して、低価格機種を販売する特定の4社にだけ5年の販売禁止(その他は3年)を課したことが不平等だから問題だ、としたものです。

これは、理屈も結論も問題があると思います。

まず、3年と5年という差を設けたのがいけないといわれると、では一律に5年ならいいのか、という疑問がわきます。

回答では、

「制限期間に差を設けることに特段の合理的な理由がみあたらない」

とされていますが、差を設けることに特段の合理的理由が常に必要だというのもおかしな話です。競争が制限されていなければいいはずだからです。

そこで競争制限の点については、回答では、

「〔共同開発された〕技術αを用いた装置a1が低価格機種にも広く使用される状況になれば,

当該装置のコスト削減効果は競争上重要なものとなることが考えられ,

低価格機種の販売を主力とする4社がそれ以外の家電製品Aのメーカーよりも更に2年間使用を制限されることは,

4社の取引の機会を減少させ,

技術αを用いた家電製品Aの販売市場における競争が阻害されるおそれがある」

と述べられていますが、いまひとつ意味がわかりません。

前提として、装置a1には、競合する装置a2というのがあって、

「家電製品Aには,製品の主要な機能を実現するための装置として,装置a1又は装
置a2が内蔵されている。

装置a1は,装置a2より高性能かつ比較的高価であるために高価格機種に用いられることが多い。

他方,装置a2は,装置a1より性能が劣り,比較的安価であるために低価格機種に用いられることが多い。」

ということらしいので、これまでは低価格機種には使用されていなかったのに、今後は使用されるようになる、という意味だと思うのですが、べつに従前の装置a2が使用できなくなるわけではないのです。

もっと具体的に、低価格機種に装置a1の採用が進まないことが競争にどのような影響があるのか(どのくらい「4社の取引の機会を減少」させるのか)を認定しないと、たんに3年と5年という期間のちがいだけで違法になるといっているのと変わらないと思います。

装置a1が低価格機種の競争に不可欠となるとは述べられていませんし、ひきつづき装置a2を使用することは何の問題もないわけです。

そして、おそらく装置a2を使用し続けていても、低価格機種は今までどおり売れ続けるのではないでしょうか。

理屈の上では、装置a1の導入によって高価格機種の価格が下がり、相対的に低価格機種から高価格機種に需要がシフトする、という可能性はありますが、ほんとうにそう単純にいえるのかは、よくよく事実関係をみないとわからないと思います。

想像するに、高価格機種と低価格機種というように分かれている家電製品をイメージすると、高価格機種向けの部品のコストが下がったからといって、高価格機種が低価格機種に食い込むほど価格を下げることはむしろ自殺行為であり、あんまり考えられないんじゃないかという気がします。

そのようにいろいろと想像をめぐらすと、公取の理屈は、たんに、「価格が下がったら低価格機にも採用が広がるだろうから、供給してあげなさい」といっているようにしかみえず、露骨に敵に塩を送ることを強制しているようにみえます。

競争者の不当な排除を禁止すること(競争分析)と、競争者に塩を送ることとのちがいは時に微妙ですが、それだけに、たんに不平等だからよくないというのではなく、説得力のある理由付けが必要だと思います。

まあ、あえて低価格機種の4社にだけ制限を長くするということは、性能の良い装置a1が安価で4社に供給されると、安くて性能は変わらない競合商品が出回って困る、とこの家電メーカーは考えたのだろうと想像はできますが、そのあたりの事情については、

「〔家電メーカー〕X社は,装置a1の製造コストが1割程度削減できると見込んでいる。そのため,X社は,技術αを家電製品Aの低コスト化を実現する非常に重要な技術であると考えている。」

というだけで、部品である装置a1の製造コストが1割下がることで、肝心の完成品である家電製品Aのコストがどれくらい下がるのかは不明です。

というわけで、この回答は悪しき平等主義で、私は反対です。

形式的平等主義は、判断は容易になりますし、私も一概にそのメリットは否定しませんが、素人でも簡単に判断できるような基準を採用し続けると、よくいわれる公取委の専門性というのにも疑問符が付くと思います。

この手の相談を受けると、

「事前相談にいったらダメと言われるかもしれないけど、理屈の上では正当な反論はいくらでもできるし、摘発されるおそれはほとんどないから、別にいいんじゃないですか」

というものが多いのですが、本件も、そんな感じがします。

この事例で参考になるのは、販売制限の合理的期間を決めるのに、投資回収の期間が3~5年であることが明示的に考慮されていることです。

回答でも引用されている共同研究開発ガイドラインの該当部分では、

「成果であるノウハウ〔技術α〕の秘密性を保持するために必要な場合に、

合理的な期間に限って、

成果に基づく製品の販売先について、

他の参加者又はその指定する事業者に制限すること」

は原則として問題ないとされており、さらに、

「「合理的な期間」は、

リバース・エンジニアリング等によりその分野における技術水準からみてノウハウの取引価値がなくなるまでの期間

同等の原材料又は部品が他から入手できるまでの期間

により判断される。」

とされているものの、「等」が何を指すのかはっきりしませんでした。

今回の回答は、この「等」に、投資回収期間が含まれることを明らかにしたといえます。

そしてこのことは、共同研究開発のインセンティブを確保するという意味で、妥当なものなのでしょう。

しかも、回答では、ノウハウの機密性保持ということは、とくに要求されていないようにみえます。これは企業に朗報です。

というのは、ガイドラインでは、白条項となるためには、

成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の販売先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること」

とされており、ノウハウの機密性保持の必要性があることが要件とされていて、もしこの要件がないと、灰条項になってしまったからです。

今回、灰条項という位置づけ自体は変わらないのでしょうけれど、投資回収の必要性だけで3年間の制限がほぼフリーパスで認められたというのは、投資回収に必要な期間であればほとんど白条項と言っているに等しいわけで、かなり踏み込んだ(そしてこの点については妥当な)判断だと思います。

ただ、少し考えてみると、

原則3年、4社には5年

というので投資回収できるなら、低価格機種からの競争も考慮すれば、

一律4年

ではじめて投資回収できる、ということもありうるでしょう。

それなのに今回の回答だと、

一律3年

を義務付けているようで、投資回収期間を合理的期間の考慮要素とすることと矛盾するような気もします。

ただ、今回の回答は一律3年を義務付けているのではなく、一律4年とか、一律3年半とかでもOK、というふうによむのが妥当かもしれません。

それと、投資回収期間というのも、理屈の上ではいろいろと微妙な問題をかかえていて、販売制限をかけられる側からすれば、

「4社に売っちゃいけないなら、その分、たくさん買ってよ」

あるいは、

「おたくの買取価格を上げてよ」

といいたくなるところであり(制限を受ける側はそのぶんの補償を求める、というのが垂直制限のいろいろな経済モデルの当然の前提になっています)、当事者間の合理的な交渉にゆだねると、販売制限の強弱が制限をかける側の投資回収期間にはね返ってくる可能性があります。

というわけで、投資回収期間はどういう前提での期間なのか(独禁法で制限を禁止することによって、回収期間が延びるのか、短くなるのか)、ということにも目を配らないといけません。

もっと一般的にいえば、垂直制限の競争制限効果をみるには、利害関係の相反する当事者の行動がその制限を許した場合と禁止した場合とでどう影響を受けるのか、それによって結局消費者は利益を受けるのかどうか、をみないといけません。

このように、垂直制限の排除効果については考えないといけないことがたくさんあるのです。

ともあれ、ノウハウの機密性保持の必要性がなくても投資回収見込みという漠然とした(公取からみればブラックボックスの)事情が明示的に認められたということは、ノウハウの機密性保持という観点から説明しにくい場合でも実務上3年くらいの制限はたぶん問題ないということになるだろう、といえそうです。

■事例4

この事例では、シェア15%のサービス業者が、共同研究のパートナー(メーカー)に、競合サービス業者への販売を禁止することが、問題ないとされました。

この事例では、さっそく流取ガイドラインのセーフハーバーの20%への引き上げが利いています。

ただ、これを先ほどの事例3と比較すると、事例3は相談者が市場シェア30%だったためにセーフハーバーが適用されなかったわけで、仮にシェア20%だったら低価格機種の4社にだけ5年の販売制限を課しても問題なかったことになるのではないか、ということが浮き彫りになります。

さらにいえば、シェア20%なら、永久に販売を制限しても問題ないわけですから、3年がどうの5年がどうのという議論すら起きないはずです。

そう考えると、セーフハーバーが適用されるかどうかで天と地との違いが生じ、はたして事例3の形式的平等論が合理的なのか(もっと競争への影響をちゃんとみないといけないんじゃないか)、という疑問がわいてきます。

■事例5

この事例は、原料αが不足する場合に競争者間で相互供給することが適法かどうかが現時点では判断できない、と回答した、ちょっと変わった回答です。

でも、判断できない理由として、

「現時点において〔競争者で相互供給する〕部材Aの市場が確立しておらず」

ということがあげられていますが、だから緊急時以外の判断はできないというなら、なぜ緊急時については問題ないと判断できるのか、今一つよくわかりません。

たしかに緊急時以外(平時)の相互供給まで認めると、ピークロードを見越した設備投資が行われなくなるんじゃないかとか、いろいろな問題はありうるでしょう。

そういう意味で、本来は現時点では判断できないと突っぱねてもよかったものを、緊急時のものだけは明示的に回答した、ということで、評価すべき回答なのかもしれません。

■事例6

この事例は、シェア30%(2位)の会社が生産をやめてシェア50%(1位)の会社からOEM供給を受けることが問題ないとされた事例です。

当事者のシェアだけみるとぎょっとしますが、ポイントは、はるかに売上の大きい競合品が存在する、ということです。

なので、一般的にシェア50%と30%の会社間で同様のOEMが許されるということは、この回答からはいえないと思います。

■事例7

競争者間の共同配送の事例です。とくに問題ないと思います。

■事例8

特定の区間でシェア8割の旅客運送業者2社がその区間で共通回数券を発行することが独禁法違反だとされた事例です。

それまで2社複占だったのに新規参入があったためにシェアを2割失ったという背景からすると、むしろ新規参入者を共同で排除しようとしている事例なんじゃないかという気もしますが、回答では、あっさりカルテルということで違法とされています。

結論は違法でもしかたないかなと思いますが、路線バス(ではないかもしれませんが)の場合には、今きた来たバスにすぐ乗れる(同じバス会社の次の便を待たなくてもいい)、という利便性というものはあるような気がします。

その場でチケットを購入するなら、来た方の会社のチケットを買えばいいので、そういう問題はないのですが、前売り回数券の場合はそういうわけにもいきません。

そんな場合、お値段は少々高めでもいいから、共通回数券があればいいのになあ、と思うこともありえます。

今回の相談も、そういう内容だったら(つまり、単独の回数券と、共通回数券を併存させるなら)、ひょっとしたらOKの可能性もあるかもしれません。

でも回答では、

「本件区間において合算で8割の運行本数を占める2社が,両者の運行便をいずれも利用できる同一運賃の共通回数券を導入することは,2社が共同して対価を決定することにほかならず,本件区間における旅客輸送事業の取引分野における競争を実質的に制限するものであり,独占禁止法上問題となる。」

と、バッサリと切り捨てられています。

共通回数券と、通常の1回限りのチケット(場合によっては単独回数券)が併存することも、考慮されていません。

そのあたりも考慮した回答(というより相談)がなされていたら、もっとおもしろい事例になったと思います。

ところで、共通回数券という設定から、米国の有名なアスペン事件(アスペン地方の3つのスキー場を所有する1社ともう1つのスキー場を所有する1社との間で従来共通リフト券を発行していたのに、3つのスキー場を保有する側があと1つのスキー場を共通リフト券から排除したのが、シャーマン法2条に違反するとされた事件)を思い出した人も少なくないと思います。

アスペン事件は排除する側が1社(3つのスキー場を保有するとはいえ)だったので、本相談事例の共同行為とは性質がちがう、というのは一見正しいようで、正しくありません。

日本の私的独占でも米国の独占化でも、行為者は1人でもよいというだけで、2人以上であっても私的独占または独占化は成立しうるからです。

ただ排除側が複数の場合、日本でもアメリカでも、共同ボイコットで訴えたほうが被排除者の勝てる確率がぐっと上がるので、行為者複数の単独行為(?)は事実上問題にならないにすぎません。

といういう発想から行くと、本相談事例でもし、アスペン事件の共通リフト券のように、バス会社(かどうかわかりませんが)3社が共通回数券を発行したらカルテルになったのか?というのは、アスペン事件を知るものからすると、とても興味深いところです。

というのは、本相談事例でそれがカルテルだというなら、アスペン事件の共通リフト券も実はカルテルだったんじゃないか、と思えてくるからです。

(ただ、おぼろげな記憶ですが、この点は米国でも論点になりつつも、共通リフト券は消費者の利益になるんだからいいんだ、という議論があったような気がします。)

もし本相談事例が少し形を変えて、

「2社で共通回数券を発行しようとおもうんだけど、新規参入者がそれに入れてくれと言ってきたら断っていいか?」

という相談だったとしたら、案外、

「それは共同ボイコットだからだめです。3社目も入れてあげなさい。」

という回答になったかもしれません。

少なくともアスペン事件が頭に染みついていると、そういう発想になるような気がします。

あるいは、こういう相談だったら、共通回数券を発行することの競争促進効果などにも目が配られ、回数券以外のばら売りのチケットが存在することなどにもう少し光が当たったかもしれません。

まあ実際には、現状では回数券は11枚つづりで10枚分、のような価格設定が多いでしょうから、回数券が共通化されたらばら売り券の価格も共通化されるおそれがあるんじゃないか、とかいろいろな懸念が浮かぶであろうことは理解できます。

しかし、それでも、杓子定規に「競合会社が共同して価格設定をするのはカルテルだからダメ」と切り捨てると、事業者のクリエイティブな(そして消費者にメリットのある可能性のある)価格設定を阻害することになるのではないかと思います。

とくに本件のように、露骨にカルテルをしようとして共通券を発行しようとしているのではなく、新規参入者に対抗(競争)しようとしている場合には、外形だけからカルテルだと認定するのは単純すぎで、もう少していねいに考えたほうがいいと思います。

以上、アスペン事件からの連想でいろいろ考えてみましたが、あえてアスペン事件と本相談事例の違いを考えてみると、

アスペン事件の場合は共通リフト券なので複数のスキー場を利用してみようというぶん、需要がふえる効果がある(全体のパイも増える)

のに対して、

バスの回数券では、共通回数券だからと言って1度ですむものをわざわざ2度乗車しようとする人はいないんじゃないか(全体のパイは増えない)

という違いがあるかもしれません。

ともあれ本相談事例ではカルテルだと断定してしまったので、新規参入者の排除の点を問題視することは困難と思われます(排除を問題にするということは、3社でカルテルすることを強制することになるので)。

あと細かいことですが、本相談事例では、既存事業者の合計シェア8割ということになっていますが、これはあくまで便数のシェアであり、売上シェアではありません。

でもこれは、売上シェアをみるべきだったのではないかと思います。

とくに本件では新規参入者が便数で2割のシェアを取っており、新規参入者は既存事業者よりも低い価格で参入した可能性もある(事例集の記載からはわかりませんが、通常はそうでしょう)ことからすると(事例集にも、「2社の運行便の利用者数は減少傾向にある」と述べられています)、既存事業者の市場支配力を測るためにはなおのこと、正面から売上シェアをみるべきだったように思います。

■事例9

事業者団体がオンラインゲームのアイテムが出る確率を明示すると話題になった、あの事例ですね。

たいへん結構な取り組みだと思います。

取引条件がわからないようにしてわくわくさせるというのはまともな競争ではありませんから、このような取り組みは、むしろまともな競争を促進するといえるでしょう。

できれば、これくらい意義のある取組なら会員に強制してもいい(違反者は退会させるなど)、というところまで踏み込んでほしかったです。

■事例10

事業者団体によるエネルギー消費量の表示方法統一の自主基準が問題ないとされた事例です。

表示方法がさだまっていないと需要者による比較が困難になるので、こういった取り組みは競争を促進するといえます。

この事例でも、会員に強制するものでないことが、問題ない理由としてあげられていますが、強制されなくても自主基準があるということ自体で相当の効果が期待できるので、競争政策の観点からもこれで十分なのでしょう。

■事例11

事業者団体が、品質保持の観点から、運搬時間の目安をこえる地域への販売を禁止することが、問題だとされた事例です。

品質保持の観点からの必要性はある程度認められるものの、関係者が作った基準でも、メーカーと需要者の協議で基準を超える販売がみとめられていた、というのが決定的でしょうね。

もしそういう例外的取扱いが認められていなかったら、けっこうおもしろい事案になったんじゃないかと思われます。

■事例12

農協がビニールハウスを農家に貸し出すときに、農協への最低出荷量を義務付けることが、独禁法違反のおそれがあるとされた事例です。

回答に引用されている農協ガイドラインでも、

「単位農協が自ら事業主体として行っているビニールハウスのリース事業について,組合員がリース事業を利用するに当たっては,使用する肥料,農薬その他の生産資材を単位農協から購入することを義務付けること」

というのが問題行為としてあげられており、ほぼこれにあたります。

回答やガイドラインが引用する排他条件付取引や拘束条件付取引では、競合他社(相談事例でいうところの「商系業者」)がどれくらい影響をうけるのかを見る必要がありますが、同じく引用されている抱き合わせには優越的地位の濫用的なものも混じっており、回答もガイドラインも「余儀なくさせる」という優越的地位の濫用の常套句を使っていることからすると、やはり、農家への圧迫だけで違法になり、競合他社への影響は見る必要がない、というのが公取の立場なのかなぁという気がします。

でも、ガイドラインが優越的地位の濫用を引用していないことは、なんでもかんでも濫用だとみられる現在の状況からすると、いさぎよいと思います。

«【ご紹介】小田切元委員によるゼミ