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2022年8月 6日 (土)

原産国表示と優良誤認の違い

たまに勘違いされることがあるようですので(公正取引861号50頁など)、原産国告示と優良誤認の違いについて説明しておきます。

原産国を偽っているように見えるのに原産国告示違反ではなく優良誤認とされている事件は、対象商品自体の原産国を偽ったのではなくて、対象商品の原材料を偽った事件です。

ブランド力の差で著しく優良と誤認させるほどのものが優良誤認でそれに至らないものが原産国告示、というわけではありません。

(原産国告示違反には課徴金がかからないので、そういう解釈もあって良いと思いますが、実務の運用はそうなっていません。)

原産国表示は、対象商品自体の原産国を偽った場合に限られます。

原産国告示のうち比較的使われることの多い2項(外国産商品の不当表示)では、

「2 外国で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、その商品がその原産国で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの

一 その商品の原産国以外の国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示

二 その商品の原産国以外の国の事業者又はデザイナーの氏名、名称又は商標の表示

三 文字による表示の全部又は主要部分が和文で示されている表示」

が原産国告示違反の表示と定められています。

つまり、あくまで「商品」自体の原産国を偽るのが原産国告示違反であって、商品の原材料の原産国を偽っても、原産国告示違反にはならず、優良誤認表示にしかなりません。

また、原産国告示違反に該当する表示をあえて優良誤認とすることも、理屈の上では可能ですが、そのような運用はされていません。

たとえば、家庭用塩の製造販売業者9社に対する警告(優良誤認)についての公取委報道発表文(平成16年7月21日)では、

「前記1の9社は,家庭用塩について,別紙1のとおり,原料原産地について,あたかも沖縄等で採取された海水を用いたものであるかのように表示していたが,実際には,外国産の天日塩を沖縄等で採取した海水に溶解するなどして再生加工したもの等であり,一般消費者に誤認される疑いがある。」

と認定されています。

つまり、商品である家庭用塩の原産地を偽ったのではなく、その原材料である海水の原産地を偽ったので、原産地告示違反にはならない、ということです。

平成21年11月10日のファミリーマートに対する措置命令(優良誤認)でも、

「ファミリーマートは、平成21年6月11日ころから同月16日ころまでの間、カリーチキン南蛮おにぎりの包装袋に貼付したシール(別添写し)において、「国産鶏肉使用」と記載することにより、あたかも、当該商品の原材料に我が国で肥育された鶏の肉を用いているかのように示す表示をしていたが、実際には、当該商品の原材料にブラジル連邦共和国で肥育されたものを用いていた。」

と認定されており、商品のおにぎり自体ではなくその原材料の産地を偽ったので、原産国表示違反にはなりませんでした。

おにぎりの原産国は、たぶん、おにぎりを作った国でしょう。

なので、おにぎりの工場が国内にあれば、そのおにぎりを国産といっても、間違いではないと思います。

でも、材料の鶏肉の原産国を偽れば、これは、優良誤認表示でしょう。

プラスワンに対する令和元年10月16日措置命令(優良誤認)でも、同社が販売する「本件商品」は、

「貴社が運営する「からあげ専門店こがね」と称する店舗のうち別表1「店舗」欄記載の店舗において供給する鶏の「もも」と称する部位(以下「鶏もも肉」という。)を使用した唐揚げ及び当該唐揚げを含む商品の各商品(以下これらを併せて「本件商品」という。)」

と定義され、違反対象商品は唐揚げおよび唐揚げを含む商品でしたが、違反の表示は、

「(4)ア プラスワンは、本件商品を一般消費者に販売するに当たり、例えば、塚本店の看板において、平成28年2月1日以降、「からあげ専門店 こがね」及び「国産若鶏使用 絶品あげたて」と表示するなど、別表1「店舗」欄記載の店舗の看板又は軒先テントにおいて、同表「表示期間」欄記載の期間に、同表「表示内容」欄記載のとおり表示することにより、あたかも、本件商品には、国産の鶏もも肉を使用しているかのように示す表示をしている又は表示をしていた。」

というものであり、唐揚げ自体の原産国(揚げた国ですかね)を偽ったのではなく、その商品に使用された原材料である鶏もも肉の原産地を偽ったわけです。

なので、この事件も優良誤認となりました。

ちなみに、消費者庁ホームページが、

国産有名ブランド牛の肉であるかのように表示して販売していたが、実はブランド牛ではない国産牛肉だった。」

というのを優良誤認の例として挙げていますが、これは、実際も表示も原産地は日本(国産)なので、原産国表示違反にはなりようがなく、優良誤認になるのは当然です。(違反は、「ブランド」牛か、ノーブランド牛か、という点にあり、原産国の点にはありません。)

以上は優良誤認の例でしたが、今度は原産国告示の事件をみてみると、たとえばビック酒販に対する令和3年9月3日措置命令では、

「⑶ ビック酒販は、本件25商品〔お酒〕を一般消費者に販売するに当たり、自社ウェブサイトにおいて、別表「商品名」欄記載の商品について、同表「表示期間」欄記載の期間に、同表「表示内容」欄記載のとおり表示することにより、同欄記載の国名又は地名を表示していた。

⑷ 実際には、本件25商品は、別表「実際の原産国(地)」欄記載の原産国(地)で生産されたものであった。」

と認定されており、商品自体の原産地を偽ったので、原産国告示違反になりました。

令和元年6月13日の高島屋に対する措置命令(原産国表示)でも、

「⑶ 髙島屋は、本件147商品〔化粧品や雑貨〕を一般消費者に販売するに当たり、自社ウェブサイトにおいて、別表「商品名」欄記載の商品について、同表「表示期間」欄記載の期間に、「原産国・生産国」又は「原産国」と記載の上、同表「表示された国名」欄記載の国名を記載していた。

⑷ 実際には、本件147商品は、別表「実際の原産国(地)」欄記載の原産国(地)で生産されたものであった。」

と、「本件147商品」自体の原産地を偽ったので、原産国告示違反になりました。

という具合に、原産国告示は商品自体の原産国、優良誤認は商品の原材料の原産国の偽り、ということです。

それから、原産国告示は商品だけが対象なので、役務の場合には、必ず優良誤認になります。

たとえば、レストランは役務と考えられているので、国産牛ステーキというメニューで料理を出したのが外国産牛肉だったりすると、優良誤認にはなりますが、原産国告示違反にはなりません。

というわけで、みなさん勘違いしないように気をつけましょう。

2022年8月 5日 (金)

晋遊舎に対する措置命令の疑問

晋遊舎がパズル雑誌の懸賞の賞品を送っていなかったとして、2021年3月24日、消費者庁から措置命令を受けました

応募締切から短いもので8カ⽉弱、長いのだと3年10カ⽉後まで賞品が発送されていなかったということです。

本件でも、他の事件と同様、不当表示があったことの公示などとともに、

「貴社は、今後、本件商品又はこれらと同種の商品の取引に関し・・・前記○○の表示と同様の表示を行うことにより、当該商品の取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示をしてはならない。」

という、将来同様の表示をすることを禁じる命令がされています。

この手の事件をみて常々思うのですが、措置命令でたんに将来の表示を禁じるだけではなくて、命令の対象になった表示どおりに賞品を送るように命令することはできないものでしょうか。

西川編著『景品表示法〔第6版〕』p305でも、実際の商品役務の内容を表示に合わせることを命じた例として、石川ライフクリエートに対する2003(平成15)年4月16日排除命令が紹介されています。

この石川ライフクリエートの事件は老人ホームの事件だったので、入居している老人の方々にとっては、「不当表示がありました。将来同様の表示はしません」といわれてもあまり意味がなく、施設の内容を改善して表示に合わせる必要性がとくに高かったといえるかもしれません。

でも、雑誌の懸賞だって、「あれはうそでした。将来同様の表示はしません。賞品は表示どおりちゃんと送ります。」といわれても、現に懸賞に応募した人たちにとっては意味がないわけで、ちゃんと懸賞を実施して賞品を送らせるべきだったのではないでしょうか。

不当表示の内容が、「コロナウィルスを寄せ付けません」といった内容だと、表示どおりの商品を提供することはおそらく技術的に不可能ですから、表示をやめさせるほかないわけですが、雑誌の懸賞なら、不可能なことは全然ないと思います。

ひょっとしたら、応募ハガキを捨てちゃったので抽選の実施が不可能だった、ということもあるかもしれませんが、それでも、抽選ハガキが残っている分については実施させることはできるのではないでしょうか。

そのほうが、応募者も喜ぶし、同種事案の抑止にもなると思います。

こういうことが消費者庁内で議論されたのかどうかはわかりませんが、たぶん議論されていないと思うので、問題提起させていただきました。

2022年8月 4日 (木)

インボイス制度導入に伴う非登録事業者に対する値下げ要求に関する長島大野常松法律事務所ニューズレターの気になる記述

消費税のインボイス制度導入に伴いインボイスの登録をしないサプライヤーに対して値下げを要求したら独禁法や下請法に反するのではないか、というご質問を受けることがあります。

これに対して、長島大野法律事務所のニューズレター「消費税インボイス制度導入に伴うサプライヤーとの取引設計と独占禁止法遵守の課題」では、

「(1) 優越的地位濫用のおそれ

発注者側としては、インボイス制度の導入後はサプライヤーに対し、適格請求書発行事業者として登録してもらい、従前通りの仕入税額控除を得られるようにするのが最も望ましい。

このため、発注者としては、サプライヤーに対し、適格請求書発行事業者としての登録を要請したいところであろう。

他方、サプライヤー側としては、既に課税事業者となっている場合には適格請求書発行事業者の登録をしても適格請求書発行に伴う各種の作業負担はあれインボイス制度の導入前と税負担の面において変わるところはないが、サプライヤーが免税事業者である場合には、課税事業者となることに伴う「益税」の喪失又は減少といった大きな税務上の悪影響が発生する。

こうした状況のもとで、発注者側が免税事業者であるサプライヤーに対して、適格請求書発行事業者としての登録を要求し、登録に応じないサプライヤーに対して、

直ちに契約解除や契約単価の引き下げを示唆したり、

実際に契約解除や契約単価の引き下げを行ったりする場合には、

発注者側の行為は、優越的地位にある者による相手方への一方的な取引条件の設定として、独占禁止法上の優越的地位濫用に該当するおそれが高い

また、発注者が、免税事業者である多数のサプライヤーに対して拙速かつ一律にこうした要求をすることは、行為の広がりやサプライヤー側の不利益の程度も大きく、公取委が優越的地位濫用の違反被疑事件として大々的に取り上げる可能性も否定できないであろう。」

と説明されています。

しかし、私はこれはいくらなんでも厳しすぎると思います。

とくに、直ちに契約解除や契約単価の引き下げを「示唆」するだけで濫用に該当する「おそれが高い」というのは、誤記ではないかとすら思ってしまいます。

実際に価格を下げるにしても、最初は経過措置があって2%ですから、たった2%の値下げの「示唆」で濫用の「おそれが高い」ということになり、そんなのでは怖くて値下げ交渉なんてできなくなってしまいます。

もし免税事業者がインボイスの登録をすれば、消費税を払わないといけなくなるので(ほんらい、益税としてはらわないですんでいたのがおかしいのですが、それはさておき)、確かに免税業者の影響はありますが、たとえば7000円(税別)の毛糸を仕入れてぬいぐるみを作って1万円(税別)で雑貨店に販売している個人事業者の例では、消費税額は売上税額1000円から仕入税額700円を引いた300円なので、売上に対する割合は3%であり、そんなに大したことはない(2%の値下げよりは大きいですが)、と思います。

それに、上記解説では、違法になる理由が「一方的な取引条件の設定として」というくらいしか説明がなく、理由がよくわかりません。

ちなみに、「一方的な対価の決定」については、優越的地位の濫用ガイドライン第4の3⑸アに、

「ア 取引の対価の一方的決定

(ア) 取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,一方的に,著しく低い対価又は著しく高い対価での取引を要請する場合であって,

当該取引の相手方が,今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には,

正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となる(注25)。

この判断に当たっては,対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法のほか,

他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか,

取引の相手方の仕入価格を下回るものであるかどうか,

通常の購入価格又は販売価格との乖離の状況,

取引の対象となる商品又は役務の需給関係

等を勘案して総合的に判断する。」

と説明されています。

つまり、そもそもの前提が、「著しく低い対価」であることなのです。

確かに、現状の対価が著しく低い対価に限りなく近いくらい低ければ、2%の値下げ要求が、いわばfinal strawとなって、「著しく低い対価」になってしまうことはあるかもしれませんが、めったに起こらないことだと思います。

現状がまともな対価なら、2%下げただけで「著しく低い対価」になることなんて、まず考えられません。

(卸とか、利幅の薄いビジネスなら2%の値下げで赤字ということもあるかもしれませんが、そういう事業形態は通常ある程度の規模があるはずなので、免税事業者であることはまれだと思います。)

このように「著しく低い対価」であることが前提である上に、ていねいに交渉するなどの手続的な問題ではなく絶対的な金額の高低の基準としては、ガイドラインでは、仕入価格を下回るかどうかが基準になっているのです。

もう廃止になった消費税転嫁法では、増税前後を比べて対価を下げることが違法とされましたが、あれは特別法があって、しかもガイドラインもあったから言えたことです。

今回のインボイス制度には転嫁法に相当するような特別法はありませんし、むしろ買手からしたら突然制度が変わって事故に遭ったようなもの(営業努力ではどうしようもない)なのですから、転嫁法みたいに従前と比べてどれだけ下げるというのは、基本的には問題にすべきではありません。

インボイス制度にともない従前から値下げしたら濫用になるという発想には、転嫁法に引きずられたのではないか、と勘ぐってしまいます。

さらに、同ニューズレターの出た後に出た公取委の公式見解である「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」のQ7では、「1 取引対価の引下げ」では、

「取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される分(注3)について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。

しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。

また、取引上優越した地位にある事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、その際、仕入先が納税義務を負うこととなる消費税分を勘案した取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、著しく低い取引価格を設定した場合についても同様です。」

と説明されています。

免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格」というのはよく意味が分からないところではありますが(素直に読めば仕入税額、上記毛糸の例なら700円を払えない、と読めますが、ぬいぐるみが7700円で売れれば仕入税額分は回収できているので、問題ないようにも読め、そうすると要は仕入価格を下回らなければいい、ということになります)、ともかくここでも「著しく低い」かが一般的な基準になっています。

従前の取引価格と比べて大幅か小幅かは、問題にしていません。

次にQ7の「6 登録事業者となるような慫慂等」では、

「課税事業者が、インボイスに対応するために、取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請することがあります。

このような要請を行うこと自体は、独占禁止法上問題となるものではありません。

しかし、課税事業者になるよう要請することにとどまらず、

課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、

それにも応じなければ取引を打ち切ることにするなどと一方的に通告することは、

独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがあります。」

と説明されています。

ここだけみると、インボイスの登録をしない場合に取引停止を一方的に通告することは独禁法違反になるかのようにみえるのですが、これには続きがあって、

「例えば、免税事業者が取引価格の維持を求めたにもかかわらず、

取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答することなく、取引価格を引き下げる場合は、これに該当します。」

とされています。

つまり、理由を書面等で回答すれば(インボイスの登録をしないから、という以外にないとおもうのですが・・・)、「一方的」な通告ではない、ということです。

なお、前記ニューズレターの注12では、

「なお、下請法については、サプライヤー側との取引が下請法上の下請取引に該当する場合であっても、

上述のような発注者側の行為〔注・直ちに契約解除や契約単価の引き下げを示唆したり、実際に契約解除や契約単価の引き下げを行ったりする行為〕は必ずしも「買いたたき」や「購入強制」といった下請法上の親事業者の禁止行為に当てはまらない。

別途、発注後の「減額」などの禁止行為がない限り、サプライヤー側が発注者の下請法違反を主張するごとは難しいと思われる。」

と述べられているのですが、「契約解除や契約単価の引き下げを示唆」する行為や「実際に契約解除」をする行為は禁止行為のどれにもあたらないので下請法違反にならないというのはわかるのですが、「契約単価の引き下げ」は、同ニューズレターの立場では買いたたきに当たりうるのではないですかね。

私は、そもそも2%くらいでは下請法の買いたたきにもふつうは当たらないだろうと思いますが、優越的地位の濫用の買いたたき(取引の対価の一方的決定)と下請法の買いたたきを比べたら、明文の規定があったり形式解釈が幅をきかせる下請法のほうが、違反になるリスクは高いのではないかと思います。

それが、優越的地位の濫用の可能性は高いのに下請法には違反しないというのがおかしいのではないか、と考える理由です。

インボイス制度と独禁法については、登録期限が近づくにつれてますます相談が増えそうですし、あまりまとまった文献もない(公取委の公式見解が出たのは喜ばしいことです)なか、ネットを調べると(明らかに間違っているものを含め)ずいぶん厳しいことをいっているものが多く、上記ニューズレターはそのなかでは一番ちゃんと書けているのですがそれでも明らかに厳しすぎで、これを真に受ける企業があってはいかんと思い、(長島大野には個人的に知ってる弁護士さんもたくさんいるので心苦しくもありますが)指摘をさせていただいた次第です。

2022年8月 2日 (火)

インボイス制度導入に伴う免税事業者に対する代金引き下げと優越的地位の濫用

インボイス制度が導入されると、事業者が消費税の仕入税額控除を受けるためには仕入れ先からインボイス(適格請求書)を受け取らないといけなくなるため(経過規定あり)、当該事業者としては、インボイスを発行できない消費税免税事業者からの仕入については、仕入代金額を減額交渉したくなります。

(インボイスは、課税事業者が適格請求書発行事業者の登録を受けることで発行できるようになりますので、消費税免税事業者はインボイスを発行できません。)

たとえば、今まで消費税免税事業者A(売手)から1個1万1000円で商品(たとえばぬいぐるみ)を仕入れていた事業者B(買手)は、インボイス制度の導入前は1万1000円のうちの消費税相当額1000円をふつうに仕入税額控除(「仕入」の「税額」を納付する消費税額から「控除」すること)できていましたが、インボイス制度導入後は、インボイスがないと仕入税額控除ができないため、事業者B(買手)が納付する消費税額が1000円アップしてしまいます。

たとえば、事業者B(買手)がその商品を1万3000円(税別)で販売すると、現状(インボイス制度導入前)では、売上(1万3000円)に対する消費税額(1300円)(役所的な言葉で言えば「課税売上げに係る消費税額」、短くして「売上税額」)から、仕入(1万円)に対する消費税額(1000円)(役所的な言葉でいえば「課税仕入れ等に係る消費税額」、短くして「仕入税額」)を引いた、300円を、事業者B(買手)は消費税として納付することになります。

これが、インボイス制度導入後は、事業者B(買手)が仕入税額控除をするためにはインボイスが必要なため、免税事業者A(売手)が消費税免税事業者であるためにインボイスを発行できない場合、事業者B(買手)は、1000円の仕入税額控除ができず、課税売上げに係る消費税額1300円を、まるまる消費税として納めないといけなくなります。

つまり、インボイス制度導入後は、事業者B(買手)にとっては、免税事業者(インボイス非発行者)から仕入れると仕入額(本体額)の10%分のコストアップになってしまいます。

そこで、事業者B(買手)としては、免税事業者A(売手)に課税事業者になってもらうか、さもなくば、仕入価格を仕入税額工場相当額の1000円(10%)引き下げて欲しくなるわけです。

このように、インボイス制度導入に伴い、事業者B(買手)が、免税業者A(売手)に対して、課税事業者となることを求めたり、仕入代金の引き下げを求めたりすることが、優越的地位の濫用にならないか、という問題があります。

このうち、代金引き下げの問題に対する公取委の公式回答は、令和4(2022)年1月19日「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」のQ7で、そこでは、

「Q7 仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討していますが、独占禁止法などの上ではどのような行為が問題となりますか。」

という設問に対して、

「1 取引対価の引下げ

取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、

仕入税額控除が制限される分〔※経過措置あり〕について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。

しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。

また、取引上優越した地位にある事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、その際、仕入先が納税義務を負うこととる消費税分を勘案した取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、著しく低い取引価格を設定した場合についても同様です。」

という回答がなされています。

(なお、「仕入先である免税事業者との取引について」という設問なので、仕入先(事業者A)は免税事業者でいつづけることが前提であることに注意しましょう。)

ここで、「免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で」というのを説明するために、前述の例で、事業者A(売手)が、ぬいぐるみの原材料として、毛糸を7700円(うち700円が消費税分)を仕入いていたとします。

すると、ここでの「免税事業者の仕入れ・・・に係る消費税」というのは、700円を意味します。

そうすると次に問題になるのが、

免税事業者が負担していた消費税額も払えないような〔事業者Aから事業者Bへの〕価格」

とは、どのような価格なのか、です。

この意味について、上の例で考えてみると、免税事業者(売手A)が負担していた消費税額は700円ですから、700円すら払えない価格、という意味になります。

前述の例では、事業者A(売手)は事業者B(買手)に対して、1万1000円(税込)で販売しています。

事業者A(売手)の利益は、1万1000円ー7700円=3300円ですから、このままであれば、事業者A(売手)は700円を優に支払うことができるでしょう。

これが、インボイス制度導入後も事業者AB間で同じ売買金額(1万1000円)なら、何の問題もありません。

では、どういう場合に問題か、というと、前述のとおり、「免税事業者が負担していた消費税額も払えないような〔事業者Aから事業者Bへの〕価格」だと問題なので、事業者Aに最低700円(事業者Aが毛糸の仕入にあたって負担していた消費税額)のマージンさえ与えれば問題ないことになります。

つまり、7700円で原材料(毛糸)を仕入れた事業者Aに700円のマージンを乗せて、8400円で事業者Bは買ってあげればいい、ということになりそうです。

というのは、優越的地位の濫用ガイドライン第3の3⑸アでは、

「ア 取引の対価の一方的決定

(ア) 取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,一方的に,著しく低い対価又は著しく高い対価での取引を要請する場合であって,当該取引の相手方が,今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となる(注25)。

この判断に当たっては,対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法のほか,他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか,取引の相手方の仕入価格を下回るものであるかどうか,通常の購入価格又は販売価格との乖離の状況,取引の対象となる商品又は役務の需給関係等を勘案して総合的に判断する。」

と規定されており、十分な協議などのふわっとした手続の問題はさておくと、金額的なものでは、

「取引の相手方の仕入価格を下回るものであるかどうか」

を考慮すると明言しており、仕入価格を下回らなければいちおう大丈夫、といえなくもないからです。

なので、優越ガイドラインを直に適用すると「取引の相手方の仕入価格」(=7700円)を下回らなければいいのだけれど、それではインボイス制度導入にあたって変化が大きすぎることもあるかもしれないし(ただし経過措置があります)、芸がないので、よくわからないけれど、売手が負担した消費税分(700円)については上乗せしてあげようね、という(屁)理屈です。

まあ、免税事業者Aは、ほんらい、課税事業者になれば、(消費税を支払わなければならなくなるものの)仕入税額控除が受けられるので、仮に事業者Bが7700円でしか買ってくれなくても、

課税売上げに係る消費税額(売上税額)が(Bへの売上に対する消費税額相当額の)700円

で、

課税仕入れ等に係る消費税額(仕入税額)が700円

なので、差し引きゼロとなるので、消費税の持ち出しになることはありません。

しかし実は、免税事業者A(売手)が免税事業者のままでいても(それが設問の前提です)、免税事業者A(売手)は免税事業者なので、そもそも消費税を支払わなくていいわけですから、仕入税額相当額を補填してあげる必要もないはずです。

もし、免税事業者A(売手)が仕入税額相当額の補填を受けられるなら、その補填を受けた分を消費税として納めるのが筋でしょう。

それを、消費税として納めずに済むのは、まさに免税事業者Aが免税事業者だからです。

なので、実質的に仕入税額相当額を補填してあげなさいよという上記Q&Aは、独禁法を梃子にして、益税を温存させているのにほかならない、ということです。

これが独禁法の解釈として正しいのかというと、私は間違っていると思いますし、優越ガイドライン(仕入価格基準)と別異の扱いをする実質的な理由もないと思います。

でも、上記Q&Aはいちおう公取委の公式回答ですから、これを守ろうという買手は、売手に、「おたくの仕入税額はいくらですか」と聞いて、交渉することになるのでしょう。

なお、上記Q&Aの最後に、事業者B(買手)の求めに応じて免税事業者A(売手)が課税事業者になった場合について、

「また、取引上優越した地位にある事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、

その際、仕入先が納税義務を負うこととる消費税分を勘案した取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、

著しく低い取引価格を設定した場合についても

同様です。」

と規定されています。

ここで、「取引価格の交渉が形式的なものにすぎず」という手続面と、「著しく低い取引価格を設定した」という取引内容面が、または、なのか、かつ、なのかはあいまいですが、きっと両方のバランスなので、実務的には「著しく低い取引価格」とは何なのかがやはり気になるところですが、ともあれ、「同様です」ということなので、この場合も結論としては、

「免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。」

ということなのでしょう。

ただし、この最後の部分では、免税事業者A(売手)は課税事業者になっていますので、仕入税額(700円)の控除が受けられますから、事業者B(買手)への販売価格が7700円(売上税額は700円)であれば、消費税額は差し引きゼロとなり、事業者A(売手)が「負担していた消費税額も払えない」ということは起こりません。

したがって、免税事業者A(売手)が課税事業者になった場合には、事業者B(買手)は、Aの仕入税額相当額を補填する必要はない、ということになります。

(さすがにマージンゼロは商売としてまずいので、適切な利益は乗せてあげるべきと思いますが、適切な利益を考慮しない優越ガイドラインの考えに従った場合のQ&Aの理屈はこういうことになると思います。)

次に、事業者B(買手)が免税事業者A(売手)に、課税事業者になってインボイスの登録事業者にもなってくれ、とお願いすることについては、Q&Aの続き(Q&Aの最後)に、

「6 登録事業者となるような慫慂等

課税事業者が、インボイスに対応するために、取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請することがあります。このような要請を行うこと自体は、独占禁止法上問題となるものではありません。

しかし、課税事業者になるよう要請することにとどまらず、課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、

それにも応じなければ取引を打ち切ることにする

などと一方的に通告することは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがあります。

例えば、免税事業者が取引価格の維持を求めたにもかかわらず、

取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答することなく、取引価格を引き下げる場合は、これに該当します。

また、免税事業者が、当該要請に応じて課税事業者となるに際し、例えば、消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置く場合についても同様です(上記1、5等参照)。

したがって、取引先の免税事業者との間で、取引価格等について再交渉する場合には、免税事業者と十分に協議を行っていただき、仕入側の事業者の都合のみで低い価格を設定する等しないよう、注意する必要があります。」

と規定されています。

ここで言っているのは、要は、

「取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答することなく、取引価格を引き下げる場合」

は優越的地位の濫用に該当する、ということです。

このように理由を書面で説明しろというのは、2022(令和4)年1月26日に改正された下請法運用基準第4の5(2)で、

「⑵ 次のような方法で下請代金の額を定めることは,買いたたきに該当するおそれがある。

エ 労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストが上昇したため,下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず,価格転嫁をしない理由を書面,電子メール等で下請事業者に回答することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。」

とされたのを彷彿とさせます。

(順番としては本Q&Aのほうが先みたいですが。)

この下請法運用基準は下請法の解釈を誤っていることは以前書いたとおり(下請法の条文をどう読んでもそんな要件は出てこない)ですが、同様の批判が上記Q&Aにもあてはまります。

ただ、優越は下請法としがってもやっとしてる(公取委のやりたい放題)なので、そういう意味では、ていねいな手続の一環と言うことで、こういう解釈もあるのかもしれません。

でも、下請法の場合の原材料高騰についてはていねいに理由を説明することにもそれなりに意味はあると思いますが、インボイス制度導入に伴い価格を引き下げる理由なんて、事業者B(買手)にしてみたら、仕入税額控除ができないからに決まっているわけで、書面で説明することにどれだけの意味があるのか、よくわかりません。

こういう、よくわからない要件を義務付けると、企業が、形だけ整えておけば良いのね、と思ってしまい、むしろ逆効果ではないかという気がします。

ともあれ、公取委が公式回答で、

「取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答

すれば良いと言っている(とまでは断定できませんが、言っているのも同然でしょう)ので、理由を書面等で説明されたらよいかと思います。

続いて、

「また、免税事業者が、当該要請に応じて課税事業者となるに際し、

例えば、消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、

価格の交渉の場において明示的に協議することなく、

従来どおりに取引価格を据え置く場合についても同様です(上記1、5等参照)。」

という部分ですが、これは、免税事業者A(売手)が、自分は免税事業者なのでいままで消費税分をもらっていなかった、と思っている、という場合ですね。

例えば、ぬいぐるみを、税込なら1万1000円で販売するところ、「自分(事業者A)は免税事業者なので、1万円で販売しよう(消費税を取るなんてとんでもない)」と考えて1万円で販売していた場合です。

こういう、正直に益税を放棄する(?)免税事業者が世の中にどれだけいるのか(また法的にそもそもそんな「放棄」は論理的に不可能ではないか)などいろいろ考え出すときりがないのですが、言っていることはそういうことでしょう。

そういう正直な免税事業者は、事業者B(買手)の要請に応じて課税事業者となるなら当然消費税分は上乗せしたいと考えるわけで、そういう事業者B(買手)が、「課税事業者になりますけど、そうしたら、消費税分価格を上げて下さいね」と言ってきたら、事業者B(買手)としては、「消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議」しましょう、ということです。

ですが、これも考えてみるとおかしな話で、主観的に免税事業者A(売手)がどう考えようと、法的には、事業者Aは益税を獲得していたわけです。(それがいやなら課税事業者になればよかった。)

なので、ほんらいは、課税事業者になったあとに価格を据え置いても、それは単に(課税事業者になることにより)益税を吐き出させるだけなので、何も不当ではないと思います。

とはいえ、世の中には、「自分は免税事業者なので消費税分安く売ろう」という免税事業者や、取引先に「免税事業者なので消費税分安くしときます」(←消費税転嫁法上がまだ生きていたら問題になりそうですね)という営業トークを使っていた免税事業者もいるかもしれず、そういう免税事業者の主観的期待も保護してあげないと酷だ、という判断なのでしょう(私は酷でもなんでもないと思いますが)。

なお、以上のQ&Aはそのタイトルが示すように、免税事業者との取引で問題になる独禁法や下請法の問題をあつかっていますが、取引先である事業者A(売手)が課税事業者である場合には、そもそも益税の保護の問題も生じませんし、適格請求書発行事業者の登録なんてe-Taxでささっとできますから(あとは請求書の発行が少し面倒になるという事務負担くらい)、もし仕入先の事業者A(売手)が課税事業者であるにもかかわらず適格請求書発行事業者の登録を拒む場合には、それを理由に事業者B(買手)が取引を打ち切っても、独禁法上は問題ないと考えます。

2022年7月21日 (木)

アフィリエイト広告が広告主の広告とはみなされない場合(「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」注7)

2022年6月29日に改正された「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」の注7では、

「アフィリエイターが自らのアフィリエイトサイトに単にアフィリエイトプログラムを利用した広告を行う事業者のウェブサイトのURLを添付するだけなど、当該事業者の商品・サービスの内容や取引条件についての詳細な表示を行わないようなアフィリエイトプログラムを利用した広告については、通常、不当表示等が発生することはないと考えられる。

また、アフィリエイターの表示であっても、広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるものについては、通常、広告主が表示内容の決定に関与したとされることはないと考えられる。」

と定められています。

後半部分は、アフィリエイト広告が広告主の広告ではないと認められる場合(広告主が表示内容の決定に関与していないと認められる場合)について述べているわけですが、「当該表示にかかる情報のやりとり」というのは、具体的にはどのように理解すればいいのでしょうか。

ここで、「当該表示」というのは、その直前の「アフィリエイターの表示」を指します。

要するにアフィリエイト広告のことなのですが、アフィリエイト「広告」といってしまうと広告主の広告であるという意味が込められてしまうので、アフィリエイターの「表示」といっているのでしょう。

では、「当該表示に係る情報」とは、具体的には何でしょうか。

素直に読めば、「当該表示に係る情報」とは、「アフィリエイターの表示に係る情報」です。

広告対象商品に関する情報(性能やスペック、アピールポイントなど)は、文言上、当然には「アフィリエイターの表示に係る情報」に該当しなさそうに見えますが、そこはあまり細かいことは言わず、広告対象商品に関する情報も、「当該表示に係る情報」であると読むのでしょう。

というのは、(結論先取り感のある理屈ですが)広告対象商品に関する情報を広告主がアフィリエイターに提供している場合には、広告主がアフィリエイターの表示を自己の広告とみなしているといえますし、「このような内容の商品として広告してね」というのでも十分、「広告主が表示内容の決定に関与した」といえるからです。

もし、広告対象商品自体に関する情報は「当該表示に係る情報」に含まれず、「当該表示に係る情報」は広告対象商品自体に関する情報を超えた情報(例えば具体的な広告文言とか、どの競合商品と比較しろとか、この点をアピールしろとかいった指示)に限るとすると、アフィリエイト広告が広告主の広告になる範囲が狭くなりすぎます。

それに、普通の広告の場合に広告主が商品内容だけを広告代理店に伝えて広告代理店が広告内容を考えるようなケース(が実際にあるかどうかは分かりませんが)がもしあれば、問題なく広告主の広告でしょうから、広告主からアフィリエイターに伝えられるのも商品自体に関する情報だけで十分でしょう。

次に、「当該表示に係る情報のやり取り」というように、「やり取り」記されているので、「当該表示に係る情報」が広告主からアフィリエイターに伝達されることはもちろん、「当該表示に係る情報」がアフィリエイターから広告主に伝達される場合も含まれるでしょう。

(なお、「広告主とアフィリエイターとの間で」とされていますが、やり取りは広告主とアフィリエイターとの間で直接なされる必要はなく、現実的には、間に入るアフィリエイトサービスプロバイダーを通じてなされるのでしょう。)

そして、「広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていない」ことが必要なので、広告主からアフィリエイターへの情報の伝達がなくても、アフィリエイターから広告主への情報の伝達があれば、広告主の広告だ、ということになりそうです。

ということは、広告主はアフィリエイターからアフィリエイト広告の内容の報告を受けてはいけない(受けていると広告主の広告になってしまう)、ということになります。

では、広告主が広告内容を一切アフィリエイターに丸投げし、事後チェックもしないのがベストなのか、というと、必ずしもそうとはいえません。

というのは、指針のパブコメで、

「『また、アフィリエイターの表示であっても、広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にある者については、通常、広告主が表示内容の決定に関与したとされることはないと考えられる』

と記載されているが、

これでは、アフィリエイターに表示内容を丸投げすれば広告主に責任は生じないと読めるのではないか。

しかし、これは「他の事業者に表示内容の決定を委ねた事業者も『表示内容の決定に関与した事業者』に当たる」とする(注6)に挙げている東京高裁ベイクルーズ事件判決に反している。

したがって、この文は削除すべきではないか。

たとえ広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていなくても、広告主がアフィリエイターに表示内容の決定を委ねている以上、アフィリエイターの表示は広告主の表示となると考える。」

という、至極まっとうなコメントがなされており、これに対して消費者庁が、

「御指摘のように、広告主が「アフィリエイターやアフィリエイトプロバイダに表示内容を丸投げ」した場合は、

本留意事項「(注7)」に記載した

「アフィリエイターの表示であっても、広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるもの」

には当たりません。」

と回答しているからです。

つまり、丸投げは広告だ、ということです。

消費者庁の理屈を想像すると、「丸投げ」は、表示内容の決定を「委ねている」に該当するのだ、ということなのでしょう。

「丸」投げかどうかはどうでもよくて、「投げ」ていることが、「委ねている」ということなのでしょう。

それに、注7を細かく見ると、

「アフィリエイターの表示であっても、広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど

アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるものについては、

通常、広告主が表示内容の決定に関与したとされることはない」

とされており、情報のやり取りが一切行われていないことはあくまで例示であり、要は、「広告とは認められない実態」があるかどうかが決め手だ、ということがわかります。

しかしそうだとすると、「情報のやり取りが一切行われていない」場合でも、「丸投げ」していれば、結局広告主の広告だということになり、あえて「情報のやり取り」云々に言及する注7の後半は不要なのではないか(あるいは、文字どおり解釈することはできないのではないか)という疑義が生まれ、理屈としては寄せられたコメントのほうが正しいと思います。

つまり、正しくは、

「広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていない」

という部分は、

「広告主がアフィリエイターに広告内容の決定を委ねておらず、かつ、広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていない」

と補って読むべきなのでしょう。

でもそうすると、情報のやり取り云々に関する部分は何も意味がないようにも思えますが、これは、情報のやり取りがまったくない場合には委ねていないという反論の余地を認めたのだ(委ねていないかどうかはケースバイケースで判断)、と考えるべきでしょう。

これに対して、情報のやり取りを行っている場合には、「委ねていない」とはいえないでしょう。

そのようなルールで広告主が救われるアフィリエイトプログラムがどれだけ世の中にあるのかはわかりませんが、消費者庁があえてこういうルールを導入した背景には、きっと、広告主が救われるべきアフィリエイトプログラムが世の中に存在する、という認識にもとづいてのことなのでしょう。

ちなみに、改正指針では、「広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていない」といっているだけで、やり取りの時期については限定していません。

この点、広告掲示前に情報のやり取りがあれば(ふつうのアフィリエイトではあるでしょう)、広告主の広告になる方向にはたらくのは明らかです。

では、広告掲示後に情報のやり取りがあるだけのときは、広告主の広告であることは否定されるのでしょうか。

私は否定されないと思います。

まず、改正指針に、やり取りが「一切」行われていない、と書かれており、やり取りの時期に限定はありません。

それに、情報のやり取りは広告内容決定の委託の存在を基礎付ける間接事実というべきで、そうだとすると、広告掲載後のやりとりでも、(広告主による事後チェックなどもありえますから)内容の決定を委ねたことの間接事実となってよさそうだからです。

事後的な事情が広告該当性に影響しうることはパブコメにも出ていて、

「インターネット留意事項の(注7)の第2文の以下の記載、すなわち、

「また、アフィリエイターの表示であっても、広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるものについては、通常、広告主が表示内容の決定に関与したとされることはないと考えられる。」

の後に以下の記述を追加するべき。

「なお、このような場合であっても、アフィリエイターが消費者を誤認させる内容の表示をしていることを広告主が認知しているにもかかわらず、あえて放置しているような場合は、広告主が、アフィリエイターに対しそのような表示を行うことを委ねていると評価され、表示内容の決定に関与しているとされることがあることに注意する必要がある。」

アフィリエイターが表示を開始した段階で、広告主とアフィリエイターとの間で表示に係る情報のやりとりが行われていなかった場合であっても、広告主が当該問題のある表示を認知し、その後も何ら是正のための対応をとらず、当該表示を自らの商品販売に利用していた場合は、広告主の表示に対する責任を問うべき場合があると考えられるため。」

というコメントに対して、

「御指摘の点は、個別事案ごとの景品表示法上の表示主体についての解釈についてのお尋ねであり、個別の取引実態に応じて判断されるものであることから、お答えすることは困難であると考えております。」

と回答されています。

これは、広告主が事後的に認知した場合でも「委ねている」と評価される場合があることを否定しない趣旨であると考えられます。

でもそうすると、決定を委ねたつもりのない広告主が、自社商品について不当表示のアフィリエイト表示がなされていることに気づいて、そのアフィリエイターに事実関係を問い合わせると、かえって広告主の広告になってしまう、ということになりかねません。

しかしそれは改正指針の文言を杓子定規にとらえた屁理屈と言うべきで、そのような推認はすべきではないのでしょう。

このように、注7の後段は、よく考えてみると論理的には不明な事が多く、きっと読む人が読めば「あ、自分のことだ!」と思うのだろう、という謎に満ちた内容になっているように思います。

消費者庁は、何かの機会に、いったい注7の後段はどのようなケースを想定しているのか、きちんと説明した方がよいと思います。

2022年7月20日 (水)

スシローのおとり広告について

2022年6月9日、あきんどスシローがおとり広告で措置命令を受けました

この事件は、オーソドックスなおとり広告告示1号だけではなく、4号違反も成立していて、1号と4号の関係について興味深い論点を提供しているように思われるので検討してみます。

おとり広告告示1号と4号では、

「一 取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は役務についての表示」

「四 取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその商品又は役務についての表示」

が不当表示とされています。

「取引の申出に係る商品又は役務」を、わかりやすく、「おとり商品」といい、余分な部分を端折って違反要件を切り出すと、

一 おとり商品について・・・取引に応じることができない場合

四 おとり商品について・・・取引する意思がない場合

ということになります。

つまり、

1号が、取引できない(取引能力がない)場合

4号が、取引意思がない場合

ということになります。

(意思,能力)の、有り無しで分けると、

(意思、能力)=

(○,○),

(○,×),

(×,○),

(×,×),

の4パターンになります。

取引能力も意思もある場合((○,○))には、他の号を無視すれば違反にはならないので問題なし、です。

取引意思はあるけれど能力がない場合((○,×))は、1号にあたります。

取引意思はないけれど取引能力はある場合((×,○))は、4号になります。

では、取引意思も取引能力もない場合((×,×))は、どちらにあたるのでしょう?

これは、取引に応じることができない場合(1号)としてしまっていいと思います。

告示の規定上、1号(取引に応じることができない場合)が先に来ていますし、これがおとり広告の典型例ですし、取引に応じることができない場合は取引の意思も通常ないでしょうから(×,×)の場合を1号から除くのも不自然だからです。

逆に言うと、取引意思も能力もない場合に1号と4号の重畳適用とかをする必要はない(1号だけでいい)、ということです。

さて、スシロー事件では、3つのキャンペーンにおける3つの料理が問題になっています。

1つめのキャンペーンの期間は2021年9月8日~20日で、足りなくなった料理は「新物!濃厚うに包み」(以下「うに包み①」)です。

うに包み①については、スシローは、足りなくなることがわかり、9月13日に、同月14~17日の提供停止を決定しています。

措置命令の別表1-1を見ると、丸1日まったく提供していない日は、最も早くて9月14日、最も遅くて17日(9月14日~17日)です。

2つめのキャンペーンの期間は9月8日~10月3日で、足りなくなった料理は「とやま鮨し人考案新物うに 鮨し人流3種盛り」(以下「うに3種盛り②」)です。

うに3種盛り②についても、スシローは、9月13日に、18~20日の提供停止を決定しています。

別表1-2をみると、丸1日まったく提供していない日は、最も早くて9月18、最も遅くて9月20日(9月18日~20日)です。

最後に、3つめのキャンペーンの期間は2021年11月26日~12月12日で、足りなくなった料理は「冬の味覚!豪華かにづくし」(以下「かにづくし③」)です。

かにづくし③については、本部による停止決定はなく、別表1-3をみると、一番早い店で11月26日(つまりキャンペーン初日! 380番の歌島店等)から、一番遅い店(というよりほとんど全ての店)で、キャンペーン最終日である12月12日まで、提供をしていません。

そして、措置命令では、うに包み①とうに3種盛り②については、告示4号(合理的理由がないのに実際には取引する意思がない場合)に該当するとされ、かにづくし③については、1号(取引を行うための準備がなされていない場合)に該当するとされています。

ここで、かにづくし③が1号(取引を行うための準備がなされていない場合)にあたるとされ、違反期間はそれぞれの店舗で実際に提供をできなかった日であることについては、とくに問題はないでしょう。

これに対して、うに包み①とうに3種盛り②については、本部が提供中止を指示した9月18日~20日の3日間なのか、それとも、各店舗ごとに実際に取引をしていなかった日なのかは、やや問題です。

この点については、本部で中止を指示しているとはいえ、実際には店舗で提供している以上(つまり、本部の指示が徹底されていなかった)、実際には取引する意思がないとまではいえます、実際に提供している店舗については4号には該当しないというべきでしょう。

なお、うに包み①とうに3種盛り②については、1号が認定されていないということは、本部が中断を指示した期間よりもあとは、ちゃんと提供されていたのだとうかがえます。

というのは、もし中止指示により中止をしていた期間のあとにも提供されていなかったとしたら、1号(取引を行うための準備がなされていない場合)に該当したはずだからです。

もし、消費者庁が、中止指示のあとにも提供できていない日があったのに1号を適用せず、本部が中止を決定した事実に引きずられて4号を適用してしまって、指示による中止期間後の不提供を不問に付していたとしたら問題でしょう(きっとそのようなことはないと思いますが)。

とすると、スシロー、うには4日間または3日間の中断だけで、よく再開にこぎ着けたなぁ、とむしろ感心します。

本件で問題なのは、うに包み①について、9月13日に、14~17日の提供停止を決定しているにもかかわらず、広告は、ウェブサイトで9月14日から同月20日まで、テレビCMは9月8日から20日まで、そのまま行われていることです。

うに包み①の中断は4日間だけなので、テレビCMを中断するまでの判断には至らなかったのかもしれません(前の日のCMをみて翌日来店する人もいるでしょうから、提供中断期間だけCMを止めればいいというものでもないでしょう)。

これに対して、うに3種盛り②は、9月13日に、18~20日の提供停止を決定しているのに合わせてなのか、ウェブサイトでの表示期間は9月8日~17日と認定されており、提供停止期間中の宣伝はされていません。

でも、消極的にウェブサイトでの広告をやめたというだけではやっぱりだめで、積極的に中断を告知しないといけないんでしょうね。

では具体的にどう告知すればいいかというと大問題で、テレビCMまでやってると、それをみてお店まで来てしまう人はいるでしょうから、各店舗で「売り切れ」みたいな掲示を出すだけではだめでしょうね。

どの店舗で売り切れなのかを毎日CMで告知するのも非現実的かつ効果が薄そうで、たぶん、どうしようもないのでしょう。

かにづくし③については、そもそも提供中止決定はされていませんが、事実上の提供中止(≒売り切れ)後も、ウェブサイトで、2021年11月24日から同年12月12日までの間、テレビCMで11月26~12月12日までの間、広告をしています。

ちなみに、スシローの広告では「売切御免」とも表示されていましたが、措置命令では一切考慮されていません。

この点に関しては、告示2号の、

「二 取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示」

について、運用基準に、

「2-(3) 複数の店舗で販売する旨を申し出る場合について

単一の事業者が同一の広告、ビラ等においてその事業者の複数の店舗で販売する旨を申し出る場合においては、原則として、各店舗毎の販売数量が明記されている必要がある。

広告スペース等の事情により、各店舗毎の販売数量を明記することが困難な場合には、当該広告、ビラ等に記載された全店舗での総販売数量に併せて、店舗により販売数量が異なる旨及び全店舗のうち最も販売数量が少ない店舗における販売数量の表示が必要である。

なお、・・・広告した商品又は役務の取引を行わない店舗がある場合には、その店舗名が記載されている必要があり、記載されていない場合には、当該店舗において広告商品等について取引を行うための準備がなされていない場合(告示第1号)に当たる。」

と規定されており、本件でも、「複数の店舗で販売する旨を申し出る場合」である以上、1号(供給不能)または4号(供給意思なし)の事件であるとはいえ、「各店舗毎の販売数量が明記されている必要」があったのではないか、という疑問がないではありませんが、本件のようなキャンペーンで店舗ごとの販売数量を明記するというのは非現実的ですし、措置命令もそこまでは求めていません。

ということは、消費者庁は運用基準第2の2ー(3)の上記規定は1号の場合には適用しないという解釈なのでしょう。

節の通し番号も「2-(3)」となっていて、2号を想定したものであることがうかがわれます(私は文言で解釈すべきで、項の番号とかで立案者の意図を忖度するのには反対ですが)。

さらに、告示3号では、

「三 取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示」

が告示違反とされ、運用基準では、

「3 告示第3号の限定の内容が「明瞭に記載されていない場合」について

供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量の限定については、実際の販売日、販売時間等の販売期間、販売の相手方又は顧客一人当たりの販売数量が当該広告、ビラ等に明瞭に記載されていなければならず、これらについて限定されている旨のみが記載されているだけでは、限定の内容が明瞭に記載されているとはいえない。」

とされています。

本件ではこれら(「供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量」)が限定されていたわけではない(少なくともスシローには限定する意図はなかった)ので3号は適用されないという理屈なのだと思います。

つまり、「取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量が限定されている」というのは、客観的に限定されていることではなく(もし客観的に限定されている場合を含むと、スシローの事件も限定されていることになってしまいます)、事業者の意図ないし計画として限定している場合、という意味なのでしょう。

ともあれ、もし3号の事件であれば、「実際の販売日、販売時間等の販売期間、販売の相手方又は顧客一人当たりの販売数量」が明瞭に記載されていなければならず、これらについて限定されている旨のみが記載されているだけでは足りない、ということです。

これとのバランス上、1号の事件でも、「売切御免」というだけではだめなのでしょう。

ですが、ほんとうに悪意のあるおとり広告の場合にはこれでもいいのでしょうけれど、蓋を開けてみたら予想外に好評だった、というような、「善意の売り切れ」の場合には、なかなか厳しいものがあります。

というのは、善意の売り切れの場合には、「顧客一人当たりの供給量」なんてそもそも想定しようもない(あるいは限定するつもりもない)ですから、書きようがないからです。

1号の場合も、基本的には同じでしょう。

こういう、善意の売り切れの場合に備えてか、運用基準第2の「1-(1)」では、「 告示第1号の「取引を行うための準備がなされていない場合」について」として、

「〔「取引を行うための準備がなされていない場合」〕において、

〔①〕それが当該事業者の責に帰すべき事由以外によるものと認められ、かつ、

〔②〕広告商品等の取引を申し込んだ顧客に対して、広告、ビラ等において申し出た取引条件で取引する旨を告知するとともに

〔③〕希望する顧客に対しては遅滞なく取引に応じているとき

には、不当表示には当たらないものとして取り扱う。」

という安全弁が設けられています。

合理的な計画を立てていたのに売り切れてしまったという場合には①の「責に帰すべき事由」がないとしても(これでありとされたら、震災とかだけに適用されることになり、この安全弁は適用の余地がほとんどなくなります)、回転寿司を食べに来ている人に遅滞なく(数日後?)取引に応じても、それで違反にならないかというと、ちょっと疑問ですね。

つまり、回転寿司みたいに、その場ですぐ消費して満足を得る類いの商品役務の場合には、「遅滞なく取引に応じる」ことにして告示違反を免れようとするのは、ちょっと難しい気がします。

2022年7月 3日 (日)

「(令和4年6月30日) 株式会社サイネックス及び株式会社スマートバリューから申請があった確約計画の認定等について」について

掲題の確約認定が6月30日に公表されました

この事件については以前もこのブログで書きましたが、私はこの確約認定には大きな問題があると考えています。

違反被疑行為の概要は、

「2社は、平成31年2月頃以降、

自らのホームページをリニューアルする業務(以下「本件業務」という。)の発注を検討している市町村及び特別区(以下「市町村等」という。)に対して

それぞれが行う受注に向けた営業活動において、

当該市町村等が本件業務の仕様において定める、ホームページの管理を行うために導入するコンテンツ管理システム(以下「CMS」という。)(注3)について、

2社によって作成された、

オープンソースソフトウェア(注4)ではないCMSとすることが当該ホームページの情報セキュリティ対策上必須である旨を記載した仕様書等の案を、

自らだけではCMSに係る仕様を設定することが困難な市町村等に配付するなどして、

オープンソースソフトウェアのCMSを取り扱う事業者が本件業務の受注競争に参加することを困難にさせる要件を盛り込むよう働き掛けている。」

ということですが、問題の箇所は、「違反被疑行為による影響等」の

「オープンソースソフトウェアについては、ソースコードが公開されている点で、脆弱性が発見されやすく第三者からの攻撃の標的になりやすいとの指摘がある。

しかしながら、オープンソースソフトウェアではないソフトウェアについても、脆弱性が存在している場合はある。

このため、情報システムにおける情報セキュリティ上の問題への対応においては、使用するソフトウェアがオープンソースソフトウェアであるか否かにかかわらず、適切に管理されたソフトウェアを使用して情報システムを構築すること及び構築後、使用するソフトウェアを最新版にアップデートしておくこと等の脆弱性を解消する運用・保守が欠かせないものである。

したがって、市町村等において導入されるCMSを、情報セキュリティ対策からオープンソースソフトウェアではないCMSとしなければならない理由はないものと考えられる。」

という部分です。

まず、

「オープンソースソフトウェアについては、ソースコードが公開されている点で、脆弱性が発見されやすく第三者からの攻撃の標的になりやすいとの指摘がある。」

ということは公取委自身が認めています。

「指摘がある」というだけで、実際に「第三者からの攻撃の標的になりやすい」とまでは認めていない、とも読む人もいるかも知れませんが、もし、

「オープンソースソフトウェアについては、ソースコードが公開されている点で、脆弱性が発見されやすく第三者からの攻撃の標的になりやすい」

ということ自体を公取委が否定するなら、当然、そのように否定すべきなので、「指摘がある」とだけ言い放って何ら否定しないということは、オープンソースソフトウェアが攻撃の標的になりやすいことは、公取委自身が認めていると読むのが自然です。

つまり、確約を受け入れる以上、公取委も、オープンソースソフトウェアの脆弱性については当然入念に調べたはずですから、それでも、オープンソースソフトウェアの脆弱性を否定することはできなかった、というべきでしょう。

しかし、理屈の上で一番問題なのは、次の、

「しかしながら、オープンソースソフトウェアではないソフトウェアについても、脆弱性が存在している場合はある。」

という点です。

これを理由に独禁法違反とされてしまうのでは、オープンソースソフトウェアではないソフトウェアについては、脆弱性が一切ない完全無欠のソフトウェアでなければならないということになってしまいます。

公取委は、違反でないために違反者が満たすべきハードルをめちゃくちゃ高く設定して「違反だ」と認定することがよくありますが、これはその最たるものです。

そうではなくて、違反となるかどうかの境目は、オープンソースソフトウェアとそうでないソフトウェアで、脆弱性に有意な差があるかどうか、でしょう。

もし脆弱性に有意な差があるなら、オープンでないソフトウェアを提供する事業者が、オープンでないソフトウェアを仕様に盛り込む(必須とする)よう働きかけたとしても、競争上何も問題はないはずです。

その次の、

「このため、情報システムにおける情報セキュリティ上の問題への対応においては、

使用するソフトウェアがオープンソースソフトウェアであるか否かにかかわらず、

適切に管理されたソフトウェアを使用して情報システムを構築すること

及び構築後、使用するソフトウェアを最新版にアップデートしておくこと等

の脆弱性を解消する運用・保守が欠かせないものである。」

というのも、脆弱性の程度の差を一切無視して、とにかくオープンでもクローズでも脆弱性は(程度の差はともかく)あるのだから、「脆弱性を解消する運用・保守が欠かせない」と言っているだけであり、ここからクローズを仕様に盛り込むことを取引妨害とするのはあまりに乱暴です。

公取委の理屈だと、たとえば、オープンなら1年に1回くらい攻撃を受けそうな脆弱性があり、クローズなら10年に1回くらい攻撃を受けそうな脆弱性がある場合であっても、どちらも脆弱性があることには変わりは無く、「脆弱性を解消する運用・保守が欠かせない」のだから、自治体がクローズであることを入札仕様に盛り込んではいけない、ということになってしまいます。

こんなばかなことがあるでしょうか?

毎年サイバー攻撃を受けるのは嫌だなあと思って、クローズを仕様書に盛り込む自治体がいても、何らおかしくないと思いますし、それを否定するのは競争の否定でしょう。

次の、

「したがって、市町村等において導入されるCMSを、情報セキュリティ対策からオープンソースソフトウェアではないCMSとしなければならない理由はないものと考えられる。」

というのも大きな問題です。

というのは、本件で独禁法違反になるかどうか(競争がゆがめられたかどうか)の境目は、

「情報セキュリティ対策からオープンソースソフトウェアではないCMSとしなければならない

かどうかではなく、

情報セキュリティ対策からオープンソースソフトウェアではないCMSとしたほうがいい

かどうかだからだと考えられるからです。

違反被疑事実の概要では、

「自らだけではCMSに係る仕様を設定することが困難な市町村等に配付するなど」

したことが問題であるかのように書かれていますが、これも的外れです。

というのは、自治体が自らCMSの仕様書を書くことができない(ふつう、できないでしょう)としても、オープンソースを使う事業者が自治体に売り込みをかけて、仕様書案を書いてあげて、入札に参加できるようにすることは、なんら妨げられないからです。

ここでも、

「自らだけではCMSに係る仕様を設定することが困難な市町村」

に対しては自社の仕様を売り込むこと自体禁止するような、違反者にめちゃくちゃ高いハードルを課す公取の態度がでています。

もし問題になるとすれば、違反者が積極的に自治体をだましたか(パラマウントベッド事件のように)、自治体がオープンソフトの事業者から営業を受けても理解できないほど無能であったか、という場合でしょう。

でも、本件では積極的にだましたとは公表文からはうかがわれず、自治体がオープンの事業者から営業を受けても理解できないほど無能だったことも、公表文からはうかがわれません。

要は、高いセキュリティ(10年に1回のサイバー攻撃)だけれど高いほうを選ぶか、低いセキュリティ(1年に1回のサイバー攻撃)だけれど安い方を選ぶかは、需要者である自治体が決めればいい話で、そのためには、オープン陣営もクローズ陣営も自由に自治体に営業をかけられるようにすべきであって、一方的にクローズ陣営だけが自己の長所をアピールできないというのは、不公平だと思います。

さらに自治体の入札で問題なのは、いったん仕様が決まるとあとは価格だけで決まってしまい、品質による競争がはたらかないことです。

このように、この事件は、競争の本質(十分に情報を得た需要者による自主的な判断に基づく競争)を度外視して、とにかく自治体によるシステム管理費を下げさせるという政策目的のために独禁法が流用されたものであるといえます。

また、この事件は立入検査から7ヶ月ほどというきわめて短期間で確約が成立しています。

6月30日の日経新聞によれば、

「スマートバリューの担当者は「当初から法律に違反しているとの認識はなかったものの、今回このような指摘を受けて改善計画を提出した。今後も独禁法の概念に基づいて誠実に事業運営を行っていく」とコメントした。」

とのことですので、スマートバリューは、公取委から「指摘」を受ければそれは独禁法違反なのだ、という認識を持っていたことがうかがわれうます。

そうでなければ、これほど争いどころ満載の事件で、わずか7ヶ月で確約にはならないでしょう。

実際、日本の企業の大半は、公取から指摘を受けたら違反なのだ、と思うでしょう。

でも、こういう、無知な事業者につけ込むやり方というのは、競争法当局としてどうかと思います。

この事件は立入検査があったときからどういう結末になるのか注目していましたが、確約認定の内容自体から、公取委の理屈が独禁法の解釈を誤ったものであることが見て取れる、珍しい事案だったといえると思います(ふつうは、公表文からは、あらが見えないようにするものですが)。

2022年6月17日 (金)

食べログ判決について

アルゴリズムの変更が優越的地位の濫用にあたるとして食べログが敗訴した判決が6月16日、東京地裁ででたそうです。

まだ報道ベースで知り得る限りですが、チェーン店の点数を一律に下げる変更だった(それだけだったかはわかりませんが)ようです。

なぜそのような変更をしたのか、想像することも困難であり、このような不合理な変更をしたら、それは駄目だろうと思いました。

毎日新聞の記事によると、「ただ、営業秘密とするカカクコムの主張から、なぜチェーン店に不利なアルゴリズムの変更が行われたのか、判決は明示しなかった。」ということだそうで、やっぱりよくわかりません。)

原告が優越的地位の濫用だと主張したので判決もそれに沿って判断したということだと思いますが、これってそもそも、独禁法違反云々(「でんでん」ではなく「うんぬん」と読みます)を言う前に、たんなる債務不履行なのではないでしょうか。

少なくとも有料会員レストランとの関係では、公正な評価を表示するというのは、グルメサイトのようなプラットフォームとして当然の契約上の義務だと思います。

ですが、原告韓流村としても、何も議論の蓄積のない、プラットフォームによる不当評価と債務不履行という主張を掲げるより、公取委の実態調査などもあって、ある程度議論の蓄積のある優越的地位の濫用を使った、ということなのかもしれません。

たしかに、単に債務不履行というのと、優越的地位の濫用というのとでは、迫力が違いますし、本件では原告の戦略が成功したということでしょう。

しかも、独禁法違反(不公正な取引方法)では、差止も認められる、というメリットも見逃せません(なお本判決は、差止は認めていませんが、私はこれは大きな問題だと思っています。)。

ですが、本件はグルメサイトトップの食べログだから優越的地位が認められやすかったかも知れませんが、2位以下が同じことをしたらどうなるのでしょうか。

あるいは、日本で同規模のグルメサイトが5つあったら、どうでしょうか?

私は、そんな場合でも検索アルゴリズムやレビューは公正であるべきだ(競争を歪めるべきではない)と考えるので、独禁法違反に問えるべきでしょう。

あるいは、差別的取扱いなら、比較的小さなプラットフォームに対しても適用しやすいかもしれません。

ともあれ、この判決はアルゴリズムの変更と独禁法違反という論点について極めて重要な判決であることはまちがいありません。

しかも、チェーン店の点数を一律に下げるという、合理的な説明が困難なアルゴリズム変更であり、ある意味でとてもわかりやすい事件であったことは、将来の独禁法実務にとって、たいへん喜ばしいことだったと思います。

というのは、最初の事件で躓くと、どうしても、その後の判決でも原告の主張が認められにくくなるからです。

そういう意味で本件がイージーケースであったことは日本の独禁法にとって好ましいことでしたが、この判決をきっかけに、まちがいなく、より幅広い検索サービスのアルゴリズムの公正性が独禁法の俎上に上ることになるでしょう。

それから、この事件で私が言いたいのは、公取委は何をしていたのか、ということです。

(水面下で調査しているかもしれませんが。)

最近の公取委は、実態調査や、せいぜい確約ばかりで、正式な排除措置命令が極端に少ないですが(令和3年度の排除措置命令は歴代断トツの最下位のわずか3件!)、よっぽど暇なはずなのにこういう事件を取り上げないというのは、いったいどういうことでしょうか?

850人を超える職員を抱えているのに、このていたらくでは、公正取引委員会の存在意義が問われると思います。

公取委のみなさん、がんばってください。

2022年6月14日 (火)

仲間取引の禁止について

流通取引慣行ガイドラインでは、仲間取引の禁止(事業者が流通業者に対して,商品の横流しをしないよう指示すること)について、

「仲間取引の禁止は,取引の基本となる取引先の選定に制限を課すものであるから,

その制限の形態に照らして販売段階での競争制限に結び付く可能性があり,

これによって価格維持効果が生じる場合には,

不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項)。

なお,仲間取引の禁止が,下記(4)の安売り業者への販売禁止のために行われる場合には,

通常,価格競争を阻害するおそれがあり,

原則として不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項)。」

とされています。

では、「安売り業者への販売禁止のために行われる場合」以外で、仲間取引の禁止に価格維持効果が生じるのは、どのような場合なのでしょうか。

この点について、佐久間編著『流通・取引慣行ガイドライン』(浅葱本)に手がかりがないか見ると、同書p133では、

「ガイドライン上、特に明記していないが、仲間取引の禁止が「価格維持効果が生じる場合」に当たるかどうかは、ガイドライン第1部の3⑴及び⑵イで述べられた考え方に従って判断されることとなる。」

とされています。

そこで、ガイドラインの該当箇所を見ると、第1部の3⑴では、

「(1) 垂直的制限行為に係る適法・違法性判断基準についての考え方

 垂直的制限行為は,上記2のとおり,競争に様々な影響を及ぼすものであるが,公正な競争を阻害するおそれがある場合に,不公正な取引方法として禁止されることとなる。

垂直的制限行為に公正な競争を阻害するおそれがあるかどうかの判断に当たっては,

具体的行為や取引の対象・地域・態様等に応じて,

当該行為に係る取引及び

それ〔=当該行為〕により影響を受ける範囲

を検討した上で,の事項を総合的に考慮して判断することとなる。

 なお,この判断に当たっては,垂直的制限行為によって生じ得るブランド間競争やブランド内競争の減少・消滅といった競争を阻害する効果に加え,

競争を促進する効果(下記(3)参照)も考慮する。

また,競争を阻害する効果及び競争を促進する効果を考慮する際は,各取引段階における潜在的競争者への影響も踏まえる必要がある。

[1] ブランド間競争の状況(市場集中度,商品特性,製品差別化の程度,流通経路,新規参入の難易性等)

[2] ブランド内競争の状況(価格のバラツキの状況,当該商品を取り扱っている流通業者等の業態等)

[3] 垂直的制限行為を行う事業者の市場における地位(市場シェア,順位,ブランド力等)

[4] 垂直的制限行為の対象となる取引先事業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)

[5] 垂直的制限行為の対象となる取引先事業者の数及び市場における地位

 各事項の重要性は個別具体的な事例ごとに異なり,

垂直的制限行為を行う事業者の事業内容等に応じて,

各事項の内容も検討する必要がある。

例えば,プラットフォーム事業者が行う垂直的制限行為による競争への影響については,プラットフォーム事業者間の競争の状況や,ネットワーク効果(注3)等を踏まえたプラットフォーム事業者の市場における地位等を考慮する必要がある。」

とされ、⑵イでは、

「イ 価格維持効果が生じる場合

「価格維持効果が生じる場合」とは,非価格制限行為により,当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ

当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう。

「価格維持効果が生じる場合」に当たるかどうかは,上記(1)の適法・違法性判断基準の考え方に従って判断することになる。

例えば,市場が寡占的であったり,ブランドごとの製品差別化が進んでいて,ブランド間競争が十分に機能しにくい状況の下で,市場における有力な事業者によって厳格な地域制限(後記第2の3(3)参照)が行われると,当該ブランドの商品を巡る価格競争が阻害され,価格維持効果が生じることとなる。

また,この判断に当たっては,他の事業者の行動も考慮の対象となる。例えば,複数の事業者がそれぞれ並行的にこのような制限を行う場合には,一事業者のみが行う場合と比べ市場全体として価格維持効果が生じる可能性が高くなる。

なお,「価格維持効果が生じる場合」に当たるかどうかの判断において,非価格制限行為により,具体的に上記のような状態が発生することを要するものではない。」

とされています。

つまり、安売り業者への販売制限ではない仲間取引の禁止が違法となるためには、まず、

当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ

ることが必要であることがわかります。

では、仲間取引の禁止によって、「当該行為〔=仲間取引の禁止〕の相手方とその競争者間の競争が妨げられ」る場合というのは、どのような場合でしょうか。

まずここで、仲間取引の禁止は、主体を市場における有力な事業者に限っていないので、20%のセーフハーバーが厳密には適用されませんが、安売り業者への販売制限の場合を除き、シェアの低い事業者が行う仲間取引の禁止が価格維持効果を持つとはちょっと考えにくいので、事実上、20%以下の市場シェアで仲間取引の禁止が違法になる可能性は低いと考えて良いでしょう。

ガイドラインではセーフハーバーの適用範囲を第1部「第2の2(自己の競争者との取引等の制限)の各行為類型,同3(3)(厳格な地域制限)及び同7(抱き合わせ販売)」に限っていますが、杓子定規に過ぎます。

そして、ある程度シェアが高い場合を念頭に考えてみても、仲間取引の禁止だけによって「当該行為〔=仲間取引の禁止〕の相手方とその競争者間の競争が妨げられ」る場合というのは、安売り業者への販売を制限する場合を除いては、ちょっと考えにくいと思います。

(「だけ」と強調しているのは、再販拘束の実効性確保手段として行われる場合はあるからです。でも、再販の実効性確保手段として行われる取引拒絶が再販として判断されるのと同様に、再販の実効性確保手段として行われる仲間取引の禁止は再販として判断されるべきでしょう。)

このことを、

仲間取引の禁止をするメーカーを、M1

M1が取引する小売店を、R1

M1が取引していない小売店を、R2

M1の(仲間取引を禁止しない)競合メーカーを、M2

と置いて、考えてみましょう。

ここで、仲間取引の禁止とは、

「事業者が流通業者に対して,商品の横流しをしないよう指示すること」

ですので、上記の記号を使うと、仲間取引の禁止は、

「M1が、

R1に対して、M1の商品をR2に販売しないように指示すること」

と表せます。

さらに、価格維持効果とは、

非価格制限行為により,当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,

当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

と言い表すことができ、さらに前記の記号を使うと、

M1が、

R1に対して、M1の商品をR2に販売しないように指示することにより

R1とR2との間の競争が妨げられ

R1およびR2がその意思で価格をある程度自由に左右し,M1の商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

と表現できます。

しかし、本当にこのようなことが起こるのかというと、あまり起こらないように思います。

ここでは、

R1とR2との間の競争が妨げられ

ることが、価格維持効果の前提ですが、R1とR2間の競争が、

「M1が、

R1に対して、M1の商品をR2に販売しないように指示することにより

妨げられる、というようなことが起こるようには思えないのです。

なぜなら、R1がR2に販売することにより(仲間取引をすることにより)「R1とR2との間の競争」が促進される関係にあるのであれば、そもそもM1が仲間取引を許しても、R1がR2に販売することはないと考えられるからです。

もちろん、R1がR2に販売するかどうかは、

R2に対する売上増というプラス面と、

R2との競争による売上減というマイナス面の

両方を天秤にかけて判断することになるわけですが、通常の小売店で、前者のプラス面が大きいということは、考えにくいと思われます。

このように、仲間取引の禁止があってもなくてもR1はR2に売らないのであれば、仲間取引の禁止「により」R1とR2の競争が妨げられるということもないはずです。

もちろん理屈の上では、例えばR1とR2が異なる地理的市場に属せば、R1はR2に対する売上だけを享受できて、競争によるマイナスはない、ということもあり得ますが、現実の世の中では、R2が別の地理的市場でだけ売ってくれる保証はありません。

とはいえ、上述のように図式的に考えるクセを付けると、どういう場合に価格維持効果が生じやすいのかということが見えてくると思います。

そう考えると、仲間取引の禁止は、再販売価格拘束とセットでないと価格維持効果が生じないのが通常であり、仮に再販売価格拘束とセットであっても仲間取引の禁止だけから価格維持効果が生じるのは、メーカーが独占に近いような、かなり限定的な場合に限られるのではないかと思われます。

次に、

R1とR2との間の競争が妨げられ

るという場合に妨げられる競争というのがどのようなものなのかをもう少し具体的に考えてみましょう。

小売店間の競争はさまざまな側面で行われます。

典型的には、価格競争です。

ですが、ここでは、安売り業者(=価格競争力に優れた小売業者)への販売を制限するための仲間取引の禁止は考慮していませんので(考慮するまでもなく、原則違法とガイドラインに明記されているため)、無視します。

次に、立地競争です。

ですが、立地競争は、通常、すでにM1と取引のある小売店間で行われる競争でしょうから、仲間取引を禁止しなくても、小売店はM1から仕入れれば良いだけなので、逆に言えば、仲間取引を禁止したからといって小売店間の立地競争が制限されるということは、あまりなさそうです。

次に、サービス競争です。

これも、同じ理由で、仲間取引の禁止により制限される場面というのが想定しにくいです。

メーカーの立場からすれば、「あの小売店はサービス競争に優れているから、あの小売店にはこの商品は扱わせたくないな」と考える、ということが想定しにくい、ということです。

これが、価格競争と、非価格競争の大きな違いです。

メーカーは、価格競争を制限するインセンティブがあります。

(ただし、理論的には、メーカーにとって小売店のマージンはコストなので小売店による価格競争を禁止する(=コスト削減を禁止する)インセンティブがメーカーにはない、という経済学的な議論は可能なので、そのような議論があてはまるかは常にウォッチしないといけません。)

というのは、価格競争が激化すると、小売店からメーカーに対して、必ず、値下げ要求がなされるからです。

これに対して、小売店間の非価格競争(たとえば、「スマイル0円」みたいなサービス競争。)に対して、非価格競争に劣る小売店が、メーカーに対して、「あの店の『スマイル0円』はやめさせろ」といったクレームをいうということは、ちょっと想定しにくいと思います。

立地競争(地理的競争)にしても、あらかじめメーカーが小売店に対して排他的テリトリーを保証しているケースなら話は別ですが、そのような保証がないケースにおいて、既存の小売店が新規参入に直面して、メーカーに対して、「どうしてうちのテリトリーに出店させたのだ。やめさせろ」なんてクレームをいうことは、少なくとも安売りについてのクレームと比べれば、ずっと考えにくいと思います。

非価格競争でも行き過ぎればメーカーにとってダメージとなることはあり得て、極端に言えば、小売店がどんどん競争で淘汰されて、小売店が1社だけになってしまう場合です。

このように小売店が1社になってしまうことのメーカーにとってのデメリットは2つあって、1つは、小売店の価格競争力が増す、ということです。

もう1つは、嗜好の異なる(需要の差別化された)需要者に対してまんべんなくカバーすることができないことです。

このようなメーカーにとってのデメリットを考慮しても、メーカーは、すべての小売店が十分以上の利益を上げることに利益を感じることはなく(それはたんなるコストアップです)、でも、小売店がなくなってしまうと困るので、小売間の競争はあるけれど市場からは退出しない、いわば「生かさず殺さず」というくらいが一番塩梅が良い、というのが現実的ではないかと思われます。

そう考えると、価格競争は、それが激烈化しやすいために、「生かさず殺さず」ということが実現しにくいのに対して、非価格競争はあまりその点は心配しなくて良いと言えます。

さらに、より現実的に多いと思われるのは、ブランドイメージへの影響です。

つまり、価格競争は激化すればするほどブランドイメージが毀損されますが、サービス競争などの非価格競争はむしろブランドイメージを高めることが多いと思われます。

と言うように考えると、非価格競争を制限するために仲間取引を禁止する反競争的なインセンティブをメーカーが持つということはあまり考えられません。

ありうるとすれば、どこの馬の骨か分からない小売店もどきに扱われると品質管理が不安だとか、転売が横行すると流通過程での品質管理不備や流通在庫期間の長期化が心配だ、というまっとうなビジネス上の動機であり、これは、むしろ競争促進的な動機です。

このような競争促進的な制限が違法になるとすれば、競争制限的効果がよほど大きい場合、典型的には、メーカーが独占に近い場合でしょう。

というわけで、仲間取引の禁止がそれだけで(価格制限を伴わないで)違法になるというのは、メーカーが独占に近い場合に限られ、そうでない限り、安売り業者への販売制限を除いて仲間取引の禁止が違法になる場合というのはあまりない、というのが私の結論です。

2022年6月11日 (土)

価格維持効果とは

流通取引慣行ガイドラインでは、「価格維持効果」とは、

「非価格制限行為により,

当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,

当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれ」

を生じさせる効果

と定義されています。

ここで、

非価格制限行為をするメーカーを、M1

M1の取引先販売店を、R1、R2

M1の(非価格制限行為をしていない)競合メーカーを、M2

M2の取引先販売店を、R3、R4

と置くと、上記定義での、「当該行為の相手方」とは、R1とR2ということになります。

では、「その競争者」が何を指すのかというと、「当該行為の相手方」がR1の場合、「その競争者」なので、R2、R3、R4が該当することになります。

R2だけでなく、R3、R4も「その競争者」に該当することに、注意が必要です。

同様に、「当該行為の相手方」がR2の場合、「その競争者」は、R1、R3、R4となります。

以上は、「非価格制限行為」が具体的に何なのかを問わない一般論ですが、では、具体的な非価格制限行為ごとに、価格維持効果というのはどのように生じるのか見てみましょう。

流通取引ガイドラインで価格維持効果を問題にしている行為類型は、

厳格な地域制限

地域外顧客への受動的販売の制限

帳合取引の義務付け

仲間取引の禁止

帳合取引の義務付けとなるようなリベートを供与する場合

です。

まず、「厳格な地域制限」(事業者が流通業者に対して,一定の地域を割り当て,地域外での販売を制限すること)については、

R1に割り当てられる一定の地域をT1、

R2に割り当てられる一定の地域をT2、

と置くと、

M1がR1に対してT1を割り当て、T1外での販売を制限し、かつ、R2に対してT2を割り当て、T2外での販売を制限すること

と言い換えられます。

そして、地理的市場全体をTと置くと、通常は、

T1+T2=T

でしょう。

そうでないと、M1はみすみすビジネスチャンスを逃すことになるからです。

これを前提に、各小売店がどのテリトリーで販売するのかをみると、

M1がR1に対してT1を割り当て、T1外での販売を制限し、かつ、R2に対してT2を割り当て、T2外での販売を制限すること

は、

T1: R1+R3+R4

T2: R2+R3+R4

と言い換えられます。

これによれば、

「非価格制限行為により,

当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,

当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれ」

を生じさせる効果

は、

厳格な地域制限により,

R1とR2、R3、R4間の(T1での)競争が妨げられ,

かつ、

R2とR1、R3、R4間の(T2での)競争が妨げられ、

R1およびR2がその意思で(Tでの)価格をある程度自由に左右し,M1の商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

と言い換えられます。

しかし、厳格な地域制限により、

R1とR2、R3、R4間の競争が妨げられ,

ることは、現実にはなさそうです。

というのは、R3とR4は自由に競争している前提だからです。

とすると、

R1とR2、R3、R4間の(T1での)競争が妨げられ,

というのは、

R1とR2間の(T1での)競争が妨げられ, ・・・①

ということになり、

R2とR1、R3、R4間の(T2での)競争が妨げられ、

というのは、

R2とR1間の(T2での)競争が妨げられ、・・・②

ということになります。

そして、①と②は、まとめて、

R1とR2のTでの競争が妨げられ、

と整理してしまってもよいでしょう。

そして、Tは全地理的市場なので、

R1とR2の競争が妨げられ

となります。

ここで注意すべきは、R3とR4が存在するのに、M1による厳格な地域制限により、

R1とR2の競争が妨げられ

ることにより、

R1およびR2がその意思で(Tでの)価格をある程度自由に左右し,M1の商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

が生じるためには、R1およびR2がR3およびR4からの競争圧力をあまり受けていないことが必要だということです。

そして、R1およびR2がR3およびR4からの競争圧力をあまり受けていないという前提であれば、R1とR2の競争が妨げられ、R1とR2ががその意思で(Tでの)価格をある程度自由に左右し,M1の商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果を生じさせることは、十分にあり得そうです。

では次に、帳合取引の義務付け(事業者が卸売業者に対して,その販売先である小売業者を特定させ,小売業者が特定の卸売業者としか取引できないようにすること)をみてみましょう。

ここでは、

帳合取引の義務付けをするメーカーをM1、

M1と取引をする卸売業者をW1とW2、

W1の販売先である小売業者をR1、

W2の販売先である小売業者をW2、

M1の(帳合取引に義務付けをしていない)競合メーカーをM2、

とします。

(M2は、W1やW2と取引しているかもしれませんし、していないかもしれません。)

そうすると、帳合取引の義務づけは、

M1がW1に対して,その販売先である小売業者をR1と特定させ,R1がW1としか取引できないようにし、かつ、W2に対して,その販売先である小売業者をR2と特定させ,R2がW2としか取引できないようにすること

と言い換えられ、さらに短くすると、

M1が、W1に対して,その販売先である小売業者をR1と特定させ,かつ、W2に対して,その販売先である小売業者をR2と特定させること

となります。

では、これにより、価格維持効果がどのように生じるのか見てみましょう。

価格維持効果とは、

非価格制限行為により,

当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,

当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

でした。

これを、前記の帳合取引の義務付けに適用すると、

M1が、W1に対して,その販売先である小売業者をR1と特定させ,かつ、W2に対して,その販売先である小売業者をR2と特定させることにより,

W1とW2間の競争が妨げられ,

W1がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

となります。

ここで注意を要するのは、メーカーが帳合取引の義務付けをするときには、通常、自分の商品についてしか、義務付けできないことです。

他メーカーの商品についての取引先まで口を出されていうことをきく卸はいないでしょう。

なので、上記の価格維持効果に関する記述を補足すると、

M1が、W1に対して,M1の商品の販売先である小売業者をR1と特定させ,かつ、W2に対して,M1の商品の販売先である小売業者をR2と特定させることにより,

W1とW2間のM1の商品に関する競争が妨げられ,

W1がその意思でM1の商品の価格をある程度自由に左右し,M1の商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

ということになります。

ここでも、M1の商品に関する価格維持効果が生じるためには、M2の商品からの競争圧力が不十分であることが必要です。

もう少し細かく言うと、

M1が、W1に対して,M1の商品の販売先である小売業者をR1と特定させ,かつ、W2に対して,M1の商品の販売先である小売業者をR2と特定させることにより

W1とW2間のM1の商品に関する競争が妨げられた

といえるためには(つまり、帳合取引の義務付けと競争阻害の因果関係が認められるためには)、M2の商品からの競争圧力が不十分であることが必要だ、ということです。

逆に言えば、M2の商品からの競争圧力が十分なら、帳合取引の義務付けと競争阻害との間には因果関係は認められない、ということです。

さて、ここで、帳合取引の義務付け「により」妨げられるところの、

W1とW2間のM1の商品に関する競争

とは何でしょう。

これは、W1とW2で、R1とR2を奪い合うという競争です。

本来であればこのような競争がが起きるはずなのに、帳合取引の義務付けによってそのような顧客の奪い合いが起きなくなる、ということでしょう。

しかし、理屈はそうなのですが、これは伝統的な卸の機能を考慮していません。

卸というのは、全国にまんべんなく、タイムリーに商品を行き渡らせるのが、その機能でしょう。

メーカーにとっては、全国津々浦々にある小売店といちいち取引なんてやってられません。

小売店にとっても、多数のブランドを一括して取引するには、個々のメーカーと交渉していたのでは大変です。

いわば、卸の取引費用削減機能です。

もしこれらの機能がなくて、商品を右から左に流すだけなら、メーカーが小売店に直接売った方が、流通マージンが削減されて好ましいはずです。

それでもあえて卸を使うということは、そのような配送機能、流通機能、取引費用削減機能があるからでしょう。

しかも、卸というのは小売やメーカーに比べて利幅が少ないのが一般的です。

それは、リスクをあまり負っていないからです。

このように、もともと利幅が少ないとすると、帳合取引の義務づけがなくなって卸間の競争が促進されても、その結果起きる価格の低下というのは微々たるものかもしれません。

しかも、卸は地理的に西日本と東日本とか分けておくことが合理的なこともあり、もし東日本の卸に西日本の小売店に配送させたらコストばかりかさんでしまう、ということもあるかもしれません。

なので、帳合取引の義務付けにより失われる競争というのはわずかで、逆に、帳合取引を義務付けないことで失われる効率性(裏返せば、帳合取引の義務づけにより実現される効率性)が大きい、ということもありえます。

もちろん取引の実態により結論は変わりうるのですが、それだけに、価格維持効果の有無を判定するには、このような取引の実態を考慮することが不可欠だと思います。

ガイドラインは、その文字面だけを追っていたのでは本質は見えない、という好例です。

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