【お知らせ】景表法のセミナーを開きます。

ビジネスロージャーナルに景表法の記事を寄稿させていただいたご縁で、レクシスネクシス主催の景表法セミナーでお話させていただくことになりました。

こちらのURLから申込みできます。

http://www.lexis-seminar.jp/20191209-2-2/

開催日  2019年12月09日(月)

開催時間  09:30~12:00 (受付開始 09:15~)

会場名  トスラブ山王健保会館 (2階会議室)

会場所在地 〒 107-0052 東京都港区赤坂2丁目5−6 トスラブ山王健保会館

参加費  2万2000円(税込み)

ここ数年景表法は興味深い執行例が多く、話題には事欠きません。

景表法のセミナーは今年も何度もご依頼いただいていますが、そのたびに、取り上げるべき新しい事件が発生している印象です。

おそらく本年最後のセミナーになるので、一年の総決算のつもりで気合いを入れて行きたいと思います。

ご興味のある方はぜひお申し込み下さい。

 

 

2019年11月12日 (火)

エネルギアに対する課徴金について

エネルギアに対する課徴金納付命令(平成30年3月23日)は、期間限定キャンペーンを繰り返した場合における課徴金算定について、いろいろと興味深いことを教えてくれます。

私は同命令に賛成ですが、中身を見てみましょう。

まず、この事件では期間限定キャンペーンの表示が2つの期間にわたって認定されていますが、ややこしいので、最初の1つ(表示期間平成28年4月1日~5月20日)の分だけ、見ることにします。

次に、課徴金の対象役務ですが、命令では、これを「本件役務」と呼んでいます。

そして、「本件役務」は、

「平成28年4月1日から同年5月20日までの間 ・・・に新規に申込みが行われたことにより、「今カラ割」と称する割引が適用されるもの又は「今カラ割」と称する割引及び「今カラ割プラス」と称する割引 の両方が適用されるもの」

と定義されています。

つまり、平成28年4月1日~5月20日に新規申込されたインターネット接続サービスが課徴金対象役務、ということです。

この定義によれば、たとえば、平成28年4月30日に新規申込された接続サービスは、「本件役務」となります。

表示期間(平成28年4月1日~5月20日)を過ぎていようが、表示期間中に新規申込をした契約は、ず~っと、「本件役務」です。

このように、期間限定キャンペーンの繰り返しの事件では、対象商品役務が(役務の内容だけでなく)時間的に区切られることになるのが特徴といえます。

これは別に目新しいことでも何でもなくって、たとえば、「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」p10では、「課徴金対象行為に係る商品又は役務」の説明として、

「全国(又は特定地域)において供給する商品又は役務であっても、具体的な表示の内容や実際に優良・有利誤認表示をした地域といった事情から、一部の地域や店舗において供給した当該商品又は役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

と説明され、具体例として、店舗を限定した表示の例があげられています。

店舗を限定するのも、契約時期を限定するのも、理屈の上では同じことでしょう。

なお概念的には、

表示(広告)をしていた期間(平成28年4月1日~5月20日)と、

キャンペーン期間(申込期間)

とが異なることもありえますが(たとえばキャンペーン期間を「4月1日~5月30日」と記載した広告を、4月1日から5月20日まで出す)、本件ではいずれも4月1日~5月20日であり、両者は一致しています(広告期間=キャンペーン期間)。

さて、ここで条文の整理をしておくと、景表法8条1項では、課徴金額を、

「当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした

当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の

政令で定める方法により算定した売上額に

百分の三を乗じて得た額に相当する額」

と規定しています。

命令での「本件役務」は、8条1項でいうと、「当該課徴金対象行為に係る・・・役務」にあたります。

つまり、「当該課徴金対象行為に係る・・・役務」は、平成28年4月1日~5月20日に新規申込された接続サービスです。

次に、命令では、エネルギアが課徴金対象行為をした期間(=不当表示をした期間)は、同じく、平成28年4月1日~5月20日と認定されています。

この部分は「課徴金対象期間」につながります。

つまり、景表法8条2項では、「課徴金対象期間」を、

「課徴金対象行為をした期間

(課徴金対象行為をやめた後そのやめた日から六月を経過する日

(同日前に、当該事業者が当該課徴金対象行為に係る表示が不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれを解消するための措置として内閣府令で定める措置をとつたときは、その日)

までの間に当該事業者が当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の取引をしたときは、当該課徴金対象行為をやめてから最後に当該取引をした日までの期間を加えた期間とし、当該期間が三年を超えるときは、当該期間の末日から遡つて三年間とする。)」

と定義しています。

本件ではエネルギアは誤認解消措置(「当該事業者が当該課徴金対象行為に係る表示が不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれを解消するための措置として内閣府令で定める措置」)をとっていません。

しかも、キャンペーン期間中(4月1日~5月20日)に申し込まれた新規契約は基本的にず~っと続いているので(キャンペーン期間中の新規契約がぜんぶ途中解約されることなんてほぼありえないので、当然ですね。)、8条2項の、

「課徴金対象行為をやめた後そのやめた日から六月を経過する日・・・までの間に当該事業者が当該課徴金対象行為をやめてから最後に当該取引をした日までの期間を加えた期間」

は、6か月経過日と同日で、11月20日と認定されています。

というわけで、「課徴金対象期間」は、平成28年4月1日~11月20日となります。

まとめると、

課徴金対象役務(「本件役務」)は、平成28年4月1日~5月20日に新規申込みされた接続サービス

であり、

「課徴金対象期間」は、平成28年4月1日~11月20日、

となります。

つまり、課徴金対象売上は、「平成28年4月1日~5月20日に新規申込みされた接続サービス」の、「平成28年4月1日~11月20日」までの売上(月額料金など)、となります。

なので、命令では、5月21日(キャンペーン期間後)に新規契約された接続サービスからの売上は、課徴金の対象になっていません(「本件役務」にあたらないので)。

つまり、5月21日に新規契約した接続サービスの6月分、7月分、・・・11月分の月額料金には、課徴金はかかりません。

反対に、5月20日(キャンペーン期間中)に新規契約された接続サービスについては、11月20日までの料金について、課徴金がかかります。(命令でははっきりしませんが、きっと日割りなのでしょう。)

本件の表示で誤認して契約したのは5月20日までに契約した人たちでしょうから、この処理でよいと思います。(5月21日に契約した人は誤認していない。)

もしエネルギアが5月21日に誤認解消措置を講じていたら、課徴金対象期間は5月21日までになったのでしょう。

4月1日に契約した人がこの誤認解消措置を見て、「なんだ、お得じゃなかったのか」とわかって、契約を解約することはありうるので、誤認解消措置をとることに意味がないことはないと思います。

別の切り口で言うと、

①課徴金でカバーされるのは、4月1日~5月20日に新規契約申込みした契約者

②ただし、①の契約者が提供を受ける役務は、毎月(あるいは毎日?)別々の役務

とイメージすると、わかりやすいかもしれません。(②の想定は、いつでも解約できる限りは、実態にも合っていると思います。)

また、このように整理すると、継続的役務か1回きりの役務かを区別する必要がない(継続的契約は、毎月、取引の意思決定をしている、1回きりの契約の連続したものと整理すればいい)ので、あまり余計なことを考えずにシンプルに処理できると思います。

また、キャンペーン期間後も、キャンペーン期間中に契約した契約者の誤認は続いていると考えるのが自然だと思います。

理屈の上では、キャンペーン期間後に同じキャンペーンを繰り返すと、実は前のキャンペーンがお得でなかったこともわかるのではないか、という、ほとんど屁理屈も考えられますが、繰り返したキャンペーンの表示を前のキャンペーン中に契約した人が見ている保証はどこにもないので、やはり誤認解消措置が必要でしょう。

以上のように考えると、8条2項かっこ書は本件の場合にも淡々と適用すれば妥当な結論に到達し、そのように考えていると思われる本件命令は妥当だと考える次第です。

(でもそうすると、課徴金を算定するときには課徴金対象の契約だけを取り出して計算しないといけないので、すぐに契約時期で特定して対象売上が出せるシステムならいいですが、そうでないと手作業で売上をより分けて消費者庁に報告しなければならないことになって、とっても大変そうですね。)

なおこの事件については、課徴金制度の立案担当者である古川先生の詳細な論考が公正取引819号(2019年1月号)33頁に掲載されています。

 

2019年10月28日 (月)

ビジネス法務に寄稿しました。

ビジネス法務12月号の「GAFAをめぐる法規制」という特集に、

「新たな規制基準は必要か? ”GAFA”規制の競争法上の難点と目指すべき方向性」

という論文を寄稿しました。

タイトルは編集部の方に付けていただいたのですが、我が意を得たりという感じの、なかなかよいタイトルだと思います。

というわけで、わたし自身は、公取委のGAFA規制の方針に反対です。

個人情報保護のために優越的地位の濫用を使うなんて、法体系の無視もいいところです。

もちろん、他の法律(たとえば個人情報保護法)に違反する行為が、たまたま独禁法の通常の解釈で独禁法にも違反するのであれば、規制しても問題ないでしょうし、規制すべきでしょう。

ところが、いままでデジタル・プラットフォーマー以外ではまったく言ってこなかったことを、突然いいだすのは、やはりよろしくないと思います。

対消費者にも優越的地位の濫用を適用するというなら、どうして労働問題にも優越的地位の濫用を適用しないのでしょう??

「相手方」は事業者にかぎられないというなら、労働者だって「相手方」でしょう。

取引依存度だって、多くの労働者は雇用主に対して100%です。

報道では、公取委は個人情報保護法だけではデジタル・プラットフォーマーの規制に不十分だと判断したそうですが、では、これだけブラック企業が問題になっているのに、労働者の保護は労働法で十分だ、というのでしょうか??

社会的により深刻なのは、個人情報を(いちおう同意の上で)提供する消費者と、過労死ラインではたらく労働者の、どちらなのでしょう?

対消費者問題も優越的地位の濫用を適用すべきという方には、では対労働者問題の濫用にも適用するのですね、とうかがいたいです。

それで「適用される」とおっしゃるなら、それはそれで筋は通っていると思います。

でも公取委の見解は、労働問題には独禁法は適用されない、ということで固まっています。

これは矛盾しているといわざるをえません。

けっきょく、公取委は、自分が摘発したい分野に独禁法が適用される、といっているようにしか思えません。

GAFAなどの巨大プラットフォーマーを規制するなら私的独占でいくのが筋で(それなら、個別労働関係とは無関係といえます)、優越的地位の濫用というのは、いかにも安直です。

論文にもちょっと書きましたが、日経新聞によると、公取委はデジタル・プラットフォーマーに対する知見がないと経産省から批判されているらしいですが、優越的地位の濫用なら、私的独占とちがって経済学の知見など競争法の専門性は何も要らないので、ある意味、公取委の身の丈に合った規制手法なのかもしれません。

でもそれでいいのか?? というのがわたしの問題意識です。

条文上「相手方」の制限がないから、というのは、許容性の1つに過ぎません。

法律というのは国民の基本的人権を制限する契機が常にあるのですから、もう少し大人の議論をしないといけません。

・・・というのが本当にいいたいことですが、論文では「なぜGAFAが競争法上問題になっているのか」というところをわかりやすく書いたつもりですので、ご関心のある方はご一読いただけると幸いです。

2019年10月 1日 (火)

平成30年度相談事例集について

平成30年度の相談事例集につて気がついたことをメモしておきます。

■事例1

デジタルコンテンツの卸業者(シェア5割)が4割の出資者(配信業者)からの意向で当該出資者の競争者(Z社)に、高価な専用設備による変換が配信のために必要な新規格により作成されたデジタルコンテンツの販売を拒絶することが、直接の取引拒絶に該当するとされた事例です。

なかなか微妙な事案で、Z社は相談者(卸)の競合卸から配信を受けることができるか「不明である」のに、違法とされています。

まあ、シェア5割で、卸が2社しかないので、競争への影響が無視できず、違法になるのもしかたないのあかなぁ、というところです。

Z社が自前で専用設備を導入するのが「多額の費用を要するために現実的に困難」という理由で違法になっているのも微妙なところで、「多額の費用」というだけで不可欠施設であるかのような結論になっているのも、ちょっと厳しいなぁと思います。

なにより当該出資者は4割出資しているので、専用設備の費用の4割を実質的には負担しているともいえ、何ら出資していないZ社にただ乗りさせなければいけないというのは、当該出資者にしたら納得いかないところかもしれません。

そうすると考えられるのは、Z社に売るときには当該出資者に売るのよりも高く売るのが認められるか、認められるとしてどれくらい高くてもいいのか、が本当の争点のようにも思いますが、その点については相談されていません。

4割の出資なので独立の事業者という前提ですが、6割の出資ならたぶん拒絶しても問題にならなかったのでしょうね。

それから、相談では出資者の意向で拒絶することになっていますが、もし相談者自身の判断、あるいは、出資者の意向もなくたんに忖度しただけ、ならどうだったのでしょうか。

相談者自身の行為を直接の取引拒絶と認定していることからすると、相談者自身の判断でも出資者への忖度でも違法というのが公取の立場なのでしょう。

でもそう考えると、ますます、相談者の取引先選択の自由との関係で問題ないのか、疑問がわいてきます。

とくに、この卸が「べつに出資者に『忖度』したわけでもなく、自分の独自の判断で拒絶したのだ」という場合にまで単独の取引拒絶になるとすると、かなり問題があると思います。

本件で公取は、その難問を、出資者の意向があったというもやっとした(=要件事実化しにくい)事実により、ある意味うまいこと(=目立たないように)回避したように思います。

本件で興味深いのは、相談者の直接の取引拒絶(X社)ではなく、出資者(Y社)の行為も間接の取引拒絶または取引妨害とされている点ですね。

ここで一つ、比喩的に相談者を手足、出資者を頭、というと、頭の間接の取引拒絶と手足の直接の取引拒絶は並列的に成立する、ということがわかります。

でも本件がもし正式事件だったら、相談者を違反者にするのはちょっと(かなり)かわいそうな気はしますね。

(まあこんな微妙な事件ではたぶん排除措置命令まではいかないでしょうし、仮に命令が出るとしても出資者に対してだけでしょうけれど。)

ほかに興味深いのは、本件では出資者は相談者ではないということです。

これを額面どおりに受け取るなら、本件では相談者は、むしろ公取にだめと言ってもらいたくって相談に行ったのではないか、との推測もできます。

こういう事前相談の使い方もあるんだなぁと感心しました。

■事例2

福祉用具メーカー(シェア35%)が、店舗販売業者へのリベート(納入価格の割引)率をよりネット販売業者へのリベート率より大きくすることが問題ないとされました。

結論はいいのですが理由はいずれも問題だと思います。

まず①適切な説明を支援する目的だから、という理由ですが、目的(主観)が問題なのではなく、販売方法を制限する効果があるか(客観)が問題のはずです。

また、卸売価格を上げてリベートで調整することもあることからすると、リベート(小売への支払)だから「支援」だというのもナイーブに過ぎます。

次に、②コストを平準化するためだから「合理的理由」がある、というのも、ではコスト差を超えたリベート率の差なら問題なのか、という疑問が直ちに沸きます。

こういう、誤解を招く理由はなるべくひかえていただけるとたすかります。

販売方法のちがいに基づく価格やリベートの違いは価格の拘束ではないわけで、原則違法の類型ではなく、それなりの合理性の基準でOKになるはずです。

最後に、③他のリベートとあわせた最高率は店舗とネットで変わらないので競争が阻害されない、という理由も、では最高率にも差があれば(というか、単純に積み上げ式ならむしろ差はあるのが原則でしょう)競争が阻害されるのか、という疑問が沸きます。

しかも、店舗とネットの間の競争が阻害されるかを問題にしており、販売方法の「それなりの合理性」の基準と矛盾します。

まあ最近、ネットを不利に扱うことは即再販だ、みたいな相談事例が続いたので、理由はともあれ少し揺り戻したのは結構なことだと思います。

■事例5

X社の商品AとZ社の商品Bのセット割引が独禁法に違反しないとした事例です。

結論は誰も異論がないと思いますが、その理由で、

「大口需要者は,引き続き,セット販売を利用せずに,

X社から商品Aを,提携するZ社から商品Bを,

それぞれ調達することが可能であり,

商品A又は商品Bの販売市場において市場閉鎖効果(注)が生じるおそれは小さいこと」

といっているのは、少し考えると意味がよくわかりません。

市場閉鎖効果が生じないといえるためには、顧客が、

商品AをX社から購入しつつ商品BはZ社以外から買うことができ(商品B市場の市場閉鎖効果の不存在)、かつ、

商品BをZ社から購入しつつ商品AはX社以外から買うことができること(商品A市場の市場閉鎖効果の不存在)

が必要なのであって、顧客がX社から商品Aを、Z社から商品Bをそれぞれ買えるというだけでは、市場閉鎖効果がないことにはならないように思われます。

おそらく回答もいいたいのは、バラバラに買える選択肢が残っていて、なので、商品AをX社から買っても商品BはZ社以外から買える、ということなのでしょうけれど、こんな大事なところを端折ったのでは、一般の人はどういう理由でOKなのかがぜんぜんわからない(あるいは誤解する)のではないかと思います。

なお通常、市場支配力のある商品とない商品のセット割引では、割引額を全部市場支配力のない商品への割引とみなしてコスト割れにならないかを見ますが(バンドルディスカウントに関する報告書の割引総額帰属テスト)、本件では割引が最初から商品Bだけで、しかもコスト割れでないことが前提になっているので、あえて割引総額帰属テストに言及する必要もなくOKという結論になっています。

■事例6

ソフトウェア会社(相談者)が、既存顧客に、アップグレード版購入時に将来の定期アップグレード版の提供が受けられる権利の同時購入を義務付けること(相談では「保守契約」)が、優越的地位の濫用にあたらないとされた事例です。

結論は誰も異論ないと思いますが、理由づけはいろいろ問題です。

まず、

「保守契約を締結しない顧客のほとんどは最終的にアップグレード版が出る度に個別にアップグレード版を購入して(いる)」

からいいんだ、という理由は、ではどうして現状では5%しか保守契約を締結しないのかということを無視しています。

5%しか保守契約が締結されない理由は、相談事例にも明記されているとおり、

「顧客は,ソフトウェアAを購入した時点では,将来的なアップグレードの必要性を判断し難いとして保守契約の締結を控える傾向にあ(る)」

からです。

つまり、不確実性があるから保守契約よりアップグレード版の購入を選択しているわけです。

回答は、この不確実性というリスクの顧客への移転という点を無視しています。

本件で問題になりうる不利益とすればこの不確実性が一番大きいはずなのに、この点について、事実関係としては認定しながら回答では一言も触れないというのは、いかがなものかと思います。

次の、

「アップグレード版は当初のソフトウェアAよりも機能が改善されているため,保守契約によるアップグレードが顧客にとって有益と考えられること」

というのも、機能が改善するのは当然として、それが対価に見合ったものであり顧客が望むものであるかどうかが問題のはずです。

そうでないと、コンサートチケットでもクリスマスケーキでも、

「市価で歌手の歌が聴けるからいいじゃないか」(←ファンでもないのに・・・)、

「市価でケーキが食べられるから良いじゃないか」(←近所の馴染みのケーキ屋のケーキが好みなのに・・・)、

という理屈になりかねず、購入強制が違法になる範囲がせまくなりすぎます。

回答の理屈は、少々荒っぽすぎます。

次の、

「これまで保守契約を締結せずにアップグレード版が出る度にアップグレード版を購入していた顧客は,今後,保守契約を締結した上でアップグレード版の提供を受ける方が,従前よりも費用を削減することができるようになるため,顧客にとって不利益を与えることには該当しないこと」

なんていうのが、前述のリスク移転の不利益を無視した最たるものですね。

リスク込みで費用の削減になるかどうかを問題にすべきですし、また、では反対に費用増なら濫用になるのか、というのも、そうともいえないと思います。

というわけで、これもたいへん切れの悪い理由づけだと思います。

それからそもそもの優越的地位の認定の部分ですが、

「ソフトウェアAの顧客は,使い慣れを重視する傾向があり,他のメーカーに切り替えることはほとんどなく,

X社との取引を継続する必要性が高いため,

X社はソフトウェアAの顧客に対して取引上の地位が優越しているとも考えられる」

というのも、相当乱暴です。

使い慣れで切り替えることが少ないというのと、取引を継続する必要が高いというのとには、かなりの飛躍があります。

使い慣れで切り替えることが少ないというだけで優越的地位が認定されるなんてことになると、きっと世の中は大変なことになると思います。

事業者向け情報機器用ソフトウェアというのが何のことかわかりませんが、たぶん、優越的地位なんてとうてい認められない商品だったのではないでしょうか。

回答でも、「優越しているとも考えられる」と、かなり控えめな書き方になっているのは、それが理由じゃないかと思います。

それから、最近の相談事例は「独占禁止法上の考え方」の中で、ガイドライン等の説明と相談の分析を分けて書いていて、わたしなどは相談の分析だけを読むのですが(ガイドライン等の説明は何も目新しいことが書いてないので)、本回答では両者がかみ合っていません。

つまり前半では、

「取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務の購入を要請する場合であって,

当該取引の相手方が,それが事業遂行上必要としない商品若しくは役務であり,又はその購入を希望していないときであったとしても,

今後の取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には,

正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号イ)に該当し,不公正な取引方法として独占禁止法上問題となる(同法第19条)(優越的地位濫用ガイドライン第4-1(1))。」

といっているのですが、ソフトウェアを購入した事業者がソフトウェア会社との

「今後の取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合」

なんて、あるんでしょうか?

この規範を堂々と挙げるなら、「今後の取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得ないことなどありえない」の一言ですみそうなものです。

そもそも本件では、影響を受ける「今後の取引」が想定しづらいです。

アップグレード版の販売は、そもそも今回やめることにしているので、保守契約を受け入れようが受け入れまいがアップグレードは買えないので、受け入れるかどうかの意思決定による「影響」は論理的にありません。

ではほかに何か「取引」があるのかというと、たぶんなさそうです。(カスタマーサービスが意地悪してすぐに来てくれなくなる、とかでしょうか?)

相談事例にも認定されていません。

というわけで、この回答は「3 独占禁止法上の考え方」の前半((1))と後半((2))がかみあっていません。

公取委の相談担当部署には、きちんと論理的に書く勉強をしてほしいです。

それでも、平成前半の古い時代よりはましですが、今年は最近数年のとくらべるとちょっとレベルが落ちるように思われます。ちょっと心配です。

影響を受ける「今後の取引」がないとすると、本件の本質は、そもそも優越的地位の濫用で処理するのが適切な事案だったのか、たんなる単独かつ直接の取引拒絶(アップグレード版の販売拒絶)だったのではないか(なのでなおさら違法にはならない)、という気がします。

こうやって、ガイドラインの規範に立ち返り、それにしっくりこないとわかったが、別の構成が妥当なのではないかというひらめきがあるわけです。

筋肉反射で優越と決めつけ、決めつけた後は規範とあてはめの整合性も気にしない、というのでは、もはや法律解釈ではありません。

■事例7

電子部品メーカーが電子部品の製造特許等のライセンスの条件としてライセンシーが競合品を製造しないことを条件としたり、競合品を製造する場合にはしない場合よりライセンス料率を高くすることが取引条件の差別的取扱いにあたらないとされた事例です。

結論も理由もおおむね異論はないのですが、

「なお,ライセンスする相手方によって,製造が禁止される電子部品A1の範囲やライセンス料率の差が不当に差別的である場合は,取引条件等の差別取扱いとして,独占禁止法上問題となるおそれがある。」

という部分は、何が言いたいのかよくわかりません。

どういう場合が「不当に差別的」なのか、何にも説明がありません。

ライセンス料率が違いうることは交渉なのですから当然です。

FRAND宣言をしているわけでもありません。

こういう記載を見ると、ライセンス料率に差を設けること自体がいけないことのようにとられかねません。

とくに本件では「競合品を製造する場合のライセンス料率」と「しない場合のライセンス料率」の差が争点で、この点が強調されているので、反対解釈(?)で、「しない場合のライセンス料率」は正当な理由がないかぎり同等でなければならないとか、コスト差を反映した適正なものでなければならないとか、いらぬ誤解を招く要素が潜在的にあります。

それからライセンスについては法務部ではなく知財部が扱っている会社も多く、知財部の法律家は社内弁護士さんではなく弁理士さんであったりするので、独禁法に詳しいひとは少なく、相談事例集に不用意なことを書くと、文字どおりにとられかねません。

というような事情も考慮して、いらぬ誤解を招かないようにしていただければと思います。

ちなみに本件では、相談者は、①競合品の製造を禁止する、②①がだめなら、ライセンス料率を上げる、という2段構えの戦略をとっていますが、こういうことは現実にありえます。

要は、相談者としては、競合品が出てくることによるマイナスと、ライセンス収入によるプラスを天秤にかけるわけで、もしライセンシーが①を受け入れない場合にはライセンスしないという戦略だとライセンス料収入はゼロなので、製品の売上が落ちてもライセンス収入で補える見通しがあるときには、②をとることも合理的です。

■事例13

災害復興のためのビニールハウス復旧について、組合員からビニールハウス復旧の施工依頼を受けた単位農協(自らは施工能力なし)が、ビニールハウス専門業者に再委託するにあたり、組合員には、(農協中央会(相談者)の助成金を受けて)ビニールハウス専門業者からの請求額の10%引きで請求することが、不当廉売にあたらないとされた事例です。

問題ない理由の1つとして、

「[2] 単位農協は自らビニールハウスを施工できず,ビニールハウス専門業者に施工を委託しなければならないため,ビニールハウス専門業者が取引をする機会が奪われるものではないこと」

というのをあげていますが、こんなこと言い切って大丈夫なのか心配になります。

というのは、単位農協が自分の懇意にしているビニールハウス専門業者にだけ再委託したら、受注できないビニールハウス専門業者は困ってしまうのではないかと思われるからです。

その地域にビニールハウス専門業者が1社しかいないなら誰も困りませんが、相談内容には

「(2)単位農協の組合員は,農産物の生産に使用されるビニールハウスの施工を,自らが加入する単位農協又はP県内に複数存在するビニールハウス専門の施工業者(以下「ビニールハウス専門業者」という。)に発注している。」

と、具体的な数は不明ですが複数の業者がいることが明記されています。

(ところでいつも思うのですが、相談事例のポンチ絵って、当事者が何人いるのかについて無頓着すぎます。本件のポンチ絵でも「ビニールハウス専門業者」とひとくくりにされていますが、ここが複数いる図にしていたら、この論点にも気付いたと思います。)

そうすると、問題ないとするためには、単位農協からビニールハウス専門業者への発注は競争的な方法(相見積もりとか)によるという条件がなければ、つまり、単位農協が恣意的に再委託先を決められるのであれば、受注できない業者が排除される可能性が大いにあると思うのです。

そういう事実がたまたまなかったなら結果オーライですが、競争法の評価としては非常に重要(というか、実質的にはほぼ唯一の論点らしい論点)なので、この点について触れないのはかなり舌足らずだと思います。

 

ところでココログが一部のテンプレートの提供をやめたようで、今日見たらこのブログのデザインが変わってました😵

今までのになじんでいたのでちょっと残念ですが、技術の許すかぎり少しずつ見やすくしていきたいと思います(さっそくフォントはメイリオに変更しました)。

2019年9月12日 (木)

「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」について

公取委がデジタルプラットフォーマーに関する掲記のガイドライン案を公表しました。

気がついたことを記しておきます。

まずそもそも論ですが、GAFAの個人情報の収集・利用を優越的地位の濫用で規制するのは法律解釈として相当無理があります。

個人情報もサービスの対価だというのは形式論としていうのはたやすいですが、常識的な文言解釈としてどうなのか、外国の議論にまどわされず冷静に議論する必要があります。

一般人はグーグルはただで使っていると思っているし、これを個人情報を対価としていると考える人は、独禁法の世界にどっぷりつかっている人をのぞき、いないと思います。

しかも、「取引」(独禁法2条9項5号)という基本概念にかかわる解釈論なので、GAFAという文脈をはなれて一般化して大丈夫なのか、よくよく考えないといけません。

たとえば、「取引」という言葉は不当な利益による顧客誘引(一般指定9項)でも、

正常な商慣習に照らして不当な利益をもつて、競争者の顧客を自己と取引するように誘引すること

というように使われているので、その特別法である景表法の解釈に影響しないか心配です。

独禁法の分野で情報も対価にあたると言い出したのは、私の知るかぎり、元FTC委員のPamela Jones Harbourさんですが、英語では、priceという単語が、「価格」「対価」という意味とともに、「犠牲」あるいは「代償」という意味もあります。

なので、消費者はGoogleに個人情報というprice=犠牲=対価を払っている、というのは、英語としては(やや駄洒落っぽいですが)、意味はとおりますし、うまいこというなあと思いました。

でも、日本語で個人情報が対価だといったら、ほんとうに駄洒落のレベルではないでしょうか。

また本ガイドライン案の内容は、競争法というより、ほとんど個人情報保護法を優越的地位の濫用にむりやり載せ替えただけで、それならどうして個人情報保護法で行かないのか、よくわかりません。

要するに、公取委はなんとしてもGAFAに独禁法を適用したいのでしょう。

しかもガイドラインは「個人情報」と「個人情報等」を使い分けており、個人情報保護法を超える規制になっていることにも注意が必要です。

「個人情報」は個人情報保護法上の個人情報ですが、「個人情報等」の定義は、

個人情報及び個人情報以外の情報

となっていて、要するに、情報なら何でもあたります。

重要性とか、センシティブ情報であるとか、個人を特定できるかとか、いっさい関係ありません。

もちろん個人に関する情報のみならず、法人に関する情報もあたります。

これも大風呂敷を広げすぎですね。

われわれ法律実務家は契約書などを起案するときに適用要件が広がりすぎたり狭すぎたりしないか細心の注意をはらって起案する癖がついていますから、こういう、なんでもありの定義をみると、こういう仕事が許されるお役所って楽だなぁと思います。

だってタテマエでは何でもアウトにできるようにしておいて、実際の運用で手加減を加えればいいんですから。

昔から公取のガイドラインにはこういうのが多いです。

たとえば知財ガイドラインの「公正な競争を阻害するおそれがある場合には」なんていうのは、どうにでも解釈できるし、どういう場合にそういう場合になるのという一番知りたいことについて何も書かれていません。

まあそれでも独禁法の理論を勉強すればなんとか理解はできたのですが(逆に言えば、理論を知らずにガイドラインを読んでもやっぱりなにもわからない)、今回のガイドライン案は確固たる理論づけがないので、専門家からみても、何も分かりません。(ほんとうに、「情報」というだけで、こんなに幅広い規制をして大丈夫か。線を引くとしたらどこで引くのか。)

プラットフォーマーガイドライン案は、優越的地位濫用ガイドラインとの整合性も無視していますね。

たとえば優越的地位濫用ガイドライン第2-1では、

甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは,

乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,

甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合である。

というように、事業経営上の支障があることだといっていますが、消費者に「事業経営上」の支障なんてあるわけがありません。

ちなみにこれに相当する部分はプラットフォーマーガイドライン案3(1)では、

デジタル・プラットフォーマーが個人情報等を提供する消費者に対して優越した地位にあるとは,

消費者がデジタル・プラットフォーマーから不利益な取扱いを受けても,消費者が当該デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスを利用するためにはこれを受け入れざるを得ないような場合である。

とされていますが、これも論理的に変です。

というのは、

消費者が当該デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスを利用するためにはこれ〔=不利益な取扱い〕を受け入れざるを得ないような場合

がすべて優越的地位とみとめられてしまうと、当該デジタル・プラットフォーマーがサービス提供の条件として当該「不利益な取扱い」(たとえば個人情報の提供要請)をしているだけで、他に代替的選択肢があるかどうかにかかわらず、優越的地位がみとめられてしまうからです。

これがもし優越ガイドラインの「事業経営上大きな支障を来すため」のような要件、たとえば、「私生活上の困難を来すため」というような要件が入っていれば、絞りはかけられそうですが、その部分はばっさり削られています。

ひょっとしたら、マイナーなプラットフォームの場合には、「ざるを得ない」にあたらない(他に乗り換えられる場合には、喜んで受け入れているのであって、「受け入れざるを得ない」わけではない)、と読むのかもしれませんが、ふつうの日本語の読み方としてかなり無理があります。

実はガイドライン案も、そのつぎのところでは、

消費者がデジタル・プラットフォーマーから不利益な取扱いを受けても,消費者が当該デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスを利用するためにはこれを受け入れざるを得ないような場合であるかの判断に当たっては,消費者にとっての当該デジタル・プラットフォーマーと「取引することの必要性」を考慮することとする。」

としており、取引必要性を考慮すると明記しています。

ですがそういうわけで、この部分はその前の、「消費者が当該デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスを利用するためには」という部分とかみ合っていません。

その次の、優越的地位認定の具体的な考慮要素を述べたところでは、

①消費者にとって,代替可能なサービスが存在しない場合,

②代替可能なサービスが存在していたとしても当該デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスの利用を止めることが事実上困難な場合,又は,

③当該デジタル・プラットフォーマーが,その意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の取引条件を左右することができる地位にある場合

には,通常,当該デジタル・プラットフォーマーは消費者に対し取引上の地位が優越していると認められる。

とされています。

①と②は取引必要性を具体的に言いかえただけなので大きな問題はないのですが、③はおどろきです。

③は典型的な市場支配力の定義ですが、いままで優越的地位濫用は相対的優越でたりるといっていたところを大きく変更しています。

たしかに優越ガイドラインでも

(2) 甲の市場における地位」

というのが考慮要素としてあげられてはいましたが、

「甲の市場における地位としては,甲の市場におけるシェアの大きさ,その順位等が考慮される。甲のシェアが大きい場合又はその順位が高い場合には,甲と取引することで乙の取引数量や取引額の増加が期待でき,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすい

というように、あくまで事業上の支障に結びつけた書き方でした。

プラットフォーマーガイドライン案では、相対的優越と絶対的優越が区別されなくなってしまいました。

まあ、市場支配的地位は相対的優越よりも狭い概念だと割り切れば結論的には問題はないのかもしれませんが、優越ガイドラインでの甲の市場における地位はあくまで一考慮要素だったのが、プラットフォーマーガイドライン案では「通常」優越と認めるとされているので、位置づけがだいぶちがいます。

これはきっと、欧米でGAFAを支配的地位濫用で規制していることに影響されたのでしょう。

あと、優越ガイドラインでは「乙」にあたるのがプラットフォーマーガイドライン案では「消費者」という集合名詞になっているため、個々人との間に優越的地位を認定すべきであるとの発想がきわめて希薄です。

優越的地位の濫用に課徴金が導入されて以来、各取引先との間で個別に優越的地位を認定する実務が定着していますが、それと逆行するうごきですね。

(まあ無料サービスなら課徴金はかからないので、運用上は問題ないのかもしれません。)

濫用行為の例としては、

利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること

なんていうのがあげられていて、個人情報保護法そのままじゃないかとびっくりします。

でも、少なくとも市場支配的にあるプラットフォーマーの濫用行為の認定については、個人情報保護法規に違反する行為は競争法上の濫用行為なのだという運用がドイツなどではなされており(Facebook 2016, Martin Moore、 Damian Tambini etc.Digital Dominance: The Power of Google, Amazon, Facebook, and Apple, p90)、ありえなくはない解釈なのかもしれません。

そのほかの濫用行為もみてみると、

「利用目的の達成に必要な範囲を超えて,消費者の意に反して個人情報を取得すること。」

というのは、個人情報保護法16条1項の、

「個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。」

と瓜二つで、

「個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに,個人情報を取得すること。」

というのは、個人情報保護法20条の、

「個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。」

と瓜二つですね。

こうしてみるとやはり、どうして個人情報保護法で規制されているものを独禁法で重ねて規制しないといけないのか、疑問がわいてきます。

しかも個人情報保護法は個人情報取扱事業者ならすべて適用されますが、プラットフォーマーガイドライン案はデジタルプラットフォーマーだけ、さらに割り切っていえばGAFAだけに適用されるので、なぜ重ねて規制しないといけないのか意味がわかりません。

もちろんガイドライン案に書いてある行為だけが濫用行為ではないのでしょうけれど(ガイドライン案にもそう明記されています)、だからこそ、個人情報保護法には違反しないけれども独禁法には違反する行為を明示してこそ、ガイドラインの意味があるのではないでしょうか。

(確かに一部には、

「自己の提供するサービスを継続して利用する消費者に対し,消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等とは別に,個人情報等の経済上の利益を提供させること。」

なんていうのもありますが、いかにもとってつけた感じで、ほんとうにガイドラインで上げる必要があるほどの典型的な有害行為なのか疑問です。

というより、そもそも個人情報とサービスの対価性があいまいなのに、「消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等」と、それとは別に提供を強いられる「個人情報等」って、どうやって区別するのでしょうね? )

というわけで、本ガイドライン案の意味は、公取はGAFAを捕まえたいんだということがわかる、ということなのでしょう。

でもGAFAにかぎらず外資系はタフですから、きっとこのガイドライン案で正式処分に結びつくことはないのだろうと思います。

ひょっとしたら、先日のリクナビのような、国内のプラットフォーマーがとばっちりを食らうかもしれません。

2019年9月10日 (火)

だいにち堂訴訟での消費者庁の主張について

通販新聞9月5日号(6面)が報じるところによると、消費者庁は、だいにち堂の取消訴訟において、同社が提出したアンケート調査で効果があると肯定的な評価をしたのが1割にとどまるということを前提としたとしても、

「広告が掲載された新聞の販売部数約658万部(1日あたり、推計)を前提とすると『60万人が改善効果が得られると認識する可能性を示すものであり、軽視できない』とも指摘」

しているそうです。

これは実務的には非常に重要な意味があると思います。

というのは、景表法の論点で、誤認はどのような消費者を基準にするのかというものがあり、大元編『景品表示法(第5版)』(緑本)p50では、

「当該商品役務についてさほど詳しい情報・知識を有していない、通常レベルの消費者、一般レベルの常識のみを有している消費者が基準となる。

したがって、・・・ごく一部の消費者のみが勘違いや無知により誤認を生じるようなものは含まれない・・・」

と説明されています。

これについて私は以前から、これだとごく一部でもだまされる消費者が保護されないことになり消費者保護法として不十分だと批判していました。

とくに不当表示はそれ自体たいしてコストがかからないので(いわゆるチープトーク)、ほんのわずかでもだまされる消費者がいればうそをつくのが事業者にとっては合理的ということになり、通常レベルの消費者を基準にしたのでは不当表示が防げないと考えています。

経済学的な比喩を用いれば、平均的あるいはinframarginalな需要者を基準にするのではなく、marginalな需要者を基準にすべき、ということです。

ですがだいにち堂訴訟での消費者庁の主張は、たった1割でも誤解するなら問題だ、あるいは絶対数が多いから問題だ、とするものであり、通常レベルの消費者を基準にするという従来の考えかたから大きく離れています。

実は以前からホンネのところでは消費者庁ないし公取委はこういう運用をしていて、ホンネとタテマエを使い分けているところがあったように思われます。

最近の特に厳しい運用(マクドナルドのローストビーフバーガー事件など)の時代もそうですが、かなり以前にも、たとえば、2008(平成20)年3月13日NTT東西に対する「DIAL104」に関する排除命令で、

DIAL104そのままおつなぎします

と表示しただけで、同サービスの利用には通話料もかからないかのような表示であって、実際には通話料がかかったので不当表示だとしました。

わたしはこの事件は行き過ぎであったと今でも思っていますが(「そのままおつなぎ」というだけで、無料だと理解する人がどれだけいるのか疑問)、それはともかく、ときどきこういう「外れ値」(outlier)的な事件は従来からあり、「通常レベル」というのを額面どおりに受け取ることはできませんでした。

それが今回、取消訴訟の主張という形で、消費者庁のホンネがはっきりと見えたわけです。

事業者としては、そんなホンネとタテマエの使い分けをされたのではたまったものではないわけで、きちんとタテマエを通して欲しいところですが、お役所というのは自分のまちがいはぜったいみとめないので、これからも緑本の「通常レベル」という記述は残るのだろうと思います。

でもこういう記述が残るのは大きな誤解のもとなので、次回改定の際にはきちんとあらためるべきだと思います。

西川課長、よろしくおねがいします。

ところで、600万部の1割で60万人も誤認するから無視できないというのもやや暴論で、それだと、延べ6000万部の広告を出したら1%が誤認するだけでも優良誤認になってしまいます。

あるいは、消費者庁が6万人でも無視できないというなら、600万部の1%でも誤認したらアウトということになります。

しかし、それはそれでちょっとやりすぎではないでしょうか。

従前から、不注意な消費者も保護すべきと主張していたわたしですら、1%だと、さすがに事業者が何も広告できなくなってしまいそう(あるいは、延々と打消し表示をしなければならなさそう)で、行き過ぎな気がします。

(marginalだと最後の1人でも保護されるべきなのですが、それは言葉の綾ということでご了承下さい。)

独禁法での公取委もそうですが、訴訟になったらお役所というのはめいいっぱい自己に有利な(いわゆる高めの)主張をしてくるもので、そういう点では一般私人となんら異なりません。

わたしは消費者庁は最近少々行き過ぎはあるにしても基本的には消費者の味方だと思っているのですが、こういう、理屈をないがしろにしてなりふりかまわぬところを見ると、ちょっとげんなりします。

2019年8月29日 (木)

営業秘密の定義の英訳

政府の法令英訳データベースでは、不正競争防止法の営業秘密の定義(2条6項)は、

この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」

「The term "Trade Secret" as used in this Act means technical or business information useful for business activities, such as manufacturing or marketing methods, that are kept secret and that are not publicly known.

と翻訳されています。

でも、information は単数なので、

The term "Trade Secret" as used in this Act means technical or business information useful for business activities, such as manufacturing or marketing methods, that is kept secret and that is not publicly known.

なんじゃないでしょうか。

それと、「秘密として管理されている」を「that is kept secret」と翻訳していますが、これだと、「not publicly know」とのちがいがわかりにくいですね。

そもそも営業秘密の保護は1990(平成2)年の不競法改正で入ったものですが、そのもとになったTRIPS協定の39条では、

Article 39

1. In the course of ensuring effective protection against unfair competition as provided in Article 10bis of the Paris Convention (1967), Members shall protect undisclosed information in accordance with paragraph 2 and data submitted to governments or governmental agencies in accordance with paragraph 3.

2. Natural and legal persons shall have the possibility of preventing information lawfully within their control from being disclosed to, acquired by, or used by others without their consent in a manner contrary to honest commercial practices so long as such information:

(a) is secret in the sense that it is not, as a body or in the precise configuration and assembly of its components, generally known among or readily accessible to persons within the circles that normally deal with the kind of information in question;
 
(b) has commercial value because it is secret; and
 
(c) has been subject to reasonable steps under the circumstances, by the person lawfully in control of the information, to keep it secret.」

とされています。

2項(a)の「not ... generally known」が非公知性(不競法の英訳では、that are not publicly known)ですね。

とすると、秘密管理性はTRIPS協定では2項(c)がもとになっていることがわかります。

でもそれ(「秘密として管理されている」)を、that are kept secretと訳すと、意図がよくわからなくなってしまいます。

TRIPS協定に忠実に秘密管理性を表現するなら、英訳は、subject to steps taken to keep it secret くらいが適当でしょうか。

あるいは、「管理」というのは、たとえば、出入国管理及び難民認定法が、Immigration Control and Refugee Recognition Act と翻訳されていることからすると、 control が無難そうです。

そすうると正しくは、

The term "Trade Secret" as used in this Act means technical or business information useful for business activities, such as manufacturing or marketing methods, that is subject to steps taken to keep it secret and that is not publicly known.

とか、

The term "Trade Secret" as used in this Act means technical or business information useful for business activities, such as manufacturing or marketing methods, that is controlled as secret and that is not publicly known.

とかですかね。

あるいは、政府の法令英訳データベースの辞書検索で「管理」を調べると、administrationとか、managementがでてきます。

いちおうOALDで英語の意味を調べると、administerは、

「to manage and organize the affairs of a company, an organization, a country, etc.」

と説明されており、manageは、

「to keep sb/sth under control; to be able to deal with sb/sth」

と説明されています。

ただmanageはほかにもたくさん意味があるので(上記引用の意味は7番目で一番最後)、administerのほうが意味ははっきりするかもしれません。

というわけで、

“The term “Trade Secret” as used in this Act means technical or business information useful for business activities, such as manufacturing or marketing methods, that is administered as secret and that is not publicly known.”

にしておきます。

まあ秘密管理性の訳しかたは趣味の問題ですが(それでも、「kept secret」だと、秘密になっている状態というイメージしかわかず、管理者の管理行為が必要だというニュアンスが伝わらないので、やっぱり改善の余地はあります)、be動詞は単純な文法上のミスですから、直しておかれたほうがよいと思います。(この定義はわりと使いますし。)

ともあれ、言うは易しで、この英訳プロジェクトって、たくさんの国際弁護士さんなどが、ほとんど手弁当でやった業績なので、ほんとうに頭が下がります(わたしもとある友人から、このプロジェクトに加わらないかと非公式に打診されたことがありましたが、途中からはいるのはやっぱりむずかしいだろうということで、その話はなくなりました。)

わたしが弁護士になった20年ほど前には、法律の英訳はほとんど一から訳すか、民法系については京大の北川善太郎先生が監修されていた加除式の英文法令集を使うかしていたので、このプロジェクトはほんとうに貴重だと思います。

2019年8月26日 (月)

ビジネスロージャーナルに寄稿しました

ビジネスロージャーナル10月号に、

最近の消費者庁運用例にみる不当表示認定回避のための施策

という論文を寄稿しました。

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 編集部の方からは、こういうふうな表示をすれば不当表示にならないよというような、NGワード集的なものを期待されていたようなのですが、最近の消費者庁の運用に照らすと、そのような小手先の、あるいは、場当たり的な対策ではだめで、一段高いレベルから骨太のチェックしないといけないよ、という思いを込めながら書きました。

教科書的な説明としては、不当表示というのは、通常レベルの消費者を誤認させるかどうかできまるということなのですが、最近は、そういうレベルではなくて、よりより表示に改善できる余地があるなら措置命令で是正させているように思えてなりません。

及第点ではだめで、満点あるいは満点近くでなければならない、というイメージです。

よく依頼者の方からは、どのレベルなら注意止まりで、どのくらいから措置命令を受けるのか、という質問を受けますが、わたしが最近相談を受けた2つの事件でも、どうして一方が措置命令で他方が注意なのか、まったく理解に苦しくというほかないケースがあり、合理的に事前に予測するのはほとんど不可能ではないかと思っています。

(というわけでこの論文にも、注意ですませるノウハウみたいなものは書いていませんのでご了承下さい。)

表示対策課の課長が大元課長から西川課長にかわって、景表法の運用がどう変わるのか、大いに注目です。

ご興味のある方はご一読いただけるとうれしいです。

2019年8月23日 (金)

ジュリスト判例速報にクアルコム審決の評釈を書きました

ジュリスト1536号(9月号)の独禁法事例速報に、

「非係争義務が拘束条件付取引に該当しないとされた事例

ークアルコム・インコーポレイテッド事件」

と題してクアルコム審決の評釈を書かせていただきました。

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話題の事件で興味があったので、たいへんよい機会をいただけたと思っています。

いろいろと議論もありうる事件なので、この記事が議論を深めるのに少しでも役に立てばと思います。

字数がかぎられるので書けないことも多かったですが、きちんとしたことをブログで書くのは時間がかかってたいへんなので、雑感を述べておきます。

まず審決の論理は、クロスライセンスは通常適法だから本件も適法だ、という拍子抜けするくらい単純な論理で、どうしてこんな単純な事件に9年もかかったのか不思議なくらいです。

しかも審決は一見長くみえますが、般若経(読んだことはありませんが)も顔負けにくりかえしが多く、簡潔に書けば審判官の判断の部分は半分くらいになったんではないかと思われます。

(審判官の方は、長いフレーズを1文字で出せるように、ワープロの単語登録機能を駆使したのだろうと想像されます。)

あと、当事者の主張の洗練度をくらべてみると、大人と子供中学生くらいのちがいがあって、矢吹先生さすがだなぁ(JASRAC審決に続いての勝利)と思うとともに、審査官のこんな薄弱な理論に9年間も付き合わされたのかと思うと、国民として恐ろしい思いがします。

と同時に、もっと早く終われなかったのか、関係する審判官の方々には反省していただきたいです。

いくら執行停止をえたクアルコム側には早く終わらせるインセンティブがないといっても、税金の無駄遣いですし、その間、法的にも不安定な状態になるわけで、だらだらとやっていいことにはならないと思います。

改元がなかったらもっと時間がかかってたんではないかと勘ぐったりしてしまいます(審決日は平成ギリギリの平成31年3月13日)。

こういうのをみると、審判制度がなくなってよかったなぁと思わざるをえません。

裁判所なら2年くらいで一審判決が出ていたのではないでしょうか。

理屈の上でもいろいろ問題で、まず、FRAND宣言付の標準必須特許とそれ以外の非必須特許が審査官の主張では区別されていません。

この点はクアルコム側が適切に、標準必須特許は商品差別化の役には立たないと主張し、審決もそのとおりみとめています。

まずこの点だけで、審査官の主張はロースクールの答案なら落第でしょう。

今の公取なら優越的地位の濫用とか、ひょっとしたら取引妨害(!)とかもくっつけて命令を出すかもしれませんが、この当時はもっと品がよかったので、拘束条件付取引だけでした。

そのおかげで、拘束条件付取引では「余儀なくさせた」かどうかは違反の要件ではないと、審決でも明確化されました。

これはよかったと思います。

ところで最近の公取委の実務にならってこの審決でも関係者名は伏せ字になっていますが、それだとイメージもわきにくいので、公開情報からわかる分を以下に記しておきます(たぶん業界に詳しい人ならすぐにわかるレベルだと思います)。

ジュリストの記事でも関係する分については明記しています。

分かった分だけ結論を書くと、以下のとおりです。

A1→松下電器産業
 
A2→パナソニック
 
B→日立製作所
 
C→富士通
 
D→日本電気
 
E→東芝
 
F→三菱電機
 
G→カシオ計算機
 
H→カシオ日立モバイルコミュニケーションズ
 
I→京セラ
 
J→三洋電機
 
K→シャープ
 
L1→パナソニックモバイルコミュニケーションズ
 
特定の根拠は以下のとおりです。
 
審決書で「A1」と表記されている会社は、T63規格に31件の特許、T64規格に8件の特許を有するとされ(審決案p6)、いずれもインターネットで公開されている特許権者リスト(T63規格T64規格)で〔松下電器産業〕(現A2〔パナソニック〕)と確認できます。
 
さらに平成21(2009)年9月の時点で「W-CDMA Patent Licensing Programme」に参加(p91)とされているのも、VIA LICENSINGのウェブサイトで確認できます。
 
Bは、平成16(2004)年4月1日より端末事業をH〔後述のとおりカシオ日立〕に移管した(p8)ことから、日立製作所(G参照)とわかります。
 
T64規格に19件の特許があるとされるのは(p6)、公開リストで確認できます。(ただし、T63規格に26件の特許(p6)があるとされていますが、公開リストでは24件です。)
 
基地局を製造する(p8)ことも確認できます(後述)。
 
Cは、T63規格に21件の特許、T64規格に8件の特許を有するとされ(p6)、いずれも公開リストから富士通と確認できます。
 
富士通が「W-CDMA Patent Licensing Programme」に参加(p91)していることはVIA LICENSINGのウェブサイトで確認できます。
 
富士通は基地局を製造していた(p8)ことが確認できます(後述)。
 
Dは、T64規格に6件の特許を有するとされ(p7)、公開リストで日本電気と確認できます。(ただし、T63規格に7件の特許があるとされるのは(p6)、公開リストでは17件です。)
 
「W-CDMA Patent Licensing Programme」に参加(p91)していることは、VIA LICENSINGのウェブサイトで確認できます。
 
基地局を製造しているとされますが(p8)、日本電気も基地局を製造していました(後述)。
 
Eは、T63規格に7件、T64規格に0件の特許を有するとされますが(p6)、公開リストで東芝と確認できます。
 
Fは平成20(2008)年3月3日に端末事業を収束させる旨公表したとされますが(p8)、これは三菱電機です。
 
・「『D』の三菱電機、携帯電話の開発・生産から撤退」https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/03/news030.html
 
「三菱電機は〔2008年〕3月3日、携帯電話事業からの撤退を発表した。」
 
・基地局を製造していたとされますが(p8)、三菱電機も該当します(後述)。
 
三菱電機は「W-CDMA Patent Licensing Programme」に参加(p91)していることがVIA LICENSINGのウェブサイトで確認できます。
 
T64規格に5件の特許権を有すること(p7)は、公開リストで確認できます。(ただし公開リストによると三菱電機はT63規格にも10件の特許を有しています。)
 
Gは、平成16(2004)年4月1日に端末事業を子会社H〔(株)カシオ日立モバイルコミュニケーションズ〕に譲渡した(p8)とされていますが、これはカシオ計算機です(2004年2月3日カシオ・日立製作所共同報道発表。カシオ:日立=51:49)。
 
Hは、カシオ日立モバイルコミュニケーションズです(G特定により)。
 
Iは、Jから平成20(2008)年4月1日に端末事業を譲り受けたとされ(p8)、これは京セラと特定できます。
 
なおライセンス当時必須特許がなかったとされますが(p60)、公開リストでは京セラの必須特許はありません。
 
Jは、平成20(2008)年4月1日に端末事業をI〔京セラ〕に譲渡したとされるので(p8)、三洋電機と特定できます。
 
・「京セラ(6971.T)は〔2008年1月〕21日、三洋電機6764.Tの携帯電話事業を〔2008年〕4月1日付で買収すると発表した。」(ロイターズ2008年1月21日)https://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-29873020080121
 
Kは、「W-CDMA Patent Licensing Programme」に参加(p91)していること、および消去法から、シャープと推測されます。
 
L1は、平成15(2003)年1月1日にL2〔松下通信工業〕から社名変更したとされ(p8)、パナソニックモバイルコミュニケーションズとわかります。
 
・「パナソニック モバイルコミュニケーションズ」(ウィキペディア、https://ja.wikipedia.org/wiki/パナソニック_モバイルコミュニケーションズ)
 
・「1958年1月17日 - 大阪府北河内郡門真町(当時)に松下通信工業株式会社(まつしたつうしんこうぎょう、Matsushita Communication Industrial Co., Ltd.)設立。(松下電器産業「現:パナソニック株式会社」より分離)」
 
・「2003年1月1日 - 松下グループの再編により、携帯電話端末事業に特化したパナソニック モバイルコミュニケーションズ株式会社(初代)が発足。」
 
実は、審決案p8の並び(G、I、J、K、E、D、L1(L2)、B、C、F)が五十音順であることが一つのポイントで、これを前提にすると、カシオ(G)、京セラ(I)、三洋電機(J)、シャープ(K)、東芝(E)、日本電気(D)、L1(パナソニックモバイルコミュニケーションズ)、日立製作所(B)、富士通(C)、三菱電機(F)となり、上記の推定が裏付けられます。
 
審決案p8の、「《D》〔日本電気〕、《L1》〔パナソニックモバイルコミュニケーションズ〕、《B》〔日立製作所〕、《C》〔富士通〕及び《F》〔三菱電機〕の5社はCDMA基地局の製造、販売も行っていた。」という部分については、平成12(2000)年から平成21(2009)年までの間にCDMA基地局の製造販売をしていたのは、次のとおり、日本電気、パナソニックモバイルコミュニケーションズ、日立製作所、富士通、三菱電機です。
 
・「キャリア別にみた3G/LTE/LTE-Aにおける無線機ベンダーの変遷」https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/column/mca/757128.html
 
「NTTドコモは3G時代、NECや富士通、松下通信工業(パナソニック モバイルコミュニケーションズ、PMC)の3強であった。」
 
「KDDI(au)では、3G時代に1x方式でMotorola、1xEV-DO方式では日立製作所とサムスン電子ジャパンがシェアを獲得していた。」
 
「ソフトバンクは3G時代、エリクソン・ジャパンやNECが無線機を供給していたが、その後、NECがノキア シーメンス ネットワークス製品にリプレースされた。」
 
・三菱電機技報「W-CDMA基地局装置」http://www.mitsubishielectric.co.jp/corporate/giho/2004/02/index.html
 
審決案p8では、「《D》、《L1》、《C》等は、自社又は関連会社において・・・半導体集積回路も製造していた。」とされますが、この3社は以下のとおりです。
 
・日本電気(D)
 
「NECエレ、W-CDMA端末向け半導体でトップシェア目指す」
 
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0609/21/news106.html
 
・パナソニックモバイルコミュニケーションズ(L1)
 
「松下電器、携帯電話用UniPhierシステムLSIを開発〜通信・アプリ機能を1チップに統合」
https://www.rbbtoday.com/article/2008/07/17/52885.html
 
・富士通(C)
 
「システムLSIへの富士通の取り組み」https://www.fujitsu.com/downloads/JP/archive/imgjp/jmag/vol55-6/paper01.pdf

 

 

2019年8月21日 (水)

コンビニ2%ポイント還元と消費税転嫁法

今朝の日経朝刊一面に、

「消費増税『値引き』で還元

コンビニ4社 ポイント2%分」

という見出しの記事が出ていました。

2%分ポイントを付与すること自体は何も問題がないのですが、

「消費税増税分ポイントで還元します。」

とか表示(広告)すると、消費税転嫁法の転嫁阻害表示にあたるので注意が必要です。

消費税転嫁法8条(事業者の遵守事項)では、

「第八条 事業者は、平成二十六年四月一日以後における自己の供給する商品又は役務の取引について、次に掲げる表示をしてはならない。

一 取引の相手方に消費税を転嫁していない旨の表示

二 取引の相手方が負担すべき消費税に相当する額の全部又は一部を対価の額から減ずる旨の表示であって消費税との関連を明示しているもの

三 消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示であって前号に掲げる表示に準ずるものとして内閣府令で定めるもの」

と規定されています。 

これをうけて、「消費税の転嫁を阻害する表示に関する考え方」では、禁止される消費税転嫁表示の例として、

(1) 取引の相手方に消費税を転嫁していない旨の表示(第1号)

ア 「消費税は転嫁しません。」

イ 「消費税は一部の商品にしか転嫁していません。」

ウ 「消費税を転嫁していないので、価格が安くなっています。」

エ 「消費税はいただきません。」

オ 「消費税は当店が負担しています。」

カ 「消費税はおまけします。」

キ 「消費税はサービス。」

ク 「消費税還元」、「消費税還元セール」

ケ 「当店は消費税増税分を据え置いています。」

(2) 取引の相手方が負担すべき消費税に相当する額の全部又は一部を対価の額から減ずる旨の表示であって消費税との関連を明示しているもの(第2号)

ア 「消費税率上昇分値引きします。」

イ 「消費税10%分還元セール」

ウ 「増税分は勉強させていただきます。」

エ 「消費税率の引上げ分をレジにて値引きします。」

(3) 消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示であって第2号に掲げる表示に準ずるものとして内閣府令で定めるもの(第3号)

ア 「消費税相当分、次回の購入に利用できるポイントを付与します。

イ 「消費税相当分の商品券を提供します。」

ウ 「消費税相当分のお好きな商品1つを提供します。」

エ 「消費税増税分を後でキャッシュバックします。」

といったものを挙げています。

逆にOKの例として、

(1) 消費税との関連がはっきりしない「春の生活応援セール」、「新生活応援セール」

(2) たまたま消費税率の引上げ幅と一致するだけの「2%値下げ」、「2%還元」、「2%ポイント還元

(3) たまたま消費税率と一致するだけの「10%値下げ」、「10%還元セール」、「10%ポイント進呈」

というのが挙げられています。

いろいろいっていますが、要するに、「消費税」「増税」「税」という言葉が入っていたらアウトです。

なので、上の例にもあるように、「2%ポイント還元」ならOKですが、「消費税2%増税分ポイント還元」ならアウトです。

というわけで、日経見出のような、

「消費税『値引き』で還元」

とかコンビニの店頭で表示すると、アウトになります。

加盟店のみなさん、注意しましょう。

でもどう考えてもこの規定って、馬鹿げてると思います。

(まあそのあたりの立法理由はいろいろとあるのですが、

長澤哲也・石井崇・植村幸也・河野良介『実務解説消費税転嫁特別措置法』

でくわしく書きましたので、ご興味のある方はご覧下さい。)

増税による消費の冷え込みを緩和するためなら、「消費税分」だと明記したほうがいいに決まっています。

消費者庁も消費税転嫁阻害表示についてはこれまで一件も摘発していません。

ナンセンスな法律を黙殺するというのも、行政庁の見識だと思います。

というわけで、摘発リスクはほぼゼロですが、コンビニ各社のみなさんは、いちおう気をつけておかれるとよいかと思います。

むしろ独禁法弁護士として気になるのはカルテルですね。

もちろん今回のケースはコンビニ各社で合意したわけではなく、たまたま4社の足並みがそろっただけなのでしょうけれど、値下げの合意をするカルテルでも、やはりカルテルです。

なぜかというと、「うちは5%還元する」という競争がなくなるからです。

というわけで、もしほかの業界の業界団体とかで「うちの業界でもやってみるか」といった話をすると、カルテルになりかねないので注意が必要です。

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