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2024年2月23日 (金)

キャンペーンを繰り返した場合の課徴金について(ファクトリージャパン)

カラダファクトリーの屋号で整体サロンを経営するファクトリージャパンに対して、2020年3月18日に、392万円の課徴金支払いを命じる課徴金納付命令が出ています。

この事件は、いわゆるキャンペーンの繰り返しに対して措置命令が出ていた事件ですが、キャンペーンの繰り返しをした場合の課徴金額算定という観点からは、ちょっと興味深い内容になっています。

すなわち、命令書を読むと、

①2018年1月1日から2月28日までの間に、”今なら通常8,964円が3,980円”といった趣旨の表示をした行為

②2018年3月1日から4月30日までの間に、同様の表示をした行為

が、課徴金の対象になっています。

そして、同じく命令書では、

①の行為の期間中の売上額は62,714,800円、課徴金額は1,880,000円

②の行為の期間中の売上額は68,311,900円、課徴金額は2,040,000円

と認定されています。

ここでまず気になるのが、どうして課徴金の対象になったのが①と②の行為だけなのか、ということです。

というのは、措置命令では、これ以外にも、2016年6月あたりから連続して、同じようなキャンペーンの繰り返し行為を何回も続けていたことが認定されていたからです。

どうしてそれらの行為が課徴金の対象にならず、上記①②だけが対象になったのかを想像してみると、おそらく、①②の行為以外は売上額が課徴金の裾切額である5,000万円に届かなかったからではないか、と思われます。

というのは、①②の期間の売上は、いずれも6,000万円台で、そうすると、この整体サロンの1カ月間の売上は3,000万円少々だったのではないか、ということがうかがわれるからです。

つまり、1か月ごとにキャンペーンをさんざん繰り返していた時期は、1か月の売上が5,000万円に届かなかったので課徴金の対象にならず、上記①②の行為だけは2か月単位のキャンペーンの表示だったので売上額が裾切額を超えてしまった、ということのようです。

この課徴金納付命令の考え方だと、さんざん繰り返していた時期の違反行為は課徴金の対象にならず、たった1回繰り返した行為だけが対象になるということになり、いかにもバランスが悪いような気がします。

何より、同じキャンペーンを繰り返す場合には1回のキャンペーン中の売上額が5,000万円を超えないようにキャンペーン期間を短めに設定しておけば何回繰り返しても課徴金は免れる、ということになってしまい、なんだかなぁ、という感じがします。

でも、課徴金は法律の規定に従って形式的に算定されるものなので、仕方ありません。

このような結論になる前提として、キャンペーンの繰り返しをした場合には、毎回の表示は別の表示行為だ、ということが当然の前提になっています。

なぜそうなるのかというと、キャンペーンの期間が異なるからです。

上記①では、「1月1日から2月28日まで」となっており、上記②では「3月1日から4月30日まで」となっているので、①②は異なる期間に提供される異なる役務だ、ということです。

この考え方は、課徴金ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」)にも表れていて、同ガイドライン第4、2⑴では、

「(1) 全国(又は特定地域)において供給する商品又は役務であっても、

具体的な表示の内容や実際に優良・有利誤認表示をした地域といった事情から、

一部の地域や店舗において供給した当該商品又は役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

とされていて、そこでの「想定例」として、

「② 事業者Bが、自ら東京都内で運営する10 店舗において振り袖bを一般消費者に販売しているところ、

平成30 年9月1日から同年11 月30 日までの間、東京都内で配布したチラシにおいて、

当該振り袖について

○○店、××店、△△店限定セール実施!通常価格50 万円がセール価格20 万円!」(○○店、××店、△△店は東京都内にある店舗)等

と記載することにより、

あたかも、実売価格が「通常価格」と記載した価格に比して安いかのように表示をしていたものの、

実際には、「通常価格」と記載した価格は、事業者Bが任意に設定した架空の価格であって、○○店、××店、△△店において販売された実績のないものであった事案」

という例では、

「事業者Bの課徴金対象行為に係る商品は、事業者Bが東京都内の○○店、××店、△△店において販売する当該振り袖となる。」

とされています。

つまり、表示自体で店舗を限定していれば、当該店舗での売上だけが課徴金の対象になる、ということです。

ガイドライン本文の、

「(1) 全国(又は特定地域)において供給する商品又は役務であっても、

具体的な表示の内容・・・から、

一部の地域や店舗において供給した当該商品又は役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

のほうでいえば、

「(1) 常時供給する役務であっても、

表示されている役務提供期間・・・から、

一部の期間において供給した当該役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

ということになる、ということでしょう。

つまり、

①の表示は「2018年1月1日から2月28日までの間」の役務が対象になっているのでその期間に提供された役務だけが課徴金対象役務であり、

②の表示は「2018年3月1日から4月30日までの間」の役務が対象になっているのでその期間に提供された役務だけが課徴金対象役務である、

ということです。

同じキャンペーンの繰り返しでも、表示としては別々で、行為としても別々だ、ということですね。

ほかにもこの課徴金納付命令はいろいろと興味深くて、この命令では、②の行為のあと、2018年5月1日から31日までの間キャンペーンが行われていたことをもってして、②の行為にも課徴金がかかっています。

(ちなみに、2018年5月1日から31日もキャンペーンを行っていたということは、宣伝もしないでキャンペーンをすることはあり得ないですから、当然、5月1日から31日も同様の表示をしていたはずですが、それは違反行為にはなっていません。きっと、キャンペーンを延長せず5月31日で終わったからでしょう。措置命令を見ても、6月はキャンペーンがなかったようです。ですが、7月と8月には、1か月ずつキャンペーンを行っていたようです。)

つまり、1回の延長でも課徴金がかかる、ということです。

(①の行為は、2回延長されていることになります。)

さらに、前記のとおり1回のキャンペーン中の売上が裾切額未満なら課徴金がかからないことの裏返し(?)として、1回あたりのキャンペーン期間を長く設定すると、延長した場合には、その期間全体の売上に課徴金がかかってきます。

たとえば、キャンペーン期間を6か月とすると、これを繰り返したら、6か月分の売上に丸々課徴金がかかってくる、ということになります。

さらに、本件では延長は1か月でしたが、1か月でなければ課徴金がかからないという理由はありません。

したがって、たとえば、1日だけ延長しても、課徴金がかかるおそれがあります。

なので、最悪の場合、キャンペーン期間を6か月に設定していて、何かの手違いで1日だけキャンペーン価格で商品役務を提供してしまったりすると、6か月の売上に丸々課徴金がかかる、ということになります。

(もちろん、それくらいの手違いは、消費者庁も大目に見てくれるとは思いますが。)

考えられる反論として、

「1日延びたくらいでは、キャンペーン期間中に購入した人も、それほど損をしたとは思わないのではないか」

とか、

「特に6か月のキャンペーンの最初のほうに購入した人は、1日延びたって何も感じないのではないか」

とか、いろいろ考えられますが、不当表示に当たらないとはなかなか言いにくいように思います。

ただし、本当に「何かの手違いで」間違って1日延長してしまっただけなら、そもそも不当表示にはあたらない、という理屈も充分ありうると思われます。

というのは、ある意味で当然のことなのですが、キャンペーンの繰り返しの場合でも、違反になる表示は、その違反行為の時点で違反であることが確定するのであり、現に繰り返した時点ではじめて違反になるのではないからです。

このことは、将来価格ガイドライン(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」)にも表れていて、同ガイドライン第2の1では、

「事業者が自己の供給する商品等について、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、

当該表示を見た一般消費者は、通常、

比較対照価格とされた将来の販売価格に十分な根拠がある

すなわち、

セール期間経過後に、当該商品等が比較対照価格とされた価格で販売されることが予定されており、かつ、その予定のとおり販売されることが確実である

と認識すると考えられる。

したがって、事業者が、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する確実な予定を有していないにもかかわらず、

当該価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、

このような消費者の認識と齟齬が生じ、

景品表示法に違反する有利誤認表示となるおそれがある。」

とされています。

つまり、表示の時点で、キャンペーン終了後には表示していた将来価格で販売する「確実な予定」があったかどうかが問題なわけです。

実際に、表示していた将来価格で販売したかどうかは、あくまで、そのような「確実な予定」の存在(または不存在)を立証する間接事実でしかありません。

この理屈は、将来価格の二重価格表示だけではなく、広くキャンペーンの繰り返しにも当てはまると考えられます。

ちなみに、この事件については公正取引843号に担当官解説がありますが、以上で述べたようなことはなにも書いてありません。

せっかく興味深い論点がてんこ盛りで、こんなに面白い事件だったのですから、もっといろいろ書いたら良かったのに、と思います。

2024年2月 1日 (木)

手形で下請代金を支払う場合の割引料の上乗せについて(続々・パートナーシップ構築宣言の落とし穴)

下請振興基準第4、4⑶では、

「⑶ 約束手形・・・により下請代金を支払う場合には、

当該手形等の現金化に係る割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう

当該コストを勘案した下請代金の額を、親事業者及び下請事業者双方で十分に協議して決定するものとする。

当該協議を行う際、親事業者及び下請事業者双方が、手形等の現金化に係る割引料等のコストについて具体的に検討できるよう、

親事業者は、

〔①〕支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに

〔②〕支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び

〔③〕当該手形等の現金化に係る割引料等のコスト

を示すものとする。」

とされています。

つまり、下請代金を手形で支払う場合には、割引料を下請事業者に負担させることは許されず、割引料相当額を手形券面額に上乗せしなさい、ということです。

例えば、100万円の発注をする場合、もし100万円の手形を割り引くのに5万円の割引料がかかるとすると、手形で支払う場合には105万円の手形を振り出さないといけない、ということです。

特に、パートナーシップ構築宣言をしている企業は振興基準を守る義務がありますから、そのようにしましょう。

そして、振興基準のこの部分に対する実質的な解説に該当するのが、中小企業庁ウェブサイトの

FAQ『下請代金の支払手段について』

です。

同FAQのQ4では、

「Q4:親事業者は、割引料等のコストを勘案した下請代金の額を協議する際、

〔①〕現金により支払う場合の下請代金の額等を示す必要があるとのことですが、

いつ、どのように示せばよいのか教えてください。」

との質問に対して、

「下請事業者と支払手段や下請代金の額を協議するに当たって、

例えば下請事業者に見積依頼を行う際に、〔②〕手形等により支払う場合の額に加えて、

〔①〕現金により支払う場合の額や

〔③〕手形等の現金化にかかる割引料等のコストの額

についても合わせて報告するよう求めて、

その報告に基づいて親事業者から下請事業者に対し現金により支払う場合の額等を示すことが考えられます。」

と回答されています。

つまり、下請事業者に決めさせるのが1つの方法だ、というわけです。

例えば、下請事業者が、

①現金で支払う場合の見積額は、100万円

②手形で支払う場合の見積額は、105万円

③割引料は、5万円

と報告してきたら、②=①+③ですから、わかりやすいでしょう。

Q7で言及されている中企庁の「手形で下請代金を支払う場合の注文書の書式例」でも、

「代金(円)」(=手形の券面額〔②〕)

の欄に、

「うち割引料相当分(円)」〔③〕

と記載することを想定しており、上記の例では、

「代金(円) 105万円」

「うち割引料相当分(円) 5万円」

と記載することになると思われます。

ですが、もし、下請事業者が、

①現金で支払う場合の見積額は、100万円

②手形で支払う場合の見積額は、103万円

③割引料は、5万円

と報告してきたら、どうすればいいのでしょうか。

手形の金額は、見積書どおり、103万円とすればよいのでしょうか。

それとも、現金の見積額に割引料5万円を足した、105万円としなければならないのでしょうか。

この点については、振興基準の考え方は、あくまで、

「手形等の現金化に係る割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう

にしなければならない、ということなので、割引料5万円は親事業者が負担なければならず、手形金額は105万円とするのが正しいと考えられます。

「下請事業者が手形の場合103万円でいいといっているのに105万円支払うなんておかしいじゃないか」という意見もあるかもしれませんが、振興基準は法律でもガイドラインでもなく、下請事業者保護のための基準ですから、それでよいのです。

パートナーシップ構築宣言をしている企業は、自ら進んで宣言しているのですから自業自得であり、やはり、それでよいのです。

ただし、下請事業者に現金払いの場合の金額や割引料を報告させるというQ4の考え方はあくまで一例に過ぎず、ほかの方法がないわけではありません。

実際、Q5では、

「Q5:下請事業者の割引料等のコストについては把握していませんが、その場合はどのように対応したらよいか教えてください。」

という質問に対して、

「一例として、実際に下請事業者が近時に割引をした場合の割引料等(率)の実績等を聞くなどした上で、

一般に合理的と考えられる割引料等を協議し、

手形等により支払う場合は、当該割引料等を勘案し下請代金の額を協議することが考えられます。」

と回答されています。

つまり、当事者で協議して「一般に合理的と考えられる割引料」を合意すればいい、ということです。

なお念のためですが、親事業者は、

「〔①〕支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額」

を示さなければならないとされていますが、これを示したからといって、本当に現金で支払わなければならないわけではありません。

発注書に支払方法は手形と書いてあれば、あくまで手形で支払えばよいのです。

この点、Q7では、「〔①〕支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額」を発注書に記載することが勧められていますが、もし記載したとしても、現金で支払わなければならないわけではありません。

Q7の回答でも、

「手形等により支払う下請代金の額に併記する・・・場合は、下請事業者に、支払期日に支払われる下請代金の支払手段が手形等であることが明確に伝わるように記載する必要があります。」

とされており、仮に現金払いの場合の金額を発注書に書いても、支払方法が手形であると発注書に明記されていれば(支払方法は3条書面の必要的記載事項です。下請法3条)、手形で支払えばよいことがわかります。

では、手形で支払うにもかかわらず示される「〔①〕支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額」というのは一体何なのか、といえば、下請事業者に割引料を負担させていないかどうかを判断するため、あるいは、下請事業者が手形払いによる不利益を判断できるための、参考に過ぎない、ということです。

1つ、この「〔①〕支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額」に法的な意味があるとすれば、下請事業者が現金払いを希望してそれに応じる場合には、この①の金額で支払っても減額にはならない、という点です。

このことは、Q9で、

「Q9:手形により下請代金を支払うに当たり、現金により支払う場合の下請代金の額も発注書面に記載していた場合は、下請事業者の希望による現金払への変更において、発注書面に記載していた現金により支払う場合の下請代金の額を支払うことは下請法上問題となるのでしょうか。」

という質問に対して、

「手形により下請代金を支払うに当たり、あらかじめ親事業者が下請事業者と十分協議して合意の上で定めた(1)現金により支払う場合の下請代金の額、(2)手形により支払う場合の下請代金の額、(3)当該手形の現金化にかかる割引料相当分を発注書面に記載していた場合は、下請事業者の希望により現金で支払う際に、当該発注書面に記載した現金により支払う場合の下請代金の額を支払うことは下請法の「減額」に該当しません。」

と回答されていることからわかります。

これに対して、もし3条書面に「〔①〕支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額」を記載しなかった場合にはどうなるのかというと、Q9の回答後半では、

「なお、発注書面において、手形により支払う場合の下請代金の額しか記載していないなど、

現金により支払う場合の下請代金の額及び当該手形の現金化にかかる割引料相当分もあらかじめ合意の上定めていたとは認められない場合には、

下請事業者の希望により一時的に現金で支払う際に、自社の短期調達金利相当額を超える額を差し引くことは下請法の「減額」に該当します。」

と回答されています。

つまり、

3条書面に現金払いの場合の下請代金額が記載されていなくても、あらかじめ現金払いの場合の下請代金額と割引料相当額が合意されていれば、かかる合意に従った現金払いの金額を支払えば減額にはならず、

かかる合意がなければ、発注者の短期調達金利相当額の範囲内で差し引くのは減額にならない、

ということです。

逆に言うと、3条書面に現金払いの場合の下請代金額を書くメリットは、下請事業者の希望で現金払いに切り替える場合に、発注者の短期調達金利相当額を超えて差し引いてもよいという点にある、といえます。

こういう大事なことをFAQですましてしまうのはいかがなものかと思いますが、令和3年3月31日の通達(「下請代金の支払手段について」下請法テキスト資料8)は通達に過ぎないので法的拘束力はなく、振興基準はたんなる基準であって法的拘束力はなく、パートナーシップ構築宣言をして自ら振興基準に縛られることを選択した発注者は自業自得なのですから、やはり問題ない、ということなのだろうと思います。

2024年1月21日 (日)

スタートアップガイドラインに対するいくつかの疑問

「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」(令和4年3月31日)に対するいくつかの疑問点を指摘しておきます。

まず、事例29(28頁)では、

「〔スタートアップである〕c社は、

連携事業者との協業において、

営業秘密である販売先の情報を提供させられたが、

連携事業者は、情報を一切開示しなかった。」

というのが、濫用にあたりうるとされています。

これが、なぜ濫用になるのでしょう? 不思議です。

まず、「営業秘密」であるからというだけでこれを開示させるのが濫用だとすると、協業に必要な営業秘密の開示も求められなくなり、協業が成り立ちません。

事例29には、この肝心の、協業のための必要性についての記述がまったくありません。

むしろ、協業に必要ない営業秘密なら、それだけで(=連携事業者が開示するか否かにかかわらず)濫用にあたる可能性が濃厚ですから、協業に必要な営業秘密であることを前提にしていると読むのが自然でしょう。

でもそうすると、「自分は出したのに相手は出さないのはずるい」という、"対等の精神"だけが濫用の根拠になり、根拠として弱すぎます。

ちなみにその直前の一般論の部分(p27)では、

「取引上の地位がスタートアップに優越している連携事業者が、

顧客情報が事業連携において提供されるべき必要不可欠なものであって、

その対価がスタートアップへの当該顧客情報に係る支払以外の支払に反映されているなどの正当な理由がないのに、

取引の相手方であるスタートアップに対し、

顧客情報の無償提供等を要請する場合であって、

当該スタートアップが、事業連携が打ち切られるなどの今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、

正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるおそれがあり、

優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)として問題となるおそれがある。」

とされています。

これもちょっと回りくどくてわかりにくいですが、要するに、

必要不可欠な営業秘密なら開示を求められるけれど、正当な対価の支払いが必要

ということのようです。

これと併せて読むと、事例29は、この「正当な対価」が、連携事業者から開示される情報である、という趣旨であるようにも読めます(はっきりしませんが)。

でも、典型例であるべきこの種の事例に、情報と情報の価値の対等性というような、ほとんど立証不可能な例を持ってくるのは、いかがなものでしょう?

いずれにせよ、この手の事例は事例を読んだだけで納得感があることが大切であり、その前の一般論と併せ読んでもモヤモヤが残るというのは、ガイドラインとしてよろしくないと思います。

次に、「⑶ 損害賠償責任の一方的負担」について、31頁では、

「取引上の地位がスタートアップに優越している連携事業者が、

損害賠償責任が事業連携においてスタートアップが負うべきものであって、

その損害賠償責任に応じたリスクがスタートアップへの支払に反映されているなどの正当な理由がないのに、

取引の相手方であるスタートアップに対し、

事業連携の成果に基づく商品・役務の損害賠償責任の一方的な負担を要請する場合であって、

当該スタートアップが、事業連携が打ち切られるなどの今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、

正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるおそれがあり、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)として問題となるおそれがある。」

とされていますが、それに続いて記載されている違反事例である事例34では、

「〔スタートアップの〕h社は、

連携事業者から、

h社が開発し、連携事業者に納品したシステムを搭載している製品に不具合があった場合には、

当該システムに起因するか否かにかかわらず

製品の損害賠償責任は全てh社にあり、連携事業者は責任を一切負わないと一方的に取り決められた。」

とされていて、一般論と事例が噛み合っていません。

つまり、事例34では、事業連携の成果であるシステムとは関係のないものに基づく損害賠償責任までスタートアップに負わせるというかなり無茶苦茶なものであり、濫用と言われても仕方ありません。

ですが一般論のほうは、スタートアップが負うべき責任を一方的にスタートアップに負わせることが濫用になる、といっており、これを濫用というのはかなり無理があります。

どうしてこんな食い違いが生じてしまったのか、不思議でなりません。

論理的には、事例はあくまで事例であり、おそらく一般論のほうが優先するのでしょう。

そうすると、ガイドラインは連携企業にとって厳しすぎると言わざるを得ません。

その厳しさを裏付けているのが、それに続く事例36で、そこでは、

「〔スタートアップの〕j社は、

連携事業者から

取引金額の数倍から数十倍の損害賠償責任を負わされた。」

というのが濫用にあたりうるとされています。

でも、損害が取引額の数倍から数十倍になることなんて、いくらでもありうるでしょう。

相手がスタートアップだというだけの理由で、それを請求したら濫用だというのは、あまりに乱暴です。

(実損害の数倍とかなら、公序良俗違反でしょうけれど。)

公取委は、もうちょっと民法の常識を勉強した方がいいと思います。

2023年12月28日 (木)

過去に取引をした者を対象に⾏う企画に関する消費者庁Q&A10番に対する疑問(旧13番)

消費者庁ウェブサイトの景品類Q&Aの10番(「過去に取引をした者を対象に⾏う企画」)では、

「Q10 当店では「お客様感謝デー」として、昨年1年間に、当店で合計10万円以上購⼊してくれた顧客を対象に、抽選で景品を提供する企画を実施しようと考えています。この場合、取引の価額を10万円とみてよいでしょうか。

なお、当店で通常販売している商品等のうち最も安いものは100円です。」

との設問に対して、

「A 取引を条件としない場合であっても、経済上の利益の提供が、取引の相⼿⽅を主たる対象として⾏われるときは、「取引に付随」する提供に当たります。

過去に取引をしたことのある顧客に対して景品類を提供する場合は、原則として、景品企画を告知した後の取引につながる蓋然性が⾼いことから、取引の相⼿⽅を主たる対象として⾏われるものとして、告知をした後に発⽣し得る今後の取引に付随する提供にあたると認められます。

したがって、取引の価額は、景品企画を告知した後に発⽣し得る通常の取引のうち最低のものとなり、過去の購⼊額を取引の価額とすることはできません。

本件は、このお店で通常販売している商品等のうち最も安いものが100円ですので、取引の価額は100円となります。

(参照)

「景品類等の指定の告⽰の運⽤基準について」(昭和52年事務局⻑通達第7号)1(2)、4

「『懸賞による景品類の提供に関する事項の制限』の運⽤基準」(平成24年消費者庁⻑官通達第1号)5(1)

「『⼀般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運⽤基準について」(昭和52年事務局⻑通達第6号)1(2)」

との回答がなされています。

ですが、私はこの回答は取引附随性の認定を誤っており、間違いだと思います。

これは、改訂前の旧13番と比べてみるとよくわかります。

旧13番では、

「Q13 昨年1年間に,当店で10万円分以上の商品を購入してくれたお客様を対象として,今後の取引を期待して「お客様感謝デー」を実施し,来店してくれたお客様にもれなく景品を提供する旨をダイレクトメールで告知しようと考えています。

この場合,取引の価額を10万円とみてよいでしょうか。」

との設問に対して、

「A 既存の顧客に対して景品類を提供する場合の取引の価額については,原則として,当該企画が,同企画を告知した後の取引を期待して行われるものであると認められることから,取引の価額は,当該企画を告知した後に発生する通常の取引のうち最低のものということになり,過去の購入額を取引の価額とすることはできません。  

御質問のケースは,来店を条件として景品類を提供するものと認められますので,取引の価額は100円又は当該店舗において通常行われる取引の価額のうち最低のものとなり,提供できる景品類の価額は取引の価額に応じたものとなります。

(参照)
「景品類等の指定の告示の運用基準」(昭和52年事務局長通達第7号)1(2)」

との回答がなされていました。

つまり、旧13番の企画は、来店を条件とするものであることが明示されており、だからこそ、告知後の取引との取引附随性が認められる、という理屈でした。

これに対して、現10番の企画は、どこにも来店を条件とするとは書かれていません。

(「お客様感謝デー」という響きがスーパーの企画っぽくって、来店を匂わせないではないですが、最近はネットショップの「お客様感謝デー」もふつうにあるでしょうし、書いてないものはないものだと扱うのが当然でしょう。)

なので、現10番においては、取引附随性が認められる要素がありません。

現10番の回答では、それでも取引附随性が認められる理由として、

「過去に取引をしたことのある顧客に対して景品類を提供する場合は、

原則として、景品企画を告知した後の取引につながる蓋然性が⾼いことから、

取引の相⼿⽅を主たる対象として⾏われるものとして、

告知をした後に発⽣し得る今後の取引に付随する提供にあたると認められます。」

という説明がなされていますが、この手の企画で「取引につながる蓋然性が高い」などとは到底言えないと思われます。

もしこの手の企画で「取引につながる蓋然性が高い」といえるなら、そんな楽な商売はありません。

もう少しちゃんと説明しますと、「取引につながる蓋然性」を議論する場合には、その経済上の利益(≒景品)の提供があることによって、提供がない場合に比べてどれくらい取引の蓋然性が上がるのかを考えないといけません。

この点、10番の回答は、「過去に取引をしたことのある顧客」であることによる、将来の取引をする蓋然性と、景品を提供することによる、将来の取引をする蓋然性とを、混同しています。

例えば、去年このお店で10万円以上の買物をした人が1000人いたとして、そのうち、この企画がなくても今年このお店で何らかの買物をするであろう人が600人いるとします。

(なお、イメージとしては、スポーツジムのような継続的取引ではなく、単発(かつ複数)の取引を念頭におくほうが、分析にノイズが入らなくてよいと思います。)

このような場合に、景品が「取引につながる蓋然性が高い」といえるためには、当該企画がなければ取引をしなかったであろう400人のうちの相当数(=「蓋然性が高い」と評価できるほどの数)が、取引をするといえなければなりません。

しかし、実際には、この手の企画で囲い込める(10万円以上の取引をしてくれる)顧客の数は、400人のうち1割(=40人)でもいれば大成功、といったところが相場ではないかと思われます。

(1円以上10万円未満の取引をする人は、分析が複雑になるので無視します。それでも、問題の本質には関係ないでしょう。)

というのは、400人の人が10万円の取引をしてくれるとしたら、粗利が5割として、2000万円の増益になるからです。

Q10の企画は抽選(懸賞)ですから、ふつうは賞品をもらえない人のほうが多いはずであり、なおさら顧客を囲い込む効果は小さいと思われます。

(懸賞か総付かで取引附随性の解釈が変わるわけではないので、この点は問題の本質ではありませんが。)

もし3割(=120人)もいたら、ほとんど奇蹟でしょう。

なぜそのように言えるのかというと、どんなに高額の景品をもらっても、400人の大半は、(懸賞であれ総付であれ)「もらい逃げ」をするのが合理的なはずだからです。

(なので、この手の企画では、景品の額も総付ではそんなに高額にはならないか、懸賞なら当選確率が低くなるか、のいずれかでしょう。)

まして、Q10の企画は懸賞が前提ですから、外れた人はなおさら、企画を理由に取引を続ける理由がありません。

当たった人だって、当たったことを恩義に感じて取引を継続するという殊勝な(あるいは、効用を最大化しないという意味で不合理な)人でもないかぎり、企画ゆえに取引を継続するということはないはずです。

「今回こういう企画があったのだから、来年も同じ企画があるだろう。」と期待して取引を継続するということは、理屈の上ではなくはないですが(それでも、そんな人は400人中2割もいないでしょうが)、Q10ではそのような同種企画の常態化をうかがわせる事情はありませんので、そのような常態化はないという前提で分析すべきでしょう。

このように、1000人の顧客のうち40人(=400人×0.1)にも満たない(それでも企画としては異例の大成功)人が、この企画ゆえに取引をしたに過ぎないのを、「取引につながる蓋然性が高い」と評価するのは、どう考えてもおかしいですし、定義告示運用基準の他の取引附随性の例(ラベルでの告知、入店者、取引勧誘)と比べても、まったく異質です。

ラベルで抽選企画の告知をした場合(定義告示4⑵ア)、その企画に参加したい人は、ふつうはその商品を買うでしょう(企画の内容をメモだけして買わない人は、少数派でしょう)。

購入するとクイズへの解答が容易になる場合(定義告示4⑵イ)も、応募するなら、がんばってクイズの解答を調べるより、その商品を買ってしまったほうが早いと考える人のほうが多数でしょう。

入店者(定義告示4⑵ウ)についても、お店まで来ない人に比べれば、購入する確率はぐっと上がるでしょう。

取引の勧誘(たんなる広告を超える積極的な勧誘)にあたって提供する場合(定義告示4⑶)も、勧誘を伴わない場合に比べれば、商品購入の可能性は相当上がると思われます。

少なくとも、景品をもらい逃げ(勧誘を受けて、景品だけもらって、商品は買わない)する罪悪感は、Q10の場合に比べれば、はるかに高く、景品をもらった人のかなりの割合が購入するでしょう。(もちろん、景品ももらわないし、商品も買わない、という人が一番多いのでしょうけれど。)

もしQ10のようなレベルで「取引の相⼿⽅を主たる対象として⾏われる」ものとして取引附随性が認められてしまうと、取引誘引性以外に取引附随性を要求した意味がなくなります。

どうも最近の消費者庁は、取引誘引性と取引附随性を混同しているフシがあり、困ったものです。

もちろん、今まで取引をしたことがない人に対して同様の企画をした場合に比べれば、去年取引をした人に対してしたほうが、「取引につながる蓋然性が(相対的に)高い」とは言えるかも知れません。

例えば、今まで取引をしたことのない人1000人に同様の企画を行っても、今年10万円以上の取引をしてくれる人は10人もいない(よって、既存顧客に絞った場合の40人と比べてかなり少ない)かもしれません。

しかし、このように「アットランダムにやれば10人のところ、既存顧客に絞ったので40人に増えたのだから、『取引につながる蓋然性が高い』と言えるのだ」という理屈は、前述のとおり、完全に誤りです。

(10番の回答は、このような誤りを犯している可能性が濃厚です。)

百歩譲って取引附随性を認めるとしても、取引の価額が100円となる根拠が全く不明です。

このようなケースにおける取引の価額については、懸賞運用基準やそれが準用する総付運用基準には規定がありません。

なので、この100円というのは、完全に、旧13番の来店者の場合に引きずられただけだと考えざるを得ません。

あるいは、取引を条件とするけれども額は問わない場合の取引の価額は原則100円(総付の場合、総付運用基準1⑵)なのに、Q10のように取引を条件としない(Q10の立場ですら、蓋然性が高いだけ)場合の取引の価額が100円だというのも、いかにもバランスが悪いです。

そこで、運用基準にはないけれどいくらと考えるのが妥当か、かなり無理矢理考えてみると、過去10万円以上の取引をした人を対象にしているのですから、「また10万円の取引をしたら来年も同じような懸賞があるかも。」と期待するということで、せめて10万円でしょう。

10万円購入しないと参加できない企画で、なぜ100円の取引が誘引されるのか、理解できません。

あるいは、懸賞運用基準5⑴で準用する総付運用基準1⑴の、

「(1) 購入者を対象とし、購入額に応じて景品類を提供する場合は、当該購入額を「取引の価額」とする。」

における「購入者」を、過去の購入者も含むと無理矢理読み替えて(換骨奪胎して)、10万円だ、というのなら、まだ条文の根拠はあるといえなくもありません(そんな読み替えをしても過去の取引に取引附随性が生じるわけはないので、いずれにせよかなり無理矢理ですが)。

というわけで、10番は誤りですから、実務上は無視して差し支えないと思われます。

2023年12月18日 (月)

ふるさと納税のポイント還元に景品規制は適用されるか(2023年12月8日付朝日新聞デジタル記事について)

2023年12月8日付の朝日新聞デジタルに、

ポイント、⾦券…ふるさと納税、「おまけ」乱発 寄付なら許される︖

という有料記事があり、その中で寄附額の30%ものポイント還元をする大手ふるさと納税仲介サイトのキャンペーンが景表法の20%までという総付規制の上限に違反するのではないか、という問題が指摘されています。

そして、寄附は「取引」にあたらないので景表法に違反しないと考えているという仲介サイトのコメントが紹介された後、

「⼀⽅、景表法を所管する消費者庁の⾒⽅は異なる。

担当者は「個々のケースを⾒ないといけない」としたうえで「寄付額を取引価額として考え、ポイントなどの付与は寄付の2割以下を基準とするという考え⽅は⼗分ありうる」と話し、規制対象にもなりうるとの⾒⽅を⽰した。」

という消費者庁担当者のコメントが紹介されています。

しかし、この消費者庁担当者の考え方は、明らかに間違いです。

理由を一言で言えば、無償行為である寄附は「取引」(景表法2条3項)に該当しないからです。(百歩譲って無償行為も「取引」に当たるという前提に立っても、今度は返礼品は「商品」(景表法2条3項)に該当しなくなり、かつ、ふるさと納税において「商品」にあたりそうなものはほかにないので、いずれにせよポイントは景品類には該当しません。)

つまり、「景品類」は、景表法2条3項で、

 この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」

というように定義されています。

そして、景表法には、「取引」(景表法2条3項)という用語自体の定義ははありませんが、定義告示3⑵では、

「(2) 販売のほか、賃貸、交換等も、「取引」に含まれる。」

とされています。

ここで挙げられている「販売」「賃貸」「交換」はいずれも有償の取引(取引の対象商品役務と消費者が支払う金員等が対価関係にある取引)であることから、景表法2条3項の「取引」も有償取引に限られると考えられます。

また、「取引」という言葉の通常の意味としても、「取引」は有償取引に限られるというべきです。

たとえば、内閣法制局法令用語研究会『法律用語辞典』では、「取引」は、

「商人間又は商人と一般人との間において営利目的で行われる売買行為。実質的な意味での商行為と同義に用いられることが多い。例、『不当な対価をもって取引すること』(独禁2⑨2)」

と定義されており、有償行為に限られています。

広辞苑でも、「取引」は、

「①商人と商人、または商人と顧客との間の売買行為」

と説明されています。

それでももしふるさと納税が「取引」に該当すると考えられるとすれば、寄附額と返礼品が対価関係にある、という解釈が成り立つ場合でしょう。

しかし、寄附額と返礼品とは対価関係にはありません。

これは、一般人の素朴な感覚としてもそうですし、ふるさと納税制度の制度設計に照らしてもそうです。

すなわち、ふるさと納税制度は、そのふるさと納税額(寄附額)が寄附金控除として一定の限度で所得税・個人住民税から全額控除されることが法律上明確に定められています(地方税法37条の2第1項、同法314条の7第1項)。

当然、一般消費者もふるさと納税の寄附は(寄附金控除を受けられる)寄附であると十分に理解してふるさと納税制度を利用していると考えられます。

(もし寄附金控除を受けられないなら、いくら返礼品がもらえても、ふるさと納税なんてする人はいないでしょう。もしいるとしたら、本当にその自治体に自腹を切って寄附をしたいという人くらいでしょう。)

また、ふるさと納税の返礼品は一時所得に該当するとされていることも、ふるさと納税額は返礼品の対価ではないことを傍証しているものと言えます(「『ふるさと納税』を支出した者が地方公共団体から謝礼を受けた場合の課税関係」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/02/37.htm)。

つまり、もし寄附額と返礼品が対価関係にあるなら、例えば1万円の寄附をして3000円相当の返礼品をもらったときに、3000円分が所得になるはずがありません。

もちろん、世の中には様々な寄附があり得ますので、ものによっては、返礼品と寄附が対価関係にあることもあるかもしれませんが、ふるさと納税の場合には、上述のとおり税法上制度化されていることにより、寄附と返戻金は対価関係にないことが明らかです。

また、朝日新聞の記事は仲介サイトが提供するポイント等をテーマにしているので、実は景品規制の観点からは一ひねり入った事例なのですが、もっと単純な、自治体自体がポイント還元をしたら景品類にあたるのか、という事例を考えてみると、消費者庁担当者の考え方がおかしいことがより一層はっきりします。

まず、「取引」は有償のものに限るという前述の通説的見解を前提にすると、ポイントが景品類に該当するためには、本体商品(景品が誘引しようとする取引の対象商品)は返礼品だ、ということになります。

つまり、1万円の寄附をして2000円相当の返礼品をもらうのは、1万円の寄附をして2000円相当の返礼品を購入したのと同じだ(取引価額は1万円)と考えるわけです。

そうすると、そのような場合に、自治体が寄附額の3割の3000円をポイント還元(その自治体内で使えるポイントでも、ペイペイの残高でも、auペイの残高でも、なんでもいい)したら、それは、3000円の値引以外の何物でもありません。

つまり、本来1万円出して「購入」すべき返礼品を7000円で購入できた、ということです。

なので、3000円のポイントはたんなる値引であって、景品類にはなりません。

もし、「7000円しか払っていないのに2000円相当の返礼品をもらえるのは不当な寄附の誘引だ」と考えたくなる人がいたとしたら、それは、ふるさと納税の返礼品が寄附額の3割までに制限されていること(の潜脱)と、景品類による消費者の合理的選択の阻害とを混同しています。

つまり、景品類がなぜ消費者の合理的選択を阻害するのかと言えば、本来の取引の内容ではないからです。

ですが、値引は、本来の取引の内容である対価を減額するものです。

なので、ポイント還元(=値引)の結果、取引の魅力が増して寄附が誘引されたとしても、それは、本体取引とは別の(取引附随性のある経済上の利益の提供としての)景品類による誘引とは、まったく別物です。

そして、自治体自体が提供するポイント還元が(ふるさと納税制度の返戻金の上限に違反するかはさておき)値引であって景品類ではないとすると、仲介サイトが提供するポイント還元も、値引にしかなりようがありません。

というのは、仲介サイトが提供するポイント還元が景品類に該当するためには、

①仲介サイトが、商品(返礼品)の供給主体であり(商品供給主体性。自治体との共同供給も可)、かつ、

②仲介サイトが、ポイントの提供主体であり(景品類提供主体性。自治体との共同提供も可)、かつ、

③ポイントが返礼品の取引に附随したものであること(取引附随性)、

が必要です。

しかし、仲介サイトが返礼品の供給主体だ、というのは、(無償行為も取引だというほど無茶ではないですが)かなり無理があると思います。

(なお、ECサイトの商品供給主体性については緑本第6版に解説がありますが、その問題点は以前「オンラインモールの商品供給主体性についての緑本第6版の解説について」という記事で指摘したとおりです。名前が「仲介サイト」というだけで、不動産仲介業者と同じように考えるのは無理があります。)

やはり、返礼品を供給しているのは自治体だというべきでしょう。

さらに、仮に仲介サイトの商品供給主体性が認められるとすると、仲介サイトが提供するポイントは、自己の供給する商品の対価の減額ということになり、やはり値引となります。

つまり、どう転んでも、仲介サイトの提供するポイントは、景品類にはなりません。

以上は、ふるさと納税は寄附額による返礼品の購入だという、それ自体かなり無理のある(それでも、取引は有償取引に限るという通説的見解に立つ限りはポイント還元が景品類だといえる可能性のある)解釈を採り、やはり景品類にはならないという結論を導いたのですが、次に、ふるさと納税は無償の寄附だ、それでも「取引」に当たるのだ、と考えた場合には、以下のように考えられます。

ここでも、自治体自身がポイント還元をする、仲介サイトがからまない、単純なケースを考えてみましょう。

例えば、ある自治体が、1万円の寄附者に対して、3000円の返礼品を贈っていたとします。

さらにその自治体が、3000円の返礼品に加えて、4000円のポイント還元をしたとします。

もしここで、4000円のポイント還元を、1万円の寄附という「取引」に附随した景品類だと考えるとすると、3000円の返礼品も、1万円の寄附という「取引」に附随した景品類だと考えざるを得ないでしょう。

というのは、ここでは1万円の寄附と3000円の返礼品との間に対価関係はない(寄附は無償行為である)ということを前提にしているので、そうであるならば、3000円の返礼品が本体取引で4000円のポイント還元がそれに附随した景品類だ、というような主従関係を観念することができないからです。

さらにいうならば、もし取引に無償行為も含まれることを前提に景品類該当性が判断され、1万円の寄附が1万円の取引だと考えるのであれば、1万円の寄附に対して3000円の返礼品を供給することは、総付の2割の制限を超えてしまい、返礼品自体が景表法違反だ、ということになってしまいます。

でも、さすがに消費者庁担当者も、そのようには考えていないでしょう。

ということは、もし「取引」に無償行為も含まれ、寄附額と返礼品に対価関係がないという前提に立つと、4000円のポイント還元は、単に寄附額1万円のうち4000円をバックしているだけ(値引とすら言わない?)、ということになります。

そんなものが景品類に該当するはずがありません。

さらに言えば、無償行為も取引だという前提なら、そもそも返礼品は寄附とは対価関係になく、そうすると、景品類の定義の、

「この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」(景表法2条3項)

における、「自己の供給する商品」(商品供給主体性)の要件を満たさないので、やはりポイント還元は景品類には該当しないことになります。

以上を踏まえ、ふるさと納税は無償の寄附で、それでも「取引」に当たるのだ、という前提で、自治体が1万円の寄附者に対して3000円の返礼品を提供し、仲介サイトが4000円のポイントを提供する、という場合を考えると、やはり仲介サイトの4000円のポイントは、「景品類」には該当しません。

理由は自治体がポイントを提供する場合とほぼ同じなので繰り返しませんが、ここでも、対価関係を否定する以上、「商品」の要件を満たさないことは動かしようがないと思います。

ふるさと納税という、政治的なものもふくめいろいろと分析のノイズ(税金が仲介サイトの手数料やポイント原資になっているのではないか、など)が多い制度ではなく、単純な寄附を考えてみれば、分析はより明晰になります。

例えば、ある博物館が、クラウドファンディングで、1万円寄附した人に、3000円相当の返礼品を提供したとします。

(さらにイメージをふくらませるために、3000円相当の返礼品をその博物館は1000円で調達できるので9000円が手元に残り、充分ハッピーだ、と想定しましょう。)

もし、このクラウドファンディングが「取引」にあたるというだけで、返礼品(=景品類)が2割を超えるので景表法違反になるのだとしたら、世の中のクラウドファンディングはかなり困ってしまうはずです。

そして、ふるさと納税に対する3割のポイント還元が景表法違反だというなら、クラウドファンディングで3割の返礼品を提供するのも景表法違反だと言わないと辻褄が合いません。

消費者庁の担当者がそこまで考えて発言しているのか、はなはだ疑問です。

以上より、朝日新聞の記事にもかかわらず、仲介業者のみなさんは、景品規制を気にする必要はないと思います。

万が一消費者庁から注意を受けたら、以上を参考に反論してみて下さい。(どうせ、措置命令はありえませんし。)

私の経験では、公取委や消費者庁に質問して間違った回答がなされるということは、それほど珍しいことではありません(一部には、聞き方が悪かったのではないかと疑われるケースもありますが)。

この朝日新聞での消費者庁担当者のコメントは、そのようなことが実際にあるという例として、企業法務に関わる方々の記憶と記録に長くとどめておかれるべき価値のあるものでしょう。

さらに、役所の見解を批判的に検討する姿勢も大切です。

そして、役所に聞いて納得できなかったら、コストをかけてでも専門家に確認してみるべきでしょう。

今回のように、かなり露骨で単純な役所の間違いというのでなくても、たとえば、専門家に相談したら、役所に質問したときに大事な前提事実を伝えていなかったことがわかった、というようなことは起こりえます。

そのコストをかけるのがいやだという人は、役所の言うことに唯々諾々と従うしかないでしょう。

2023年12月15日 (金)

有明海苔全量出荷の差止・仮差止について

12月14日の毎日新聞ウェブ版では、

「有明ノリ全量出荷 佐賀・熊本の団体、排除措置命令差し止め求め提訴」

という見出しで、

「有明海の養殖ノリの全量出荷を巡り、公正取引委員会が、独占禁止法違反で佐賀、熊本両市の漁業団体に排除措置命令を出すとの処分案を通知したことを不服とし、団体側が命令の差し止めを求める訴えを東京地裁に起こしたことが14日、代理人弁護士への取材で分かった。命令の仮差し止めの申し立てもした。」

と報じられています。

独禁法の排除措置命令に対しては、排除措置命令取消訴訟を提起するのが一般的ですが、今回、行政事件訴訟法上の差止訴訟と仮差止訴訟が申し立てられたわけです。

行政事件訴訟法上の差止訴訟(「差止めの訴え」)は、

「行政庁が一定の処分〔=排除措置命令〕又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、

行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟」(3条7項)

と定義されており、その提起要件については、37条の4第1項で、

「差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。」

と規定されています。

仮の差止めの訴えは、37条の5第2項で、

「2 差止めの訴えの提起があつた場合において、

その差止めの訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、

かつ、本案について理由があるとみえるときは、

裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずること(以下この条において「仮の差止め」という。)ができる。」

と定められています。

仮の差止めのほうは、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」という、かなり高いハードルがありますし、差止めの訴えも、「重大な損害」については、37条の4第2項で、

「2 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分又は裁決の内容及び性質をも勘案するものとする。」

と規定されていて、そもそも損害の有無さえ問われず違法なら取り消される排除措置命令取消訴訟よりは、だいぶハードルが高いといえます。

加えて、差止訴訟が認容されるための要件について、37条の4第5項では、

「5 差止めの訴えが第一項及び第三項に規定する要件に該当する場合において、

その差止めの訴えに係る処分又は裁決につき、

行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ

又は

行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、

裁判所は、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる判決をする。」

と規定されていて、排除措置命令の差し止めで勝つのはなかなか容易でないことがわかります。

しかも、出訴期限については、37条の4第1項で、

「差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。」

とされていることから明らかなように、「一定の処分」(排除措置命令)がされようとしている間に提訴しなければならず、排除措置命令がなされた後には提訴できません。

なので、独禁法の排除措置命令で差止訴訟と仮差止訴訟が提起されることはあまりないのですが、では、提起する意味がないのかというと、実は大ありなのです。

というのは、排除措置命令の取消訴訟では、公取委は、排除措置命令書に書いていないことや、意見聴取手続で説明していなかったことでもいくらでも主張してくるし、裁判所も、そのような主張を制限することは、まずありません。(大変残念なことですが。)

なので、取消訴訟において公取委が追加的な主張や法律構成の大幅な変更をしてきた場合、当事者は、そこで初めて知る事実や証拠について、証拠もない中で反論しないといけない、という、なかなかつらい状況に追い込まれます。

かつて審判制度があった時代には、裁判所に行く前に審判で何年も掛けて主張立証がされるので、さすがに、公取委が審判での主張を取消訴訟で大幅に変えてきたり、新たな主張を追加してきたり、ということはやりにくかったはずです。

それが、審判制度が廃止になって、ほとんど骨と皮だけみたいな排除措置命令書と、それに毛が生えただけの意見聴取手続での説明(しかも、説明は口頭でするだけなので、書き取るのが大変!)に基づいて取消訴訟を準備しなければならず、当事者は、大変つらい思いをすることになります。

それでも、意見聴取手続での説明の範囲内で取消訴訟での主張立証がなされるのなら問題ないのですが、前述のとおり、実際には、そんなことはまったくありません。

なので、そういうつらい状況を避けるためには、排除措置命令の取消訴訟の前に、排除措置命令の差止訴訟を提起しておいて、公取委にさんざん手の内を出させておいて、取消訴訟の準備をする、ということに大きな意味があります(もちろん事案によりますが)。

有明海苔の代理人の先生も、そういう目的で差止訴訟を提起されたのではないかと推測します。

ですので、この事件は、差止めや仮差止の内容や結論はさておき(いずれにせよ勝つのは難しい)、その後の取消訴訟でどのような主張立証がなされるのかが注目されます。

また、今後は、独禁法でも、差止訴訟+仮差止訴訟がスタンダードな手続になるかもしれません。

2023年10月30日 (月)

セット販売に関する消費者庁景品類Q&A30番について

消費者庁ウェブサイトの景品類に関するQ&Aの30番では、

「Q30 このたび、イベント企画会社である当社が主催して誰でも参加できる有料のイベントを実施することになりました。

このイベントの⼊場チケット代⾦は5,000円で、イベント来場者には必ずTシャツが配布されます。

このTシャツは、景品規制の対象となりますか。」

との設問に対して、まず、

「A 景品類とは、顧客を誘引するための⼿段として、事業者が⾃⼰の供給する商品⼜は役務の取引に付随して相⼿⽅に提供する物品、⾦銭その他の経済上の利益をいいます。

本件が、イベントの⼊場チケット5,000円の取引に付随して、もれなくTシャツが提供される企画であると認められる場合、

総付景品の規制の対象となります。この場合に提供できる景品類の最⾼額は1,000円(5,000円の10分の2)となります(Q61、Q110参照)。」

と回答されているのですが、やや驚きなのが、続けて、

「しかしながら、例えば、Tシャツ付き⼊場チケットとして販売するなど、

イベントの参加とTシャツがセットで5,000円であることが明らかであれば、

原則として取引に付随する提供に当たらず、景品規制の対象とはなりません(Q29参照)。」

と回答されていることです。

これがなぜやや驚きかというと、「Tシャツ付き⼊場チケットとして(as)販売する」ということ以外には、入場チケットとTシャツとの関係性(たとえば、ローリングストーンズのコンサートなら、舌を出した唇のマークがプリントされているとか、ウクライナ戦争反対のイベントなら水色と黄色の2トーンのTシャツだとか)について、何ら限定する素振りが見えないからです。

つまり、本体商品と附随する経済上の利益の関係は問わない(少なくとも設問は明示的には要求していない)、ということです。

セット販売については、従来より、定義告示4⑸で、

「(5) ある取引において二つ以上の商品又は役務が提供される場合であっても、次のアからウまでのいずれかに該当するときは、原則として、「取引に附随」する提供に当たらない。

ただし、懸賞により提供する場合(例 「○○が当たる」)及び

取引の相手方に景品類であると認識されるような仕方で提供するような場合(例 「○○プレゼント」、「××を買えば○○が付いてくる」、「○○無料」)は、

「取引に附随」する提供に当たる。

ア 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売していることが明らかな場合

(例 「ハンバーガーとドリンクをセットで○○円」、「ゴルフのクラブ、バッグ等の用品一式で○○円」、美容院の「カット(シャンプー、ブロー付き)○○円」、しょう油とサラダ油の詰め合わせ)

イ 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売することが商慣習となっている場合

(例 乗用車とスペアタイヤ)

ウ 商品又は役務が二つ以上組み合わされたことにより独自の機能、効用を持つ一つの商品又は役務になっている場合

(例 玩菓、パック旅行)」

と規定されていました。

これらア~ウは、かなりの部分重なっており、あまり厳密に分けて考える必要はありませんが、「例」として挙がっているものはどれもセット販売であることが明らかなものばかりで、実務で出くわす微妙な事例にはあまり参考にならないものでした。

(なぜか、「玩菓」だけは、お菓子とおもちゃの組み合わせがちょっと異色で、私なんかは昭和の時代の「ビッグワンガム」を思い出してしまいますが、「玩菓」は、『大辞林』にも、「玩具と一体となって製品化されている瑕疵。玩具菓子。」と載っているので、社会的に認知されているということなのでしょう。)

というより、定義告示運用基準の「例」が、本体商品と付随的利益の関係がきわめて密接で、あまりに手堅いものばかりなので、何でもかんでもセット販売というわけにはいかないのだ、というメッセージを強く感じました。

ところが今回、Q30が、「Tシャツ付き⼊場チケットとして販売」していればよい、というかなり緩やかな立場を明らかにしたため、必ずしも上記運用基準の具体例に引きずられる必要は無い、ということが明らかになったように思います。

ちなみに、Q30では、

「イベントの参加とTシャツがセットで5,000円であることが明らか

と述べているので、これは、定義告示運用基準4⑸アの、

「商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売していることが明らかな場合」

に当たると考えられていることがわかります。

ですが、イベントとTシャツの組み合わせは、その「明らか」さの程度において、アで挙げられている、

「ハンバーガーとドリンクをセットで○○円」、

「ゴルフのクラブ、バッグ等の用品一式で○○円」、

「美容院の「カット(シャンプー、ブロー付き)○○円」」、

「しょう油とサラダ油の詰め合わせ」

というのとは、だいぶ違うように思われます。

つまり、イベントとTシャツは、明らかさの程度がかなり低いと思われます。

実際、Q30の回答の前半では、

「本件が、イベントの⼊場チケット5,000円の取引に付随して、もれなくTシャツが提供される企画であると認められる場合、総付景品の規制の対象となります。」

と明確に述べられているわけであり、イベントとTシャツはこの組み合わせにより必然的にセット販売であることが「明らか」となると考えられているわけでは決してないことがわかります。

ということは、Q30の前半と後半を分けるのは、セット商品「として」販売しているかどうかだけである、ということになりそうです。

そして、セット商品「として」販売するというのは、その大半は、その商品を売るときにどのような表示をするのかという、表示(プレゼンの仕方)の問題に解消されるように思われます。

とすると、「セット商品」と表示すれば、ほぼ何でもセット販売になりうる、ということです。

実は、このようにセット販売の該当非該当の判断においては表示が重要だということは、定義告示運用基準4⑸の柱書のただし書の、

「ただし、・・・取引の相手方に景品類であると認識されるような仕方で提供するような場合(例 「○○プレゼント」、「××を買えば○○が付いてくる」、「○○無料」)は、「取引に附随」する提供に当たる。」

という規定に表れていました。

しかしながら、定義告示運用基準4⑸は、

①ア(セット販売であるあることが「明らか」)、イ(セット販売が「商慣習」)またはウ(セット販売が「独自の機能、効用」を持つ)のいずれかに該当すること、かつ、

②取引の相手方に景品類であると認識されるような仕方で提供しないこと、

という2つの要件をクリアしてはじめてセット販売に該当する、という構造だったのに、

Q30の判断基準は、

セット販売であることが明らかであればセット販売であり、明らかでなければセット販売ではない、

という1点だけであり、上記①(ア(セット販売であるあることが「明らか」)、イ(セット販売が「商慣習」)またはウ(セット販売が「独自の機能、効用」を持つ)のいずれかに該当すること)は要件として不要になった、と言わざるを得ません。

そして、私はこのQ30のようなゆるやかにセット販売を認める考え方でよいと思います。

というのは、最近はいろんな商品役務が組み合わされて販売されることが多くなり、そのような販売方法に景品規制を幅広く適用してしまうと、販売方法のイノベーションが阻害されてしまうからです。

ただし、Q30のように、「セット販売であることが明らかであればセット販売であり、明らかでなければセット販売ではない」という一本の基準でいくのではなく、基準に濃淡をつけて、

⑴セット販売とわかるような売り方をしていれば、原則としてセット販売、

⑵⑴のような売り方をしているのに、あえて景品類と認識されるような売り方をすると、例外的に景品類、

と考えるのがよいと思います。

ところで、このように考えていくと、マクドナルドのハッピーセットもセット販売でいいような気もします。

というのは、イベントとTシャツがセット販売なのに、ハンバーガーとポテトとドリンクのセットにクレヨンしんちゃんのおもちゃを付けたのがセット販売ではない、と考える合理的理由がないように思われるからです。

もしこの考え方に違和感を覚える人がいたら、無意識のうちに、

Tシャツは単独で売り物になりそうだけれど、

ハッピーセットのおもちゃは、ちゃちで単独の売り物にはならなさそう、

と考えている可能性がありますが、そういう人は、値段の高いものほど景品類にはならず、安い物ほど景品類になる、と考えていることになり、高額な景品類を規制する現行法の解釈として、あまり合理的ではありません。(条文の根拠もありません。)

あるいは、もう一工夫して、

Tシャツは単独で売り物になりそうなので、セット販売であることが「明らか」っぽいけれど、

ハッピーセットのおもちゃは、ちゃちで単独の売り物にはならなさそうなので、セット「販売」であることが「明らか」とは言いにくい、

という理屈もあるかもしれませんが(「販売」に値しないものは「セット販売」にもならない)、かなり回りくどくて屁理屈っぽいと思います。

あるいは、ハッピーセットもセット販売だという考え方に違和感を持つ人は、消費者の判断を歪める点に(これも無意識に)着目して、

イベントにTシャツを付けても、Tシャツ目当てでイベントに参加する人はあまりいなさそうだけれど、

ハッピーセットに立派なおもちゃをつけたら、おもちゃ目当てで欲しがる子供はたくさんいそう、

と判断している可能性があります。

このように、消費者の合理的選択の確保に着目するのは、ある程度説得力はあるように思いますが、それでも、定義告示運用基準にそのようなことが何も書かれていないのにそういう判断をするのは、実務的にはあまりよろしくないと思います。

というわけで、私はハッピーセットも今やセット販売でよいと思います。

もちろん、子供が立派なおもちゃに惹かれて食べ物を選んでしまわないようにという教育的配慮から本体の2割以内におもちゃを抑えるのは、立派な企業姿勢だと思います。

2023年10月29日 (日)

プライス・コストマージン(市場支配力)と弾力性と市場シェアの関係

Posner, Market Power in Antitrust Cases

のAppendixより、

εid=εmd/Si+εjs(1ーSi)/Si

の導出をメモしておきます。

(ただし、

εid:企業iの残余需要の弾力性

εmd:市場の需要の弾力性

Si:企業iの市場シェア

εjs:競合(企業j)の供給の弾力性)

企業iが直面する残余需要量をQid、市場の需要量をQmd、競合他社の供給量をQjsと置くと、

Qid=QmdーQjs  ・・・①

①式を価格(P)で偏微分すると、

∂Qid/∂P=∂Qmd/∂Pー∂Qjs/∂P ・・・②

となります。

次に、②式の両辺に、ー(P/Qid)を掛けると、

ー(∂Qid/Qid)/(∂P/P)=ー(P/∂P)×(∂Qmd/Qid)+(P/∂P)×(∂Qjs/Qid)

=ー(∂Qmd/∂P)×(P/Qid)+(∂Qjs/∂P)×(P/Qid) ・・・③

となります。

そして、企業iの残余需要の弾力性εidは、

εid=ー(∂Qid/∂P)×(P/Qid)

で定義されるので、③式は、

εid=ー(∂Qmd/∂P)×(P/Qid)+(∂Qjs/∂P)×(P/Qid) ・・・④

と変形できます。

④式の右辺第1項にQmd/Qmd、第2項にQjs/Qjsを掛けて、

εid=ー(∂Qmd/∂P)×(P/Qid)×Qmd/Qmd+(∂Qjs/∂P)×(P/Qid)Qjs/Qjs

=ー(∂Qmd/Qmd)/(∂P/P)×Qmd/Qid+(∂Qjs/Qjs)/(∂P/P)×Qjs/Qid

=εmd/Si+εjs(1ーSi)/Si. 

[∵Qjs=Qm×(1-Si),Qid=Qm×Si]

2023年10月25日 (水)

Googleに対する審査開始について

公取委は、10月23日、Googleに対して審査を開始したことを公表しました

公表文によると、被疑行為は、

「Google LLCらは、

① Android端末メーカーとの間で、

当該端末メーカーが製造する端末への「Google Play」と称するアプリケーションストア等の搭載を許諾するに当たり

「Google Search」と称する検索アプリケーション

「Google Chrome」と称するブラウザアプリケーション

自己のアプリケーションを併せて搭載させ、

搭載する際の当該アプリケーションのアイコン等の端末画面上の配置場所を指定する内容の許諾契約を締結すること

② Android端末メーカーらとの間で、

自己と競争関係にある事業者の検索アプリケーションを搭載しないこと等を条件に、

自己が検索連動型広告サービスから得た収益を分配する内容の契約を締結すること

により、

自己と競争関係にある事業者の事業活動を排除し、

又は

取引先事業者の事業活動を制限している疑いがあります。」

ということだそうです。

被疑行為を見るかぎり、①については抱き合わせ販売、②については排他条件付取引が思いつきますが、もしこれらの事実が違反になるのであれば、公取委は不公正な取引方法ではなく、排除型私的独占を適用すべきでしょう。

マイナミ空港サービス事件では、公取委は、東京都内の平均的なガソリンスタンド1か所の半分程度しか売上のない八尾空港における機上給油を一定の取引分野と画定して私的独占を適用しました。

それなのに、天下のGoogleが不公正な取引方法にとどまるとしたら、執行の公平性を著しく欠き、悪い冗談と言うほかありません。

(Googleの圧倒的なシェアを考えると、もし報道発表の事実が認められたら、競争の実質的制限が認められるはずであり、公正競争阻害性にとどまるということは考えにくいと思われます。)

そうすると、問題になるのは課徴金です。

公取委の上記報道発表では、①は検索アプリとブラウザアプリ、②は検索アプリが、競争が阻害される一定の取引分野のようです。

そして、①の行為では、「「Google Play」と称するアプリケーションストア等の搭載を許諾するに当たり」ということなので、Google Playが主たる商品、競争者が排除される検索アプリとブラウザアプリが従たる商品、ということになります。

そうすると、課徴金の基礎となるのは、競争者が排除される検索アプリとブラウザアプリの市場におけるGoogleの売上ということになるので、具体的には、Googleが自社の検索アプリとブラウザアプリのAndroid端末メーカーに対する利用許諾料ということになりそうです。

なので、もしGoogleが検索アプリもブラウザアプリも無料で許諾していたら、現行法では課徴金はゼロということになります。

条文では、独禁法7条の9第2項で、

「② 事業者が、

私的独占

(他の事業者の事業活動を排除することによるものに限り、前項の規定に該当するものを除く。)

をしたときは、

公正取引委員会は、・・・

当該事業者に対し、

当該違反行為に係る一定の取引分野において

当該事業者及びその特定非違反供給子会社等が供給した商品又は役務

(当該一定の取引分野において当該商品又は役務を供給する他の事業者に供給したものを除く。)

並びに

当該一定の取引分野において

当該商品又は役務を供給する他の事業者

(当該事業者の供給子会社等を除く。)

に当該事業者及び当該特定非違反供給子会社等が供給した当該商品又は役務

(当該他の事業者が当該商品又は役務を供給するために必要な商品又は役務を含む。)

並びに

当該一定の取引分野において

当該事業者及び当該特定非違反供給子会社等が

当該事業者の供給子会社等に供給した当該商品又は役務

(当該供給子会社等

(違反供給子会社等又は特定非違反供給子会社等である場合に限る。)

が他の者に当該商品又は役務を供給するために

当該事業者又は当該特定非違反供給子会社等から供給を受けたものを除く。)

の政令で定める方法により算定した、当該違反行為に係る違反行為期間における売上額に、

百分の六を乗じて得た額に相当する額の課徴金を

国庫に納付することを命じなければならない。

ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。」

とされています。

つまり、課徴金算定率6%の元になる「売上額」は、

⑴当該違反行為に係る一定の取引分野における違反事業者(特定非違反供給子会社等を含む。)の売上額、

⑵当該商品又は役務を供給する他の事業者(当該事業者の供給子会社等を除く。)に違反事業者(特定非違反供給子会社等を含む。)が供給した当該商品又は役務の売上高

⑶当該一定の取引分野において違反事業者(特定非違反供給子会社等を含む。)が供給子会社等に供給した当該商品又は役務の売上高(一部除外あり)

の合計額ということになります。

本件では、⑵や⑶は考えにくいですから、⑴の端末メーカーに対する利用許諾料が、算定基礎になる、ということです。

次に、②の行為(競合の検索アプリを搭載しないことを条件とした金銭支払)についても考え方は同様で、競争者が排除される検索アプリの市場での売上が課徴金の算定基礎になるものと考えられます。

①と②の行為の両方に検索アプリが重複して出てきますが、課徴金が二重にかかることはありません。

興味深い問題は、仮に検索アプリとブラウザアプリの利用許諾料に課徴金がかかるとして、どの国や相手方との範囲で課徴金がかかるのかです。

この点については、ブラウン管カルテル事件最高裁判決(平成29年12月12日)では、

「2 独禁法は,国外で行われた行為についての適用の有無及び範囲に関する具体的な定めを置いていないが,同法が,公正かつ自由な競争を促進することなどにより,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としていること(1条)等に鑑みると,

国外で合意されたカルテルであっても,それが我が国の自由競争経済秩序を侵害する場合には,同法の排除措置命令及び課徴金納付命令に関する規定の適用を認めていると解するのが相当である。」

との判断を示しています。

そして、ブラウン管事件では、ブラウン管やブラウン管テレビの輸出先にかかわらず、ブラウン管購入の意思決定をした日本のテレビメーカー(子会社含む)に対する違反者のすべてのブラウン管の売上が、課徴金の対象になっています。

そうすると、本件でも、日本で販売されるAndroid携帯の分に限って課徴金がかかるということは、考えにくいように思われます。

また、日本のAndroid端末メーカーに対する売上に限定するというのは、日本市場への実質的な影響を考えると、もっと考えにくいと思われます。

(ただ、ブラウン管カルテル事件ではまさにそういう判断になっており、本件のようなケースにあてはめることでブラウン管カルテル事件のおかしさが一層際立つように思われます。)

ということは、公取委が採りうる判断としては、ブラウン管事件に忠実に、日本メーカーの意思決定が侵害されたことを重視して、日本のAndroid端末メーカーに対する売上(利用許諾料)に対してだけ課徴金をかけるか、あるいは、実質的な結論の妥当性を重視して(ある意味ではブラウン管事件を無視して)日本に流通するAndroid端末に係る検索アプリとブラウザアプリの利用許諾料に対して課徴金をかけるかしかないように思われます。

そして、可能性が高く、かつ妥当なのは、後者(日本に流通する端末を基準にする)だと思います。

また、そもそも根本的な問題として、Googleが本件排除行為(を仮に行っているとして)を行う理由は、検索アプリとブラウザアプリの利用許諾料を増やしたいからではありません。

Googleがやりたいのは、検索市場を独占することで広告収入を増やすことであったり、ブラウザ市場を独占することにより個人情報を集めたいということでしょう。

なので、日本の課徴金制度では、その目的を不当利得の剥奪と考えるにせよ違法行為の抑止と考えるにせよ、本件のようなケースでは目的と手段が噛み合っていないといわざるをえず、まさに本件はそういう矛盾点を教えてくれると言えるでしょう。

今後のGoogleの対応に注目です。

2023年9月 8日 (金)

ダークパターンについてのNHKサイト記事の紹介

NHKのウェブサイトに、9月7日付で、ダークパターンに関する記事が載っています。

「あなたは大丈夫?ダークパターンに気付いていますか?」

末尾に、

「身近な人に、ぜひ伝えてほしいと思います。」

とあったので、紹介させて頂きました(笑)。

すぐに読める長さの記事なので内容は本文を見て頂ければと思いますが、とてもよくまとまっていて、わかりやすいです。

国内のホテルが海外の旅行サイトで勝手に割引キャンペーンに参加させられた事例で、参加するかしないかの選択画面を閉じる画面右上の「×」印が見えにくくしてある、というのなんて、「へ~、そんなのがあるんだ」と思うとともに、「確かにそんなのがあったな、あれもダークパターンだったんだ」と思い出しました。

競争法の界隈では数年前から、このダークパターンが話題で、今年4月にワシントンDCで開かれたAntitrust Spring Meetingでもダークパターンについてのセッションがあり、会場から人が溢れるくらいの盛況ぶりでした。

それにしても、このブログでも何度か触れていますが、最近のNHKのウェブサイトの充実振りはすざまじいです。

超優秀な人たちが、圧倒的な組織力と情報収集力と経済力を背景に、極めて正確でクオリティの高い記事を連投している感じです。

ウェブの記事には、他の記事をコピペしただけである臭いがプンプンするものが少なくないですが、あたりまえですがNHKなので、足を運んで汗をかいて記事を書いていることがよくわかります。(今回紹介した記事もそうです。)

「WEB特集」は、比較的若手の記者さんが担当されているようで、この記事も、2015年入局の記者さんが書かれています。

新聞などのメディアと違って、会社の立場を打ち出したり、スポンサーの意向を気にしたり、スクープを狙ったり、視聴率や閲覧数を気にして派手なことをする必要がないことも、骨太の記事を載せ続けられる理由ではないかと想像します。

このクオリティの情報が、(一般的にはクオリティが低い)インターネットにおいて、無料で手に入るというのは脅威的だと思います。

競争法的観点からは、受信料収入で成り立っているNHKがここまでやると、競合他社は大変だろうと推察しますが(と同時に、多くの人はNHKのサイトなんか見ないから、結果的に棲み分けができているような気もしますが)、私はもともと、何でもかんでも競争が良いというような競争原理主義の立場ではないですし、いち消費者としては、とてもありがたい情報源であることに間違いはありません。

とくに、放送や出版など、思想や言論に関わる分野では、市場での余剰発生・分配では図れない、場合によっては金銭的価値に換算できないような、「正の外部性」が非常に大事だと思います。

これからも、NHKさんには、質の高い情報を期待したいですし、期待できると思っています。

«原価構成の開示要求と優越的地位の濫用

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