2012年5月11日 (金)

景表法上のいわゆる「カード合わせ」について

2種類以上のカードの一定の組み合わせを揃えると景品がもらえる、という方法での景品提供(いわゆる「カード合わせ」)は、景表法上、一律に禁止されています。

例えば、

①ポテトチップス1袋に

②プロ野球選手のカードが1枚付いていて、

③プロ野球選手のカードを一定種類(2種類以上)揃えると、

④豪華(でなくてもいいですが・・・)景品、例えばトロフィーがもらえる、

というようなものです。

「カード合わせ」というのは、あくまで「景品類」の一種として規制されているもので、他の「景品類」の規制のように景品類の額によって規制するのではなく、「カード合わせ」という景品提供方法を一律に禁止する(提供方法の制限)であることが特徴です。

さて、この「カード合わせ」の仕組みは、どのモノが、どの要件に該当するのか、ちょっと分かりにくいので、条文に従って整理しておきます。

景表法3条(景品類の制限及び禁止)では、

「内閣総理大臣は、・・・景品類〔先取りすれば、設例では、これがトロフィー〕の提供に関する事項を制限し、又は景品類の提供を禁止することができる。 」

とされています。

つまり、内閣総理大臣は、基本的に自由に「景品類」を制限・禁止できるのです。

そこで重要になってくるのが、景表法3条における唯一の絞りである「景品類」の定義です。

景表法2条2項では、「景品類」を、

「①顧客を誘引するための手段として・・・

②事業者が自己の供給する商品又は役務の取引・・・に付随して相手方に提供する・・・

③経済上の利益であつて、

④内閣総理大臣が指定するもの」

と定義しています(これを先ず押さえて下さい)。

ポテトチップスの例では、まさにポテトチップスが「自己の供給する商品又は役務」です。

トロフィー(③経済的利益+④指定)をエサにして(①誘因手段)、ポテトチップス(②商品役務)を買わせる、という構図ですね。

ちなみに、④の指定については、

「不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件」(「定義告示」)

で、「景品類」を、

「一 物品及び土地、建物その他の工作物

二 金銭、金券、預金証書、当せん金附証票及び公社債、株券、商品券その他の有価証

三 きよう応(映画,演劇,スポーツ、旅行その他の催物等への招待又は優待を含む。)

四 便益、労務その他の役務」

に限定しています。

なので、例えば景品類として映画(電子データ)をインターネットで配信する、というような場合、一~四のどれにも当たらないという解釈もあり得ますが、電子データも「物品」に該当すると考えるべきでしょう。

電気も「財物」(刑法235条)に該当すると判示した、刑法で有名な電気窃盗事件というのもありますし。

では「プロ野球選手のカード」は、「カード合わせ」の中でどのように位置付けられるのかというと、「プロ野球選手のカード」自体は、「カード合わせ」の方法で提供されることが一律禁止されるところの「景品類」ではありません。

もちろん、プロ野球選手カードも「景品類」であることは間違いないのですが、ポテトチップス1袋に1枚必ずプロ野球選手カードが付いてくることを前提にすると、「プロ野球選手カード」自体は、「総付景品」(←くじなどでなく、商品購入者全員に付いてくる景品類、という意味)ということになるので、取引価格の20%(取引価格が200円未満の場合は200円)までOKです。

そして、ポテトチップスは1袋200円未満でしょうから、プロ野球選手カードの価値が200円未満である限り、OKということになります(カード自体はほとんどタダみたいなものでしょうから、総付景品として結論はOK)。

さて、ようやく「カード合わせ」の定義ですが、これについては、景表法3条を受けて

「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年3月1日公正取引委員会告示3号)(「懸賞制限告示」)

が定められており、同告示5項では、いわゆる「カード合わせ」について、

「・・・二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票〔=プロ野球選手カード〕のうち、

異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による

景品類〔トロフィー〕の提供は、

してはならない。」

と、景品類の額にかかわらず一律禁止とされています。

ここで、「符票」という用語は、同告示には定義はなく、実は広辞苑にも載っていない言葉なのですが、「符票」というもの自体で何か「カード合わせ」の要件を限定する趣旨ではなく、要は、カード合わせで組み合わせるのに使えるような、絵とか文字とか符号が記載されるもの、というくらいの意味でしょう。

(ちょっと調べたところ、唯一、「鉄道運輸規程」40条に、

「鉄道ハ運送ノ為手荷物ヲ受取リタルトキハ手荷物符票ヲ交付スベシ」

という条文がありました。あと42条。)

なので、「符票」は、カードのような有体物である必要はなく、電子データ等でもまったく構わないと考えられます。

さらに、上記のポテトチップスの例では、

①お店が買わせたい商品=ポテトチップス

②2種類以上組み合わされる符票=プロ野球選手カード

③景品類=トロフィー

でしたが、商品(①)そのものが符票(②)であっても(比喩的に書けば、「商品/符票」(しょうひん・スラッシュ・ふひょう))、「カード合わせ」に該当すると考えられます。

つまり、符票そのものをお金を出して買ってもらう、というパターンです。

この場合、「符票そのもの」に経済的価値が全く無いのであれば、そもそも「符票そのもの」が、事業者が買わせたい「商品」といえるのか、

つまり、

「符票そのもの」は、むしろ景品類を当てるためのクジみたいなものではないのか、

とすると、翻って、

「商品を買わせるために付けるオマケ」という、景品類の概念に入らないのではないか、

という議論があり得るように思います。

しかし、

①「符票/商品」自体に価値を見出してお金を出すのか、

それとも、

②もっぱら「景品類」欲しさにお金を出すのか、

というのは紙一重ですから、仮に②の場合でも、「景品類」の概念に入るといって差し支えないでしょう。

(景品に引き換えられるスクラッチカードが欲しくて、元の商品(例えばハンバーグ)は捨ててしまう、という人がいても、ハンバーグはあくまで「商品」でしょう。)

なお、どの種類の文字・絵・記号等の「符票」を購入できるかを、購入者自身が選択できる場合には、「カード合わせ」には該当しません。

というのは、符票の購入者自分が自分で符票の種類を選べるなら、景品類(トロフィー)がもらえる特定の組み合わせも自由に揃えることができるでしょうから、カード合わせの定義中の、

「・・・二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供」

の、

「懸賞〔=くじなど〕による」

の部分を満たさないからです(笠原編「景品表示法(第2版)」p185)。

なお、

「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準について」(「懸賞運用基準」)

の4(1)では、

「異なる種類の符票の特定の組合せの提示を求めるが、取引の相手方が商品を購入する際の選択によりその組合せを完成できる場合(カード合わせ以外の懸賞にも当たらないが、「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」その他の告示の規制
を受けることがある。)」

はカード合わせには該当しないと明記されていますが、所詮運用基準(=法的拘束力無し)とはいえ、当然のことです。

あと、特にどこで課金しているのかよく分からないたぐいの商品・役務の場合、カード合わせの仕組みによっては、何が本来お店が買わせたい「商品」なのかがよく分からない、ということがあり得ますが、事業者は何かを対価にお金を得ているはずなので、お客さんが対価を支払っているところのモノを、「商品」あるいは「商品/符票」と捉えれば良いと思います。

2012年5月10日 (木)

「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」の一部改定について

「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(以下「インターネット広告ガイドライン」)が一部改正されました。

具体的には、

「商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、

口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、

自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、

口コミサイト上の評価自体を変動させて、

もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、

提供する商品・サービスの品質その他の内容について、

あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること。」

というのが、「問題となる事例」に加えられました。

今年に入ってから「食べログ」のやらせ投稿が大きく報道されたのを受けて改正したものですね。

さてこの問題については以前このブログで書いたことがあり、要するに、

「景表法は品質等の内容について優良と誤認させるさせることを禁止しているのであって、表示の主体が利害関係の無い第三者であると偽ること(「なりすまし」や「やらせ」)は景表法では禁止できないのではないか」

といったことを申しました。

今回の改正は、この問題に、ガイドラインレベルではありますが、正面から対応しようとするものと言えます。

私も、こういうガイドラインを定めることによりやらせ投稿が無くなるなら大いに結構なことであり、消費者庁の積極果敢な姿勢を大いに評価したいと思いますが、でも、法律の解釈としては、今回の改正はやっぱりちょっと無理があるかなぁと感じます。

では、今回の改正を分析してみましょう。

まず最初に言えるのは、追加された実例は、「やらせ請負業者」みたいな者に依頼する、まさに食べログのケースですが、やらせ業者に依頼することは問題の本質ではなく、自分で投稿を書き込んでも景表法上は同じ法的評価であるはずです。

次に、景表法の表示主体に関して(株)ベイクルーズによる審決取消請求事件(東京高判平成20年5月23日)では、(ちょっと長いですが引用すると)

「・・・〔景表〕法4条1項3号に該当する不当な表示を行った事業者(不当表示を行った者)の範囲について検討すると,

商品を購入しようとする一般消費者にとっては,通常は,商品に付された表示という外形のみを信頼して情報を入手するしか方法はないのであるから,

そうとすれば,そのような一般消費者の信頼を保護するためには,

「表示内容の決定に関与した事業者」

が法4条1項の「事業者」(不当表示を行った者)に当たるものと解すべきであり,

そして,「表示内容の決定に関与した事業者」とは,

「自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」のみならず,

「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」や

「他の事業者にその決定を委ねた事業者」

も含まれるものと解するのが相当である。

そして,上記の「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」とは,

他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了承した事業者をいい,

また,上記の「他の事業者にその決定を委ねた事業者」とは,

自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者をいうものと解せられる。」

といっています。

この事例は、セレクトショップが仕入先の説明を信じたら虚偽だった、という気の毒な事例ですが、ここではまず、

「・・・「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」とは,

他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了承した事業者をい(う)」

という点に着目したいと思います。

ここで、「自己の表示とすること」というのは、表示を見る一般消費者の立場から見て商品を提供する事業者(「自己」)が主体となって行っている表示と受け取られる表示をすることを了解することを指すのではないでしょうか。

つまり、他人が自己の商品についてああだこうだということを了承することではなく、表示の責任主体となることを了解することを指すのではないか、と思われます。

そして、「自己の表示とすること」というのは、論理的に考えて、上記判決の

「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」

だけに必要な要件ではなくて、潜在的には

「自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」

や、

「他の事業者にその決定を委ねた事業者」

にも、当然の前提として要求される要件であると考えざるを得ないと思うのです。

そうすると、口コミサイトへのやらせ投稿が「自己の表示」というのは、相当無理があると思うのです。

次に注目したいのは、

「・・・「他の事業者にその決定を委ねた事業者」とは,

自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者をいうものと解せられる。」

という部分です。

ここでの、「自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず」というのは、自己の表示として表示することを当然の前提としているのではないでしょうか。

つまり、他人がああだこうだということを、事業者が「決定」することは本来できないはずです。

そして、「やらせ投稿」の場合には、「自己が表示内容を決定すること」が、本来できないはずのものであるわけです(本来できないことを、他人になりすまして、できたかのような外観を作出するところが問題なわけです)。

以上のような分析からすると、やっぱり「やらせ投稿」を事業者の「自己の表示」というのには、相当無理があると思うのです。

(なお、判決の「不当表示を行った者」の究極的な定義である、「表示内容の決定に関与した事業者」という字面(じづら)だけを見れば、やらせ投稿も「表示内容の決定に関与」していることは明らかではないか、という議論がありえますが、それは形式論に過ぎるのであって、やはり「自己の表示」であることは当然の前提となっていると読むべきです。)

このように、今回のガイドライン改正は、解釈論としてはちょっと難があるのですが、繰り返しになりますが、こういう積極果敢な態度は大いに評価されるべきです(消費者庁も、こういう微妙な解釈論が気になるからこそ、改正前ガイドラインでは一番大きな問題には踏み込まないような、奥歯に物が挟まったようなガイドラインになってしまったのでしょう)。

なぜなら、やらせ投稿が無くなることで困る人なんて、世の中に一人もいないからです。

この点、法律の委任を超えた運用をすることで誰かが得をして誰かが損をする、医薬品のネット販売禁止のような場合とは違います。

さて、最後に今回の改正の中身をちょっと詳しく見ておくと、追加された違反事例は、書き込みが

「多数」

であることを強調しています。

あくまで例の一つなので断定はできませんが、1つだけ書き込みをしたに過ぎないような場合には違反に問わない、というホンネが透けて見えます。

(でも理屈の上では、表示主体を偽るのも不当表示になる、あるいは、

「自己の表示」ではなくても、「自己の商品に関する表示」であれば不当表示になる、

という見解(今回、消費者庁が立ったと思われる見解)に立つ限り、1つだけの書き込みでも多数の書き込みでも、区別する理由は無いと思います。区別するとすれば、書き込みが1つだと、「著しく優良」とは認められない、ということでしょうか。でも、例えば、そもそもコメントが少ない本の書評とかだと、1つのやらせ投稿でも、それにつられて消費者が買ってしまうことはあるので、書き込みが1つだから「著しく」ではないとは、必ずしもいえないと思います。)

また、改正案は、第三者からの「評価」を誤認させる点を強調しています。

この点も面白い点ですが、直接的には「評価」を誤認させるものでも、間接的には「品質」を誤認させることは明らかですから、これは解釈論上問題ないのでしょう。

昔、白石先生の「独禁法講義」に、ケーキ屋が「ミスター(←長嶋茂雄さんのことです)も絶賛」と表示するのが不当表示にあたる、という例が挙げられていましたが、それを思い出します。

といったことを考えると、

①「ミスターも絶賛」と店が主体になって(ウソの)広告する

のと、

②口コミサイトに「私(投稿者)が絶賛」と多数(ウソの)投稿をする

のとを比べて、①は違法だけど②はそうでない、というのは、確かに、如何にもバランスが悪い気はします。

2012年5月 8日 (火)

独禁法25条の損害賠償請求権を排除する合意の有効性

独禁法25条では、独禁法違反をして他人に損害を与えると、違反者は無過失損害賠償責任を負うと定められています。

さらに26条1項では、この請求は排除措置命令や審決が確定してからでないとできないこととされ、同条2項では、排除措置命令や審決が確定してから3年で時効になることが定められています。

さて、この独禁法25条の請求を排除する旨の合意(特約)を締結した場合、その合意は有効でしょうか。

被害者と加害者との間に「特約」があるということは、当然、何らかの契約関係がある場合でしょうから、例えば優越的地位濫用のような場合を考えると良いと思います。

また、正面切って「独禁法25条の請求はしない。」というような特約を結ぶことは考えにくいので、もっと一般的に、例えば、

「本契約に基づく損害賠償請求の額は、取引額の○○%を上限とする。」

というようなものを想定して下さい。

なぜこのような問題を考えるのかというと、

「独禁法25条の請求は、独禁法という公法に根拠を置くものなので強行法規であり、当事者の合意で排除することはできないのではないか」

という問題意識があり得るからです。

しかし、結論としては、かかる合意も、一応有効と考えてよいと思います。

(「一応」と書いたのは、かかる損害賠償の制限が一方当事者に著しく不利であるために、かかる制限そのものが優越的地位の濫用で無効となることがあり得るからです。

ただし、優越的地位濫用を根拠にする独禁法25条の損害賠償請求権の制限自体が一律に優越的地位濫用となるわけではなく(制限された範囲内での補償でも被害者救済に支障がないということはあり得ます)、ケースバーケースで判断すべきものと思われます。)

なぜなら、独禁法25条の請求権を一般の不法行為(民法709条)の請求権よりも格上なものと扱う理由は何ら無いからです(独禁法25条は強行法規ではない)。

したがって、民法709条の場合と同一の要件の下で、当事者間が独禁法25条を排除する特約を結ぶことも可能であると考えます。

若干根拠らしきものを挙げると、独禁法25条の請求権は、民法709条の「特別規定」であると考えられており(根岸編「注釈独占禁止法」p587)、「特別規定」ということは、法的性質としては独禁法25条の請求権は民法709条と同じものである(公法だから、という「色付け」や「格上げ」はない)ということだと思います。

ただし、注意が必要なのは、民法709条の請求権ですら、これを排除する特約は、加害者に故意・重過失があるときには無効である、とするのが判例の傾向であるという点です(民法415条の債務不履行責任を排除する特約も、同様です)。

例えば、最高裁平成15年2月28日判決(判例時報1829号151頁)では、宿泊客がフロントに預けなかった場合にはホテルは15万円を超えて滅失棄損の責任を負わないという宿泊約款は、ホテルに故意重過失がある場合には無効であるとされています。

約款ではなくて明示的な契約の場合でも、例えば東京地裁平成15年5月17日判決(判例時報1849号59頁。確定)では、地中に障害物があった場合に要する費用は買主負担とするという特約が、売主に故意重過失があったとして無効とされています。

ということは、独禁法25条の請求権を排除する特約も、加害者(違反者)に故意重過失がある場合には無効とされるであろうと予想されます。

(何についての故意重過失かが一応問題ですが、不法行為の故意過失の対象が権利侵害その他違法と評価される事実についての故意過失と考えられていることから、独禁法25条での故意重過失も、被害者の権利侵害その他違法と評価される事実についての故意・重過失と考えられます。

つまり、「加害行為が(民法だけでなく)独禁法に違反すること」は、たんなる法的評価の問題であり、故意・重過失の対象ではないので、「民法上の不法行為になるかもしれないとは思っていたが、まさか独禁法違反になるとは思わなかった」という弁解は通じない、ということです。)

ということは、当事者間に契約関係がある典型例である優越的地位の濫用を例に取っても、加害者(違反者)には故意がある場合が多いでしょうから、独禁法25条の請求権を排除する特約は、結果としてほとんどの場合無効になる、ということになります。

いずれにしても、「独禁法25条を排除する特約は有効か」という問題には、独禁法独自の問題はなく、民法の解釈論だけで答えが出るものだと思います。

2012年3月28日 (水)

代理店の談合行為とメーカーの責任

複数のメーカーが、自社の代理店を通じて、自治体に商品を販売しているとしましょう。

よくあることですが、自治体の入札参加資格上、入札に参加できるのは代理店だけだとします。

さて、メーカーの法務部が、営業担当者から、「どうやらうちの代理店が、他社の代理店と、入札談合をやっているらしい」と聞いたとします。

この場合、法務部員はどうすればいいでしょうか。

常識的には、談合に関わらないのが良いに決まっているので、代理店に談合をやめさせるなり代理店を解約するなりすべきですが、売り上げの目標もあって、どうしたらいいか迷うこともありますよね。

(ちなみに、行政事件である独禁法違反では、刑法のような、幇助とか共犯とかいう概念はありません。被害者からの損害賠償請求(民事)では、共同不法行為者になる可能性も検討する必要はありますが。)

そこで、道義的・倫理的にはさておき、純粋に自社の独禁法リスクという観点から考えてみます。

一つの考え方としては、

「自社が談合をやっているわけではなくて、代理店が勝手にやっているだけなのだから、放っておいたらいい(おかげで商品も良い値段で売れているんだし)。」

という考え方も、あるかもしれません。

しかし、この考え方は、かなり危ないです。

少なくとも、徹底的に事実関係を調べるべきでしょう。

というのは、事実関係次第では、メーカー自身が談合をしていたと認定される可能性があるからです。

例えば、メーカーの営業担当者が、代理店の担当者から、

「今度の入札ではあそこが落札することになっていますけど、その次の入札ではうちが落札できることになってますから」

と聞かされていたり、さらにそれぞれの入札での各代理店の応札価格まで知らされていたりしたら、メーカー自身が代理店を通じて情報交換していたと認定される可能性が否定できません。

さらに、メーカー側から代理店に対して、

「今度の案件は何としてもうちが取らないといけないから、何とかしろ」

みたいにいうのも、通常の事業活動の文脈であれば、メーカーが代理店に「がんばって営業しろ」と発破をかけているだけ、とも言えますが、談合の存在を知りつつこういうことを言うと、受注調整を指示しているとも取られかねません。

感覚的には、メーカーがかなり深く談合のスキームに関与していない限り、メーカー自身が談合の主体となる可能性は低いと思いますが、それは、よくよく調べた末に分かることです。

なので、結論としては、

①メーカー自身が法的責任を問われるか否かにかかわらず、代理店の談合を止めさせる(場合によっては代理店契約を解約する)、

②いずれにせよ事実関係を詳細に調査する、

というのが正解でしょう。

自社が直接入札に参加していないケースでは、リニエンシーを申請するのかも悩ましいですが、これも一般論としては、「そこまではしない」ということが多いのでしょう(メーカー自身が違反者とは言えないことが多いので)。

リニエンシーを申請しない理由としては、いずれにせよメーカー自身は自治体に対する売上は無いので(ただし、メーカーから代理店への売り切りであることが前提)、そもそも課徴金がかからずリニエンシーを申請するメリットが乏しいからです(元々ゼロのものがゼロになるだけ)。

リニエンシーは、後でよく調べたら違反事実が無かった(上記説例では、「自社は違反者ではなかった」)という場合には事後的に取り下げることも可能ですが、いったん申請してしまうとどうしてもバイアスがかかりがちで、違反事実がなかったからといって取り下げると、虚偽のリニエンシー申請をしたといって減免自体が取り消される可能性も否定できないので、悩ましいところです。

もしこういう悩ましいケースがあったら、公取委にも柔軟に対応して欲しいと思います。

さて、上記説例のバリエーションとしては、

①複数のメーカーが同じ代理店(ディーラー)1社を使っていて、

②その代理店の下に、各メーカーの商品を扱う複数のサブ・ディーラーがぶら下がっていて、

③サブ・ディーラーが入札に参加しており、

④①のディーラーが談合を取り仕切っている、

というパターンもあります。

この場合も、メーカーが、ディーラーを通じて、他のメーカーの情報を入手していたりすると、ディーラーを通じてメーカーが談合をしていたと認定されかねません。

アメリカでは、車輪の形になぞらえて「ハブ・アンド・スポーク(hub and spork)型」と呼ばれるようなカルテルですが、自社のやっていることはまさにこれにあたると理解できないこともあるので、注意が必要です。

2012年3月23日 (金)

一部商品だけ拘束している場合と「市場における有力なメーカー」基準

流通取引慣行ガイドラインでは、以下の場合について、「市場における有力なメーカー(あるいは、製造業者)」が行う場合には違法、という基準を採用しています。

①単独の直接取引拒絶(第1部第三)

②排他条件付取引(第1部第四、第2部第二2)

③相互取引(第1部第五)

④対抗的価格設定による競争者との取引制限(第1部第六)

⑤株式取得(第1部第七2(1)①)

⑥厳格な地域制限(第2部第二3)

⑦リベート(第2部第三)

これをさらに整理すると、

A.他者排除行為(①②③④⑤⑦)

B.競争停止行為(⑥)

に分けられます。

どのようなものが「市場における有力なメーカー」になるのかというと、

①シェアが10%以上または

②順位が上位3位以内であること、

が、一応の目安とされています。

さて、メーカーが、その製造する一部の商品について拘束を行っている場合、①の「シェア」、あるいは②の「順位」は、当該一部の商品のシェアや順位と考えるべきでしょうか、それとも、同一商品市場に属する限りは全商品を含めたシェアや順位になるのでしょうか。

例えば、スポーツシューズも紳士靴も婦人靴も作っている総合靴メーカーが、一部の人気スポーツシューズについて拘束条件付取引を行った場合、(独禁法上の市場は「全ての靴」になりそうですが)上記①の「10%」にカウントされるのは、

①拘束対象の当該人気スポーツシューズのシェアなのか、それとも

②同メーカーが製造する全商品を合算したシェアなのか、

という問題です。

この問題は、問題となる行為が他者排除行為なのか、競争停止行為なのか、によって答えが異なるように思われます。

まず、分かりやすい競争停止行為(厳格な地域制限だけですが・・・)について考えてみましょう。

厳格な地域制限の反競争性というのは、要するに、小売店がテリトリー外で商品を販売することを禁じることによって小売店間の競争が無くなる、ということです。

ですので、メーカーが商品の一部(例えば、人気スポーツシューズ)についてだけ厳格な地域制限を行っている場合、競争が停止されるのは当該人気スポーツシューズだけですので(他の商品については地域制限していないので「価格が維持されるおそれ」があるはずがない)、①(当該人気スポーツシューズのシェア)と考えるのが正しいと考えられます。

つまり、拘束対象の人気スポーツシューズの市場(靴全部の市場)におけるシェアが1%なら、「有力なメーカー」基準には該当しない、ということになります。

なお、これに対しては、「地域制限の対象商品のシェアが小さくても(例えば1%)、全商品のシェアが大きければ(例えば40%)、小売店はそのメーカーの言うことを聞かざるを得ないのだから、全商品のシェアをカウントすべきではないか。」という異論があり得ますが、競争停止行為の場合は小売店に対する強制性というのは問題にすべきでないので、そのような見解はおかしいと思います。

この点、ガイドラインは、「メーカーが厳格な地域制限をする限りは、自分の製造する全商品について拘束するだろう」という発想で作られているような気がしないでもないですが、現実の世の中では一部の商品について拘束する(拘束するメリットのある商品だけ拘束する)ということは、いくらでもあります。

では、他者排除行為についてはどうでしょうか。

例えば競争者との取引の制限については、

「市場における有力な製造業者・・・が、取引先販売業者に対し、自己の競争者と取引しないようにさせることによって、競争者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるようにするとともに、その実効性を確保するため、これに従わない販売業者との取引を拒絶すること」

は、不公正な取引方法に該当するとしています(その他の取引拒絶、排他条件付取引)。

まさに、「他に代わりうる取引先を容易に見出すことができなくなること」、つまり流通網を閉鎖(独り占め)してしまうことが問題です。

例えば、シェア40%の靴メーカーが排他条件付取引をすると、単純に考えて、40%の靴小売店については他のメーカーはアクセスすることができなくなります(「まだ60%あるからいいじゃないか」という気もしますが、他のメーカーも排他条件付取引をしているかもしれないので。。)。

そこで、このシェア40%の靴メーカーが、シェア1%相当の人気スポーツシューズについてだけ排他条件付取引をすれば、どうなるでしょう。

具体的には、

①全取引先小売店に対して自社の人気スポーツシューズを取り扱わせている場合に、競合他社のスポーツシューズの取扱いを禁止する、

②自社の人気スポーツシューズを取り扱わせているのは一部の小売店(スポーツシューズ専門店)である場合に、当該専門店に、競合他社のスポーツシューズの取扱いを禁止する、

というパターンがあると思います(他にもあるかも知れません。少なくとも、①と②の中間はありそう)。

①の場合には、単純計算で流通網の40%が閉鎖されるので、排除されるのはスポーツシューズメーカーだけである(紳士靴や婦人靴は排除されない)にもかかわらず、当該メーカーの全商品のシェアを基準に「有力なメーカー」か否かを判定するのが合理的なように思われます。

これに対して②の場合には、閉鎖されるのは当該専門店だけなので、当該人気スポーツシューズのシェアに基づいて「有力なメーカー」か否かを判定するのが合理的なように思われます。

しかし、ガイドラインはたぶんそのような細かいことは考えていなくて、当然に、全商品のシェアを基準に「有力なメーカー」かどうかを判定すると考えているのでしょう。

なぜなら、②の場合に全商品のシェアを基準に「有力なメーカー」に該当するとしても、次の「他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなる」という要件を満たさないので、違反でないという結論はいずれにせよ導けるからです。

こう考えると、そもそも「有力なメーカー」基準というのは意味があるのか(代わりうる取引先を見つけることの容易性一本でいいのではないか)、という至極まともな疑問が湧いてきます。

しかし、ガイドラインというのはあくまで独禁法の素人にも分かりやすくなければならないので、「有力」という、分かりやすいイメージに働きかけることも、意味があることなのでしょう。

少なくとも、全商品のシェアで10%に行かないメーカーは、間違いなく違反を免れる(10%はあくまで「目安」ではありますが。。)という意味ではセーフハーバー的な意味もあるので、まったく無意味というわけではないのでしょう。

いずれにせよ、10%という数字が有力性の基準として低すぎるというのは、大方の意見が一致するところです。

最近では昔に比べて流通業者の方が力が強いので、ますます10%という数字に妥当性は見いだせないような気がします。

2012年3月 5日 (月)

カルテルの合意のグレーゾーン

カルテルの合意があったのか無かったのか、微妙なケースというのが時々生じます。

例えば、業界団体の分科会に出席したら、公式のアジェンダの討議が終わった後に1社が値上げの話を始めた、というような場合に、それを黙って聞いているだけでも、カルテルの合意があったと認定されるおそれが充分にあります。

なので、こういうことが起こったら、直ちに異議を述べてその場から立ち去る必要があります。

その他には、例えば同業者のゴルフコンペで、4人で回っていたら、自分以外の3人がグリーン上で値上げの話を始めたのが聞こえたが、自分は話には加わらなかった、というのでも、相当危ないです。

この場合は、プレーを即刻止めるくらいの覚悟が必要でしょう。

あと、カルテルの会合に出席した社員の言い訳として時々あるのが、

自分は同業他社の動向を探るために、情報収集目的で出席していただけで、カルテルの話し合いには加わっていない。」

というものです。これは、ほぼ間違いなくアウトです。

会合ではなくても、例えば値上げに関する情報交換のメールのやりとり(メールでこういうやりとりをすることは通常無いでしょうけれど)のccに入っていた、というのでもアウトでしょう。

なぜ黙って聞いているだけでもカルテルの合意が認定されるのかを理屈で説明すれば、カルテルの「合意」というのは、そもそも民法上の合意と全く違うもので、カルテルの「合意」のほうが遙かに広く緩やかに認定されるものだからです。

もう少し具体的に言えば、契約の場合は両当事者の利益が基本的に相反します。

例えば、売主はできるだけ高く売りたいのに対して、買主はできるだけ安く買いたい、という具合です。

利益が相反する相手方を縛るには、合意は明確なものでなければいけません。

これに対してカルテルの合意の場合は、基本的に合意参加者の利益が同じ方向を向いていることが多いのです。

つまり、他社が値上げをするなら自分も値上げする方が利益になることが多いということです(ゲーム理論をご存知の方は、繰り返しゲームのナッシュ均衡の話をイメージしてください)。

(もちろん理屈の上では、他社が値上げするなら却って自社は値下げした方がシェアが延びてマージンの減少分を帳消しにしてネットで利益になる、ということもあり得ますが、そういう市場環境では一般的にカルテルは不安定なので、そもそもカルテルが試みられにくいといえます。結局、カルテルが試みられる市場では、「他社が値上げをするなら自分も値上げする方が利益になる」という状況にあるのが一般的、ということになります。)

なので、カルテルではお互いを縛り合う必要はなく、極論すれば、お互いに「値上げしたいなぁ」という意向を伝え合うだけで充分に望む成果が達成されることが多いのです。

「カルテルはウィンク一つで成立する。」なんて言われたりします。

婚姻において戸籍法に基づく届出が必要とされている(民法739条1項)のも、両当事者の利益が著しく反することが理由と思われます(←もちろん冗談です)。

あと、黙って聞いているだけでも危ない実務上の理由としては、カルテルの合意は実務上、事前の情報交換と事後の行為の一致によって立証できるとされているためです。

なので、「事後の行為の一致」、つまり他社と同時に値上げをすることをしなければ良いのですが、通常は値上げすることが利益の最大化になるので、それにもかかわらず値上げしないというのは企業としてなかなか難しいものです。

もちろん理屈の上では、「値上げは自社の独自の判断であって、カルテルに基づくものではない」という反論も可能なのですが、実際には難しいでしょう。

このように、カルテルの合意が成立するのは、「合意」という語感からイメージするよりもかなり広い、ということを理解しておく必要があります。

普通の人がグレーゾーンと思うものは、たいてい真っ黒だといって良いでしょう。

企業の法務部の方々が社内研修をするときも、「カルテルの合意とはこういうもんだ」という従業員の固定観念を打ち砕く必要があります。

なお、独禁法の条文では「合意」という言葉は一言も使われていません。

不当な取引制限の定義規定である独禁法2条6項では、

「事業者が・・・他の事業者と共同して・・・相互にその事業活動を拘束し・・・」

というように、「拘束」という言葉を使っています。

でも、以上で述べたようにカルテルの「拘束」はかなり幅広く認められることを考えると、「拘束」という用語も、立法論としては不適切だと思います。

少なくとも、再販売価格拘束(2条9項4号)や拘束条件付取引(2条9項6号ニ)の「拘束」とはぜんぜん違う意味で使っているのは間違いありません。

2012年2月27日 (月)

【お知らせ・その2】「会社法務A2Z」に寄稿しました。

第一法規の雑誌『会社法務A2Z』に、

「優越的地位濫用による初の課徴金納付命令と実務への影響」

という論文を寄稿しました。

本日の日経朝刊1面で広告されています。

山陽マルナカ事件の解説と実務への影響を論じたものですが、これを読んで頂くと、現行の課徴金制度の下では、優越的地位の濫用が場合によってはカルテル以上に企業にとって割に合わないものであることが分かって頂けるのではないかと思います。

掻い摘んでポイントを申し上げますと、優越的地位の濫用の課徴金は、濫用者の得た利益(≒被濫用者の得た損害)と課徴金の額が全くリンクしていない、という問題を、この事例に即して指摘しています。

ご関心のある方は、ぜひご一読下さい!

2012年2月24日 (金)

【お知らせ】Chambers 入選

私の事務所の競争法部門が、Chambers and Partnersの2012年のランキングで、Band 1に入選しました。

私も事務所のKey Individualsの1人として、ちょこっと紹介して頂いております。

昨年に引き続きではありますが、ともあれ、おめでたいことです。

(自分の事務所が入っているのに言うのも何ですが、)ランク入りしている事務所はどこも独禁法では定評のある事務所ばかりですから、独禁法について安心して相談できる事務所を探している方は参考にされてみてはいかがでしょうか。

2012年2月21日 (火)

インターネット広告表示ガイドラインについて

昨年10月28日に消費者庁が公表した、

インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項

について、ちょっと気が付いたことを記しておきます。

同ガイドラインでは、口コミサイトで問題となる事例として、

「グルメサイトの口コミ情報コーナーにおいて、

飲食店を経営する事業者が、

自らの飲食店で提供している料理について、実際には地鶏を使用していないにもかかわらず

『このお店は△□地鶏を使っているとか。さすが△□地鶏、とても美味でした。オススメです!!』

と、

自らの飲食店についての『口コミ』情報として、

料理にあたかも地鶏を使用しているかのように表示すること。」

というのが挙げられています。

この例をみて分かるのは、表示の内容が事実に反する場合に限って景表法違反になるのであって、たんに第三者を装って書き込みをすること自体は景表法違反ではない、というのがどうやら消費者庁の見解だ、ということです。

つまり、上記事例は、

表示: 「△□地鶏(を使っているとか。)」

実際: 地鶏を使っていない。

という齟齬が、有利誤認(景表法4条1項1号)だ、というわけです。

これに対して、たんに第三者の口コミを装って投稿すること(表示の主体を偽ること)は、有利誤認ではない、ということです。

ですので、口コミを装っても、具体的な事実に触れることなく漠然と、

「とっても美味しかったです。」

と投稿するだけでは、景表法違反にはならないでしょう。

(理屈の上では、実際にはとっても不味い料理を「とっても美味しかった」と表示すれば

「実際のものよりも著しく優良であると示し」(景表法4条1項1号)

に該当し得ますが、美味しいか不味いかの基準は人それぞれなので、この程度の漠然とした表示で有利誤認というのは無理でしょう。)

でも、素朴な感情からすれば、この手の「やらせ」の投稿で何が一番問題かといえば、まさに、利害関係のない第三者の口コミであるかのような振りをしてお店自身が書き込みをした点にあるので、その意味で、どうもこのガイドラインの事例は、ちょっと的が外れているような気がします。

そもそも素材に何を使っているのかはお客さんには分からないはずのことで(お客さんは店の言うことを信じるしかない)、口コミで、

「このお店は△□地鶏を使っているとか。」

と書いたって、もともと信憑性は低いはずです(設例では、「とか」なので、さらに伝聞っぽいですし)。

むしろ、(真面目に商売をしている世の中の多くのお店を前提とする限り)お店自身が地鶏を使っているというからこそ、お客さんは信じるのであって、口コミサイトだけをみて「地鶏を使ってるんだ」信じるほうがおかしいと思います。

逆に、

「とても美味でした。」

というのは、お店自体が言っても何の信頼性もないでしょう。

(理論的には、口コミサイトの「美味でした」という投稿の信頼性だって、「地鶏使ってます」という「口コミ」と同程度に怪しいものであるはずですが、少なくともお店自身の広告に「美味です」と書くよりは、口コミサイトのコメントのほうが信用できそうに見えるでしょう。)

というように、ガイドラインの設例は、本来規制すべきこと(第三者へのなりすまし)については不問にして、もともと信頼性の低い表示(第三者による使用食材の食材)の虚偽性を問題にしており、どこかずれた感じがするのです。

とはいえ、景表法の解釈としては、これでやむを得ないのでしょう。

というのは、景表法で禁止される不当表示というのは、

「商品又は役務の品質、規格その他の内容について・・・実際のものよりも著しく優良である」

と示すことなので(つまり、「内容」の偽りが問題なのであって)、主体の偽りは問題にしていない(というより、主体は「事業者」であることが明示されてしまっている)からです。

なので、口コミサイトへのなりすまし投稿(第三者にお店が依頼する場合も含む)を規制するためには、景表法4条1項3号(「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの 」)として内閣総理大臣が指定するほかないと思います。

指定すべきかどうかの判断は、

「所詮口コミサイトなんてその程度のものなのだから、法律で規制するまでもない」

と考えるか、

「やっぱりサクラの投稿は許せない!」

と考えるか、の違いでしょう。

また、テレビ通販とかで、あたかも体験談のような演出をしつつ役者に効能が優れていると語らせるのとどう違うのか?と考えれば、インターネットだけ厳しい規制をするのは不適当、ということになるのでしょう。

個人的には、やっぱりビジネスは正直ベースでやるべきだと思いますので、指定に賛成です。口コミサイトの信頼性を上げたい方は、ぜひ、政治家の方に働きかけてみてはいかがでしょうか。

あと余談ですが、このガイドラインでは、インターネットのサービス提供は「限界費用が低い」と、ちょっと経済学チックな書きぶりをしてたり、米国FTCのガイドライン(「広告における推薦及び証言の使用に関するガイドライン」"Guides Concerning the Use of Endorsements and Testimonials in Advertising")に言及していたり、公取委出身の表示課の人ががんばっているのが垣間見えて、個人的には嬉しいです。

ぜひ、消費者庁全体を公取委に再度飲み込むくらいの勢いで、がんばって頂きたいものです。

2012年2月20日 (月)

課徴金対象の差別対価

平成21年改正で課徴金対象となった差別対価の書きぶりが、一見すると何か意味ありげに見えて分かりにくいので、ここで条文の整理しておきます。

まず平成21年改正前の差別対価(旧一般指定3項)は、

「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること」

となっていました。

ただ、同改正前の内容を特定するには改正前の独禁法2条9項1号もみておく必要があるので、改正前の独禁法2条9項1号をみておくと、

「 この法律において不公正な取引方法とは、左の各号の一に該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう。

一 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。

二 不当な対価をもって取引すること。」

となっていました。

ちょっと分かりにくいですが、1号で「他の事業者を差別的に取り扱う」というのは、例えば違反者が売る側なら、差別的に取り扱われる「他の事業者」というのは買い主なので、不当に高く売ることが問題にされています(いわゆる、「準取引拒絶型差別対価」)。

それに対して2号で「不当な対価をもって取引すること」というのも差別対価に混じっており、典型的には、ライバルの顧客に対してだけ安売り攻勢をかける(そのような安売りが、「不当な対価」)、というのが想定されていました(いわゆる、「略奪廉売型差別対価」)。

次に平成21年改正後の差別対価は、課徴金対象のものが法律に、そうでないものが一般指定に書き分けられました。

つまり、改正後の現行独禁法2条9項2号の差別対価は、

「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品又は役務を継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」

であり、

現行一般指定3項の差別対価は、

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号。以下「法」という。)第二条第九項第二号に該当する行為のほか、不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること。」

であるとされています。

現行法2条9項2号では、「継続」してするもの、しかも「供給」する側の差別対価に限って(つまり、差別的な購入価格の設定は除いて)課徴金の対象にされていることは、容易に分かります。

しかし、「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある」(独禁法2条2項2号)という要件については、改正前でも同様に解釈されていたのを明確化したに過ぎない、というのが一般的な理解だろうと思います(白石「独占禁止法(第2版)」p176)。

つまり、現行法2条9項2号を反対解釈して、現行一般指定3項の差別対価を、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがないものも含むと解釈するのは誤りである、ということです。

丹念に条文を読んでいる人ほどこういう反対解釈をやりがちなので、注意が必要です。

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