2019年7月 3日 (水)

下請法の「業として」の講習テキストの変遷

だいぶ以前に、下請法講習テキストの「業として」の説明が変わったことについて書いたのですが、昨年の平成30年版でまた変わったので、これまでの経緯をまとめておきます。

平成25年版p9では、修理委託の類型2の説明で、「業として行う場合」という意味について、

「・・・自家使用する物品の修理を反復継続的に社会通念上、事業の遂行とみることができる程度に行っている場合に、その物品の修理の一部を他の事業者に委託する場合をいう」

と説明されていました。

他の法律での「業として」の解釈とも整合する、オーソドックスな解釈だと思います。

これが平成26年版p8では、

①「・・・社内に修理部門を設けるなど業務の遂行とみることができる程度に行っている場合・・・をいう。」

②「他方、修理に必要な技術を持った作業員が必要に応じ修理に当たるような場合・・・は該当しない。」

というように、「部門」などがないと「業として」にはあたらず、そのため、「必要に応じて」やるのでは「業として」にはあたらない、と大きく解釈が変更されました。

これが平成27年版p8、28年版p8、29年版p8でも、ほぼ維持されました。

ところが平成30年版p8では少し変わって、①が、

「事業者が,「その使用する物品の修理を業として行う場合」,つまり,他の事業者から請け負うのではなく,自家使用する物品の修理を反復継続的に行っており,社会通念上,事業の遂行とみることができる場合に,その物品の修理の行為の一部を他の事業者に委託することをいう。

例えば,自社の工場で使用している機械類,設備機械に付属する配線・配管等の修理を社内に部門を設けて行っている場合は,「その使用する物品の修理を業として行う場合」に該当する。」

というように、少していねいになったのはいいのですが、②が、

「一方,修理を行うことができる設備があったり,修理に必要な技術を持った作業員がいたとしても,他の事業者に委託している修理と同種の修理を行っていない場合は,「その使用する物品の修理を業として行う場合」に該当しない。」

と、再度大きく変更されました。

つまり、平成29年版までは、「必要に応じて」やるだけなら「業として」にはあたらないと明記されていたのですが、平成30年版では、

「他の事業者に委託している修理と同種の修理を行っていない場合は,「その使用する物品の修理を業として行う場合」に該当しない

と、同種事業を行っていない場合には「業として行う場合」にあたらない、という、いわばあたりまえのことしかいわなくなりました。

でもこれって考えてみると、「同種の修理を行っていない」なら、「業として」かどうか問うまでもなく、そもそも「行う」に該当しないわけですから、ほんとうに無意味な記載になってしまったといわざるをえません。

この変更をどうみるかはなやましいですが、基本的には、解釈の変更はないとみていいでしょう。

「社内に部門を設けて」という部分は生きているからです。

なので、「必要に応じて」やるだけなら、やはり社内に部門は設けていないので、「業として」にあたらないと考えていいと思います。

というわけで、平成30年版のこの部分の改正は、意味不明です。なんでこんな修正をしたのでしょう???

 

2019年6月26日 (水)

「会社法務A2Z」に寄稿しました

第一法規の法律実務雑誌「会社法務A2Z」7月号に、

「消費者庁の厳しい目~減額化の背景と不当表示を避けるポイント」

という論文を寄稿しました。

A2z  

最近(ここ1、2年)の消費者庁は、これまでの運用ににくらべても、「えっ!」と驚くくらい厳しいものが連発されています。(まだ表沙汰になっていないものもふくめ、そういう傾向を感じます。)

弁護士のわたしがいうのもなんですが、弁護士が「あらたなリスクがある」「対応が必要だ」と雑誌などで言っているときに、ほんとうにリスクがある場合って実はそれほどなくって、こういう特集をしたいので何か注意点はないかという出版社側の都合であったり、弁護士のマッチポンプであったりすることも多いのではないかと思っています。

(こういうと、とくに国際派の弁護士さんや外国の弁護士さんから「だから日本の弁護士は意識が低くてだめだ」「もっと企業に情報提供しないといけない」とお叱りを受けそうですが、率直な感想です。)

ただ今回の景表法の論文については、ほんとうに、企業はいままでにない厳しい基準で表示を見直す必要がある、という思いをこめながら書きました。

わたしは基本的に消費者庁がどんどん景表法を執行するのには大賛成で、あやしげな商品をあやしげな広告で売っている健康食品とかテレビショッピングとかは、徹底的にやってほしいと思っているのですが、さすがに最近、ちょっと(かなり)やりすぎではないか、と思うことが増えています。

ご興味のある方はご一読いただけると幸いです。

2019年6月13日 (木)

違反事実の申告に対する最近の公取委の対応について

最近、公取委の情報管理室にある違反事件の申告をしたのですが、申告書を提出したあとに説明のために面談の機会を入れてもらおうとしたところ、

「申告は書面でしか受け付けませんので、面談はしません」

と言われてしまいました。

いままで同様の申告では何度も会ってもらっていたので、本当にびっくりしました。

まだ申告書を読んでもらう前にいわれたので、当該事案が「箸にも棒にもかからない」からということではないと思います(個人的には、昨年いくつかった私的独占の立入事件以上に重大な案件だと思っています。)

別の弁護士さんからも、「最近の公取委は、申告しても会ってもくれない」と聞き、わたしだけじゃないんだと思いました(あたりまえですが)。

なんでも、今の担当者によると、「内部の処理は書面でするので、書面しか受け付けない」ということらしいです。

ですが、会ってみてはじめてお互いに分かることもあるわけで、こんな「書面しか受け付けない」という対応は、ちょっとありえないのではないでしょうか?

少なくとも私は今まで経験したことはありませんでした。(それとも、わたしがたまたま運がよかっただけなんでしょうか?)

申告者は、場合によっては違反者からの報復を受けるリスクを負いながら申告しているわけで、こういう対応では、ほんとうにやる気を失ってしまいます。

あまり少ないサンプルで断定的なことを言うのも何ですので、もし最近事件を申告した人で、「自分はふつうに会ってもらった」という方がいらしたら、情報を提供いただけるとありがたいです。(もちろん、「わたしも断られた」というのでも歓迎します。)

そして、もし公取委の人がこれを読んでいたら、改善を強く求めたいです。(担当者にはだいぶ抗議はしました。)

2019年5月22日 (水)

二重価格表示の「過去8週間の過半」の基準時

わたしは二重価格表示が適法となる要件について、

①比較対照に用いる価格(「通常価格」)での販売期間が通算2週間以上、かつ、

②セールの各時点において、その時点から遡る8 週間において、「通常価格」で販売されていた 期間が当該商品の販売期間の過半数を占めており、かつ、

③「通常価格」で販売された日からセール開始時 までに2週間経過していないこと

と説明することが多いのですが(たとえば公開されているものとして東京都のセミナーのスライドの39頁をご覧下さい)、これの②について、価格表示ガイドラインでは

「一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるものとする」

とされているので、「セールの各時点」は「セール開始時点」の間違いではないか、という指摘をたびたび受けます。

セミナー等では時間の関係もあり、「とにかくこの3つの要件だけ、覚えてください」といって理屈を説明しないので、こういう質問が出てしまうのもしかたないなと常々反省しており、今日はこの点についてきちんと説明したいと思います。

実はこの点については、大元他『景品表示法〔第5版〕』(緑本)101頁では、

「・・・最近相当期間価格と認められるためには、

・ 当該商品の販売期間の過半を占めていること(要件a)

・ その価格での販売期間が2週間未満でないこと(要件b)

・ その価格で販売された最後の日から2週間以上経過していないこと(要件c)

の3つの要件を満たすことが必要であると整理できる。」

と整理されており、そのうえで、

「これらのうち要件a〔過半の要件〕とc〔2週間以上経過していないこと〕については、時間の経過によって要件該当性の基礎となる事情が変化していくものであるため、要件の成立時期について、二重価格表示が行われるセールの開始時点で成立していれば足りるのか、それとも、セールが終わるまで常に成立していなければならないのかが問題となる。」

と問題提起されています。

そしてさらに続けて、

「例えば、過去8週間継続して同じ価格で販売してきた商品について、当該価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合、

セールの開始時点では当該比較対照価格は要件aからcを全て満たしているが、

セール期間が2週間となった時点で要件c〔最後の日から2週間以上経過していないこと〕を満たさなくなり、

さらに、セール期間が4週間となった時点で要件a〔過半の要件〕も満たさなくなる(セールが始まった4週間の時点で過去8週間をみると、比較対照価格での販売期間が4週間、セール価格での販売期間が4週間となって、前者〔比較対照価格での販売期間〕が「過半を占める」状況が失われてしまう)が、

このような場合〔要件cについてはセール期間が2週間を超えた場合、要件aについてはセール期間が4週間を超えた場合〕に二重価格表示を継続することが景品表示法上問題とならないのであろうか。」

という形で問題提起がなされ、これに答える形で、

「この点については、原則として、要件c〔最後の日から2週間経過していないこと〕についてはセール開始時点で成立していれば足りると考えられるが、

要件a〔過半の要件〕についてはセールが終わるまで常に成立している必要があり

要件a〔過半の要件〕が満たされなくなった後〔セール開始後4週間を経過した後〕は、セールを継続すること〔例えば、「通常100円のところ、60円!」というセールをしている場合に、二重価格表示をせずに60円で売り続けること〕自体は何の問題もないものの、

当初の二重価格表示を継続することは景品表示法上問題となるおそれがある。」

と、過去8週の過半の要件(要件a)はセール各時点で満たす必要があり、セール開始後4週間で過去8週中過半の要件(要件a)は満たさなくなる、と明記されています。

つまり、「過半」の要件は各時点において判断され、セール開始後4週間を経過すると「過半」の要件を満たさなくなる(各時点で過去8週間をさかのぼると、セール開始後4週間経過するとセール後の販売が過去8週の過半になってしまうから)、ということです。

なお、過去8週の過半の要件がセールの各時点で満たす必要があることは、大元100頁で、より端的に、

「この要件〔当該商品の販売期間の過半を占めていること〕は、・・・セール実施期間を通じて満たされている必要がある。」

とまとめられています。これだけ見ると少しわかりにくいですが、前述のように104頁以下の詳しい説明をみると、「セール実施期間を通じて満たされている必要がある」というのは、「セールの各時点で過去8週の過半を満たしている必要がある」という意味だとわかります。

これを短くまとめると、②の「セールの各時点において、その時点から遡る8週間において、通常価格で販売されていた期間が当該商品の販売期間の過半数を占める」という結論になります。

これは、少し考えてみれば当然のことで、たとえば「通常100円のところ、60円!」という表示をした場合、消費者はセールがいつ始まったかなど(開始時を明記しない限り)知るよしもありませんから、それを見た消費者は、その表示を見た時点において「通常は100円なのだな」と認識するわけです。

「通常」は、過去8週間の過半とされているので、消費者が表示を見る各時点(=セールの各時点)において、各時点からさかのぼる8週の過半でなければ、消費者の上記認識とずれてしまいます。

また、セール開始時に「過去8週の過半」を満たせばいいのだとすると、二重価格表示を何年も続けてよいことになり、これはあきらかに不合理です(2年も3年も前の価格を「通常価格」というのはむりです)。

では二重価格表示を4週間を超えて行いたい場合にはどうすればいいのかというと、比較対照価格がいつの時点かわかるように表示すればいいのです。

たとえば「通常100円のところ、60円! 2019年4月1日よりセール開始」と表示すれば、100円は2019年3月31日からさかのぼる8週間の過半の価格だとわかるので、4週間を超えても問題ないと思われます。

この点については、前掲大元104頁では、前記同書引用箇所に続けて、

「ただし、二重価格表示が行われる時点で、セールの期間が明示されている場合には、一般消費者にとって価格の変化の過程が明かであり、セール期間中に要件a〔過半の要件〕が満たされなくなったとしても、直ちに問題とはならないと考えられる。」

と解説されています。

これも考え方は同じで、「通常100円のところ、60円」という二重価格表示とともに、「セール期間2019年4月1日~5月31日」と表示しておけば、比較対照価格は3月31日からさかのぼる8週間の過半の価格だとわかるから問題ない、ということです。

なお、このように理解しているのは私と緑本だけでなく、たとえば加藤他編著『景品表示法の法律相談〔改訂版〕』229頁でも、

「①の要件〔注・比較対照価格で販売された全期間が直近8週間において過半を占めること〕に関しては二重価格表示を継続している期間中は継続して充足していることが必要であるとされています。」

「そうすると、8週間連続して比較対照価格で販売した後、より安い販売価格でセールするとともに二重価格表示を行っていた場合において、セール期間が4週間を超えた時点で①の要件を満たさなくなるという事態が生じ、比較対照価格は最近相当期間価格といえなくなります。」

というように、同趣旨の解説がなされています。

というわけで、正解はあきらかなのですが、価格表示ガイドラインの記載が、

「一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるものとする」

というように、これ以上ないくらい非常に明確に書いてあるので、誤解を招くのも当然だと思います。

緑本の解説をみても、なぜガイドラインの「セール開始時点から」という文言にもかかわらず、

「これらのうち要件a〔過半の要件〕とc〔2週間以上経過していないこと〕については、時間の経過によって要件該当性の基礎となる事情が変化していくものであるため、要件の成立時期について、二重価格表示が行われるセールの開始時点で成立していれば足りるのか、それとも、セールが終わるまで常に成立していなければならないのかが問題となる。」

のか、さっぱりわかりません。

ガイドラインをみたら誰だって、文字どおり「セール開始時点から」という意味だと理解するだろうからです。

なので、このガイドラインの文言は、私はまちがいだと思います。

(しょせんガイドラインはガイドラインですから、法律の解釈として間違っていても、論理的にはなんらおかしくありません。)

あるいは、ガイドライン制定時は過去8週の過半をいつの時点でみるのかをあまり意識せず、漠然と、「セール開始時点から」とドラフトしてしまって、あとになって、まずい(これでは何年でもセールができてしまう)ことに気づいて、ガイドラインの解釈修正(緑本)という形でしのごうとしているのかもしれません。

(そんなばかなドラフトをすることなんてありうるのか、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、少なくとも当時の公正取引委員会のレベルはそんなもんです。)

というわけで、ここは非常に誤解を招きやすいところなので(というか、どうみてもガイドラインの文言がおかしいので)、ガイドラインを早急に改正すべきだと思います。

間違いを認めるのはけっして恥ずかしいことではありません。

明かな間違いでもけっして認めないのは、政治家だけで充分です。

わたしも今後のセミナー等では、「ガイドラインの文言は違う説明になっているけど、解釈でこのように(上記①~③のように)修正されています」と一言説明しようと思います。

2019年4月24日 (水)

コンビニの24時間営業に優越的地位の濫用を適用するとの報道について

本日(4月24日)の朝日新聞の報道によると、公取委がコンビニの24時間営業に対して優越的地位の濫用を適用する方針を固めたそうです。

「公取委の複数の幹部によると、バイトらの人件費の上昇で店が赤字になる場合などに店主が営業時間の見直しを求め、本部が一方的に拒んだ場合には、独禁法が禁じている「優越的地位の乱用」にあたり得る、との文書をまとめた。」

のだそうです。

とんでもないことだと思います。

これは、フランチャイズシステムによる24時間営業のコンビニというビジネスモデルそのものを否定する暴挙です(あえて強い言葉を用いる必要があると考えます)。

そもそも優越的地位の濫用は、それがなぜ「競争」に悪影響をあたえるのかの理論づけがはっきりしておらず、取引先に不利益をあたえる事業者ががそうでない事業者よりも競争上有利になるのがいけないのだとか、苦しい説明がなされているところです。

また、濫用による競争はめぐりめぐって消費者のためにもならないんだ、という、これもよく意味がわからない説明がなされることもあります。

これらの説明自体、競争への影響の理論(theory of harm)として不十分なものであり、結局、優越的地位の濫用はたんなる弱い者いじめなのだという理解が一般的です(たんなる弱い者いじめであるかぎり、いじめられた事業者は他の取引先に乗り換えればいいだけなので、競争には無関係です。有利な取引先に乗り換えるのがまさに競争なのですから)。

ところが、コンビニの24時間営業はこの2つの説明すら成り立ちません。

まず、現状、ほぼ全てのコンビニが24時間営業をしています。24時間営業をしないコンビニが競争上不利になっている、という事実がありません。

また、24時間営業は消費者に歓迎こそされていても、不利益を与えているということはありません。

わたしが小学生のころ、ローソンが出始めのころのCMで、小学生が絵の具を買い忘れたことに朝気づいて、どうしようか困ったときに、

「そうだ、ローソンがある!」

といって、ローソンに絵の具を買いに行くCMがありました。

まさにそういう経験を何度もしていた小学生のわたしとしては、これは非常にインパクトがありました。

それくらい、当時は24時間営業のコンビニというのは衝撃的だったのです。

(余談ですが最近わたしにヒットしたCMはアマゾンのCMで、孫が独り暮らしのおばあちゃんに久しぶりに会いに行って、おばあちゃんが若いころ死んだおじいちゃんとバイクに乗った写真に写っていたのと同じヘルメットをアマゾン・プライムで注文して、おばあちゃんをバイクでドライブに誘う、というのがあります。今思い出しても胸が熱くなります。このCM作った人は天才じゃないかと思いました。60秒バージョンもよいです)

閑話休題。

20年ほどまえ、和光の司法研修所の寮に住んでいたころは、近くにコンビニがなくって、コンビニっぽい個人経営の雑貨屋は夜8時くらいには閉まってしまって、本当に不便だなぁと思いました。

人間慣れというのは怖いもので、24時間営業のコンビニがあたりまえになると、これがビジネスのイノベーションとしていかにすごいものであったか(社会を一変させたか)を、忘れてしまうのです。

人手不足の世の中であるのはわかりますが、それを独禁法でなんとかしようというのは最悪です。

そもそも24時間営業の規制なんて、競争とは何の関係もありません。

むしろコンビニ業界が「24時間営業はやめましょう」と合意したら、カルテルになりかねません。

また独禁法は、本質的に、ルールが不明確にならざるをえません。

かといって、国会のチェックも経ていない公取委のガイドラインで決めてしまっていい問題でもありません。

規制するなら、フランチャイジーの保護を目的とした特別の立法でやるべきで、夜10時から朝5時までの営業を禁じるとか、明確に違法の要件を定めるべきでしょう。

ちょっと、この問題については、公取委は調子に乗りすぎじゃないでしょうか。

また優越的地位の濫用でやる場合、公取委はけっして排除措置命令は出さず、注意か、せいぜい警告にとどめるはずです。

なぜかというと、裁判所で争われると困るからです。

ひっとしたら、実態調査報告書を出して、その中にルールらしき「公取の独り言」を紛れ込ませるかもしれません。

それを新聞は「公取委がコンビニについてガイドラインを公表」と、誤った報道するかもしれません。

こういう不透明な法運用を、いまや国民生活のインフラであるコンビニに対して許していいとは思えません。

万が一、排除措置命令が出たら、徹底的に、最高裁まで争うべきです。

まだガイドラインにもなっていないので、なんとしてもこの動きは阻止すべきです。

それから、こういう何でも優越的地位の濫用にあたるという執行をやっていると、公取委が、それで自分たちは仕事をしているのだと錯覚してしまうことも懸念されます。

わたしがある依頼者から以前相談を受けた忠誠リベートの公取委への申告案件(申告自体は別の法律事務所が担当)では、結局、証拠がないから調査開始しないという結論だったらしいのですが、排除されている側が忠誠リベートの(噂や伝聞レベルを超えて)確たる証拠なんて得られるはずがないのであって、いったい何のための強制調査権限なんだ、と思いました。

こういう、手ごわそうな相手にはやるべきことをやらないで、いうことを聞きそうな業界にはガイドラインにもとづく注意でお茶をにごすというやりかたは、いいかげんやめたほうがいいと思います。

理論的にも今回の問題は、大きな問題です。

なぜなら、フランチャイジーになろうとする人は、24時間営業だとわかってフランチャイジーになっているからです。

24時間営業はコンビニのビジネスの根幹です。

これほど明確に合意されているものを、やってみたら思ったより大変だったから「濫用」だというのは、ありえないでしょう。

トイザらス審決での濫用行為の定義は、優越的地位がなければ受け入れないような不利益な行為、ということですが、それにそもそもあてはまりません。

優越的地位が発生する、契約成立前で契約するかしないか完全な自由のある段階で受け入れた行為だからです。

一体どういう理屈で濫用だというのでしょうか??

これだけ世の中に広く受け入れらているビジネスが、「正常な商慣習に照らして不当」になりうるとでもいうのでしょうか??

まったくわけがわかりません。

報道をみて公取がいちおう理屈を考えているんだなあと推測できるのは、

「バイトらの人件費の上昇で店が赤字になる場合など」

という部分です。

つまり、契約時と事情が変わった、という理屈です。

似たような理屈としては、下請法で、原材料費が上がったのに値上げに同意しようとしないのが買いたたきにあたる、というのがあります。

でも、これもやっぱり問題です。

というのは、原材料費の場合、基本的には変動費用が想定されていますから、値上げしないとどんなにがんばっても(たくさん売っても)赤字になります。

下手をすれば、売れば売るほど逆ざやで赤字が膨らみます。

でもそういう場合なら、値上げに応じないと買いたたきにあたるというのは理解できます(それが競争法として妥当かはさておき、下請法の解釈としては)。

ですが、コンビニの人件費なんて基本的には固定費なわけです。

ここには、「商品を売れば売るほど赤字が膨らむ」という関係はありません。

たしかに24時間営業をやめれば赤字の時間帯のバイト代を節約して、その時間帯の売上を失ってもなお、収益はプラスになる、ということはあるでしょう。

でもそれを言い出したら、とくに損益ギリギリのお店の場合は、儲かる時間だけお店を開けたい、という理屈が簡単に通ってしまい、コンビニというシステム自体がなりたちません。

そういうわけで、原材料費の高騰の場合の類推から人件費の高騰を例示しているなら、まったく不当な類推です。

というわけで、ちょっと経済学というか会計の知識があれば、原材料費(変動費)と人件費(固定費)を同列にあつかうことのあやうさに気づくはずです。

さらにいえば、下請法の世界では特定の原材料が短期間に2倍にも3倍にも上がるということがありますが、いくら人手不足とはいえ、人件費はそこまで上がってないでしょう。

そういう意味でも、両者を同列にあつかうのは妥当ではありません。

それに、「赤字になる場合など」の「など」がくせ者で、たぶんどのようにでも拡大解釈できるガイドラインになるはずです。

このようにいろいろ考えるとコンビニビジネスに対する萎縮効果は相当なものであるはずです。

それに、「赤字」になったら24時間営業を見直すというのも論理の飛躍があります。

「赤字」を解消するためなら、たとえば本部に支払うロイヤルティを下げるとか、ほかにも方法があるでしょう。

24時間営業の見直しはそれらのさまざま考えられる施策の一つに過ぎないはずであり、24時間営業の部分のみに焦点をあてて優越的地位の濫用を議論するのは、とても恣意的というか、論理的思考ができていないといわざるをえません。

そこまで視野を広げて(抽象度の視点をあげて)はじめてまともな法的議論ができるのであり、「とにかく人手不足が社会問題化しているらしいから、24時間営業を取り締まろう」というのでは、法律論になりません。

こういう動きがあると独禁法弁護士は仕事が増えていいのですが(笑)、社会的には、笑い事ではすまされないことだと思い、苦言を述べさせていただきました。

2019年4月 3日 (水)

不当表示の再発防止策を実施済みの事業者に出す措置命令

不当表示については、事業者がすでに不当表示をやめていても、措置命令を出すことができます(既往の行為に対する措置命令)。

このことは、景表法7条1項で、

「内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既になくなつている場合においても、次に掲げる者に対し、することができる

一 当該違反行為をした事業者

〔以下省略〕」

と明記されています。

ちなみに独禁法の不当な取引制限に対する排除措置命令は、独禁法7条2項で、

「公正取引委員会は、第三条又は前条の規定に違反する行為が既になくなつている場合においても、特に必要があると認めるときは、第八章第二節に規定する手続に従い、次に掲げる者に対し、当該行為が既になくなつている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる。ただし、当該行為がなくなつた日から五年を経過したときは、この限りでない。

一 当該行為をした事業者

〔以下省略〕」

とされていて、「特に必要があると認めるとき」という条件付ではありますが、やはり既往の行為に対しても出すことができます。

つまり景表法の場合は、「特に必要があると認めるとき」でなくても、措置命令を出すことができるのです。

では不当表示をやめた事業者が再発防止策を実施して、措置命令で命じられそうな措置をすべて先回りして講じておけば措置命令はでないのかというと、そんなことはありません。

まず、上述のとおり、景表法には「特に必要があると認めるとき」という要件がありません。

それに、事業者が任意で措置を講じたのと、命令の強制力のもとで実施するのとでは、意味がちがいます。

つまり措置命令の場合には、それに違反すれば2年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科あり)の対象になりますが(景表法36条)、任意の措置ではそのような担保がありません。

措置命令ではたとえば、

「貴社は、今後、本件商品又はこれらと同種の商品の取引に関し、前記の表示と同様の表示を行うことにより、当該商品の取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示をしてはならない」

というような、将来の行為の禁止も命じられるので、これを刑事罰で担保するのかしないのかは大違いです。

したがって、仮に事業者がすでに任意でとった措置を超える措置を命じない場合であっても、措置命令の必要がないことにはなりません。

ましてや、一般消費者への周知が不十分である(たとえばホームページの見えにくいところにこっそり公表する)場合には、措置命令がでても何らおかしくありません。

というわけで、措置命令を避けるためには、公表もしっかりやるし、再発防止策も万全を期する必要があります。

それでも将来の禁止を刑事罰で担保する必要があると消費者庁が考えれば、やはり、措置命令が出る可能性はあると思われます。

平等原則違反だとか、裁量の逸脱だとかいっても、たぶん無理でしょう。

いちど違反をしてしまっている以上、刑事罰などの法的な担保が何もなくても再発しない、というのはかなりしんどいと思います。

2019年3月 8日 (金)

有償支給材の早期決済と資材代金調達利息の支払

NBLの連載を書籍化した
 
鎌田明編著『はじめて学ぶ下請法』
 
という本があります。
 
『下請法の実務』や下請法講習テキストが、古い考え方に接ぎ木をしながら改訂を続けているために根本的に叙述の仕方が古い(説明が理論的でない)のですが、それに対してこの本は、さすがに新しいだけあって、説明が現代的で頭にすっと入ってきます。
 
ですが、ちょっと気になる記述があります。
 
同書p135の有償支給材の早期決済の説明において、A〔発注者〕がB〔下請事業者〕に原材料を有償支給して加工を委託する事例をあげながら、
 
「B〔下請事業者〕が金融機関から融資を受けて先払いをしなければならない資材の対価を支払っていたような場合には、Bが負担していた利子相当額の支払い等も認められることになろう。」
 
と解説されています。
 
しかし、これは行き過ぎだと思います。
 
いったいどんな根拠があって、そのような利子相当額の支払いが認められるのでしょうか?
 
民法をみても、商法をみても、そのような利息相当額の支払いを根拠づける条文はありません。
 
当事者間に合意がなくても認められる利息についての規定としては民事商事の法定利率の規定がありますが、たとえば民法404条では、
 
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。」
 
としているだけであって、5%の利息が認められるのは「利息を生ずべき債権」であることが前提です。
 
利息を生ずべき債権かどうかは特約や法律の規定(民法575条2項の売買代金の利息)によって決まり、金銭消費貸借ですら、当然には利息は発生しません(民法587条、590条参照)。
 
ただし商人間の消費貸借では年6%の利息を支払う必要があります(商法513条、514条)。
 
でも、「下請事業者が有償支給材を早期決済するために融資を受けたときには融資の利息相当額を支払う」みたいな規定は、どこにもありません。
 
もちろん当事者間に合意もないわけですから、そんな利息相当額の請求権なんて、私法上認められるはずがないのです。
 
下請法違反は公序良俗(民法90条)違反だから請求が認められる、というのも無理です。
 
まず、下請法違反のすべてが当然に公序良俗違反になるわけではないですし、仮に公序良俗違反になっても、公序良俗違反の法律行為の効果は無効になるだけなので、積極的な請求権が発生するわけではありません。
 
たとえば、早期決済の合意が無効だとしたら、弁済期の合意の部分が無効になって、弁済期が下請代金の支払時期まで当然に延ばされる、ということはあるかもしれません。
 
ですがだからといって、下請代金の支払時期よりも前に現に有償支給材の代金を支払ったからといって、その早く支払った分の利息を下請事業者が請求できる(積極的な請求権が生じる)わけではないでしょう(公序良俗は「無効」にすぎないので)。
 
まして、有償支給材代金支払いのための銀行融資の利息なんて、認められるわけがありません。
 
ほかに考えられるとしたら、民法709条の不法行為や703条の不当利得でしょうが、下請法違反が当然に不法行為や不当利得になるわけでもないでしょう。
 
ここのハードルを越えるのは非常に高い(たぶん無理)わけです。
 
それなのに、何の説明もなく当然に、「利子相当額の支払も認められる」といってしまうなんて驚きです。
 
こんなこと、法学部生でもわかります。
 
ということで、公取委の下請法の運用をしている人が、いかに民法を知らないか、これをみるとよくわかります。
 
最近、有償支給材の早期決済をした会社が、早期決済期間について、有償支給材代金の利息相当額を商事法定利率6%で下請事業者に払い戻すよう指導を受けていた事例を目にしました。
 
きっと、下請代金の支払いが遅れたら6%の利息を払うんだから、有償支給材代金を早くもらいすぎたなら利息相当額を払い戻す義務があるんだ、という単純な発想でしょう。
 
でも民法をみても商法をみても、弁済期より早く代金を受け取ったら利息相当額を代金から引かなきゃいけないなんていいう規定はありません。
 
というわけで、上記書籍の記述は誤りですし、公取委はこの運用を直ちにやめるべきです。
 
民法の分かっていない人には、こんな大学生にするような説明からしないといけないので困ります。

公取委に出向中の弁護士のみなさん、下請取引調査室の人たちに、民法を教えてあげてください。
 
あるいは公取委職員のみなさんは、出向してきている弁護士さんに聞いてみてください。

2019年2月23日 (土)

会員登録者にクレジットカード番号を記入させてする懸賞企画に関する公取委回答

公正取引615号(2002年1月)37頁「景品表示法相談コーナー」(公正取引委員会事務総局経済取引局消費者取引課)に、
 
「当社は、インターネット上でショッピングサイトを運営し、入会無料の会員サービスを行っている。会員登録してくれた人を対象に抽選で景品を提供したいが、オープン懸賞とすることは可能でしょうか。」
 
という質問があります。
 
これに対して、平成13年4月の「インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて」を引用しつつ、
 
「入会無料の会員登録に際しての景品提供は、その時点で取引を伴うものではありませんので、原則として、オープン懸賞と認められます。」
 
と回答されています。
 
ここまではいいのですが、問題はその次で、
 
「ただし、入会に際して、クレジットカード番号の入力を要件とする等取引そのもに結びつく情報提供を会員登録において要求される場合には、取引に付随した景品提供としてオープン懸賞とは認められません。」
 
と回答されています。
 
しかし、これは間違いです。
 
控えめに言って、上記通達に反します。
 
上記通達では、これ以上ないくらい明確に、
 
「消費者はホームページ内のサイト間を自由に移動することができることから,懸賞サイトが商取引サイト上にあったり,商取引サイトを見なければ懸賞サイトを見ることができないようなホームページの構造であったとしても,懸賞に応募しようとする者が商品やサービスを購入することに直ちにつながるものではない
 
したがって,ホームページ上で実施される懸賞企画は,当該ホームページの構造が上記のようなものであったとしても,取引に付随する経済上の利益の提供に該当せず,景品表示法に基づく規制の対象とはならない(いわゆるオープン懸賞として取り扱われる。 )(図1-1及び図1-2)。
 
ただし,商取引サイトにおいて商品やサービスを購入しなければ懸賞企画に応募できない場合や,商品又はサービスを購入することにより,ホームページ上の懸賞企画に応募することが可能又は容易になる場合・・・には,取引付随性が認められることから,景品表示法に基づく規制の対象となる。」
 
と明記されているからです。
 
取引付随性が認められるのは、商品購入を応募条件にする場合や、購入で応募が容易になる場合に限られる、とはっきり言ってます。
 
カード番号を入力させるだけで取引付随性が生じるなんてどこにも書いていません。
 
解釈論としても、カード番号を入力させるだけで取引付随性ありなんて、どうかんがえても無茶です。
 
カード番号を入力しただけで、そのうち多くの人が買い物するだろうなんて、なんの根拠もありません。
 
公取委のガイドラインをみても、ここまでゆるやかに取引付随性を認めている例はありません。
 
せいぜい、来店者とか、商品パッケージで企画を告知する場合が載っているくらいです。
 
カード番号だけで取引付随性ありなんて言い出したら、インターネットの無料の会員登録の多くが懸賞規制の対象になり、前記通知が骨抜きになってしまいます。
 
というわけで、この取引課の回答はまちがいですから、無視するほかないと思います。

2019年2月15日 (金)

下請法に司法審査が及ばないことの恐ろしさ

下請法のよくないところの一つに、公取委の判断に司法審査が及ばないことがあげられます。
 
というのは、公取委の出す勧告は、いわゆる行政指導に過ぎず、それ自体強制力がないため、勧告を取り消す訴訟を提起することができないからです。
 
条文で確認すると、勧告についてはまず下請法7条1項で、
 
「公正取引委員会は、親事業者が第四条第一項第一号〔受領拒否〕、
 
第二号〔支払遅延〕又は
 
第七号〔報復措置〕
 
に掲げる行為をしていると認めるときは、
 
その親事業者に対し、
 
速やかにその下請事業者の給付を受領し、
 
その下請代金若しくはその下請代金及び第四条の二の規定による遅延利息を支払い、又は
 
その不利益な取扱いをやめるべきことその他必要な措置
 
をとるべきことを勧告するものとする。」
 
と定められています。ほかの違反類型は2項、3項で定めています。
 
そして勧告の効力については8条で、
 
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第二十条〔不公正な取引方法に対する排除措置命令〕
 
及び
 
第二十条の六〔優越的地位の濫用に対する課徴金納付命令〕
 
の規定は、
 
公正取引委員会が前条第一項から第三項までの規定による勧告をした場合において、
 
親事業者がその勧告に従つたときに限り、
 
親事業者のその勧告に係る行為については、適用しない。」
 
とされています。
 
つまり、勧告に任意にしたがう限り独禁法の優越的地位の濫用で処分されることはない、ということです。
 
これ以外に勧告の効力についての規定はありません。
 
たとえば勧告に違反した場合に罰金が科せられるというような規定はありません。
 
これが、勧告は行政指導に過ぎない、という根拠です。
 
なので、勧告それ自体の取り消しを裁判所に求めることはできず、勧告は司法審査の対象にならない、ということになります。
 
そこで、勧告に不服のある事業者は勧告に従わない、という選択肢しかありません。
 
ですが、そうすると次に起こりうるのは公取委による優越的地位濫用の審査です。
 
その結果、「下請法違反はあったけれど、優越的地位の濫用はなかった」という結論になるかもしれません(もしそうなら、そもそも審査が開始されないかもしれません)。
 
それなら、なにも処分なし、なのでいいかというとそういうことでもなくて、勧告がでたという事実は残ります。
 
当然、公取委のホームページや年次報告にも、そのまま残るでしょう。
 
あるいは、審査の結果、優越的地位濫用が認められる、ということもあるかもしれません。
 
ところが、そのときに、優越的地位の濫用で受けた排除措置命令や課徴金納付命令に不服だと言っても、下請法の論点はどこにも出てこないのです(優越的地位の濫用で命令が出ているので当然です)。
 
当然、排除措置命令や課徴金納付命令の取り消し訴訟を起こしても、下請法の論点を争う余地はありません。
 
たとえば、有償支給材の早期決済の禁止に違反したとして勧告を受けた場合、その勧告に不服があっても、裁判で争点になるのは優越的地位の濫用が成立するかどうかだけ、です。
 
そして、たんに有償支給材の決済が製造委託商品の決済より早かったというだけで「濫用」になるというのはかなり無理があるので、優越的地位の濫用は成立しない可能性が高いと言えます。
 
処分されないんだからそれでよさそうなものですが、問題は、公取委が独禁法の調査の対象を広げてくる可能性があることです。
 
もし事業者が勧告に不服で「したがいません」といえば、公取委は、そんな前例を残したくないでしょうから、何が何でも優越的地位の濫用で摘発しようとするでしょう。
 
そのときに、調査の対象を当初の勧告対象行為に絞らなければならないというような(刑訴法で言えば訴因変更の限界のような)制限は、法律上、なにもありません。
 
そうすると、事業者としては、自社のどこをつつかれても優越的地位の濫用にあたる行為はないという自信がない限り、勧告に従わないという選択肢をすることを躊躇することになると思われます。
 
そして、徹底的に社内調査をして大丈夫だと結論付けたうえで「したがいません」といっても、前述のとおり、争いたい論点については裁判所の判断を得られない、ということになります。
 
そのため、下請法の公取委の判断に対する判例というのはなく(民事訴訟で下請法違反を公序良俗違反として争点化したものは多数ありますが)、下請法講習テキストがあたかも判例と同じような役割を果たすことになります。
 
もしどうしても司法審査をえたければ、勧告で信用が損なわれたなどとして国家賠償請求を起こすことくらいしかありません。
 
このように司法審査がはたらかないだけに、下請法の運用は公取委の自制が求められるはずで、安易な運用や解釈の変更は行うべきではありません。
 
ところが、実際には、
 
下請事業者に下請代金の支払とは別途金銭の支払をさせることを(不当な経済上の利益の提供要請ではなく)代金減額として処理したり、
 
従来手形払いだったのを現金払いに変えたときに変更後の取引について従来より1円でも代金を安く設定したら買いたたきにあたるとしたり、
 
有償支給材の早期決済分の利息の支払を指導したりする
 
など、やりたい放題です。
 
そういった下請法独自の争点について争いたくても、裁判所で争う道は事実上ないなのです。
 
やるとすれば国家賠償ですが、国家賠償は立証責任が国民側にあるなど、簡単ではありません。
 
しかしそもそも、勧告がたんなる行政指導であるということすら、一般にはあまり知られていないのではないでしょうか。
 
なので、優越的地位の濫用には当たらない(たとえば代金減額について下請事業者の同意がある)と考えれば、勧告に従わないという事業者がいてもおかしくないと思うのですが、おそらく今までそういう事例はありません。
 
司法審査が及ばない制度というのは法治国家としてどうかと思いますが、法律は国会が決めるものなので公取委の責任ではありませんから、どうこういってもしかたありません。
 
ですが、公取委は司法審査を免れるという重い責任を自覚して、下請法担当部署に優秀な人材を配置するなど、慎重な運用をすべきではないかと思います。

2019年2月 1日 (金)

別途支払を(利益提供要請ではなく)減額とする公取委の運用変更の整理

少し前に、下請代金からの差し引きだけではなく別途支払わせる場合(従前の解釈では不当な利益の提供要請だった)も代金減額になるという公取委の解釈変更があったことについて書きました
 
このあたりの経緯について、公取委への批判を込めて、整理しておきます。
 
まず、下請法講習テキストをたどると、平成25年版のテキストまでは、代金減額は下請代金から差し引くものが該当することを当然の前提とする記述がなされていました。
 
たとえば平成25年テキストp44では、「減額の考え方」のところで、
 
「・・・3条書面に記載された下請代金から減じるものであれば減額として問題となり得る」
 
と記載されていました。
 
「違法な下請代金の減額の例」(p45)をみても、いずれも、下請代金から差し引くものばかりでした。
 
ところが平成26年版のテキストでは、
 
「下請代金の額を「減ずること」には、下請代金から減額する金額を差し引く方法のほか、親事業者の金融機関口座へ減額する金額を振り込ませる方法等も含まれる。」(p46)
 
という一文が加えられ、最新版にも引き継がれています。
 
また下請法運用基準のほうをみると、平成25年版テキストに添付されている当時の運用基準では、3(1)の減額の具体例は、すべて下請代金から差し引くものばかりでした。
 
運用基準については、前記の一文が加えられた平成26年版テキストに添付の運用基準でも、すべて差し引き型だけでした。
 
平成28年の運用基準までは、同様に、すべて差し引き型でした。
 
ところが平成29年テキスト添付の運用基準に
 
「ケ 毎月の下請代金の額の一定率相当額を割戻金として親事業者が指定する金融機関口座に振り込ませること。」
 
という、別途支払型の具体例が、はじめて付け加えられました。
 
(ただこれは、支払金額が下請代金の一定率であることから、下請代金との密接な関連があることが、別途支払型でも減額となることの理由になっていると読むこともできそうな気もします。)
 
許しがたいことに、公取委担当者の解説である、
 
粕渕他編著『下請法の実務〔第3版〕』(平成22(2010)年)p131
 
では、以前このブログでも紹介したように、
 
「例えば、親事業者が下請事業者に対し決算対策協力金等の支払を行わせるとき、
 
これを親事業者が下請代金から差し引くことにより支払わせる場合には減額に該当するが、
 
下請代金の支払とは独立して下請事業者に支払わせる場合には、不当な経済上の利益の提供に該当するものとして扱われる。」
 
と明記されていたいのに、改訂版にあたる、
 
鎌田編著『下請法の実務〔第4版〕』(平成29(2017)年)p135
 
では、この部分の記述がごっそり削除されているのです!
 
これはあんまりにもひどいのではないでしょうか?
 
運用を変えて都合が悪くなったので、まさに、「臭いものに蓋」の発想です。
 
せめて運用を明示的に変えたなら、その旨の説明なり、利益提供要請との区別の考え方なりを示すべきであって、全削除(=説明拒否)なんてひどすぎます。
 
これは、別途支払型を減額としてしまうと、不当な利益の提供要請との区別を説明できなくなることを、如実に表しています。 
 
この点、長澤先生のベストセラー
 
『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第3版〕』
 
では、不当な利益の提供要請との区別の(公取委運用にしたがった)基準の整理についても、
 
「その基準は明確ではないが、発注代金の額に一定率を乗じて得た額を徴収する場合には、代金控除であれ別途の支払であれ、対価の減額と取り扱われる傾向がある」(p206)
 
と、説得力をもって論じられています(ただし長澤先生ご自身は、別途支払型を減額とするのには反対)。
 
なお、
 
「その基準は明確ではないが」
 
といわれているのは、たとえば下請法運用基準7-1(3)で、上記基準に反して、
 
「親事業者は,食料品の製造を下請事業者に委託しているところ,取引先に支払っているセンターフィーの一部を負担させるため,下請事業者に対し,センターフィー協力費として,下請代金の額に一定率を乗じて得た額を提供させた。」
 
というのが不当な経済上の利益の提供要請だとされていることなんかを意識されているのではないか、と思われます。
 
また実際の勧告事例については、同書のp206の脚注323によると、どうやら、平成18(2006)年10月27日のイズミヤ事件が別途支払を減額にした最初の事例みたいですが、同様の運用が平成24年頃から増えていることがわかります。
 
なお、私も、別途支払型まで減額で処理するのは問題だと思います。
 
「減額」という文言とこれまで積み上げてきた実務も大きな理由ですが、実質的に考えても、差し引き型と別途支払い型では下請事業者への不利益が大きく異なります。
 
つまり、差し引き型(=ほんらいの減額)では、下請事業者に有無を言わせず下請代金を減額して支払うわけですから、下請事業者の資金繰り次第では倒産すらしかねません。
 
これに対して別途支払い型の場合には、いちおう下請事業者に「別途支払う」という任意のアクションがあるわけですから、手持ちの現金がなければ支払えないはずであり、現に支払えてるということは少なくとも倒産するまでの影響はなかったわけです。
 
このように、差し引き型と別途支払い型は、質的に異なるのです。
 
それが従来の公取委の解釈の実質的な根拠だったのではないでしょうか?
 
これはそもそも論ですが、減額(4条1項3号)だろうと、利益提供要請(4条2項3号)だろうと、違反は違反なのだから大差ないだろう、というとぜんぜんそんなことはありません。
 
というのは、減額は1項なので外形上3号にあたれば違法になりますが、利益提供要請は2項なので、外形上2項3号にあたるだけでは違反にならず、さらに、下請事業者の利益を不当に害する(2項柱書)ことが必要になるのです。
 
この違いは決定的です。
 
これだけの違いがあるからこそ、減額は差し引き型のみとする理由があるのです。
 
こういうことを考えると、別途支払い型まで減額にするのには相当説得力のある理論的根拠が必要だと思うのですが、公取委ではそのあたり、ちゃんと議論されたのでしょうか?
 
それからもう一つ、有償支給材の早期決済の条文との対比があります。
 
つまり、有償支給材の早期決済(下請法4条2項1号)では、
 
「自己に対する給付に必要な半製品、部品、附属品又は原材料(以下「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に、
 
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、
 
当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に、
 
支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し、
 
又は
 
当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること。」
 
というように、下請代金から控除する場合(差し引き型)と、支払わせる場合(別途支払型)とを、明確に区別しているのです。
 
たしかに、早期決済の方は「控除」という文言を使い、代金減額では「減額」という言葉を使っていて、両者は異なるのですが、異なることに大きな意味はないというべきでしょう。
 
平成30年版下請法テキストp75でも、「控除」という言葉を使った理由として、
 
「これ〔=控除〕は,民法上の相殺が成立したか否かとは関係がなく,そのため,「相殺」という民事法上の用語ではなく,「控除」という一般的な用語が用いられている。」
 
と説明していて、 民法上の相殺ではないことを示すだけの意味であって、「減額」と区別する意味があるわけではありません。
 
このように、早期決済でわざわざ差し引き型と別途支払型を明示的に区別しているのですから、代金減額でいう「減額」は差し引き型に限ると考えるのが自然です。
 
以上、別途支払型を減額として処理する解釈変更について整理しました。
 
やはり平成26年テキストが、ひとつのターニングポイントになっているようです。
 
それにしても、こんな大事な解釈変更を、なんら明示的な(=変更であることを明示しての)アナウンスもなくやってしまうのもひどい話だし、公取委担当者解説書にいたっては、論点自体存在しないことにしてしまうなんて、ほんとうにひどいと思います。
 
わたしは最近、公取委の下請法運用で、ほんとうにわけのわからないことをいわれた(最終的には引っ込めてもらったけれど)経験があったり、民法上はまったく根拠のない指導がなされているのを聞いたりしているので、正直、最近の公取委の解釈力は非常に劣化しているのではないか、と強く懸念しています。
 
今回の解釈変更も、公取委が問題の本質を理解したうえで組織として議論を尽くして行ったのではなく、いち担当者が従来の運用をあまり理解せず、上もそれを見落とした、という非常に情けないレベルの話なのではないか、と推測しています。
 
なんでも先例重視が良いわけではありませんが、法律の運用はいったん厳しくするともとに戻すのはたいへんなので、変えるにはそれ相応の覚悟が必要だと思います。

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