2019年4月24日 (水)

コンビニの24時間営業に優越的地位の濫用を適用するとの報道について

本日(4月24日)の朝日新聞の報道によると、公取委がコンビニの24時間営業に対して優越的地位の濫用を適用する方針を固めたそうです。

「公取委の複数の幹部によると、バイトらの人件費の上昇で店が赤字になる場合などに店主が営業時間の見直しを求め、本部が一方的に拒んだ場合には、独禁法が禁じている「優越的地位の乱用」にあたり得る、との文書をまとめた。」

のだそうです。

とんでもないことだと思います。

これは、フランチャイズシステムによる24時間営業のコンビニというビジネスモデルそのものを否定する暴挙です(あえて強い言葉を用いる必要があると考えます)。

そもそも優越的地位の濫用は、それがなぜ「競争」に悪影響をあたえるのかの理論づけがはっきりしておらず、取引先に不利益をあたえる事業者ががそうでない事業者よりも競争上有利になるのがいけないのだとか、苦しい説明がなされているところです。

また、濫用による競争はめぐりめぐって消費者のためにもならないんだ、という、これもよく意味がわからない説明がなされることもあります。

これらの説明自体、競争への影響の理論(theory of harm)として不十分なものであり、結局、優越的地位の濫用はたんなる弱い者いじめなのだという理解が一般的です(たんなる弱い者いじめであるかぎり、いじめられた事業者は他の取引先に乗り換えればいいだけなので、競争には無関係です。有利な取引先に乗り換えるのがまさに競争なのですから)。

ところが、コンビニの24時間営業はこの2つの説明すら成り立ちません。

まず、現状、ほぼ全てのコンビニが24時間営業をしています。24時間営業をしないコンビニが競争上不利になっている、という事実がありません。

また、24時間営業は消費者に歓迎こそされていても、不利益を与えているということはありません。

わたしが小学生のころ、ローソンが出始めのころのCMで、小学生が絵の具を買い忘れたことに朝気づいて、どうしようか困ったときに、

「そうだ、ローソンがある!」

といって、ローソンに絵の具を買いに行くCMがありました。

まさにそういう経験を何度もしていた小学生のわたしとしては、これは非常にインパクトがありました。

それくらい、当時は24時間営業のコンビニというのは衝撃的だったのです。

(余談ですが最近わたしにヒットしたCMはアマゾンのCMで、孫が独り暮らしのおばあちゃんに久しぶりに会いに行って、おばあちゃんが若いころ死んだおじいちゃんとバイクに乗った写真に写っていたのと同じヘルメットをアマゾン・プライムで注文して、おばあちゃんをバイクでドライブに誘う、というのがあります。今思い出しても胸が熱くなります。このCM作った人は天才じゃないかと思いました。60秒バージョンもよいです)

閑話休題。

20年ほどまえ、和光の司法研修所の寮に住んでいたころは、近くにコンビニがなくって、コンビニっぽい個人経営の雑貨屋は夜8時くらいには閉まってしまって、本当に不便だなぁと思いました。

人間慣れというのは怖いもので、24時間営業のコンビニがあたりまえになると、これがビジネスのイノベーションとしていかにすごいものであったか(社会を一変させたか)を、忘れてしまうのです。

人手不足の世の中であるのはわかりますが、それを独禁法でなんとかしようというのは最悪です。

そもそも24時間営業の規制なんて、競争とは何の関係もありません。

むしろコンビニ業界が「24時間営業はやめましょう」と合意したら、カルテルになりかねません。

また独禁法は、本質的に、ルールが不明確にならざるをえません。

かといって、国会のチェックも経ていない公取委のガイドラインで決めてしまっていい問題でもありません。

規制するなら、フランチャイジーの保護を目的とした特別の立法でやるべきで、夜10時から朝5時までの営業を禁じるとか、明確に違法の要件を定めるべきでしょう。

ちょっと、この問題については、公取委は調子に乗りすぎじゃないでしょうか。

また優越的地位の濫用でやる場合、公取委はけっして排除措置命令は出さず、注意か、せいぜい警告にとどめるはずです。

なぜかというと、裁判所で争われると困るからです。

ひっとしたら、実態調査報告書を出して、その中にルールらしき「公取の独り言」を紛れ込ませるかもしれません。

それを新聞は「公取委がコンビニについてガイドラインを公表」と、誤った報道するかもしれません。

こういう不透明な法運用を、いまや国民生活のインフラであるコンビニに対して許していいとは思えません。

万が一、排除措置命令が出たら、徹底的に、最高裁まで争うべきです。

まだガイドラインにもなっていないので、なんとしてもこの動きは阻止すべきです。

それから、こういう何でも優越的地位の濫用にあたるという執行をやっていると、公取委が、それで自分たちは仕事をしているのだと錯覚してしまうことも懸念されます。

わたしがある依頼者から以前相談を受けた忠誠リベートの公取委への申告案件(申告自体は別の法律事務所が担当)では、結局、証拠がないから調査開始しないという結論だったらしいのですが、排除されている側が忠誠リベートの(噂や伝聞レベルを超えて)確たる証拠なんて得られるはずがないのであって、いったい何のための強制調査権限なんだ、と思いました。

こういう、手ごわそうな相手にはやるべきことをやらないで、いうことを聞きそうな業界にはガイドラインにもとづく注意でお茶をにごすというやりかたは、いいかげんやめたほうがいいと思います。

理論的にも今回の問題は、大きな問題です。

なぜなら、フランチャイジーになろうとする人は、24時間営業だとわかってフランチャイジーになっているからです。

24時間営業はコンビニのビジネスの根幹です。

これほど明確に合意されているものを、やってみたら思ったより大変だったから「濫用」だというのは、ありえないでしょう。

トイザらス審決での濫用行為の定義は、優越的地位がなければ受け入れないような不利益な行為、ということですが、それにそもそもあてはまりません。

優越的地位が発生する、契約成立前で契約するかしないか完全な自由のある段階で受け入れた行為だからです。

一体どういう理屈で濫用だというのでしょうか??

これだけ世の中に広く受け入れらているビジネスが、「正常な商慣習に照らして不当」になりうるとでもいうのでしょうか??

まったくわけがわかりません。

報道をみて公取がいちおう理屈を考えているんだなあと推測できるのは、

「バイトらの人件費の上昇で店が赤字になる場合など」

という部分です。

つまり、契約時と事情が変わった、という理屈です。

似たような理屈としては、下請法で、原材料費が上がったのに値上げに同意しようとしないのが買いたたきにあたる、というのがあります。

でも、これもやっぱり問題です。

というのは、原材料費の場合、基本的には変動費用が想定されていますから、値上げしないとどんなにがんばっても(たくさん売っても)赤字になります。

下手をすれば、売れば売るほど逆ざやで赤字が膨らみます。

でもそういう場合なら、値上げに応じないと買いたたきにあたるというのは理解できます(それが競争法として妥当かはさておき、下請法の解釈としては)。

ですが、コンビニの人件費なんて基本的には固定費なわけです。

ここには、「商品を売れば売るほど赤字が膨らむ」という関係はありません。

たしかに24時間営業をやめれば赤字の時間帯のバイト代を節約して、その時間帯の売上を失ってもなお、収益はプラスになる、ということはあるでしょう。

でもそれを言い出したら、とくに損益ギリギリのお店の場合は、儲かる時間だけお店を開けたい、という理屈が簡単に通ってしまい、コンビニというシステム自体がなりたちません。

そういうわけで、原材料費の高騰の場合の類推から人件費の高騰を例示しているなら、まったく不当な類推です。

というわけで、ちょっと経済学というか会計の知識があれば、原材料費(変動費)と人件費(固定費)を同列にあつかうことのあやうさに気づくはずです。

さらにいえば、下請法の世界では特定の原材料が短期間に2倍にも3倍にも上がるということがありますが、いくら人手不足とはいえ、人件費はそこまで上がってないでしょう。

そういう意味でも、両者を同列にあつかうのは妥当ではありません。

それに、「赤字になる場合など」の「など」がくせ者で、たぶんどのようにでも拡大解釈できるガイドラインになるはずです。

このようにいろいろ考えるとコンビニビジネスに対する萎縮効果は相当なものであるはずです。

それに、「赤字」になったら24時間営業を見直すというのも論理の飛躍があります。

「赤字」を解消するためなら、たとえば本部に支払うロイヤルティを下げるとか、ほかにも方法があるでしょう。

24時間営業の見直しはそれらのさまざま考えられる施策の一つに過ぎないはずであり、24時間営業の部分のみに焦点をあてて優越的地位の濫用を議論するのは、とても恣意的というか、論理的思考ができていないといわざるをえません。

そこまで視野を広げて(抽象度の視点をあげて)はじめてまともな法的議論ができるのであり、「とにかく人手不足が社会問題化しているらしいから、24時間営業を取り締まろう」というのでは、法律論になりません。

こういう動きがあると独禁法弁護士は仕事が増えていいのですが(笑)、社会的には、笑い事ではすまされないことだと思い、苦言を述べさせていただきました。

2019年4月 3日 (水)

不当表示の再発防止策を実施済みの事業者に出す措置命令

不当表示については、事業者がすでに不当表示をやめていても、措置命令を出すことができます(既往の行為に対する措置命令)。

このことは、景表法7条1項で、

「内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既になくなつている場合においても、次に掲げる者に対し、することができる

一 当該違反行為をした事業者

〔以下省略〕」

と明記されています。

ちなみに独禁法の不当な取引制限に対する排除措置命令は、独禁法7条2項で、

「公正取引委員会は、第三条又は前条の規定に違反する行為が既になくなつている場合においても、特に必要があると認めるときは、第八章第二節に規定する手続に従い、次に掲げる者に対し、当該行為が既になくなつている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる。ただし、当該行為がなくなつた日から五年を経過したときは、この限りでない。

一 当該行為をした事業者

〔以下省略〕」

とされていて、「特に必要があると認めるとき」という条件付ではありますが、やはり既往の行為に対しても出すことができます。

つまり景表法の場合は、「特に必要があると認めるとき」でなくても、措置命令を出すことができるのです。

では不当表示をやめた事業者が再発防止策を実施して、措置命令で命じられそうな措置をすべて先回りして講じておけば措置命令はでないのかというと、そんなことはありません。

まず、上述のとおり、景表法には「特に必要があると認めるとき」という要件がありません。

それに、事業者が任意で措置を講じたのと、命令の強制力のもとで実施するのとでは、意味がちがいます。

つまり措置命令の場合には、それに違反すれば2年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科あり)の対象になりますが(景表法36条)、任意の措置ではそのような担保がありません。

措置命令ではたとえば、

「貴社は、今後、本件商品又はこれらと同種の商品の取引に関し、前記の表示と同様の表示を行うことにより、当該商品の取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示をしてはならない」

というような、将来の行為の禁止も命じられるので、これを刑事罰で担保するのかしないのかは大違いです。

したがって、仮に事業者がすでに任意でとった措置を超える措置を命じない場合であっても、措置命令の必要がないことにはなりません。

ましてや、一般消費者への周知が不十分である(たとえばホームページの見えにくいところにこっそり公表する)場合には、措置命令がでても何らおかしくありません。

というわけで、措置命令を避けるためには、公表もしっかりやるし、再発防止策も万全を期する必要があります。

それでも将来の禁止を刑事罰で担保する必要があると消費者庁が考えれば、やはり、措置命令が出る可能性はあると思われます。

平等原則違反だとか、裁量の逸脱だとかいっても、たぶん無理でしょう。

いちど違反をしてしまっている以上、刑事罰などの法的な担保が何もなくても再発しない、というのはかなりしんどいと思います。

2019年3月 8日 (金)

有償支給材の早期決済と資材代金調達利息の支払

NBLの連載を書籍化した
 
鎌田明編著『はじめて学ぶ下請法』
 
という本があります。
 
『下請法の実務』や下請法講習テキストが、古い考え方に接ぎ木をしながら改訂を続けているために根本的に叙述の仕方が古い(説明が理論的でない)のですが、それに対してこの本は、さすがに新しいだけあって、説明が現代的で頭にすっと入ってきます。
 
ですが、ちょっと気になる記述があります。
 
同書p135の有償支給材の早期決済の説明において、A〔発注者〕がB〔下請事業者〕に原材料を有償支給して加工を委託する事例をあげながら、
 
「B〔下請事業者〕が金融機関から融資を受けて先払いをしなければならない資材の対価を支払っていたような場合には、Bが負担していた利子相当額の支払い等も認められることになろう。」
 
と解説されています。
 
しかし、これは行き過ぎだと思います。
 
いったいどんな根拠があって、そのような利子相当額の支払いが認められるのでしょうか?
 
民法をみても、商法をみても、そのような利息相当額の支払いを根拠づける条文はありません。
 
当事者間に合意がなくても認められる利息についての規定としては民事商事の法定利率の規定がありますが、たとえば民法404条では、
 
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。」
 
としているだけであって、5%の利息が認められるのは「利息を生ずべき債権」であることが前提です。
 
利息を生ずべき債権かどうかは特約や法律の規定(民法575条2項の売買代金の利息)によって決まり、金銭消費貸借ですら、当然には利息は発生しません(民法587条、590条参照)。
 
ただし商人間の消費貸借では年6%の利息を支払う必要があります(商法513条、514条)。
 
でも、「下請事業者が有償支給材を早期決済するために融資を受けたときには融資の利息相当額を支払う」みたいな規定は、どこにもありません。
 
もちろん当事者間に合意もないわけですから、そんな利息相当額の請求権なんて、私法上認められるはずがないのです。
 
下請法違反は公序良俗(民法90条)違反だから請求が認められる、というのも無理です。
 
まず、下請法違反のすべてが当然に公序良俗違反になるわけではないですし、仮に公序良俗違反になっても、公序良俗違反の法律行為の効果は無効になるだけなので、積極的な請求権が発生するわけではありません。
 
たとえば、早期決済の合意が無効だとしたら、弁済期の合意の部分が無効になって、弁済期が下請代金の支払時期まで当然に延ばされる、ということはあるかもしれません。
 
ですがだからといって、下請代金の支払時期よりも前に現に有償支給材の代金を支払ったからといって、その早く支払った分の利息を下請事業者が請求できる(積極的な請求権が生じる)わけではないでしょう(公序良俗は「無効」にすぎないので)。
 
まして、有償支給材代金支払いのための銀行融資の利息なんて、認められるわけがありません。
 
ほかに考えられるとしたら、民法709条の不法行為や703条の不当利得でしょうが、下請法違反が当然に不法行為や不当利得になるわけでもないでしょう。
 
ここのハードルを越えるのは非常に高い(たぶん無理)わけです。
 
それなのに、何の説明もなく当然に、「利子相当額の支払も認められる」といってしまうなんて驚きです。
 
こんなこと、法学部生でもわかります。
 
ということで、公取委の下請法の運用をしている人が、いかに民法を知らないか、これをみるとよくわかります。
 
最近、有償支給材の早期決済をした会社が、早期決済期間について、有償支給材代金の利息相当額を商事法定利率6%で下請事業者に払い戻すよう指導を受けていた事例を目にしました。
 
きっと、下請代金の支払いが遅れたら6%の利息を払うんだから、有償支給材代金を早くもらいすぎたなら利息相当額を払い戻す義務があるんだ、という単純な発想でしょう。
 
でも民法をみても商法をみても、弁済期より早く代金を受け取ったら利息相当額を代金から引かなきゃいけないなんていいう規定はありません。
 
というわけで、上記書籍の記述は誤りですし、公取委はこの運用を直ちにやめるべきです。
 
民法の分かっていない人には、こんな大学生にするような説明からしないといけないので困ります。

公取委に出向中の弁護士のみなさん、下請取引調査室の人たちに、民法を教えてあげてください。
 
あるいは公取委職員のみなさんは、出向してきている弁護士さんに聞いてみてください。

2019年2月23日 (土)

会員登録者にクレジットカード番号を記入させてする懸賞企画に関する公取委回答

公正取引615号(2002年1月)37頁「景品表示法相談コーナー」(公正取引委員会事務総局経済取引局消費者取引課)に、
 
「当社は、インターネット上でショッピングサイトを運営し、入会無料の会員サービスを行っている。会員登録してくれた人を対象に抽選で景品を提供したいが、オープン懸賞とすることは可能でしょうか。」
 
という質問があります。
 
これに対して、平成13年4月の「インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて」を引用しつつ、
 
「入会無料の会員登録に際しての景品提供は、その時点で取引を伴うものではありませんので、原則として、オープン懸賞と認められます。」
 
と回答されています。
 
ここまではいいのですが、問題はその次で、
 
「ただし、入会に際して、クレジットカード番号の入力を要件とする等取引そのもに結びつく情報提供を会員登録において要求される場合には、取引に付随した景品提供としてオープン懸賞とは認められません。」
 
と回答されています。
 
しかし、これは間違いです。
 
控えめに言って、上記通達に反します。
 
上記通達では、これ以上ないくらい明確に、
 
「消費者はホームページ内のサイト間を自由に移動することができることから,懸賞サイトが商取引サイト上にあったり,商取引サイトを見なければ懸賞サイトを見ることができないようなホームページの構造であったとしても,懸賞に応募しようとする者が商品やサービスを購入することに直ちにつながるものではない
 
したがって,ホームページ上で実施される懸賞企画は,当該ホームページの構造が上記のようなものであったとしても,取引に付随する経済上の利益の提供に該当せず,景品表示法に基づく規制の対象とはならない(いわゆるオープン懸賞として取り扱われる。 )(図1-1及び図1-2)。
 
ただし,商取引サイトにおいて商品やサービスを購入しなければ懸賞企画に応募できない場合や,商品又はサービスを購入することにより,ホームページ上の懸賞企画に応募することが可能又は容易になる場合・・・には,取引付随性が認められることから,景品表示法に基づく規制の対象となる。」
 
と明記されているからです。
 
取引付随性が認められるのは、商品購入を応募条件にする場合や、購入で応募が容易になる場合に限られる、とはっきり言ってます。
 
カード番号を入力させるだけで取引付随性が生じるなんてどこにも書いていません。
 
解釈論としても、カード番号を入力させるだけで取引付随性ありなんて、どうかんがえても無茶です。
 
カード番号を入力しただけで、そのうち多くの人が買い物するだろうなんて、なんの根拠もありません。
 
公取委のガイドラインをみても、ここまでゆるやかに取引付随性を認めている例はありません。
 
せいぜい、来店者とか、商品パッケージで企画を告知する場合が載っているくらいです。
 
カード番号だけで取引付随性ありなんて言い出したら、インターネットの無料の会員登録の多くが懸賞規制の対象になり、前記通知が骨抜きになってしまいます。
 
というわけで、この取引課の回答はまちがいですから、無視するほかないと思います。

2019年2月15日 (金)

下請法に司法審査が及ばないことの恐ろしさ

下請法のよくないところの一つに、公取委の判断に司法審査が及ばないことがあげられます。
 
というのは、公取委の出す勧告は、いわゆる行政指導に過ぎず、それ自体強制力がないため、勧告を取り消す訴訟を提起することができないからです。
 
条文で確認すると、勧告についてはまず下請法7条1項で、
 
「公正取引委員会は、親事業者が第四条第一項第一号〔受領拒否〕、
 
第二号〔支払遅延〕又は
 
第七号〔報復措置〕
 
に掲げる行為をしていると認めるときは、
 
その親事業者に対し、
 
速やかにその下請事業者の給付を受領し、
 
その下請代金若しくはその下請代金及び第四条の二の規定による遅延利息を支払い、又は
 
その不利益な取扱いをやめるべきことその他必要な措置
 
をとるべきことを勧告するものとする。」
 
と定められています。ほかの違反類型は2項、3項で定めています。
 
そして勧告の効力については8条で、
 
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第二十条〔不公正な取引方法に対する排除措置命令〕
 
及び
 
第二十条の六〔優越的地位の濫用に対する課徴金納付命令〕
 
の規定は、
 
公正取引委員会が前条第一項から第三項までの規定による勧告をした場合において、
 
親事業者がその勧告に従つたときに限り、
 
親事業者のその勧告に係る行為については、適用しない。」
 
とされています。
 
つまり、勧告に任意にしたがう限り独禁法の優越的地位の濫用で処分されることはない、ということです。
 
これ以外に勧告の効力についての規定はありません。
 
たとえば勧告に違反した場合に罰金が科せられるというような規定はありません。
 
これが、勧告は行政指導に過ぎない、という根拠です。
 
なので、勧告それ自体の取り消しを裁判所に求めることはできず、勧告は司法審査の対象にならない、ということになります。
 
そこで、勧告に不服のある事業者は勧告に従わない、という選択肢しかありません。
 
ですが、そうすると次に起こりうるのは公取委による優越的地位濫用の審査です。
 
その結果、「下請法違反はあったけれど、優越的地位の濫用はなかった」という結論になるかもしれません(もしそうなら、そもそも審査が開始されないかもしれません)。
 
それなら、なにも処分なし、なのでいいかというとそういうことでもなくて、勧告がでたという事実は残ります。
 
当然、公取委のホームページや年次報告にも、そのまま残るでしょう。
 
あるいは、審査の結果、優越的地位濫用が認められる、ということもあるかもしれません。
 
ところが、そのときに、優越的地位の濫用で受けた排除措置命令や課徴金納付命令に不服だと言っても、下請法の論点はどこにも出てこないのです(優越的地位の濫用で命令が出ているので当然です)。
 
当然、排除措置命令や課徴金納付命令の取り消し訴訟を起こしても、下請法の論点を争う余地はありません。
 
たとえば、有償支給材の早期決済の禁止に違反したとして勧告を受けた場合、その勧告に不服があっても、裁判で争点になるのは優越的地位の濫用が成立するかどうかだけ、です。
 
そして、たんに有償支給材の決済が製造委託商品の決済より早かったというだけで「濫用」になるというのはかなり無理があるので、優越的地位の濫用は成立しない可能性が高いと言えます。
 
処分されないんだからそれでよさそうなものですが、問題は、公取委が独禁法の調査の対象を広げてくる可能性があることです。
 
もし事業者が勧告に不服で「したがいません」といえば、公取委は、そんな前例を残したくないでしょうから、何が何でも優越的地位の濫用で摘発しようとするでしょう。
 
そのときに、調査の対象を当初の勧告対象行為に絞らなければならないというような(刑訴法で言えば訴因変更の限界のような)制限は、法律上、なにもありません。
 
そうすると、事業者としては、自社のどこをつつかれても優越的地位の濫用にあたる行為はないという自信がない限り、勧告に従わないという選択肢をすることを躊躇することになると思われます。
 
そして、徹底的に社内調査をして大丈夫だと結論付けたうえで「したがいません」といっても、前述のとおり、争いたい論点については裁判所の判断を得られない、ということになります。
 
そのため、下請法の公取委の判断に対する判例というのはなく(民事訴訟で下請法違反を公序良俗違反として争点化したものは多数ありますが)、下請法講習テキストがあたかも判例と同じような役割を果たすことになります。
 
もしどうしても司法審査をえたければ、勧告で信用が損なわれたなどとして国家賠償請求を起こすことくらいしかありません。
 
このように司法審査がはたらかないだけに、下請法の運用は公取委の自制が求められるはずで、安易な運用や解釈の変更は行うべきではありません。
 
ところが、実際には、
 
下請事業者に下請代金の支払とは別途金銭の支払をさせることを(不当な経済上の利益の提供要請ではなく)代金減額として処理したり、
 
従来手形払いだったのを現金払いに変えたときに変更後の取引について従来より1円でも代金を安く設定したら買いたたきにあたるとしたり、
 
有償支給材の早期決済分の利息の支払を指導したりする
 
など、やりたい放題です。
 
そういった下請法独自の争点について争いたくても、裁判所で争う道は事実上ないなのです。
 
やるとすれば国家賠償ですが、国家賠償は立証責任が国民側にあるなど、簡単ではありません。
 
しかしそもそも、勧告がたんなる行政指導であるということすら、一般にはあまり知られていないのではないでしょうか。
 
なので、優越的地位の濫用には当たらない(たとえば代金減額について下請事業者の同意がある)と考えれば、勧告に従わないという事業者がいてもおかしくないと思うのですが、おそらく今までそういう事例はありません。
 
司法審査が及ばない制度というのは法治国家としてどうかと思いますが、法律は国会が決めるものなので公取委の責任ではありませんから、どうこういってもしかたありません。
 
ですが、公取委は司法審査を免れるという重い責任を自覚して、下請法担当部署に優秀な人材を配置するなど、慎重な運用をすべきではないかと思います。

2019年2月 1日 (金)

別途支払を(利益提供要請ではなく)減額とする公取委の運用変更の整理

少し前に、下請代金からの差し引きだけではなく別途支払わせる場合(従前の解釈では不当な利益の提供要請だった)も代金減額になるという公取委の解釈変更があったことについて書きました
 
このあたりの経緯について、公取委への批判を込めて、整理しておきます。
 
まず、下請法講習テキストをたどると、平成25年版のテキストまでは、代金減額は下請代金から差し引くものが該当することを当然の前提とする記述がなされていました。
 
たとえば平成25年テキストp44では、「減額の考え方」のところで、
 
「・・・3条書面に記載された下請代金から減じるものであれば減額として問題となり得る」
 
と記載されていました。
 
「違法な下請代金の減額の例」(p45)をみても、いずれも、下請代金から差し引くものばかりでした。
 
ところが平成26年版のテキストでは、
 
「下請代金の額を「減ずること」には、下請代金から減額する金額を差し引く方法のほか、親事業者の金融機関口座へ減額する金額を振り込ませる方法等も含まれる。」(p46)
 
という一文が加えられ、最新版にも引き継がれています。
 
また下請法運用基準のほうをみると、平成25年版テキストに添付されている当時の運用基準では、3(1)の減額の具体例は、すべて下請代金から差し引くものばかりでした。
 
運用基準については、前記の一文が加えられた平成26年版テキストに添付の運用基準でも、すべて差し引き型だけでした。
 
平成28年の運用基準までは、同様に、すべて差し引き型でした。
 
ところが平成29年テキスト添付の運用基準に
 
「ケ 毎月の下請代金の額の一定率相当額を割戻金として親事業者が指定する金融機関口座に振り込ませること。」
 
という、別途支払型の具体例が、はじめて付け加えられました。
 
(ただこれは、支払金額が下請代金の一定率であることから、下請代金との密接な関連があることが、別途支払型でも減額となることの理由になっていると読むこともできそうな気もします。)
 
許しがたいことに、公取委担当者の解説である、
 
粕渕他編著『下請法の実務〔第3版〕』(平成22(2010)年)p131
 
では、以前このブログでも紹介したように、
 
「例えば、親事業者が下請事業者に対し決算対策協力金等の支払を行わせるとき、
 
これを親事業者が下請代金から差し引くことにより支払わせる場合には減額に該当するが、
 
下請代金の支払とは独立して下請事業者に支払わせる場合には、不当な経済上の利益の提供に該当するものとして扱われる。」
 
と明記されていたいのに、改訂版にあたる、
 
鎌田編著『下請法の実務〔第4版〕』(平成29(2017)年)p135
 
では、この部分の記述がごっそり削除されているのです!
 
これはあんまりにもひどいのではないでしょうか?
 
運用を変えて都合が悪くなったので、まさに、「臭いものに蓋」の発想です。
 
せめて運用を明示的に変えたなら、その旨の説明なり、利益提供要請との区別の考え方なりを示すべきであって、全削除(=説明拒否)なんてひどすぎます。
 
これは、別途支払型を減額としてしまうと、不当な利益の提供要請との区別を説明できなくなることを、如実に表しています。 
 
この点、長澤先生のベストセラー
 
『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第3版〕』
 
では、不当な利益の提供要請との区別の(公取委運用にしたがった)基準の整理についても、
 
「その基準は明確ではないが、発注代金の額に一定率を乗じて得た額を徴収する場合には、代金控除であれ別途の支払であれ、対価の減額と取り扱われる傾向がある」(p206)
 
と、説得力をもって論じられています(ただし長澤先生ご自身は、別途支払型を減額とするのには反対)。
 
なお、
 
「その基準は明確ではないが」
 
といわれているのは、たとえば下請法運用基準7-1(3)で、上記基準に反して、
 
「親事業者は,食料品の製造を下請事業者に委託しているところ,取引先に支払っているセンターフィーの一部を負担させるため,下請事業者に対し,センターフィー協力費として,下請代金の額に一定率を乗じて得た額を提供させた。」
 
というのが不当な経済上の利益の提供要請だとされていることなんかを意識されているのではないか、と思われます。
 
また実際の勧告事例については、同書のp206の脚注323によると、どうやら、平成18(2006)年10月27日のイズミヤ事件が別途支払を減額にした最初の事例みたいですが、同様の運用が平成24年頃から増えていることがわかります。
 
なお、私も、別途支払型まで減額で処理するのは問題だと思います。
 
「減額」という文言とこれまで積み上げてきた実務も大きな理由ですが、実質的に考えても、差し引き型と別途支払い型では下請事業者への不利益が大きく異なります。
 
つまり、差し引き型(=ほんらいの減額)では、下請事業者に有無を言わせず下請代金を減額して支払うわけですから、下請事業者の資金繰り次第では倒産すらしかねません。
 
これに対して別途支払い型の場合には、いちおう下請事業者に「別途支払う」という任意のアクションがあるわけですから、手持ちの現金がなければ支払えないはずであり、現に支払えてるということは少なくとも倒産するまでの影響はなかったわけです。
 
このように、差し引き型と別途支払い型は、質的に異なるのです。
 
それが従来の公取委の解釈の実質的な根拠だったのではないでしょうか?
 
これはそもそも論ですが、減額(4条1項3号)だろうと、利益提供要請(4条2項3号)だろうと、違反は違反なのだから大差ないだろう、というとぜんぜんそんなことはありません。
 
というのは、減額は1項なので外形上3号にあたれば違法になりますが、利益提供要請は2項なので、外形上2項3号にあたるだけでは違反にならず、さらに、下請事業者の利益を不当に害する(2項柱書)ことが必要になるのです。
 
この違いは決定的です。
 
これだけの違いがあるからこそ、減額は差し引き型のみとする理由があるのです。
 
こういうことを考えると、別途支払い型まで減額にするのには相当説得力のある理論的根拠が必要だと思うのですが、公取委ではそのあたり、ちゃんと議論されたのでしょうか?
 
それからもう一つ、有償支給材の早期決済の条文との対比があります。
 
つまり、有償支給材の早期決済(下請法4条2項1号)では、
 
「自己に対する給付に必要な半製品、部品、附属品又は原材料(以下「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に、
 
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、
 
当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に、
 
支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し、
 
又は
 
当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること。」
 
というように、下請代金から控除する場合(差し引き型)と、支払わせる場合(別途支払型)とを、明確に区別しているのです。
 
たしかに、早期決済の方は「控除」という文言を使い、代金減額では「減額」という言葉を使っていて、両者は異なるのですが、異なることに大きな意味はないというべきでしょう。
 
平成30年版下請法テキストp75でも、「控除」という言葉を使った理由として、
 
「これ〔=控除〕は,民法上の相殺が成立したか否かとは関係がなく,そのため,「相殺」という民事法上の用語ではなく,「控除」という一般的な用語が用いられている。」
 
と説明していて、 民法上の相殺ではないことを示すだけの意味であって、「減額」と区別する意味があるわけではありません。
 
このように、早期決済でわざわざ差し引き型と別途支払型を明示的に区別しているのですから、代金減額でいう「減額」は差し引き型に限ると考えるのが自然です。
 
以上、別途支払型を減額として処理する解釈変更について整理しました。
 
やはり平成26年テキストが、ひとつのターニングポイントになっているようです。
 
それにしても、こんな大事な解釈変更を、なんら明示的な(=変更であることを明示しての)アナウンスもなくやってしまうのもひどい話だし、公取委担当者解説書にいたっては、論点自体存在しないことにしてしまうなんて、ほんとうにひどいと思います。
 
わたしは最近、公取委の下請法運用で、ほんとうにわけのわからないことをいわれた(最終的には引っ込めてもらったけれど)経験があったり、民法上はまったく根拠のない指導がなされているのを聞いたりしているので、正直、最近の公取委の解釈力は非常に劣化しているのではないか、と強く懸念しています。
 
今回の解釈変更も、公取委が問題の本質を理解したうえで組織として議論を尽くして行ったのではなく、いち担当者が従来の運用をあまり理解せず、上もそれを見落とした、という非常に情けないレベルの話なのではないか、と推測しています。
 
なんでも先例重視が良いわけではありませんが、法律の運用はいったん厳しくするともとに戻すのはたいへんなので、変えるにはそれ相応の覚悟が必要だと思います。

2019年1月24日 (木)

手形払いを現金払いに変更した場合の中間利息の控除に関する中企庁Q&Aについて

2016年12月14日に中小企業庁と公取委が下請代金の支払いの現金化を要請する通達を出しましたが、それにともない、中小企業庁のホームページには、以下のようなQ&Aが掲載されました
 
「Q9: 今までの取引では手形払いであり、この額には手形等の割引料等を加味していません。今回の通達によって手形払いから現金払いに変更した場合、以下のケースは下請代金の「買いたたき」に当たるのでしょうか。
 
(1) 割引料相当分を差し引いて下請代金の額を定めること。
 
(2) 親事業者として資金調達が必要となるので、その資金調達に必要な短期調達金利相当額を下請代金の額から差し引いて下請代金の額を定めること。」
 
以下がその回答です。
 
「手形等の割引料等のコストは、ほとんどの場合に下請事業者が負担しており、結果として額面どおりの現金を受領できない状況にあります。
 
そのため、今般、下請代金はできる限り現金払いとすること等を要請したものであり、
 
(1)や(2)のような変更は、今般の通達発出を含む政府の下請取引の条件改善に向けた取組の趣旨にそぐわないものであって、政府としては、割引料等のコストについて、実質的に「下請事業者の負担とすることのないよう」、下請代金の額を決定することを要請するものです。
 
そのため,手形払いから現金払いに変更した場合、今までの手形と同じ額で支払えば問題はありません。
 
一方、手形払い時の下請代金の額から、(1)や(2)のように割引料相当分や資金調達に必要な短期調達金利相当額等を差し引いて、一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めた場合は、下請代金法の「買いたたき」に該当するおそれがあります。」
 
これは、あまりにもひどい内容です。
 
はっきりいって、下請法の解釈を誤っていることがあきらかです。
 
というのは、下請法の買いたたきは、
 
「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」
 
が要件です(下請法4条1項5号)。
 
つまり、通常の対価より「著しく」低いことが、要件なのです。
 
ところが、上記Q&Aでは、たんに「低い」だけで違反になりうるとされていて、「著しく低い」ことが要件になっていません。
 
しかもその理由として、前記通達が、
 
「割引料等のコストについて、実質的に「下請事業者の負担とすることのないよう」、下請代金の額を決定することを要請する」
 
を理由にしていることからすると、「著しく」を省いたのが、うっかりミスや誤記ではなく、意図的なものであったことがわかります。
 
さらに、
 
「今までの手形と同じ額で支払えば問題はありません」
 
と対比する形で
 
「一方、手形払い時の下請代金の額から、(1)や(2)のように割引料相当分や資金調達に必要な短期調達金利相当額等を差し引いて、一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めた場合は、下請代金法の「買いたたき」に該当するおそれがあります。」
 
という部分が述べられていることからすると、今までの手形の金額から1円でも安くすれば買いたたきである、というのがQ&Aの趣旨である、と解釈するのが自然です。
 
この「1円でも安くしたら違反」というのは、厳しい読み方でもなんでもなくって、消費税転嫁法の買いたたきで前例があります。
 
つまり、消費税転嫁法の買いたたきの条文を下請法の買いたたきを参考に作ったときに、消費税転嫁法の買いたたきは、
 
「商品若しくは役務の対価の額を
 
当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、
 
特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと。」
 
と定義されることになりました(消費税転嫁法3条1号)。
 
ここで、下請法は「著しく低く」なのに、転嫁法は「低く」なのは、転嫁法の場合には消費税増税分満額上乗せして支払わないといけないのだ(1円でも安くしたら違反)、と説明されました。
 
そのことは消費税転嫁法ガイドラインに、
 
「「同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価」とは,
 
通常は,特定事業者と特定供給事業者との間で取引している商品又は役務の消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額をいう。」
という形で明記されています。
 
消費税転嫁法のような「通常支払われる対価に比し低く定める」という条文でなぜ、増税分満額上乗せしないと違反になるのか、はなはだ理解に苦しむところところです。
 
このような条文なら、まず、増税前の対価が「通常支払われる対価」であったことの立証が必要になる、と考えるのが当然だと思います。
 
公取委の説明会でも、ある弁護士さんが、どうしてこの条文でこんな風に解釈されるのか、文言に照らしておかしいじゃないか、というたいへんごもっともな質問をされていました。
 
転嫁法の買いたたきの条文は、とてもへんな条文で、なぜこうなったのかというと、立案担当者が自分の頭で考えることができない人だったために、下請法の条文を下敷きに作ることしかできなかったからです。
 
それ以外の理由はありえません。
 
ちょっと脱線しましたが、要するに、「著しく」という文言があるかないかで、これくらい解釈が変わってしまうという先例が、転嫁法のときにすでにあるわけです。
 
そういう目で見ると、上記Q&Aも、明らかに意図的に「著しく」を省略し、1円でも安くしたら違反に問うという明確な意図をもって公表されたものであることが明らかに思われるのです。
 
しかし、いうまでもなく日本は法治国家ですから、通達で条文を書き換えるなんて、とんでもないことです。
 
この通達と同じころ、下請法の買いたたきの執行を強化する目的で下請法の運用基準と下請法テキストの改定がなされ、買いたたきの事例が大幅に増えました。
 
しかしそれでも、どの事例をみても必ず「著しく低く」と入っていました。
 
ところがこんなQ&Aのような目立たないところで「著しく」を、勝手に削除してしまっているわけです。
 
安倍内閣主導であれば何でもあり、という現政権の態度が非常によく表れていると思います。
 
こういう欺瞞をみると、下町ロケットを使った日経全面広告も、とても嘘くさくみえてしまいます。
 
また理屈で考えても、一般的に、大企業である親事業者の社内調達金利は中小企業である下請事業者の社内調達金利よりも低いので、親事業者の社内調達金利相当額を引かれても、その分早く現金が受け取れる中小企業にはお釣りがくる、とすらいえるのであり、1円でも差しい引いたら「通常」の対価より「低い」というのも、無理があります。
 
というわけで、このQ&Aは下請法の解釈を誤ったものですから、無視するほかないと考えます。
 
いまの行政はこういうことを平気でやるので、常に厳しい目で監視していかなければなりません。

2019年1月 1日 (火)

パートナー就任のお知らせ

明けましておめでとうございます。
 
1月1日付をもちまして、日比谷総合法律事務所のパートナーに就任いたしました。
 
歴史のある事務所の名前を汚さぬよう、かつ、自分らしさを失わないよう、これからも良い仕事を通じて、依頼者のみなさまのお役に立ち、社会正義の実現に貢献できるよう、精進してまいります。
 
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

2018年12月26日 (水)

無料の会員登録で付与するポイントは景品類か?

先日、とある講習会が終わったあとに質問に来られた方の質問に、
 
「オンラインゲームに無料で登録した人に、ゲームで使えるポイントを付与している。
 
取引付随性がないので景品ではないと整理していたが、消費者庁に念のため確認したら、将来の取引を誘引するので景品類に該当するといわれた。
 
おかしいのではないか?」
 
という質問がありました。
 
あくまで質問者の方からの伝聞ですので、事の真偽は確かめようもないのですが、もし消費者庁の回答がこのようなものだったとすると、私も、消費者庁の回答は間違っていると思いますし、質問者の方にもそのようにお答えしました。
 
質問者の方がご理解されていたとおり、どう考えても、取引付随性がありません(無料の登録は「取引」ではないので)。
 
パターンには、全員にポイントをあげるものと、抽選でポイントをあげるものとがありそうですが、どちらでも同じです(取引付随性がありません)。
 
もしこんなのが景品類に該当するとなると、たとえば、新聞のチラシにクーポン券をつけて、クーポン券持参者にスーパーが50円値引きする、というのも、取引付随性あり、となってしまいます。
 
新聞チラシに付けるクーポン券を、新聞社が費用を負担している(スーパーのチラシではあるものの)場合には、新聞という商品を買わせるためにスーパーで使えるクーポンを景品として付けた、ということも理屈の上ではありえますが、世の中にそのようなクーポンチラシはたぶん皆無でしょう。
 
上記質問のケースでは、そのような新聞社の存在すらなく、どこをどうたたいても、取引付随性は認められません。
 
2つめの、抽選でポイントをあげるパターンも、以前は規制されていたオープン懸賞(取引付随性のない懸賞)と同じです。
 
つまり現在では、取引付随性がない場合には、抽選で応募者に経済上の利益を提供することは、景品規制の対象外です。
 
なので、上記質問の抽選のパターンも、景品類には該当しません。
 
もう一つだけ例をあげれば、もし取引付随性がないのに将来の取引を誘引するからというだけの理由で景品類に該当してしまうとすると、むかしヤフーがヤフーBBをやりはじめたときにモデムを路上で無料で配りまくったような、取引付随性がない行為の典型として語られるようなものまで、景品類になってしまいます。
 
こういう、路上で配る物品は、取引付随性はありません。
 
たまたま手元にあった、長谷川古編『新しい景品規制』p80でも、
 
公道の歩行者を対象とするアンケート調査の回答者の謝礼とか・・・は、仮に顧客誘引手段と認められたとしても、・・・取引付随の要件に該当しない・・・ので規制されることはありません。」
 
と、はっきり書いてあります。
 
今回の消費者庁の回答の意図を忖度すると、
 
モデムはメルカリで転売できるなどそれ自体経済的価値が認められるけれど(なので、配った時点で提供が終わる)、
 
オンラインゲームのポイントはゲームで使う以外価値がので、必ずゲームをすることになるから、将来の有料ゲームという取引に付随するのだ(?)、
 
ということかもしれません。
 
つまり、オンラインゲームのポイントの提供は、実はポイント提供の時点では何も提供されていないに等しく、将来有償のゲームをする段階になってはじめて「経済上の利益」が提供されたとみなされるのだ(?)、という理屈です。
 
いろいろ無理やり考えてみましたが、でもやっぱり、これらの理屈には条文上の根拠がなく、成り立たないと思います。
 
この問題をもう少し深く考えるのに参考になるのが、
 
深町正徳「割引券の提供に関する景品表示法の考え方について」(公正取引587号、1999年)
 
という論文 です。
 
この論文では、1996年4月に行われた割引券に関する規制の変更について説明するものです。
 
簡単にまとめると、A取引に付随してB取引で使える割引券を提供する場合、変更前は、
 
①A取引に付随して割引券を「提供する行為」
 
 
②B取引において「割引券を使用する行為」(わたしはこれは、提供する事業者の側からみて、「割引券を使用させる行為」というほうが正確だと思います)
 
を分離してとらえ、②は景品類の提供にはあたらないが、①についてはあたる、と考えられていました。
 
これに対して変更後は、①も景品類の提供にはあたらないこととされました。
 
これを今回のポイント付与に応用すると、無料の会員登録者にポイントを付与する行為は、
 
①’無料の会員登録に付随(?)してポイントを「提供する行為」
 
 
②’将来ゲームをするときにポイントを「使用させる行為」
 
に分離でき、現在は①’が(有償取引との)取引付随性が認められても景品規制の対象外(②’はもともと対象外)なのだから、いわんや、無償の会員登録に付随するだけなら、景品類に該当するはずがない、ということになります。
 
つまり、将来有償行為に使用する(②)というのに引きずられて提供行為(①)が景品類の提供になるとは考えられておらず、それは運用変更前も変更後も同じだということです。
 
というわけで、いずれにしても、前記消費者庁の回答は誤り、ということになります。
 
もし消費者庁のご担当の方がこのような回答をされているなら、それはまちがいですから、改めていただきたいと思います。
 
もしそのような回答はしていないというなら、今回の記事は訂正しますのでご連絡いただければ幸いです。
 
(不確かかもしれない情報を流すのもどうかなと思いましたが、聞いたところ事実のようでしたし、きわめて実務的なインパクトが大きいと思ったので、書くことにしました。)
 

2018年12月11日 (火)

独禁法で命令を受けるリスクと調査を受けるリスク

わたしは基本的に、独禁法弁護士は、法律家として、問題の行為が独禁法上違法かどうかが判断できることが大事だし、それでほとんど足りる(それすらもできない弁護士も多い)、と考えています。
 
ですが、世の中、それだけでは足りないことも事実です。
 
というのは、企業にとっては公取委の調査を受けるだけでも、評判(取引先から取引を断られる、新卒学生が採用できなくなる、など)や弁護士費用など、大変なダメージだからです。
 
かつて調査を受けた依頼者の件も、命令がでないことはもちろん、どうみても違反になりそうにないケースでした。
 
予定どおりそのケースは、「問題なし」となりました。
 
それでもその後、その依頼者への萎縮効果たるや、すごいものがありました。
 
カルテルや談合なら、別にきわどいところを攻めなくてもビジネス上大した問題はなく、石橋を叩いても渡らないくらいでちょうどいいのかもしれません。
 
ですが、不当廉売や拘束条件付取引など垂直系の違反行為類型は、正常な競争との違いが紙一重ですから、過剰反応のマイナス効果は大きいです。
 
ホンネをいえば、調査をするかどうかは公取の勝手なので、調査を受けるリスクがあるかないかなんて、どうでもいいと思っています。
 
研究者の方が調査を受けるリスクについて分析しているのも、見たことがありません。
 
ですが、依頼者の方々からそういうアドバイスを求められる以上、それに応える必要がありますし、そういうアドバイスは実務家だからこそできるんだろうなぁ、とも思います。
 
(そいうえば、以前、私が所属する第二東京弁護士会で、独禁法の警告事例の研究発表をされた公取委出向経験のある弁護士さんの発表を聞きましたが、あれは面白かったです。)
 
それでも基本的には、公取委が関心を持つかどうかは理屈だけで割り切れないところがあるので、学問的な研究対象になりにくいし、知的達成感もありません。
 
べつに独禁法の理屈がわからなくても、ある程度経験を積めば、できてしまうアドバイスだともいえます(むしろ、理屈が邪魔をすることがあるかもしれません)。
 
ともあれ、公取委の方々には、企業の方々がそんなところに関心を持つのだということをよくご理解いただいた上で、牽制的な調査や、調査対象行為をやたらと広げることは、謹んでいただきたいと希望します。
 
ほんとうに、事情聴取でこんなことを聞かれましたというだけで、「そんなことまで公取は関心を持っているんだ」と思って、会社の人はびびってしまうのです。
 
(まあそういうときには、「公取も仕事だからいろいろ調べるけど、違反にするつもりはありませんよ」とアドバイスはするのですが。)
 
また、企業のほうも、独禁法とはどういう法律で、公取委とはどういう役所なのかを、よく理解してリスク評価をする必要があると思います。
 
お上のやることは正しいと素朴に考えている企業は、調査を受ける可能性があるならやらない、という判断をするのでしょうが、独禁法の世界でそれをやると、まともな競争ができなくなります。
 
このあたりは残念ながら、外資系企業のほうが、リスクを取りながら競争するのがうまいように思います。
 
日本企業はむしろ、違法であることが明白でも、業界慣行や政治的背景で、やめられないことが多い(やめたほうがビジネス上もメリットがあるにもかかわらず)ように思わます。
 
そのあたりが、ドライに徹しられない、ウェットで、残念なところです。

«独禁法の行為無価値と結果無価値

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