2016年11月28日 (月)

こまったときの取引妨害(その2)

先日、ある欧州競争法の弁護士さんと話をしたときに、

「日本にはトリヒキボウガイというのがあって、競争者の取引を妨害すると独禁法違反になるんだよ」

といったら、

「それって、競争そのものじゃないの?」

という、至極まっとうな反応があって、おかしかったです。

加えて、

「トリヒキボウガイの成立には市場支配力は必要なのか?」

と聞くので、不要だと答えたら、さらに驚いていました。

外国の弁護士と話していると、何の先入観もなくストレートな反応があるので、とても新鮮で楽しいです。

だいぶ前のことですが、消費税転嫁法の買いたたきの説明をアメリカの競争法の弁護士にしたら、

「それって、法律がカルテルを強制しているってこと?」

という、これも何の反論もできないコメントがあっておもしろかったです。

転嫁カルテルは消費税の転嫁だけを合意するもので本体価格については合意できないんだと説明しても、

「消費税分のカルテルと本体価格のカルテルを、どうやって区別するの?」

という、まったく反論の余地のない、鋭い質問をされてしまいました。

こういう反応を受けるにつれ、日本の独禁法はガラパゴス化してるんじゃないか、という懸念をひしひしと感じます。

最近日本国内では優越的地位の濫用を再評価(?)する動きもあるようですが、少なくともEUとアメリカの弁護士と話したときの感じとしては、彼らにとっては日本特殊の規制だという感覚のようです。

トランプ大統領のおかげでTPPは流れてしまいそうですが、確約制度なんかを入れるよりも、優越的地位の濫用規制と下請法を廃止するほうが、ずっと統一市場の形成に役立つのにな、と思います。

2016年11月24日 (木)

こまったときの取引妨害

公取委の実務には、

「こまったときの取引妨害」

という言葉があるそうです。

これは、排他条件付取引や再販売価格拘束など、典型的な違反行為類型にあたりそうなんだけれどもあたるかどうか確信がもてないときに、なんでも違法にできる競争者に対する取引妨害(一般指定14項)を使って違法にしてしまう、という実務をさしています。

つまり一般指定14項では、

「自己・・・と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、・・・いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害すること。」

が不公正な取引方法だとされており、「不当に妨害」という以外に何のしばりもないのです。

「妨害」という言葉自体に否定的ニュアンスがあるので、「不当に妨害」というのは意味が重複している気さえします(「正当な妨害」なんてあるのでしょうか?)。

たとえば、メーカーが、卸に対して、安売りをしている小売店への出荷の停止を命じたりすると、再販売価格拘束でいくのが筋だと思いますが、取引妨害が使われたりします。

ほかには、ディーエヌエーがゲームメーカーに、「モバゲーと取引するな」と圧力をかけた事件も、排他条件付取引ではなく、取引妨害となりました。

ただ、取引妨害は、競争への影響を考慮することなく、とにかく行為自体が(公取委の目からみて)悪質であれば違法とできる(と少なくとも公取委は信じている)ため、限界がきわめてあいまいであり、慎重に運用されることが要求されます。

(なんでも取引妨害としてしまうことの危険性については、白石忠志先生が以前から指摘されています。)

そのような隠語を思い出させるのが、最近公表された、

(平成28年11月18日)ワン・ブルー・エルエルシーに対する独占禁止法違反事件の処理について

です。

この事件では、ブルーレイディスクの必須特許を有するパテントプールであるワン・ブルー・エルエルシーが、ブルーレイの製造販売業者であるイメーションの取引先に対して、ワン・ブルーの特許権者が当該取引先の特許権侵害行為について差止請求権を有していること等を内容とする通知書を送付したことが取引妨害に該当する(ただし、違反行為はすでに行われていないので措置はとらない)、とされています。

プレスリリースを読むと、この事件の処理では、上記通知書の送付だけが具体的な違反行為と認定されているようです。

ですが、必須特許のライセンスを拒絶していたら、知財ガイドライン上は、私的独占にあたるのであり、そのような処理をすべきだったのではないでしょうか。

プレスリリースでもわざわざ、ワン・ブルーの特許権者であるブルーレイのメーカーが日本で過半の市場シェアを有していることが認定されており、50%以上のシェアの場合に優先的に執行するという排除型私的独占ガイドラインの条件もみたしていたように思われます。

(ただ、必須特許のプールであれば市場シェアにかかあわらず市場支配力があることが明らかなので、過半の市場シェアを有するメーカーが参加していないパテントプールであっても排除型私的独占は成立すると思われます。)

公取委が本件で排除型私的独占を使わなかった理由としては、

「我が国で販売されている記録型BDのほとんど全ての製造販売業者は,ワン・ブルーと記録型BDに係るBD標準規格必須特許のライセンス契約を締結していること」

といった事情があったために(プレスリリース)、競争の実質的制限が認められないと判断されたのかもしれませんが、もしそうだとしたらいたずらに私的独占のハードルを上げているように思います。

そもそも標準必須特許のライセンス拒絶は単独の直接取引拒絶あるいは、(プール参加者の共同行為とみて)共同の直接取引拒絶として処理するのが筋だと思います。

ただこれも公取委の立場にたてば、ワン・ブルーはライセンス拒絶していたわけではなくて、交渉中だったので、「拒絶」とまで認定できなかったのかもしれません。

ですがそれを考慮しても、なんでもかんでも取引妨害で処理してしまうのはいかがなものかと思います。

たしかに民事訴訟では類似の行為が取引妨害に該当するとされることがあります(ドライアイスの事件など)。

しかしそれは、取引妨害が、不正競争防止法2条1項15号(営業上の信用棄損行為)のような、不法行為に毛の生えたような存在なので独禁法の素人である裁判官にもわかりやすいために、当事者が好んで主張するからです。

これに対して一国の競争政策をになう専門家集団である公取委が取引妨害に頼るのでは、話が違います。

また、このような処理をしていると、FRANDでのライセンスを拒絶していても差止請求やライセンシーの取引先への告知さえしていなければ独禁法には違反しない(少なくとも摘発されることはない)という誤ったメッセージを送ることになってしまわないか心配です。

それに、告知書の送付だけをとらえて違反行為とすると、それ以外の事実の違法性がうまく取り込めないおそれがあります。

たとえば本件では、

「〔ライセンス料の〕交渉において,イメーション及び米イメーションは,ワン・ブルーに対し,公正で妥当なライセンス料を支払う意思があることの表明,公正で妥当と考えるライセンス料の提案,ワン・ブルーが提示するライセンス料の設定根拠の説明の要請等を行っていたが,ワン・ブルーは,非差別的な条件を提供するためにライセンス料について交渉はできないとして,当該設定根拠の説明も行わなかった。」

という部分がけっこう重要な意味を持つのではないかと思うのですが(結果的に同率のライセンス率でないと差別的とみなされるというのはわからないではないですが、根拠すら説明しないというのはやや行き過ぎでしょう)、通知書の送付を違反行為ととらえると、このような説明しなかったという事実と最終的な通知行為の妨害行為該当性とのつながりがみえてきません。

ライセンシーの取引先への通知は不競法2条1項15号では典型的な不正競争行為とされていますが、そちらが念頭に置いているのは世の中で普通にある(市場支配力を伴わない)特許侵害の警告書(のライセンシーの取引先への送付)なので、おなじ行為を一般指定14項で処理してしまうことの不都合もあると思います。

何が不都合なのかというと、一般指定14項では、少なくとも、行為者に市場支配力があるかないか(あるいは市場における有力な事業者であるかどうか)で違法かどうかが分かれるという仕組みになっていないので、まったく市場支配力はないけれどたまたま当該特許を侵害していたという、世の中にいくらでもある、およそ競争に無関係なケースにまで一般指定14項が適用されてしまうのではないか、と思うのです。(不正手段型なんだから、警告の内容が虚偽である限りそれでもかまわない、という割り切りもあるかもしれませんが。)

(ただし公取委も、取引妨害でも競争への影響には運用上配慮しているようで、

「座談会 最近の独占禁止法違反事件をめぐって」公正取引790号(2016年8月)790号

のp3~4では、排除措置命令ではなく「注意」をしているケースについて、

「例えば・・・取引妨害などでも競争への影響まで認められないようなケース」

は注意にとどめている、という山本佐和子審査局長の発言があります。

「競争への影響」という言葉の具体的意味が問題ですが、少なくともこれは、競争上の影響がない場合には取引妨害は違法ではないという考え方を示したものといえます。)

公取委としては知財分野での成果をアピールしたくてこのプレスリリースをしたことがみえみえですが、かえって独禁法解釈の稚拙さだけが印象付けられる結果となってしまいました。

ちなみに私は、排除型私的独占が適用されることは、未来永劫ないと予想しています。

なぜなら、どうしても課徴金を課したいという事情が公取委にない限り、ほとんどの場合、私的独占よりもはるかにハードルの低い取引妨害で事足りてしまうからです。

パラマウントベッド事件も、NTT東日本事件も、JASRAC事件も、もし今同じことが行われたら、きっと全部取引妨害で処理されるでしょう。

今回のプレスリリースは、そのような予想が正しいであろうことをますます確信させてくれます。

2016年11月22日 (火)

平成28年下請法講習テキストの変更点

平成28年の下請法講習テキストに、買いたたきの例として、

「自動車部品の製造を下請事業者に委託しているB社は、当該部品の量産が終了し、補修用としてわずかに発注するだけで発注数量が大幅に減少しているにもかかわらず、単価を見直すことなく、一方的に量産時の大量発注を前提とした単価により下請代金の額を定めていた。」

というのが追加されました(p57)。

しかし私は、これは行き過ぎというか、少なくとも買いたたきの典型例としてテキストに載せるのはいかがなものかと思います。

(なお似たような例が、現在パブコメ中の運用基準改正案にもあります。)

テキストのその前の従前からある例で、

「産業用機械の部品の製造を下請事業者に委託しているA社は、下請事業者に2,000個発注することを前提として下請代金の単価について交渉し合意したところ、実際には300個しか発注しなかったのに2000個発注することを前提とした単価を適用した。」

というのがありますが、これならわかります。

というのは、部品を作るには金型の作成やら何やら固定費がかかるわけで、2000個で固定費を回収するつもりだったのに300個しか発注しないとなったら、それは下請が怒るのは当然です。

でも今回追加された設例では、そのようなことが一般的にいえるのでしょうか?

「量産が終了」しているわけですから、いちおう固定費は回収されているはずです。

もし最低生産ロット数にも大幅に満たないような個数を発注する(たとえば一度工場のラインを動かしたら最低でも1000個できてしまうのに10個しか発注しない)、というような場合ならわかりますが、世の中、そのような場合ばかりではないのではないでしょうか。

少なくとも、上記の「2000個発注の予定が300個発注」の例に比べれば、新たに加えられた例は非常に限界があいまいというか、そもそもどのような場合が買いたたきになるのかがきわめてわかりにくくなってしまったといわざるをえません。

それは結局、新たな設例に確固とした理論的裏付けがないためです。

少なくとも新しい設例は、前述のような、最低生産ロット数にもみたない発注の場合を想定していることを明記するなりすべきでしょう。

設例では、たんに従来から「大幅に」発注数量が減っているだけで違法になる、としか読み取れません。

でも大量生産が終わってるならふつうは金型など生産設備の減価償却も終わっているはずで、最低生産ロットの問題さえなければむしろ原価は安くなっている可能性すらあります。

親事業者は下請テキストの場当たり的な修正に振り回されることなく、実質的な違法性がどこにあるのかをよく考えて、最終的には、

「同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い」

かどうかが買いたたきの要件であることを心にとどめて、事案に応じた適切な判断をしてくことが必要だと思います。

運用基準改正案をみても買いたたきの例が大幅に追加されていますし、どうも、安倍政権のデフレ対策を下請法を通じておこなうというにおいがプンプンします。

下請法はほんらい独禁法の優越的地位の濫用を簡易迅速に処理するための法律で、だからこそ適用対象も資本金額などで割り切っているわけですが、買いたたきにこのような極めて実質的な(ケースバイケースの)判断を要する行為類型にこのような設例が加えられると、同じことを下請事業者以外に対してやったら優越的地位の濫用にもなるのではないかということが当然に問題になるわけです。

もともと買いたたき規制は市場競争への露骨な介入であるわけですから、謙抑的に運用されるべきで、実際、これまではそのようにされていました。

最近の公取の動きを見ていると、ほんとうに、そのようなタガが外れてしまった感じがします。(しかも正式な勧告ではなく注意ですますところが、たちが悪いです。)

競争当局としての誇りはどこにいってしまったのでしょうか。

2016年11月21日 (月)

【お知らせ】不正競争防止法の講座を開きます。

昨年にひきつづき、公益財団法人公正取引協会で、

「不正競争防止法関係法令講座」

を開かせていただくことになりました。

12月5日と19日の2回シリーズです。

不正競争防止法は知的財産権法に関連付けて説明されることが多いですが、競争法的な発想もあり、さらには外国公務員に対する贈賄など、実にさまざまな規定が混在しています。

この不競法の実務のポイントを、コンパクトに2回で解説します。

ご興味のある方はぜひご参加ください。

申込方法については、こちらをご覧ください。

2016年11月 9日 (水)

経済法における法学と経済学の関係

ふと思いついたのですが、競争法における法学と経済学との関係は、饅頭における皮とあんこの関係に似ていると思います。

ここではもちろん、

法学=皮

経済学=あんこ

ということです。

どういうことかというと、経済学を知らずに経済法を語るのは、饅頭の皮だけ食べるようなものではないか、ということです。

もちろん、あんこだけでは売り物になりませんから(経済学だけでは現実の問題を解決できない)、皮も重要なのですが、やはり、饅頭のキモはあんこなのではないか、と思うのです。

少なくとも、あんことの相性を考えずに皮を作るのでは、おいしい饅頭はできないと思います。

皮を作るのにも熟練の職人技が必要でしょうから(ひょっとしたら、あんこ作りよりも高度な技術が必要かもしれません)、皮作りの職人があんこ作りの職人よりも格下だということは決してありませんが、優れた皮職人はあんことの相性を考えて皮を作るのでしょう。(本当の饅頭は1人の職人が作るのでしょうけれど、そこは物のたとえということで。)

実務のきわめて大きな部分を占めるカルテルでは経済学はほとんど関係ないので、皮だけ食べて生きている独禁法弁護士も世の中にはたくさんいることでしょう。

また日本の特殊事情として、優越的地位の濫用がきわめて大きな地位を占めており、優越的地位の濫用を経済学でまじめに分析したらそもそも違法とすべきではないのではないか(少なくともトイザらスのような事件を違反にするのは行き過ぎ)、といった立論につながるので、ここでも経済学は無視されているといえます。

そういった事情はあるのですが、それでも、カルテルと優越的地位の濫用をのぞいた分野(優越をのぞく不公正な取引方法が典型)では、経済学は饅頭におけるあんこと同じくらい重要だと思います。

もし基礎的な経済学の知見がないと、

けっきょく独禁法はケースバイケース

といったよくわからないアドバイスになったり、「おそれ」という文言だけにとらわれて、

不公正な取引方法では、違法にしようと思えば何でも違法にできる、

といった極端な議論にすらなりかねません。(実際、そうおっしゃっている独禁法弁護士の方もいらっしゃいます。)

あんこが嫌いな人は饅頭は食べないと思いますが、わたしが独禁法を仕事にしているのも、きっと経済学が好きだからなのだという気がしています(どうも独禁法をやっている人のなかには「自分は皮だけが好き」という人がけっこう多いような気がします)。

人によっては、

饅頭の皮というのは言い過ぎで、肉まんの皮くらいの価値はある、

とか、

(重量比ではわずかだけれど味にとっては決定的に重要な)ケンタッキーフライドチキンの衣くらいの価値がある、

という人もいるかもしれませんが、いずれにせよ、皮だけの肉まんや衣だけのケンタッキーフライドチキンが美味しくないことには変わりはないでしょう。

というわけで、独禁法を学ぶときには、あんこも好きになって、皮とあんこの両方を食べることをおすすめします。

2016年10月 8日 (土)

Gベクタリングコントロールを試してきました!

本日は独禁法とはまったく関係のない話題をひとつ。

いつもお世話になっている東京マツダ有明営業所の営業マンの方から、Gベクタリングコントロールの試乗会のご案内をいただき、本日(2016年10月8日)、乗ってまいりました。

Img_4177

ご存じないかたも多いと思うので少しだけ説明すると、Gベクタリングコントロール(GVC)というのは、カーブや車線変更のときにエンジンの出力をわずかに調整することによってタイヤにかかる荷重をコントロールして、車両の応答性や安定性を高めるという、いままでなかったマツダの画期的な技術です。

利点としては、

●思った通りに走れて、運転への自信が高まる。

●疲労の蓄積を抑制し、快適なドライブを楽しめる。

●安定したクルマの動きによって、安心感が高まる。

ということが謳われています。

発表されたときからとても気になっていた技術で、いつか試してみたいと思っていたのですが、当分クルマを買い替える予定もないし、遠慮していたのですが、ちょうど6カ月点検と重なる時期に試乗会があるというので、営業の方にお誘いいただいたという次第です。

試乗した感想は、想像をはるかに上回る効果で、衝撃を受けました。

試乗車は上の写真のアテンザのガソリン2.5リッターで、私の愛車も同じアテンザ(2.2リットルのディーゼル)なので、違いがよけいわかるのだと思うのですが、たとえば普通に車線変更したときに、愛車なら、

これくらいの横Gが頭にかかるだろうな、

これくらいハンドルを切って、これくらい戻すだろうな、

というのが体に染みついているわけですが、Gベクタリングコントロールつきの試乗車だと、

あきらかに横Gのかかり方がゆるやかだし、

ハンドルも、普段はやっているであろう微調整がほとんどいらなくて、行きたい方向にハンドルを切ったらそのままスパッと車線変更が終わる、

という感覚なのです。

試乗前にさんざんYouTubeでGベクタリングコントロールの動画を見ていたのですが、やっぱりこのすごさは乗ってみないとわからないと思いました。

動画で効果を伝えるためには、

曲がれないようなコーナーが曲がれた

カーブでも助手席の女性の首の傾きが少ない

雪上での車線変更でも車体の揺り戻しがない

といったような、見てわかりやすいものばかりになるのですが、実際乗ってみると、安定感が相当違うことがわかります。

そして、日々感じることができる良さは、きっとこういった、何気ない車線変更でクルマがとても安定して感じる、そのため安心感につながる、というところなのではないかと思いました。

カーブを60キロくらいで曲がったときも、愛車なら微妙なハンドルの微調整を当然するようなところが、一度行きたい方向に切ると、そのまま最後まで修正なしに曲がれてしまう感じです。

そのため安定感があるので、きっとコーナーを安心して速く曲がれるのだろうと感じました。

これなら、けっこうきついカーブのある首都高も緊張感なく走れそうです。

こう書くと、Gベクタリングコントロールなしのアテンザがふらふらした安定感のないクルマのような印象を与えてしまうかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。

わたしはよく東京から大阪の実家までクルマで帰りますが、新東名などをはしっていると本当にビシッと安定していて、何の文句もありません。

でもGベクタリングコントロール付きなら、きっと車線変更のときの横Gのかかりかたなんかもはるかに少ないんだろうなと想像できました。

同乗者も酔いにくいと思います(営業マンの方もそうおっしゃってました)。

今の愛車も、自動追随式クルーズコントロール付きなので高速ではとても楽チンなのですが(初めて使ったときは、「これは今までの自動車とは別の乗り物だ」と思いました)、そのうえにGベクタリングコントロールが付いたら、無意識に行うハンドルの微調整も減って、ますます疲れなくなるのではないでしょうか(メーカーの説明にもそうあります)。

とにかく、今の愛車もディーゼルのパワーとなめらかさ、クルーズコントロールの便利さに感激しましたが、今回のGベクタリングコントロールは、それ以上の衝撃でした。

私は同じクルマを愛車にしているのでよけいに違いが感じられたのだと思うのですが、マツダに乗ったことのない方でも、気になる方はぜひ、試乗してみることをおすすめします。

この良さは実際に乗ってみないとわかりません。

YouTube動画ではカーブでのハンドル切れ角が少なくなる動画もありますが、それくらいどおってことないだろうと思いきや、体で感じる違いは相当なものです。

(あと、今の愛車との違いとしては、

愛車はディーゼルエンジンなので、試乗車より頭が重い、

愛車は17インチなのに対して試乗車は19インチ

というのが安定感やハンドリングに影響したのかな、とちょっと考えましたが、普通に車線変更しただけでそんなに違いがあるわけはないので、感じた違いはほぼ100%Gベクタリングコントロールの効果だろう、と思っています。)

もし4WD(マツダの呼び方ではAWD)で、Gベクタリングコントロール付きなら、無敵ではないでしょうか。

きっとどこまででも遠出できそうな気がします。

なぜエンジンの出力を制御するだけでこれだけ劇的な効果があるのか不思議で、ほとんど魔法のようですが、ともかく、特殊な状況ではなく普段乗りから効果を感じられる技術であることはまちがいないと思います。

似たような技術で思いつくのはビデオカメラの手ぶれ補正機能ですが、あれは素人的にも、こういうことができたらいいなあと思うし、仕組みも何となく想像できますが、Gベクタリングコントロールは、エンジンをちょっと制御するだけであんなに劇的に運転感覚が変わるなんて想像もできません。

開発者の方は、はじめからこんなすごいものを作ろうとして開発されたのか、それとも、作ったら思った以上にすごいものができてしまったのか、どちらなのか興味がわくところです。

わたしはあんまり物に対してこだわりがなく、最近で本当に良い買い物をしたなあと感じたのは、今の愛車のほかにはiPhone 4(←ちなみにいまだ現役)くらいですが、Gベクタリングコントロールにはそれを上回る感動がありました。

きっと、クルマの運転が苦手な人、不安な人ほど、効果を体験できるのではないでしょうか。

実は試乗前は、Gベクタリングコントロールの効き具合もさることながら、

「電子制御のクルマに慣れると、普通のクルマに戻ったときに、かえって運転が下手になってしまうんじゃないか」

というのが一番の不安でしたが、万が一そういうことがあったとしても、これだけ毎日の快適性に効果があるなら十分に納得できます。

その意味では、「ナビがあると道を覚えなくなる」という不安は的中しており、いまだにできるだけナビは使わないでおこうと努力しているのですが(タクシーで運転手さんがナビなしで裏道をすいすい行くと、得したと思うし、さすがプロと感心する)、Gベクタリングコントロールをオフにすることはありえないと思います。(※ちなみにオフスイッチはありません。)

デメリット(といえるのかはわかりませんが)としては、たとえばロードスターみたいなスポーツモデルにGベクタリングコントロールが欲しいか、といわれれば微妙なところですね。

もう20年以上前になりますが、初代の(ユーノス)ロードスター(NA)をちょこっと運転したときに、今までのどんなクルマとも違う運転感覚で、なんというか、ちょっとハンドルをきるだけでミズスマシのようにピピッと曲がる感じがしてとても新鮮で楽しかったのですが、あれにGベクタコントロールが欲しいかといわれれば、私ならたぶん要りません。

あの、クラっとくる感じが楽しいともいえるし、あのクルマを自分の腕で何ごともなかったようにスムーズに走らせるのが楽しい、ともいえ、いずれにせよ、Gベクタリングコントロールがあると、そういう楽しさがなくなってしまうような気がするのです。

ただ、これは実際につけて走ってみないとなんともいえないので、たとえば現行のロードスター(ND)につけてみたら、楽しいところはそのままに快適性と安全性だけ上がった、みたいな、それこそ魔法のようなことになるかもしれません。

と、いろいろ想像するととてもワクワクします。

少なくとも、背の高いCX-5あたりにつけたら、アテンザ以上に効果は劇的なのではないでしょうか。

おかげさまで、とてもわくわくした週末が過ごせました。東京マツダ有明営業所のみなさま、どうもありがとうございました。

最後にちょっと経済法ブログっぽい切り口から、もしGベクタリングコントロールが有料オプションだったらいくらまで支払うか(支払い意思額(willingness to pay)、あるいは留保価格(reservation price)はいくらか)を考えてみました。

もちろんこれは個人の価値観によります。ミクロ経済学の完全競争モデルでもこれは人によって違うことが当然の前提にされています。私が限界的消費者であるかどうかはまったくわかりません(そしてたぶん、限界的消費者ではないと思います)。それに、この手のアンケートをしても実際に顧客がそのとおり買ってくれるかは当てにならない、とどこかで読んだ気もします。

それでもあえて感想をいえば、私なら、30万円なら躊躇なく買います。

きっと40万円でも買うでしょう。

50万円なら相当迷いそうですが、

これだけ上質な走りになるようにショップに頼んでチューニングしたら100万円でもすまないだろう(というか、いくらお金をかけても不可能かもしれない)、

「これがアテンザ本来のシャシー性能です」(と今回の営業マンの方もおっしゃっていました)といわれたら、納得して買ってしまうかもしれない

(モータージャーナリストの国沢光宏さんも、ふつうのクルマは振動などのためにエンジンマウントを硬くできないところを、Gベクタリングコントロールはエンジンマウントを縮めてクルマの状態にテンションをかけるのだ、というようなことをおっしゃってて、妙に納得しました)

などなどいろいろ想像すると、私の支払い意思額はたぶん50万円ちょっと切るくらいのところにありそうです。

少なくとも、革張りシートと同じ値段でどちらかを選ばないといけないとしたら、Gベクタリングコントロールを選ぶでしょう。

(でも今回の試乗車のナッパレザーのシート(私の愛車はファブリック)は、しっとりしていてとても気持ち良かったです。革シートだとわかってたらジーンズ履いていかなかったのですが・・・関東マツダさん、ごめんなさいcoldsweats01

そう考えると、Gベクタリングコントロールが全車標準というのは超お買い得だと思います。

それくらい、久々に工業製品に感動できました。

2016年10月 5日 (水)

テレビ局と検索エンジンと「業として」の有償性

平成27年11月版の下請法講習テキストp19に、

「Q16: 放送番組に使用する番組のタイトルCG,BGM等の音響データの作成は情報成果物作成委託に該当するとのことだが,これらについては,プロダクションの担当者が放送局に来て,ディレクターの指示のままに作業をする場合には,情報成果物作成委託には該当しないと考えてよいか。」

「A: 放送局がプロダクションに委託する業務の内容が,放送局においてディレクターの指示のままに作業をすることというものであれば,それは情報成果物作成委託でなく,放送局が専ら自ら用いる役務の委託であることから,本法の対象とはならない(情報成果物作成委託にも役務提供委託にも該当しない。)。

なお,それが労働者派遣法の対象となるような場合には,本法の対象とはならない。」

というQ&Aがあります。

この考え方自体、そんなこと言いきって大丈夫かという疑問がないではないのですが(指示のまま作業するといっても、プロダクションの担当者のスキルや専門性が反映されることがあるのではないか?)、今回それはひとまず措いて、設問の本筋とは違うところでちょっと疑問があります。

それは何かといえば、情報成果物作成委託の類型1は、

「情報成果物を業として提供している事業者が,その情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する場合」

という場合ですが、下請法運用基準の役務提供委託に関する説明(第2-4(2))では、

「『業として行う提供の目的たる役務』のうち『業として行う提供』とは、

反復継続的に社会通念上事業の遂行とみることができる程度に行っている提供のことをいい、純粋に無償の提供であればこれに当たらない。」

と、有償でなければならないことが明記されています。

そうすると、放送局の放送は、地上波なら無償なのですから、タイトルCGを番組で使って視聴者に提供しても無償の提供なので、「業として」にあたらないのではないか?という疑問がわきます。

考えられる理屈としては、地上波放送でもテレビ局は広告主から収益を得ているのだから「純粋に無償」とはいえない、というのが考えられますが、心情的には理解できるものの、運用基準の説明では、

「業として行う提供の目的たる役務」

の説明として、

「純粋に無償の提供であればこれに当たらない」

といっているのですから、「提供」(←当然、視聴者への提供のことでしょう)が無償かどうかを問題にしているのであって、つまりは、提供の相手方からお金を採るかどうかを問題にしているのであって、提供の相手方からお金は取らないけれどほかの第三者からお金を取る場合を、

「有償の提供」

と解釈するのは、相当無理があるように思われます。

つまり「有償の提供」というのは、提供の相手方からお金を取らない提供のことではないのか、ということです。

無償の提供は業としての提供に当たらないことが表れているテキストのQ&Aとして、p18に、

「Q11: 景品の製造を委託した場合も本法の対象となるか。」

「A: いわゆる景品は,商品に添付されて提供される場合,有償で提供している商品の一部として提供がなされているため製造委託(類型1)に該当する。また,純粋に無償で提供している景品であっても,自家使用物品として当該景品を自社で業として製造している場合には,製造委託(類型4)に該当する。」

というのもあります。

でもこのQ11をみても、やはり景品提供の相手方から実質的にお金を取っている(本体商品の代金として取っている)から有償なのだ、とは読めても、まったく異なる第三者からお金を取っても有償と解釈するのだとは読めないと思います。

さらに言えば、

テレビ番組制作の取引に関する実態調査報告書

でも、

放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン

でも、テレビ局と番組制作会社との間の取引に下請法が適用されることは、当然の前提にされています。

(実態調査報告書のときに何か議論があったのか、ぜひ公取委の人に聞いてみたいところです。)

ですが、もし第三者からお金を取るのも有償の提供だとすると、たとえば、ある商店街が、町内のお祭りのときに、自己の店舗にお客さんを呼びこむために団扇(うちわ)を通行人にただで配ることを企画して下請に製造委託したときに、その団扇の費用の一部に充てるために、ある都市銀行の広告を団扇に載せて、その広告代をその都市銀行から徴収したら、その団扇の提供も「有償」の提供になってしまいそうな気がします。

それはいくらなんでも非常識でしょう。

(「非常識」といいましたが、もっと考えてみると、団扇代の一部に充てるくらいなら可愛らしいものですが、団扇代を超える広告料を都市銀行から取って商店街に利益が出たりすると、テレビ局とどこが違うのか、という気もしてきます。)

ですが他方で、民放の地上波放送が無料だからといって、「純粋に無償」だというのは、かなり引っかかるのも事実です。

(NHKなら問題なく有償なのでしょうけれど。)

民放の地上波放送を「純粋に無償の提供」というのは心情的に抵抗があるとしたら、では、インターネットの検索エンジンは「純粋に無償の提供」なのでしょうか?

われながら理屈ではうまく説明できませんが、インターネットの検索エンジンのほうがまだ、「純粋に無償の提供」というのに抵抗感はないような気がします。

いずれにせよ、テレビ局(NHKを除く)の放送をすべて「純粋に無償の提供」として、番組の一部を構成する映像や音声の下請がすべて下請法の対象外というのはさすがに受けいれがたい結論だと思いますので、結論としては、下請法の対象と解するのでしょう。

実際には、テレビ局は自分でもタイトルCGは作っているでしょうから、情報成果物作成委託の類型3(自家使用の情報成果物)に該当することが多いので、実際には問題ないのかもしれませんが、では自社で作っていないときにはテレビ局と制作会社の取引は下請法の対象外と割り切ってもいいのかというと、なかなかそういうわけにもいかないでしょう。

しかしそもそも、「業として」が有償のものに限るとは下請法には書いていないのですから、運用基準のほうを改正すべきではないでしょうか。

運用基準制定時は商品役務の提供の相手方以外からお金を取る(相手方からはお金を取らない)ビジネスはテレビやラジオくらいだったかもしれませんが、インターネット時代にはいろいろなビジネスが出てくるでしょうから、時代に合わない運用基準はこまめに改正すべきだと思います。

2016年9月22日 (木)

ブランド内競争と小売サービスの関係

ブランド内競争が小売サービスに及ぼす影響について

Tirole, "The Theory of Industrial Organization" p 182 

のモデルに従って、整理しておきます。

前提として、小売レベルは完全競争(ブランド内競争が活発)であり、

需要関数: q=D(p,s) 〔pは価格、sはサービス量〕

消費者余剰: S(p,s)

サービス1単位あたりのコスト: Φ(s)

とすると、メーカーと小売店が統合された垂直統合企業が得る利益は、

[p-c-Φ(s)]D(p,s) ・・・①

となります。

そこで、垂直統合企業が利益を最大化するサービス量の条件は、①をsで偏微分して0とすると、

-Φ’(s)D(p,s)+[p-c-Φ(s)]・∂D/∂s=0

であり、整理すると、

[p-c-Φ(s)]・∂D/∂s=Φ’(s)D(p,s)・・・②

となります。

次に、メーカーと小売店が別々の企業である場合(垂直分離企業)に、どれだけサービスが提供されるかについて考えてみます。

消費者は、完全競争の下では最適な価格とサービス量のミックスを提供する小売から購入する(できる)ので、前述のように小売レベルでの完全競争を前提とすると、小売レベルでの完全競争は、「消費者厚生を最大化する価格とサービス量のミックス」と置き換えることが可能です。

(ただし、小売に損が出てはいけませんので、

p=pw+Φ(s) [ただし、pwは卸売価格]

という条件がつきます。)

小売レベルの完全競争は、消費者余剰、すなわち、

S(p,s)[⇔S(pw+Φ(s),s)]・・・③

を最大化します。

(つまり、p=pw+Φ(s)という制約条件のもとでの消費者余剰の最大化問題です。)

次に、消費者余剰Sを最大化するサービス量(s)の条件を求めます。

ここで、S(p,s)をsで偏微分したくなりますが、

p=pw+Φ(s)

という制約条件があるためにpとsは相互に独立ではないので、sで単純に偏微分することはできません。

そこで、ラグランジュ乗数法を用いて、

Z=S(p,s)+λ(pw-p+Φ(s))

と置き、λとpとsで偏微分して、

∂Z/∂λ=pw-p+Φ(s)=0・・・④

∂Z/∂p=∂S/∂p-λ=0・・・⑤

∂Z/∂s=∂S/∂s+λΦ’(s)=0・・・⑥

が、消費者余剰Sを最大化するためのサービス量(s)の条件となります。

これを解くと、

∂S/∂s=-λΦ’(s) 〔⑥より〕

=-∂S/∂p・Φ’(s) 〔⑤より、λ=∂S/∂p〕

=D・Φ’(s) 〔∂S/∂p=-D(総需要を価格で(偏)微分すると需要関数となる)より〕

となり、結局、

∂S/∂s=D・Φ’(s)・・・⑦

が、メーカーと小売店が別々の企業で、かつ、小売レベルで十分な競争がある場合の、サービス提供量となります。

整理すると、垂直統合企業のサービス提供量は、

[p-c-Φ(s)]・∂D/∂s=Φ’(s)D・・・②

となり、垂直分離企業(かつブランド内競争あり)のサービス提供量は、

∂S/∂s=Φ’(s)D・・・⑦

となります。

ここで、②も⑦も、右辺は、需要量に限界サービスコストを乗じたもの、つまり、全需要者に対して追加で1単位サービスを提供した場合の費用であることがわかります。

これに対して、②(ブランド内競争なし)と⑦(ブランド内競争あり)の左辺を比べると、②(ブランド内競争なし)の場合には、サービスを一単位増やした場合の需要量の増加(∂D/∂s)に、マージン([p-c-Φ(s)])を乗じたものであることがわかります。

つまり、②(ブランド内競争なし)の場合には、垂直統合企業は、サービスを1単位増やした場合の費用増(Φ’(s)D)が、サービスを1単位増やした場合の増加利益に等しくなるように、サービス量を決定します(独占企業の行動の特徴です)。

これに対して、⑦(ブランド内競争あり)の左辺は、サービスを1単位増やした場合の消費者余剰の増加分(∂S/∂s)であることがわかります。

つまり、⑦(ブランド内競争あり)の垂直分離企業は、サービスを1単位増やした場合の費用増(Φ’(s)D)が、サービスを1単位増やした場合の消費者余剰の増加分(∂S/∂s)に等しくなるように、サービス量を決定します(ソーシャルプランナーの行動の特徴です)。

別の言い方をすれば、

垂直統合企業(≒独占企業)は、限界的需要者に対する影響だけをみてサービス量を決定し、

垂直分離企業(≒ソーシャルプランナー)は、限界的需要者のみならず、それ以外の需要者(inframarginal consumers)への影響をもみて(つまり、平均的需要者への影響をみて)サービス量を決定する、

ということです。

別の見方をすれば、小売業者間の競争がメーカーに負の外部性を与える(垂直的外部性)、つまり、ブランド内競争があると、小売業者がメーカーの望むレベルの小売サービスを提供しない、ということです。

(なお、ここで言っているのは、あくまで垂直的外部性(小売が競争のために限界的需要者だけをみて小売サービスを提供してしまうことによるメーカーへの外部性)のことであって、水平的外部性(いわゆるフリーライダー問題)とはまったく別の問題です。)

小売レベルの競争がある場合に独占企業の目からみてサービス提供量が過小になるか過大になるかは場合によりますが、単純にいえば、

限界的需要者が平均的需要者よりも小売サービスを高く評価している場合には、小売レベルの競争があると独占に比べて小売サービスの提供が過大になり、

限界的需要者が平均的需要者よりも小売サービスを低く評価している場合には、小売レベルの競争があると独占に比べて小売サービスの提供が過小になる、

という関係があります。

しかし、総余剰の観点からは、競争がいいのか独占がいいのかは、一概にはいえません。

上の分析は、メーカーが設定する卸売価格(pw)を所与のものとして分析していますが、pwは、垂直統合企業(=独占企業)における仮想的卸売価格(fictitious wholesale price)を超えるかもしれないからです。

(ここで、垂直統合企業における仮想的卸売価格は、pm-Φ(sm)と定義されます。〔pmは独占価格、smは独占企業が提供するサービス量〕)

「一概にはいえません」というと、暗闇に放り出されたようでフラストレーションがたまるのでcoldsweats01

A. Michael Spence, "Monopoly, quality, and regulation" (1975)

に従って、結論だけ簡単に述べると、抽象的には、

①限界的消費者によるサービスに対する評価と平均的消費者によるサービスに対する評価と、

②独占企業が産出量を削減する程度

の2つの要素次第であり、より具体的には、

供給量が増えるにしたがってサービスへの評価が下がっていく場合(∂P/∂q・∂s<0)には、

独占による産出量削減が少ないと、サービスの供給が(社会的な最適量に比べて)過小となり、

独占による産出量削減が多いと、サービスの供給が過大となり、

供給量が増えるにしたがってサービスへの評価が上がっていく場合(∂P/∂q・∂s>0)には、

独占による産出量削減が少ないと、サービスの供給が過小となり、

独占による産出量削減が多いと、サービスの供給が過大となる、

というように整理されます。

これくらい複雑になるととても法執行の指針にはなりそうもありませんが、理屈の上では何が正しいのか答えが出てしまう、というのは経済学のすごいところだと思います。

法学の観点からいえるのは、メーカーがブランド内競争を制限することにより小売サービスをより最適に提供できるかもしれない、ということくらいでしょう。

2016年9月 7日 (水)

懸賞の総額制限における取引予定総額の意味

懸賞により提供する景品類については、その総額について、

「当該懸賞に係る取引の予定総額の100分の2を超えてはならない。」

という制限があります(懸賞制限告示3項)。

そして、懸賞運用基準7項では、

「告示3項・・・の『懸賞に係る取引の予定総額』について

懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額とする。」

とされています。

つまり、景品類の総額は、懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額の2%を超えてはいけない、ということになります。

では、メーカーが懸賞により景品類を提供する場合、運用基準7項の、

「対象商品の売上」

というのは、メーカーの売上(卸売価格が基準)でしょうか、それとも、小売店の売上(小売価格が基準)でしょうか。

たとえば、缶コーヒーのメーカーが、メーカー→卸→小売→消費者、という商流で、小売価格1個120円(卸への販売価格1個50円)の缶コーヒーを販売している状況において、その購入者(消費者)に懸賞により景品類を提供する場合、基準になるのは小売価格の120円なのか、卸売価格の50円なのか、という問題です。

結論としては、小売価格の120円が基準になります。したがって、キャンペーン期間中に10万個の販売を見込んでいるのであれば、「懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額」は、120円×10万個=1200万円となり、景品類の総額は、1200万円×0.02=24万円、となります。

この点については消費者庁のホームページのQ&Aも小売価格を基準とすることを当然の前提にしている設問があり、Q16では、

「Q16

メーカーが実施する景品提供企画なのですが,取引先小売店における販売価格がまちまちである状況において,取引の価額をどのように算定すべきでしょうか。」

というように、小売店における販売価格(小売価格)を基準にすることを当然の前提にした質問がなされており、それに対して、

「A.景品類の提供者がメーカー又は卸売業者である場合の取引の価額は,景品類提供の実施地域における対象商品の通常の取引価格を基準とします。

したがって,本件については,例えば特売セールでの販売価格など通常の販売価格とはいえない価格を除き,景品提供企画を実施する地域における対象商品の通常の販売価格を取引の価額とすることになります。」

と回答されており、回答でも、小売価格を基準にすることを当然の前提に、それは通常の取引価格なのであって、特売セールでの販売価格ではないと、あくまで小売価格を基準にすることは当然の前提として回答されています。

つまり、懸賞制限告示3項の

「当該懸賞に係る取引の予定総額」

というのは、懸賞の対象になっている取引(くじを引くのは消費者なので、当然、消費者が当事者となっている取引)のことをさし、運用基準7項の、「・・・対象商品の売上予定総額」にいうところの、

「売上」

というのは、消費者に対する売上(裏から言えば、消費者の購入額)を意味することになります。

告示3項の「当該懸賞に係る取引」という文言からは、くじが付いてくる取引を指すことが比較的明らかですが、運用基準の「対象商品の売上」という文言だけをみると、メーカー自身の売上と読めなくもないので、やや注意が必要です。

実質的に考えても、2%という基準は消費者の射幸心をあおらないように定めているわけですから、消費者の購入額を基準にすることは自然なことであり、消費者庁のQ&Aの立場が妥当だと思います。

もう1つの問題として、景品類が当たる対象取引を取引額などを基準に制限した場合、「当該懸賞に係る取引」(告示3項)はどう考えればいいのか、という問題もあります。

たとえば、コンビニが700円以上の購入者に対してくじを引かせるような場合です。

これも当然のことですが、この場合、「当該懸賞に係る取引」は、700円以上の購入取引に限られます。

キャンペーン期間中の全売上ではありません。

懸賞の対象にならない取引(700円未満の取引)が「当該懸賞に係る取引」に含まれないことは、当然のことです。

なので、取引予定総額を見積もる際には、店舗の全売上ではなく、1回あたり700円以上購入するお客さんへの売上がいくらくらいになるのかを見積もる必要があります。

では、メーカーが、小売価格1個120円の缶コーヒーを2個購入した人を対象にくじを引かせるキャンペーンを行う場合はどうでしょうか。

これは場合によると思います。

まず、(あまりないと思いますが)1つ目のパターンとして、同時に(1回の買い物で)2個購入した人に対してだけくじを引かせる、というキャンペーンの場合は、同時に2個以上まとめ買いをする人への販売価格が基準になると考えられます。(前記コンビニの例と同じ考え方です。)

これに対して、別々の機会に購入するのでもよくて、ともかく2個購入した人に対してくじを引かせる(あるいはより一般的に、応募資格を与える)、というキャンペーンなのであれば(たとえば缶コーヒーに貼られたシール2枚をはがきに貼って応募するなど)、キャンペーン期間中の当該缶コーヒーの予定売上を基準にしてよいでしょう。

キャンペーン期間中に1個しか買わない人と2個以上買う人を区別して、1個しか買わない人への売上は除外する、という考え方もありえますが、1個しか買わない人と2個以上買う人を区別して見積もるのは不可能なので、そこまでの細かい議論は不可能を強いるもので妥当でないと思われます。

理屈で考えても、2個以上で応募できるキャンペーンに、

「2個で応募できるのか。いまは1個でいいけど、そのうち2個目を買ったら応募しよう」

と思っていながら結局2個目を買わなかった(たとえば、2個目を買うのを忘れてキャンペーン期間を過ぎてしまった)、というような消費者でも、1個目の取引ですでに誘引されているのは間違いないので、やはり、1個だけ買う人も取引予定総額に算入すべきでしょう。

ちなみに、実際にキャンペーンに応募する人の数は予想できるかもしれませんが、実際に応募しなくても2個以上購入した人には応募資格はあるので対象売上に含むべきことがあきらかであり、予想応募人数も正しい基準にはなりえません。

(1個で応募できる場合と2個で応募できる場合の違いは、景品類の最高額(取引価額の20倍)のところで出てきます。)

以上のように、景品規制というのは、細かく見ていくと、実にいろいろな隠れた論点に溢れているように思われます。

2016年9月 2日 (金)

消費税増税前発注・増税後引渡しの工事と消費税転嫁法

8月31日に、株式会社松下サービスセンター及び株式会社APサービスセンターに対して、消費税転嫁法の勧告がなされました

この事件は、金沢のリフォーム業者が、取引先に代金を支払うにあたり、

①工事の下請業者に支払う代金の単価を消費税増税の際に改定せず、

②駐車場の賃借料を増税分引き上げず、

③税務会計指導業務等の代金を引き上げなかった、

といった行為が勧告の対象になっています。

これらの事実自体はオーソドックスな転嫁法違反なのですが、いくつか注目すべき点があります。

1つめは、消費税増税前に発注し増税後に引渡しを受けた工事について勧告がなされていることです。

勧告では、

「・・・平成25年10月1日から平成26年3月31日までの間に発注し,平成26年4月1日以後に引渡しを受けたサイディング工事の工事代金については,平成26年4月1日に引き上げられた消費税率が適用される・・・」

とされており、それはそのとおりなのですが、そんな過渡期の行為、しかも、2年も前の行為でも、勧告されてしまう、ということです。

消費税転嫁法は消費税増税の直後が執行のピークでその後は下火になるのではないかという観測もあったところですが、ぜんぜんそんなことはない、ということです。

また、下請法の場合は5条書類(取引記録)の保存期間が2年であるのに合わせて減額などで勧告されるのも過去2年分ですが、どうやら、転嫁法の場合には、「2年経ったら見逃す」という発想はないようです。

このことは、次の消費税増税(8%→10%)が平成31(2019)年10月に延期され、それに伴い転嫁法の期限もさらに平成33(2021年)3月末まで延長されることが見込まれる現在、結構重要な意味があります。

つまり、平成26年4月ころの代金支払い不足について、平成33年3月(予定)くらいまでは、さかのぼって支払うことが命じられることがありうる、ということです。

とくに、次の消費税引き上げ直後には公取委は集中的に転嫁法の調査をするでしょうから、その際、前の引き上げ時の転嫁拒否もついでに見つかる、ということは十分にありそうです。

この事件でも、

「2社は,それぞれ,本件工事業者のうち,一部のものに対し,平成26年4月1日以後に発注したサイディング工事の工事代金について,工事単価に消費税率の引上げ分を上乗せせず,同年3月31日までの工事単価と同額に定め,前記⑴イの方法で算出した額を支払った。」

とされており、発注時期が「平成26年4月1日以後」であるという点しか特定されておらず(終期の定めなし)、しかも、

「2社は,それぞれ,公正取引委員会が本件について調査を開始した後,前記⑵の代金について,松下サービスセンターは平成28年3月24日までに,APサービスセンターは同年7月12日までに消費税率の引上げ分に相当する額まで引き上げることを本件工事業者及び本件賃貸人等との間で合意し,平成26年4月1日に遡って当該引上げ分相当額を本件工事業者及び本件賃貸人等に対して支払った。」

ということなので、公取がいつ調査を開始したのかによりますが、たとえば半年前(平成28年2月)に調査開始したとすると、平成26年4月から約2年間の代金についてさかのぼって支払わされた、ということになります。

前述のように、転嫁法の失効期限が平成33年3月(予定)まで引き延ばされる状況にある現在、最大、7年分の代金支払い不足が勧告の対象になりうる、ということです。

そこまでいけばさすがに民事上の時効ではないかという気もしますが、代金請求権が時効にかかっていても行政法規である転嫁法違反がなくなるわけではないと思われることからすると、ありえない話ではありません(公取委の運用方針次第です)。

2つめの注目点は、対象会社が金沢の資本金わずか5000万円と1000万円の会社である、ということです。

(これは法律上仕方のないことですが、転嫁拒否で保護される事業者は資本金3億円以下の事業者なので、違反者が被害者よりもはるかに小企業であった可能性もあります。)

つまり、転嫁法については中小企業といえどもお目こぼしはない、ということです。

3つ目の注目点は、勧告対象(③)に、税務会計指導業務(相手方は税理士さんですかね)、広告業務、廃棄物処理業務、が含まれていることです。

単価が単価表できまっているような工事の場合には単価表を改定しないと消費税分上乗せしていないとみなされるのはやむをえないところですし、長期間固定金額になりがちなオフィスや駐車場の賃料も価格改定していないかぎり消費税を上乗せしていないとみなしやすい契約類型です。

これに対して、税務会計指導業務や広告業務や廃棄物処理業務といった業務は、それぞれの業務ごとに個性が強く(たとえば平成27年度の確定申告と平成28年度の確定申告が同じ業務量とは限らない)、転嫁拒否がそれほど簡単には認定できないのではないか(増税後、あらためて価格交渉をした、という抗弁も認められるのではないか)、と私などは思っておりました。

ところが今回こういう勧告が出たということは、各取引ごとに個性の強い業務でも転嫁法の摘発対象になりうる、ということです。

企業はいまいちど、転嫁法違反がないか、調べてみるべきではないでしょうか。

それにしても、消費税増税されてから2年も経った後の代金をいまさら3%上げろと命じられるのを目の当たりにすると、消費税転嫁法というのは、実は国家による物価引上げ策(デフレ対策)だったのだなと、改めて思わざるをえません。

«本日日経朝刊の下請法の記事について