出版のお知らせ

このたび、第一法規から、
 
『製造も広告担当も知っておきたい 景品表示法対応ガイドブック』
 
という書籍を出版させていただくことになりました。
 
書誌情報は、こちらです。

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景表法の解説書はたくさんありますが、はじめて手に取るには気が引ける大部なものが多いので、法学部出身ではない人でも、景表法を勉強する必要に迫られたときに最初に手にしていただける入門書をめざして書きました。本文250頁くらいです。
 
ですがそれと同時に、景表法の表示規制は、法律的な発想がないと「なんでもあり」、あるいは、「常識で判断」というだけ、ということにもなりかねず、法的思考(体系的思考、論理的思考、一般化・抽象化)も大事だよということをにじませながら書いたつもりです。
 
景品規制は、細かいことを説明しだすときりがないのですが、実務で繰り返し問題になる重要論点(割引券の問題など)を中心に、それなりに踏み込んで書いたつもりです。
 
入門書ですから、基本的には、消費者庁の実際の運用を紹介することに重点を置いていますが、それでも、(このブログほどではないですが)消費者庁の解釈のおかしなところも指摘しています。
 
そのほか、訴えたいことは「はしがき」に書きましたが、裏面の帯にも引用していただいた「はしがき」の一部を引用しますと、
 
「この本では、「いかに消費者への訴求力を落とさずに、消費者庁に摘発されないぎりぎりセーフの広告を作るか」といった不誠実な態度の読者は、はなから想定していない。
 
この本は、あくまでまじめに景表法をまなぼうとする、あなたのための本である。」
 
と、いうことです。
 
興味のあるかたはぜひ、書店で手に取っていただければと思います。
 
7月24日の発売です。

2019年1月 1日 (火)

パートナー就任のお知らせ

明けましておめでとうございます。
 
1月1日付をもちまして、日比谷総合法律事務所のパートナーに就任いたしました。
 
歴史のある事務所の名前を汚さぬよう、かつ、自分らしさを失わないよう、これからも良い仕事を通じて、依頼者のみなさまのお役に立ち、社会正義の実現に貢献できるよう、精進してまいります。
 
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

2018年12月26日 (水)

無料の会員登録で付与するポイントは景品類か?

先日、とある講習会が終わったあとに質問に来られた方の質問に、
 
「オンラインゲームに無料で登録した人に、ゲームで使えるポイントを付与している。
 
取引付随性がないので景品ではないと整理していたが、消費者庁に念のため確認したら、将来の取引を誘引するので景品類に該当するといわれた。
 
おかしいのではないか?」
 
という質問がありました。
 
あくまで質問者の方からの伝聞ですので、事の真偽は確かめようもないのですが、もし消費者庁の回答がこのようなものだったとすると、私も、消費者庁の回答は間違っていると思いますし、質問者の方にもそのようにお答えしました。
 
質問者の方がご理解されていたとおり、どう考えても、取引付随性がありません(無料の登録は「取引」ではないので)。
 
パターンには、全員にポイントをあげるものと、抽選でポイントをあげるものとがありそうですが、どちらでも同じです(取引付随性がありません)。
 
もしこんなのが景品類に該当するとなると、たとえば、新聞のチラシにクーポン券をつけて、クーポン券持参者にスーパーが50円値引きする、というのも、取引付随性あり、となってしまいます。
 
新聞チラシに付けるクーポン券を、新聞社が費用を負担している(スーパーのチラシではあるものの)場合には、新聞という商品を買わせるためにスーパーで使えるクーポンを景品として付けた、ということも理屈の上ではありえますが、世の中にそのようなクーポンチラシはたぶん皆無でしょう。
 
上記質問のケースでは、そのような新聞社の存在すらなく、どこをどうたたいても、取引付随性は認められません。
 
2つめの、抽選でポイントをあげるパターンも、以前は規制されていたオープン懸賞(取引付随性のない懸賞)と同じです。
 
つまり現在では、取引付随性がない場合には、抽選で応募者に経済上の利益を提供することは、景品規制の対象外です。
 
なので、上記質問の抽選のパターンも、景品類には該当しません。
 
もう一つだけ例をあげれば、もし取引付随性がないのに将来の取引を誘引するからというだけの理由で景品類に該当してしまうとすると、むかしヤフーがヤフーBBをやりはじめたときにモデムを路上で無料で配りまくったような、取引付随性がない行為の典型として語られるようなものまで、景品類になってしまいます。
 
こういう、路上で配る物品は、取引付随性はありません。
 
たまたま手元にあった、長谷川古編『新しい景品規制』p80でも、
 
公道の歩行者を対象とするアンケート調査の回答者の謝礼とか・・・は、仮に顧客誘引手段と認められたとしても、・・・取引付随の要件に該当しない・・・ので規制されることはありません。」
 
と、はっきり書いてあります。
 
今回の消費者庁の回答の意図を忖度すると、
 
モデムはメルカリで転売できるなどそれ自体経済的価値が認められるけれど(なので、配った時点で提供が終わる)、
 
オンラインゲームのポイントはゲームで使う以外価値がので、必ずゲームをすることになるから、将来の有料ゲームという取引に付随するのだ(?)、
 
ということかもしれません。
 
つまり、オンラインゲームのポイントの提供は、実はポイント提供の時点では何も提供されていないに等しく、将来有償のゲームをする段階になってはじめて「経済上の利益」が提供されたとみなされるのだ(?)、という理屈です。
 
いろいろ無理やり考えてみましたが、でもやっぱり、これらの理屈には条文上の根拠がなく、成り立たないと思います。
 
この問題をもう少し深く考えるのに参考になるのが、
 
深町正徳「割引券の提供に関する景品表示法の考え方について」(公正取引587号、1999年)
 
という論文 です。
 
この論文では、1996年4月に行われた割引券に関する規制の変更について説明するものです。
 
簡単にまとめると、A取引に付随してB取引で使える割引券を提供する場合、変更前は、
 
①A取引に付随して割引券を「提供する行為」
 
 
②B取引において「割引券を使用する行為」(わたしはこれは、提供する事業者の側からみて、「割引券を使用させる行為」というほうが正確だと思います)
 
を分離してとらえ、②は景品類の提供にはあたらないが、①についてはあたる、と考えられていました。
 
これに対して変更後は、①も景品類の提供にはあたらないこととされました。
 
これを今回のポイント付与に応用すると、無料の会員登録者にポイントを付与する行為は、
 
①’無料の会員登録に付随(?)してポイントを「提供する行為」
 
 
②’将来ゲームをするときにポイントを「使用させる行為」
 
に分離でき、現在は①’が(有償取引との)取引付随性が認められても景品規制の対象外(②’はもともと対象外)なのだから、いわんや、無償の会員登録に付随するだけなら、景品類に該当するはずがない、ということになります。
 
つまり、将来有償行為に使用する(②)というのに引きずられて提供行為(①)が景品類の提供になるとは考えられておらず、それは運用変更前も変更後も同じだということです。
 
というわけで、いずれにしても、前記消費者庁の回答は誤り、ということになります。
 
もし消費者庁のご担当の方がこのような回答をされているなら、それはまちがいですから、改めていただきたいと思います。
 
もしそのような回答はしていないというなら、今回の記事は訂正しますのでご連絡いただければ幸いです。
 
(不確かかもしれない情報を流すのもどうかなと思いましたが、聞いたところ事実のようでしたし、きわめて実務的なインパクトが大きいと思ったので、書くことにしました。)
 

2018年12月11日 (火)

独禁法で命令を受けるリスクと調査を受けるリスク

わたしは基本的に、独禁法弁護士は、法律家として、問題の行為が独禁法上違法かどうかが判断できることが大事だし、それでほとんど足りる(それすらもできない弁護士も多い)、と考えています。
 
ですが、世の中、それだけでは足りないことも事実です。
 
というのは、企業にとっては公取委の調査を受けるだけでも、評判(取引先から取引を断られる、新卒学生が採用できなくなる、など)や弁護士費用など、大変なダメージだからです。
 
かつて調査を受けた依頼者の件も、命令がでないことはもちろん、どうみても違反になりそうにないケースでした。
 
予定どおりそのケースは、「問題なし」となりました。
 
それでもその後、その依頼者への萎縮効果たるや、すごいものがありました。
 
カルテルや談合なら、別にきわどいところを攻めなくてもビジネス上大した問題はなく、石橋を叩いても渡らないくらいでちょうどいいのかもしれません。
 
ですが、不当廉売や拘束条件付取引など垂直系の違反行為類型は、正常な競争との違いが紙一重ですから、過剰反応のマイナス効果は大きいです。
 
ホンネをいえば、調査をするかどうかは公取の勝手なので、調査を受けるリスクがあるかないかなんて、どうでもいいと思っています。
 
研究者の方が調査を受けるリスクについて分析しているのも、見たことがありません。
 
ですが、依頼者の方々からそういうアドバイスを求められる以上、それに応える必要がありますし、そういうアドバイスは実務家だからこそできるんだろうなぁ、とも思います。
 
(そいうえば、以前、私が所属する第二東京弁護士会で、独禁法の警告事例の研究発表をされた公取委出向経験のある弁護士さんの発表を聞きましたが、あれは面白かったです。)
 
それでも基本的には、公取委が関心を持つかどうかは理屈だけで割り切れないところがあるので、学問的な研究対象になりにくいし、知的達成感もありません。
 
べつに独禁法の理屈がわからなくても、ある程度経験を積めば、できてしまうアドバイスだともいえます(むしろ、理屈が邪魔をすることがあるかもしれません)。
 
ともあれ、公取委の方々には、企業の方々がそんなところに関心を持つのだということをよくご理解いただいた上で、牽制的な調査や、調査対象行為をやたらと広げることは、謹んでいただきたいと希望します。
 
ほんとうに、事情聴取でこんなことを聞かれましたというだけで、「そんなことまで公取は関心を持っているんだ」と思って、会社の人はびびってしまうのです。
 
(まあそういうときには、「公取も仕事だからいろいろ調べるけど、違反にするつもりはありませんよ」とアドバイスはするのですが。)
 
また、企業のほうも、独禁法とはどういう法律で、公取委とはどういう役所なのかを、よく理解してリスク評価をする必要があると思います。
 
お上のやることは正しいと素朴に考えている企業は、調査を受ける可能性があるならやらない、という判断をするのでしょうが、独禁法の世界でそれをやると、まともな競争ができなくなります。
 
このあたりは残念ながら、外資系企業のほうが、リスクを取りながら競争するのがうまいように思います。
 
日本企業はむしろ、違法であることが明白でも、業界慣行や政治的背景で、やめられないことが多い(やめたほうがビジネス上もメリットがあるにもかかわらず)ように思わます。
 
そのあたりが、ドライに徹しられない、ウェットで、残念なところです。

2018年11月30日 (金)

独禁法の行為無価値と結果無価値

刑法の世界には行為無価値と結果無価値の争いがあります。
 
法学部では当然のように教わることなのですが、おおざっぱにいうと、行為無価値というのは、動機や行為の悪質性なども考慮して違法性の有無・程度を判断する立場です。
 
これに対して結果無価値は、生じた結果(つまり人が死んだとか)だけに着目して違法性を判断すべきだという立場です。
 
独禁法の世界でも、似たようなことが議論になることがあります。
 
つまり、競争に与えた影響だけを基準に違法性を判断すべきというのが結果無価値的な発想で、行為の動機や悪質性も考慮すべきだというのが行為無価値的な発想です。
 
ところが、公取委の実務では、行為の悪質性だけが(あるいは、悪質性が過度に)違法性判断で考慮されているフシがある、とわたしはニラんでいます。
 
行為と結果の因果関係を重視しない、というのも行為無価値的発想のあらわれといえます。
 
ですが刑法の行為無価値は、けっして、行為の悪質性だけで違法性を判断する立場ではなく、行為の悪質性も考慮するという立場です。
 
ところが公取委の立場は、前述のように、行為の悪質性を専ら考慮または過度に重視しているように思われます。
 
しかも、刑法の場合には、刑法の目的とは、とか、法と道徳の違いとは、といった、深刻な(まじめな)法哲学的対立があるのですが、公取委実務の場合、そのような深遠な議論があるわけではありません。
 
それよりも、私の目から見ると、「こいつはけしからん!」と審査官や委員の方が思って、どれくらい血圧が上がったか(←比喩です)、というのが違法性の基準になっているような気がしてなりません。
 
さらに問題なのは、公取委が違法性を語る場合、経済学的な発想がぜんぜんなかったりします。
 
たとえば他者排除が生じる場合のメカニズムとしては、経済理論上は、競争者の直面する需要曲線を左にシフトさせるか(残余需要を減らす)、あるいは、競争者の費用曲線を上方シフトさせる(ライバル費用の引き上げ)のどちらかなわけですが(グラフをかけばすぐわかります)、そのどちらであるのかすら意識されていないことが多いように思います。
 
(消費者余剰を減らすメカニズムとしてはもう一つ、需要曲線もコストも不変のまま、需要曲線上を移動する、というメカニズムがあり、これは協調促進的行為や競争緩和的行為の場合に問題になります。)
 
それは、関係者に対する質問の内容や、アンケート調査の選択肢などをみればわかります。
 
こういうのをみると、「審査局って、何も分かってないんだなぁ」と思って、がっかりします。
 
話を元に戻すと、公取委の行為無価値的発想の問題は、結果(反競争効果)を軽視しすぎる点です。
 
もう1つの問題は、結果軽視と関連しますが、公取委が、少なくとも審査局レベルでは、経済学をまったく理解していないことです。
 
どのように反競争効果が生じるかというメカニズムは、経済学の知識があると、手に取るようにわかる(2つのメカニズムがはたらくときは、その区別もつく)のですが、審査局レベルでは、そういう知識の片りんもありません。
 
とくに、垂直的制限や排除系の事件をやっていると、そう思います。
 
審査の発想が、反競争性の立証が不要な談合や優越と同じなのです。
 
談合や優越ばっかりやっていると、頭がそういうふうになっちゃうんだろうなぁ、と、しみじみ思います。
 
経済学を分かったうえで行為の悪質性を云々するならまだわかりますが、そもそも分かっていないので、話が通じません。
 
心当たりのある審査官の方は、ぜひ、経済学を勉強してください。
 
あるいは、垂直や排除系の事件のチームには、エコノミストを入れるべきだと思います。
 
それも、産業組織論がある程度わかっているエコノミストを入れるべきです。
 
(経済学者の委員をふくめ、公取委に来るエコノミストのすべてが産業組織論の専門ではありません。日本に産業組織論の専門家は少ないし、そもそも辞めたあとのキャリアが保証されるような役所でもないので、公取に入ってから一生懸命産業組織論を勉強するエコノミストも少なくないと思います。)
 
独禁法の弁護士が経済学を知らなくても、困るのはその依頼者だけですが、公取委の審査担当者が経済学を知らないと、割を食うのは全国民です。
 
審査担当の方には、それくらいの覚悟を持って、審査に臨んでいただきたいと思います。

2018年11月28日 (水)

公取委への事情聴取への苦情申し立て

独占禁止法審査手続に関する指針には、「任意の供述聴取に関する苦情申立て」という制度があります。
 
これは、任意の事情聴取(つまり、ふつうの事情聴取)について、
 
「聴取対象者等が,聴取において本指針「第2 2 供述聴取」に反する審査官等の言動等があったとする場合には,当該聴取を受けた日から1週間以内に,書面により,公正取引委員会に苦情を申し立てることができる。」
 
というものです。(第2-4)
 
ここで「第2 2 供述聴取」の「(3) 供述聴取における留意事項」のアでは、
 
「ア  供述聴取を行うに当たって,審査官等は,
 
威迫,強要その他供述の任意性を疑われるような方法を用いてはならない。
 
また,審査官等は,
 
自己が期待し,又は希望する供述を聴取対象者に示唆する等の方法により,
 
みだりに供述を誘導し,供述の代償として利益を供与すべきことを約束し,その他供述の真実性を失わせるおそれのある方法を用いてはならない。」
 
とされています。
 
よって、これら威迫や誘導があった場合は、申立の理由あり、ということになります。
 
公取委ホームページの説明ページでは、これをわかりやすく、
 
「(1) 供述聴取時の手続・説明事項に関するもの
 
(例)供述聴取開始までに任意である旨の説明がされなかった。
 
(2) 威迫・強要など審査官等の言動に関するもの
 
(例)違反事実を認めるまで部屋から出さないと言われ,強引に供述を迫られた。
 
(例)審査官等が期待する供述を行う代償として利益を供与することを示唆された。
 
(3) 聴取時間・休憩時間に関するもの
 
(例)同意なく一日につき8時間(休憩時間を除く。)を超える聴取が続けられ,帰りたいと申し出ても帰してもらえなかった。
 
(4) 供述調書の作成・署名押印時の手続に関するもの
 
(例)署名押印をする前に,審査官等による調書の読み聞かせが行われず,閲読もさせてもらえなかった。
 
(例)調書の訂正を申し立てたが,訂正が行われず,審査官等から訂正しない理由について何ら説明なく訂正しないまま,署名しろと言われた。」
 
とまとめています。
 
これらの説明の「(例)」の中に、実務では最もありがちで指針には明記されている、供述の誘導が含まれていないのはまことに不適切だと思いますが、それは措きます。
 
(こういうのはとても意図を感じますし、法律の世界は何でも条文にあたらないと役所にいいようにされる、という思いを強くします。)
 
苦情申立は聴取日から1週間とされていますが、上記説明ページでは、
 
「ただし,聴取日から一週間以内に,当該審査官等を指揮・監督する審査長等に対して苦情を申し入れており,その後に本制度に基づく苦情申立てを行うときは,当該期間経過後であっても行うことができます。」
 
ということになっています。
 
ごていねいに申立書の様式が準備されていますが(同じページにリンクがあります)、必ずこの書式で出さないと受理されないということもないのでしょう。
 
聴取の場所の記載例は、
 
「公正取引委員会8階 審査局A会議室」
 
などとなっており、そんなことまでふつうは聴取時にチェックしていないはずです。
 
もちろん、ここまで細かく書かなくても何の問題もないでしょう。
 
そもそも同じ役所なのですから、担当の審査局に聞けばすむ話です。
 
なお提出先は14階の官房総務課です。

2018年11月11日 (日)

共同研究の成果の特許等の実施料の取り決め

共同研究開発ガイドライン第2-2(2)③では、
 
「成果の第三者への実施許諾に係る実施料の分配等を取り決めること」
 
が、原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項とされているます。
 
たとえば、A社とB社が共同研究をして開発した特許をライセンスする場合、そのライセンス料を50%ずつで分け合うことを合意することは、問題ない、ということです。
 
ではその前提として、そもそもライセンス料を両社共同で決めることについては問題ないのでしょうか。
 
このことについてはガイドラインには明記されていないのですが、ガイドラインの立案担当者による、平林英勝編著『共同研究に関する独占禁止法ガイドライン』p91に、
 
「成果の貢献に応じた実施料の分配の前提として、必要な範囲で成果の第三者への実施に係る実施料を取り決めることは問題ないと考えられよう。」
 
と、問題ないことが明記されています。
 
分配のやり方の合意が問題ないのだから、そもそものライセンス料を決めることも問題ないことが当然の前提になっているのでしょうし、1つの権利(商品)であるからには1つの価格をどうやったって決めざるをえず決める以上は共同で決めるしかない(ここだけカルテルを気にして価格決定をA社に委ねるなんていうのはナンセンス)のですから、当然の結論だと思います。
 
こういうあたりまえのことでもきちんと書いておいてもらえると、とても助かります。
 
ただ欲を言えば、こんな大事なことはガイドライン本文に書いて欲しいものです。
 
価格を共同で決めることを白条項とすることに抵抗があったのかもしれませんし、うっかり入れ忘れたのかもしれませんが、ともかく、成果の権利自体の許諾価格(販売価格)を共同開発者間で合意することは問題ありません。
 
もしそれが許されないとしたら、元々の共同研究開発参加者の市場シェアが高くて、そもそも共同研究開発自体が独禁法違反だ、という場合くらいでしょう。
 
注意すべき点は、権利自体の許諾価格は共同で決めて良いけれど、権利を用いた商品の価格を共同で決めることは黒条項とされていることです(ガイドライン第2-2(3)ウ)。
 
これは、いわば再販売価格拘束のようなものなので、黒条項なのも当然です。
 
ところで、日本には競争者間の協力に関する一般的なガイドラインがないので、この共同研究ガイドラインがいろいろなところで役に立ちます。
 
そういう観点からこのガイドラインをながめてみるといろいろと気づくことが多いです。

2018年10月12日 (金)

東京都の措置命令事件に消費者庁が課徴金を課した事例

ストッキングをはくだけで脚が細くなるなどの不当表示をして東京都から措置命令を受けていた(株)ギミックパターンという会社に対して、消費者庁から課徴金納付命令がなされました
 
都道府県知事には課徴金納付命令の権限がないので、都道府県が調査した案件に課徴金を課すべきことがわかったときにはどうするのか気になっていたのですが、この点については、2014(平成26)年8月26日第170回消費者委員会本会議において、白石座長代理から、
 
「都道府県知事には措置命令権限はあるが課徴金権限がないということは、その事件については消費者庁が受け取って課徴金の手続をするということになるのでしょうか。
 
非裁量制なので必ず手続に入るということなのか、どうなのか、その点を伺えればと思います。」
という質問があり(議事録p14)、これに対して、消費者庁松本課徴金制度検討室企画官から、
 
「・・・今、考えているのは、課徴金納付命令に関する手続については、消費者庁で行うということでございますので、仮に都道府県における措置命令において課徴金を課すべき対象があるとすれば、これは消費者庁のほうで対応していくことになるかと思います。」
 
という回答がなされていました(p15)。
 
さらに続けて河上消費者委員会委員長から、
 
「基本的には、措置命令と課徴金に関する手続というのは、別個に動いていると理解することになるのですか。」
 
という質問がなされ、これに対して消費者庁菅久審議官から、
 
「考えておりますのは、例えば都道府県が調査している場合。
 
1 つは、今回の法改正を受けて都道府県が担当するのは県域内の違反行為となりますので、そもそも規模基準とかいろいろ考えますと、課徴金の対象になるものが少ないのではないかと思っています。
 
ただ、都道府県が調査した途中の段階で、これが措置命令の後、課徴金納付命令の対象になり得ると判断した場合には、消費者庁にそこで通知ないし知らせてもらうと。
 
そこから先、消費者庁が調査する。つまり、措置命令を都道府県が出して、その後受け取って課徴金額を計算するというのは実務上、非常にやりにくいですので、むしろ途中の段階でわかった場合には、消費者庁のほうに移管なり連絡をしてもらうことを想定しています
 
ただ、実際上は県域内の違反行為にとどまりますので、都道府県の対象の事件で課徴金納付命令の対象になるものは少ないのではないかと思っております。」
 
という回答がなされていました(p15)。
 
こういう回答があったので、私はてっきり、都道府県が調査した案件で売り上げ規模が課徴金対象となるくらいに大きければ消費者庁に移管されるのだと思っていました。
 
でも今回のギミックパターンの処理をみると、東京都で措置命令まで出して、課徴金だけ消費者庁がかける、というようになっています。
 
法律上は、課徴金対象となるくらい違反売上が大きい事件に都道府県が措置命令を出していけない理由は何もないですし、大型事件は消費者庁に移管するあつかいにすると、かえって都道府県は小粒の事件しか扱えなくなってしまって、実質的には改正により権限が縮小してしまったようになり妥当ではありません。
 
なので今後は、本件のように、都道府県で措置命令を出して、消費者庁が課徴金納付命令を出す、という運用が定着するのではないかと思われます。
 
それから菅久審議官の
 
「今回の法改正を受けて都道府県が担当するのは県域内の違反行為となります」
 
という部分も、考えてみるとそのようなしばりは法律上なにもなくて、公表された東京都の措置命令概要をみても、ギミックパターンの不当表示は同社ウェブサイト上のものなので、違反行為が東京都内に限って行われたというわけではありません。
 
おそらく被害者が東京都に集中しているということもないでしょう。
 
同社の所在地は東京都ですが、それはどの都道府県が(あるいは消費者庁と都道府県のいずれが)処理すべきかという問題とは、あんまり関係ないでしょう(執行のしやすさという意味では関係ありそうですが)。 
 
この事件は課徴金額も8480万円と、けっこうな金額です(三菱自動車の4億8507万円、プラスワン・マーケティングの8824万円についで、歴代3位です)。
 
というわけで、この事件は都道府県でも大きな事件を摘発するんだという先例となるものであり、大変意義深いと思います。 
 
でも考えてみると、大型案件は消費者庁に移管、というのは、消費者庁の都合なのであって、都道府県にしてみらたら、せっかく内偵までして手間暇かけて調査したのに、課徴金がかかるとわかったとたんに手柄をぜんぶ消費者庁に取られてしまうわけで、そんな制度だと都道府県のやる気が萎えてしまうと思います。
 
また、都道府県が仮に消費者庁に移管しても、措置命令もまだ出ていないわけですから、消費者庁が握りつぶしてしまう(というと聞こえは悪いですが、注意にとどめる)ということも、可能性としてはありうるわけです。 
 
これに対して都道府県が措置命令まで出してしまえば、課徴金は義務的ですから、消費者庁はどうしたって課徴金を課さざるを得ないでしょう。
 
つまり、今回のような運用だと、都道府県が掘り起こした案件を消費者庁が握りつぶしてしまう(あるいは、注意にとどめてしまう)ということができないわけです。
 
というわけで、この、措置命令の権限を都道府県に与えつつ、課徴金は消費者庁でしかも義務的、という制度は、正式事件の掘り起こしという意味では、じわじわと効いてくる制度なのかもしれません。

2018年10月 3日 (水)

流取ガイドラインの競争者間の総代理店契約の規定の削除について

あまり大きな話題になっていませんが、2017年の流通取引慣行ガイドラインの大幅改正(構成が大きく変わっただけで中身はあまり変わっていませんが)では、それまであった「第3部 第1 競争者間の総代理店契約」の規定が全面削除されました。
 
改正以前のガイドラインでは、
 
総代理店の市場シェアが10%以上かつ上位3位以内の場合、競争阻害効果が生じることがある
 
総代理店の市場シェアが25%以上かつ1位の場合、競争阻害効果が生じることとなるおそれが強い
 
として、競争阻害効果が生じる場合には不公正な取引方法(拘束条件付取引)にあたる、とされていました。
 
この競争者間の総代理店契約に関する規定の削除については批判もあり、パブコメ質問137番では、
 
「改正(案)では,現行ガイドライン第3部第1「競争者間の総代理店契約」の項目が削除され,これに伴い競争者間の総代理店に関するセーフ・ハーバー(市場におけるシェア10%以上かつ上位3位以内)も廃止されている。
 
しかし,「流通・取引慣行と競争政策の在り方に関する研究会」報告書では,「総代理店を取り巻く環境・実態は変化しており,更に実態把握を行う必要がある」と結論付けるのみであり,上記削除・廃止を行うべき根拠は明確に示されていない。
 
総代理店契約は引き続き利用されることのある取引形態であり,判断基準の明確性が求められることから,現行ガイドラインの記載を維持すべきである。(団体)」
 
という、至極まっとうな質問がなされていて、これに対する公取委の回答は、
 
「御指摘については,本指針が制定された当時に問題視されていた輸入品の内外価格差は,現在においてそれほど大きな問題とはなっていないと考えられること,第3部第1の考え方に基づき法的措置を採った事例はないことなどを踏まえ,本年3月に開催した本研究会でも議論した結果,記載を削除することとしました。
 
なお,競争者間で総代理店契約が締結されることにより,仮に我が国市場における競争を実質的に制限するようなケースが生じる場合には,独占禁止法3条の観点から検討されることとなります。」
 
というものです。
 
そもそも競争者間の代理店契約は不当な取引制限として処理すべきなのであって、拘束条件付取引で処理していた旧ガイドラインは理屈としてはおかしいのですが、それはさておくとしても、わたしも全面削除するまでのことはなかったんじゃないかという気がします。
 
この点についてはさらに、 
 
佐久間正哉編著『流通・取引慣行ガイドライン』
 
で、
 
「こうした〔競争者間の総代理店契約については法的措置がなされたことも相談事例で回答されたこともないという〕状況等を踏まえ、平成29年のガイドライン改正では、第3部のうち競争者間の総代理店契約に関する部分は削除・・・することとなった。
 
もちろん、ガイドラインから記載が無くなったことで、競争者間の総代理店契約は独占禁止法の適用対象外になったというわけではない。
 
競争者間の総代理店契約によって市場における地位が高まったことを背景として、不当な取引制限や私的独占が行われる場合には、当然に独占禁止法上問題となり得るものである。」(p232~233)
 
と解説されています。
 
でもこれを文字どおり読むと、総代理店契約自体は問題なくて、それにより市場支配力が高まって、不当な取引制限や私的独占が行われれば、不当な取引制限や私的独占の部分だけが問題となる、といっているように読めます。
 
というか、そうとしか読めません。
 
でも、理屈としてはこれはおかしいと思います。
 
もちろん、国内最大手の競争者は顧客ベースも販路も営業リソースも持っているでしょうから、外国企業が最大手企業を総代理店に任命することで大きな売上を期待できる、ということは十分にありうることなので、結果的に、外国会社が国内最大手企業を総代理店に指名しても独禁法上は問題ない(競争促進的である)ということは、大いにありえます。
 
でもやはり、競争者を総代理店に任命する(その結果、外国企業は他の代理店を任命したり、自ら直接販売したりできない)ということには、それ自体に反競争性が認められることも、十分にありえます。
 
なので、上記佐久間の解説は、理屈としてはおかしいと思います。
 
ですが、これだけ公取と公取関係者が総代理店は問題視しないとはっきりいっているわけですから、実務上のリスクはずいぶんと下がったと言えるのではないかと思います。
 
公取は、ガイドラインや相談事例で建前では非常に厳しいことをいいながら、実際には問題視しない、ということがこれまで多く、流通取引慣行ガイドラインはその筆頭だったのですが、公取委が正面から規定を削除することで事実上問題視しない姿勢を明らかにするということは、たいへん珍しいことです。
 
というわけで、これはこれで、好ましい流れなのかもしれません。
 
ただそれでも、競争者間の総代理店契約にはそれ自体反競争性が認められることがありうる(その代理店に頼むことで売上増大が見込める効果と、その代理店に頼むことで当該代理店の商品との間の競争が無くなり価格が上昇する効果とのバランス)ので、ガイドラインの規定がなくなったとはいえ、競争法上の分析は必要なんだろうと思います。
 
そしてその時に、旧ガイドラインの「シェア25%かつ1位」といった基準は、それなりに意味があるのではないかという気がします。
 
それでも、外国事業者が単独で参入した場合にどれだけのシェアを取れると見込めるかとか、ほかに代理店候補はいないのか、などを考慮する必要はあるものの、シェア25%くらいで問題視するのは、セーフハーバーとして厳しすぎて、実際には、シェア40~50%くらいまで大丈夫じゃないか、という感じがします。

2018年9月27日 (木)

コマーケティングに関する相談事例

医療用医薬品の共同販売(いわゆるコマーケティング)に関する相談事例として、「独占禁止法に関する相談事例集(平成14年1月~平成16年3月)」の事例3(医薬品メーカーによる新薬に関する情報提供活動先医療機関の振り分け)があります。
 
この事例は、
 
「医薬品メーカーが,
 
競争関係にある医薬品メーカーに新薬を供給するとともに,
 
両社間で情報提供活動先医療機関を振り分けることは,
 
独占禁止法上問題ないと回答した事例」
 
ということであり、コプロ、コマーケに関する判断が乏しい日本では貴重な相談事例といえるのですが、残念ながら、その判断内容はほとんど参考になりません。
 
まず、競争業者間の事業提携であるにもかかわらず、拘束条件付取引として分析しています。
 
これは、正しくは不当な取引制限として検討すべきでしょう。
 
確かに相談事例では、A社がB社に販売するという関係があるので、形だけ見れば、拘束条件付取引にあたるといえるのかもしれません。
 
一般指定12項の条文で言えば、
 
「〔A社が〕
 
相手方〔=B社〕と
 
その取引の相手方〔=病院〕との取引
 
その他相手方〔=B社〕の事業活動を
 
不当に拘束する条件〔=MR訪問先の振分け〕をつけて、
 
当該相手方と取引すること」
 
とうわけです。
 
しかし、拘束条件付取引の反競争性の発生機序は、他者を排除するか、被拘束者間の競争(ブランド内競争)を制限するか(競争停止)であると理論的には整理されており、競争事業者間の事業提携で問題とされる競争者間の競争停止(ブランド間競争の停止)をカバーすることができません。
 
そのため本相談事例でも、A社とB社が競合であるという観点からの分析が、少なくとも明示的にはすっぽりと抜けてしまっています。
 
でも本当に問題にすべきは、本件コマーケにより、B社が競合医薬品を積極的に販売することを控えてしまわないか、といった、ブランド間の競争停止の問題であるはずです。
 
相談事例では、
 
「(1)MRの振り分けは,薬効等の説明を行うことにより新薬を早期に浸透させるためであること,
 
(2)A社及びB社はそれぞれ互いの販売活動には関与しないことから、
 
A社及びB社が,MRの活動先医療機関の振り分けを行ったとしても,価格が維持されるおそれはなく,独占禁止法上問題ない」
 
としていますが、(2)の「互いの販売活動」というのは明らかに本件コマーケの対象である医薬品の販売活動のことでしょうけれど、問題は、たとえば、B社の医薬品を使っている病院にはA社のMRもB社のMRも情報提供にはいかない、というようなことが許されるのか、ということなのです。
 
あるいは、A社の同分野(相談事例では「甲医薬品分野」)の既存医薬品を使っている病院にはA社もB社も情報提供に行かない、ということもあるかもしれません。
 
これは十分にありうる話で、本件では市場シェア70%の有力な事業者がいるということなので、共同販売をする以上、ふつうであれば、A社もB社も、その70%のシェアをもつメーカーの市場を食ってやりたいと思っているはずです。
 
そうやって、大きなライバルと対抗するために、小さな競合間で結束していいか、というのが問題の本質のはずです。
 
このように、AB間で競争を控えることについて何ら触れられていないのは、この事例で公取委が不当な取引制限の観点から分析していないためです。
 
確かにA社とB社の間には取引関係はありますが、もしこのような場合に一般的に拘束条件付取引として処理し、価格維持のおそれがあるかどうかを基準にするなら、たとえば、
 
メーカーが小売店に商品を販売する(小売店は消費者に販売する)とともに、
 
メーカーが直営店やインターネットで消費者に直売もする、
 
というよくありがちな商流の場合であっても、メーカーが小売店の販売活動に関与することで価格維持のおそれがあるなら違法、ということになりかねません。
 
本件では、A社の新薬(相談事例では「a新薬」)の情報提供先についてだけ振り分けるということなので、それだけをみているだけでは、a新薬の範囲内での競争制限の有無しか視界に入ってこないことはあたりまえです。それではだめなのです。
 
さらに、もしこのような、純粋なブランド内競争の制限の場合(しかも1対1の場合)にまで「価格が維持されるおそれ」で違法かどうかを判断してしまうと、ブランド内競争は制限しつつ(=共食いは避けつつ)競合他社を食ってシェア(=売上)を伸ばしていく、という競争促進的な面があっても違法、ということになりかねません。
 
本件では、もしシェア70%の競合の市場を食っていくというためなら、共食いを避けることは当然認められてよいと思いますが、相談事例の論理だと、それすら認められない、ということになりかねないのです。
 
販売量の増大が見込める提携なのに、提携したとたんに提携先とガチンコで価格競争をしなければならない、なんていうことになれば、競争促進的であるにもかかわらず事業提携をするインセンティブが失われてしまいます。
 
そういうわけで、この相談事例は非常に問題の多いものであるといわざるをえません。
 
公取委の現在の実務でも、こういう競争者間の事業提携は不当な取引制限として処理するのが通例であり、本相談事例のように拘束条件付取引で処理しているのは異例であると言えます。

2018年9月26日 (水)

代替的な取引先を容易に確保できない、の意味

流通取引慣行ガイドラインでは、「市場閉鎖効果が生じる場合」として、
 
「「市場閉鎖効果が生じる場合」とは,
 
非価格制限行為により,新規参入者や既存の競争者にとって,
 
代替的な取引先を容易に確保することができなくなり,
 
事業活動に要する費用が引き上げられる,新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった,
 
新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう」
 
と説明されています(第1部-3(2)ア)。
 
ここで、
 
「代替的な取引先を容易に確保することができなくなり」
 
と言っている部分については注意が必要だと思います。
 
というのは、市場の競争の実態によっては、取引してくれる取引先を見つけてくるのは大変なことも少なくないからです。
 
たとえば無名の中小企業がまったく新規の商品を開発して販売店で販売しようと思っても、簡単には販売店は取り扱ってくれないかもしれません。
 
パナソニックの創業者である松下幸之助氏の伝記などを読むと、幸之助氏が自転車用の砲弾型ランプを自転車屋に売り込むためにどれだけ苦労したかが述べられており、商売の難しさを実感させます。
 
つまり、良いものを作れば販売店は喜んで取り扱ってくれるのだ、というのは、取引の実態に合わないことが多いのです。
 
ところが、そういう商売の難しさを知らない人間が、この「容易に確保」という文言を文字どおりに解釈すると、代わりの販路を見つけるのが「容易」でなかったので違法だ、ということを言い出しかねません。
 
言うまでもなく、ここで問題なのは、排他条件付取引などの行為によって、当該行為がなかった場合に比べて容易でなくなったかどうか、なのです。
 
絶対的に「容易」かどうか、ではありません。
 
あくまで「行為ナカリセバ」の場合と比べての、比較の問題であることを見逃してはいけません。
 
これをもし川濱先生流に言えば(おっしゃるかどうかわかりませんが)、競争のベンチマークをどこにおくかの問題だということになるでしょうし、白石先生流にいえば(これも、おっしゃるかどうかわかりませんが)、行為と結果との間の因果関係の問題だ、ということになるでしょう。
 
これは法律論としては当たり前すぎて、それだけにあまりはっきりと言われることがないことなのですが、注意すべき大事な点だと思います。
 
そういう意味では、「容易に」などという、商売をなめたかのような表現は、あらためた方がよいと思います。
 
完全競争を前提に議論する経済学者や、仕事は向こうからやってくるのがあたりまえの役人が、「容易」かどうかを判断するときには、そういう誤解をしないように気をつけた方がよいです。
 
「容易」な商売など、どこにもないのです。
 
これが排除型私的独占ガイドラインの排他的取引の説明になると、
 
「・・・ある事業者が,相手方に対し,自己の競争者との取引を禁止し,又は制限することを取引の条件とすることにより
 
競争者が当該相手方に代わり得る取引先を容易に見いだすことができない場合には,
 
その事業活動を困難にさせ,競争に悪影響を及ぼす場合がある。
 
このように,相手方に対し,自己の競争者との取引を禁止し,又は制限することを取引の条件とする行為(以下「排他的取引」という。)は,排除行為に該当し得る(注12)。」
 
というように、「ことにより」であること(因果関係があること)が必要であると明記しているので、まだ問題は少ないように思われます。
 
わずかな違いですが、誤解を招くか招かないかという意味では、潜在的には大きな違いです。
 
このあたりに、文章を書く人のセンスが表れたりすると思います。

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