#「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」に反対します。

本日(2020年9月2日)公表された掲題の報告書p150に、

「本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず,本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当し得る。」

という記載があります。

しかし、わたしはこれに反対です。

もう少し前から引用すると、

年中無休・24時間営業を行うことに顧客のニーズがある場合もあり,これを条件としてフランチャイズ契約を締結することについては,第三者に対するチェーンの統一イメージを確保する等の目的で行われており,加盟者募集の段階で十分な説明がなされている場合には,直ちに独占禁止法上問題となるわけではない。

しかしながら,本部が,加盟者の募集に当たり,年中無休・24時間営業に関する重要な事項について,十分な開示を行わず,又は虚偽若しくは誇大な開示を行い,これらにより,実際のフランチャイズ・システムの内容よりも著しく優良又は有利であると誤認させ,競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する場合には,不公正な取引方法の一般指定の第8項(ぎまん的顧客誘引)に該当し得る。

また,本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず,本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当し得る。

という文脈での記述です。

同時に公表されたスライド「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書(概要)」17枚目では、24時間営業について「従来から示してきた考え」は、

「年中無休・24時間営業を⾏うことに顧客のニーズがある場合もあり,これを条件としてフランチャイズ契約を締結することについては,第三者に対するチェーンの統⼀したイメージを確保する等の⽬的で⾏われており,加盟者募集の段階で⼗分な説明がなされている場合には,直ちに独占禁⽌法上問題となるものではない」

という考え方であったとみとめたうえで、「今回の調査結果を踏まえた考え⽅」として、

「しかしながら,今回調査した8チェーンにおいては,本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移⾏が認められているところ,そのような形になっているにもかかわらず,本部がその地位を利⽤して協議を⼀⽅的に拒絶し,加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には,優越的地位の濫⽤に該当し得る。」

というように、今回解釈を変更したのだ、というように明記されています。

これって、あまりにもひどいと思います。

勝手に解釈変更するなんて、集団的自衛権が合憲だと閣議決定したり、検察庁法の定年の規定よりも国家公務員法の定年の規定が優先すると解釈変更した安倍内閣のやりかたと同じです。

これでは法治国家とはいえません。

百歩譲って、従来からの解釈変更をするならその理由を述べるべきですが、報告書を読んでもその説明はありません。

たしかに報告書をみると、コンビニ本部側にも「これはいかんなぁ」と思えるところはあります。

それは、契約前の説明で、休みを取れるかのような説明をしているのがうかがわれる点です。

(ひょっとしたら、これをあきらかにしたことが今回の報告書の一番の成果かもしれません。)

具体的には、報告書p114以下に、コンビニ本部が勧誘時に示すQ&Aの例として、

「Q コンビニエンスストア経営を始めると,365日休めないのではないかと心配です。

A 多くの加盟店は,信頼できるストアスタッフに店頭業務や発注業務をまかせることにより,定期的に休暇をとっていらっしゃいます。」

というのがあったりして、そのあとにp183あたりに出てくる本部の支援制度に対する店舗のアンケート回答として、

「・3 年前に父が亡くなったときに本部にお願いしたが〔支援制度の利用を〕断られた」

「・子供が亡くなったときに申請して〔支援制度を〕使うことができなかった」

などの回答例とあわせてみると、これはそもそも加盟時の説明に問題があったのではないか?という気にさせられます。

そのほかにも、娘の結婚式に出られなかったとかいう話も出ていたりして、コンビニというのは事業者といいながら経営の独立性はないのだなぁと、いちおう同じ個人事業者の身として思わざるをえません。

ですが、だからといってこれが優越的地位の濫用になるのかというと、話は別です。

まず、上記に引用したQ&Aの例がいちばん危なそうですが、それでも、仮に成立するとしたら欺まん的顧客誘引でしょう。

そして、欺まん的顧客誘引については、先に報告書の該当部分を引用したとおり、

「本部が,加盟者の募集に当たり,年中無休・24時間営業に関する重要な事項について,十分な開示を行わず,又は虚偽若しくは誇大な開示を行い,これらにより,実際のフランチャイズ・システムの内容よりも著しく優良又は有利であると誤認させ,競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する場合には,不公正な取引方法の一般指定の第8項(ぎまん的顧客誘引)に該当し得る。」

とされています。

先に引用したQ&Aが最も危なそうですが、それでも「虚偽若しくは誇大な開示」といえるほどのものかというと、たぶんいえないでしょう。

というわけで、やるとしたら欺まん的顧客誘引なのですが、実際の例ではこれで違反とするにはどうしてもたりないわけです。

そこで優越的地位の濫用が登場するわけですが、そこでの報告書の論理はめちゃくちゃです。

問題の箇所は、

「本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず,

本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,

加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には

優越的地位の濫用に該当し得る。」

といっています。

ここで違反になる要件の中心は、

「本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっている」

という部分です。

つまり、合意があれば時短営業できること、です。

でも、これって、民法上あたりまえのことをいっているだけなので、論理的には、特別に「合意すれば時短営業に移行できる」というような条項がフランチャイズ契約書になくても、この「合意があれば時短営業できる」の要件はみたすことになります。

ということは、この要件は、本部が悪質である(約束を破った)かのような印象をあたえる意味はあるかもしれませんが、論理的には、まったく絞りになっていません。

次に、報告書は、「本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し」というのがいけない、といっていますが、

「本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず,本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し・・・」

といっていることからすると、合意すれば時短営業できることになっていることが、協議義務を発生させる、と考えているように読めます。

しかし、これも契約の解釈としてむちゃでしょう。

前述のとおり、合意すれば時短営業できるために、その旨の特別な条項はいりませんが、説明のわかりやすさのために、

「本部と店舗が合意した場合には、店舗は時短営業をすることができる。」

という条項があったとしましょう。

でもこの条項からいえるのは、文字どおり、「合意すれば時短営業できる」ということだけです。

この条項から、協議義務など出てくるわけがありません。

なので報告書のこの部分は、優越劣後関係にある当事者間では、劣後側が協議を申し入れれば、これに応じなければならない、応じないと優越的地位の濫用になる、ということをいっているわけです。

でも、そんなことが一般的にいえるわけがありませんし、公取委も、今までそんなことは一言もいっていないと思います。

たとえば、

「店舗が時短営業の希望を申し入れた場合には、本部はこれに対して誠実に協議するものとする。」

という条項でもあれば、協議義務が発生するでしょう。

でも報告書が協議義務発生の前提として要求しているのは、合意すれば時短営業に移行できること、だけなので、このような誠実協議義務をさだめた条項はなくても、協議義務が発生する、と解釈していることになります。

これは、労働組合法の団交に応じる義務のようなものを、法律もなく発生させているのと同じ、といえます。

さらに、ほんらいであれば、誠実交渉義務は、誠実に交渉すれば果たされるはずです(あたりまえです)。

誠実に交渉しなければならないからといって、相手方の要求をのまなければならないわけではありません。(団交も同じです。)

なので、報告書の、

「本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,

加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には」

の「不当に不利益を与える」の意味は、誠実に交渉しないという不利益をあたえる、という意味になるはずです。

でもたぶん、報告書がいいたいのはそういうことではなく、誠実に交渉に応じなかったら、24時間営業の強要が濫用になる、ということでしょう。

つまり、「不当に不利益を与える」というのは「24時間営業を強要する」ということを意味しているのです。

これはあきらかに論理の飛躍でしょう。

別の言い方をすれば、誠実に交渉する義務に違反した本部に排除措置命令を出すとしたら、「誠実に交渉せよ」という主文になるはずであり、「24時間営業を余儀なくさせてはならない」という主文にはならないはずです。

公取委は昔から、濫用にあたるかどうかを判断するにあたって交渉経緯が重要だ、ということをくりかえしいっていますが、報告書の記載はこれとはぜんぜん違います。

つまり、交渉経緯が重要だ、という場合には、交渉経緯は濫用の一考慮要素にすぎないのであって、誠実に交渉したから即OKだとか、しなかったから一発アウトだとかいうことはいっていません。

ところが今回の報告書は、あきらかに、協議を一方的に拒絶すると即アウト、つまり、協議を拒絶することが濫用成立の十分条件であるかのような記載になっているのです。

もちろん、論理的には、協議を一方的に拒絶し、かつ、不当に不利益をあたえる場合に濫用になるのだ、とよむほうが正しいですが、報告書がそのような論理的思考でこの部分を書いているとはとうてい思えません。(つまり、交渉拒絶、即アウト)

さらに根本的に問題なのは、報告書が、24時間営業強制の不利益行為性という実体的な不当性の問題を、交渉拒否という手続的な不当性の問題にすりかえていることです。

ほんとうは、24時間営業の強制が不当だ(つまり、24時間営業の強要は「不当に不利益」を与えることになるのだ)というべきところを、そうはいえないので、交渉拒否するのが不当だと、議論をすりかえているのです。

(ちなみに、24時間営業の強制が濫用にあたらないことについては、以前このブログで書きましたし日経新聞にも記事にしていただきました。)

もし、24時間営業の強要自体が「不当に不利益」をあたえることにあたるのであれば、交渉をしようがしまいが、不当に不利益になるはずです(誠実に交渉すれば濫用にならない一要素として考慮してもらえる余地はあるものの)。

このように、報告書は何重にも論理が破綻しています。

いったい、この報告書のこの部分に、公取委に出向中の弁護士や裁判官や検察官は、関与したのでしょうか?

たぶん、関与していないと思います。

というのは、こんな論理的に支離滅裂な思考を、法律家は絶対にしないからです。

(まあ最近は、司法試験を受かった人でも、憲法は法律の一種だという人がいるらしいですから、「絶対に」はいいすぎかもしれませんが。)

こういう支離滅裂な解釈変更をするところは、集団的自衛権の根拠として砂川事件を突然持ち出した安倍政権を彷彿とさせます。

ここで、独禁法に普段なじみのない他の法律分野の方々(とくに研究者の方々)に申し上げたいのは、公取委の法律解釈力のレベルはこの程度だ、ということです。

なので、独禁法は特殊(あるいは高尚)だという、怖れなのか畏敬なのか買いかぶりなのかはわかりませんが、そういう独禁法に対する特別な感情はまったく不要です。

独禁法の中でも、公取委の(ときに支離滅裂な)解釈をコピペして、これが通説だ、という研究者や実務家はいくらでもいるわけです。

なので、他分野のひとはなおさら、公取委の見解ありきで議論を進めるのも、仕方ないところなのですが、ぜひ、公取委を変に恐れることなく、自分が正しいと信じるところを発言していただきたいと思います。

今回のような話題は研究者が論文を書くには物足りない内容なので、誰も論文は書かないでしょうし、このようなブログネタになるのがちょうどいい話題なのかもしれませんが、分野をとわず、おかしいと思われた方はぜひ声を上げていただきたいと思います。

「いや、報告書は正しい。植村がおかしい」という意見も、議論が深まるきっかけになるので、ぜひお願いしたいです。

このままでは、「コンビニ24時間営業強制は独禁法違反 公取委」という新聞の見出しだけが一人歩きしそうで、非常にこわいです。

少なくとも、報告書の立場でもちゃんと交渉すれば濫用にならないので、このような見出しはミスリーディングだと思います。

でも公取からしたら、「思うツボ」なんでしょうね。

2021年1月23日 (土)

「意思の連絡」について:保証交換説

東芝ケミカル事件東京高裁平成7年9月25日判決では、不当な取引制限の「共同して」の要件について、

「原告の本件事案における行為が、法三条において禁止されている「不当な取引制限」・・・にいう「共同して」に該当するというためには、

複数事業者が対価を引き上げるに当たって、相互の間に「意思の連絡」があったと認められることが必要であると解される。

しかし、ここにいう「意思の連絡」とは、

複数事業者間で

相互に

同内容又は同種の対価の引上げを実施することを

認識ないし予測し、

これ〔=同内容又は同種の対価の引き上げ〕と歩調をそろえる意思があること

を意味し、

一方の対価引上げを他方が単に認識、認容するのみては足りないが、

事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、

相互に

他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りる

と解するのが相当である(黙示による「意思の連絡」といわれるのがこれに当たる。)。」

と述べました。

まず、不当な取引制限の「共同して」にあたるためには、「意思の連絡」が「必要」(正確には、必要十分)である、といっています。

次に、「意思の連絡」の意味については、「・・・意思があること」と述べているので、「意思の連絡」というのは、値上げの意思を伝え合う行為のことではなく、値上げについて一定の意思が存在する状態を意味しています。

「連絡」というを「相手に通報すること」(広辞苑)という意味にとると、「意思の連絡」というのは、意思を通報するという行為を意味することになるので、一定の意思が存在する状態を意味するのにはそぐわないのですが、もう一つ、「連絡」には、「相互に意思を通じ合うこと」(広辞苑)という意味があるので、「意思の連絡」というのを、「意思が相互に通じ合っている状態にあること」という意味につかうのは、さほどおかしなことではないと思います。

(ただ、個人的には、意思の「連絡」という言葉は、意思を相手に伝えることを意味するように聞こえるので、「意思の連絡」という行為を通じて「合意」という状態が形成される、というほうが、自然な言葉使いのような気がしています。

実際、大橋弘「連載 経済学と競争政策 第3回 カルテルにおける経済学の活用」公正取引741号p61では、「『意思の連絡』に基づく合意」という言い方がされており、こちらのほうがずっと自然な日本語だと思います。)

次に、「意思の連絡」の定義にあたる、

「複数事業者間で

相互に

同内容又は同種の対価の引上げを実施することを

認識ないし予測し、

これ〔=他者がおこなう同内容又は同種の対価の引き上げ〕と歩調をそろえる意思があること」

をみていくと、まず、「相互に」というのは、「認識ないし予測し」にかかるのはあきらかでしょう。

「相互に」が、「意思がある」にかかるとすると、「相互に・・・意思がある」という、よくわからない日本語になってしまいます。

また、「相互に」が、「歩調をそろえる」にかかるとすると、「相互に・・・歩調をそろえる」となり、「相互に」と「そろえる」が、やや冗長ですし、一方の歩調に他方がそろえていればカルテルとして十分なはずで、「相互に」そろえていないとカルテルにならないというのは過剰な要件でしょう。

そこで、今、A、B、Cの3人がカルテルをする場合を考えると、「相互に・・・認識ないし予測」というのは、Aの立場からみると、Aが、BおよびCが同一値上げ(仮に100円とします)をすると認識ないし予測している、という意味になります。

よって、「相互に100円値上げすることを認識ないし予測する」とは、Bの立場とCの立場も加えて、

Aが、BおよびCが100円値上げすると認識ないし予測し、かつ、

Bが、AおよびCが100円値上げすると認識ないし予測し、かつ、

Cが、AおよびBが100円値上げすると認識ないし予測する、

という意味になります。

長いので式で表すと、

A(B,C)∩B(A,C)∩C(A,B)

です。

(A(・,・)は、Aが括弧内による値上げを認識ないし予測しており、それ以上でもそれ以下でもない、という意味です。)

さらに、「相互に・・・認識ないし予測」といえるためには、「A、B、Cが100円値上げすること」が共有知識(common knowledge)でなければならないか、つまり、

「Aが100円値上げすること、および、Bが100円値上げすること、および、Cが100円値上げすること」、AとBとCが知っていて、かつ、

「『Aが100円値上げすること、および、Bが100円値上げすること、および、Cが100円値上げすること』を、AとBとCが知っていること」、AとBとCが知っていて、かつ、

「『【Aが100円値上げすること、および、Bが100円値上げすること、および、Cが100円値上げすること】を、AとBとCが知っていること』を、AとBとCが知っていること」、AとBとCが知っていて、かつ、

(・・・以下、無限に続く)

ということまで必要か、というと、必要だというべきでしょう。

それが「相互に・・・認識ないし予測」している、つまり、「お互いに、相手の出方を、認識ないし予測しあっている」という意味にあうように思われますし、「意思の連絡」というラベルにおける、「連絡」(相互に意思を通じ合うこと)という言葉も、共有知識でなければならないことを示唆しているように思われます。

ですが、いうまでもなく、

「複数事業者間で

相互に

同内容又は同種の対価の引上げを実施することを

認識ないし予測し」

の部分だけでは、いわゆる意識的並行行為(各自が、他社が同一の行為(=「並行行為」)をおこなっていることを認識(=「意識的」)しつつ、かつ、各当事者間の合意なしに、自らも同じ行為をおこなうこと)の主観面(各自が、他社が同一の行為をおこなっていることを認識しつつ、かつ、各当事者間の合意がない状態)と区別できません。

そこで、東芝ケミカルの定義でカルテルと意識的並行行為と区別する部分は、

「これ〔=他者がおこなう同内容又は同種の対価の引き上げ〕と歩調をそろえる意思があること」

の部分だということになります。

ですが、「歩調をそろえる意思」の有無でカルテルと意識的並行行為を区別できるのかといえば、これもかなり微妙です。

というのは、意識的並行行為の典型例である、プライスリーダーに追随する場合の意思でも、フォロワーはプライスリーダーに「歩調をそろえる意思」(リーダーが上げた分だけ上げる意思)があるように思えるからです。

(ここで、議論を単純にするために、プレイヤーの選択肢は、現状の価格を維持するか、100円上げるか、のいずれかしかないと考えます。)

なので、「歩調をそろえる意思」というのは、文字どおりの「歩調をそろえる意思」(他者が100円上げたら自分も100円上げる意思)という意味ではなく、それ以上の何かが含意されていると考えるべきでしょう。

では、「それ以上の何か」とは何か、というと、これが難問です。

この問題については、東芝ケミカル判決が、「意思の連絡」に関する前記引用部分に続けて、

「特定の事業者が、他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をして、同一又はこれに準ずる行動に出たような場合には、

右行動が他の事業者の行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情

が認められない限り、

これらの事業者の間に、協調的行動をとることを期待し合う関係があり、右の「意思の連絡」があるものと推認される」

と述べている部分が考える材料になりそうです。

これによると、

「右行動が他の事業者の行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情」

があれば、「意思の連絡」がないことになるのですから、この「特段の事情」があれば、「歩調をそろえる意思」がない、ということになるでしょう。

ただし、「他の事業者の行動と無関係に」という部分は不要というか、これを入れてしまうと、意識的並行行為が「特段の事情」に含まれなくなってしまいます。(∵意識的並行行為は、他の事業者の行動を横目で見ながら行動するものなので。)

なので、「無関係に」というのは、文字どおり「無関係に」(考慮しないで)、という意味ではなく、「他の事業者に協力する意思なしに」というくらいに書き換えないといけないでしょう。

次の、「取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたこと」というのも、これでカルテルと意識的並行行為を区別できるのかというと疑問です。

というのは、カルテルの場合も、他者が100円値上げすることがわかっていれば自分が100円上げても「取引市場における対価の競争に耐え得る」ことになる点においては意識的並行行為の場合と異ならないはずなので、「取引市場における対価の競争に耐え得る」というのはもっともらしいことを言っているようにみえて実は意味がない(カルテルと意識的並行行為とを区別できない)、というべきでしょう。

「取引市場」というのが、「カルテルのない、あるべき市場」を意味していると深読みすれば、

「取引市場における対価の競争に耐え得る」

というのは、

「カルテルのない(ただし、意識的並行行為はあってもいい)、あるべき市場における対価の競争に耐え得る」

という意味になり、意識的並行行為の場合は特段の事情にあたる、と説明することも可能かも知れませんが、いかにもトートロジーの感が否めません。

使えるとすれば、「独自の」という部分ですね。(逆に言うと、「取引市場における対価の競争に耐え得る」の部分は使えない。)

なので、実務的には、カルテルの疑いをかけられたときに対する防御として、独自に意思決定したことを示すために、価格決定の過程を記録化したりします。

でもこれも考えてみると、「独自」でない場合というのは、まさに、「共同して」(独禁法2条6項)なので、結局は「共同して」が何を意味するのか(東芝ケミカルの図式にしたがえば、「意思の連絡」が何を意味するのか)、という問題の裏返しに過ぎない、ということがわかります。

というわけで、東芝ケミカルの定義をどうひねっても、カルテルと意識的並行行為の区別はできない、ということになりそうです。

なので、まったく違う図式を考えてみると、おそらく、カルテルと意識的並行行為のちがいは、

カルテルが、参加者が他の参加者に対して自分は協調的行動を妨害しないことの保証をお互いにあたえあう(保証の交換)

のに対して、

意識的並行行為の場合は、そのような保証の交換がない、

ということなのではないでしょうか(保証交換説)。

コーンスターチカルテル審決で審査官が、加藤化学が他のカルテル参加者に誘われた会食で、「足は引っ張らない」と言ったと主張した、まさにあれですね。

(なお、加藤化学は違反事実なしになりました。洞雞先生、大軒先生、おめでとうございます😃)

つまり、AとBのカルテルの成立のためには、AがBの値上げに積極的に追随する意思を持ちBにそれを伝えることまでは不要で、Bの値上げをAがじゃましない意思を持ちBにそれを伝える(そういう保証の交換を相互に行う)ことで十分だ、ということです。

このような、協調的行動を妨害しない保証を交換するか、という観点からカルテルと意識的並行行為を区別すると、たとえば、プライスリーダーが値上げ予定を事前に公表する場合には、その公表の時点では保証の交換はないので、カルテルにはあたらない、と説明することになります。

(この例からもうかがわれるように、保証の交換は、カルテル参加者が顧客に対して値上げを打ち出すよりも前に行われる場合にかぎり、カルテルにあたると考えるべきでしょう。そうしないと、プライスリーダーの値上げ告知の後にフォロワーが値上げ告知をしただけでカルテルになってしまいます。)

また、たとえば、談合をするときに、ある物件を落札したいA社が、B社に対して、応札の意向の有無を尋ねた場合、仮にB社がその物件に興味がなくもともと応札するつもりがなかったとしても、B社が「自分は応札しない」とA社に回答すると、保証をあたえている(1対1で談合なので「交換」ではありませんが、本質的な違いではないでしょう)ことになるので、Bも入札談合の参加者となるでしょう。この場合に、B社が「もともと応札するつもりはなかったので競争がない」とか「競争の実質的制限がない」といってもだめで、Bの回答がなければ競争があると考えていたAがBの回答のために競争を気にせず応札できたというだけで十分です。

こういう、保証交換説の観点から東芝ケミカル判決をみてみると、同判決では、

「本件事案においては、・・・

八社が事前に情報交換、意見交換の会合を行っていたこと、

交換された情報、意見の内容が本件商品の価格引上げに関するものであったこと、

その結果としての本件商品の国内需要者に対する販売価格引上げに向けて一致した行動がとられたこと

が認められる。

すなわち、

原告は、本件商品につき、同業七社の価格引上げの意向や合意知っていたものであり、

それ〔=7社の値上げ意向と合意〕に基づく同業七社の価格引上げ行動を予測したうえで

(とりわけ、右会合中に、住友ベークライトがした値上げについての協力要請につき、各社が賛同する発言をしている場において、原告の日野誠三は、価格引上げに賛成し、大手三社か約束を守って価格引上げを実行することを積極的に要求さえしていたものである。)、

昭和六二年六月一〇日の決定と同一内容の価格引上げをしたものであって、

右事実からすると、

原告は、同業七社に追随する意思で右価格引上げを行い、

同業七社も原告の追随を予想していたものと推認されるから、

本件の本件商品価格の協調的価格引上げにつき「意思の連絡」による共同行為が存在したというべきである。」

と認定されていますが、「協調行動を妨害しない保証をあたえたかどうか」という観点からは、東芝ケミカルが他の7社に「追随する意思で」値上げをおこなったかどうかは本質的ではなく(追随する意思だけで違反になるなら、意識的並行行為も違反になってしまいます)、本質的なのはその次の、

「同業七社も原告の追随を予想していた」

の部分であり、さらに掘り下げれば、東芝ケミカルが同業7社に東芝ケミカルの追随を予想させる行為をした(協調行為を妨害しない保証をあたえた)、ということが本質的に重要である、ということがわかります。

このような保証のあたえ方は、言葉で約束することもあるでしょうし、たんにカルテルの会合に出席するだけで、「あいつも仲間だ」と他の参加者に思わせるメッセージとして十分でしょう。(多人数の会合では全員が発言するとも限りませんし。)

明示的な合意から出発してどこまで広げられるかという発想でみていくと「共同して」は東芝ケミカル判決のような定義になるのでしょう。

また、「共同して」というのはふつう明示的な合意を連想させますから、そういう思考の経路自体は自然なことでもあります。

ですが、反対に、情報交換がどういう場合に(あるいはなぜ)カルテルになるのか、という、カルテルの外側から中心へアプローチしていく発想であれば、情報交換の反競争性は他の競争者が自己の行動について抱く不確実性を排除することにあるわけですから、カルテルの場合も問題の本質は一致した行動をとることそれ自体ではなく、他の事業者の行動についての不確実性を排除すること、具体的には、協調行為を妨害しない保証をあたえることが本質である、と整理することが、理論的にも正しいとわかるはずです。

さて最後に、東芝ケミカル判決の残りの、

「一方の対価引上げを他方が単に認識、認容するのみては足りないが、

事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、

相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りる

と解するのが相当である(黙示による「意思の連絡」といわれるのがこれに当たる。)」

の部分を片付けると、まず、

「一方の対価引上げを他方が単に認識、認容するのみては足りない」

という部分は、BCの値上げをAが単に認識、認容するだけでは、AがBCに対して協調行為を妨害しない保証をあたえることにはなりませんから、「意思の連絡」にあたらないことに問題はないでしょう。

次に、

「事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく」

という部分は、前述のように協調行為を妨害しない保証をあたえる方法としては、黙って会合へ出席することも含まれますから、「明示して合意」するまでの必要がないことは当然でしょう。

最後の、

「相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りる」

というのは、ちょっと問題です。

たとえば、「相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識」だけだと、

A(B,C)∩B(A,C)∩C(A,B)

だけでは、意識的並行行為の主観面と異なりませんし、AがBCに対して協調行為を妨害しない保証をあたえることにもなりませんから、「意思の連絡」にはあたらないはずです。

では、

「他の事業者の対価の引上げ行為を・・・暗黙のうちに認容する」

で意思の連絡にあたるのか、というと、そもそも、BCの値上げをAが「暗黙のうちに認容する」という言葉の意味がわかりません。

このうち、「暗黙のうちに」というのは、口に出さない、ということですから、BCの値上げを認容したとAが口に出してBCに伝えるわけではない、という意味だといえます。

問題は、

「他の事業者の対価の引上げ行為を・・・認容する」

ということの意味です。

AがBCの値上げを「認容する」って、どういう意味でしょう?

「認容」とは、「みとめゆるすこと」(広辞苑)です。

でも、AがBCの値上げを「みとめゆるす」って、おかしくないでしょうか?

BCが値上げをしようとしているときに、Aが、BCに対して、「おれは、おまえたちの値上げを認めん!」なんていうことがあるのでしょうか?

なので、ここの「認容する」というのは、Aが、「あんたたち(BC)の値上げを、おれはじゃましないよ。」という意味なんではないでしょうか。

これを口に出して言うのが明示の「認容」で、口に出さず態度で示すのが黙示の「認容」でしょう。

こう解するのがカルテルの構造と実態に照らして自然ですし、それはまさに、保証交換説そのものです。

なので、判決が、

「他の事業者の対価の引上げ行為を・・・認容する」

の部分でほんとうに言いたいのは、

「他の事業者の対価の引上げ行為を・・・妨害しないという保証をあたえる」

ということなのでしょう。

「意思の連絡」を「合意」と略称することもありますが、(値上げの)「合意」という言葉のイメージからすると、保証交換説は、かなり遠い印象をあたえます。

しかし、それは、カルテルが想定している「合意」が、実際、値上げの「合意」というものからかなり遠いからなので、しかたありません。

なので、東芝ケミカル判決も「合意」という言葉は使わず、「意思の連絡」という、持って回ったような言い方をしたのでしょう。

「合意」というのを、値上げの「合意」ではなく、保証の交換の「合意」であると理解するならば、「意思の連絡」というやや不自然な日本語を使うよりも、「合意」という言葉を使ったほうが、わかりやすくて良いような気もします。

2021年1月20日 (水)

窓口商社を介した入札参加

談合の違反者が自ら入札に参加するのではなく、その窓口の商社が参加していたケースとして、近畿地区所在の低食塩次亜塩素酸ソーダ供給業者に対する平成11年1月25日勧告審決(担当官解説公正取引583号53頁)があります。

担当官解説p58では、

「本件で特筆すべき点は,関係人たる低食塩次亜供給業者は,いずれも競争入札等には直接参加していないことである。

そこで採られた方法が,関係人がそれぞれの競争入札等に参加する自社の窓口商社をコントロールして実施することであり,関係人は,窓口商社との固定的関係

(窓口商社自らは低金塩次亜の供給施設及びその輸送手段を有しないこと等のため)

を背景として,競争入札等においては窓口商社の応札価格(単価)を指示し,窓口商社は指示された応札価格で応札している状況にあった。

このように,関係人が窓口商社の応札価格をコントロールしていたことにより,本件発注者が実施する競争入札等に事実上参加していると同様な構図となり,その上で,関係人が話合い等によって浄水場又は下水処理場ごと,あるいは納入期間ごとに,それぞれ,あらかじめ供給予定者を決定し供給予定者が供給できるようにしていたものである。」

と解説されています。

この事件でわかることは、入札に自ら参加しない事業者でも入札談合で独禁法違反に問われる、ということです。

この事件の理屈と結論自体は、私もこれで良いと思うのですが、このように特定の事実関係のもとに述べられた一般論らしきものが一人歩きする傾向があるのが困ったものです。

勧告審決では、

「3 ダイソー、三菱瓦斯、南海化学、旭硝子、三井無機、トクヤマ、鐘淵化学、東亜合成、関東電化及び東ソーの10社(以下「10社」という。)は、それぞれ、10下水処理場向け低食塩次亜の指名競争入札等への入札参加者のうち特定の者を、主に自社が直接又は販売代理店等を介して供給する低食塩次亜を販売する者(以下「窓口商社」という。)としている。

また、窓口商社は、10下水処理場向け低食塩次亜について、大阪市から継続的かつ安定的な納入を求められているところ、自らは供給施設及び輸送手段を有しないこと等から、それぞれ、10下水処理場向け低食塩次亜の取引について10社とおおむね固定的な関係にある。

「4 10社は、10下水処理場向け低食塩次亜の指名競争入札等の都度、それぞれ自社の窓口商社に対し、応札すべき金額の基礎となる低食塩次亜の1キログラム当たりの価格(以下「単価」という。)を直接又は販売代理店等を通じて指示しており、窓口商社は、指示された単価に購入予定数量を乗じた金額で応札している。」

「二1 大阪市は、平成元年ころから、10下水処理場において殺菌剤として使用する薬品について、液体塩素から低食塩次亜に順次転換し、遅くとも平成6年3月ころまでには転換を完了しているところ、

10下水処理場においてそれぞれ転換が行われる都度、10下水処理場に液体塩素を供給していたダイソー、三菱瓦斯及び南海化学の3社(以下「3社」という。)が、液体塩素に替えて10下水処理場に低食塩次亜を引き続き供給することを意図したことに対し、

旭硝子、三井無機、トクヤマ、鐘淵化学、東亜合成、関東電化及び東ソーの7社(以下「7社」という。)から3社に対し、10下水処理場に低食塩次亜を供給したい旨の要求がなされた。

2 10社は、前記1の転換が行われる都度なされた要求を契機として、営業担当者の会合等において、10下水処理場向け低食塩次亜の供給について検討を行ってきており、その後、営業担当者の会合に出席しなくなったトクヤマ及び旭硝子に対しては、ダイソーらが同会合等における内容を連絡するなどしていたところ、

10社は、遅くとも平成6年3月25日以降、大阪市が指名競争入札等の方法により発注する10下水処理場向け低食塩次亜について、供給価格の低落防止を図るため

(一) 津守下水処理場については、あらかじめ、3社及び7社の間においては、交互に供給するなどの方法により、3社及び7社の間で均等に供給することとし、3社間及び7社間においては、あらかじめ定めた順番に従い供給すべき者(以下「供給予定者」という。)を決定する

(二) 津守下水処理場以外の下水処理場については、3社が供給すべき数量の合計と七社が供給すべき数量の合計との比率を定め、3社間及び7社間においては、当該比率に対応する数量をそれぞれ均等に供給することとして、あらかじめ話合いにより供給予定者を決定する

(三) 指名競争入札等の都度、供給予定者(供給予定者が2以上の場合には、供給予定者間の話合いにより定められた落札すべき窓口商社に対し単価を指示する供給予定者。以下この項において同じ。)は、自社の窓口商社に対し単価を指示し、供給予定者以外の者は、自社の窓口商社に対し当該単価より高い単価をそれぞれ指示することなどにより、供給予定者の窓口商社が落札できるように協力する

旨の合意の下に、納入期間及び下水処理場ごとに供給予定者を決定し、供給予定者が供給できるようにしていた。」

と認定されています。

問題なのは、ここで述べられている、違反者が窓口商社に対して単価を指示していたことから違反者を違反者と認定できる、という一般論が一人歩きしてしまっていることです。

以前、一見似たような、だけれども本質的にはまったく異なる事件を担当したときに、そう感じたことがありました。

わたしが担当した事件では、依頼者は排除措置命令を受けたのですが、他の談合参加者らはすべてメーカーであり自前の供給施設をもっていたのに対して、私の依頼者は供給施設を持っておらず、他の談合参加者から対象商品を購入する、いわば窓口商社に販売する卸売業者のような立場にありました。

なので、事前手続では、

メーカー間で談合が成立するのはわかるが、当社は窓口商社に販売する卸売業者にすぎないのであって、他の談合参加者とは取引段階が異なるし、まして他の談合参加者から商品を仕入れているだけの立場(独自の調達先を持たない)であって他社と共謀して価格を引き上げる力がない(共同で市場支配力を行使できる立場にない)のだから、談合の違反者と認定するのは新聞販路事件等の先例に照らしてもおかしいのではないか

という趣旨のことをかなり主張したのですが、そのときの審査官の回答は、当社は入札単価を指示できる立場にあったのだから違反者となる、という一点張りでした。

これに対しては、

当社が入札単価を指示できる立場にあったとしても、他の談合参加者から商品を仕入れているだけの立場なので、もし価格競争をしかけようとしたら調達先から納入価格を引き上げられてしまうだけなので

(※実際、開示された証拠の中に、当社が価格攻勢を仕掛けようとしたときに、当社の調達先に他の談合参加者が、「あいつ(=当社)をどうにかしろ」みたいなやりとりがありました。)

やっぱり共同で市場支配力を行使できる立場にはないのではないか、

当社が窓口商社に単価を指示できるのは、窓口商社に商品を販売しているのが当社なのだから当たり前なのであって、指示できるという事実だけで市場支配力が生じるわけではなく、供給能力など競争力の源泉となるものをもっている必要があるのではないか、

と反論したのですが、回答はやはり、「入札単価を指示できる立場にあったので違反者である」の一点張りでした。

このとき感じたのは、公取委(の審査官)は競争の本質を何も分かってないなぁ、ということだったのですが、今にして思うと、この次亜塩素酸事件の

「入札単価を指示できる立場にあるものは違反者である」

という一般論が一人歩きしていたのだな、とこの事件の担当者解説をみてわかりました。

以前担当した上記事件のときは、販売業者とメーカーが談合できるのか、できるとすればどのような場合か、という点はさんざんリサーチしたのですが、窓口商社を用いる点については談合になってあたりまえだと思っていたので、うかつにもまったくリサーチが及んでいませんでした。

でもあきらかに、私の案件の事前手続での公取委の説明は、この次亜塩素酸の談合の言い回しですね。

ですが、私の案件と次亜塩素酸の件は、本質的にまったく違います。

というのは、次亜塩素酸の勧告審決で非常に大事なのは、

「窓口商社は、10下水処理場向け低食塩次亜について、大阪市から継続的かつ安定的な納入を求められているところ、自らは供給施設及び輸送手段を有しないこと等から、それぞれ、10下水処理場向け低食塩次亜の取引について10社とおおむね固定的な関係にある。」

と認定されている点です。

これをみると、談合参加者は供給施設をもち、窓口商社は供給施設をもたないから、談合参加者が窓口商社に価格を指示できる立場にある、という背景があったことがわかり、供給施設を持つ者同士の間で談合があったというのは、きわめて自然なことです。

ところが私の案件では、その供給施設の部分がまったく抜け落ちて、しかも、供給施設に代わる何らかの市場支配力の源泉についても認定されないまま、たんに「単価を指示していた」というだけで、他のメーカーとヨコの関係にある談合参加者だとされたのです。

事案の背景を考えずに勧告審決の文言だけをお題目のように唱えていたわけです。

実は別の案件でも、意見聴取手続で、「排除措置命令案で認定されているこの事実は、違反要件にどのように関係するのか」と質問したら、

「これらの事実は、排除効果を実証的に裏付けるものである。」

という回答でした。

一瞬何のことを言っているのか意味が分からなかったのですが(問題の事実は排除効果を否定する間接事実だとしか見えなかったので)、あとでわかったのは、この「排除効果を実証的に裏付ける」というのは、JASRAC事件の最高裁判例解説で使われている言い回しなんですね。

でもJASRAC事件最判解説では、たしかに「排除効果を実証的に裏付ける」というフレーズが正しい使い方で使われているのですが、私の事件での審査官の回答は聞いていても「?」という感じで、回答が事実関係にぜんぜん噛み合っていないかんじでした。

どうしてこういうことになるのかというと、あまり考えずに判例解説のフレーズをコピペして使ったからなんですね。

役所というのは個人のセンスで言い回しを変えたりできないので、こういうコピペも組織上やむをえないのかなぁと思いますが、もう少し頭を使って考えたほうがいいと思います。

というわけで、弁護士や法務部のみなさんは、排除措置命令や公取委の説明で「?」と思うようなフレーズを公取委がキーワード(お題目)のように使ったときには、どこかにソースがないか、公正取引協会のデータベース(有料)や公正取引委員会の審決データベースでキーワード検索してみることをおすすめします。

きっと、公取委が何を考えているのかがよくわかります。

2021年1月18日 (月)

製造を受託して役務提供を委託する下請取引

下請法上の製造委託は、おおまかにいって、①販売するための製品の製造を委託(類型1)、②受託した製品の製造を委託(類型2)、③受託した修理に必要な部品等の製造の委託(類型3)、④業として製造する自己使用製品の製造の委託(類型4)、です。

そのうち、オーソドックスな製造委託である類型1と2は、親事業者が自分の顧客に引き渡すのは「製品」であり、下請に製造させるのは「製品」やその部品等で、いずれも「モノ」と「モノ」です。

これは他の下請取引でも基本的には同様で、役務提供委託は、親事業者が顧客に提供するのも、下請事業者から提供を受けるのも「役務」ですし、情報成果物作成委託では、親事業者が顧客に提供するのも、下請事業者から提供を受けるのも「情報成果物」です。

(ただ公取委の解釈では、情報成果物作成委託の「提供」には「商品の形態,容器,包装等に使用するデザインや商品の設計等を商品に化体して提供する場合(例:ペットボトルの形のデザイン,半導体の設計図)も含まれる。」(令和2年下請法テキスト10頁)とされていますが、この解釈が間違いであることは以前このブログで書きました

条文を確認してみましょう。

製造委託は下請法2条1項で、

「事業者〔=親事業者〕が業として行う販売若しくは業として請け負う製造(加工を含む。以下同じ。)の目的物たる物品若しくはその半製品,部品,附属品若しくは原材料若しくはこれらの製造に用いる金型

又は

業として行う物品の修理に必要な部品若しくは原材料

製造を他の事業者に委託すること

及び

事業者がその使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合にその物品若しくはその半製品,部品,附属品若しくは原材料又はこれらの製造に用いる金型の製造を他の事業者に委託すること」

と定義されており、親事業者が受託する(または業として自らする)のも、委託するのも、物品等の「製造」です。

(ただし類型3だけは、受託が「修理」で委託は「製造」で食い違っており、唯一の例外です。)

修理委託は2条2項で、

「事業者が業として請け負う物品の修理の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること

及び

事業者がその使用する物品の修理を業として行う場合にその修理の行為の一部を他の事業者に委託すること」

と定義されており、親事業者が受託する(または業として自らする)のも、委託するのも、「修理」です。

情報成果物作成委託は2条3項で、

「事業者が業として行う提供若しくは業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること

及び

事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」

と定義されており、親事業者が受託する(または業として自らする)のも、委託するのも、情報成果物の「作成」です。

役務提供委託は、

「事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること・・・」

と定義されており、親事業者が受託するのも委託するのも「役務」です。

なので、親事業者がその顧客から物品の製造を請け負っている場合に、親事業者が下請事業者に役務提供を発注することは、役務提供委託にも、製造委託にもあたりません。

このことが端的に表れているのが下請法講習テキスト(令和2年11月版)のp15の注2(「「情報成果物の作成」と「情報成果物の作成に必要な役務の提供」について」)で、そこでは、親事業者が顧客から情報成果物の作成を受託して、その情報成果物の作成に必要な役務の提供を発注することは、役務提供委託にも情報成果物作成委託にもあたらないことが明示されています。

たとえば、最終的な情報成果物(親事業者が顧客に納入する情報成果物)が「放送番組」の場合、その放送番組の一部を構成する「タイトルCG」の作成委託は情報成果物作成委託にあたるけれど、その放送番組の「監督」の役務を監督さんに委託することは、「最終的な情報成果物の作成に必要な役務」の委託であって、

「委託事業者が他者に提供する情報成果物の作成に必要な役務である場合に,当該役務の提供を他者に委託することは,本法の対象とならない」

とされ、かかる役務提供の委託には下請法は適用されないとされています。

なお細かいことをいえば、情報成果物の作成に「必要な」役務であるかどうかは問題の本質とは関係がなく、要は、条文どおり、親事業者が受託するのが情報成果物作成なら、委託するのも情報成果物作成でなければならない(「必要な」かどうかは、論理的には下請法の適用不適用に関係がない、あるいは、不要な場合に下請法の対象にならないのは当然のこととして、「必要な」場合でも対象にならないのだから、「必要な」という文言は無意味)ということです。

そこでたとえば、親事業者が顧客から特殊な設備の清掃を受託し(役務提供の受託)、その清掃に必要な特殊な工具の製造を下請事業者に委託しても(物品の製造の委託)、製造委託にはあたらず、もちろん役務提供委託にもあらたらず、下請法の適用はないことになります。

ただし、委託しているのは役務っぽくっても、製造の行為の一部であるとみなされて製造委託になることはあります。

たとえば下請法テキストp21のQ11では、

「Q11: 工場内における運送作業を外部に委託する取引は,「製造委託」と「役務提供委託」のどちらに該当するか。

A: 運送は役務の提供に該当する行為であるが,同一工場内における製造工程の一環としての運送(ライン間の仕掛品の移動等)を他の事業者に委託することは,製造委託に該当する。」

とされています。

これは、一見、役務の委託(運送作業)っぽくっても、製造の委託であるとみられることがある、という例です。

これに対して、工場内の運送業務の委託ではなく、倉庫から工場までの運送業務の委託なら、純粋な役務の委託なので、製造委託には該当しないでしょう(親事業者が受託しているのが物品の製造なので、もちろん役務提供委託にもあたりません)。

では、工場の同じ敷地内の、資材置き場から製造ラインまでの運搬はどうでしょうか。

微妙なところですが、「同一工場内における製造工程の一環としての運送(ライン間の仕掛品の移動等)」というテキストの文言からすると、同一工場内なら製造委託になるのでしょうね。

2020年12月30日 (水)

景表法の講演の反省点

先日、以前に私の景表法の講演を聴いたという方から、

「先生が以前講演でお話しされてた、『予想以上の売れ行きで生産が間に合いません』という広告が景表法違反になったという事件がありましたが、『生産が間に合いません』という表示はNGということなのでしょうか?」

というご質問のお電話をいただきました。

この事件は最近の(といっても大元課長時代の)消費者庁の活発な規制を象徴する事件としてたびたびセミナーで紹介しているCDグローバルの葛の花イソフラボンの事件です。

この事件では、実際には注文の予想を立てていないのに「予想を上回る注文をいただき生産が間に合いません」みたいな表示をしていたのが景表法違反になりました。

私はいつも講演では、景表法では表示と実際の不一致が不当表示になるので、表示と実際が一致していれば不当表示にはなりませんということを強調していたので、このようなお電話での質問を受けて、やっぱりそれでも強調が足りなかったのかなあと反省しました。

なので、「ほんとうに予想を上回る注文があったなら問題ないのですよ。」とご説明しました。

法律のアドバイスではよく、「NGワードは何ですか?」というような質問を受けることがあり、表示関係の法律でもたとえば薬機法などでは、これはとにかくアウト、というNGワードがあるので、事実(実際)しだい、という景表法のほうが、企業の方にしてみればむしろ珍しいのかもしれません。

なので、そのような景表法の特徴(常にだめなNGワードのようなものは存在しない)を、これからもわかりやすく伝えていかないといけないな、と思いました。

確かに実務上は、危ない橋を渡らないために、この表現はNGみたいな定め方をする企業もありますが、リスクの予防として一律使わないこととしているだけなのと、法律の解釈としてだめなのとでは、ぜんぜん意味が違います(少なくとも弁護士にとっては)。

ただあとになって考えてみると、あの回答でよかったのかなぁと、さらに反省しました。

というのは、こういうアドバイスを受けた相談者がやりそうなこととして、売上をあえて少なめに予想しておいて、いわば品薄を煽って、「予想を上回る注文をいただき生産が間に合いません」という表示をする、ということがあるんじゃないか(ひょっとしたら電話してきた人も、それを考えていたんじゃないか)、と思いついたからです。

これはなかなか微妙ですね。

ともかく「予想」を立てているのだから、その「予想」を上回ってさえいれば、「予想を上回る注文」といっても、うそではないともいえそうです。

ただ、最初から品薄になることを見越して立てた予想なんてそれ自体がうそなのであって、はたして意味があるのか、という気もします。

そうするとやっぱり、「予想はきちんと合理的に立てないといけないですよ。」とアドバイスすべきだったかなぁ、と思います。

こんな具合に、景表法というのは法律自体は何も難しくないのですが、アドバイスのしかたに気をつかうというか、相談者が何をしようとしているのか推測しながら答えないとあぶないなぁ、と思います。

まあ、普段からお付き合いのある依頼者の方々の場合は、事務所でじっくりお話を聞けますし、こちらも先方のビジネスや社風をある程度わかっているので、そんな腹の探り合いのようなことをする必要はないのですが、セミナーの終わりにちょこっと質問しに来られる場合とか、気をつけないと危ないかも、とあらためて思いました。

ともあれこのような形で講演についてご質問をいただくと、こちらも、こういう点が誤解されるのだとよく理解できます。ご質問いただいた方には感謝したいと思います。

2020年11月30日 (月)

コンビニ24時間営業についての公取委への報告について

とあるメディアの記者さんから聞いたのですが、取材で元公取委の弁護士さんから話を聞いたときに、

「あのコンビニ24時間営業の報告は、自主点検して、問題がなければ問題がないって報告すればいいんであって、なにも24時間営業をやめろとか、そんなおおげさなものではないんですよ。」

といわれたそうです。

へ~、と思いましたね。

ふつうの実務家の感覚からすると、あそこまで公衆の面前で24時間営業の強制は問題だといって、改善して報告せよと言われたら、24時間営業の強制はやめないといけない(ひょっとしたら排除措置命令を受けるかも?)ととらえるんじゃないかと思うのですが、公取委出身の人の感覚はそうじゃないんですね。

お役所というのはこういうふうに、「おれはやれとはいってないよ。あんたが自主的にやったんでしょ。」というんですかね。

お役所(の出身者)の発想をうかがう興味深いエピソードでしたので、共有させていただきました。

2020年11月 1日 (日)

優越的地位濫用ガイドラインの優越的地位に関する記述と英訳について

優越的地位濫用ガイドライン第2、1では、

「取引の一方の当事者(甲)が他方の当事者(乙)に対し,取引上の地位が優越しているというためには,市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく,取引の相手方との関係で相対的に優越した地位であれば足りると解される。甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合である。」

と説明されています。

ですが、契約書のドラフティングや法律の条文的な発想(法律文書の発想)からすれば、ここは、

「取引の一方の当事者(甲)が他方の当事者(乙)に対し,取引上の地位が優越しているというためには,市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく,との関係で相対的に優越した地位であれば足りると解される。甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合である。」

とすべきだったのではないかと思います。

最初のほうで取引の相手方を「他方の当事者(乙)」と呼んでいるので、それに合わせるのが作法だ、ということです。

あるいは、「他方の当事者(乙)」のほうをいじって、

「取引の一方の当事者(甲)が取引の相手方(乙)に対し,取引上の地位が優越しているというためには,市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく,取引の相手方との関係で相対的に優越した地位であれば足りると解される。甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合である。」

とするのでもよかったかもしれません。

極論すれば、ガイドラインの記載方法では、「他方の当事者(乙)」と「取引の相手方」とが、同じ人をさすのかどうか一義的にあきらかでない、とさえいえてしまいます。

とくに、センスのない一部の法律家のなかには、こういう言葉遊びをするのが好きな人もいますから、穴はないにこしたことはありません。

ちなみに、「他方の当事者(乙)」と「取引の相手方」とがちがう人をさす、という解釈として、法律家的なへりくつをこねまわすとすれば、「当事者」という用語はまさに契約の当事者であって、契約書にサインしている当該法人または人物を意味するのに対して、「相手方」というのはより実質的な概念で、法人単位でみるのではなくたとえばグループ単位でみていいのだ、というような解釈がありうるかもしれません。

でももしそうなら、「取引の一方の当事者(甲)」のほうは法人なのに「取引の相手方(乙)」のほうはグループである、ということになり、ちょっと苦しそうです。

それに、トイザらス審決などの感覚からすると、優越的地位は特定の部門との関係でみとめられたりするので、「当事者」も「相手方」も、事案によって、グループだったり、法人だったり、一部門だったり、柔軟に解釈しているように思います。

というわけで、「当事者」が法人格単位で「相手方」は必ずしもそうではない(経済的実態に即して判断する)という解釈は、やっぱり無理なように思います。

もし私がガイドラインをドラフトするなら、

事業者取引の相手方に対し,取引上の地位が優越しているというためには,市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく,取引の相手方との関係で相対的に優越した地位であれば足りると解される。取引の一方の当事者(他方の当事者(に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合である。」

とでもしますかね。

まあガイドラインは条文や契約書ではないですし、ふつうの人には「取引の相手方との関係で相対的に優越した地位であれば足りる」といってもらったほうがわかりやすいという配慮なのかもしれません。

実務上の使い勝手からしても、「取引の相手方との関係で相対的に優越した地位であれば足りる」というのは、判決などで頻繁に引用される決まり文句でしょうから、このフレーズがあったほうが便利なのかもしれません。(「乙との関係で相対的に優越した地位であれば足りる」では、ちょっと引用しにくいです。)

実は、以上のようなガイドラインの記述のほころび(?)に気がついたのは、公取委の英訳をみたからです。

上記の部分は英訳では、

「In order for one party to a transaction (Party A) to have superior bargaining position over the other party (Party B), it is construed that Party A does not need to have a market-dominant position nor an absolutely dominant bargaining position equivalent thereto, but only needs to have a relatively superior bargaining position as compared to the other transacting party. When Party A has superior bargaining position over Party B, who is a transaction counterpart, it means such a case where if Party A makes a request, etc., that is substantially disadvantageous for Party B, Party B would be unable to avoid accepting such a request, etc., on the grounds that Party B has difficulty in continuing the transaction with Party A and thereby Party B's business management would be substantially impeded.」

となっています。

これをみて、「あれ? ガイドラインって、こんなこと言ってたっけ?」となったわけです。

法律英語だと、同じ概念は同じ言葉であらわすのがより徹底しているので、かなり違和感を覚えたわけです。

母国語の日本語でぼーっと読んでいると、こういうことには気がつかなかったりするのですが、英語と日本語を行ったり来たりしていると、語感とか言い回しとかいった余分なものがそぎ落とされるので、論理が明確にみえてくることがしばしばあります(もちろん、いちいち英語になおさずに日本語だけみてもみえてくるのですが)。

ちなみに上記英訳は、

「市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位」

というのを、

「a market-dominant position [n]or an absolutely dominant bargaining position equivalent thereto」

というふうに、かなり意訳していますが、「市場支配的な地位」を「a market-dominant position」と訳するのはいいとしても、「それに準ずる絶対的に優越した地位」を「an absolutely dominant bargaining position equivalent thereto」と訳すのは、細かく見ればかなり議論の混乱をまねくように思われます。

要は、「絶対的に優越した地位」というのが何を意味するか、という問題ですが(しょせん、「絶対的に優越した地位」は、優越的地位が存在するためには不要なので、要件事実的には無意味な概念なので、あまり深く議論されることはありませんが)、日本語で、

「市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位」

というように、「市場支配的な地位」と「それに準ずる絶対的に優越した地位」と並列されていることからすると、「それに準ずる絶対的に優越した地位」のほうも、取引相手方との関係をみて決まるものではないように思います。

そのような、取引相手方との関係だけをみて決まらない「それに準ずる絶対的に優越した地位」を、英訳では、「an absolutely dominant bargaining position equivalent thereto」というように、あたかも相手方との関係だけをみて判定できる取引上の地位であるかのように翻訳しているので、ちょっと日本語の意味とずれてきています。

でもそのそもそもの原因は、「絶対的に優越した地位」という言葉の意味がよくわからない(あまり論理的ではない)ことにあるのではないか、という気がします。

「優越」とは、「他よりすぐれまさること」(広辞苑)、「他よりすぐれていること」(明鏡国語辞典)というのが基本的な意味なので、ほかとの比較で決まるものです。

そのような相対的なニュアンスがある「優越」に、絶対的な「優越」と相対的な「優越」があるかのように整理するから、どこまでもすっきりしないのだと思います。

もし、「絶対的に優越した地位」を直訳するなら、「an absolutely dominant bargaining position」ではなく、「an abusolutely superior position」でしょう。

でも、superiorは「better in quality than sb/sth else」(オックスフォード現代英英辞典)という意味で、完全に比較の概念なので、日本語の「優越」というのとは、実は微妙にずれます。

実は日本語の「優越」には、「ひいですぐれること」(広辞苑)、「ぬきんでること」(精選版日本国語大辞典)という意味もあり、必ずしも比較の概念ともいいきれません。

このようにみていくと、「絶対的に優越した地位」という、やや矛盾した表現を、「an absolutely dominant bargaining position」と訳したのは、苦肉の翻訳、あるいは見ようによっては名訳なのかもしれません。

というのは、dominantという表現に絶対的なニュアンスをもたせ、bargainingという表現にあくまで取引相手方との関係での地位なのだという相対的なニュアンスを持たせることにより、「絶対的に優越」という意味合いをもたせ、かつ、「absolutely superior」という、英語ではかなり違和感のある表現をうまいこと避けている、といえるからです。

日本語を英訳していると日本語のあいまいなところがみえてくることがよくありますが、これなんかもその一例でしょう。

ところで、「取引の相手方との関係で」を「as compared to the other transacting party」と訳すのは、誤訳だと思います。

この英訳だと、「取引の相手方との関係で相対的に優越した地位」ではなく、「取引の相手方〔が何らかの比較対象Xよりも優れている程度〕と比べて、〔比較対象Xよりもさらにいっそう優れている〕取引上の地位」、あるいは、という意味になってしまいます。

ほかにもこの英訳には細かい問題がいろいろありまして、たとえば1行目の「superior bargaining position」の前に不定冠詞「a」がありません。

ほかに気になったところとしては、

「乙がこれを受け入れざるを得ない」

を、

「Party B would be unable to avoid accepting such a request」

と訳しているのもおかしいですね。

というのは、unableというのは、「not having the skill, strength, time, knowledge, etc. to do sth」(オックスフォード現代英英辞典)という意味で、要は「能力がない」という意味です。

なので、この英訳では、乙が甲の不当な要求を拒む能力がない、という意味になってしまいます。

なので正しくは、

「Party B would have no choice but to accept such a request」

まさに、「余儀なくさせる」(=「他にとるべき方法が無い。」(広辞苑))ですね。

さらに、

「乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため」

を、

「on the grounds that Party B has difficulty in continuing the transaction with Party A and thereby Party B's business management would be substantially impeded.」

と訳しているのも、かなりまずいですね。

「has difficulty」の「has」は、ロングマン現代英英辞典によれば、おおざっぱには「EXPERIENCE」、くわしくは、「to experience something or be affected by something」という意味であり、例文として、「We've been having a lot of difficulties with our new computer system.」というのがあげられています。

なので、「Party B has difficulty in continuing the transaction with Party A」では、

「乙は甲との取引を継続することに困難を感じている(経験している)」

という意味になってしまいます。

ここは素直に、

「because Party B's business would be substantially impeded if the transaciton with Party A becomes difficult to be continued」

などとしてはいかがでしょうか。

いずれにせよ、外国人に優越的地位の濫用を説明するときには触れざるを得ない部分なので、何とかならないものかと思います。

2020年10月31日 (土)

流通取引慣行ガイドラインの単独の取引拒絶に関する誤訳

流通取引慣行ガイドラインの英訳で第2部第3のタイトル

「単独の取引拒絶」

が、

Primary Refusals to Deal by a Single Enterprise」

と翻訳されていますが、primary って何なんでしょうね。

primary refusal to dealをグーグルで検索してもヒットしないので、たぶん誤訳なんじゃないかと思います。

それから同じく単独の取引拒絶についての第2部第3の1で、

「However, exceptionally, even a refusal to deal by a single enterprise is illegal in cases where the enterprise refuses to deal as a means to secure the effectiveness of its illegal conduct under the Antimonopoly Act.

A refusal to deal by a single enterprise may also present a problem in cases where the enterprise refuses to deal as a means to achieve to achieve such unjust purposes under the Antimonopoly Act as excluding its competitors from a market (Note 4).」

と、「to achieve」が2つありますが、1つは余分ですね。

ちなみに原文は、

「しかし,事業者が単独で行う取引拒絶であっても,例外的に,独占禁止法上違法な行為の実効を確保するための手段として取引を拒絶する場合には違法となり,また,競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として取引を拒絶する場合には独占禁止法上問題となる(注4)。」

です。

なにかのおりに直しておいていただければと思います。

2020年9月14日 (月)

ブラックリストの作成と独禁法

事業者団体ガイドライン9-8(顧客の信用状態に関する情報の収集・提供)には、「原則として違反とならない行為」として、

「○ 構成事業者の取引の安全を確保するため、顧客の信用状態について客観的な事実に関する情報を収集し、構成事業者に提供すること

(構成事業者間に特定の事業者と取引しないこと又は特定の事業者とのみ取引することについての合意を生ぜしめるようなことのないものに限る(注)。)。

(注) 例えば、特定の事業者を不良業者又は優良業者として掲載したリスト(いわゆるブラックリスト等)を作成し、配布することは、このような合意を生ぜしめるおそれがある。」

とさだめられています。

これを素直に読むと、事業者団体や競争者間で代金不払いなどのある不良顧客をブラックリストにのせて共有することは独禁法違反である、というように読めます。

じっさい、岩本章吾編著『事業者団体の活動に関する新・独禁法ガイドライン』p168では、

「参考例9-8は、その(注)において、どのような場合にそのようなボイコット的合意が生じやすいかを例示しており、その一つとして、いわゆるブラックリスト(不良業者リスト)やホワイトリスト(優良業者リスト)を作成して配布するような場合が挙げられている。

こうしたリストを作成・配布することは、共同ボイコットに直結しやすく、極めて危険であることから、事業者団体においては十分な注意が必要である。」

と、事業者団体によるブラックリストの作成に対してきわめて否定的な説明がなされています。

しかし、実際の公取委の運用はそこまできびしいことは言っていません。

というのは、公正取引365号29頁では、外国のバイヤーに変換条件付きで無償貸与している輸出商品に付随する運送用具の回収を確保するために、用具を変換しないバイヤーに関する情報を会員から収集して公表するとともに、以後当該バイヤーと取引するときには運送用具の代金相当額を徴収する旨の申し合わせをしていいか、との質問に対して、公正取引委員会事務局経済部団体課の回答として、

「無償貸与する運送用具の返還に関する申合わせ事項は、繊維品を輸出する際の取引条件の一つであり、活動指針6-3の『営業の種類、内容又は方法を制限すること』に該当するかどうか議論のあるところであるが、これは当然に返還すべき運送用具を変換しないといういわば取引の前提条件としてのルール違反に関する問題でもあり、輸出業者間における市場の状況に基本的な変化をもたらすものではなく、問題はないと言える。」

「返還条件付で無償貸与している輸出商品に付随する運送用具を適切に返還してこないバイヤーについて、バイヤー名を公表することは、活動指針7-7の『ブラックリスト等の作成』に該当するかどうか議論のあるところであるが、これは当然返還すべきものを返還しない業者のリストを公表するもので、取引の安全を確保するための経営上必要とされる顧客の信用状態に関する情報を提供するものであり、基本的には問題がないといえる。」

と回答されています。

これ自体は旧ガイドラインのもとでの回答ですが、現行ガイドラインも同じ内容なので、同じ回答が妥当すると考えられます。

この回答はとても常識にかなった内容であり、異論はないところでしょう。

それに対して、ガイドラインの、ブラックリストが特定業者と取引しない合意を生じさせるという評価自体が、事実認識としてどうかと思います。

というのは、そういうリストに載っていても、たとえば物の売買契約なら前金で取引するとか、いくらでも取引する方法はあるのであって、取引しない合意を必然的に生じさせるとは思われないからです。

それよりも、そういう不届きな取引先がいるかもしれない(とくに上記相談事例のような外国の事業者)という懸念のために取引ができなくなる事業者もいるであろうことを考えると、このような取り組みは、むしろ情報の非対称性を解消することによって取引の成立を促進することで競争上も望ましいといえます。

事業者団体ガイドラインは、ブラックリストが持つこのような競争促進効果をまったく考慮していない点で、そもそも妥当ではありません。

きっと、「ブラックリスト」という言葉の否定的な響きが、このようなガイドラインになったのだと想像されます。

(この点、流通取引慣行ガイドラインで「パトロール」「価格監視」といった、否定的な響きが使われているのも、インターネットの時代になってネットで価格を閲覧できるようになると、「『パトロール』といっても、ネット閲覧と何が違うの?」という当然の疑問にたどり着くわけで、言葉の響きではなく論理で読む者を説得できなければならないと思います。)

なので、現行の事業者団体ガイドラインに改正するときも、上記回答に沿った改正をすべきだったのですが、そのまま残ってしまいました。

ですが、ガイドラインに書いてあることと実際の運用がここまで違うと混乱のもとなので、きちんとガイドラインを改正したほうがいいと思います。

ただ、実際にブラックリストを作るときには、客観的な内容になるように注意すべきでしょうね。

たとえば、下請事業者の団体が、「買いたたきをする親事業者のリスト」みたいなものを作成するとしたら、何が買いたたきなのかについては主観が大いに入りうることを考えると、ちょっと問題だと思います。

上記の相談事例も、無償で借りた物を返すという、義務としては客観的に明確なものだからこそ、問題ないと回答されたのだろうと思われます。

2020年9月 5日 (土)

令和元年度相談事例集について

令和元年度相談事例集について気がついたことをメモしておきます。

■事例1

銀行2社のATM相互開放が不当な取引制限にあたらないとされた事例です。

結論はとくに問題ないのですが、地理的市場の画定について、

「次に,一般消費者は,自らの行動範囲の近くにあるATM又は店舗の窓口で預金取引等を行うことが多いと推測されるため,

一般消費者の行動範囲を基準に,ATM及び店舗の窓口ごとに地理的範囲を画定すべきであるとも考えられる。

もっとも,ATM及び店舗の窓口は日本全国に存在しているところ,地域によって預金取引等に係る競争の状況が異なるという事情は存在しないことから,「日本全国」を地理的範囲として画定した。」

とされているのは、理屈としては疑問です。

ファミマとサンクスの統合に関する企業結合審査では店舗ごとにこまかく競合関係が審査されましたが、本質的にはこの相談事例も同じだと思います。

注目している競争は「預金取引等に係る競争」なので、要は預金獲得競争ですが、勤め先か自宅の近くに支店か、支店がないならATMがある銀行に預金したいと考えるのはふつうのことと思われるので、預金獲得競争はローカルでおこなわれていると思います。

そういう意味では、コンビニと同じです。

たぶん相談事例がいいたいのは、

預金獲得競争は、そういう、ローカルな支店設置競争や、ATM設置競争が、相似形をなしながら全国で展開されている(たくさんのローカルな市場が日本中にちらばっている)のだけれど、

それぞれの地域(ローカル)ごとに個別にみていくほどの特徴が各地域にあるわけではないので、

全部まとめてみる(各地域ごとに個別に見ることはしない)ので十分だから、

そんな抽象的な(頭の中で想像した)ローカル市場(the local market)を分析することで全国を分析したことにできる、

ということで、さらにいえば、

コンビニみたいに店舗の立地が競争上決定的に重要というような事情が、預金獲得競争におけるATMの立地にはみとめられない(ATMの場所で預金獲得額が増えることはあまりないし、コンビニの店舗と違ってATMの設置場所を探すのはそんなに困らない)ので、そんなに目くじら立てることはない

というようことではないか、と想像します。

■事例2

空調設備メーカー2社(シェア10%と1%)間の相互OEMが問題ないとされた事例です。

相互OEMの相談では、両方にOEM供給を受ける必要性があるという相談事例が多いのですが、この事例では、X社(シェア10%)は小型機種に特化したいというのでY社(シェア1%)から大型機種のOEM供給を受けないという事実は出てくるのですが、Y社がX社から小型機種のOEMを受けたい理由はよくわかりません。

まあビジネスの世界ではバーターということはよくあるので、お互いにそうしなければならないという理由がなくても、X社が、Y社に、

「おたく(Y社)の大型を買ってあげるんだから、うち(X社)の小型を買ってよ」

と言っても、そりゃそういう話になるだろうな、と思います。

なので細かいことをいえば、Y→Xの大型については、Xのラインアップを充実させるという効率性が認められるものの、X→Yの小型については、Yの効率性をあげる要素が見当たりません。

とすると、Xが大型の製造競争をやめ、Yが小型の製造競争を(少なくとも部分的に)やめることの競争緩和効果がどこで帳消しになるのか、よくわかりません。

あえて想像してみると、Xは小型が得意だということなので、Yは小型を自前で作るよりXから買ってきたほうがより効率的だ(XがYに対して絶対的優位であるシナリオ)、という理屈か、Xは大型よりも小型、Yは小型よりも大型が得意なので、自分の得意分野に集中するのが効率的だ(比較優位のシナリオ)、といった理屈なのではないか、と思いますが、たぶん回答はそんな細かいことは考えていないのでしょう。

もともと当事者のシェアが低いですし、たんなる売買だ、くらいの発想なのでしょうね。

相互OEMは双方に効率性の改善がなくてもシェアが低ければOKになる、という事例だといえます。

■事例5

家電メーカーが、売れ残りリスク等を自ら負うことを条件に、小売店への価格指示をしても再販売価格拘束にあたらないとしたものです。

似た事例として平成28年度事例1があり、そちらの契約関係は、

「ア X社は,家電製品Aの販売業務を小売業者に委託し,小売業者はこれを受託する(委託販売契約)。

イ 小売業者の店舗への家電製品Aの納入・補充は,X社と小売業者との間で個別に売買契約を成立させることにより行う(これにより,小売業者が通常の買取り契約による販売のときと同様に商品販売代金を自らの売上げとすることを可能とする。)。

ウ 前記イにより,小売業者は,自らが所有する家電製品Aを消費者に対して販売することとなるところ,これに伴って生じるリスクは,次のとおり分担する。

(ア)商品売れ残りのリスクについて,小売業者は,家電製品Aの納入代金の支払日以降,自らの判断でいつでも返品できることとする。X社は,小売業者から返品を受けた場合には,これに応じることとし,納入代金に相当する金額を当該小売業者に支払う。

(イ)在庫管理のリスクについて,X社は,小売業者の責に帰すべき事由によるものを除き,商品の滅失・毀損その他の損害を負担することとし,小売業者は,善良な管理者としての注意義務の範囲でのみ責任を負う。

(ウ)消費者への商品販売に係る代金回収のリスクについては,小売業者が負う。

エ 小売業者が消費者に販売する家電製品Aの価格は,X社が指示する。」

というものであったのに対して、今回の契約関係は、

「ア X社と小売業者は,家電製品Aについて,基本契約に基づく個別契約により売買を行う。

イ X社は,小売業者に対し,X社の指定する価格で家電製品Aを販売することを義務付ける。指定する価格は,競合品の市況等に合わせて変更することがある。

ウ X社は,

商品受領時の検査義務及び商品に瑕疵を発見した場合の売主への通知義務が小売業者によって履行されたか否かにかかわらず,

小売業者に納入した家電製品Aについて瑕疵担保責任を負い,

当該家電製品Aに瑕疵が発見された場合には,自己の負担の下で返品を受けるとともに,

速やかに代替商品を納入する。

エ 小売業者に納入後の家電製品Aについて滅失,毀損等の損害が生じた場合(例えば,自然災害等に伴う損害が生じた場合)には,小売業者が善管注意義務を怠ったことに起因するものを除いて,原則としてX社が当該損害を負担する。

オ 小売業者は,家電製品Aの納品日以降,いつでも,自らの判断により家電製品Aを返品することができる。X社は,返品費用を負担するとともに,代金相当額を返金する(納品月の末日までの返品の場合には,小売業者は代金の支払自体が不要)。

カ 家電製品Aの新モデル発売から一定の期間が経過した後においては,旧モデルの家電製品Aについては,前記イ,ウ及びオの定めは適用されない(通常の商品と同様の取引条件となり,値引き販売も可能となる。)。

というものです。

両社で違う点に下線を引きましたが、いずれもあまり本質的な点ではないので、それらの部分についてはみたさなくてもOKといえそうです。

前回の相談では、委託契約と売買契約の二本立てである点になにか大きな意味があるのかな、というふうにも読めなくはありませんでしたが、今回の相談は売買一本なので、二本立てには意味がないことがわかりました。

唯一、今回の相談で特徴的なのは、「カ」の、旧モデルについては価格は指定しないという点ですが、これも、前回の相談がある以上、仮に旧モデルについて指定をしても、問題なしなのでしょう。

■事例6

化学品メーカーの事業者団体が会員間の定期修理の日程を調整することが問題ないとされました。

この事例では、学識経験者をまじえた外部機関が日程調整するというしくみがとられていますが、定期修理の日程調整くらいなら、このような仕組みをとらずに当事者が直接やっても、なんら問題ないでしょう。

なお回答では、取って付けたように、

「なお,定修会議は工事業者等の団体,製品メーカーの団体等から選出された委員によって構成されるものであり,同業者間で情報交換を行うことになるため,本件取組を通じ,これらの団体によって,定期修理に係る料金又は受注予定者の決定,化学品Aを原料とする製品の販売価格の決定等の独占禁止法違反行為が誘発されないように留意する必要がある。」

と述べられていますが、大きなお世話だと思います。

■事例7

工事業者の団体が構成員と発注者に作業時間短縮の要請をすることが不当な取引制限にあたらないとされた事例です。

需要者に不利益をおよぼすにもかかわらず働き方改革を理由に共同行為がOKとされた点が注目されます。

すなわち回答では、

「平成30年6月29日に成立した働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)による労働基準法(昭和22年法律第49号)の改正により,建設業界においては,労働時間の上限規制が令和6年4月1日から適用されることから,長時間労働の是正に向けた取組を進めていくことが必要不可欠な状況にある。」

「X協会が会員を対象に行った調査によれば,会員が雇用している特定建機のオペレーターの年間の時間外労働時間は,規制の上限である720時間を大幅に超過している状況にあり,時間外労働時間を適正な水準まで抑制するためには,工事現場における1日当たりの特定建機の作業時間を最低でも2時間短縮する必要がある。」

という認識のもと、

「 イ 需要者である発注者においては,本件取組によって,工期が長期化する可能性がある。

もっとも,本件取組は,正当な目的に基づく合理的なものである。また,発注者は,作業工程の見直し等の方法によって工期への影響をある程度緩和することが可能である。これらの点を踏まえると,本件取組によって発注者の利益が不当に害されるとはいえないと考えられる。」

と述べています。

労基法の上限規制は令和6年からでまだだいぶ先なので、たんに労基法を守りましょうという取り組みを超えていることはあきらかです。

そういう意味では、この回答はかなり踏み込んだものといえると思います。

ただ、このような需要者に不利益がおよぶ取り組みがこの回答によって一般論としてどの程度みとめられることになったのかは微妙なところでしょう。

公取は昔から、レジ袋削減とか、震災復興とか、今回の働き方改革みたいに、大義名分のある取り組みの場合には比較的ゆるやかにカルテルをOKにする傾向がありますが、逆に、法律を守るカルテル(たとえば、不当廉売をしないカルテル)だったら常に正当な目的でOKになるのかといえば、必ずしもそうではないように思われます。

まあ公取委は、自分が独禁法を執行する立場なので、どんな利益が独禁法に優先し、どんな利益が劣後するのかは自分たちが決められてあたりまえ、という発想なんでしょうね。

事業者団体が取引先に適正取引を呼びかけることが相談された事例は過去にもありますが(たとえば、様々な付属サービスが無償で提供されている不当な取引慣行の改善を事業者団体が訴えるのは問題ないとした平成7年事例5や平成5年事例6)、業界の窮状を訴える文書を事業者団体が出すことが問題ないとした事例(平成19年事例10)、反対に、問題ありとした事例(平成16年事例12))があります。

今回の事例はさらに1つ事例を加えるものといえます。

■事例8

こちらは、包装資材メーカーの事業者団体が納品先での附帯作業(事務所での仕分け作業など)を削減・有料化することを要望する文書を取引先に配布することが不当な取引制限にあたるおそれがあるとされた事例です。

回答では、

「 ア(ア) 包装資材Aの納品時の条件に附帯作業が含まれているか否か,また,附帯作業の料金が幾らであるかは,X協会の会員の取引先が包装資材Aの購入先を選択する際の考慮要素となっており,当該会員にとって競争手段の一つになっていると考えられる。

今般のX協会による附帯作業の削減・有料化は,会員の取引先に対して一律に附帯作業の削減又は有料化を要望するという内容であり,会員の競争手段を制限するものである。X協会の会員の中には市場シェアが大きい大手の事業者が含まれているので,X協会がかかる制限を行うことによる競争への影響は大きい。」

と述べられています。

まあ本当に附帯作業が競争手段になっているのかもしれませんし、純粋に事実認定の問題かもしれませんが、相談内容では、

「ウ 最近,運送業者からX協会の会員に対し,予定外の附帯作業に関する苦情,納品時における長時間の待機に関する苦情等が多数寄せられており,これらの苦情に対応した運送業者の労働条件改善が業界内での課題となっている。」

ということらしいので、少なくとも相談者としては、契約内容に含まれていない作業をさせられる(優越的地位の濫用の従業員派遣のようなもの)、という問題意識で相談しているのではないか、と思います。

なので、もし公取委がちゃんと事実を調べて附帯作業が競争手段の一つになっていると認定したならこの回答でもやむをえないのでしょうけれど、たんに作業内容から受けるイメージで競争手段の一つになりうるといっているだけなら、実態を無視した、かなり相談者に気の毒な回答だということになると思います(たぶんこちらが事実なのでしょう)。

本件では附帯作業をするのは第三者である運送業者なので、運送業者にどのような附帯作業をさせるかまで包装資材メーカーと運送業者との間で料金をふくめ合意しているとは、ちょっと考えにくいというか、少なくとも一般的ではないと思います。

事例7との比較でいえば、事例7は労基法の上限規制を守るために必要だということを具体的な数字を示しながら公取を説得できたのに対して、事例8は、同じ働き方改革を目的とするとはいえ、附帯作業がどれだけ不利益になっているのか(たとえば附帯作業がどれくらいの時間ロスにつながるのか)を具体的に示せなかった、ということなのかもしれません。

■事例9

特定の工事方法の普及活動をおこなう事業者団体が標準施工歩掛かりを策定・公表することが問題ないとされた事例です。

歩掛かり(必要な作業員数と作業時間など)だけで価格が決まるわけではないので共通の目安をあたえないから問題ない、という公共入札ガイドラインにしたがって回答されています。

この公共入札ガイドラインは、策定時に政治的な圧力があって、「あまあま」であるという批判が一般的だと思われますが、公取実務ではちゃんと生きているのですね。

ただ、公共入札ガイドラインをひとまずおいて、ゼロから考えると、このような取り組みには場合によっては競争制限効果がありうると思われます。

まず、公共入札ガイドラインの該当部分(第2-2-4〔標準的な積算方法の作成等〕)では、

「中小企業者の団体が、構成事業者の入札一般に係る積算能力の向上に資するため、標準的な費用項目を掲げた積算方法を作成し、又は所要資材等の標準的な数量や作業量を示すこと(事業者間に積算金額についての共通の目安を与えるようなことのないものに限る。)。」

が、原則として違反とならないとされています。

(ちなみに以前耳にしたところでは、土木工事の標準的な公示価格積算ソフトをつかうと、指定されたスペックや材料を入力するとどうやっても同じような金額になるらしく、ガイドラインでは原則シロと明記されているのであまりおとがめを受けることはないものの、「積算金額についての共通の目安を与えるようなことのないもの」といえるかどうかは、じつはけっこう微妙な問題なんだそうです。)

そして、相談の事実関係では、

「本件標準施工歩掛については,X協会の事務局が会員の施工業者から特定土木工事でのA工法に必要となる標準的な作業員の人数及び作業時間のデータを収集して集計し,その平均値を用いる。」

とされています。

ここで気になるのは、会員には多いめの歩掛かりを提出するインセンティブがあるのではないか、ということです。

たとえばいろいろな業界紙に商品の価格動向が公表されていたりすることがありますが、あれは新聞記者さんが各社に電話で取材したりして集計することが多いらしいです。

そして、取材を受ける側は、安い価格を公にするとお客さんから値下げ要求を受けるので、「標準的な価格」としては、まさに「定価」とか、いわゆる「リストプライス」を伝え、実際の取引では、とくに得意客にはかなり値引きをする(なので、実勢価格は業界紙に公表される価格よりかなり安い)、ということが少なくないみたいです。

まあこれは考えてみたら当然で、新聞などで価格が公表されるような標準的な商材の場合、お客さんも当然それをみているでしょうから、公表価格よりも高い価格で購入してくれることはちょっと考えにくいです。

つまり、公表価格は事実上の上限価格だ、ということです。

というような実態を考慮すると、相談事例で会員が提出する歩掛かりの「データ」というのも、多いめに申告するインセンティブがはたらくように思われます。

公表する標準歩掛かりよりもたくさん工数がかかりますとはなかなか言いづらいでしょうから、これは当然のことのように思われます。

しかもこの「データ」というのが、各会員の実際の取引でその歩掛かりで施行したという情報なのか、会員が好きなように申告しているのか、相談事例からはよくわかりません。(きっと好きなように申告しているのではないかと思われます。)

相談では、この工事(コンクリート構造物の補修工事)を売り込んでいくためには「標準的な工事価格を算出できるようにする必要がある」と断定されていますので、じゃあ標準歩掛かりも必要ですねといいやすいですが(逆に言えば「必要がある」というのは、かなりきつい前提です)、もしそういう事情がないなら、会員の自主申告データを平均して標準歩掛かりを決めるというのは、根拠になっている公共入札ガイドラインが「あまあま」であることともあいまって、ちょっと慎重に考えたほうがいいと思います。

2020年9月 4日 (金)

#「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」に反対します。 (その2)

前回に引き続いての、掲題報告書についてのコメントです。

報告書を読んでいて気づいたのですが、24時間営業に関する記述は、他の取引条件に関する記述とバランスが取れていないという点でも問題があると思います。

たとえば、「6 採算の取れない新規事業の導入」(p144)では、

「フランチャイズ・ガイドライン3(1)アでは,

「取引上優越した地位にある本部が加盟者に対して,フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施するために必要な限度を超えて,例えば,次のような行為等により,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には,本部の取引方法が独占禁止法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)に該当する。」

としている。

(フランチャイズ契約締結後の契約内容の変更)

○ 当初のフランチャイズ契約に規定されていない新規事業の導入によって,

加盟者が得られる利益の範囲を超える費用を負担することとなるにもかかわらず,

本部が,新規事業を導入しなければ不利益な取扱いをすること等を示唆し,

加盟者に対して新規事業の導入を余儀なくさせること。」

とされています。

つまり、採算の取れない新規事業の導入については、

「フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施するために必要な限度を超えて」

いるという要件と、

「加盟者が得られる利益の範囲を超える費用を負担することとなるにもかかわらず・・・加盟者に対して新規事業の導入を余儀なくさせる」

という要件をみたす場合に優越的地位の濫用になる、ということです。

しかしよく考えてみると、採算の取れない新規事業の導入は、少なくとも契約書に書かれていないことをさせるという点においては、契約で義務づけられている24時間営業に比べれば、より店舗に対する不利益(あらかじめ計算できない不利益)が大きいはずです。

もちろん、ちょっとだけ採算割れの新規事業と、ものすごく採算割れになる24時間営業(たとえば、深夜にはほとんど客の来ない店舗の24時間営業)とで、どちらが不利益が大きいか、といえば、24時間営業の方が不利益が大きいかもしれません。

(なお、24時間営業の深夜営業だけをみるべきではなくて、24時間空いていることによる安心感や利便性やブランドイメージから24時間営業により店舗の利益が全体として(昼間の営業分も含めて)増えているはずだ、なので、深夜営業だけ切り出して利益・不利益を論じるのは適切ではない、という議論は当然ありうるし、おそらく正しいのだと思いますが、事実認定の問題でもありますし、ここではこれ以上深入りしないこととします。)

でも、いずれの不利益が大きいかは、新規事業の内容と各店舗が置かれた事情しだいなので、一律には決まらず、どちらの不利益が大きいこともありうる、といえます。

ということは、類型的に24時間営業の方が不利益が大きいと判断する理由は何もなく、かえって、24時間営業のほうは契約書に明記されていることからすると、24時間営業のほうが一般的には不利益性が小さい、と考えるのが当然だと思います。

とすれば、不利益の小さい24時間営業のほうが違法になりにくい、というルールでないと、バランスが悪いでしょう。

それに、

「フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施するために必要な限度を超えて」

の要件については、24時間営業はコンビニの代名詞ですから、24時間営業がコンビニの営業を的確に実施するために必要な限度を超えているというのは、新規事業が必要な限度を超えているというのよりも、ずっとハードルが高いように思います。

ところが、報告書では、24時間営業については、前回も説明したとおり、

「本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず,本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当し得る。」(p150)

というように、協議を拒絶しただけで濫用だ、ということになっています。

でもそういうなら、24時間営業よりも不利益の大きく、かつ、「必要な限度」を超えやすい、採算の取れない新規事業についても、協議を拒絶しただけで濫用になる(実際に新規事業の追加の申し入れをするのは本部側でしょうから、そのような本部の申し入れに対して店舗が拒絶するのをみとめない、という形になるでしょう)としないとおかしいでしょう。

でも上に引用したとおり、採算の取れない新規事業については、協議を拒絶しただけで濫用になるわけではなく、「加盟者が得られる利益の範囲を超える費用を負担することとなる」場合に初めて濫用になるとされています。

完全に予測できるという意味では不利益性が小さく、かつ、コンビニの代名詞として「必要な限度」を超えるとは想定しにくい24時間営業も、最低限(=最も厳しくても)これと同じ基準になるはずです。

つまり、24時間営業の強制が濫用になるためには、「必要な限度」を超えることと、「加盟者が得られる利益の範囲を超える費用を負担することとなる」ことが、最低限必要だということです。

具体的には、深夜営業は採算割れで、かつ、コンビニの営業のために「必要な限度」を超えている、といった事情が最低限必要なわけです。

しかしもちろん実際には、深夜営業が採算割れだというだけで24時間営業の強制が濫用になるわけではないでしょう。

なぜなら、まず第一に、(くりかえしになりますが)24時間営業は契約時からわかっているからです。

それから第二に、深夜営業が採算割れになるというようなことは、一般的にはいえないからです。

新規事業の場合だって、採算割れになる店舗と利益の出る店舗は当然ありうるわけです(「事業」なんだから当然です)。

何千、何万とある店舗のすべてに必ず利益が出ないと濫用だ、なんていうのはむちゃくちゃです。

たとえばコンビニの収納代行の強制が優越的地位の濫用かが争われた東京地裁平成23年12月22日(判例タイムズ1377号221頁)では、ちょっと長いですが引用すると、

「次に、平成22年2月末の時点で、本件対象業務1件当たりの手数料収入額(チャージ控除前のもの)は、約66円(来店客の支払手数料を加算した場合には約77円)であり、おにぎりを2個販売した場合の粗利益を若干上回る程度のものである。

物品販売の場合には、仕入商品の種類及び数量の決定、商品の陳列、売れ残り商品の廃棄等に要する手間や、廃棄に伴う仕入原価相当額の損失等のコストが生じるのに対し、本件対象サービスの場合には、これらのコストは発生しないこと等も考慮すると、本件対象業務によって加盟店が取得する手数料収入が不当に低廉であるということはできない。

他方、上記時点で、1店舗当たりの本件対象業務の取扱件数は、1日当たり約70件であり、1件当たりの取扱金額は、約9485円であった。

その処理に要する所要時間は、払込票1枚当たり約40秒(一度に複数枚を処理する場合の払込票1枚当たりの所要時間はさらに短縮される。)程度にとどまる上、

被告は、本件対象業務の負担軽減や過誤防止のために、払込票のサイズの統一、レジシステムの改良、現金カウント機の割安価格での購入やリースの斡旋、取扱金額の上限設定、料金収納業務保険の導入等を行い、

さらに強盗被害の発生を防止するために、加盟店に侵入防止扉や防御盾を設置し、警備会社との間で警備契約を締結した上で、警備会社への通報機能を備えた携帯用非常ボタンを貸与し、自ら保険料を負担して現金盗難被害保険に加入するなどの対策も講じている。

これらの点からすると、本件対象業務によって原告らの被る負担がこれによって得られる利益に比して過重なものであるとまでいうことはできない。」

という判断がされています。

ここで取り上げたいポイントは、「1店舗当たりの本件対象業務の取扱件数」という認定が示すように、裁判所は、一般的に(≒多くの店舗にとって)収納代行が過重な負担になるかどうかを基準にしているのであって、当該原告が採算割れになるかどうかを問題にしているのではない、ということです。

24時間営業の場合なら、裁判所は、それが一般的に(≒多くの店舗にとって)過重な負担であるかどうかを判断するでしょう。

同じことを裏から言うと、当該原告が深夜営業について採算割れであったとしても、かなりの割合(7~8割くらい?)の店舗において、深夜営業で利益が出ているなら、原告は勝てない、ということです。

24時間営業の強制は、裁判所であれば、最低限これくらいの立証をしないと勝てないはずなのですが(「最低限」というのは、24時間営業は契約当初からわかっていたことを踏まえると、裁判所はそれだけで十分原告店舗敗訴という判決を出す可能性が高いので、これくらいの立証は「最低限」であって、これを立証したら勝てるというわけではない、という意味です)、報告書では、本部が交渉を拒否しただけで店舗は勝訴できることになってしまいます。

(ちなみに、契約当初からわかっていたかどうかという点については、上で引用した東京地裁判決は、これも長いですが引用すると、

「被告は、本件フランチャイズ・チェーンの運営者として、加盟者との間で本件基本契約等を締結し、自らの保有するコンビニエンス・ストアの経営に関するノウハウや商標、サービスマーク、意匠等を用いて、同一のイメージの下に加盟店の営業を行う権利を与え、経営指導や技術援助等を行う一方、加盟者から、その対価としてチャージの支払を受けている。

一般に、このようなフランチャイズ・システムにおいては、フランチャイジーがフランチャイザーから提供されるノウハウや商標、サービスマーク、意匠等を用いて、同一のイメージの下に商品の販売やサービスの提供等を行い、フランチャイズ・チェーン全体が統一的に運営されており、そのために業務マニュアル、商品やサービスの品ぞろえ、接客方法等の統一が図られるとともに、その時々の状況に応じて合理性の認められる限度でこれを変更していくことが予定されているものと解される。

本件フランチャイズ・チェーンに関しても、・・・加盟者は、本件基本契約等において、その加盟店が共通の仕様や品ぞろえ、接客方法、便利さ等の特色を有しており、これが本件イメージとして広く認識されていることによって、加盟店の信用が支えられていることを確認した上で、商品構成や品ぞろえ等を含む経営ノウハウを組織化した本件システムに反する行為や本件イメージの変更を行わないことを約している。

したがって、加盟者は、本件基本契約等に基づき、本件フランチャイズ・チェーンの利便性にかかわるもので、本件イメージの重要な要素を構成する商品やサービスについては、特段の事情のない限り、これを提供する義務を負っており、商品やサービスの内容、構成等が合理性の認められる限度で随時変更されることも了解していたというべきである。

とも述べており、ある程度の変更は店舗も了解していたという認定をしており、事前の合意を比較的ゆるやかに(常識的に)みとめている、といえますし、24時間営業がコンビニの「イメージの重要な要素」でないというのも、まず無理なんじゃないかと思います。)

逆に、採算の取れない新規事業に報告書の24時間営業の基準を適用すると、本部からの新規事業導入の申し入れに対して店舗が見直しを求めたときに、その要求を一方的に無視しただけで、不採算の程度にかかわらず濫用になる、というこれまたわけのわからない結論になってしまいます。

まとめると、新規事業とのバランスを考えると、24時間営業の強制は、通常の(あるいは、多くの)店舗にとって、「店舗が得られる利益の範囲を超える費用を負担することとなる」場合にかぎり、濫用になる、とすべきです。

さらに適切に限定するなら、24時間営業がコンビニの営業を「的確に実施するために必要な限度を超えて」いるかどうかも、慎重に検討されるべきでしょう(そして、たぶん必要な限度は超えていないでしょう)。

このように見ていくと、報告書は24時間営業だけに独自の基準を立てていることがよくわかります。

報告書の24時間営業の基準がおかしなものであることは、優越ガイドラインやフランチャイズガイドラインにこの基準を書き込んだらどれくらい違和感があるかを想像してみたらわかると思います。

それくらい、報告書の24時間営業に関する部分は、ほかとの整合性がとれていないということです。

このように、報告書は24時間営業だけを露骨に狙い撃ちして、無理な理屈で濫用だとしていることが、よくわかると思います。

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