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2023年3月 3日 (金)

丸紅畜産事件の緑本第6版からの削除について

西川編著『景品表示法〔第6版〕』(緑本)から、第5版まで載っていた丸紅畜産事件の記載が削除されています。

第5版には49頁に載っていたのですが、第6版の相当する頁(62頁あたり)には、同事件への言及がありません。

丸紅畜産事件についてはだいぶ以前も批判したことがあったのですが、これが削除されたことは喜ばしいことです。

削除された理由を想像すると、やはり消費者庁の現在の運用と合わなくなってきたからではないかと思います。

とくに、課徴金が導入されたときに、仕入先(=丸紅畜産事件の丸紅畜産)に産地などを偽装されて不当表示をしてしまった事業者(=丸紅畜産から仕入れた小売業者)が相当な注意を払ったのかに議論の関心が集まり、その際に騙された事業者が不当表示の主体になることは当然の前提とされ、その反面、騙した仕入先は不当表示の主体にならないこともまた何となく前提にされてしまい(あるいは、疑問を持たれずにスルーされてしまい)、丸紅畜産事件と整合しなくなったことが大きかったのではないかと想像します。

これによって消費者庁が解釈変更をしたと考えて良いと個人的には思います。

ただし、第5販まで丸紅畜産事件の直前(p49)にあった、

「事業者に対する表示であっても、それが一般消費者の目に触れ、直接的に一般消費者の誤認を生じさせるような場合には、景品表示法の規制対象となる。」

という記述は、第6版でもp61~p62に残っていることには注意が必要です。

この記述に従えば、プレスリリースが不当表示と認定された山田養蜂場事件も、規制対象になって当然といえます。

ちなみに、第5版までの緑本がこの記述の例として丸紅畜産事件を挙げていたのは明らかに間違いでした。

というのは、上記引用部分の「それ」は、その直前の「事業者に対する表示」を指すところ、丸紅畜産事件における「事業者に対するの表示」(小売業者に鶏肉を納入する際に使った段ボール箱等)は「一般消費者の目に触れ」ることはなかったからです。

というわけで、第6版ではこのあたりがすっきりと整理されました。

第6版は、改訂ごとに資料が追加されて無駄に分厚くなっていたのを一気に削除したうえに、新しい記述がどんどん加わって、かなり画期的な改訂だと思います。

さすが西川さんだと思います。

2023年2月23日 (木)

ラルク・アン・シエル事件の打消し表示について

消費者庁は、2023年2月15日、ラルク・アン・シエルのコンサート運営者3社に対して、チケット販売時の告知と異なる座席に変更したとして措置命令を出しました

これが優良誤認表示であることは当然ですが、気になるのは、消費者庁がここ数年措置命令書で言及してきた打消し表示が無効である旨の記載が見られないことです。

毎日新聞2月17日の「ラルクのコンサート、SS席のはずが…消費者庁が3社に措置命令」という記事によると、

「表⽰上でのSS席は約3300席だったが、実際には約7200席を販売していた。座席は「予告なく変更になる場合がある」と記載されていたが、同庁は、消費者が想定できないほど著しい変更だと判断した。」

とのことですが、そのような記載が措置命令書にはありません。

確かに措置命令書の別紙1を見ると、問題の座席レイアウト図のすぐ下に、

「※座席図はイメージとなります。

ステージや座席レイアウトは予告なく変更になる場合がございますので、あらかじめご了承下さい。」

という記載があるのがわかります。

でも、ある程度の期間確立されてきたプラクティスを突然やめてしまうのは、いかがなものでしょうか。

もし、「消費者が想定できないほど著しい変更だと判断した」のであれば、そのように措置命令書に書くべきではないでしょうか。

確かにこれまでの例では、打消し表示の内容が「個人の感想です」みたいなもので内容自体が打消しとして不十分であったり、文字が小さかったり強調表示から離れていたり、あるいは強調表示と真っ向から矛盾するなど、無効だと判断するのが容易なものばかりでした。

それに比べると今回のケースは、打消し表示の効力を否定する理屈がやや立ちにくかったのかもしれません。

私はこの事件の報道で、前記毎日新聞のような消費者庁の判断を読んだとき、では措置命令書にどのように書いてあるのかがとても気になりました。

もし、「消費者が想定できないほど著しい変更なので打消しとして不十分である」といったようなことが書いてあれば、これまでの実務とはまったく異なり画期的だと思ったからです。

というのは、これまでの消費者庁の実務では、たとえば髪が黒くなると謳うサプリについて、

「※1:サプリメントの粒の色のことです。」

「※2:ボリュームのある内容量のことです。」

といった、人をばかにしたような打消し表示についてさえ、

「当該記載は、文字と背景との区別がつきにくく、

「1.艶のある深い黒さに※1」及び「2.フサフサボリュームも※2」との記載に比べて小さな文字で記載されたものであることから、

一般消費者が前記アの表示から受ける効果に関する認識を打ち消すものではない。」

というような、なんだか煮え切らない、「ほんとかよ?」といいたくなるような認定をしていたのです。

(このアルトルイズムに対する措置命令については、以前も書きました。)

なので、もし、消費者の予想を超えるような変更の場合は、(どんなに大きな文字ではっきりと書いてあっても)内容自体が問題で無効なのだといったことが書いてあれば本当に画期的だと思って期待しながら措置命令書を期待しながら読んだのですが、何も書いてなくてがっかりしました。

たぶん、消費者庁は、「消費者が想定できないほど著しい変更だ」というのはさすがに措置命令書には書けないと思ったのでしょう。

もし、一般論として、どんなにはっきり打消し表示を書いても消費者が想定できる範囲かどうかで打消しの効力の意味が決まってくるというようなことを言ったら、実務的な影響は甚大でしょう。

これまでも、振袖レンタルの事件などで、

「※写真のコーディネートは、オプション小物(別途料金)を使用しております」

といった打消し表示をしていても無効だと判断した事件がありました(2013年2月8日一蔵)

この時代の措置命令書には打消し表示に対する評価の記載がないので消費者庁がどういう判断をしたのか定かではありませんが、写真のコーディネイトには合計いくらかかるのかはっきり書かないとだめで、「別途料金」では不十分だ、と考えたと思われます。

そうすると、ラルクの件でも、きっと、どのように変わるのかはっきり書かないとだめだと判断したのでしょう。

たとえば、

「SS席でも、アリーナ席(東京ドームのグランド内に設置された、舞台から近い席)ではなく、1階席(球場の1階観客席)になることがあります。」

といったように、はっきり書かないとだめだと判断したのでしょう。

これが、「消費者が想定できないほど著しい変更だと判断した」ことの具体的な内容だと思われます。

でも、それは変更が決まったあとだから言えることであって、ほんとうにどんな変更があるかわからないときには、具体的に書きようもないので困ってしまいそうです。

というわけで、消費者が想定できないような強調表示との乖離は、どんな打消し表示があっても認めない、というのが事実上の消費者庁のスタンスだ、ということになりそうです。

もう1つラルクの措置命令が問題なのは、表示の内容に関する別表を含め、措置命令本文には打消し表示があったという事実が一切出てこないことです。

出てくるのは、別紙のウェブサイト写しの写真の中です。

これでは、報道がない限り、はたしてその事件に打消し表示があったのかどうかすらわかりません。

この点、前述の振袖の事件では、表示内容の記載として、打消し表示の内容も明記されていますので、少なくともどのような打消し表示がなされていたのかは一目瞭然でした。

そういう意味で、ラルクの措置命令は、過去の実務よりも後退してしまっています。

はたしてこのような運用が今回限りのものなのか(それはそれでかっこ悪いですが・・・)、完全に過去の実務に戻ってしまうのか、次の打消し表示の事件が注目されます。

2023年2月16日 (木)

景表法における共同販売(商品共同供給)の意味

景表法で、共同販売(商品共同供給)をしているのかどうかが問題となることがよくあります。

景品規制では、景表法4条で、

「内閣総理大臣は、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を確保するため必要があると認めるときは、景品類の価額の最高額若しくは総額、種類若しくは提供の方法その他景品類の提供に関する事項を制限し、又は景品類の提供を禁止することができる。」

と規定されており、景品類の定義についての景表法2条3項で、

「3 この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、・・・事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」

と規定されているので、やはり自己の供給する商品役務について提供されるものだけが規制対象になります。

(もちろん、ある商品を共同販売していれば、その共同販売者は、その商品を「自己の供給する」商品として販売している、ということになります。)

表示規制では、景表法5条柱書で、

「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。」

と規定されており、自己の供給する商品役務について行う表示のみが規制対象なので、共同販売をしているかが問題になります。

(ちなみに、表示についても定義の2条4項で、

「4 この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」

と定義されており、自己が供給する商品についてであることは表示の定義にビルトインされているので、5条柱書を書き下すと、

「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する《顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するもの》をしてはならない。」

となり、「自己の供給する」がリダンダントであることがわかります。)

このように景表法の対象になるのは「自己の供給する」商品役務についての表示や景品なので、共同販売にあたり自己の供給する商品役務ということになり景表法の規制対象になってしまうのか、それとも、純粋に他者の供給する商品役務についてのものなので規制対象にならないのか、が問題になります。

この点について、「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」第3の3⑴で、そこでは、

「⑴ 景品表示法の規制の対象となる者

景品表示法において規制の対象となるのは、商品・サービスを供給する事業者(以下「商品等供給主体」という。)であり、

広告媒体を発行する事業者(新聞社、出版社、広告代理店、放送局、ショッピングモール等)は、原則として、規制の対象とならない。

もっとも、自己の供給する商品・サービスについて一般消費者に対する表示を行っていない事業者であっても、

例えば、当該事業者が、商品・サービスを一般消費者に供給している他の事業者と共同して商品・サービスを一般消費者に供給していると認められる場合は、景品表示法の規制の対象となる。」

とされており、共同販売(共同商品供給)の場合に規制対象になることが明らかにされています。

ほかには、管理措置指針に関するQ&Aの7番で、

「Q7 本指針第2の1では、

「当該事業者が、商品又は役務を一般消費者に供給している他の事業者と共同して商品又は役務を一般消費者に供給していると認められる場合」

には、広告媒体事業者等であっても景品表示法の適用を受けることとなるとされていますが、どのような場合に

「他の事業者と共同して商品又は役務を一般消費者に供給している」

と認められるのですか。

例えば、モール運営事業者は、具体的にどのような場合に必要な措置を講じることが求められますか。」

という質問に対して、

「A 例えば、モール運営事業者と出店事業者が共同キャンペーンを行うなど、商品等の販売を共同して行い、共同で広告を行っている場合などが考えられます。」

と回答されています。

(なお、上記Q&Aで引用されている管理措置指針第2の1には、

「なお、自己の供給する商品又は役務について一般消費者に対する表示を行っていない事業者(広告媒体事業者等)であっても、

例えば、当該事業者が、商品又は役務を一般消費者に供給している他の事業者と共同して商品又は役務を一般消費者に供給していると認められる場合は、

景品表示法の適用を受けることから、このような場合には、景品表示法第26 条第1項の規定に基づき必要な措置を講じることが求められることに留意しなければならない。」

と記載されています。)

どのような場合に「他の事業者と共同して・・・供給」にあたるのかを尋ねているのに、一般的な基準としては「商品等の販売を共同して・・・供給」している場合だと答えているだけで、論理的には、何も答えになっていません。

(「共同で広告」というのは共同供給認定の1つの要素とみるべきでしょう。たとえば広告せずにA社とB社の従業員が共同で店先で販売するような場合、広告がないので共同供給ではない、ということになりかねません。)

参考になるのは、具体例として「共同キャンペーン」を挙げていることです。

「共同キャンペーン」というのが、何を意味しているのかはっきりしませんが、このあたりから、どのような場合に共同供給になるのかを探っていくしかないでしょう。

共同キャンペーンと聞いて思い出すのが、景品類の提供主体の話です。

この問題については、西川他編著『景品表示法〔第6版〕』(緑本)220頁に、景品提供主体の問題として、

「景品提供の主体を考えるに当たっては、

〔①〕いかなる商品の取引に附随し、

〔②〕いかなる商品の顧客誘引手段となっているか

ということに加え、

〔③〕その企画の立案

(〔ⅰ〕主商品の選定、

〔ⅱ〕景品類の種類、額、

〔ⅲ〕実施期間、

〔ⅳ〕実施地域、

〔ⅴ〕売上予定の算定、

〔ⅵ〕その企画の宣伝方法など)

を行ったのは誰か、

〔④〕経費の負担者は誰か

といった事情を総合的にみて判断する必要がある。」

と解説されています。

これは景品類の提供主体(=おまけを付けているのは誰か)の話なので、共同販売(商品共同供給)かどうかを判断する基準とは論理的には別です。

条文でいえば、景品類の提供主体が誰かという問題は、景品類の定義規定である景表法2条3項の、

「この法律で「景品類」とは、

顧客を誘引するための手段として、・・・

事業者が自己の供給する商品又は役務の取引・・・に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」

という規定の、(物品を)「提供する」の意味の解釈ということになります。

これに対して、共同販売かどうか(商品役務の供給主体は誰か)という問題は、景品規制であれば、景表法2条3項の、

「この法律で「景品類」とは、

顧客を誘引するための手段として、・・・

事業者が自己の供給する商品又は役務の取引・・・に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」

にいうところの「供給する」の意味の解釈です。

このように、景品類の提供主体の論点と、商品役務の供給主体の論点は、条文上の位置づけも異なります。

ところが、前述のように、管理指針Q&A7では、

「A 例えば、モール運営事業者と出店事業者が共同キャンペーンを行うなど、商品等の販売を共同して行い、共同で広告を行っている場合などが考えられます。」

と、モール運営事業者が、明らかに商品供給者である出店事業者と「共同キャンペーン」を行うときにはモール運営事業者が(共同)商品供給者となる、と回答されているので、たとえばこの「共同キャンペーン」が、共同景品企画だったりすると、にわかに、商品供給者と共同景品提供者(≒共同キャンペーン実施者)が重なってくる、ということになります。

もちろん、「共同キャンペーン」は、景品類の提供だけではなく、全品半額セールなどもありますので、とりあえず手がかりのある景品提供者の要件を共同景品提供者に応用しようというのは、自然な発想でしょう。

ここで、上記Q&A7によれば、共同商品供給者とみられるのは、共同キャンペーン実施者(≒共同景品類提供者)の場合なので、上記の(単独)景品類提供者の考慮要素を、共同景品類提供者に書き直してみます。

わかりやすくするために、モール運営者と出店者を想定すると、

「景品提供共同の主体を考えるに当たっては、

〔①〕〔出店者の〕いかなる商品の取引に附随し、

〔②〕〔出店者の〕いかなる商品の顧客誘引手段となっているか

ということに加え、

〔③〕その企画の立案

(〔ⅰ〕〔出店者の〕主商品の選定、

〔ⅱ〕景品類の種類、額、

〔ⅲ〕実施期間、

〔ⅳ〕実施地域、

〔ⅴ〕売上予定の算定、

〔ⅵ〕その企画の宣伝方法など)

〔モール運営者が出店者と共同で〕行ったか、

〔④〕経費の負担者は誰か

といった事情を総合的にみて判断する必要がある。」

といった感じになると思われます。

そこで例えば、モール運営者が、

「〔①〕〔出店者の〕いかなる商品の取引に附随し、

〔②〕〔出店者の〕いかなる商品の顧客誘引手段となっているか」

を出店者の関与なく決め、

「〔③〕その企画の立案

(〔ⅰ〕〔出店者の〕主商品の選定、

〔ⅱ〕景品類の種類、額、

〔ⅲ〕実施期間、

〔ⅳ〕実施地域、

〔ⅴ〕売上予定の算定、

〔ⅵ〕その企画の宣伝方法など)」

も全部モール運営者が単独で決め、

「〔④〕経費の負担者」

ももっぱらモール運営者である、とすると、これは共同企画ではなくモール運営者の単独企画(企画の受益者が出店者であるに過ぎない)ということになります。

そうすると、

商品(単独)供給者は出店者で、

景品類(単独)提供者はモール運営者

となり、モール運営者は商品供給者ではないため、景品規制は及ばない、ということになると考えられます。

もちろん、出店者は景品類提供者ではないので、景品規制に服するわけがありません。

これに対して、モール運営者が出店者と共同キャンペーンを行っている(≒モール運営者と出店者が共同景品類提供者である)場合というのは、

「〔③〕その企画の立案

(〔ⅰ〕〔出店者の〕主商品の選定、

〔ⅱ〕景品類の種類、額、

〔ⅲ〕実施期間、

〔ⅳ〕実施地域、

〔ⅴ〕売上予定の算定、

〔ⅵ〕その企画の宣伝方法など)」

モール運営者が出店者と共同で行っており、さらに、

〔④〕経費の負担者は誰か」

についても経費を共同で負担している、といった事情があれば、「共同キャンペーン」ということになるのでしょう。

(もちろん、全部共同でなくてもかまいません。)

そうすると、前記Q&A7では、共同キャンペーンなら商品の販売(供給)を共同で行っていることになるので、モール運営者も(共同)商品供給者だ、ということになります。

ちなみに、緑本の解説は景品類には該当することを前提にその提供主体を論じていますが、理屈としては、景品類にまったくあたりそうにない純粋な値引であっても同様に考えてよいと思われます。

ただ、そもそも論として、共同キャンペーンをすると(≒共同景品類提供者になると)共同商品供給者に自動的になる、というのは、かなり疑問があります。

というのは、健食ガイドラインの

「例えば、当該事業者が、商品・サービスを一般消費者に供給している他の事業者と共同して商品・サービスを一般消費者に供給していると認められる場合は、景品表示法の規制の対象となる。」

という規定を持ち出すまでもなく、「共同して商品・・・を供給」するということと、共同してキャンペーンをすることとは、一致しないこともいくらでもありうるように思われるからです。

モール運営者と出店者が共同で商品を供給しつつ、キャンペーンはモール運営者単独で行う、ということもあるでしょう。

たとえば、モールの一角で、特別の共同販売所を設けて、モール運営者の従業員と出店者の従業員が力を合わせて販売活動を行いつつ、景品類の企画や費用負担はモール単独で行う場合です。

もしモール運営者が共同商品供給者になるのが共同キャンペーンの場合だけだとすると、このような明らかに販売を共同でやっていながらキャンペーンはモール単独、あるいは、まったくキャンペーンなし、といった場合に、モールが共同商品供給者でなくなってしまいます。

あるいは、商品の供給は出店者が単独で行いつつ、キャンペーンは両者共同で行う、ということもあるでしょう。

たとえば、モール運営者がモール全体に共通のキャンペーンを行いつつ、費用負担に同意した出店者だけをキャンペーの対象にする、という場合です。

このような場合、上記Q&A7の考えだと、共同キャンペーンなのでモール運営者も自動的に共同商品供給者になってしまいますが、実態としては、これだけでモール運営者を共同商品供給者だというのは、相当無理があるように思われます。

やはり、モール運営者が(商品の売買契約の当事者ではないにもかかわらず)共同商品供給者であるといえるかどうかは、

モール運営者が(売買契約の当事者ではなくても)販売活動や販売促進活動(営業活動)を行っているか、

モール運営者が販売の利益に与るか、

共同販売であるかのような宣伝広告をしているか(たとえば、「○○モール開店20周年記念セール」)、

といったようなことを総合的に考慮して商品を「供給」しているといえるかを決めるのだ妥当だと思います。

その上で、共同キャンペーンをしている場合には、モール運営者も販促活動をしていることになるし、場合によっては共同販売であるかのような宣伝広告をしていることにもなり、共同キャンペーンはあくまでいろいろな要素の1つと位置付けるべきでしょう。

このように、Q&A7の考え方には疑問もあるのですが、実務的にはこれに従っておくのが無難でしょう。

2023年2月11日 (土)

公取委モバイルOS報告書の手数料水準に関する記載の問題点

公正取引委員会が2023年2月9日に、

モバイルOS等に関する実態調査報告書

を発表しました。

私は、この報告書の手数料水準に関する記載はこれまでの公取委の独禁法解釈を大きく変える、極めて問題の大きいものだと考えています。

問題なのは、報告書p139~140あたりの記載で、

「独占禁止法上の観点からは、

①手数料水準が高額であることにより、アプリ内課金の対象となるデジタルコンテンツ・サービスの価格も高額となることで競合アプリ提供事業者と消費者との取引が妨害され、競合アプリ提供事業者の取引機会を減少させる又はこれら事業者を排除する場合や、

②一方的に著しく高額な手数料を決定することにより、自己の取引上の地位が他のアプリ提供事業者に優越しているときに、取引の相手方である他のアプリ提供事業者に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合は、

独占禁止法上問題(私的独占、競争者に対する取引妨害、優越的地位の濫用[注191]等)となるおそれがある。」

とされています。

このうち、①は、はっきり書いていませんが、アップルが自社アプリについては手数料を払わず(あるいは低額な手数料しか払わず)、競合アプリ提供事業者に対してだけ差別的に高額の手数料を課すことが前提になっていると思われ(自分も他人も同等の条件なら「これら事業者を排除」することになるとは言わないでしょう)、そんなものを取引妨害というのか?という疑問は多々あり言いたいことは山ほどあるものの、今日は措いておきます。

今回、特に言いたいのは、②です。

詳しく見ると、

「②一方的に著しく高額な手数料を決定することにより、

自己の取引上の地位が他のアプリ提供事業者に優越しているときに、取引の相手方である他のアプリ提供事業者に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合」

が問題だとしています。(適用条項は優越的地位の濫用でしょう。)

そして、この部分に付けられている脚注191では、

「191  なお、公取委2019 年報告書(第2部第4「1 取引先に不利益を与え得る行為」(2)ウ)においては、

優越的地位の濫用の判断に当たっては、

①手数料の根拠となるサービスの使用によって利用事業者が得る直接の利益と手数料の額の関係、

②デジタル・プラットフォームの運営やシステム変更に要するコスト等、手数料を算出・請求する合理的な理由の有無、

③デジタル・プラットフォームを継続して利用するために手数料の徴収を受け入れざるを得ない利用事業者の数等

を考慮することとなるとしている。」

と記載されています。

そこで、公取委2019年報告書(「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査報告書(オンラインモール・アプリストアにおける事業者間取引)」)のp34を見てみると、

「ウ 独占禁止法・競争政策上の考え方

運営事業者は,利用事業者からデジタル・プラットフォームを利用する手数料を徴収し,これによって,デジタル・プラットフォームを運営する費用を賄っているのが一般的である。

当該手数料の徴収に当たり,

①従前に決めた条件よりも不利な内容を利用事業者に押し付ける,

②取扱いを明確に決めていなかった手数料の徴収について,運営事業者と利用事業者という力関係を利用して自己に有利な運用をする

などにより,自己の取引上の地位が利用事業者に優越している運営事業者が,正常な商慣習に照らして不当に,利用事業者に不利益を及ぼす場合には独占禁止法上問題(優越的地位の濫用)となるおそれがある。

その判断に当たっては,

①手数料の根拠となるサービスの使用によって利用事業者が得る直接の利益と手数料の額の関係,

②デジタル・プラットフォームの運営やシステム変更に要するコスト等,手数料を算出・請求する合理的な理由の有無,

③デジタル・プラットフォームを継続して利用するために手数料の徴収を受け入れざるを得ない利用事業者の数

等を考慮することとなる。

取引の公正性・透明性を高め,公正な競争環境を確保するためには,運営事業者は利用事業者から手数料を徴収するに当たり,①その額,算出根拠,内訳,使途等について十分に説明した上で,②内容を書面に定めておくことが必要である。」

と記載されています。

モバイルOS報告書脚注191で述べられているように、確かに2019年報告書では、優越的地位の濫用の判断要素として①②③が述べられています。

しかし、そのような濫用性の判断に入る前提として、2019年報告書が想定しているのは、

「①従前に決めた条件よりも不利な内容を利用事業者に押し付ける,

取扱いを明確に決めていなかった手数料の徴収について,運営事業者と利用事業者という力関係を利用して自己に有利な運用をする」

という場合です。

このように、従前よりも被濫用者に不利な内容にしたり、従前不明確であったものを被濫用者に不利な内容にしたりすることが問題だ、というスタンスです。

これは、優越的地位濫用ガイドラインにおける、「あらかじめ計算できない不利益」を意味しています。

従来から取引条件が一方的に不利に変更されることは「あらかじめ計算できない不利益」だからです。

ところが、モバイルOS報告書が問題にしているのは、アップルの手数料率が売上の30%というのが高すぎる、ということです。

そのことは、同報告書の上記引用部分の少し前のあたり(p138)には、

「現に、事業者アンケートにおいても、

アプリストアの手数料を支払っているアプリ提供事業者のうち、仮にアプリストアにおいて別の決済方法が利用可能になった場合に「別の決済方法を/も利用したい」と回答した事業者に対し、その回答理由について確認したところ、

後記図9-2のとおり、手数料を低く抑えたいとする事業者が9割に上っているなど、手数料の水準への不満は根強い。」

と書かれてあり、手数料が高いこと自体がアプリ提供事業者の不満であって、突然手数料を上げられたとか、手数料の算定方法が不明確なのをアップルに有利な解釈で変更されたといった不満でないことからも明らかです。

このように、モバイルOS報告書は、2019年報告書の濫用の判断要素を引用していますが、前提がまったく異なります。

つまり、2019年報告書が、濫用を不利益変更と不利解釈変更に限定しているのに(厳密には「など」なので限定ではないのですが、お役所なりの予防線ということで無視しておきます。)、モバイルOS報告書では、この前提がまったくなくなってしまっているのです。

そのため、モバイルOS報告書では、10年以上も前から30%の手数料率でやっていても濫用になってしまうのです。

これは、従前の公取委の解釈を大きく踏み越えるものだと言えます。

例えば、楽天市場の送料無料ラインに関する審査打ち切りの公取委報道発表では、

「楽天が,令和元年7月以前から楽天市場に出店している出店事業者に対し(注3)」

て行った行為だけが問題になっていて、

「(注3)楽天は,令和元年8月1日以降は,「共通の送料込みライン」への参加に同意した店舗とのみ出店契約を締結している。」

という点については、何ら問題視されていないことがわかります。

つまり、従来の取引内容を不利に変更したことが問題視されたわけです。

そのほかのもっと一般的な従業員の無償派遣などの濫用行為でも、「そんなこと、契約の時はなにもいってなかったのに・・・」という被濫用者の不満が当然の前提であったわけで、事前に派遣条件をはっきりさせて適切な対価を払えば何ら問題視されないわけです。

でも、アップルの場合には、10年以上も前から同じ条件でやっていたのですから、従前の公取委の解釈であれば問題視されるはずがないのです。

「あらかじめ計算できない不利益」とは別の、「直接の利益」の基準のほうは、本来の取引内容ではない負担について言われる要件ですから、アップルの手数料のような、本来の取引の内容そのものについては適用されるはずがありません。

(ちなみに、この点に関しては、モバイルOS報告書p136で、

「この点について、優越的地位の濫用に関する判断に当たっては、

①手数料の根拠となるサービスの使用によってアプリ提供事業者が得る直接の利益と手数料の額の関係、

②手数料を算出・請求する合理的な理由の有無、

③デジタルプラットフォームを継続して利用するために手数料の徴収を受け入れざるを得ないアプリ提供事業者の数

等を考慮することとなる。」

と、直接の利益の基準が手数料についても適用されるとされており、これ自体大きな問題なのですが、これについてはまた別の機会にでも書こうと思います。)

このように、2019年報告書を引用しながら(さも、これまでと解釈を変えていないふりをしながら)、まったく異なる解釈を目立たないように持ち込む態度は、控えめに言って姑息、はっきり言えば卑怯です。

(なお、以上の批判は公取委が意図して解釈変更していることを前提にしていますが、ひょっとしたら、公取委の報告書作成者はこれが2019年報告書からの変更になっていることを理解していなかった可能性もあります。)

これまでは、実態調査報告書はエンフォースメントとは別物と考えられていたので、実態調査で何を言われようと所詮実態調査だしね、という感じだったのですが、最近になって公取委は

デジタル化等社会経済の変化に対応した競争政策の積極的な推進に向けて―アドボカシーとエンフォースメントの連携・強化―

というようなことを言い出したので、「所詮実態調査だしね」なんて悠長なことは言っていられません。

のべつ幕なしに何でも優越にしようとする最近の公取委なら(原材料価格転嫁が典型)、本当に正式事件として審査をしかねません。

これは、法の支配を無視した由々しき事態だといわざるをえません。

欧州であれば、アプリの手数料が高すぎるというのは搾取的濫用で規制する余地がありますが、日本の私的独占は排除と支配だけなので、たんなる搾取は対象になりません。

もしアップルが自社アプリについても30%の手数料を払うなら(右のポケットから左に移すだけですが)、排除というのも難しいでしょう。

したがって、私的独占は使えず、取引妨害も同様に難しく(右から左のポケットに移されると妨害とはいいにくい)、使えるとしたら優越しかないのですが、だからといって使って良い理由にはまったくならないでしょう。

ほかには、IAP(in app purchase)に他の決済方法を認めないことが排他条件付取引に該当するという構成も考えられますが、クレジットカード会社のビジネスにおいてアプリ内課金の決済なんてほんのわずかなものでしょうから、「他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなる」とは言えず、違反にはならないでしょう。

やるなら新たな立法をすべきですが、直接的な価格規制をする法律なんてありえないし、望ましくもないでしょう。

(とはいえ、同じことを優越でやろうとしているのですが。)

というわけで、モバイルOS報告書を読むと、「優越的地位の濫用の濫用もここまで来たか」と思わざるを得ません。

2023年2月 9日 (木)

割引券の取引附随性(消費者庁景品類Q&A23・フリーペーパー)

消費者庁ウェブサイトの景品類に関するQ&Aの23番に、

Q23 当社では、飲食店などの情報を広告形式で掲載し、また、一部の飲食店の広告面に「飲食代金から500円引き」、「飲食代金から○○%引き」、「飲食してくれたお客様にドリンク1杯サービス」等のクーポン券が印刷してあるいわゆる「フリーペーパー」を発行しています。

このフリーペーパーを駅の改札口や繁華街の街頭で配布したいのですが、このフリーペーパーは景品表示法上の景品類に該当するのでしょうか。

A    このようないわゆるフリーペーパーの発行元が景品規制を受けることはありません。

ただし、フリーペーパーに掲載されている店舗が、

フリーペーパーに印刷されているクーポン券を持参した顧客に対して物品などを提供する場合は、

これら店舗と顧客との個々の取引において景品類が提供されるものと認められ、

これら店舗が行う景品提供企画に対し、個別に総付景品規制が適用されます

(クーポン券が、当該店舗で使用できる割引券である場合は、値引に類する経済上の利益に該当し、景品規制は適用されません。)。」

という設問があります。

この設問を根拠にしたのかどうかは定かではありませんが、

フリーペーパーや、より一般的な、新聞チラシに印刷されたクーポン券は、クーポン発行者(飲食店等)との取引をしてはじめて便益を受けられるものなので、クーポン発行者との取引との取引附随性が認められるのだ、

という説明がされるのを耳にしたことがあります。

しかし、このような説明は間違っていると思います。

(Q&A自体は正しいですが、後述のようにやや補足をしたほうが良いと思います。)

例えば、ある通信会社が、自社との契約でのみ使える携帯電話端末を街頭で無料で配ったとします。

(ただし、定義告示運用基準4⑶の「取引の勧誘」はしないという前提です。)

このような街頭での端末の無料配布は、取引を条件とするものではありませんし、その他ガイドライン上の取引附随性が認められるどの例にもあてはまらないので、携帯電話の回線契約との取引附随性は認められないと考えられます。

もし、クーポン発行者と契約してはじめて便益が受けられるという理由で取引附随性を認めてしまうと、このような、街頭で端末を無料で配った場合にまで取引附随性が認められてしまいます。

取引附随性は、あくまで、景品類を提供する条件や、提供の態様の観点から認定されるものであって、いったん提供を受けた景品類の便益を実現するのに提供者と取引したり提供者の店舗に行ったりする必要があるかどうかとは関係ありません。

ここで、特定の通信会社でのみ使用できる携帯電話は物それ自体に価値があるのに対してクーポン券それ自体には価値がないので同列には論じられないのだといってみても、説得力はありません。

クーポン券もメルカリで転売できますので、それ自体に価値がある点では携帯電話とあまり違いません。

ですので、もしその割引券が店舗で利用するものではなく、そこに印刷されているQRコードを読み込んでインターネット通販で用いるようなものだと、その割引券の提供にはそもそも取引附随性が認められません。

割引券自体は街頭で配られており、利用するときにも店舗を訪れていないので、取引附随性が認められないことは当然です。

ここで、発行者との取引に利用して初めて便益を受けられるという理由で取引附随性を認めると、上述の携帯電話の例からもわかるように、わけのわからないことになってしまいます。

ですので、Q&A23の

「クーポン券が、当該店舗で使用できる割引券である場合は、値引に類する経済上の利益に該当し、景品規制は適用されません。」

という回答は、やや言葉足らず(上記のような、便益を受けるために取引が必須であると取引附随性があると誤解されてしまう可能性がある。)であり、誤解を招かないようにするためには、その前の、

「フリーペーパーに印刷されているクーポン券を持参した顧客に対して物品などを提供する場合は、」

という部分と平仄を合わせて、

「クーポン券が、当該店舗にクーポン券を持参した顧客に対して割引するものである場合は、」

とした上で(論理的には、そういう趣旨でしょう)、全体としては、

「クーポン券が、当該店舗にクーポン券を持参した顧客に対して割引するものである場合は、(取引附随性は認められるものの)値引に類する経済上の利益に該当し、景品規制は適用されません。)。」

という回答になるべきでしょう。

もし、QRコードでオンラインで使うようなクーポン券なら、

「クーポン券が、当該店舗にクーポン券を顧客が持参することなく割引するものである場合は、取引附随性は認められないため、景品規制は適用されません。)。」

となるべきでしょう。

2023年1月16日 (月)

セット販売であることが「明らかな場合」とは(定義告示運用基準4⑸ア)

セット販売が景品類の提供にあたらない場合について、定義告示運用基準4⑸では、

「(5) ある取引において二つ以上の商品又は役務が提供される場合であっても、次のアからウまでのいずれかに該当するときは、原則として、「取引に附随」する提供に当たらない。

ただし、懸賞により提供する場合(例 「○○が当たる」)及び取引の相手方に景品類であると認識されるような仕方で提供するような場合(例 「○○プレゼント」、「××を買えば○○が付いてくる」、「○○無料」)は、「取引に附随」する提供に当たる。

ア 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売していることが明らかな場合

(例 「ハンバーガーとドリンクをセットで○○円」、「ゴルフのクラブ、バッグ等の用品一式で○○円」、美容院の「カット(シャンプー、ブロー付き)○○円」、しょう油とサラダ油の詰め合わせ)

イ 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売することが商慣習となっている場合(例 乗用車とスペアタイヤ)

ウ 商品又は役務が二つ以上組み合わされたことにより独自の機能、効用を持つ一つの商品又は役務になっている場合(例 玩菓、パック旅行)」

と規定されています。

ここで、イとウが問題になることはあまりないのですが、アの限界は、よく問題になります。

では、

「ア 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売していることが明らかな場合」

とは、どういう意味でしょうか。

およそ「明らか」という言葉ほど意味が明らかでない言葉もないと思いますが(笑)、具体例として挙げられている、

「ハンバーガーとドリンクをセットで○○円」

「ゴルフのクラブ、バッグ等の用品一式で○○円」

「美容院の「カット(シャンプー、ブロー付き)○○円」」

「しょう油とサラダ油の詰め合わせ」

というものをみると、「セット」と謳えばおよそ何でもセット販売(「商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売」)になる(=景品類にならない)わけではなさそうです。

もし「セット」と表示すれば何でもセット販売になるなら、4⑸のイとウをアとは別に規定する必要もないでしょう。

なので、アの「明らか」というのは、セットと表示すれば常にセット販売であることが明らかとなるというわけではなく、組み合わされる2つ以上の商品役務に何らかの関連性があることを要すると考えるべきでしょう。

ただ、そういう観点からみたときに、運用基準の具体例はいかにも狭すぎると思います。

これらの具体例は、いずれも、世の中でセット販売をすることが常識となっている、セットと言われて違和感のないものばかりです。

(そういう意味では、アとイの区別は明確ではありませんし、もっといえば、アとウの区別も明確ではありません。)

でも、そういうものだけがセット販売として許されるということになると、ちょっと風変わりなセット販売をやろうとした途端、景品類とみなされることになってしまいます。

これでは、クリエイティブなセット販売を考えようとする事業者の販売活動の自由を制限してしまうことになり、妥当ではありません。

たとえば、ジャガイモとにんじんとタマネギのセット(カレーセット)は、スーパーによくありますので、問題なくセット販売(景品類ではない)ですが、あまりセットで売られることがなさそうな、「ジャガイモと牛乳のセット」というのも、きちんとセット販売であることを表示していれば、セット販売であると言ってよいように思います。

「ジャガイモと牛乳のセット」が売られていたときに、「牛乳はジャガイモの景品類だ」とか、逆に、「ジャガイモが牛乳の景品類だ」とかいう必要はなく、セット販売と考えればよい、ということです。

あるいは、この「明らか」というのを、ハンバーガーとドリンクのセットのような、誰が見てもセットといえるものに限定すると、たとえば、インターネットと電気のセット販売(セット割)ですら、セット販売であることが「明らか」とは言えなくなって、インターネットの値引相当額が電気の景品類だ、などという結論になりかねません。

こういうふうにいろいろな例を頭の中で考えると、どうも、セット販売になるかどうかには、4つくらいの基準があるように思われます。

(なお、定義告示運用基準4⑸ただし書では、

「ただし、・・・取引の相手方に景品類であると認識されるような仕方で提供するような場合(例 「○○プレゼント」、「××を買えば○○が付いてくる」、「○○無料」)は、「取引に附随」する提供に当たる。」

とされているので、「おまけ」であるかのような表示をしないことは大前提です。)

1つめの基準は、景品類にあたる物品が市販品かどうか、です。

市販品なら、セット販売といいやすい方向に傾きそうですが、非売品の場合には、セット販売とはなかなか言いにくそうです。

2つめの基準は、組み合わされる商品相互の機能的関係性です。

この、商品相互の機能的関係性には、

①物品の性質上、明らかにセット販売と言えるもの(例、カレーセット)

②物品の性質上、景品類(おまけ)という印象を受けるもの

という両極端があり、①ならセット販売、②なら景品類となりやすく、その間にいろいろなバリエーションがある、ということかと思います。

3つめの基準は、セットの価格設定です。

もし、セットの価格が、単品を買ったときの合計額から多少減額した程度の価格なら、セット販売と言いやすいでしょう。

これに対して、商品Aと商品Bのセット販売価格が、商品A単体の販売価格と同じ(つまり商品Bがただで付いているように見える)場合には、商品Bは商品Aの景品類であるとみられる可能性が高いように思われます。

4つめの基準は、セットを構成する物品の価格比です。

たとえば、物品Aと物品Bのセットにおいて、物品Aと物品Bの市場価格が同じくらい(1:1くらい)の場合、両に主従の関係がないので、セット販売と認められやすそうです。

逆に、物品Bの市場価格が物品Aの市場価格の3割未満程度だと、両者に主従の関係があり、いかにも物品Bは物品Aの景品類っぽく見えます。

(前提として、総付です。懸賞なら、常に景品類になります。定義告示運用基準4⑸ただし書前段。)

景品類の何が問題なのかと言えば、ほんらいの取引内容でない利益で消費者の選択をゆがめるのが問題なわけです。

そして、構成物品間の価値の比に明確な主従関係がない場合には、消費者は、構成物品それぞれがほんらいの取引の対象であると認識しやすく、選択がゆがめられるおそれは小さいといえると思われます。

これら4つの基準と、表示の仕方で、

「ア 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売していることが明らかな場合」

にあたるかどうかを考えていけばよいと思います。

2023年1月13日 (金)

クロスライセンスを利用した市場の棲み分けについて

競争者2社が、お互いにブロックしあう関係(補完関係)にある特許権を有しているために自由な商品開発ができないときに、クロスライセンスをすることで解決することが考えられます。

たとえば、ある商品について、A社がa特許を持ち、B社がb特許を持っているものの、対象商品を作るためにはa特許もb特許も必要、というケースです。

(単純化のために、市場には、A社とB社の2社しかいないとします。)

ただクロスライセンスをするだけでそのあとはお互い自由に競争するのであれば何の問題もないのですが、クロスライセンスに付随して、たとえば商品分野や地理的分野を分けることで、市場の棲み分けをしたいということがありえます。

このような市場の棲み分けは独禁法上許されるのでしょうか?

結論としては許されると考えます。

まず、知財ガイドラインで該当する記述を探すと、競争者間のクロスライセンスについて、知的財産ガイドライン第3の2(「不当な取引制限の観点からの検討」)の(3)(「クロスライセンス」)のイでは、

「イ 〔クロスライセンスに〕関与する事業者が少数であっても、

それらの事業者が一定の製品市場において占める合算シェアが高い場合に、

当該製品の対価、数量、供給先等について共同で取り決める行為や他の事業者へのライセンスを行わないことを共同で取り決める行為は、

・・・当該製品の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当する。」

とされており、競争者間のクロスライセンスは不当な取引制限に該当し得るとされています。

ガイドラインでは、「対価、数量、供給先等」を共同で取り決めることが対象ですが、商品分野を棲み分けることも同じに考えて良いでしょう。

問題は、どのような場合に「競争を実質的に制限する」ことになるのか、です。

ここで、「競争を実質的に制限する」かどうかは、a特許とb特許があることを前提に、クロスライセンスをしなかった場合に比べて、より競争を実質的に制限することになるかどうかで判断すべきでしょう。

a特許もb特許もない場合を基準にしたら、市場の棲み分けが、そのような棲み分けがない場合に比べて競争を制限するのは当たり前で、それは妥当とは思われません。

つまり、a特許とb特許がお互いにブロックしあっているということは、A社とB社がお互いに自己の特許権を行使すれば、いずれも商品を販売することはできないことになるわけで、それと比べれば、商品分野を棲み分けしつつもまだ商品が世に出た方がよっぽど競争促進的である、という理屈です。

この理屈は、現状ではA社とB社が、事実上市場に商品を出していても(つまり、お互いに特許を行使せず黙認していても)同じです。

このような、黙認して自由に競争しているように見えても、そのような現状を基準にして市場の棲み分けがより競争を制限すると判断するのは、誤りだと思います。

というのは、事実上の黙認は事実上の黙認に過ぎないわけであって、ほんらいは特許を行使できるわけですから、事実上の黙認に基づく競争は本来あるべき競争ではない(競争法上保護されるべき競争ではない)と考えられるからです。

この問題に関して、旧特許ライセンスガイドラインの解説書である山木編『Q&A特許ライセンスと独占禁止法』のクロスライセンスに関する解説に説明があり、そのp127では、

「・・・相互に補完する関係にある特許等について実施されるライセンスであって,

もともと競争関係がみられないような事業者間で行われる場合には,

競争制限的に利用されることは少ないと思われる」

と解説されています。

まず、この「もともと競争関係がみられない」という意味は、上述のように、事実上競争していても実際には(お互いに特許を行使すれば)競争できない場合(保護に値する競争がない場合)も含まれると考えるべきでしょう。

つまり、A社とB社が、お互いに黙認しあって、A社がα商品を作り、B社がβ商品を作って市場で競合していても、A社とB社との間には、「元々競争関係がみられない」と考えるべきです。

実は、旧ガイドラインでは、クロスライセンスに附随する制限が違法になる具体例(現行ガイドラインでは削除)がありました。

その具体例では、

「<例> 事業者が,次のように,特許製品の販売地域等を分割する行為を行い,これにより市場における競争を実質的に制限すること。

○A製品の製法()の特許を有し, A製品の製造販売を行っているa社

A製品の別の製法()の特許を有し, A製品の製造販売を行っているb社が,

当該特許につき非独占的なクロスライセンス契約を締結し,

今後は,当該A製品の販売地域について,

新規ユーザーについては,a社は東日本,b社は西日本のユーザーにのみ販売すること

を取り決めるような場合

○B製品の製法()の特許を有し,B製品の製造販売を行っているc社

B製品の別の製法()の特許を有し,B製品の製造販売を行っているd社が,

当該特許につき非独占的なクロスライセンス契約を締結し,

今後は,一般品はc社が,特殊品はd社が製造販売を行うことを取り決めるような場合」

という例が、独禁法上問題がある例として挙げられていました。

ところが、これら2つの例を見てみると、いずれの例も、どちらの当事者の製法特許でも製造できる例です。

つまり、1つめの例では、a社が製法甲の特許を、b社が製法乙の特許を持っているわけですが、商品は製法甲でも乙でも作れる例です。

なので、a社が製法甲で製造することは何の問題もないし、b社が製法乙で製造することも何の問題もないのです。

よって、a社とb社は、「もともと競争関係がみられないような事業者」ではない、ということになり、このような制限が違法になるのは当たり前です。

2つめの例も同じです。

つまり、旧ガイドラインの、独禁法違反の具体例は、(ガイドラインに明記こそされていないものの中身を読めば)お互いにブロックする関係にある特許権を持っている例ではない、ということです。

それを裏から説明する形で、上記山木は、もともと競争関係にない場合(相手の特許を侵害しなければ競争できない場合を含む)には、クロスライセンスに伴う制限が反競争的に使われることは少ないと解説していることがわかります。

さらに注目すべきは、旧ガイドラインの2つの具体例は、各社が自己の特許権だけで製品を製造できている事例であることがわかります。

それにもかかわらず地理的範囲や製品分野を制限するということは、これら2つの具体例は、単にライセンスを受けた特許を使用した製造販売だけでなく、割り当てを受けた市場以外でのおよそ一切の製造を相互に禁止することを当然の前提にしている具体例であると考えられます。

例えば、2つめの具体例(c社特許、d社特許を有し、c社がB製品の一般品d社がB製品の特殊品を製造する場合)について説明すれば、この具体例における合意は、

c社は、d社の丁特許を使用するかどうかにかかわらず(丙特許によっても)、特殊品は一切製造せず、

d社は、c社の丙特許を使用するかどうかにかかわらず(丁特許によっても)、一般品は一切製造しない

という合意であると考えられます。

つまり、この2つめの事例は、厳密に言えば、

ライセンスを受ける特許(c社にとっての丁特許、およびd社にとっての丙特許)の使用方法に関する制限(例えば、「c社は、d社からライセンスを受けた丁特許を用いてB製品の特殊品を製造してはならない。」)

でもなければ、

ライセンスをする特許(c社にとっての丙特許、およびd社にとっての丁特許)の区分許諾(例えば、「d社は、B製品の一般品製造のために、丁特許をc社に許諾する。」)

でもなく、特許使用の有無にかかわらず指定された製品以外は一切製造販売しないという内容のクロスライセンス

(例えば、「c社は、B製品の特殊品を製造してはならず、d社は、B製品の一般品を製造してはならない。」)

であることを当然の前提にしているように思われます。

そして、このように、ライセンス対象特許とは無関係の製造まで一切禁止することは、特許権の行使とは認められず、独禁法違反になりうるのは当然であるように思われます。

契約書をドラフトしたり読んだりしたりするときに注意ですが、制限(例えば、西日本の顧客には売らない)の対象になっているのがどの商品なのか、ということで競争制限効果に決定的な違いが出ます。

案外、そういう基本的なことを見落としている(問題意識に上がっていない)例が見られます。

というわけで、旧ガイドラインの具体例は、そもそも、ライセンス対象特許の利用制限ではなく、特許とは無関係の製造販売をも禁じる例なのです。

これを逆に言えば、ライセンス対象特許の利用制限(区分許諾)は、そもそも特許権者はライセンスしない自由があることからすれば、区分的にでも特許されるだけまだ何も許諾されないよりまし(競争促進的)、ということができます。

それにしても、現行ガイドラインで旧ガイドラインの具体例を消してしまったのは、とても不親切だったと思います。

そして、山木編は、あいかわらず、かゆいところに手が届く解説がされていて、いまだに実務で大変重宝します。

新旧の流通取引ガイドラインの解説書を比べてもわかりますが、むかしのほうが公取委の職員の方は、思ったことを自由に、そして理論的にも深く、学術的に、書いていたように思います。

ガイドラインからとても大事な具体例がなくなってしまったり、30年くらい前と比べると、公取委はほんとうに木で鼻をくくったようなことしか言わなくなって、本当に残念だと思います。

公取委の職員の方々には、もうちょっと、先輩を見習って欲しいです。

2023年1月 5日 (木)

本当のコンプライアンス

最近の公取委の優越的地位濫用緊急調査で社名を公表された企業の反応を見ても思うのですが、良いことと悪いことを自分の頭で考えて判断できること、そして、もし公取委が間違っていると思うなら正々堂々とそれを主張できることが、本当のコンプライアンスの大前提ではないでしょうか。

お上に言われたからきっと悪いことなんだ、といって何も考えずに、いわば筋肉反射的に、「再発防止に取り組みます。」というのでは、本当のコンプライアンスとは言えないと思います。

悪いことだと人に言われたから謝る、というだけでは、何も考えていないのと同じです。

何も考えない企業は、事案が少し変われば、将来もまた似たようなことを繰り返すだけです。

「ほんとうは悪いと思っていなくても、お上に悪いことだと言われたらとりあえず謝っとくのが大人の対応なのだ(何を青臭いことを言ってるんだ)」という、面従腹背を是とする企業もあるのかもしれませんが、企業としてプレスリリースを出すということは、対外的なメッセージになるだけではなくて、中で働く従業員に対しても、強いメッセージになります。

従業員が、「うちの会社は、悪いと思っていなくても、とりあえず謝っとく会社なのだ。」と思うのと、「うちの会社は筋を通す会社なのだ。」と思うのとで、どちらがコンプライアンスが浸透するのかといえば、明らかに後者でしょう。

昔、公取委の新しいガイドラインが出たときにとある法律雑誌から解説記事の執筆依頼があって、批判的な記事を書いたところ、公取委に勤務経験のあった弁護士さんから、「先生、新しいガイドラインが出たときには、ひとまず褒めておくのがお作法ですよ。」と言われてびっくりしたことがあります。

そんな提灯記事は、社会的害悪(ゴミ)でしょう。

役所から指摘を受けたらとりあえず謝っとくとか、新しいガイドラインがでたらとりあえず褒めておくとか、思考停止もいいところだと思います。

企業も結局は人ですから、たとえば役所からの指摘に対してどのように反応するのかも、そのときの社長や法務部長の個人的資質にかかってくることも大いにあるでしょう。

とくに法律問題については社長は普通詳しくないですから、法務部の役割が大事です。

私が相談を受ける企業の中にも、「トップの方針なので」とおっしゃる法務の方がいて、多くの場合は法律をきちんとまもるという方向なので(お金をかけて弁護士に相談にくるのだから当然ですね)結構なことなのですが、中には、トップの方針を理由に必要以上に法律に縛られるようなことを目指そうとされることもあります。

そのような場合に、きちんとリスク分析をして、保守的にこうしようと合理的に決めているならよいのですが、ただ単に「トップの決定だから。」というのでは、法務部として大丈夫かな、と思ってしまいます。

サラリーマンは上司に逆らえないものなのかもしれませんが(ただし、そういう話をしたら「私はそんなことはありません。」とおっしゃった法務部員の方もいらっしゃいましたので一概にはいえません)、この点、企業内弁護士が増えてきたのは良いことです。

ピーター・ドラッカーも『新しい現実』などの著書で、知識労働者は専門知識によって移動の自由を手に入れた、と喝破しています。

最後は辞めてやるという気概がないと、筋を通すことはできないと思います。

たとえお上に指摘を受けても、本当に悪いことなのか自分で考えたり法務部に聞いてみたりすることが、トップマネジメントには必要だと思います。

また、骨太の法務人材を集めたり、法務部が物を言いやすい組織を作ることも大事でしょう。

そして根本的には、物の善悪を自分の頭で考える、ということが大事でしょう。

法律なんて、所詮、きちんと説明を受ければ誰にだって理解できるものです。

法律のしんどいのは、全体を体系的かつ理論的に理解することであって、特定の論点についてきちんと説明してもらっても理解できないということは稀だと思います。(結論に納得できない、ということは、立場の違いなので仕方ありませんが、理屈は理解できます。)

誰でも理解できるものでないと、民主主義社会における法律として成り立ちません。

(私がブログのサブタイトルで「誰にでも納得できる独禁法を目指します。」と謳っているのも、そういう願いを込めています。)

「AIがこう言っているから」というのは、法律の世界では絶対に成り立ちません。

この点は、科学技術や経済学と違います。

経営トップは、納得のいかないことがあれば、とことん法務部に説明させるべきなのです。

そして、法務部は、弁護士の言うことに納得できなかったら、とことん、弁護士に理屈を説明させるべきなのです。

そのようにして、法律問題については、誰だって、自分の頭で考えて自分で結論を出すことができるのです。

人に言われたからやめる、という人は、言われなければやめないでしょう。

これでは、本当のコンプライアンスとは言えません。

最近の公取委の優越的地位の濫用の運用は、理屈も何もあったものではないので、とくにこのようなことを感じるのかもしれませんが、今回述べたことは、べつに独禁法に限らず、すべてのコンプライアンスにあてはまることだと思います。

2022年12月28日 (水)

公取委による優越緊急調査の社名公表について

12月27日、公取委が、優越的地位の濫用の緊急調査の結果判明した13の事業者名を公表しました。

この公表の法的根拠の有無については以前「価格転嫁拒否をした企業の企業名公表について(公取委2022年10月5日事務総長会見)」(2022年11月15日)に書いたのでそちらをご覧頂ければと思いますが、この公表にはいろいろと問題があると思います。

まず、企業名を公表しているページでは、脚注で、

「※ 独占禁止法Q&Aに該当する行為を行っていたか否かを調査したものであり、この公表が独占禁止法又は下請法に違反すること又はそのおそれを認定したものではない。」

と記載されています。

大事なのは、違反のおそれすら認定したものではない、と明言していることです。

違反のおそれがある場合には「注意」がなされることがありますが、今回の公表は、注意にすら値しない、と公取自身が認めているるわけです。

それにもかかわらず、報道発表の本文の方では、まず標題が、

「4 注意喚起文書の送付及び独占禁止法Q&Aの①に該当する行為がみられた事業者に関する事業者名の公表

となっています。

ここで、「独占禁止法Q&Aの①」というのは、

「① 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと」

です。

そして、この①については、同報道発表では、

「公正取引委員会は、令和4年1月26日、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号。以下「下請法運用基準」という。)を改正するとともに、

同年2月16日、公正取引委員会のウェブサイトに掲載している「よくある質問コーナー(独占禁止法)」のQ&A(以下「独占禁止法Q&A」という。)に、労務費、原材料費、エネルギーコスト等のコストの上昇分を取引価格に反映せず、従来どおりに取引価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用の要件の1つに該当するおそれがあり

下記のとおり、独占禁止法Q&Aの①及び②の2つの行為がこれに該当することを明確化した。」

と説明されています。

ここで、「独占禁止法上の優越的地位の濫用の要件の1つ」と、持って回った言い方をしていますが、要は濫用行為のことです(もう1つの要件は優越的地位)。

つまり、①の行為は濫用行為に該当するおそれがある、というのが公取委の立場です。

ということは、前記の「4 注意喚起文書の送付及び独占禁止法Q&Aの①に該当する行為がみられた事業者に関する事業者名の公表」という標題は、濫用行為に該当するおそれがある行為がみられた事業者の事業者名を公表しているのだ、ということになります。

実際、報道発表の4⑶では、

「⑶ また、個別調査の結果、受注者からの値上げ要請の有無にかかわらず、取引価格が据え置かれており、事業活動への影響が大きい取引先として受注者から多く名前が挙がった発注者であって、かつ、多数の取引先について独占禁止法Q&Aの①に該当する行為が確認された事業者については、価格転嫁の円滑な推進を強く後押しする観点から、取引当事者に価格転嫁のための積極的な協議を促すとともに、受注者にとっての協議を求める機会の拡大につながる有益な情報であること等を踏まえ、独占禁止法第43条の規定に基づき、その事業者名を公表することとした(注3)。

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/dec/221227_kinkyuchosakekka_2.html

(注3)こうした行為を多数の取引の相手方に対して行っている事案又は過去に繰り返し行っている事案については、独占禁止法に基づき事業者名を公表する方針を対外的に示しているところである(参考3:「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」(令和4年10月28日閣議決定)及び参考4:「適正な価格転嫁の実現に向けた取組」(令和4年10月4日第10回新しい資本主義実現会議における古谷公正取引委員会委員長提出資料))。

なお、この対応に当たっては、公正取引委員会は、対象となる事業者に対し、意見を述べる機会を付与した。」

とされています。

つまり、①の行為(=濫用行為に該当するおそれがある行為)を認定した、というのが4⑶で言っていることです。

ところが、4⑷では、

「⑷ 上記のとおり、今回の事業者名の公表は、転嫁円滑化を強力に推進する観点からの情報提供を図るため実施したものであり、独占禁止法又は下請法に違反すること又はそのおそれを認定したものではない。」

と、全く逆のことが述べられています。

さらに、事業者名公表ページでは、

「※ 独占禁止法Q&Aに該当する行為を行っていたか否かを調査したものであり、この公表が独占禁止法又は下請法に違反すること又はそのおそれを認定したものではない。」

と注記されているのは前述のとおりです。

まとめると、

4の標題→おそれ認定

4⑶→おそれ認定

4⑷→おそれ認定否定

脚注→おそれ認定否定

ということになります。

いったい、「おそれ」は認定されたのでしょうか? されなかったのでしょうか?

まったく矛盾すると言うほかないと思います。

それに、標題(新聞で言えば、見出し)と、それに続く中心的な段落である4⑶でおそれありとしつつ、それらと比べると目立たない(実際、新聞でもまず報道されることがない)4⑷や脚注でおそれなし、とするというのは、いかにも姑息です。

公取委に正面切って聞けば間違いなく「おそれは認定していません」という回答になるのは目に見えており、そういう意味ではそれが公式見解なのでしょう。

ですが、それならそのことがきちんと誤解なく国民に伝わるようにしないといけないと思います。

実際、12月27日の朝日新聞の、

「公取委が価格転嫁巡り優越的地位乱用の調査、企業名13社を公表」

という記事では、

「公正取引委員会は27日、労務費・原材料費などのコスト上昇を踏まえて実施した独占禁止法の優越的地位の乱用に関する緊急調査の結果、事業活動への影響が大きいとして多く名前が挙がった企業13社の社名を公表した。価格転嫁のための協議を促すことなどが目的で、これらの企業が独禁法や下請法に違反すると認定したものではないとしている。」

というように、違反を認定したものではないと要約されていて、「おそれ」すら認定したものではない、という部分は抜け落ちています。

なんと、12月28日の毎日新聞の、

「価格転嫁拒否、13社公表 佐川、デンソーなど 公取委」

という記事では、

「公正取引委員会は27日、原材料費やエネルギー価格などのコストが上昇しているのに、下請け企業との取引価格に適切に転嫁しなかったとして、佐川急便やデンソーなど13の企業・団体を公表した。独禁法や下請け法の違反には当たらないが、独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」につながる恐れがあると判断した。」

というように、違反につながるおそれがある(この、つながるおそれ、というのは注意の要件です)ことになってしまっています。

次に、12月27日の日経新聞の、

「佐川急便やデンソーなど13社公表 価格転嫁協議せず」

という記事では、

「公正取引委員会は27日、下請け企業などとの間で原燃料費や人件費といったコスト上昇分を取引価格に反映する協議をしなかったとして佐川急便や全国農業協同組合連合会(JA全農)、デンソーなど13社・団体の名前を公表した。こうした行為は独占禁止法の「優越的地位の乱用」に該当する恐れがある。」

と報じられており、やはり、違反のおそれが認められたので公表された、と読める内容になっています。

ちなみに、この記事では各社のコメントも引用されており、ドン・キホーテと三菱食品が、

「パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス傘下のディスカウント店運営子会社ドン・キホーテ(東京・目黒)は「今回の公表の前提として当社に独占禁止法または下請法への違反またはその恐れがあったとの認定がなされたものではない」とした上で、「このような指摘を受けたことは誠に遺憾であり、今後、取引業者との一層のコミュニケーションをはかる」とコメントした。」

「食品卸大手の三菱食品は「法令違反には当たらないと理解しているが、取引先と緊密に連携しながら適正な取引環境の維持につとめる」とコメントした。」

ということであり、筋を通す2社の姿勢に私などは強い共感を覚えます。

最後にNHKのウェブサイトでは、12月27日付の、

「“値上げの必要性協議せず” 大手企業などの名前公表 公取」

という記事で、

「原材料や燃料の価格が高騰する中、公正取引委員会は、中小企業が大手企業などとの取引で製品やサービスの価格を適正に価格転嫁できているか緊急調査を行いました。その結果、価格転嫁に応じていなかったことなどが認められたとして、13の企業や団体名を公表しました。」

というように、応じなかったという客観的事実が公表された、と紹介され、さらに、

「公正取引委員会は、この公表が独占禁止法や下請法に違反することや、そのおそれを認定したものではないとしていますが、取引先と価格転嫁の協議の場を設けるなどの是正を促すとしています。」

と、おそれを認定したわけでもないことを明確に念押ししています。

このあたりの正確さは、さすがNHKだと思いました。

余談その1、ですが、ある知り合いの企業内弁護士の方が、自社が関係する法務関連のニュースが報道されたときに、

NHK以外は、全部間違っていた。

とおっしゃっていました。

今回、NHKの正確さをあらためて実感しました。

余談その2、ですが、最近のNHKのウェブサイトの充実ぶりはすごいです。(昔からそうだったのかもしれませんが。)

元々私は池上彰さんと佐藤優さんが対談で「NHKのサイトを見ていれば知っておくべき重要ニュースを見逃すことはない」というようなことをおっしゃっていたのでお気に入り登録をしているのですが、個人的には、とくに、ウェブ特集とかスペシャルコンテンツが、若手記者の方々が重要な社会問題をいくつも提起しており、まさに「一隅を照らす」感があり、たいへん読み応えがあります(読んでいて涙が止まらないこともあります。)

さて本題に戻りますと、これくらい、報道各社も誤解して報じているわけです。

ほんとうは、誤解しているわけではなくて、わかりやすく伝えようとすると枝葉末節は端折られてしまうということなのだと思いますが、ともかく、その責任は、わけのわからない報道発表をする公取委にあると思います。

それに、あらためて前記の脚注を読み返すと、

「※ 独占禁止法Q&Aに該当する行為を行っていたか否かを調査したものであり、この公表が独占禁止法又は下請法に違反すること又はそのおそれを認定したものではない。」

といっていて、素直に読むと、Q&Aに該当する行為(=濫用行為)を行った事業者の事業者名を公表している、と読めてしまうのではないでしょうか?

これでは、いくら「おそれを認定したものではない」といっても、脚注の内部で矛盾しており、消費者庁流にいえば、強調表示と矛盾する打消し表示であって打消しの効果は認められない、といわれても仕方ないレベルだと思います。

1つ驚いたのは、12月27日の朝日新聞の、

「公取委、デンソーや佐川急便など13社を名指し 下請け取引を問題視」

という記事で報じられていたのですが、

「公取委によると、発注元側は「下請け側から価格交渉の申し出がなかった」などと主張しているという。

しかし、下請け側からは「取引を打ち切られることを恐れて申し出られなかった」との声があり、公取委の担当者は「価格転嫁のためには発注者から積極的に交渉の場を設けることが重要だ」と指摘した。」

ということなんだそうです。

つまり今回公表された事業者にも、下請け側から価格交渉の申し出がなかったために交渉しなかったために公表されたところがある可能性がある、ということです。

言われなくてもこちらから「値上げしませんか?」と交渉を持ちかけないと濫用になる、ということです。

実はこの点については報道発表3⑴アでも、

「ア 本件調査において、①の行為については、受注者から申入れがないこと・・・等を理由として、発注者からは積極的な協議の場を設けていないため、調査対象期間においては、取引価格が据え置かれているケースが多数みられた。」

とされており、受注者から申し入れがないことを理由に協議しないことは①に該当することが示唆されています。

しかし、これはいくらなんでも、優越的地位の濫用の解釈として間違っていると思います。

善意に解釈すれば、

上記朝日新聞の公取委コメントは、おそれですらないのだからこれでいいのだ(濫用行為の解釈を述べたものではない)と公取委は言っているだけ、

ということなのかもしれませんし、

報道発表3⑴アも、「受注者から申し入れがないこと」を理由に協議しないことは、「①の行為について」(in relation to)そういう事実が認められたというだけで、「受注者から申し入れがないこと」を理由に協議しないことが①に該当するとは言っていない、

ということなのかもしれませんが、いずれもごまかしも良いところだと思います。

しかも、違反行為と関係ない(≒おそれすらない)のに公表するというのは、独禁法43条の解釈としても問題があります。

つまり、独禁法43条では、

「公正取引委員会は、この法律の適正な運用を図るため、事業者の秘密を除いて、必要な事項を一般に公表することができる。」

と規定されており、公表の目的はあくまで独禁法(ここでは、優越的地位の濫用)の適正な運用を図ることである必要があるのです。

ところが、前述の報道発表4⑶では、

「⑶ また、個別調査の結果、受注者からの値上げ要請の有無にかかわらず、取引価格が据え置かれており、事業活動への影響が大きい取引先として受注者から多く名前が挙がった発注者であって、かつ、多数の取引先について独占禁止法Q&Aの①に該当する行為が確認された事業者については、

価格転嫁の円滑な推進を強く後押しする観点から、取引当事者に価格転嫁のための積極的な協議を促すとともに、受注者にとっての協議を求める機会の拡大につながる有益な情報であること等を踏まえ、独占禁止法第43条の規定に基づき、その事業者名を公表することとした(注3)。」

とされており、価格転嫁の推進を後押しするのが目的だ、と述べています。

これらをまとめると、今回の公表は違反のおそれすらないが、価格転嫁の推進を後押しする目的なので、43条を根拠に公表できるのだ、ということになります。

しかし、それは43条の独禁法の適正な運用を図る目的とは、相当ずれていると思います。

だって、違反のおそれすらないからです。

違反のおそれすらない行為を価格転嫁を推進するからという目的で公表するのは、価格転嫁の推進自体が自己目的化しており、独禁法の適正な運用とはどんどん離れていきます。

このような問題のある事業者名の公表は看過できませんので、今回は以上のとおり問題提起してみました。

2022年12月18日 (日)

果実飲料等の表示に関する公正競争規約2条の規定ぶりの疑問

果実飲料等の表示に関する公正競争規約2条では、

「この規約で「果実飲料等」とは、

果実飲料等の表示に関する公正競争規約施行規則(以下「施行規則」という。)に定める「果実飲料」(以下「果実飲料」という。)

並びに

商品名中に果実の名称を使用する飲料及び色等によって果実の搾汁を使用すると印象づける飲料であって果汁の使用割合が10%未満のもの(果汁を含まないものを含む。以下「その他の飲料」という。)をいう。

ただし、次の各号に掲げるものを除く。

(1) 不当景品類及び不当表示防止法第31条第1項の規定に基づき設定された他の公正競争規約の適用を受けるもの

(2) 「酒税法」(昭和28年法律第6号)に規定する酒類

(3) 粉末飲料

(4) 紅茶飲料(商品名又は名称から紅茶飲料と判断されるもの)

(5) 野菜を破砕して搾汁又は裏ごしをし、皮、種子等を除去したもの(これを濃縮したもの又は濃縮したものを希釈して搾汁の状態に戻したものを含む。以下「野菜汁」という。)が混合されたもので、野菜汁の使用量が果汁の使用量を上回るもの」

と規定されています。

ここでは、

「果実飲料等」

「果実飲料」

「その他の飲料」

の3つの用語が定義されているのがわかります。

この規定をぼーっと読むと、

「果実飲料等」=「果実飲料」+「その他の飲料」

なんだろうな、と思えるし、実際、立案担当者の意図もそうだったのだと思われます。(結論としても、この解釈が正しいです。)

ところが、条文の文言は、そうなっていません。(端的に言って立案ミスです。)

つまり、「果実飲料等」の定義は、

「・・・「果実飲料」・・・並びに・・・「その他の飲料」・・・をいう。

ただし、次の各号に掲げるものを除く

(1) 不当景品類及び不当表示防止法第31条第1項の規定に基づき設定された他の公正競争規約の適用を受けるもの

(2) 「酒税法」(昭和28年法律第6号)に規定する酒類

(3) 粉末飲料

(4) 紅茶飲料(商品名又は名称から紅茶飲料と判断されるもの)

(5) 野菜を破砕して搾汁又は裏ごしをし、皮、種子等を除去したもの(これを濃縮したもの又は濃縮したものを希釈して搾汁の状態に戻したものを含む。以下「野菜汁」という。)が混合されたもので、野菜汁の使用量が果汁の使用量を上回るもの」

と規定されていて、2条ただし書で、上記⑴~⑸が除外されています。

そのため、たとえば、⑷の紅茶飲料は、「果実飲料等」には含まれません。

ところが、「果実飲料」については、

「果実飲料等の表示に関する公正競争規約施行規則・・・に定める「果実飲料」」

と定義されており、文言上、規約2条ただし書⑴~⑸を除外していません。

ちなみに、果実飲料等の表示に関する公正競争規約施行規則1条1項では、「果実飲料」は、

「果実飲料等の表示に関する公正競争規約(以下「規約」という。)第2条第1項に規定する「施行規則に定める「果実飲料」」とは、

「食品表示法」(平成25年法律第70号)に基づく「食品表示基準」(平成27年内閣府令第10号。以下「表示基準」という。)別表第3の上欄に掲げる果実飲料に係る用語の定義に準ずる次のものをいう。

(1) 果実ジュース

1種類の果実の果実の搾汁若しくは還元果汁

又は

これらに砂糖類、蜂蜜等を加えたもの

(ただし、砂糖類、蜂蜜等の原材料及び添加物に占める重量の割合が5%以下であること。)

をいう。

ただし、オレンジジュースにあっては

みかん類の果実の搾汁、濃縮果汁若しくは還元果汁を加えたもの

(みかん類の原材料及び添加物に占める重量の割合が10%未満であって、かつ、製品の糖用屈折計示度

(加えられた砂糖類、蜂蜜等の糖用屈折計示度を除く。以下この施行規則において同じ。)

に寄与する割合が10%未満のものに限る。)

を含む。

(2) 果実ミックスジュース

2種類以上の果実の搾汁若しくは還元果汁を混合したもの

又は

これらに砂糖類、蜂蜜等を加えたもの

(ただし、砂糖類、蜂蜜等の原材料及び添加物に占める重量の割合が5%以下であること。

また、みかん類の果実の搾汁又は還元果汁を加えたオレンジジュースであって、みかん類の原材料及び添加物に占める重量の割合が10%未満、かつ、製品の糖用屈折計示度に寄与する割合が10%未満のものを除く。)

をいう。

(3) 果粒入り果実ジュース

果実の搾汁若しくは還元果汁にかんきつ類の果実のさのう若しくはかんきつ類以外の果実の果肉を細切したもの等

(以下「果粒」という。)

を加えたもの

又は

これらに砂糖類、蜂蜜等を加えたもの

(ただし、砂糖類、蜂蜜等の原材料及び添加物に占める重量の割合が5%以下であること。)

をいう。

(4) 果実・野菜ミックスジュース

果実の搾汁若しくは還元果汁に野菜汁を加えたもの

又は

これらに砂糖類、蜂蜜等を加えたもの

(ただし、砂糖類、蜂蜜等の原材料及び添加物に占める重量の割合が5%以下であること。)

であって、

果実の搾汁又は還元果汁の原材料及び添加物に占める重量の割合が50%を上回るものをいう。

(5) 果汁入り飲料

次に掲げるものをいう。

還元果汁を希釈したもの若しくは還元果汁及び果実の搾汁を希釈したもの

又は

これらに砂糖類、蜂蜜等を加えたものであって、

糖用屈折計示度が表示基準別表第3の中欄に掲げる還元果汁に係る同表の下欄に掲げる表3

(以下「表示基準における表3」という。)

の基準

(レモン、ライム、うめ及びかぼすにあっては

表示基準別表第3の中欄に掲げる還元果汁に係る同表の下欄に掲げる表4

(以下「表示基準における表4」という。)

の酸度

(加えられた酸の酸度を除く。以下この施行規則において同じ。)

の基準。

2種類以上の果実を使用したものにあっては

糖用屈折計示度

又は

酸度

について

果実の搾汁及び還元果汁の配合割合により

表示基準における表3又は表4の基準を按分したものを合計して算出した基準)

の10%以上100%未満のもので、

かつ、

果実の搾汁及び還元果汁の

原材料及び添加物

に占める重量の割合が

果実の搾汁、還元果汁、砂糖類、蜂蜜及び水以外のものの

原材料及び添加物

に占める重量の割合

を上回るもの

果実の搾汁を希釈したもの

又は

これに砂糖類、蜂蜜等を加えたものであって、

果実の搾汁の

原材料及び添加物

に占める重量の割合が10%以上のもので、

かつ、

果実の搾汁の

原材料及び添加物

に占める重量の割合が

果実の搾汁、砂糖類、蜂蜜及び水以外のものの

原材料及び添加物

に占める重量の割合

を上回るもの

希釈して飲用に供するものであって、希釈時の飲用に供する状態がア又はイに掲げるものとなるもの」

と定義されており、やはり、規約2条1項ただし書⑴~⑸を文言上除外していません。

ざっくりまとめると、

「果飲料」=⑴果実ジュース+⑵果実ミックスジュース+⑶果粒入り果実ジュース+⑷果実・野菜ミックスジュース+⑸果入り飲料

ということになります。

話を元に戻すと、このように、「果実飲料」の定義からは、規約2条1項ただし書⑴~⑸は除外されていません。

規約2条1項の「その他の飲料」も、

「商品名中に果実の名称を使用する飲料

及び

色等によって果実の搾汁を使用すると印象づける飲料

であって

果汁の使用割合が10%未満のもの

(果汁を含まないものを含む・・・)」

と定義されており、同じく、規約2条1項ただし書⑴~⑸が、除外されていません。

まとめると、

「果実飲料等」からは、規約2条1項ただし書⑴~⑸が除外されており、

「果実飲料」および「その他の飲料」からは規約2条1項ただし書⑴~⑸が除外されていない

ため、

「果実飲料等」≠「果実飲料」+「その他の飲料」

ということになります。

あるいは、もう少し厳密に書けば、

「果実飲料等」

=「果実飲料」

 +「その他の飲料」

 ー「(1) 不当景品類及び不当表示防止法第31条第1項の規定に基づき設定された他の公正競争規約の適用を受けるもの」

 ー「(2) 「酒税法」(昭和28年法律第6号)に規定する酒類」

 ー「(3) 粉末飲料」

 ー「(4) 紅茶飲料(商品名又は名称から紅茶飲料と判断されるもの)」

 ー「(5) 野菜を破砕して搾汁又は裏ごしをし、皮、種子等を除去したもの(これを濃縮したもの又は濃縮したものを希釈して搾汁の状態に戻したものを含む。以下「野菜汁」という。)が混合されたもので、野菜汁の使用量が果汁の使用量を上回るもの」

ということになります。

規約の文言を論理的に解釈するとこういうことになるのですが、おそらく、規約が言いたいことはそうではなく、「果実飲料」からも「その他の飲料」からも、規約2条1項ただし書⑴~⑸は除外される、ということなんだろうと思われます。

これはきわめて常識的な解釈、というより、これ以外の解釈はありえないでしょう。

規約2条1項の文言がそうなっていないのは、たんなるドラフティングのミスと考えられます。

こう解釈しないと、たとえば、規約2条1項ただし書⑴の、

「(1) 不当景品類及び不当表示防止法第31条第1項の規定に基づき設定された他の公正競争規約の適用を受けるもの」

というのは、他の公正競争規約があればそちらを優先しましょうという趣旨だと考えられますが、それにもかかわらず、「果実飲料」や「その他の飲料」には、他の公正競争規約があっても当該他の公正競争規約は優先されない、というわけのわからないことになってしまいます。

このように、条文のドラフティングというのは、どこまでも愚直に文言を論理的に追っていくことが重要であり、なんとなく2つのサブカテゴリーが1つのカテゴリーに統合されるような絵を頭に浮かべながら条文を書くと、間違いの元になります。

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